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2023年1月27日 (金)

2022年 ジャズ・アルバム(インスト) ベスト10

 2023年もスタートして、もう1月も終わろうとしているので、そろそろ昨年リリースされたジャズ・アルバムを取り敢えず整理しておきたい。そのうちに「ジャズ批評」誌でも、恒例の「ジャズ・オーディオ・ディスク大賞」が発表されるので、その前に私なりの独断と偏見によって、特に「INSTRUMENTAL部門」の「ディスク大賞」をここに挙げてみた。

 なお評価はリアルタイムに当初聴いた時の感想によることにした(このブログに当初記載したもの)。後からいろいろと考えると迷うところが多いため、初めて聴いて評価したものを尊重する(現在はちょっと異った評価のものもあるが)。又「ディスク」を評価と言うことでも所謂「曲・演奏(100点満点)」と「録音(100点満点=これは一般的な音の良さで、録音、ミックス、マスターなどを総合考慮)」のそれぞれの評価の合算(200点満点)で評価し、又同点の場合は演奏の評価の高いものの方を上位に、更に両者とも全く同点のものは、現在の評価によって順位を付けた。

 

🔳1 Alessandro Galati Trio  「Portrait in Black and White」
   (曲・演奏:95/100  録音:95/100  総合評価190点)

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🔳2   Worfert Brederode  Matangi Quartet  Joost Libaart  「Ruins and Remains」
    (曲・演奏:95/100  録音:95/100  総合評価190点)

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🔳3   Angelo Comisso  Alessandro Turchet   Luca Colussi「NUMEN」
    (曲・演奏:95/100  録音:95/100  総合評価190点)

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🔳4   Kjetil Mulelid Trio 「who do you love most ?」
   (曲・演奏:90/100  録音:92/100  総合評価 182点)

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🔳5   Tord Gustavsen Trio 「Opening」
   (曲・演奏:90/100  録音:90/100  総合評価180点)

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🔳6   Helge Lien Trio 「Revisited」
    (曲・演奏:90/100  録音:90/100  総合評価180点)

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🔳7   Kit Downes  Petter Eldh  James Maddren 「Vermillion」
    (曲・演奏:90/100  録音:90/100  総合評価180点)

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🔳8   Giovanni Mirabassi  「Pensieri Isolati」
    (曲・演奏:90/100  録音:88/100  総合評価178点)

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🔳9  Joel Lyssarides  Niklas Fernqvist  Rasmus Svensson Blixt  「Stay Now」
    (曲・演奏:90/100  録音:88/100  総合評価178点)

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🔳10 Alessandro Galati Trio 「European Walkabout 」
    (曲・演奏:88/100  録音:90/100  総合評価178点)

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(考察)
 年末に登場したAlessandro Galati Trio 「Portrait in Black and White」が、なんと1位を飾った。2位のWorfert Brederode 「Ruins and Remains」と同点であったが、ジャズ・アルバムとしての楽しさの評価を加味してこの順とさせて頂いた。
 しかし、相変わらずAlessandro Galatiの演ずるところ、ジャズというものの奥深さと聴く人間との関係に迫ってくるところは素晴らしい。そんな意味では「European Walkabout」は、もう少し上位と今は考えているが、聴いた当初の評価がこうであったので10位に甘んじた。

 Worfert Brederode 「Ruins and Remains」は、異色であるが彼の特徴が十分生かされた企画で驚きとともに上位に評価。
 今年はTord Gustavsen の久々のトリオものの出現があって嬉しかった。ほんとは3位ぐらいかもと今となると思うのだが、Angelo Comisso 「NUMEN」Kjetil Mulelid Trio 「who do you love most ?」の実力ある素晴らしさに圧倒されてしまった。
 Helge Lien のトリオものも嬉しかったが、曲が再演奏集というところで、こんなところに落ち着いた。

 Kit Downes 「Vermillion」の品格のあるジャズには高評価を付けた。
 Giovanni Mirabashiは、相変わらずのピアニストの演ずるレベルの高さが実感できた。
 Joel Lyssarides 「Stay Now」この線の北欧世界に期待しての高評価とした。

Stefanoameriowithhorus2w  なお、録音の質もかなり良くなってきているが、その出来から見ても、エンジニアとしては、やはりStefano Amerio(ArteSuono Recording Studio /  Itary→)の活躍が抜きんでていた。私の偏りもあるが、ここに選ばれた10枚うち、なんと6枚が彼の録音によるものであったという結果に驚いている。

  ジャズ演奏の最も基本的なインスト部門では、相変わらず本場米国を凌いでの欧州一派の健闘が昨年も圧倒していた。はてさて今年はどんなところに感動があるか楽しみである。
 なお、この10アルバムは、このブログで取り上げているので詳しくはそちらを見ていただくと嬉しい限りである。

(試聴)
Alessandro Galati Trio  「Portrait in Black and White」

  

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2023年1月23日 (月)

ロブ・ヴァン・バウェル Rob Van Bavel「Time For Ballards-The Studio Sessions」

ピアノに堪能するがトリオとしてはちょっと空しい

<Jazz>

Rob Van Bavel「Time For Ballards - The Studio Sessions」
Dox Records / Import / DU8192R001CD / 2022

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Rob van Bavel (piano)
Frans van Geest (bass except 03, 06, 09, 12)
Marcel Serierse (drums except 03, 06, 09, 12)

Recorded at Hilversum Studio,  Netherlands

19088518880_ee849d9d5bw  オランダを代表するピアニストのロブ・ヴァン・バヴェル Rob Van Bavel(1965年オランダ-北ブラバンド州のブレダ生まれ →)のピアノ・トリオ・スタイルによる「全ジャズピアノ好きへ贈る、ピアニストによるピアノ好きのための極上バラード集」といううたい文句のアルバム。
 昨年2022年の6月にバラード集のピアノトリオ作品『Time for Ballads-The Maene sessions』を発表し好評で、本作はその『Time for Ballads』プロジェクトの第2弾である。今やヴェテランの風格すら漂っている彼だが、意外に日本でそれほどポピュラーでなく、私は過去にのめり込むという事はなかった。しかし昨年こうしたアルバムをリリースして今にして話題になって聴く層も広がっていることはそれなりにいいことだと思うところだ。

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(Tracklist)

01. A Nightingale Sang In Berkeley Square 4:15
02. Manhattan 4:23
03. Two For The Road 3:25 (solo piano)
04. Always And Forever 4:33
05. Misty 4:52
06. Ballad Of The Sad Young Men / Largo 5:24 (solo piano)
07. Slow Boat To China 4:09
08. Hard To Say Goodbye / Three Views Of A Secret 4:58
09. Everything Happens To Me 5:07 (solo piano)
10. The Peacocks 4:49
11. Daydream 4:49
12. Love Dance 3:45 (solo piano)
13. Cinema Paradiso / I've Never Been In Love Before 5:38

  ロブ・バン・バウェルは、簡単に言うとチック・コリアから強い影響をうけていて、目指すところはビル・エヴァンスのリリカル派の世界だという事になるようだ。いずれにしてもこれはバラード集でなお聴きやすいものとして期待して聴いたところだ。しかも上のように彼のピアノ・ソロ演奏が4曲あり、ピアノがメインであるところは知れるところだ。
 実は聴いてみると、そのことは歴然で、ベース(Frans van Geest下左)、ドラムス(Marcel Serierse下右)は完全にサポート演奏。果たしてピアノ好きと言えどもここまで、トリオとしての味わいの少ない演奏に満足するのだろうか、ふとそんなことがまず気になった。

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 M1."A Nightingale Sang In Berkeley Square "から、M4."Always And Forever "へとその印象はやはりピアノ・プレイに集中する。それは透明感と潤いに富んだ流麗なピアノの音が流れ、それでありながらしっかりとした芯の強さと、演奏の正確性の備わったロマンテイッックな世界が展開する。そこには哀愁的情景をしっとり映しだす。
 そして期待のエロール・ガーナーによって作曲された名曲中の名曲M5."Misty "は、しっとり聴けるのかと思ったら、なんと意外にも本作ではジャズらしいところにアレンジしてアップテンポで軽やかに演奏していて予想外。
 M7."Slow Boat To China"は、中国の印象を描いているんだろうが、ブラシの音をバックに美しいピアノのメロディーがゆったりとした世界を展開。
 M10."The Peacocks"は、ピアノの美しい音の流れの独壇場。
 M13." Cinema Paradiso / I've Never Been In Love Before "はバラードというよりはスウィングして、ようやくベースの演奏も生きている。
 
 やはり結論的には、ロブ・ヴァン・バヴェルのワンマン・アルバムですね。ロマンティックで端麗で、そこに堅実性もそなわっている演奏にピアノ・ファンは喜ぶところだろうと想像するが、勿論私もそのジャズ・ピアノ・ファンではあるのだが、ちょっと違うのは私の場合はピアノ・トリオとしての味にこだわる方で、そんな意味ではベースやドラムスとの駆け引きの面白さという点ではかなり不満が残った。その点にこだわらなければ、それなりに良いアルバムと言えるだろう。


◆(参考)
 なお、現在はストリーミングの天下だが、そちらでのサービスで聴けるアルバムは少々曲構成が違っているので要注意(下に内容記載)。こちらは、M10."Let's make believe (featuring Deborah J. Carter)"は、がらっと印象が変わって、アメリカ出身で現在はスペインを拠点に活動している実力派シンガー、デボラ・J・カーターが、自身で歌詞を付けての情感たっぷりの歌が聴ける女性ヴォーカルものだ。最後に来てインスト・バージョンと違ったムードが堪能できるのだ。

(STREAMING版-Tracklist)
1.A Nightingale Sang In Berkeley Square 04:15
2.Manhattan 04:22
3.Misty 04:51
4.Hard to say Goodbye/ three Views of a Secret 04:58
5.Slow Boat to China 04:08
6.Day Dream 04:48
7.Always and Forever 04:32
8.The Peacocks 04:48
9.Cinema Paradiso/I've never been in Love before 05:38
10.Let's make believe (featuring Deborah J. Carter) 04:46

With a very special contribution by Deborah J. Carter who wrote & sang the lyrics on my song 'Let's make believe'
Recorded by Frans de Rond & Peter Bjørnild (www.soundliaison.com) at Studio 1 (MCO) in Hilversum on the 30th of September 2021

(評価)
□ 曲・演奏 85/100
□ 録音   87/100
(試聴)

*

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2023年1月17日 (火)

アントニオ・アルテーゼ Antonio ArteseTrio「Two Worlds」

なんとなく美意識のもとでのエレガントさのあるピアノ・トリオ

<Jazz, Classic>

Antonio Artese Trio「Two Worlds」
ABEAT FOR JAZZ / IMPORT / ABJZ248  /2022

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Antonio Artese - piano
Stefano Battaglia - doublebass
Alessandro Marzi - drums

Recorded at Il Cicaleto Studio, Arezzo, AR, Italy, March 16, 2022 by Francesco Ponticelli

  イタリアのベテラン・ピアニスト、アントニオ・アルテーゼ(1961年モリーゼ州テルモリ生まれ)のなんと初となるピアノトリオによるリーダーアルバム。
  本作は、ジャズとクラシック音楽の双方への愛着、フリースタイルの即興演奏と構成されたサウンド、更にイタリア文化とアメリカ文化をミクスチャーしたという彼の音楽の歴史の始まりから経験した世界を表現した作品という事で、どんな世界か聴きたくなったもの。

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 アントニオ・アルテーゼはピアニスト兼作曲家。ローマのサンタ・チェチーリア音楽院でピアノの修業証書を取得し、イタリアのキエーティ大学で理論哲学を学び、その後ボローニャ大学で音楽学に移った。 又カリフォルニア大学サンタバーバラ校でピアノ演奏のDMAをも取得し、ジャズの世界に接近した。そして音楽学者であり作曲家兼編曲家である彼は、さまざまな音楽プロジェクトを主導するいくつかのアルバムを録音し、米国とヨーロッパの両方で幅広く演奏している。彼はイタリアの多くのフェスティバルの創設者兼芸術監督なんですね。

 一つ疑問はベースを担当しているステファノ・バターリア(下左)は、私の知る限りではイタリアのクラシックおよびジャズのピアニストと思ったのだが(同一人物か同姓同名か不明)その点未解決。そしてドラムスはアレッサンドロ・マルティ(下右)だ。

(Tracklist)

1. Two Worlds (Antonio Artese)
2. Julita (Antonio Artese)
3. Prelude (Antonio Artese)
4. Hymn (Antonio Artese)
5. Lila (Traditional Arr. Antonio Artese)
6. Icarus (Antonio Artese)
7. Niente (Antonio Artese)
8. Un Bel Dì (Giacomo Puccini Arr. Antonio Artese)
9. Voyage (Antonio Artese)

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 このピアノトリオのために作曲されたアントニオ・アルテーゼの7曲のオリジナル曲は、彼の目指すところはビル・エヴァンス・トリオのスタイルで、それに加えて北ヨーロッパのミニマリズムのムードにもインスパイアされていると語られている。
 この「Two Worlds」のアイデアは、2つの世界について、彼は「私が音楽の訓練を始めてから参加してきた世界です。ジャズとクラシック音楽への愛情、即興と作曲、イタリアの文化、そして私が長い間住んでいたアメリカ、特にカリフォルニアの文化です。このアルバムは、これらの明らかな二元論の和解と克服を表したい7つのオリジナル曲と2つのアレンジのコレクションです」と。

 彼の演奏は、美しいメロディー、重層的なハーモニー、繊細なリズムを、トリオとしての三者のものとして求め、M1."Two Worlds "は、さっそく美しいメロディーをベースと交互に演じながらも、ピアノ・トリオとしての自己の役割をかなり几帳面に演じている。
 M2."Julita"のゆったりとした展開は、まさにクラシック音楽の域を意識している。
 M5." Lila"は、トラデイッショナル(ウクライナの子守歌らしい)のようだが、ピアノの重低音から始まり、優しきピアノのメロディーが流れ、トリオの演ずるところもどこか郷愁的ムードを持っている。そして後半にはジャズ世界を忘れずピアノ、ベースの即興が色づけする。
 M6."Icarus"は、このアルバムの中では特異で、ジャズを意識した展開。スイングし、メロディーとリズムの競い合い。ベースと相互作用が見事で、ドラムスの役割を生かしている。
 M7." Niente" も、ドラムスのリードがかなり強い
   M8." Un Bel Dì "はプッチーニへの芸術へのオマージュということで、ここではかなり技巧を凝らしたベースとドラムスのブラッシの音をバックに、ピアノがゆったりと、しんみりと聴きなれたメロディーを聴かせる。

 全体にジャズジャズしていないところと、泥臭さが無いところは若干空しいところもあるが、こんな見事にまでクラシックの流れを尊重しつつのトリオとしてのリズムセクションとの関係を生かしたジャズの型はきちんと築いてゆこうとする真面目さというか、几帳面というか、・・・やっぱり先生のジャズって感じのアルバムでエレガントで嫌みが無い。そんなところで音楽的評価は専門的観点からみてのものを一度聞きたいと思っているところだ。
 録音は、ベース、ドラムスも対等にクリアに聴きとれ、トリオとしてのたたずまいをきちんと作り上げていて現代的。その線は良好と言える。

 

(評価)
□ 曲・演奏  85/100
□ 録音    87/100

(視聴)

 

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2023年1月12日 (木)

トルド・グスタフセンTord Gustavsen ノルウェー少女合唱団 「Sitlle Grender」

純粋さ漲る少女合唱と・・・・
重量級から澄んだ透明な世界までを描くグスタフセンのピアノ

<Classic,  Jazz>

Det Norske Jentekor,Tord Gustavsen,Anne Karin Sundal-Ask
「stille grender」

2L-164-SABD, EAN13, 7041888525721, ISRC-code,NOMPP2007010-150
Release date:November 2020, Recording date:February 2020

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Det Norske Jentekor(ノルウェー少女合唱団) / Anne Karin Sundal-Ask, conductor
Tord Gustavsen, piano

Recorded at February 2020, Uranienborg Church, Norway
Disc 1 Hybrid SACD,MCH 5.1DSD,Stereo DSD , RedBook PCM: MQA CD
Disc 2 Pure Audio Blu-ray,2.0 LPCM 192/24, 5.1 DTS HDMA 192/24, 7.1.4 Auro-3D 96kHz, 7.1.4 Dolby Atmos 48kHz mShuttle: MQA + FLAC + MP3

 欧米文化において、クリスマス・ソングというのは一つの文化であって、ある一定のレベルに到達したヴォーカリストは、必ずその関係のアルバムをリリースする事が多い。一年のクリスマス行事を経て神聖な幕閉じ続く新しい年のスタートには、無くてはならない社会的宗教的文化であるからだ。従ってジャズの分野でもクリスマス・ソング・アルバムが多くお目見えするが、どうも日本文化の私にとってはしっくりしない事も多い。音楽であるからジャズも聖歌も讃美歌も同じと考えるのだろうか、いささか私には難しい問題である。

Ab6761610000e5eb04a4b4ecbf44fcf024a34671  さて今日ここに取り上げたアルバムには、そんな疑問もなく素直に聴き入ることが出来る為、このストリーミング時代を迎えて今や完璧にじっくりこの世界に入れる環境も整って、日本文化・欧米文化という事は関係なく、この新しい新年に敬虔な気持ちになれる。又更に私の好むノルウェーのトルド・グスタフセン(→)のピアノも堪能できるのであるからこの上ない。アルバム・リリースから2年以上経ったが、今にしてこの世界がHi-Res環境の良好なる音世界として身近になって、新年の一時を心新たに心安らぐ時間を持つのである。

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 アルバム・タイトルは「静かな集落(村)」と訳してよいのか、とにかくこの主役であるノルウェー少女合唱団の世界は、惚れ惚れする。上の写真のごとく、ほんとに幼い子供から小中学生ぐらい(?)で構成されていて、指導者であり指揮者であるアン・カリン・スンダル・アスクの描くところとトルド・グスタフセンのピアノに浸るのである。

(参考) 又、トルド・グスタフセンのピアノ・ソロ演奏は、別建てのアルバムとしてもリリースされている。彼の独特なる即興を交えてのトラデッショナル、フォークや聖歌などを聴かせてくれるのである。(下のDISC-2)

Twl164solo_20230111182601  <Classic,  Jazz>
 Tord Gudtavsen 「Stille Grender (solo piano)」
 Pure Audio Blu-ray, 2.0 LPCM 192/24, 5.1 DTS HDMA 192/24, 7.1.4 Auro-3D 96kHz, 7.1.4 Dolby Atmos 48kHz
 mShuttle: MQA + FLAC + MP3


(Tracklist)

DISC 1
01. Carol of the Bells  2:06
02. The Bells [solo piano] Tord Gustavsen 2:04
03. Det lyser i stille grender 2:49
04. Deilig er den himmel blå  Det Norske Jentekor,Anne Karin Sundal-Ask  3:05
05. Jul i svingen  Det Norske Jentekor,Anne Karin Sundal-Ask  2:17
06. Glade jul [Stille natt]  2:23
07. Joleklokker over jorda 3:45
08. Eg veit i himmerik ei borg  Det Norske Jentekor,Anne Karin Sundal-Ask  2:32
09. Jul, jul, strålande jul  4:03
10. Jeg er så glad hver julekveld   Det Norske Jentekor,Tord Gustavsen,Anne Karin Sundal-Ask,Janna Dons Strøm,Elida Angvik Hovdar,Agnes Onshus Grønn,Anna Elisabeth Giercksky Russnes,Amalie Eikenes Randen,Anne Magdalene Bru Rem   6:28
11. Nå tennes tusen julelys  3:31
12. Mitt hjerte alltid vanker  8:28
13. Folkefrelsar  Det Norske Jentekor,Tord Gustavsen,Anne Karin Sundal-Ask,Janna Dons Strøm,Elida Angvik Hovdar,Agnes Onshus Grønn  5:48
14. Ljoset nytt i natti rann [solo piano]  Tord Gustavsen  4:15
15. Deilig er Jorden  3:41


DISC 2
01. Ved myrke midnattstid [solo piano] Tord Gustavsen  6:04
02. Sjelenes pilgrimsgang [solo piano]  Tord Gustavsen  1:58
03. Ingen krok er mørk [solo piano]  Tord Gustavsen   2:56
04. Inkarnasjon I [solo piano]  Tord Gustavsen  2:36
05. Inkarnasjon II [solo piano] Tord Gustavsen  1:21
06. Inkarnasjon III [solo piano] Tord Gustavsen 3:14
07. Inkarnasjon IV [solo piano]  Tord Gustavsen 1:21
08. Til lave hytter [solo piano]  Tord Gustavsen  4:14
09. Klårt di krubba skina kan [solo piano] Tord Gustavsen 4:05
10. Inkarnasjon V [solo piano] Tord Gustavsen 3:14
11. Inkarnasjon VI [solo piano] Tord Gustavsen 4:28

 とにかく、幼い声まで聴きとれる合唱団が見事です。特にM5."Jul i svingen (スウィンゲンのクリスマス)"は、おそらくまだ日本でいえば小学校前の幼い少女たちの歌声のようだ。あどけなさの残ったかわいらしさと美しさだ。多くの曲は、中学生ぐらいまでの少女達だろうか、一緒に作り上げる世界が見事なのである。
 こんな世界がクリスマス聖歌・讃美歌としては貴重なんでしょうね。

2l164_recordingw  少女による合唱団は、その独自性に細心の注意を払っているといわれる指揮者であるアン・カリン・スンダル・アスク(→)が率いている。そしてそこにはピアノ演奏者グスタフセンとの密接性が旨く構築され、何とも言えない温かい音楽的関係の中で、合唱団同志自体にそして聴く我々に・・・語りかけてくれる。

 アン・カリン・スンダル・アスクAnne Karin Sundal-Ask は、2005年からノルウェー少女合唱団の芸術監督兼指揮者として働いていて、彼女はトロンハイムの音楽院とノルウェー音楽アカデミーで指揮者、フルート奏者、教師として教育を受けた。そして2017年から、彼女はノルウェー少女合唱団の全てにおける責任者となり、合唱団の指揮でいくつかの賞を受賞し、又合唱団を多くの国際コンクールでトップの地位に導いたと。更に彼女は、国際合唱コンクールの審査員も務めてきているとのこと。
 彼女は、特に質を意識し、目標志向で刺激的なリーダーであり、各団員個人が最高のパフォーマンスを発揮できるように、音楽の目標を歌手に伝える能力を備えていると説明されている。指揮者のイントネーション、サウンド、アンサンブル音楽への焦点はトレードマークになり、彼女は合唱団の音楽表現の開発に継続的に取り組んでいるようだ。

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 ピアニストのトルド・グスタフセンは、特にECMレーベルで実績がある。私は彼のピアノ・トリオにぞっこん惚れ込んでいるのだが、彼の描くところ北欧の自然からの影響と、学んだ心理学の世界とも密接に相乗的に音楽に反映され、それは日本人との感覚にも共通性があるのか支持者は多い。このアルバムでは、彼の役割は、様々なクリスマス・キャロルにイントロを付けたり、得意のジャズ風の伴奏を弾いたり、メリハリのあるアバンギャルドなリフを入れたり、あるいはかなり長いソロを披露したりと、様々な形で合唱と絡み、敬虔さと不思議さの世界を形作る。

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 最初の有名な曲M1."Carol of the Bells"では、低音の弦を使ってエレキ・ベースのようなエッジの効いた音のリフを披露して、少女達の密度の高いハーモニーに色づけする。続けてM2."The Bells"この曲のテーマを今度はソロでアレンジして聴かせるなど、単なる伴奏ピアノには終わっていない。
  又M14."Ljoset nytt i natti rann(昨日の夜、新たな光が)"のグスタフセンのソロはダイナミックで、展開も圧巻である。

 とにかく、聴きなれた曲M6."Glade jul (Stille natt)(きよしこの夜)"も含めてのクリスマスキャロル(私の知識レベルでは聖歌、讃美歌、クリスマスソングも含めている)、フォークソングなどの曲群で、ノルウェー少女合唱団とトルド・グスタフセンが見事な連携プレイを披露している。この緊密な優しくのどかで美しい歌声とピアノの透明感のある音との相互作用の中で、我々は表現を倍増させる即興演奏を介して静かな心の安らぎの世界からうっとりとした瞬間へと導かれるのだ。M12."Mitt hjerte alltid vanker (常に待ち望む心を)"M15."Deilig er jorden(この世はうるわし)"はそのさえたる出来だ。単なる聖歌でないこの世界は貴重であった。
  
 (「Disc-2」のグスタフセンのピアノ・ソロ集は、低音の響きの荘厳さから優しさ美しさに満ちたピアノの音の流れに満ちている。又次の機会に詳しく)

(評価)
□ 曲・合唱・演奏  90/100
□ 録音       90/100

(試聴)

*

 

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2023年1月 7日 (土)

アレッサンドロ・ガラティ Alessandro Galati 「TRACTION AVANT vol.2」

あの名作の続編の登場だ !!

<Jazz>

Alessandro Galati   Palle Danielsson   Peter Erskine
「TRACTION AVANT vol.2」
JAZZMUD / Euro / AWD 544260 / Released: 18 February, 2022
(320kb/s MP3)

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Alessandro Galati (p)
Palle Danielsson (b)
Peter Erskine (ds)

Maxresdefaultw2_20230105120301   またしても、アレッサンドロ・ガラティ話である。いっやー-知らなかったですね、私がガラティにぞっこんになったのは、アルバム『TRACTION AVANT』(Via Vento Jazz / Euro / W5820007 / 1994 録音はECMの名エンジニアJan Eric Kongshaug (下左))だったんですが、なんと昨年に・・その続編という事だろうか、この『TRACTION AVANT  Vol.2』がリリース(2022年2月18日)されていたんですね。もともとガラティが先輩二人のキース・ジャレットのヨーロピアン・カルテットのメンバーであったヨーロッパのトップ・ベーシストPalle Danielssonと、ウェザー・リポートなどのジャズ・シーンをリードしつつけるスーパー・ドラマーPeter Erskineと初トリオを組んでのオリジナル曲やスタンダードの演奏を披露し高評価を得た。そしてここに再びトリオを組んでの(録音日不明)ニュー・アルバムである。
 更に、なんと『TRACTION AVANT deluxe』(下右)もリリースされていて、こちらは両アルバムの合体ものなんですね。

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 そしてリリース・レーベルはイタリアのJAzZMUDで、どうも私の思うにはストリーミング・サービスによるリリースのようだ。(Before the creation of LPs, CDs or the like, music resided in the air. With the advent of digital downloads, music simply returns home, again it is more magical and pure.)

(Tracklist)

1 - Red Milk (with Palle Danielsson & Peter Erskine) 07:42
2 - Someday My Prince Will Come (with Palle Danielsson & Peter Erskine) 06:09
3 - Ripple (with Palle Danielsson & Peter Erskine) 07:07
4 - Blues If and As You Please(with Palle Danielsson & Peter Erskine) 06:51
5 - Palle's Solo (Palle Danielsson ) 01:38
6 - You Don't Know What Love Is (with Palle Danielsson) 07:06
7 - Crinkle (with Palle Danielsson) 04:52
8 - Solar (with Palle Danielsson & Peter Erskine) 07:59

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  1994年の『TRACTION AVANT』(VVJ007)は、当時このバック・メンバーの二人のほうが当然知れていて、ピアニストのガラティはむしろ新人といったところのトリオであったにもかかわらず、素晴らしいピアノ・タッチとメロディ、そしてその叙情性は見事で聴くものを驚かした。そしてガラティの名が知れ渡ることとなるのだが、現在までの多くの名盤がリリースされているにもかかわらず、ここに『Vol.2』のリリースを見たのである。
 このアルバムもまさに美学そのものである。リリカルなプレイで注目を集めている彼だが、透明感溢れるサウンドとその描く世界は、ユーロ・ジャズ・ファン必聴ものである。最後の曲は再演"Solar"であった。

 冒頭のM1."Red Milk"から、優しいガラティのピアノ・タッチの美旋律が流れ即彼らの世界に引っ張り込まれる。
 M2." Someday My Prince Will Come"は、意外に軽快な展開とインプロヴィゼーションが冴えわたり見事と言いたい。
 M3."Ripple "旋律よりは、やや前衛的な音の3者の応酬が聴きどころ。
 M4." Blues If and As You Please"ドラムス・ソロに誘導されてのピアノ、ベースの速攻が描くところにこの3者の相性の良さが聴け、最後は静かに一段落。
 M5."Palle's Solo"ベースの語るような短いソロ演奏。
 M6."You Don't Know What Love Is"ぐっと落ち着いたピアノとベースのデュオ。透明感のあるピアノの響き、相づちをうつようなベース、描く世界はぐっと優しく思索的。
 M7." Crinkle "深いベース音、それに乗ってピアノも静かな美旋律の世界に・・・、そして次第にピアノのペースが上がって即興性が加わって展開。
 M8."Solar "ピアノのゆったりした序奏から、見事なトリオのそれぞれの持ち味を生かしスウィングする展開に織り成すジャズの醍醐味を見せて幕を閉じる。彼らの懐かしがつての演奏のようにも聴こえるが。

 どんなきっかけからこの『Vol.2』の企画がなされたか不明だが、ピアノ・トリオとしてのガラティのクリアな音でのリリカルな演奏は相変わらず見事であるが、この3者のスキのない織り成す演奏が、繊細さばかりでなくダイナミックな展開をも見せ、いかにもトリオとしての相性の良さが聴けて楽しいアルバムであった。

(追記)

 未発表トラックを追加しての「Vol.2」盤であり「Deluxe」盤であることが判明しました。ただし、「Vol.2」の最後の曲"Solar"は、間違えて"alt.version"を加えるべきところ元のものを入れてあるようです。以下がガラティの言葉です。
 「スタジオセッションのオリジナルテープを聴きながら見つけたいくつかの新曲を挿入したアルバムのリリースで新年を迎え、私のキャリアに多くの幸運をもたらし、私の音楽を世界中に知らしめました。
 数日間注意深く聴いた後、私は8つの未発表トラックを選び、元々トラクションアバントCDに収録されていたトラックに追加しました。
その結果、雰囲気が信じられないほど魔法のようなダブルアルバムになりました:私の作曲、標準、自由な即興演奏が新しいバランスで交互になり、多くの新旧のファンの好みに合うことを願っています。」     ( A. Galati. )
(2022年1月6日リリース)Recorded by Jan Erik Kongshaug at Larione 10 (FI).

 

(評価)
□ 曲・演奏  90/100
□ 録音    87/100

(試聴)

*

 

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2023年1月 2日 (月)

アレッサンドロ・ガラティ alessandro galati 「The Freeway」

            謹賀新年  2023年 

 

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  今年もよろしく御願いします

 昨年は、押し迫ってAlessandro Galati の強力盤TERASHIMA RECORDの『Portrait in Black and White』(TYR-1109)が登場してこちらでも取り上げたのだが、ふと昨年冒頭のCDの入手が困難であったガラティのJAzZMUDのピアノ・トリオ盤を思い出したので、多分多くが聴き逃していたアルバムではないかと、ここに今年の冒頭に登場させます。

 

<Jazz>

Alessandro Galati, John Patitucci, Peter Erskine
「The Freeway」

JAZZMUD / AWD543031 / 2022

Cs540859702abig

Alessandro Galati(piano)
John Patitucci (bass)
Peter Erskine(drum)

Images_20230101153401 (Tracklist)

1. Sea Shore  06:08
2. Woody's Grouse  03:00
3. You Don't Know What Love Is  07:38
4. Ascending  04:46
5. Bye Bye Blackbird  08:00
6. Hi Dance With You  07:42
7. Tobaccoless  04:52

 相変わらず、ガラティの力みがなく繊細にして流れるようなピアノの美学が満ち満ちているM1."Sea Shore "
 M2."Woody's Grouse "は、一転して畳みかけるアグレッシブな演奏。
 M3." You Don't Know What Love Is"のスウィング・ジャズから静への美学に。
 M4."Ascending " 静かに想いを深く染み通るベ-スのアルコ奏法に、しっとりと聴かせるピアノが、次第に美しさを増して語り聴かせるように響き渡る曲。
 軽快に流れる中にトリオのパワーが満ちていて、三者のバランスが絶妙なM5."Bye Bye Blackbird"に続いて、M6." Hi Dance With You"のベースとピアノの低音の深い沈み込んだ所から、次第にリズミカルに流れる軽いタッチの音世界の描くところはなかなか味な世界。
 最後のM7."Tobaccoless"のベースと共に軽妙に展開するピアノ、リズムにしっかりと乗せるスティック音、次第に盛り上げてゆくところはジャズの醍醐味。

John-patitucci-2wA_main_petererskine

 このアルバムは米国の二人のミュージシャン(John Patitucci (bass 上左)、Peter Erskine(drum 上右))とのトリオだが、ガラティがリーダーであるピアノ・トリオは、一味も二味も繊細であったり、奥深かったり、美しかったりと欧州ぽい。更にそれに加え、時にはアグレッシブにと、聴くものを飽きさせない。又今年の活動に大いに期待である。

(試聴)

 

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