ビセンテ・アーチャーVICENTE ARCHER 「SHORT STORIES」
見事なまでの哀感、スリル、ダイナミズムで現代アメリカン・ジャズの底力を聴かせる
<Jazz>
VICENTE ARCHER / SHORT STORIES
CELLAR LIVE / Import / CM060922 / 2023
Vicente Archer (bass)
Gerald Clayton (piano except 04,09,10) (electric piano on 01)
Bill Stewart (drums except 04,07)
Executive Producer: Cory Weeds & Raymon Torchinsky
Produced by Jeremy Pelt
Recorded at The Bunker Studios in New York City on June 9th, 2022
Engineered, mixed and mastered by John Davis
敏腕ベーシスト、ビセンテ・アーチャー(1975年ニューヨーク州ウッドストックで生まれ、下左)が遂に発表した記念すべきファースト・アルバム。このアルバムは、ピアノ・トリオ・スタイルを主としたもので、ピアニストとして、ベース奏者の至高ジョン・クレイトンを父に、グラミー賞6回ノミネートの実績を持つジャズ界のサラブレッド・ジェラルド・クレイトン(1984年生まれ、下中央)と、ドラマーは、現代ジャズドラムのトップランナーと言われるビル・スチュワート(1667年アイオワ生まれ、下右)という脂ののった素晴らしいメンバーによる作品。
ビセンテ・アーチャーは、ベーシスト、ギタリスト、作曲家、プロデューサーであり、生まれたウッドストックの歴史的な町の芸術文化の多くを吸収し、フォークからジャズ、ヒップホップに至るまで、彼の作品は多様。ボストンのニューイングランド音楽院とノースイースタン大学に通い、学位を取得した。大学在学中、彼はコントラバスを選び、偉大なアルトサックス奏者のドナルド・ハリソンから彼のグループに参加するように依頼があり、最初のレコーディング出演は、ハリスンの1999年の「FREE TO BEE」だ。 その後、彼は多くの著名人と共演。彼の年代では最も人気のあるベーシストの一人として歓迎されいる。グラミー賞を受賞したアーティスト、ロバート・グラスパー、ノラ・ジョーンズ、ニコラス・ペイトン、エイ・モスリー、ジョン・スコフィールドと共演しています。
さてこのアルバム「SHORT STORIES」は、黒人であるアーチャー自身の家族の問題に焦点を当てつつも、肌の色からの『人種差別』をテーマに世の中への一言を呈した社会的な一面も備わっているらしい。彼の歩んできた人生の物語や歌によって何かを感じさせようとしているのかもしれない。
(Tracklist)
01. Mirai
02. Round Comes Round
03. Space Acres
04. Lighthouse (solo bass)
05. Drop Of Dusk
06. 13/14
07. Message To A Friend (p & b duo)
08. Bye Nashville
09. It Takes Two To Know One (b & ds duo)
10. It Takes Two To Know One (alternate take) (b & ds duo)
M1."Mirai"は、日本語"未来"そのもの。しかも望のテーマを思い起こさせる明るい音でアルバムを開始。ここにアーチャーと娘との関係についての美しい瞑想。彼は当時2歳の娘と一緒に見るのが好きだったアニメ映画の題名をもってここに描いて、娘の未来に貴重な子供時代の感覚を美しいプレゼントとして残す事を試みた。
M2."Round Comes Round"はガラッと変わって現代的三者の現代的前衛的アンサンブルの展開。ピアニストのクレイトンの曲。
M4."Lighthouse"はベースのソロ。多重録音かと思わせる複雑な演奏が圧巻。
M3., M5.は、ドラマーのスチュワートの曲。M3." Space Acres"の最期1/4のドラム・ソロが効果抜群。そしてM5."Drop Of Dusk"は、ベースの響きが瞑想的で、ピアノが美しく展開、優しく響くシンバル音と"夕暮れの雫"というロマンチックな展開。
アルバム・プロデュサーのペルトは、M6."13/14"を三者の即興演奏をまとめ上げてのお互いにメロディックな因子を組み上げるに貢献すべくこの曲を提供。
M7."Message To A Friend"は、ピアノ語り掛けとベースの響きによる優しい世界。
M8."Bye Nashville"竜巻によって故郷だった町とのほろ苦い別れを描く。
M9.M10."It Takes Two to Know One"は、トランペットの巨人ニコラス・ペイトンによる作曲で、アーチャーとスチュワートは双方過去にペイトンとツアーをしており、ペイトンの音楽の世界に浸っている。あまり聴く機会のないベースとドラムスのデュオのスタイルで演じられたこの曲の素晴らしい出来に酔ってしまう。ベースの抑制とドラムスのダイナミズムはジャズのグルーヴの極致で迫ってくる。
繊細さとドライヴ感に溢れた力強いベースの躍動と、なんともキレ味シャープにスリルとダイナミズム満点のドラムス、端麗美味タッチのピアノが、メロディックでありスリリングでもあり、ややストイックな色合いを見せる。全体的に現代アメリカン・ジャズの底力を見せつけられたアルバムであった。お見事。
(評価)
□ 曲・演奏 : 90/100
□ 録音 : 90/100
(試聴)
*
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コメント
気持ちよく聞かせていただきました。
投稿: iwamoto | 2023年7月 3日 (月) 11時53分
iwamoto様
コメント有り難うございます
私はユーロ系ジャズに傾いてしまってますが、時にアメリカン・ジャズも聴きたくなります。
さすが、このところの人気者3人の描くところは、やはり味がありましたネ。^^
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2023年7月 4日 (火) 11時30分