« 2023年6月 | トップページ | 2023年8月 »

2023年7月28日 (金)

ベン・パターソン Ben Paterson 「Jazz Lullaby」

ニューヨークジャズトリオが演奏する子供向けの子守唄のコレクション

<Jazz>

Ben Paterson 「Jazz Lullaby」
AGATE / JPN / AGIP-3784 / 2023

4532813837840

ベン・パターソン Ben Paterson (piano)
ニール・マイナー Neil Miner (bass)
田井中 福司 Fukushi Tainaka (drums)

Benpaterson20180218230928    驚きですね、子守歌がジャズのピアノ・トリオの演奏で登場だ。
 若きピアニストのベン・パターソン(1982年生まれ →)のリーダー・アルバムである。彼はフィラデルフィア出身で、クラシック音楽とジャズ音楽の両方を学び(セトルメント音楽学校)、シカゴの大都市に移り(シカゴ大学)、ウィンディシティでしか見られないジャズとブルースのユニークなブレンドを吸収した。2005年から、シカゴのNEAジャズマスターであるフォンフリーマンのピアニストとして働き始め、2012年1月にフリーマンが亡くなるまで定期的に演奏していた。その後ジャズの世界でより多くを吸収するためにニューヨーク市に引っ越した。
 現在ニューヨークを拠点とするパターソンは、彼のユニークな才能とスタイルは大きく支持を受け、街中の一流の会場や世界中のクラブやフェスティバルで定期的に演奏しているという。彼はスタインウェイ・ピアニストである。

 ここではクラシックから映画音楽、民謡や童謡まで親しまれてきた曲をピアノの音色で綴られるジャズの子守唄として仕上げている。
 トリオ・メンバーは、ニュー・ヨークで活躍中のベースのニール・マイナー(下左)とドラムの田井中福士(1954年生まれ、下右)をフィーチャーしたニューヨーク・ジャズ・トリオで演奏する。

NealminerO0678094714528948785

 

(Tracklist)

Dbntybenpattersonkapak1w1. Frere Jacques
2. Twinkle Twinkle Little Star
3. London Bridge is Falling Down
4. The Itsy Betsy Spider
5. Brahms Lullaby
6. Oh Danny Boy
7. The Wheels on the Blues
8. Someone To Watch Over Me
9. Eliseʼ s Lullaby
10. Louisianaʼ s Lullaby
11. See You In My Dreams

 いやはや懐かしの子守歌が登場してきますね。しかも演奏は角がなく優しくしかも上品にと、なかなかの子守歌世界を全うしている。ベン・パターソンは「子供たちを実際の質の高い音楽に触れさせながら睡眠やリラックスを助けたいと考えている親たちや、子供たちを安心させる音楽を探している大人自身にも役立つことを願っています」と、語っているようだ。

 M1."フレール・ジャック" 誰もが知っているフランスの童謡からスタート。ピアノの優しい旋律、ブラッシのリズムでやや軽快な中に優しさが溢れている。
 M2."きらきら星" この曲になってしっとりとしてきたが、ピアノの旋律が美しい。これも元はフランス民謡のようだ。いやはや懐かしい。
 M3."ロンドン橋落ちた"これも世界的なイギリスの童謡、マザーグースといわれるものですね。子供に聴かせるもいいが大人もこれを聴くとうっとりとしてしまいそう。
 M4."ちっちゃな蜘蛛" どこかで聴いたような優しい曲。英米圏で歌われる小さな子供向けの手遊び歌(指遊び)とか。
   M5."ブラームスの子守歌" 落ち着いたベース、ブラッシのリズム、美しいピアノ、言うこと無しです。
 M6."ダニーボーイ"ですね。アイルランド民謡"ロンドンデリーの歌"から発展した曲。上品な編曲と美しい音に惹かれる演奏。
   M8."誰かが私をみつめている" これは童謡でなくガーシュウィン作のバラードのジャズ・スタンダードだが、優しさあふれた演奏だ。
   M9."Eliseʼ s Lullaby"これはベートーベンですかね。なかなか落ち着いた名曲。
   M10." Louisianaʼ s Lullaby"これは私は知らない曲だがなかなか精神安定剤ですね。良い曲です。
   M11."夢で逢いましょう"最後はこれで締めくくり

 とにかく全編優しさのオンパレード、しかもジャズらしくスウィングしてみせたり、旋律も適度に編曲され、アドリブも上品で破綻無く、なかなか洒落た企画に驚かされる。時にはふと若きというか幼き時を頭に描きつつジャズを聴くのも良いものです。
 又パターソンのピアノの音も澄んでいてやさしくメロディー豊かで気持ちが良い。 
 いずれにしても、こうした優しさを前面に出した子供にも聴かせられるトリオ・ジャズ演奏も珍しく、これは記念的アルバムにしておこう。

(評価)
□ 選曲・演奏  88/100
□ 録音     88/100

(試聴)

 

| | コメント (0)

2023年7月23日 (日)

ピンク・フロイドの頭脳・ロジャー・ウォーターズ「新『狂気』」10月公開 Roger Waters 「The Dark Side Of The Moon REDUX」

50有余年、ロックと共に戦ってきた男の心のアルバム

<Progressive Rock>

Roger Waters 「The Dark Side Of The Moon REDUX」

362272744_807295154100788w
(この動物(犬)の目の中に、あのジャケのプリズムが光を分散している=クリック拡大してみると解る。にくい演出です)

   ロジャー・ウォーターズがロック界きっての名作『狂気 The Dark Side of The Moon』(1973)のオマージュ作品を温めていたが、その公開に踏み切った。この10月にリリースされる。

Rwrockdownsw  コロナ・パンデミックにてすべてが抑制された中での先ごろの話題のロックダウン・セッションThe Lockdown Sessions』(2022 →)としてリリースされたアルバムに納められた曲を、それぞれの過去の曲からアコースティックな雰囲気への削ぎ落とされた曲として録音した時、アルバム『狂気』のリリース50周年が間近に迫っていた。このアルバムは、オリジナル作品へのオマージュとしてだけでなく、アルバム全体の政治的、感情的なメッセージに再び取り組むためにも、同様のリワークの適切な候補になる可能性があると思いついたのだという。

362115349_807288040768w  ウォーターズはこのところの協力者と話し合いリリースに向けて製作にかかることにしたもの。それは彼が言うように、明らかにかけがえのないオリジナルの代替品でなく、それは79歳の男性が29歳の目に映り描いた世界から50年経た今日のその間を振り返り、ウォーターズのトラウマと言うべき幼少時に戦死した父親との対峙であり、私の詩を引用するために、「私たちは最善を尽くし、彼の信頼を保ちました、私たちの父は私たちを誇りに思っていたでしょう」と言う世界である。

 こうした作品のリリースにはD.ギルモアは例のごとく反対したが(もう彼の独占欲はいいかげんにしてほしい)、ピンク・フロイドのスタート時からのメンバーのニック・メイスンは、むしろ当時からの制作目的、心情を知っているがゆえに、その内容に大きな評価をして、ウォーターズ主導であった『狂気』(曲は10曲中8曲にウォーターズがクレジットされており、歌詞は全て彼の当時の心情で書かれている)の半世紀の経った現在の世界をオーバータブして描いたアルバムのリリースに賛同した。このことはリリースに大きな力になったのだ。

 そしてこの10月CD、LP、ストリーム等でリリースされるが、ここに来て現在その中の曲"Money"のみが公開された。(↓)


 これを聴いてみて、やはりこのところウォーターズのライブ『This is not a Drill』(下左)や、彼の国連での発言(下中央)、又ドイツの反ユダヤ主義としての反発事件とそれに対抗しての歓迎キャンペーン(下右)など、相変わらず彼の歩むところ、問題が起きてはいるが、これこそ彼の歩んできた道であり、そのようなミュージシャンとしては異色の行動からの反発に対してもめげずに戦っている80歳を迎える男の生きざまには圧倒される。

Fwvvdmawaamyw329947457_52989402262w346467711_25384668w


 ロック界においては、いろいろな老け方があるが、レナード・コーエンのような"老紳士の味わい"を前面に出しての世界も素晴らしいが、ウォーターズのように今も「Resist CAPITALISM」、「Resist WAR」、「Resist FASCISM」を掲げて戦い抜いている姿も、これ又人それぞれの道であり、評価に値するところだ。
 10月のニュー・アルバムの内容におそらく彼の80歳男の心情が見えてくると思われるが、これは過去の名作『狂気』とは全く別の観点で描くところのモノであって、ニック・メイスンも共感した時代を見つめてきたロック活動家の姿をここに味わいたいと思うのである。

| | コメント (2)

2023年7月18日 (火)

ベーラ・サクチ・ジュニア Szakcsi Jr. Trio 「Easy to Love」


精密にして時にダイナミック、洗練されたエレガントさでジャズ・スタンダードを聴かせる

<Jazz>

Szakcsi Jr. Trio 「 Easy To Love」
Hunnia Records / Import / HRcd2216 / 2023

5999883045220

*Szakcsi Jr. Trio サクチ・ジュニア・トリオ :
Béla Szakcsi Jr. ベーラ・サクチ・ジュニア(Piano)
Krisztián Pecek Lakatos クリスティアーン・ペツェク・ラカトシュ(Double Bass)
Elemér Balázs エレメール・バラージュ(Drums)

録音 2022年6月7-8日

 私にとっては澤野工房の関係で弟のローベルト・ラカトシュ(ロバート・ラカトシュ)のピアノ・ジャズの方が以前から知っているその兄のベーラ・サクチ・ジュニア(ピアニスト=下)のピアノ・トリオ作品。父はハンガリー・ジャズ界の大御所ピアニスト、ベーラ・サクチ・ラカトシュで、自らもピアニストの道を選び、日本での知名度とは違って、今やハンガリー・ジャズ界のもっとも著名なピアニストの一人と評価されている。

Szakcsijrtriolemezbemutatow

 そのベーラ・サクチ・Jr.がクリスティアーン・ペツェク・ラカトシュ(Double Bass=下中央)、エレメール・バラージュ(Drums=下右)をフィーチャーした「サクチ・ジュニア・トリオ」による新録音のこのアルバムは、スタンダードの演奏をメインに彼自身の曲をまじえてハンガリーにおける最高レベルのピアノ・トリオをエレガントに演じ、今回はネイティヴDSDによる高音質録音でリリースしている。このアルバムは、ハンガリー国立文化基金の支援を受けて作成されたもので、ステレオnative DSD 256にライブ録音された。

Medium_181121_szakcsijr2613w_20230717181101Balazselemer_101w

 とにかく彼らは欧州・米国の多数のミュージシャンとの共演を続けてきており、その実力やセンスは即興へのモチーフの反映などが素晴らしく、洗練された演奏に評価は高い。

(Tracklist)

1. The Wrong Blues (Alec Wilder)
2. Hope (Szakcsi Jr.)
3. Nancy (With The Laughing Face) For Laura (Jimmy Van Heusen)
4. Easy to Love (Cole Porter)
5. A Nightingale Sang in The Berkeley Square (Manning Sherwin)
6. Private Number (Szakcsi Jr.)
7. The Wrong Blues (Alternate Take) (Alec Wilder)
8. For Heavens Sake (Elise Bretton)

Szakcsijrtriow
( Szakcsi Jr. Trio )

 なかなか高音質に作られたアルバムで、いわゆる一般的CD音質にても十分その音の繊細さが聴きとれる。
 演奏の方も、極めてジャズのオーソドツクスな線を繊細にしてエレガントに演じて、メロデイの流麗なる展開が快感である。

 M1."The Wrong Blues"は、ピアノが仰々しくなく軽いタッチで流れるが、リズム隊のベースの高ぶらない落ち着きとシンバルの軽いタッチが、いわゆるプロっぽい落ち着いた世界に流れる。
 M2." Hope"、M6."Private Number "は、彼のオリジナル曲、静かな展開を描きながらもドラムスを生かしたメリハリの演奏が聴ける。
   M3." Nancy"フランク・シナトラの娘がテーマの人気曲。やはり刺激を抑えた展開で明るい愛情を控えめに表現。
 M4."Easy to Love " Cole Porterの曲、ベースとドラムスの快調な精密プレイにのってのエレガントなピアノの展開が心地よい。
 M5."A Nightingale Sang in The Berkeley Square"の品格あるジャズに心休まる。ロンドンの小さな公園バークリー・スクエアにおける幸せなある夜を回顧し描く曲で美しい。
   M8."For Heavens Sake" 少々物思いの静かなバラード調の展開。ビリー・ホリディで知られる恋の歌だ。 ビル・エヴァンスも演じている。神に誓う恋の歌らしい真摯な世界。

  ピアノは非常に繊細にメロディーの美しさを流麗に見事に演奏し、三者のサウンドに洗練されたエレガントな味がある。これぞ歴史的ピアノ・トリオの真髄だとばかり演じ、その流れに聴きほれる。高音質録音で快感だ。

(評価)
□ 曲・編曲・演奏 :   90/100
□   録音      :   88/100

(試聴)

*

 

| | コメント (0)

2023年7月13日 (木)

ニコール・ズライティス Nicole Zuraitis 「How Love Begins」

キャリア十分の実力派のファースト・アルバム

<Jazz>

Nicole Zuraitis 「How Love Begins」
Outside In Music / Import / OUIA23132 / 2023

A1568611939_10w

Nicole Zuraitis (vocals,piano #1-3,7,9,10,rhodes #8)
Christian McBride (bass)
Gilad Hekselman (guitar)
Maya Kronfeld (organ,wurlitzer,rhodes)
Dan Pugach (drums)

With *special guests:
David Cook (piano # 5,6,8)
Billy Kilson (drums #3,5,6)
Sonica (Thana Alexa / Julia Adamy)
on background vocals (Track 1)

Jhkleadershipchristianmcbridesquare680x6   8 度のグラミー賞に輝き、現代ジャズ界の雄クリスチャン・マクブライド(→)を共同プロデューサーに迎えて制作された、キャリア十分のナチュラルな歌声を披露しエモーショナルな表現力で訴える女流ピアニストでSSWのニコール・ズライティスの歌アルバム登場。わたしにとっては、初物である。
 なんといっても、彼女の唄声を盛り込んでのマクブライドのプロデュース・ワークが見事で、ジャズの聴きどころ満載の強力な作品。

 ニコール・ズライティスは、ニューヨークのブルックリン在住。2016年コーヒーミュージックプロジェクトNYCソングライティングコンペティション優勝。2015年サラ・ヴォーン国際ジャズボーカルコンクール準優勝。2014年ハーブアルパートヤングジャズコンポーザーズASCAPアワード受賞者、アメリカントラディションコンクール(ジョニーマーサー賞とピープルズチョイス)の2015年全国ファイナリストなどの経歴あり。現在ニューヨーク市の有名な55バーで彼女のバンドが活躍。

7p3a6833edit3w (Tracklist)

1. The Good Ways
2. Travel
3. Reverie
4. Let Me Love You
5. Burn
6. Two Fish
7. Well Planned Well Played
8. 20 Seconds
9. Like Dew
10. The Garden
11. Save It For A Rainy Day (BONUS TRACK)
12. Travel (Alt Take) (BONUS TRACK)

  ブライティスは、なかなかゴージャスでしなやかな声を持ち、低音域に温かみのある共鳴、中・高音域はまあ標準的発声力。私的には少々耳に負担となる声で、静かなバラード調の方が良い。其れにもまして彼女は熟練したピアニストであり、素晴らしいSSWでそちらにも注目すべきと思っている。目下年齢は明らかならず、まあ1980年前後の生まれでしょう、ドラマーのDan Pugach は亭主だ。

 演ずるところM1."The Good Ways"からしてアメリカンですね。rhodes、そしてギター、ベースこの快調なリズムと彼女のやや派手な歌声が響く。冒頭の低音部はなかなか味があるが中高音部は少々キツイ。
 M2."Travel"ガラっと印象が変わる。彼女のピアノにギターが印象的に描くところ新天地に思いを馳せる。
 M3."Reverie"の彼女のピアノが美しく流れ、おもむろにヴォーカル・・珍しくヨーロム-ド。後半にギターとドラムスの描くところからエモーショナルに一変。
 M4." Let Me Love You" ギターとの歌のデュオでのバラード、もう一つささやき調が良かったかも。M5."Burn"一転してジャジーな高速展開。歌とギターとベースのソロがジャズですねぇ。なかなか手慣れています。こんなところはキャリアですね。M6." Two Fish"はぐっと落ち着いたアメリカ・スウィング・ジャズ。

 なかなかここまでに既に全て異なった多彩な展開をみせ、飽きさせない、マクブライドの旨さなのだろうか。
 後半もどうように変化に富む。M7."Well Planned Well Played"なつかしのムード。
A210898613801362056470  ちょっと異様なM.8" Like Dew"を経て、聴かせどころはM9."Like Dew"か、彼女の詩と曲で女心をしっとり歌っている。哀愁を聴かせるGilad Hekselman(→)のギター、彼女のピアノも訴える。

 いずれにしても彼女の曲、演奏、歌という世界はお見事、曲の変化、演奏の変化とアルバムの構成が多彩で充実度が高い。バックの演奏はかなり良い線をいっている。女性ヴーカルものは、その声の質も好みに影響が大きい。若干彼女の声の質が私の好みとして少々異なるのでその点がちょっと残念だった。

(評価)
□  曲・演奏・歌  90/100
□  録音      87/100

(視聴)

 

 

| | コメント (0)

2023年7月 8日 (土)

ガブリエル・ラッチン Gabriel Latchin Trio 「 VIEW POINT」

まさに折り目正しく、正統派スウィンギン・ジャズのオリジナル曲集

<Jazz>

Gabriel Latchin Trio 「VIEW POINT」
Alys Jazz-Disc Union / Japan / DUAJ150070 / 2023

51jc2dediyl_ac_

Gabriel Latchin (piano)
Jeremy Brown (bass)
Joe Farnsworth (drums)

Recorded in London at Livingston Studios on the 5th of May 2022

 ガブリエル・ラッチン(英国、ロンドン生まれ。ピアニスト、作曲家 = 下左)は、これまでにリリースしたリーダー作3作品「Introducing Gabriel Latchin Trio」「Moon And I」「I'll Be Home for Christmas」で取り敢えず成功してきた。そしてこれらの3作品は同世代のミュージシャンと組んできたが、本第4作はメンバー一新、米ドラマーの大物ジョー・ファーンズワース(最近リーダー作品を楽しませてくれている = 下右)を迎え、ベーシストには英国のジェレミー・ブラウン(Stacey Kentとの共演で知る=下中央)というベテラン勢によるニュー・スペシャル・トリオによる作品で、全オリジナル曲集である。
 とにかく「ここ数年で登場した最高の正統派ジャズ・ピアニスト」と紹介されているガブリエル・ラッチン。シダー・ウォルトンやハービー・ハンコックに捧げた曲を含めオリジナル11曲を収録している。

9a251keysabove252wA4692991402174811wJoefarnsworthjazzdrummerw

(Tracklist)

01. Says Who?
02. Prim And Proper
03. A Mother's Love
04. Train Of Thought
05. A Stitch In Time
06. Bird In The Hand
07. O Mito
08. Mr. Walton
09. Rest And Be Thankful
10. Just The Ticket
11. A Song For Herbie

Pianocloseupw   ガブリエル・ラッチンは、"オスカー・ピーターソン、アフマド・ジャマル、ビル・エヴァンス等のピアノ・トリオからインスピレーションを得て、ハービー・ハンコック、バリー・ハリス、シダー・ウォルトンの演奏を見極めたピアニストで、その演ずるところは力強く、これらの影響を完全に吸収して、彼自身のサウンドを作り上げ、作曲を通して、最高級のストレート・アヘッド・ジャズを演ずる"と高評価を得ている。
 
 確かにM01."Says Who?"からの快調なスウィングしての流れるピアノの音は心地よい。
 そしてガブリエルがこの第4作は一つの余裕をもって作り上げたという内容で、それは子供たちのために書くという個人的な感情を作曲のインスピレーションとした人間的面を見せるところの娘に捧げる美しいバラードM3."A Mother's Love母の愛"と、子供二人をテーマにした明るい展開のM2."Prim And Proper"を早々に登場させている。
 更に彼が個人的感情のオリジナル曲を堂々と展開したところには、彼が自らの心開いてゆくという一つの余裕を示しており、一方シダー・ウォルトンへのM8."Mr. Walton"、ハービー・ハンコックにM11."A Song For Herbie"などが、それぞれ自分が尊敬する先駆者に捧げているところにむしろみられる。
 又 彼は、リズムの基礎を築くブラウンのベースに、ファーンズワースの推進力のブラシワークを展開させ、リーダーとしての活発なピアノ・ソロを乗せていったM09."Rest And Be Thankful"に見るように、トリオが如何に互いに反応しながら展開するかというトリオの味をも知り尽くして見事に構築している。
 更にこの事は、M05."A Stitch In Time"では、三者の演ずるところを知らしめるべく、見事にそれぞれの演技を描く展開を忘れずに曲を構成しているところは、これまた聴きどころである。

 こんな流れの中でも全体的に決してストレート・アヘッド・ジャズの基礎を忘れず堅守しているところに恐れ入るところだ。とにかくノリよく親しみやすく、しかもメロディーは豊かであってスインギーな流れが気持ちよい。
久々に正統派ジャズというものの快感を味わえる作品にお目にかかった。

(評価)
□ 曲・演奏  90/100
□ 録音    88/100

(視聴)

 

| | コメント (0)

2023年7月 3日 (月)

ビセンテ・アーチャーVICENTE ARCHER 「SHORT STORIES」

見事なまでの哀感、スリル、ダイナミズムで現代アメリカン・ジャズの底力を聴かせる

<Jazz>

VICENTE ARCHER  / SHORT STORIES
CELLAR LIVE / Import / CM060922 / 2023

612gf4oyfzl_ac_sl850w

Vicente Archer (bass)
Gerald Clayton (piano except 04,09,10) (electric piano on 01)
Bill Stewart (drums except 04,07)

Executive Producer: Cory Weeds & Raymon Torchinsky
Produced by Jeremy Pelt
Recorded at The Bunker Studios in New York City on June 9th, 2022
Engineered, mixed and mastered by John Davis

 敏腕ベーシスト、ビセンテ・アーチャー(1975年ニューヨーク州ウッドストックで生まれ、下左)が遂に発表した記念すべきファースト・アルバム。このアルバムは、ピアノ・トリオ・スタイルを主としたもので、ピアニストとして、ベース奏者の至高ジョン・クレイトンを父に、グラミー賞6回ノミネートの実績を持つジャズ界のサラブレッド・ジェラルド・クレイトン(1984年生まれ、下中央)と、ドラマーは、現代ジャズドラムのトップランナーと言われるビル・スチュワート(1667年アイオワ生まれ、下右)という脂ののった素晴らしいメンバーによる作品。

LicensedimagewGeraldclaytonwStewart_billimage3trw

 ビセンテ・アーチャーは、ベーシスト、ギタリスト、作曲家、プロデューサーであり、生まれたウッドストックの歴史的な町の芸術文化の多くを吸収し、フォークからジャズ、ヒップホップに至るまで、彼の作品は多様。ボストンのニューイングランド音楽院とノースイースタン大学に通い、学位を取得した。大学在学中、彼はコントラバスを選び、偉大なアルトサックス奏者のドナルド・ハリソンから彼のグループに参加するように依頼があり、最初のレコーディング出演は、ハリスンの1999年の「FREE TO BEE」だ。 その後、彼は多くの著名人と共演。彼の年代では最も人気のあるベーシストの一人として歓迎されいる。グラミー賞を受賞したアーティスト、ロバート・グラスパー、ノラ・ジョーンズ、ニコラス・ペイトン、エイ・モスリー、ジョン・スコフィールドと共演しています。

 さてこのアルバム「SHORT STORIES」は、黒人であるアーチャー自身の家族の問題に焦点を当てつつも、肌の色からの『人種差別』をテーマに世の中への一言を呈した社会的な一面も備わっているらしい。彼の歩んできた人生の物語や歌によって何かを感じさせようとしているのかもしれない。

(Tracklist)

01. Mirai
02. Round Comes Round
03. Space Acres
04. Lighthouse (solo bass)
05. Drop Of Dusk
06. 13/14
07. Message To A Friend (p & b duo)
08. Bye Nashville
09. It Takes Two To Know One (b & ds duo)
10. It Takes Two To Know One (alternate take) (b & ds duo)

Vicente_archer_k8c2279    M1."Mirai"は、日本語"未来"そのもの。しかも望のテーマを思い起こさせる明るい音でアルバムを開始。ここにアーチャーと娘との関係についての美しい瞑想。彼は当時2歳の娘と一緒に見るのが好きだったアニメ映画の題名をもってここに描いて、娘の未来に貴重な子供時代の感覚を美しいプレゼントとして残す事を試みた。
 M2."Round Comes Round"はガラッと変わって現代的三者の現代的前衛的アンサンブルの展開。ピアニストのクレイトンの曲。
 M4."Lighthouse"はベースのソロ。多重録音かと思わせる複雑な演奏が圧巻。
 M3., M5.は、ドラマーのスチュワートの曲。M3." Space Acres"の最期1/4のドラム・ソロが効果抜群。そしてM5."Drop Of Dusk"は、ベースの響きが瞑想的で、ピアノが美しく展開、優しく響くシンバル音と"夕暮れの雫"というロマンチックな展開。
 アルバム・プロデュサーのペルトは、M6."13/14"を三者の即興演奏をまとめ上げてのお互いにメロディックな因子を組み上げるに貢献すべくこの曲を提供。
 M7."Message To A Friend"は、ピアノ語り掛けとベースの響きによる優しい世界。
 M8."Bye Nashville"竜巻によって故郷だった町とのほろ苦い別れを描く。
 M9.M10."It Takes Two to Know One"は、トランペットの巨人ニコラス・ペイトンによる作曲で、アーチャーとスチュワートは双方過去にペイトンとツアーをしており、ペイトンの音楽の世界に浸っている。あまり聴く機会のないベースとドラムスのデュオのスタイルで演じられたこの曲の素晴らしい出来に酔ってしまう。ベースの抑制とドラムスのダイナミズムはジャズのグルーヴの極致で迫ってくる。


 繊細さとドライヴ感に溢れた力強いベースの躍動と、なんともキレ味シャープにスリルとダイナミズム満点のドラムス、端麗美味タッチのピアノが、メロディックでありスリリングでもあり、ややストイックな色合いを見せる。全体的に現代アメリカン・ジャズの底力を見せつけられたアルバムであった。お見事。

 

(評価)
□ 曲・演奏 : 90/100
□ 録音   : 90/100

(試聴)

*

| | コメント (2)

« 2023年6月 | トップページ | 2023年8月 »