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2023年2月 1日 (水)

ローレン・ヘンダーソン Lauren Henderson 「La Bruja」

ラテン・ジャズの官能的な世界と心に響く郷愁と叙情性は見事

<Latin Jazz>

Lauren Henderson 「La Bruja」
Brontosaurus Records / Import / CDB5609106462 / 2022

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Musicians
Lauren Henderson: vocals
Joel Ross: vibraphone [featured – 3, 4, 8]
Nick Tannura: guitar [featured – 1, 2, 5-7, 10]
Gabe Schneider: guitar [featured 9, 11]
Sean Mason: piano [featured – 3, 4, 8]
John Chin: piano [featured – 1, 5, 7, 9, 11]
Eric Wheeler: bass [featured – 1, 3-5, 7-9, 11]
Joe Dyson: drums [featured 1, 3-5, 7-9, 11]

  ローレン・ヘンダーソン(1986年生まれ)をここで取り上げたのは、2019年のアルバム「Alma Oscura」だった。ラテン・タッチのジャズ・ヴォーカルに魅力があり注目しいる。これは昨年リリースの自己のレーベルからは4枚目のアルバム(彼女名義のアルバムとしては9枚目)。
 このアルバムを理解するには、彼女の経歴に焦点を当てる必要がある。彼女は米国マサチューセッツ州出身のジャズ歌手だが、ウィートン大学にて音楽とヒスパニック研究を学び、後にブラウン大学とスペインのIEビジネススクールで経営学修士号を取得している。更にメキシコとスペインに留学し、伝統音楽とフラメンコの歌とダンスを学んだとか、その後のニューヨークでのジャズを身に着ける中で、それが彼女の音楽世界で生きているようだ。語学は英語とスペイン語を話す。

 このアルバムは彼女のオリジナル4曲とともにラテンアメリカとカリブ海の世界に入り込んでいる。
 一般には、このようなラテン系ミュージックは夏向きの明るいものとして捉えらいるが、この冬期真っ盛りに、来る春から夏に向けて気持ちを高めてゆくにはなかなか味なものとして、ここに取り上げたのだが・・・どうも、そう単純なものでもなさそうだ。

Lauren_henderson_bw2 (Tracklist)

1: Perfidia
2: Veinte Años [2022]
3: La Bruja;
4: Fría;
5: Así;
6: Febrero Hums [Veinte Años]
7: La Sitiera;
8: Amistad;
9: Deseo;
10: Veinte Años II [2022]
11: Silencio

 

 このアルバム・タイトル「La Bruja」は「魔女」を意味しているらしい。「呪術との関係」、「超自然的力に対する被害」、「悪魔と契約を結んで得た力をもって災いをなす存在」などで登場する女性の悲劇的世界、古典的な否定的な世界の神秘的なところにヘンダーソンは伝統音楽を通じての歴史的観点から「魔女」を歴史的遺産として現代に結び付けているのか、このアルバムもどうも現代ラテンものとして単純には迫れられないところにアプローチいるようだ。
 そんなことでは思い出すのは、メキシコにはソノラ市場(魔女市場)というのが伝統的にあって、古くからの土着の文化やスペイン侵略によるキリスト文化などが入り乱れての非科学的習慣などからの奇怪なる品を扱う市場があるようだが、こうしたものにも表れているような歴史的産物に彼女がこのアルバムで匂わせている過去の負の遺産として対峙しているのかもしれない。

  聴く我々にとっては、ラテン・ミュージックの官能的なムードをしっかり描きつつ、古典的なボレロと彼女のソフトな心地よく聴きやすい歌が聴ける。しかしオリジナル曲M3."La Bruja"で代表される曲などで、魔女裁判などの女性への哀しい歴史を取り上げ、ラテンアメリカとカリブ海のルーツへの探求を続けているのかと推測された。
 M1."Perfidia"は、メキシコの我々も知っている国際的なヒットのボレロである、亡くなった恋人に対する典型的な自己の哀れみの心のやや暗い叙情的な詩の唄のようだが、ラテンジャズにみる活力あるリズムに乗った演奏で暗くないが、人情に響くところがある。同様にM4."Fria"は、恋人との関係を描くメロディックな歌であるが、思いのほか穏やかであり、ビブラフォンが美しい。

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 M.2" Veinte Años "は注目曲だ。キューバのソングライター、マリア・テレーサ・ベラの曲で、ニック・タンヌラ(→)のギターとのデュオ、しっとりとした世界は最高だ。そしてこれはM6." Febrero Hums [Veinte Años]"に流れるが、ギターの心に響く調べと言葉のない(鼻歌とスキャット)デュエットとして再び展開する。それはこのアルバムの一つの深く心に響く世界であり、更にM10."Veinte Años II [2022]"に続くものであり、同様で究極の単なる陽気なラテンものでない真髄に導く。 

 M8."Amistad"は、奴隷にされたアフリカ人の反乱で知られるキューバのスペイン植民地時代の船の名だが、彼女の敬虔な気持ちでのアフリカンディアスポラ(本国からの離散人)の民族歴史への想いがみれるところで、黒人に対しての迫害のの哀しさにも歌いこんでいるのだ。

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 このアルバムでのヘンダーソンの唄は相変わらず充実感と味わいある美しさは見事であるが、更に曲によってはおそらく彼女自身のマルチトラックによると思われるハモリの歌声が美しく、なかなか手の込んだアルバム造りをしている。しかし歌いこんでいるところは歴史的なところに向かって、彼女の意識の世界を訴えながらも、何かを我々に知らしめようとしているように感ずる。スペイン語で中身の理解は大変だが、彼女の奥深いソフトなヴォーカルが妙に心に響いてくる。この力みのなさがむしろ意味深である。 しかし演奏陣はなかなか味な展開をして、ギターの味付けもよく、ピアノ・トリオのピアノ(John Chin 上左)に加えてビブラフォン(Joel Ross 上右)が健闘している。私にとっては貴重なアルバムになりそう。

(評価)

□ 曲・演奏・歌  88/100
□ 録音      88/100

(試聴)

 

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