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2023年4月18日 (火)

ギャビ・アルトマン Gabi Hartmann 「GABI HARTMANN」

ワールド・ミュージックに通じたジャズ・シンガーの登場
~ 自然体のヴォーカルが魅力


<Jazz>

Gabi Hartmann 「GABI HARTMANN」
Masterworks/ Import / 19658721872 / 2023

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Gabi Hartmann (vocal, guitar)
Julian Lage (guitar on 02)
Ghandi Adam (flute on 06)

  凄いですね、自らの名前がアルバム・タイトルであるフランス・パリ出身の新鋭女性ジャズ・シンガー(作曲家、ギターはじめマルチプレイヤー)=ギャビ・アルトマンGabi Hartmannのデビュー・フル・アルバムである。
 彼女は幼い頃からジャズとワールドミュージックに興味を持ち、パリで哲学と政治を学んだ後20歳になるとリオデジャネイロに渡りサンバとボサノバに没頭。その後ロンドンに移り民族音楽学を学びながら南アフリカ、ギニア、ポルトガルなど世界各国の音楽への旅へと出かけ、地元フランスの戻るとジャズを学びながらの音楽活動を展開という逸材。

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 フランス、アメリカ、ブラジル、アフリカ、ポルトガルといった多彩な音楽を知的な感性で磨き上げてきていて、既にNYで知り合った名プロデューサーのジェシー・ハリスJesse Harrisとともに2021年5曲のEPアルバム『Always Seems to Get Things Wrong』をリリース。これは彼女が今まで体験した様々な音楽が凝縮され、アメリカンルーツポップのエッセンスが注ぎ込まれた好評作品だった。
 そしてここに2023年1月には待望の1stセルフタイトルのフル・アルバム『Gabi Hartmann』をリリースしたという経過だ。とにかく英語・フランス語・ポルトガル語を巧みに使いこなし、ジャズ、シャンソンを基調とする楽曲に、これまで彼女自身が世界中を旅して体験してきたファドやボサ・ノヴァ、民族音楽なども詰め込まれていての作品。これもジェシー・ハリスのセンスが込められていて、なんとも身近なワールドミュージック的なジャズになった。

(Tracklist)

01. Buzzing Bee (Gabi's vo-cl-elg-p-b-ds-female chorus)
02. People Tell Me / Les Gens Me Disent (feat. Julian Lage) (Gabi's vo-elg-elg-marimba or xylophone?-b-ds-female?chorus)
03. Lullaby (Gabi's vo-elg/acg-key;celeste?elp?-b-per-backing female vo)
04. Une Errante Sur La Terre (Gabi's vo-cl/bcl-acg-p-b-ds)
05. Mille Rivages (Gabi's vo-elg/acg-key-b-ds-female chorus)
06. L'Amour Incompris / Azza Fi Hawak (feat. Ghandi Adam) (Gabi's vo-fl-acg-male vo)
07. I'll Tell You Something (Gabi's vo-fl-acg-org-b-per/ds-backing female vo)
08. Lonely (Gabi's vo-elg-key/org-b-female chorus)
09. Maladie D'Amour (Gabi's vo-ts-acg/elg-key-b-ds/per-female chorus)
10. Nos Contradictions (Gabi's vo-elg/acg-org/key-b-per/ds-female chorus-male voice-female voice)
11. Baby (Gabi's vo-ts...possibly as?-elg-key-b-ds-female chorus)
12. Coração Transparente (Gabi's vo-acg-strange noise)
13. La Mer (Gabi's vo-key-b-ds)
14. The End - Meditation (solo piano ; instrumental)

 収録曲の多くは彼女のオリジナル、あるいはジェシー・ハリスとの共作。英語とフランス語で歌われる自然体のヴォーカルや控えめなギターのサウンドを中心に、落ち着きを感じさせるが引きつける絶妙のアレンジで聴かせる。彼女の歌と音楽は明かに“ジャズ”だが、ポルトガルのファドやブラジルのボサノヴァの影も見えるし、なんといっても実に“フランス的”なのだ。このように世界のどこでもないポジションにあるようで、実際はパリ的な粋なところにある。

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 まずは、パリの陽気が滲み出るご機嫌なM1." Buzzing Bee"、最初聴いた時Madeleine Peyrouxが頭に浮かんだ。端麗クール・ヴォイスによる、自然体調子で優しく丁寧に語りかけてくる感じのソフトでテンダーな歌唱、ポップでありながら中身はちょっとセンチメンタルなところがあって、一方リラクゼーション・ムードも溢れている。独特で面白い。
 M2."People Tell Me / Les Gens Me Disent " ここにはギタリストのジュリアン・ラージが参加したジェシー・ハリス曲のカバーで、ムードはガラッと変わって、浮遊感のギターでセンチメンタルな歌そのものが、いやに魅力的。
 M3."Lullaby" これも又々変化して、今度はブラジル・ムード。更にM4."Une Errante Sur La Terre "は、いにしえのジャズ・ヴォーカルの哀愁の世界、なんなく懐かしい。
 ・・・・いやはや、抵抗なく多彩な曲の展開で圧巻。しかし一貫してインティメイト&ハートウォーミングな和気や憩いのムード。どこかおしゃれでソフィスティケートな居心地よさを展開。これはジェーシー・ハリスも惚れ込むわけだ。
 M6."L'Amour Incompris"は、フルート(Gandi Adam)が参加して、更に目先が変わって印象付ける。
 M8." Lonely "、M11." Baby"は、孤独な自分を歌い上げているようだが、暗くはない。
 M9."Maladie D'Amour" 再びブラジル世界が気分を更に休めてくれる。
 M13."La Mer" Keyが印象深く流れ、真摯なヴォーカル世界が心を打つ。最後の曲はインスト曲で締める。
 

  声の質も柔らかで、歌そのものの全体のムードに気品があって、リラクレーション・ムードが良いですね。どこまでも抵抗なく流れに身を任せるナチュラルな歌い回しがしっとりと清楚可憐さが満ち満ちている。サラリとちょっと淡泊なところがむしろ印象を高める不思議さがある。
 なかなか経験豊富な人生の歌も聴かせてくれるところも魅力で、自分自身の孤独が展望に繋がるムードをもつているところが好感。久々にインパクトのあるデビュー・アルバムであった。

(評価)
□ 歌・曲・演奏   90/100
□ 録音       87/100

(視聴)

*

 

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コメント

「現代音楽」は、現代の音楽ではないですよね。
ある時代のある雰囲気の音楽。

ワールド・ミュージックも、同様のところがあるようです。
わたしにはワールド系の音楽には聞こえませんが、各地の現代民謡がうまく混じっているのでしょうね。

品が良くて聴きやすい音です。
書いておられたように、わたしも、マデリン・ペルーを連想しました。

投稿: iwamoto | 2023年4月18日 (火) 12時51分

iwamoto様
今日は暖かいというか、初夏というか・・そちらは今が最高でしょうか?、コメント有り難うございます。
「ワールド・ミュージック」ですか、いろいろと解釈があるかと思いますが、音楽の中心と思っている(?)欧州から見た発想なのかも。
・・・と、言ってもポルトガルのファドなんかも欧州ですが、民族音楽なんでしょうかね。日本の民謡でも取り入れれば・・ワールト・ミュージックの一つになりそうです(笑い)。
この時代、このスタイルはむしろ異色で好感持てるということなんですね。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2023年4月19日 (水) 16時32分

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