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2023年6月28日 (水)

シエナ・ダーレン Sienna Dahlen & Bill Coon 「Balladextrous」

実力派同士によるウィスパー・ヴォイスとギターのデュオ

<Jazz>

Sienna Dahlen & Bill Coon 「Balladextrous」
CELLAR LIVE / Import / CMRV060322 / 2023

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Sienna Dahlen - vocals
Bill Coon - guitar

Executive Producers: Cory Weeds, Bill Coon and Sienna Dahlen
Produced by Sienna Dahlen
Recorded at Demitone Studio in Vancouver, BC on January 6th and 7th, 2020?
Recorded, mixed and mastered by Dave Sikula
Photography by Ricardo Hubbs
Design and layout by John Sellards
Photo editing by Florence-Ariel Tremblay

  モントリオールを拠点として活動している女性実力派ヴォーカリスト兼作曲家でジュノー賞受賞のシエナ・ダーレンと、バンクーバーを拠点としているベテラン・ギタリスト兼作曲家ビル・クーンによるデュオアルバム(ジュノー賞(JUNOS)とは、音楽業界での卓越した業績を表彰するためにカナダ録音芸術科学アカデミーによって授与される賞)。彼らはジャズライブで出会って、このジャズバラードのアルバムを制作することに意気投合しての作品。古き良き時代からのスタンダード・ナンバーを演じている。

Ab6761610000e5eb0e6168d4f20ab47152054958  シエナ・ダーレンは、カナダのブリティッシュコロンビア州北部にあるドーソンクリークと呼ばれる小さな田舎町で育ち、モントリオールでの12年間のプロの音楽制作期間にわたって、マギル大学でジャズの音楽学士号を取得し、ジャズとフォークでの活動が盛んで多くのアルバムを制作し、自己名義の4枚のCDをリリースしている。2年前にオンタリオ州トロントに移り、最近トロント大学で音楽修士号を取得しました(2008年)。シエナはカナダ、米国、欧州など海外でプロとしのフリーランサーだ。現在は教育者としての活動が多彩。

Billcoon450  ビル・クーンはカナダのジャズ兼作曲家(1959年生まれ)だ。彼はジュノーにノミネートされたアーティストであり、2009年のナショナルジャズアワードの「ギタリストオブザイヤー」を受賞している。彼は1988年にジャズ研究の美術学士号を取得してコンコルディア大学を卒業し、2012年にサイモンフレーザー大学で教育学修士号を取得しました。彼はキャピラノ大学とバンクーバー交響楽団音楽学校の教員である。

(Trackliat)

1. Too Late Now
2. Round Midnight
3. Happy Talk
4. I Get Along Without You Very Well
5. When Lights Are Low
6. Autumn In New York
7. Day Dream
8. All Of You
9. I'm In The Mood For Love

 ジャズ典型のハスキーというのでなく美声の方のウィスパー・ヴォイスと静かに落ち着いて曲を構築するギターとのデュオ作品だ。シエナはソウルフルでユニークな美しく説得力のあるレコードを作ってきた。今回は、バラードによる世界を描くアルバムと言うことで、スタート曲M1."Too Late Now"から、別れの苦悩の描写の曲だが、ギターが控えめに歌を支える演奏に終始し絶妙な深淵な世界を構築ているため、しっとりとアカペラに近い説得力のあるソウフルな歌声で心に響かせ聴かせる。
 M2." Round Midnight"は、マイルスの「Round about Midnight」のセロニアス・モンクの曲だが、大物演奏とは異なって、ここまで彼女の世界にギターの調べと共に引っ張り込むのに驚く。まさにミッド・ナイトの響き。
 M5."When Lights Are Low "これもマイルスが浮かびますね、照明の落ちたときの愛の歌らしいムードたっぷり
 このところカヴァーの多いM6."Autumn In New York"は、ヴァーノン・デュークの戦前の曲でシナトラが広めたと言ってもいい曲だが、つい最近はダイアナ・クラールを思い出すが、ここでのシエナの歌のしっとり感は全く別世界。これだけ自己世界に歌いこむというのも素晴らしい。
   M8."All of You"愛を訴えるコール・ポーターの曲、高音の優しい訴えが印象的。

 いずれにしても全9曲、アルバム全曲一貫してビル・クイーンの優しき支え語るようなギターに、彼女の嫌みのない美しいウィスパー・ヴォイスとしっとり描く夢の世界のような曲仕上げはちょっと類似のものが無い。さすがは評価の高いジュノー賞受賞歌手のシエナという事で地味ではあるが素晴らしいアルバムであった。

(評価)
 □ 編曲・演奏・歌  90/100
 □ 録音       88/100

(視聴)
 

 

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2023年6月23日 (金)

ロジャー・ウォーターズ 2023欧州ライブ プロショット映像版 Roger Waters 「THIS IS NOT A DRILL - LIVE FROM PRAGUE 2023」

デストピアを描き、反戦・原爆廃止・人権擁護を訴える"フェアウェル・コンサート"

<Progressive Rock>

Roger Waters 「THIS IS NOT A DRILL - LIVE FROM PRAGUE 2023」
Complete Live Broadcast HD BluRay Edition
Live at O2 Arena, Prague, Czechia, 25th May 2023

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NTSC Full HD 1920 x 1080p Linear PCM Stereo + Dolby 5.1 Surround Total Duration 171min.

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Roger Waters – Vocals, Guitar, Bass
Gus Seyffert – Bass, Synth, Vocals
Joey Waronker – Drums
Dave Kilminster – Guitar
Jonathan Wilson – Guitar and Vocals
Jon Carin – Synth, Vocals, Guitar
Shanay Johnson – Vocals
Amanda Belair – Vocals
Robert Walter – Keyboards
Seamus Blake - Sax

 2022の北米ツアーでスタートしたピンク・フロイドの頭脳と言われるロジャー・ウォーターズの「THIS IS NOT A DRILL」が今年の欧州ツアーが追加され、既に各地を回っているが、この5月チェコ・プラハでの公演がプロショット映像でLinear PCM Stereo + Dolby5.1SurroundのBlue-Ray版が手に入る。
 これは全世界の劇場に生配信されたプラハ公演(上左)で、フルHDのプロショット映像の為圧巻である。
 このツアーは、間もなく80歳になろうとしている彼の「farewell Live 別れのライブ(第1章?)」ということもあってか各地で盛り上がっている。相変わらず斬新な方法論を示すライブ会場、ステージは会場の中央に設置され、その上には全方向からみれるスクリーン、そして例のごとく豚が宙を舞い、その上に今回は羊も会場の頭上を旋回する。

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 このライブは相変わらずの彼の政治思想の色づけが見られる為、ドイツでは騒動が起きた。まずドイツ・フランクフルトで「反ユダヤ主義」の疑いで公演がキャンセルされた。これは彼のイスラエル批判に端を発しているが、世界各地で長年にわたって行ってきた「人権を擁護する活動の一環」であって、エリック・クラプトン等の擁護する署名活動の展開があったり、ウォーターズ自身も「ロジャー・ウォーターズを非難している当局者はイスラエルの違法で不当な政策を批判する行為と反ユダヤ主義を混同するという危険な動きに加わっていることになる」と批判し、訴訟を起こし勝訴している。

Wall1w  更に行われた「ベルリン公演」が物議を醸している。そのことに関してはウォーターズは自分を「黙らせたい」ための「中傷」だとして声明を発表している。彼はベルリン公演でナチスを彷彿とさせる衣装が登場したことから警察の捜査を受けていることが明らかになっている。ベルリン公演ではロジャー・ウォーターズが第二次世界大戦を連想させるような服を着ていた上にホロコーストの犠牲者であるアンネ・フランクの名前もスクリーンに映し出されたことから物議を醸すこととなったのだ。しかし、彼のピンク・フロイド、そしてソロ活動の一連のアルバムにも見るとおり、彼の一貫した政治思想は個人の尊厳であってまずは、人間尊重の「反戦思想」である。

 ウォーターズは、「いかなるものであれ、戦争で人が死ぬことは絶対悪」であるという立場をとる。そしてそれに加え「弱きモノへの弾圧」に抵抗する。これも彼の父親の戦死の悲劇の事実が大きくのしかかっている。戦争のもたらす悲劇に比べたら「妥協による共存がはるかにマシである」ということ。彼が国連での発言に見るように西側、東側という立場でなく、ベルリンの壁崩壊時のゴルバチョフと約束したNATOの不拡大の約束を守らず、ウクライナを戦争に導くのではなくロシアと妥協させて戦争を防止しなかったバイデン大統領も「戦争犯罪者」であると糾弾する。

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 今回のライブにおいても反戦、イスラエル非難、反人権無視、原爆禁止などがテーマと上がってくるためにあらゆるところで物議を醸している。しかし、今回明白になったのは、ロジャー・ウォーターズを擁護するエリック・クラプトン、トム・モレロ(レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン)、ニック・メイスン(ピンク・フロイド)ら多くの一連のミュージシャンによる、フランクフルト公演中止決定を覆すことを求める署名活動も行われ、「ミュージシャンの社会的主張」の存在意義が焦点になったが、法廷での否定は行われなかった。これは結果としてウォーターズ側が勝訴したことになっている。

 そんな話題の多い欧州ツアーは現在も進行中であるが、ピンク・フロイドの黄金時代を象徴するクリエイティブなロジャー・ウォーターズが、一夜限りで、プラハにおけるライブを"初のフェアウェル・ツアー「This Is Not A Drill」"としとて世界中の映画館で一斉に披露した。そしてこのBlu-Ray映像版はそれが原点と思われる。いずれにしても圧巻のサラウンド・サウンドの効果も大きく見ごたえ十分だ。

(Tracklist)
01. Intro 02. Comfortably Numb 03. The Happiest Days of Our Lives 04. Another Brick in the Wall (Part 2) 05. Another Brick in the Wall (Part 3) 06. The Powers That Be 07. The Bravery Of Being Out of Range 08. The Bar 09. Have a Cigar 10. Wish You Were Here 11. Shine On You Crazy Diamond (Parts VI-IX) 12. Sheep 13. Intermission 14. In the Flesh 15. Run Like Hell 16. Stop 17. Déjà Vu 18. Is This the Life We Really Want? 19. Money 20. Us and Them 21. Any Colour You Like 22. Brain Damage 23. Eclipse 24. Two Suns in the Sunset 25. The Bar (Reprise) 26. Outside the Wall N

 いずれにしても彼は反戦を主体とした政治思想をライブで展開することは彼の信条であり、面白いことに、このライブの冒頭に「ピンク・フロイドを愛すが、ロジャー・ウォーターズの政治思想が嫌なら、会場を出てバーにでも行って飲んでいてほしい」とアナウンスしている。

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 又M10. Wish You Were Here, M11. Shine On You Crazy Diamond (Parts VI-IX) でのピンク・フロイド結成当時とシド・バレットの思い出には彼の心情が歌い上げられる。今回のアルバム「アニマルズ」からはM12."Sheep"が取り上げられ弱き大衆の反乱を描く。

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 やはり後半に入ると「デストピアDystopia」に焦点は当てられ、発達した機械文明の、否定的・反人間的な側面が描き出され、典型例は反自由的な社会であり、隠れた独裁や横暴な官僚システムなどを批判し訴える。これを描く世界はM18. Is This the Life We Really Want? , M19. Money, M20. Us and Them で頂点に至る。そして最後には、M24. Two Suns in the Sunsetでは原爆の恐ろしさを描いて幕を閉じる。

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 ウォーターズの人生においては、彼のトラウマは「人生一度も話が出来なかった戦死した父親」であって、しかも祖父も同様であったことからの全て「反戦」が基調となって発展している。もう80歳になろうとしている今回の彼の「Farewell Concert」においても一貫してその線は崩れていないし訴え続けている。又"The Bar"の新曲も披露している。

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         (ツアー・メンバー)

 相変わらず、ウォーターズ・ツアー・メンバー(上)のDave Kilminster (Guitar)、Jonathan Wilson (Guitar and Vocals)そしてJon Carin (Synth, Vocals, Guitar)の演奏技術の高さはお見事と言いたい。見ごたえのあるライブだ。

(評価)
□ 曲・演奏・舞台装置 90/100
□ 録音・映像     90/100
(視聴)

*

 

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2023年6月17日 (土)

トーマス・フォネスベック Thomas Fonnesbaek & Justin Kauflin 「Danish Rain」

欧州美学と米国ジャズの融合による世界

Thomas Fonnesbaek & Justin Kauflin 「Danish Rain」
STORYVILLE / Import / 1018532 / 2023

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Justin Kauflin (piano)
Thomas Fonnesbaek (bass)

Recorded in Village Recording Studio March 28,29-2022

 このところエンリコ・ピエラヌンツィやジャン・ピエール・コモとのトリオとかシーネ・エイとのデュオ・アルバムでお目にかかっているデンマーク出身の気鋭ベーシストのトーマス・フォネスベックThomas Fonnesbaek (下左)のニュー・アルバムである。タイプはジャズ界の若きピアニストのジャスティン・カウフリン(下右)とのデュオで、シンプルな構成だけに彼のベースの生み出す多彩な音や流れをしっかり聴きとれるアルバムの登場だ。

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 このフォネスベック(1977年生まれ、46歳)は、ニールス・ペデルセンやラーシュ・ヤンソンに師事し、ラーシュ・ヤンソン・トリオやトーマス・クラウセン・トリオで活躍し、北欧ジャズシーンで今やなくてはならないベーシスト。テクニックは素晴らしくリズム感に富んでいて、そして師匠であるニールス・ペデルセンを思わせるメロディとハーモニーの感性が、彼独自のスタイルの基になっていると評されている。前述のシーネ・エイとのコラボ作品は、デンマーク音楽賞の「Best Vocal Jazz Release that year」を受賞したという事だが、最近のデュオ・スタイルを旨く造り上げた。
 今回の相手カウフリンJustin Kauflin(1986年生まれ、37歳)は若き米国のスーパースターのジャズピアニストで作曲家 / 教育者 /レコード プロデューサーとしての顔も持っている。彼は 病により11 歳のとき視力を失い、以降は盲目のピアニストとして活躍を続け来ていると。全米のジャズフェスティバルで最高の栄誉を獲得し、15歳にしてジェイ・シネット・トリオとしてプロとして演奏を始めたという驚きの経歴。

(Tracklist)
1.Danish Rain (Thomas Fonnesbæk) 6:27
2 Everything I Love (Cole Porter) 6:33
3 Windows (Chick Corea) 6:17
4 Falling Grace (Steve Swallow) 5:48
5 You Must Believe In Spring (Michel Legrand) 5:24
6 Cake Walk (Oscar Peterson) 5:29
7 Imagine (John Lennon) 6:45
8 Country Fried (Justin Kauflin) 4:47
9 Driftin (Herbie Hancock) 5:43

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 演ずるは、彼らのオリジナル2曲とスタンダード7曲の9曲構成。
 やっぱりデュオとなると、ベースもかなり旋律演奏にもウェイトがある。それにピアノがうまく乗って曲を美学の心で作り上げているのは、 M.7." Imagine "が典型で、かなりのインプロのウェイトも大きく力が入っている。インタープレイの面白さも見事で彼らの曲に仕上がっている。
 フォネスベックの曲M1."Danish Rain"も、意外に明るい雨。ピアノの透明感ある旋律美を生かして欧州らしい美を演じている。
 ポーターのM2."Everything I Love"は、さすがアメリカン・ジャズの流れ。
   M5."You Must Believe In Spring " 旋律美のこの曲、まずベースの旋律演奏から始まって中盤からピアノが引き継ぎ、そしてベースのアドリブが効果を発揮して、更にピアノが美しく応酬する。なかなか仕上げが旨い。
 M8."Country Fried"はカウフリンの曲。意外に陽気なところがあった。
 M9."Driftin" カウフリンのピアノはなかなかエモーショナル聴けるリズム感たっぷりだ。後半ベースが安定感に誘導し見事にデュオのハーモニーも聴ける。

 アメリカン・ジャズとユーロ・ジャズの融合として面白く聴ける。やはりデュオだけあってベースの味もしっかり手に取るように聴けますね。
 フォネスベックのヨーロッパのトラッドやクラシックの歴史の上にアクロバティックな味つけが特徴の美学は、カウフリンの力強いアメリカンジャズをベースとしたところによってスリリングな味つけが増しているように感じられジャズの醍醐味が深まっていると思う。相互作用が面白い組み合わせのデュオ・ジャズ演奏だ。

(評価)
□ 曲・演奏 :   90/100
□   録音    :    87/100

(試聴)  "Imagine"

 

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2023年6月12日 (月)

ガブリエラ・ガルーボ Gabriela Garrubo 「 Rodando」

異様な世界を優しい美しい声で迫ってくるのだが・・・・

<contemporary Jazz>

Gabriela Garrubo 「Rodando」
NXN RECORDINGS / Import / NXN 2017 / 2023

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GABRIELA GARRUBO (vocals and piano)
JOHANNES AAGAARD (g)
NILS HENRIK SAGVAG (b)
CATO LYNGHOLM (ds)
AUDUN HUMBERSET (per)
VETLE JUNKER (synth,g)
JONAS HAMRE (sax)(track 2,7 and 8)
OLAV IMERSLUND (b)(track 9 and 10)
CARMEN BOVEDA (cello) (track 8)

Produced by
VETLE JUNKER and GABRIELA GARRUBO

324438670_1282808392652165_1w   ブラジル系ノルウェー人のシンガー、コンポーザーのガブリエラ・ガルーボGabriela Garrubo(年齢不詳、かなりの経験豊富な実力者のようだ)の初アルバム。我々には初お目見えで前知識もなく聴いたのだが、ノルウェー国内のライヴ・シーンではその美しい歌声と、モダン・ノルウェー・ジャズ、ブラジルの80年代ポップス、そしてボサノヴァを絶妙にブレンドしたサウンドということで結構評判を呼んでいたようだ。
   ガブリエラに関する情報はまだ殆ど入っていないが、シンガーであると同時にピアノを演ずるようだ。ベルゲンのグリーグアカデミーで学び、2021年から2022年にかけて、プロデューサーのヴェトルユンカーとこのデビューアルバム「Rodando」の制作で頑張ってきたと。彼らは一緒になって、モダンで新鮮なサウンドとレトロな連想のバランスをとるユニークなリスニング体験を生み出したと評価されている。

 なおこのアルバムのレーベルNXN Recordingsは、ノルウェーのクロスオーバープロジェクトをリリースするために2019年にオスロに設立されたもの。目的は、確立されたジャンルに留まるのでなく、探求し、挑戦する、興味深く革新的で独創的な音楽を出すことのようで、ネオクラシック、アンビエント、ジャズ、現代音楽を目指しているようだ。どうも「クールな北欧サウンド」というところにあるようだが。

(Tracklist)

1. Dirá
2. A chave
3. Stars
4. Um dia
5. Caqui
6. Everything
7. Não
8. Bells
9. Trees
10. O mundo

  ガブリエラ・ガルーボの歌声はなかなかソフトで美声ですね、現代の北欧ジャズとブラジルの80年代音楽とボサノバからの影響の曲というだけあって、M1の短い導入からM2."A chave"が歌い上げられるが曲が異様。全体はポルトガル語と英語で歌われるようだが、言葉が解らなく曲タイトルの意味も解らないのでちょっと大変、途中からサックスが入ってジャズっぽくなった。

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 M3."Stars"はシングルカットされた曲で注目曲。モダンで新鮮なサウンドとレトロな連想のバランスをとるというちょっと意味不明世界で難解だが、彼女の優しく描く声に魅力は伝わってくる。バツクの演奏は軽快で多彩。
 M4.、M5.は、がらっと変わってラテンっぽい雰囲気、ギターのバックで転調して迫ってくる。
 M6."Everything" ソフトな美声で結構説得力あるところが聴きどころ。このあたりは抵抗なく美声の世界に入れる。
 M7.、M8.、M9.それぞれの曲、良く解らない世界だが、不思議に聴いてしまうところが面白い。
 M10."O mundo"もシングルリリースしているようで、ピアノの美しい音としっとりした美声で聴き応え十分、途中でリズムの転調があってラテンの雰囲気も。

 まあ、ユニークと言えばユニーク、ノルウェーのトラッドぽいところも聴ける為だろうか、ノルウェーのジャーナリストは彼女のパフォーマンスが素晴らしいと評価しているのは事実のようだ。まあこのまま迫られても我々には難しいので、ちょっとスタンダード曲を聴かせてくれての展開だとついて行けるといった世界。幸いに親近感の持てる声の質であり一度聴いてみる価値はある。

(評価)

□ 曲・歌 : 87/100
□ 録音  : 85/100

(視聴)

 

 

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2023年6月 7日 (水)

ブラッド・メルドー Brad Mehldau Trio 「STOCKHOLM 2023」

この5月の久々の往年のトリオ演奏 ほっとして聴ける

<Jazz>

Brad Mehldau Trio 「STOCKHOLM 2023」
MEGADISC / 2023

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Brad Mehldau (p)
Larry Grenadier (b)
Jeff Ballard (dr)

Live at Konserthus, Stockholm, Sweden May 12th, 2023

   ついこの間の2023年のヨーロッパ・ツアーから、スウェーデンはストックホルムでの久しぶりにトリオで観客を熱狂させたというブラッド・メルドーのこの5月の最新ライブ盤。

 このところソロによるライブが続いた中、最近どうなったのだろうかと心配したが、メルドーと気心知れた15年以上の歴史があるラリー・グレナディア(b)とジェフ・バラード(dr)が加わったトリオ・ライブで実はほっとした。やっぱり彼のピアノにゆとりと安心してのアドリブの華が入って、そしてベース、ドラムスの響きで音像に厚みが出て久々にゆったりとして安心して聴けた。
  とにかく才能溢るるジャズ・ピアニスト兼作曲家のメルドーは、近年はジャンルの境界を越えての、ジャズ、ロック、クラシック、ポップを探求してユニークで印象的なフュージョンを生み出しそこに予想外の世界を構築してきた。
 しかし、私にとっては、それが進めば進む程、かってのピアノ・トリオが懐かしくもなり、そのパターンに戻ってほししいとていう感覚になっていたところである。

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(Tracklist)

1.Gentle John
2.Spiral
3.Seymour Reads The Constitution
4.Ode
5.All The Things You Are
6.The Nearness Of You
7.Green M&Ms

   しかし、これは取り敢えずはブートですから音質はどうかと心配したが、なんとオフィシャル盤以上と言ってもよい好録音。ライブだと緻密なテクニックに加えて感情が一層豊かになった演奏が手に取るように聴けて痺れますね。
 特に私はM6."The Nearness Of You" のしっとりとした演奏にうっとりして、そろそろオフィシャル・リリース盤にもこのトリオに帰ってほしいと思うのである。
 又M2."Spiral"、M3."Seymour Reads The Constitution"、M4."Ode"のように、もう懐かしささえ感ずるところも再現してくれている。
 そして古きミュージカルからのエラ・フィッツジェラルドで有名なスタンダード曲M5."All The Things You Are"は、12分を超えてのじっくり演奏、やっぱりライブの良さですね。
 このところのメルドーの活動から、旧来のトリオによる演奏が聴けてほっとしているところである。

(評価)
□ 選曲・演奏  88/100
□ 録音     88/100

(試聴)  この5月のものはまだ視聴出来ませんので・・・参考までに

*

 

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2023年6月 2日 (金)

エレオノラ・ストリーノ Eleonora Strino Trio「 I GOT STRINGS」

実力派女流ギタリストの何よりも心地よい演奏で素晴らしい

<Jazz>

Eleonora Strino with Greg Cohen & Joey Baron
「I GOT STRINGS」

CAM JAZZ / Import  / CAAMJ7971 / 2023

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Eleonora Strino (guitar)
Greg Cohen (double bass)
Joey Baron (drums)

Recorded in Berlin, Germany in November 2021 at Emil Berliner Studios

  イタリア人女流ジャズギタリスト:エレオノラ・ストリーノEleonora Srino(下左)のデビュー・アルバムがリリースされた。今回はベース(グレッグ・コーエン(米1953-)下中央)とドラムス(ジョーイ・バロン(米1955-)下右)とのトリオ作品である。

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 彼女は 10 代の頃からギターを弾き始め、初めてジム・ホールとビル・エヴァンスの演奏を聴いたときから、ジャズギタリストになりたいと思い、ナポリの音楽院で学び、その後ヴァン・アムステルダム音楽院で経験を積み腕を磨く。そして彼女は、イタリアの作曲家ロベルト・デ・シモーネのオーケストラのファースト・ギターとしてプロとしてのキャリアをスタートさせたと言う経歴の紹介がある。
 そしてその後彼女は既に数多くのコラボを重ねヨーロッパや多くのフェスティバルで演奏してきていて、ここに初アルバム・リリースと言えども、現在、多くのソロプロジェクトを持っている。又、彼女はイギリスの出版社ファンダメンタル・チェンジズのためにギターの取扱説明書を書いており、アメリカで配布される予定あると。更に一方、彼女自身のギターと声をフィーチャーしたソングライターとしてのファーストアルバムに取り組んでいる模様でもある。
 いずれにしても、これは国際コンクール受賞歴のあるギタリストであり作曲家でもある大物のデビュー・アルバムとして注目だ。

(Tracklist)

1.I Let A Song Go Out Of My Heart 7:49
2.Somewhere Over The Rainbow 6:16
3.I Got Rhythm 4:04
4.Il Postino 5:30
5.I Got It Bad And That Ain’t Good 5:47
6.It Don’t Mean A Thing 3:28
7.Estate 4:58

  なんと言っても、聴く者に気持ちよく聴かせるところがいいですね。スタンダードを彼女らしい編曲の妙で迫ってくる。

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 M1."I Let A Song Go Out Of My Heart"は、ジャズはこうなんだと、スウィングして演じてくれる。中盤のベース・ソロを交えての演じ合いが楽しい。
 M2."Somewhere Over The Rainbow "多彩な編曲を成している割には難しく聴こえないところがいい。映画全盛期の始まる1939年の映画『オズの魔法使い』でジュディ・ガーランドが歌ったハロルド・アーレンの曲「虹の彼方に」で、あの優しさを失わず聴かせるところが憎い。
 M3."I Got Rhythm "ジャズらしい高速展開にドラムス・ソロ、そしてギターのベースとのコードが秀悦。
 M4."Il Postino" 再びしっとりとメロディアスに聴かせます。
 M5."I Got It Bad And That Ain’t Good " ドラムスのシンバルで軽くリズムをとる音との交錯がいい。
   M6."It Don’t Mean A Thing" この曲のイメージを生かしての今度は軽快なシンバルの刻むリズムとのギター音との流れがにくいところ。
   M7."Estate"イタリアらしくこの曲、ボサノバ・ジャズの私の好きな"夏の出来事の恨み節"を聴かせて締める。

  ギターとベースとドラムスの組み合わせによるトリオを十分考えての曲展開も見事で、それぞれの力量が聴き応え十分。とにかく聴きやすく展開してくれるのであっという間に聴き終わってしまう感じだ。いっやーーなかなかの大型新人でした。推薦アルバム。

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏  88/100
□ 録音        87/100

(視聴)

*

 

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