ストラウク、サルク、ストレンジャー Loco Cello「TANGOROM」
チェロの美とギターのマヌーシュの香りの融合が描く世界は素晴らしかった
<Jazz>
Loco Cello「TANGOROM : Abbaye de Noirlac」
Well Done Somone / France / AD6767c /2023
Samuel Strouk (guitar)
François Salque (cello except 05, 11)
Jérémie Arranger (bass except 07, 09, 10)
Adrien Moignard (guitar on 01, 03, 04, 05, 11)
Biréli Lagrène (guitar on 02, 06)
Loco Celloというのはギター、チェロ、ベースから成るフランスのコンテンポラリー・トリオ・プロジェクト(Samuel Strouk:g, François Salque:cello, Jérémie Arranger:b) で、今回はその上に更なる2人のギタリスト(Adrien Moignard , Biréli Lagrène )をゲストに迎えつつ作成したアルバムの登場だ
もともとマヌーシュ・ジャズ的な民族性豊かな音楽を展開するとみて私はお付き合いを試みたところだ。それもそもそもギターを中心とした展開とふんでいたが、Loco Celloと名前を付けるだけあって、なんとチェロの流れが大きい役割を果たしているし、ベースの低音の響きが締めての展開が聴ける。
まずギターのSamuel Stroukサミュエル・ストラウク(1980年生まれ →)は、フランス南部のモンペリエにてクラシックギターと室内楽の「パリ高等音楽院」を卒業し、その後即興音楽と伝統音楽にエネルギーを注いでいる。作曲家、編曲家、ギタリスト、通訳、音楽、芸術監督としての才能を必要とする多くのプロジェクトに参加し、世界中のジャズパーソナリティーと共演し作品を提供している。私の印象としては民族音楽・伝統音楽の探求派ですね。マヌーシュ・ジャズの道を確実にしている。
更に注目はチェロのFrançois Salqueフランソワ・サルク(フランス →)で、名前は聞いている人も多いと思うが、私はチェロの演奏を聴くのは好きだが、詳しくないので調べると、イエール大学、及びパリ音楽院のディプロム(資格)取得。各種国際コンクールにて若い時より数々の賞、同時に特別賞を獲得。現代クラシック・チェロリストとしての活動が超一流。現在ローザンヌ高等音楽院とパリ音楽院で教鞭をとっていると。
彼は諸々のクラシック・ミュージシャンと室内楽を演奏し録音しているし、又2000年から2004年までイザイ弦楽四重奏団で演奏し、多くの作曲家の演奏に通じている。亡くなったフランスの作曲家・名指揮者のピエール・ブーレーズに、「彼の繊細さと優雅さのある演奏」、または「桁外れのカリスマ」と賞賛される。すでに70カ国での演奏、そして数々の録音が残されている。
ジャズ部門での功績も高評価で、現代作曲家の作品にも熱心にアプローチし、現代音楽と伝統音楽の融合にも力を入れている。彼の音楽性、そしてテクニック、電撃的な演奏は、稀に見るチェリストとして音楽界では一目おかれている存在であると。
(参考) 今回、私が頭に浮かんだ「マヌーシュ・ジャズ」(又はマヌーシュ・スウィング・ジプシースウィング)とは、ギタリストであるジャンゴ・ラインハルト(ベルギー人)が試みて作り上げられた音楽形式で、ロマ音楽とスウィング・ジャズの融合タイプのもの。そもそも「マヌーシュ」とはフランス北部やベルギーで生活をしているロマ民族の人を指す。英語圏では「ジプシー」と呼ばれているが偏見とか差別的な意味を含むため、人間という意味の「ロマ」を使うようになった。
マヌーシュ・ジャズではソロをとるギターとそのサイドで伴奏をするギター数人、ヴァイオリンやクラリネットが入る編成が基礎にあって、その他アコーディオンやピアノ、金管楽器・打楽器など基本的なスタイルにこだわらず取り入れているアーティストも多数いると。短いテーマ(曲のメロディ)を演奏した後はアドリブによるソロを順番に行い、最終的にもういちどテーマを演奏し、エンディングという構成が基本らしい。
(Tracklist)
01. Oblivion (feat. Adrien Moignard) 4:30
02. Armaguedon (feat. Biréli Lagrène) 8:07
03. Vuelvo Al Sur (feat. Adrien Moignard) 6:50
04. Upper East (feat. Adrien Moignard) 5:23
05. Clair De Lune (feat. Adrien Moignard) 3:53
06. Trucmuche (feat. Biréli Lagrène) 4:03
07. Csardas, Pt.1 4:15
08. Csardas, Pt.2 3:15
09. Prière 3:47
10. Auf Einer Burg 3:22
11. Tears (feat. Adrien Moignard) 2:28
このトリオLOCO CELLOは、チェロとギターとベースのトリオだが、M1.-M7.までとM11.の8曲はビエリ・ラグレーンとアンドレア・ムワニャールのギターが曲によってどちらかが加わる。従って編成は2ギター、1チェロ、1ベースのカルテット・スタイルだ。ただしM7-M10の4曲は、このトリオで演奏されている。
マヌーシュ・ジャズがやっぱり基調としているんでしょうね、ただスペイン系民族音楽も頭に浮かぶところもあって、ジプシー奏法の香りのそのエキゾティックさはクリアなギターの音色でぐっと現代的に優しくロマンティックに迫ってくるところに、何とも美しいチェロの響きにうっとりの世界である。しかしそれに止まらず現代コンテンポラリーな世界が、なんと時にはチェロも含めてロック調まで出現する離れ業に圧倒されるのである。そのあたりはおそらくこの分野でも新しい試みとして評価されるところではないだろうか。
M1."Oblivion "は、あの新タンゴのアストル・ピアヒラの曲のようだが、とにかく美しいギターがテーマを弾いてチェロが次のテーマで柔らかく入ってくるなんとも気持ちの休まるうっとりのよい曲
M2."Armaguedon" は、2ギターでスタートして、おもむろに加わるチェロはゆったりした主題を弾き、この美しさにもうっとり。中盤から転調してギターの合奏の迫力。チェロも高音よりで激しく展開、一大絵巻。
M3." Vuelvo Al Sur"も、哀愁ある世界で迫ってくるチェロの流れが心地よい。静かなギターをバツクにチェロが歌い上げ、続いてギターが旋律を奏でる
M4."Upper East" ストラウクのオリジナル曲で、どこか民族的でありながら現代調のギター展開
M5."Clair De Lune"は、元祖ジャンゴ・ラインハルトの曲で2本のギターが美しく競演。
M6."Trucmuche" 民族的ジプシー調のギターのテクニカルな演奏。さらにチェロもテクニカルな展開
M7."Csardas, Pt.1" 現代調の民族色ある魅力的ギター・テクニック
M8." Csardas, Pt.2"は転調して活発に チェロの早引きにギターがリズムを。
M9."Prière" クラシックのエルネスト・ブロッホの曲らしい。これはチェロの旋律美がなかなか聴かせる。
M10."Auf Einer Burg" トリオの味満開で、これまたチェロの美しさに痺れる。
M11."Tears " 続くクラシック曲、ギターの美、ベースの色づけが納得。
とにかくこのマヌーシュ系のギター・ジャズにチェロがクラシカルな美から現代音楽の華々しさの色を添えた試みは、まさに現代音楽への一つの迫り方として、評価される点が高い作品であり、それが哀愁持って心に響いてくるのであるからたまらない。まさに傑作アルバムである。私にとっては今年の目玉作品。
(評価)
□ 曲・演奏 95/100
□ 録音 90/100
(試聴)
*
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