ビル・エヴァンスの発掘盤 Bill Evans 「TREASURES」
ソロ、トリオ、オーケストラとの競演が楽しめる全30曲
<Jazz>
Bill Evans 「TREASURES - Solo Trio & Orchestra Recordings from Demmark 1965-1969」
Elemental/King International / JPN / KKJ-10013 / 2023
Bill Evans Trio (下記Tracklist参照)
The Royal Danish Symphony Orchestra & The Danish Radio Big Band
ビル・エヴァンスに関しては、ここではあまり取り上げてこなかった。いろいろと書くには恐れ多いし、何を隠そう、私のジャズ愛好歴史の中で、それほどのめり込むという事もなかったのも事実である。そもそも私のピアノ・トリオ好きは、極めてオーソドックスな歴史的巨匠からはスタートしていない。面白さを知ったのはフランスのジャック・ルーシェの「プレイ・バッハ」以降で1960年代のことである。とにかく私がステレオというオーディオ装置を我が物に出来たのは1960年で周囲では持っている人もいなかった。当時ステレオ録音盤のLPなど田舎のレコード・ショップにはろくになく、探して聴いた時代である。LP一枚買うという事すら自分の経済環境からは大変なことであった。そんな中でまず続いて興味を持ったのはキース・ジャレットであった。それが私のピアノ・トリオ愛好のスタートなのである。
余談であったが、ここ20-30年の経過でも、ビル・エヴァンスものを聴くよりは、ビル・エヴァンスを聴いて育った欧州ミュージシャンの演奏ものが多かった。そんな事のひとつにはビル・エヴァンスものの録音の悪さである。今思うに彼のトリオものでは『You Must Believe In Spring』(1977年録音の近年のリマスター・HiRes盤)ぐらいが、私にとっては今でも時に聴くアルバムなのである。このアルバムがエヴァンスものの中では、ちょっと抜きん出て音も良いし演奏もいいと思っている。
原点的には『Waltz for Debby』(1961年)を聴けば良いような気がしている。
又、ちょっと注目は、何回かリリースしているアルバム『TRIO64』(エヴァンスとゲイリ-・ピーコックとの明るい共演が聴ける →)だが、「Verve Acoustic Sounds SACDシリーズ」としてリリースされる。これはヴァ―ヴが所有する50~60年代の名盤を中心に、最高の音質めざしアナログ復刻するプロジェクト「Verve Acoustic Sounds シリーズ」があるが、その復刻時に作成したマスターをDSD化し、「Verve Acoustic Sounds SACDシリーズ」としてのリリースが決定。SACDとして何処まで音質が良くなるか取り敢えず注目。
そんな最近の経過での今回のエヴァンスの新アルバムの登場だ。彼が1965-69年にデンマーク各地を訪れた際の貴重な発掘ライヴ音源CDが登場したのである。中身は2枚組でヘビーだ(同時発売LPは3枚組)。ニールス・ペデルセン、エディ・ゴメス等が参加したトリオ演奏、そしてピアノ・ソロ、更にデンマーク・オーケストラとの共演等が楽しめる。
とにかくなんだかんだと毎年のように発掘盤のリリースのあるエヴァンスで(以前ここで発掘アルバム『Some Other Time』(HCD-2019 / 2016)を話題にしたことがあった)、追いかけていても大変だが、今回のこの盤は60年後半のものであり、やっぱり録音にはそう期待は出来ない。幸いにして時代はサブスク・ストリーミングの時代であって、早い話が特別買うことなく、それなりの音質でこのアルバムを聴くことが出来る良き時代になった。結論的には思ったよりは当時のものとしては音はライブものの録音でありながら、かなり良い方に思う。モノ録音もあるのだが、ステレオ盤としての工夫も施してあるようだ。
「Treasures」(2CD) : (Tracklist)
■(CD-1) Bill Evans Trio & Orchestra
1. Come Rain Or Come Shine (Harold Arlen-Johnny Mercer) 4:35
2. Someday My Prince Will Come (Frank Churchill-Larry Morey) 4:31
3. Beautiful Love (Haven Gillespie-Wayne King-Egbert Van Alstyne-Victor Young) 4:18
4. I Should Care (Sammy Cahn-Axel Stordahl-Paul Weston) 4:08
5. Very Early (Bill Evans) 4:39
6. Time Remembered (Bill Evans) 4:53
7. Who Can I Turn To? (Leslie Bricusse-Anthony Newley) 5:59
8. Waltz For Debby (Bill Evans) 5:58
Orchestral Suite
9. Intro (Palle Mikkelborg) Into Waltz For Debby (Bill Evans) 5:13
10. Time Remembered (Bill Evans) 3:53
11. My Bells (Bill Evans) 4:45
12. Treasures (Palle Mikkelborg) 5:24
13. Waltz For Debby [Reprise] (Bill Evans) 4:19
14. Walkin’ Up (Bill Evans) 4:17
(M1-M3)
Bill Evans (p) , Niels-Henning Ørsted Pedersen (b) , Alan Dawson (ds)
Copenhagen Jazz Festival, Tivolis Koncertsal, Copenhagen, October 31, 1965.
(M4-M8)
Bill Evans (p) , Niels-Henning Ørsted Pedersen (b) , Alex Riel (ds)
Slotsmarksskolen, Holbæk, November 28, 1965.
(M9-M14)
Bill Evans & Palle Mikkelborg
Bill Evans (p) , Eddie Gomez (b) , Marty Morell (ds)
With The Royal Danish Symphony Orchestra & The Danish Radio Big Band Featuring Allan Botschinsky, Idrees Sulieman (Trumpet) , Torolf Mølgaard (Trombone) , Jesper Thilo, Sahib Shihab (Reeds) , Niels- Henning Ørsted Pedersen (Bass) , Palle Mikkelborg - Trumpet (Featured On “Treasures”) , Arranger & Conductor Tv-Byen,
Copenhagen, November 1969.
■(CD-2) Bill Evans Solo & Trio
1. Re: Person I Knew (Bill Evans) 3:21
2. ’Round Midnight (Thelonious Monk) 4:38
3. My Funny Valentine (Richard Rodgers-Lorenz Hart) 4:00
4. Time Remembered (Bill Evans) 3:19
5. Come Rain Or Come Shine (Harold Arlen-Johnny Mercer) 3:16
6. Epilogue (Bill Evans) 0:34
7. Elsa (Earl Zindars) 5:52
8. Stella By Starlight (Ned Washington-Victor Young) 4:19
9. Detour Ahead (Lou Carter-Herb Ellis-Johnny Frigo) 5:40
10. In A Sentimental Mood (Duke Ellington) 4:43
11. Time Remembered (Bill Evans) 3:31
12. Nardis (Miles Davis) 3:35
13. Autumn Leaves (Joseph Kosma-Johnny Mercer-Jacques Prévert) 6:44
14. Emily (Johnny Mandel-Johnny Mercer) 5:44
15. Quiet Now (Bill Evans) 3:42
16. Nardis (Miles Davis) 8:06
(M1-M6)
Bill Evans, Unaccompanied Piano.
Danish Radio, Radiohuset, Copenhagen, Late November, 1965.
(M7-M12)
Bill Evans (p) , Eddie Gomez (b) , Alex Riel (ds)
Danish Radio, Radiohuset, Copenhagen, Late October, 1966.
(M13-M16)
Bill Evans (p) , Eddie Gomez (b) , Marty Morell (ds)
Stakladen, Aarhus, Denmark, November 21, 1969.
ノルウェーのジャズ・ミュージシャン、オーレ・マティーセンのプライベート・コレクションから厳選されたモノと言うが、本作は1965年、66年、69年に演奏旅行のためデンマークを訪れた際の各地でのライヴ演奏が収められている。
🔳CD-1 (M1-M3) の1965年10月の演奏はコペンハーゲン、チボリのコンサートホールで行われた「コペンハーゲン・ジャズ・フェスティバル」に出演し地元ミュージシャンとのトリオ。 “Waltz For Debby” が当時の注目か。
M9からは好き嫌いは別にしてオーケストラとの競演。ビル・エヴァンス (p) 、エディ・ゴメス (b) 、マーティ・モレル (ds) のトリオがデンマーク王立管弦楽団と更にトランペッター&アレンジャーのパッレ・ミッケルボルグが指揮するデンマーク・ラジオ・ビッグ・バンドと競演した注目音源。オーケストラのイントロから始まり(管楽器ビック・バンドがちょっと余分か)、途中から エヴァンスのピアノが絡む“Waltz For Debby”は注目。エヴァンスのピアノのメロディーが始まると、オーケストラも静かで聴きやすい。 この “Waltz ForDebby” はRepriseという形で今度はトリオの演奏を前面にバックにオーケストラが絡むという別アレンジもある(M13)。いずれにしてもピアノがオーケストラに埋没しないで良かった。さらにM8のトリオものと3バージョン聴けるところが嬉しい。
🔳CD-2 (M1-M6) には1965年11月にコペンハーゲンに訪れた際のピアノソロが6曲。 “My Funny Valentine” のこの曲のエヴァンスによるピアノソロ演奏は初めてらしい。
M7からはエディ・ゴメス (b) 、アレックス・リール (ds) のトリオ演奏で1966年のコペンハーゲンもの、M13からは1969年にエディ・ゴメス (b) 、マーティ・モレル (ds) のトリオがオーフスで演奏した音源。おなじみ“星影のステラ”、勢いのある"枯葉" 、別編成のトリオでで二種の“Nardis” など聴き応えある。
なかなか多彩で面白いアルバム。音質も私が思ったよりはかなりのリマスター苦労もあったと思うが、放送用音源らしく良好だった。そんな意味でブックレットも充実しているようで、取り敢えずお勧めアルバムである。
(評価)
□ 選曲・演奏 88/100
□ 録音 83/100
(参考視聴)
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