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2023年8月28日 (月)

バンクシア・トリオ Banksia trio「MASKS」

ピアノ・トリオの多彩な表現を聴かせる

<Jazz>

Banksia trio「MASKS」
TSGWRecords / JPN / TSGW001 / 2023

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林 正樹 Masaki Hayashi (piano)
須川 崇志 Takashi Sugawa (bass) (cello on 05, 10)
石若 駿 Shun Ishiwaka (drums)

   Banksia Trioは、2017年に須川崇志(b)が林正樹(p)、石若駿(d)に声をかけて結成された日本ジャズ・トリオ。2020年1月には、日本ジャズレーベルのDays of Delightより1stアルバム『Time Remembered』を発表。美しさと共にジャズ・トリオのスリル感たっぷりの演奏で高評価。翌年2月18日に、同レーベルより2ndアルバム『Ancient Blue』を発表。 同様にトリオの三者の個性がみなぎりつつも、その共存の美の追求で絶賛を受けた。この辺りの経過は、過去にここに取り上げてきたので詳細は省略するが、この数年間のパンデミックの中でなんとか行われたライブツアーの集大成をスタジオにて収録。メンバーのオリジナル楽曲5曲に加えて菊地雅章、ニック・ドレイク、ポール・モチアンなどの楽曲5曲を取り上げている。そして注目は、アナログマスターテープに収録し、アナログ録音の豊かさに加えて、高解像のデジタル録音技術も用いての現実的な自然な音に仕上げての好録音もうたっていて、須川の自主レーベルTSGW Recordsからの興味深いアルバムのリリースとなった。

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 参考までに須川崇志の語るところをここに記す・・・“ピアノ、ベース、ドラム。どの楽器も1音1音が立ち上がった瞬間から、静寂の中へゆるやかに減衰してゆきます。このたった1音が持つ音響現象そのものにフォーカスして、音が消えてゆくまでのディケイの海にダイブするんです。没頭するように聴いて次の音を紡いでゆくことは、とても内省的な、祈るような作業でもあります。須川崇志、林正樹、石若駿それぞれが持つスピリチュアルで個人的な音世界を、絶妙に共存させながらも音楽そのものは確実に前進してゆく、そんなバンドアンサンブルを楽しんでもらえたら嬉しいです (須川)"

(Tracklist)

01. Drizzling Rain (Masabumi Kikuchi)
02. MASKS (Takashi Sugawa)
03. Abacus (Paul Motian)
04. Bird Flew By (Nick Drake)
05. Doppio Movimento (Masaki Hayashi)
06. Stefano (Takashi Sugawa)
07. Siciliano (Shun Ishiwaka)
08. Messe 1 (Shun Ishiwaka)
09. I Should Care (Axel Stordahl and Paul Weston)
10. Wonderful One (Paul Motian)

 スタート曲は、菊地 雅章の曲M1."Drizzling Rain"で、シンバル、ベース、ピアノの順に響き、一音一音を互いにその余韻まで感じ合いつつの繊細にして印象深く迫る展開がお見事な演奏。ここに霧雨の深遠さの共振がこのトリオのトリオたるところをお披露目している。
 そして須川によるタイトル曲のM2."MASKS"にして、ムードは一転、予期せずの展開を荒々しさとスリル感たっぷりの演奏で迫ってくる。ドラムスのアタックとベースのヘヴィーにうねるところにピアノの強力なタッチ、そしてインプロヴィゼーションの交錯と聴きごたえ十分。
 M3." Abacus "の跳ねるような展開がややトリッキーで面白い。

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 M4."Bird Flew By" ニック・ドレイクの曲。自然界の優しさに浸れるも、途中で転調しているところが聴きどころか。
 M5." Doppio Movimento"林正樹の曲、フリー・ジャズっぽいところにチェロが襲いピアノが高揚する新鮮。
   M6."Stefano"どちらかというと、冷徹な世界。ピアノの硬さが印象的。
   M7."Siciliano"リズムカルなステイック・ワークにピアノとベースが跳ねる。
   M8."Messe 1"多彩なメロディー展開。しかしちょっと深まりがないか。
   M9."I Should Care"3者がぐっと落ち着いて、こんな優美の世界に浸ってよいのかと、先を心配して聴く世界。
   M10."Wonderful One"美しいピアノとチェロの響きで、繊細なブラシ音が加わって万々歳だ。

 このトリオが描くところは、ピアノ・トリオの優美さと、一方冷徹な深遠さと、更に暴力的インプロの叩きつけ合いと、それぞれに卓越した技量とセンスで迫る多彩な世界で飽きさせない。今作も全くその線は変わっておらず、しかもそのスリリングさと演奏のキレは見事で、今作も楽しませていただいた。大推薦である。

(評価)
□ 曲・演奏  90/100
□ 録音    90/100

(試聴)


*

 

 

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2023年8月23日 (水)

 ティングヴァル・トリオ Tingvall Trio 「BIRDS」

「鳥」のテーマの目的コンセプトがあまり伝わってこない

<Jazz>

 Tingvall Trio 「BIRDS」
Skip / Import / SKP91972 / 2023

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Martin Tingvall (p)
Omar Rodriguez Calvo (b)
Jurgen Spiegel (dr)

 ドイツ・ハンブルグを拠点に活動するヨーロッパを代表する美メロ・ピアノトリオ「ティングヴァル・トリオ」の9thアルバム。トリオ・リーダーのスウェーデンのピアニスト、マーティン・ティングヴァルが自然界をテーマとしての作品の一環として「鳥」にインスピレーションを得た作品だ。

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 彼の言葉は「彼らは自然の音楽家です。彼らは毎日素晴らしい音楽と信じられないほどインスピレーションを与えてくれます。ただ注意深く耳を傾けなければなりません。残念ながら、私たちはもうそれをやっていないようです、雑音が多すぎるのです。他の騒音が私たちを取り囲んで、気が散ってしまいます。このアルバムが人々に、私たちの周囲の環境を違った見方で認識するきっかけになれば幸いです。私自身、地球温暖化によって引き起こされる鳥の行動の変化をすでに観察しています。S.O.S、もうやめるべき時です。 自然に耳を傾けて行動してください。」 と・・・地球上の自然破壊につながる問題点に言及している。

 Tingvall Trioはもう結成して15年以上となる。リーダーのピアノのMartin Tingvallはスウェーデンで、ベースのOmar Rodriguez Calvoはキューバ、ドラムスのJürgen Spiegelはドイツ生まれという国際トリオだ。。
 過去のTingvallのソロも含めてアルバムは全て聴いてきて、ここでも何度か彼らを取り上げたが、全てオリジナル曲を中心にどちらかというと美旋律の自然を対象とした曲に魅力がある。今回も期待度は高かった。

(tracklist)

1 Woodpecker
2 Africa
3 SOS
4 The Day After
5 Air Guitar
6 Birds
7 Birds of Paradise
8 The Return
9 Nuthatch
10 Humming Bird
11 Nighttime
12 A Call for Peace

 鳥の状況を描いているのかM1." Woodpecker(キツツキ)"M2."Africa"は軽快な曲。 M3."SOS"は、いかにも問題に直面しての姿か、不安が感じられる。ティングヴァルの声が入るが・・・これは好感度は無し。
 M4."The Day After"になって、ようやく私の期待する美しく優しいピアノの旋律の聴ける曲が登場。後半にアルコ奏法のベースが不安感を感じさせて気になる曲だ。

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 M5."Air Guitar"は演奏技法が多彩で面白い。ピアノはミュート奏法のようだが。
 M6."Birds" タイトル曲、スタートからやや暗めのベースのアルコの音で始まる、ピアノが入って小躍りする印象。次第にトリオで盛り上がるも意味不明、M7."Birds of Paradise"も軽妙な世界だが、印象にあまり残らない。
 M8."The Return"優しく美しくのピアノのメロディーが登場し再びベースのアルコ。夏に戻ってくる鳥の姿か?、物語を感ずる世界は見事。
 M9." Nuthatch" ゴジュウガラか、良く解らない曲。
 M10."Humming Bird" ハチ鳥の姿(?)、何を描いているか不明だが、メロディーは優美で軽快。M11." Nighttime" ピアノの透明感ある美しい音を聴かせる。これら2曲はM4.M12.の2曲に続いて納得曲。
 M12."A Call for Peace"彼の鳥に思いを馳せての究極の曲として聴いている。ピアノ・ソロで美しい。

 どうも私自身が「鳥」の世界に興味がないせいか、全体にあまり目的が良く解らない曲群でこの「鳥」にまつわるコンセプトも理解が難しい。又このアルバムは、時に聴ける演者の声がどうも私には気分良くなかった(キースのようなうなり声ではないけれど)。そして私のお気に入りのアルバム『Dance』(2020)の"In Memory"のような曲を期待してはいけないのかもしれないが、過去のアルバム『CIRKLAR』(2017)の"Bland Molnen"、"Cirklar"とか、やはりいろいろと期待度が高いので、評価は決して低いアルバムではないのだが、今回は若干空しかったような感覚であった。

(評価)
□ 曲・演奏  87/100
□   録音    87/100

(試聴)

 

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2023年8月17日 (木)

ニルス・ラン・ドーキー Niels Lan Doky 「Yesterday's Future」

デンマークの騎士のピアノ・ジャズ・プレイ

<Jazz>

Niels Lan Doky 「Yesterday's Future」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1114 / 2023

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Niels Lan Doky (piano)
Tobias Dall (bass except 04,10,12)
Nikolaj Dall (drums except 04,10,12)

Live at the Louisiana Museum of Modern Art

  寺島レコードから寺島靖国氏の推薦と言っていいのだろうデンマークの人気ピアニストのニルス・ラン・ドーキー Niels Lan Dokyのアルバムがリリースされた。(本国ではLPのみで、日本でCDリリース)

 実はちょっと意外でもあったのは、彼の演ずるところ寺島氏は果たして好みなのだろうかと言うところであった。私も実は彼のアルバムは以前にも聴いているがあまり気合が入らない。2021年にここでアルバム『Improvisation On Life』(2017)を取り上げたが、彼のデンマーク生まれの体質を感ずる美メロディーが生きていたのを評価したが、私の好みとしては今一歩、ジャズの味に満足感が得られず、評価としては良好標準80点として一段上げて85点としたのだった。

202109080900w  今回、取り敢えず寺島氏のライナー・ノーツでどんなことを書くのか、それも興味で取り敢えず手に入れて聴いてみたというところである。
 ニルス・ラン・ドーキー(→)は1963年デンマークのコペンハーゲン生まれで、ニューヨークからパリでの活動を経て母国デンマークへ戻り(2010年)、地道に更なる研鑽を重ねてきた国際派の人気ヴェテラン・ピアニストである。今回はトリオ編成によるデンマークのルイジアナ近代美術館でのコロナ明け2022年の公演の模様を捉えたライヴ・アルバム。寺島氏によるとこのアルバム作成は彼の方から申し入れてきたという事のようだ。ちょっとこんなところからも内容は若干懐疑的な気持ちで聴いたところであった。

(Tracklist)

01. Children's Song
02. Farewell Song
03. Forever Frank
04. Where The Ocean Meets The Shore (solo piano)
05. Sent From Heaven
06. Just Do It
07. Yesterday's Future
08. Free At Last
09. Rough Edges
10. December (solo piano)
11. High Up North
12. Afterthought (solo piano)
13. Are You Coming With Me?
14. Misty Dawn
15. Yesterday's Future - studio version - (*bonus track)

  やはり相変わらず端正なピアノの響きである。評価は"落ち着きや安定性を感じさせると同時に鋭いキレのよさや適度な尖り感をも湛えた、澄みきったクリスタルの如き潤いある鮮明タッチのピアノが響く"と表現されている通りだが、曲展開はアクティヴィティ溢れるメロディック・プレイと叙情性あるメロディーある曲の取り交ぜたアルバム構成で変化に富んでいる。
 しかし、自然の情緒ある世界や心情の表現の哀愁ある世界の表現である曲が私にとっては納得の世界であって、ダイナミック・スウィギング・アクションを求めた曲では、トリオとしての何かジャズの不思議な味わいにもう一歩満足感が無かった。例えば、M8."Free At Last"などでも、あらゆる種類の解放感を祝う曲と言うのだが、トリオならでの楽しさがあまり感じられないのだ。


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 そんなことから、私的に於ける推薦曲はM1." Children's Song"のどこか子供たちに愛着あるメロディーの快感、M4."Where The Ocean Meets The Shore"のソロ・ピアノで描く自然への心情などが・・
 又タイトル曲のM7."Yesterday's Future"が、やはり聴きどころで、人の心情の陰影が感じられて納得。しかしベース、ドラムスは単なる添え物で味気ない。
 その他は、M14."Misty Dawn"の神秘的な美しさに迫ろうとした印象は悪くはなかった。

 全体的な印象は端麗さとクラシック的真面目さがとこかに目立って、泥臭い人間性と言う世界には迫り切れていないし、又一方哲学的深淵さも至っていない。そんな点が究極中途半端的で、はっきり言って寺島靖国氏のお気に入りのジャズの楽しさも、スタンダードの世界が無いだけに、薄いのではないかと思ったところだ。更にトリオといってもピアノのためのトリオであって、3者で築くトリオというニュアンスが少ないところが空しいのかもしれない。
 寺島氏にとってもこのニルスのアルバムは一つのテスト的アプローチであったと思う。この後にアレサンドロ・ガラティのように何枚かのアルバムに繋がってゆくという事はないだろうと思った次第。

(評価)
□ 曲・演奏 87/100
□ 録音   87/100

(試聴)

 

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2023年8月12日 (土)

ウィズイン・テンプテーション Within Temptation 「Wireless」

"戦争に目覚めろ"がテーマか

<alternative Metal Rock>

Within Temptation 「Wireless」
(Single CD)Music On Vinyl / Europe / MOV7068 / 2023

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シャロン・デン・アデル (Sharon den Adel) - ボーカル (1996年- ) 
ルード・ヨリー (Ruud Jolie) - ギター (2001年- )
ステファン・ヘレブラット (Stefan Helleblad) - リズムギター (2011年- )
イェローン・ファン・フェーン (Jeroen van Veen) - ベース (1996年- )
マルテン・スピーレンブルフ (Martijn Spierenburg) - キーボード (2001年- )
マイク・コーレン (Mike Coolen) - ドラムス (2011年- )

ローベルト・ヴェスターホルト (Robert Westerholt) - ギター(1996年- ※2011年以降は製作とスタジオ録音に専念) 

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   久々にシンフォニック・メタルの話題です。CDリリースがこのところ低迷しているロック界、この1997年オランダで誕生したWithin Temptationも、スタジオ・アルバム『RESIST』(VICP-65510 / 2019)が5年ぶりにリリースされて以来は、その前からの沈黙を破って活動が再開され歓迎されたが、あれからもう既に4年経過。
 アルバム『Hydra』(2014)の大成功後は、噂では"燃え尽き症候群"のような状態に陥り、シャロン嬢(今は既に母親としての貫禄もついて)はソロ・プロジェクトを始動させたりで、このバンドの行く末に不安がよぎったが、しかしアルバム『RESIST』が登場し、取り敢えずファンをホッとさせたのだった。
 そして2020年に「メタル・フェスティバル」(ドイツの「WAKEN OPEN AIR 2019」)の話題にてここに取り上げて以来あっという間に3年経過、その後のWithin Tについては、丁度このタイミングでシングル・アルバム『WIRELESS』のお目見えがあったので、ちょっと見てみたい。

 この間、昨年2022年に4曲入りEP『AFTERMATH』(MOV12071)が、なんとLP(CLEA VINYL 3000枚限定)でリリースされている。そしてまたここに今年新曲シングル『WIRELESS』(MOV7068)がリリースされたのだ。しかし時代の影響かフルCDアルバムの登場はなく、サブスク・ストリーミング時代の中であって、この両者の5曲とそのインスト版5曲の計10曲のアルバムとしてストリーミングで聴くことが出来るのであり、それを取り上げてみた。

(Tracklist)

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A: Wireless
b: Wireless (Instrumental)

<Streaming>
1.Wireless
2.Don't Pray For Me
3.Shed My Skin
4.The Purge
5.Entertain You
6.Wireless (Instrumental)
7.Don't Pray For Me (Instrumental)
8.Shed My Skin (Instrumental)
9.The Purge (Instrumental)
10.Entertain You (Instrumental)

  とにかく目玉曲はM1."WireLess"だ。このところ無事母となったシャロン・デ・アレンが夫のローベルトの協力によってライブ活動も充実して、新曲を登場させた。なにせシャロンは一時のソロ・プロジェクトの「マイ・インディゴ」にてこのバンドとは異なるエレポップにアンビエント系をまじえながらどちらかというとオーソドックスな音に乗せての清々しく美しい歌唱を頑張ってみた経験などから、やはりWithin Tの世界は身についた充実感があるのだろう、ここに世界に訴えるところに到達している。まあそれこそロックの原点であろうから、そんな衝動にかられたということ事態、再びロック世界の開始という事にも通ずるのかもしれない。

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 なかなかパワフルですね、何年か前の彼らを思い出しながらヘビーなリフを楽しめるし、さらに壮大なコーラスをブレンドしたサウンドを堪能できる。シャロンも歳を超えて声も出ているし奮闘。彼らの問題意識が刺激したんでしょうね。ようやくロジャー・ウォーターズが叫んでいる社会や政治的問題、特に戦争と言うものの非人間性に彼らも目が覚めて、戦争を目の前にしての若者と政治問題に目が向いた。活動の目標も見えてきたというところでしょう。ロックの存在感が実感できたというパワーが感じられる。

 彼らの言葉は「このシングルは、戦争や混乱に飢えている人々、そしてメディアを操作し支配しようとする人々に対して書かれた曲です。この曲は、正当な理由があって戦地に行くのだと信じている兵士のことを歌っています。彼は政府に支配されたメディアによって洗脳され、自分が救世主として歓迎されると思っていましたが、結局自分は利用されたのだと悟ります。人々は彼を残虐な支配者として見るようになり、彼は自分が間違った側にいることに気づくのです。彼の人生は、そして他の多くの人々の人生も、欺かれ、破滅させられるのです」

 ロックの存在感と問題意識に一つの世界が確認できたというところで、エネルギーの蓄積発散に光がさしたというところだろうか、いずれにしても今後の健闘に期待したいところだ。

(評価)
□ 曲・演奏・コンセプト  87/100
□ 録音          87/100

(視聴)

 *

      (30:00から・・・"Wireless")

 

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2023年8月 7日 (月)

ケイティ・ジョージ Caity Gyorgy 「You're Alike, You two」

クリーンヴォイスでジェローム・カーンに捧げるピアノとのデュオ作品

<Jazz>

Caity Gyorgy & Mark Limacher「You're Alike, You two」
MUZAK,fab / Japan / MZCF-1456 / 2023

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Caity Gyorgy ケイティ・ジョージ (vocal)
Mark Limacher マーク・リモーカー (piano)

2022年8月、The National Music Centre(カルガリー)録音

 昨年(2022年)5月、ここでデビュー・アルバム 『PORTRAIT of CAITY GYORGY』(MZCF-1448 / 2022)を取り上げたケイテイ・ジョージだが、日本でも比較的好評で早速ここにニュー・アルバムの登場である。

Licensedimagew_20230806172801  カナダのグラミー賞『JUNO Award2023』にて、「Best Jazz Vocal Album of The Year」を2年連続受賞という快挙を達成したようだが、巨匠ジェローム・カーン(→)に捧げたアルバムの登場となった。いずれにしてもシンガー、コンポーザー、アレンジャー、プロデューサーのマルチな技能で快進撃を続けるという才女ぶりだが、カナダでコンポーザー、オーケストラのアレンジャーとして活躍する注目の新世代ピアニスト、マーク・リモーカーを迎えてデュオ・スタイルで制作した今作は、彼女の一曲以外は全てジェローム・カーンの作品で埋め尽くされた。
 ジェローム・カーン(1885-1945)はアメリカ、ニューヨーク出身で、戦前流行のミュージカルの作曲家。ジャズのスタンダードとなった曲が多く、代表作には「煙が目にしみる」だが、「イエスタデイズ」「オール・マン・リヴァー」「アイム・オールド・ファッションド」「思い出のパリ」などがある。彼女がなぜカーンを取り上げたかは不明だが、ジャズ・スタンダード曲に好感を持っていたのかもしれない。どちらかというと瑞々しいクリーン・ヴォイスのケイティ・ジョージ(下左)とマーク・リモーカー(下右)の端正なピアノで綴った作品と言うところにある。 

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(Tracklist)

1 Nobody Else But Me 03:40
2 A Fine Romance 04:13
3 Yesterdays 02:47
4 I'll Be Hard to Handle 04:05
5 You Couldn't Be Cuter 03:30
6 Bill 04:23
7 I'm Old Fashioned 03:09
8 April Fooled Me 03:51
9 Pick Yourself Up 03:53
10 The Bartender 03:11

 ピアノとのヴォーカルというデュオ作品で、彼女の歌がバックに隠れるということなく十二分に楽しめる。選曲は意外にマニアックで一般にポピュラーなスタンダードという事ではないために、かえって新鮮である。しかし何となく曲風はオールド・タイプの雰囲気であり、前作のポピュラーよりの曲よりはジャズのニュアンスが強い。
  ただ今回の彼女の声質は録音のせいか、高音がきつくちょっと気持ちよく聴くというには刺激が強い。私のオーディオ装置としてはあまり相性が良くなかった。

 M1.M2.は編曲の関係もあるか、私の知らない曲で音質も固く落ち着いて聴いている雰囲気でない。
 M3."Yesterdays"は、中低音部が多いせいで、若干しっとりとした仕上げで声のきつさもとれて、ようやく聴きこむことが出来た。
 M4."I'll Be Hard to Handle"彼女のスキャットを生かしたヴォーカルで、ジャズとしては歌う方聴く方両者プロ好みかも、ただ私にとってはあまり魅力を感じない。
 M5."You Couldn't Be Cuter "やはりこうして聴いているとオールドタイプで、ミュージカルっぽい。
 M6." Bill "しっとりとしたこの曲となって、優しさも加わってなんとなく聴きこむ曲となりピアノとの関係も生きてこのスタイルで私はもう少し押してほしかった。
 M7.以下では、M.8 " April Fooled Me"あたりがなんとなく戦前の良き時代のムードの中での物語風で、バラード調に仕上げられていて私好み。ピアノも語り聴かせる演奏は抒情性と優美性があって気持ちが良い曲であった。

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 今回の演ずるところ、戦前のミュージカル・イメージで意外に溌溂していて、歌う本人にはそれなりに芸を要求されてジャズ心を刺激して張り合いのあるところにありそうだが、どうも聴く方の私にとっては時代的ズレと好みから一致できなかった。しかし一部のバラード調の曲では十分の歌唱力を示していた。今後の彼女の展開を占うようなアルバムだ。
 リモーカーのピアノは、時代を表現した躍動感ありの流れに極めて快調にリズムカルに流れ好感あり、一方のバラード調の曲ににおいては抒情性を表現してなかなかの展開。

 まあ彼女は芸達者と言える新人としての作風はかなりのものは感ずるが、私にとっては今後聴きたいヴォーカリストに入るかどうかは、まだまだ決まらない世界であった。・・・何といっても高音部の声の質と録音が快感でなかったことが問題だ。

(評価)
□ 選曲・演奏・歌  85/100
□ 録音       83/100

(試聴) 推薦曲"April Fooled Me"



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2023年8月 2日 (水)

ジョージ・フリーマン George Freeman 「The Good Life」

枯れた味が哀感を持ちながら人生を美しく描く

<Jazz>

George Freeman 「The Good Life」
HIGH NOTE / IMPORT / HCD7352 / 2023

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George Freeman (guitar)
Joey DeFrancesco (organ)
Lewis Nash (drums)
Christian McBride (bass)
Carl Allen (drums)

Recorded May 7, 2022 (Tracks 4-7)
June 13, 2022 (Tracks 1-3)
Chicago Recording Company Chicago, I

George_freeman_photow  ジャズ界の生ける伝説ジャズ・ギタリストのジョージ・フリーマンGeorge Freeman(1927年イリノイ州シカゴ生まれ →)のニューヨークのジャズ・レーベル"ハイノート・レコード"からの4年ぶりのニュー・アルバム。
  いやはや元気ですね、96歳ですからね。かってはジャズファンク・ギタリストとして名を馳せていたが、私は彼のリーダー作は多くは知らなかったのだ。しかしチャーリー・パーカーやベン・ウェブスターといった偉大なミュージシャンと共に仕事をしてきたまさにジャズ界の生ける伝説である。90歳を超えての前作『George the Bomb!』(2019)でのジャズの原点を知らしめるようなギターの演奏による世界は非常に印象深かった。

 コロナ・パンデミックが治まるのを待っていたのだろうか、2022年にグラミー賞受賞ベーシストのクリスチャン・マクブライドChristian McBride(1972-下左)とドラマーのカール・アレンCarl Allen(1961-下左から2人目)とのオールスター・トリオ・セッションを率いてレコーディングスタジオに入り、新作の録音に取り掛かった。また、一方別のオールスターレコーディングセッションを主導し、伝説のオルガン奏者のジョーイ・デフランセスコJoey DeFrancesco(1971年生まれ、このあと2022年8月に亡くなった 下右から2人目)とドラマーのルイス・ナッシュLewis Nash(1958-下右)とのレコーディングも行った。その両者を収めたのがこのアルバムである。

JhkleadershipchristianmcbridewCarlallen201702wJoeywLrwisnashw

(Tracklist)

1. If I Had You11:04
2. Mr. D 7:39
3. Up and Down 6:04
4. Lowe Groovin' 5:53
5. 1,2,3,4 3:56
6. Sister Tankersley 9:47
7. The Good Life 6:30

 しかし、前作が彼の"ギター世界"の締めくくりのような作品だったが、今作はぐっと落ち着いた何となく歳を知っているせいか、"自己の人生の締めくくり"のような世界である。
 M1からM3がジョーイ・デフランセスコ(Org)とルイス・ナッシュ(Dr)とのトリオ・レコーディング
 M4からM7がクリスチャン・マクブライド(Bass)とカール・アレン(Dr)とのオールスター・トリオ・セッション

 M1." If I Had You" これが又、この収録後まもなく亡くなってしまったジョーイ・デフランセスコのオルガンをバックに、技巧を振りまくのでなく、一つ一つの音を大事に聴かせるギターの調べに枯れた人生の味を効かせるか如くの演奏にグッとくる。オルガンの静かな響きとドラムスの落ち着いたリズムはそれを倍増させている。11分を超えての演奏。
   M3."Up and Down"は快調に飛ばし、オルガンとギターの掛け合いが面白い。
   M4."Lowe Groovin' " ここからベースとドラムスとのトリオ。ベースとハモりながらブルース・ギターをしっとりと聴かせてくれる。
   M6."Sister Tankersley "落ち着いたベース音から始まり、ギターも共にゆったりとしたリズムを刻み進行して中盤になって旋律を聴かせるが、ドラムスもスティック音を中心にリズムをゆったり進行させる。ジャズでなければ味わえない人生の世界。
   M7."The Good Life " ギターの優しく美しい旋律が流れる曲。後半にはベースとの掛け合いが次第に盛り上がってドラムスが効果を上げるという展開で、最後は再び美しいギターの調べ。

 この7曲で十二分にジャズの世界を堪能できるまさにプロフェッショナルに描くギター世界だ。ベースの描くところ、オルガンサウンドの描くところこれ又ブルースはじめジャズ・スタンダードの真髄に迫ってくれる。
 そして聴き終わった時、ジャズの哀感ある美しさに満足できるのである。まさに年紀を重ねたミュージシャンの味である。

(評価)
□ 曲・演奏 90/100
□ 録音   87/100

(試聴)

 

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