セバスチャン・ロックフォード Sebastian Rochford & Kit Downes 「A Short Diary」
父親の死に悲しみと慰めの心の日記
<Jazz>
Sebastian Rochford & Kit Downes 「A Short Diary」
ECM / International / No.4534944 / 2023
Sebastian Rochford (ds, composition)
Kit Downes(p)
時に、ECMの世界に入りたいのですが・・・これも貴重なアルバム。
イギリス人ドラマー、セバスチャン・ロックフォード Sebastian Rochford(下左 : 1973年生まれ)のECMからの初リーダー作品で、長年付き合いのあるピアニストのキット・ダウンズ Kit Downes(下右 : 昨年素晴らしいアルバム「Vermillion」(ECM2721)をここで紹介した)に協力してもらってのデュオ作品。
ロックフォードは、この作品は"愛を持って、慰めの必要性から作られた音の記憶 "で彼の父親である英国スコットランド北東部の都市アバディーンに住むジェラルド・ロックフォード(1932-2019 詩人)の死に対して、父と家族に捧げられたものと説明しているようだ。
彼は父の死後すぐにほとんどの曲を書いた。とにかく父親の無くなった後、彼はアバディーンにある実家の古い父親のグランドピアノに座り、創造の世界にいたようだ。そして曲を書きながら、原稿用紙にメモを取り、楽譜では表現できない細かい雰囲気や空気感を、必ず言葉で記録していったらしい。そして録音もこの実家で行われた。「作曲もこの時期の私にとっての慰めだったので、録音した音楽にはそれを反映させたかったんです」と。
そして気心の知れたピアニストのキット・ダウンズとともに、深い感情の込められた演奏で、このアルバムを制作した。そして最後の切ない曲"Even Now I Think Of Her(今でも私は彼女を考える)"のみは、父親が作曲したもので彼は「父が携帯電話に向かって歌い、私に送ってくれた曲です。これをキットに送って、僕たちは演奏を始めたのです」と。
父親の死というのは、普通の人生では誰もが経験するものであり、それが人生の一つの区切りが感じられるほどの重大事件であることは私どももよく理解できる。そんな時に、それぞれの生き様での姿がどんなものなのかは人によって異なるのだが、ミュージシャンであるからの成しえたことに、敬虔な気持ちで私は向き合う事の出来たアルバムである。
(Tracklist)
01. This Tune Your Ears Will Never Hear
02. Communal Decisions
03. Night Of Quiet
04. Love You Grampa
05. Our Time Is Still
06. Silver Light
07. Ten Of Us
08. Even Now I Think of Her
ECMおいては、彼はこれまでアンディ・シェパードのECM作品などでドラムスを担当していた経緯があり、マンフレート・アイヒヤーに、この『A Short Diary』の制作に前向きであるかどうか打診したようだ。そしてマンフレートはこの製作の経緯とこの音楽を理解し、綿密なプロダクションが行われ、ミュンヘンでミキシングが行われた。とにかくキッド・ダウンズのピアノも美しく仕上がっていて、そして制作の意図が十二分に汲まれたこの作品に納得しているようだ。
オープニングの曲M1."This Tune Your Ears Will Never Hear"は、起きたことの重大さを描くピアノとドラムの打音からスタートするも、次第に深く沈みこむピアノは、冷たく美しい。。
M2."Communal Decisions"は優しい世界に。M3."Night of Quiet"静かそのものの夜。
M4."Love You Grampa"は、郷愁に漂って、楽しく明るく、ドラムスのシンバル音ブラッシ音が響く。
M5."Our Time Is Still" 静かに間をおいてのピアノが優しい響き。
M6."Silver Light"では、ピアノの旋律が優しく光を見つけた如くメロディアスに。
M7."Ten of Us"、ふと再び哀しさが襲う。
M8."Even Now I Think of Her"は、父親の口ずさんだ哀しさに満ちた歌、Herは母親か(?)。
父親の死に襲ってきたロックフォードの感情の日記のように作り上げられたアルバムで、聴くものの心をも打つ。最低限の音と響きで描いていて、このように感情を音楽として描ける彼などミュージシャンは羨ましくも思えるほどの出来で、"尊敬と感謝、悲しみと慰めと、過去の回想と未来への光"が描かれ、又ピアニストとしてキット・ダウンズの協力を得たのも成功している感動のアルバムであった。
(評価)
□ 曲・演奏 90/100
□ 録音 87/100
(試聴)
*
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コメント
ピアノ音楽に聞こえてしまいますが、静かな抑制が染みますね。
投稿: iwamoto | 2023年3月10日 (金) 19時51分
iwamoto様 こんばんわ、コメント有難うございます
そうですね、作曲して信頼しているピアニストに演奏させて、自分は曲の内容から、静かにサポートしているという形のドラマーのロックフォードですね。
彼は歴史的にはロック系でも頑張りましたので・・このアルバムは、逆にこのようなスタイルに徹底して自分でも納得しているのではと・・・思います。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2023年3月10日 (金) 23時39分