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2023年3月20日 (月)

ケンドリック・スコット Kendrick Scott 「Corridors」

コードレス・トリオのスリリングな展開はお見事

<Jazz>
Kendrick Scott 「Corridors」
Blue Note / Import / No.4552187 / 2023

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Walter Smith III (tenor saxophone except 8)
Reuben Rogers (bass except 4)
Kendrick Scott (drums except 4)

   ユーロ系のピアノ・トリオを中心とした美メロディーと哀愁ジャズに浸っていると、時にアメリカン・ジャズの世界に反動的に入ってみたくなる瞬間がある。そんな時に恰好のアルバムがリリースされた。それは現代ジャズ最高峰ドラマーと言われるケンドリック・スコットKendrick Scottのブルーノートから最新作のこのアルバムだ。ヒューストン出身のサックス奏者ウォルター・スミス3世と、ベーシストのリューベン・ロジャースによるなんとコードレスという体制のトリオ編成。8曲のオリジナル曲と、ボビー・ハッチャーソンの曲"Isn't This My Sound Around Me"1曲収録。

Kendrickscott_005w  ケンドリック・スコット(→)は1980年テキサス州に生まれ、名門校“High School for the Performing and Visual Arts”やボストンのバークリー音楽院を経て、2000年代から本格的なプロ活動。とにかく見事なテクニックと音楽性の多彩さでまたたく間に評価を確立した。

 ドラマーのリーダー作としては、従来はギター、ピアノ等のコード演奏をフューチャーしての作品作りであったが、ここに一つの冒険とか実験をしたのだろうか、それとも彼の目指すところがあっての企画か。
 
 前作の自身のバンド"オラクル"と共に2019年にリリースしたアルバム『A Wall Becomes A Bridge』も、一筋ならない世界だった。壁と橋をテーマに私には十分な理解まで至っていなかったが、音楽的探究に加えコミュニティーにおいての人種差別にかかわる問題を持ちながらの無実、受容、恐怖と不安、抵抗など、さまざまなテーマが探求されているといわれる内容であったが、そんなアルバムに続いたこの作品も、単に音の世界だけに止まらないないところ、そんな聴き所のポイントにも思いを馳せる必要がありそうだ。

(Tracklist)

1. What Day Is It?
2. Corridors
3. A Voice Through The Door
4. One Door Closes (overdubbed solo tenor saxophone)
5. Isn't This My Sound Around Me?
6. One Door Closes, Another Opens
7. Your Destiny Awaits
8. Another Opens (bass & drums duo)
9. Threshold

 コードレスのためだろうか、スリリングな展開がまず印象深い。オーソドックスな流れの中にコンテンポラリーな味付けによって思索感なところに導くところもあるが、サスペンスが支配してそこに聴く者に格好良さを感じさせる。スミスⅢ(下左)のサックスも美旋律を流す方向でなく、アドリブ演奏が適度な音で前面に出て、曲の展開をリードしたりサポートしたりで魅力的。とにかく力強くパンチ力のあるスコット(ds )や、なかなか両者を旨く支えるロジャーズ(b 下右)の活躍もテクニシャンの魅力を放つメリハリ充分な演奏を聴かせてくれる。

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  このアルバムもパンデミックの期間中に生まれたもので、スコットは「私はよく自分の経験したことをテーマにして曲を書くんだけど、このアルバムでは私の視点からズームアウトして、代わりにみんなの視点に立ちたいと思ったんだ。パンデミックによって、みんな自分が逃げていた影に向き合わざるを得なくなったからね。そして普段僕のバンドのオラクルではギターとピアノを中心にサウンドが構成されているんだけど、この2つの楽器を取り去ることで、聴覚的に何ができるだろうと思ったんだ。ベースのリューベンは純粋で愛情に満ちた方法でこのアルバムの世界をナビゲートしてくれたし、サックスのウォルターのサウンドはいつも美しく、私にインスピレーションを与えてくれる。いつも指針となる存在だよ」と語ってたという紹介があった。


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 とにかくスタートのM1."What Day Is It?"から、スコットのドラムが躍動する中、サックスがそのリズムに乗ってリード、この絡みがたまらない。
 M2."Corridors"はタイトル曲、一変してロジャースの意外な思索に導くソロ、答えるサックス。バックでシンバル音を伴ったスリリングなパンチ力のあるドラムス。そして次第にサックスの訴えが盛り上がる、こうゆうのは究極のジャズのジャズたる世界だ、痺れますねぇーー。
   M3."A Voice Through the Door" 静かなサックス・ソロ、思いの外、どこか哀愁ある演奏に。
 M5." Isn't This My Sound Around Me?"、サックスの響きにドラムスがスリリングな演奏。そしてベースが中庸を築く。次第にテンポ・アップしてトリオの交錯が見事。
 M6."One Door Closes, Another Opens" 心に優しく響くサックス。7."Your Destiny Awaits"ここでは冷静にしてリズムカルなサックス、後半のドラムソロのパンチが有効。
 M7."Another Opens"いやに優しいメロディアスなベース。
 締めのM8."Threshold"は、 圧巻のドラム・ソロでスタート、続くサックス、ベースのユニゾン、ドラムスが高速展開、ジャズ演奏の調和の妙。

 重厚な音にシャープなキレのある俊敏なるアタックをかけてくるドラムはやはり超一流。味わいと安定感たっぷりのベースの響き、なにはともあれソフトにして味のあるトーンと切れ味の妙を持つサックスとがドラムスとの調和を時に重厚、スリリングに、そして軽快に響かせる。これぞジャズの醍醐味を聴かせるアルバムだ。

(評価)
□ 曲・演奏 90/100
□ 録音   88/100
(試聴)

 

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コメント

風呂井戸さま、リンクをありがとうございました。m(_ _)m

ケンドリック・スコット、ドラマーとしてはもちろんですが、、
リーダーとしても素晴らしい才能ですよね!
めっちゃ、かっこいいです♪


私の投稿はこちらです。
https://mysecretroom.cocolog-nifty.com/blog/2023/03/post-671569.html


投稿: Suzuck | 2023年3月20日 (月) 13時05分

Suzuck様
コメント・リンク有難うございました。
おっしゃるように、こんな演奏をしてもらうと・・・他が寂しくなるぐらいジャズのカッコよさがヒシヒシと伝わってきますね。
スコットはスリリングに攻撃的演奏ばかりでなく、こうした世界を構築する世界を持っているんですね。このアルバムには恐れ入りました。今年の傑作一枚にまちがいなく上げたいです。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2023年3月20日 (月) 23時26分

恥ずかしながら、コードレスちう言葉が分からなくて・・・。
調べたのですが、モノフォニックとリズムセクション、みたいなことですか。
それはドデカフォニックとは違うんですよね。

コードの定義が3音以上と言うことなら、作れなくはないけれど、重要ではないってことなんでしょうね。
つまり、無用な和音を排して、それに頼らない演奏ってことではないかと思いました。

投稿: iwamoto | 2023年3月21日 (火) 16時00分

iwamoto様
コメント有り難うございます
 私も音楽学問は全く無いのですが、「コードレス」というのは、コード(和音)を鳴らすことが出来る楽器が無いという意味でよく使ってます(正しいかどうか自信はありません)。
 ピアノやギターのような楽器では、複数の音を同時に鳴らす演奏のことを「コード演奏」などと呼んでいて、コントラバスは和音を鳴らすことが出来ないことはないが、主として短音ということでコード楽器に入れていなかったような。
 ・・・という意味で素人的に使ってます。案外其れで通じて来たんですが・・・正しいかどうかと言われると自信がありません?。
 

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2023年3月21日 (火) 23時15分

二次電池を搭載して、電源から解放される、と言われたらどうしましょ、と思っていました。

それで、この言い方はジャズの場合によく使われるのでしょうか。

調性は守られるものですか。
わたしには、やはり、ドデカフォニックが近いように感じられます。

メロディもリズムもハーモニーも要らない音楽があるでしょうね。

投稿: iwamoto | 2023年3月22日 (水) 15時37分

iwamoto様
コメント有難うございます
コードレスの掃除機みたいな・・・(笑)
 ジャズ・トリオなどは、ピアノ、ギターなどのコード演奏が欲しいというのが一般的で、その為無しの場合は強調されて"コードレス"と表現しているようですね。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2023年3月24日 (金) 16時50分

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