ロジャー・ウォーターズ Roger Waters 「The Dark Side of The Moon Redux」
50年の歴史を経て・・ここに帰ってきたモノは、深淵にして壮大な世界
<Progressive Rock>
Roger Waters 「The Dark Side of The Moon Redux」
Cooking Vinyl / Import / SGB50CD / 2023
Credits:
Roger Waters: Vocals, Bass on Any Colour, VSC3 / Gus Seyffert: Bass, Guitar, Percussion, Keys, Synth, Backing Vocals / Joey Waronker: Drums, Percussion / Jonathan Wilson: Guitars, Synth, Organ / Johnny Shepherd: Organ, Piano / Via Mardot: Theremin / Azniv Korkejian: Vocals / Gabe Noel: String,Arrangements, Strings, Sarangi / Jon Carin: Keyboards, Lap Steel, Synth, Organ / Robert Walter: Piano on Great Gig // Produced by Gus Seyffert and Roger Waters // Art Direction and Design: Sean Evans // Photography: Kate Izor
ロック史に輝く名盤中の名盤、ピンク・フロイドの最高傑作と言われる『The Dark Side of the Moon 狂気』(1973)を、ロジャー・ウォーターズがオリジナル・レコーディングから50年、80歳を迎えるに人生の区切りに再解釈した壮大な世界をここに公開した。
そもそもピンク・フロイドの歴史の中で、全曲をウォーターズが作詩して彼の出してきた基本的なコンセプトにメンバーが肉付けして音像を作り上げた最初のアルバムで、その流れは以降彼が在籍した最後のアルバム『Final Cut』(1983)の5作にまで続くことになった。このアルバムは当初"Eclipse"というタイトルで進行したが、謎めいたウォーターズのアイデアは人間の問題、社会の問題、個人的トラウマ、シド・バレットの狂気などを常にはらんでいて難解であると同時に聴くものの感性に訴える世界でもあった。
大学時代、ロック・ミュージツクを通じて夢を描いて結成したPink Floyd。それはニック・メイスン、リチャード・ライトと共に、ウォーターズは高校時代の友シド・バレツトを呼び込んでの4人バンドで、サイケデリックと言われた世界で花咲かせた。最大の難関は音楽的リーダーのシドの精神状態の悪化からの脱落であった。しかしウォーターズの執念は、ギタリスト・デヴット・ギルモアを呼び込んで更にプログレッシブな流れに重きをおいてバンド活動を続け、『Atom Heart Mother』(1970)にて一つの価値観を築き、遂に29歳のとき、Pink Floydとしてレコーディングした『The Dark Side of the Moon』は、彼の独特な人間の経験、時代の暗部、狂気への恐怖、などの彼の異常ともいえる常人の感覚を超えた世界を描くことにより圧倒的な支持を得たのだった。
(Tracklist)
1. Speak to Me
2. Breathe
3. On the Run
4. Time
5. Great Gig in the Sky
6. Money
7. Us and Them
8. Any Colour You Like
9. Brain Damage
10. Eclipse
このアルバムは「老いた男の記憶、それは全盛期の男の行動である」という冒頭の言葉から始まる。ご存じでしょうか、この"Speak to Me"では、なんとアルバム『Obuscured by Clouds雲の影』の曲"Free Four"の詩が登場しているではないか、驚きましたね、彼の繋がっているコンセプトの世界には。既にウォーターズは20歳代に老人への世界にまで想いを馳せていた。そして『The Dark Side of the Moon Redux』で、この50年に及ぶ経過を歩み、彼自身のトラウマ、歩んだ道、哲学、年齢という諸条件新たな視点を持って、彼自身のコンセプトで築いたオリジナルの創作物を見直し回顧し新展開を試みる。彼の近年の人生の重みを感ずるヴォーカルは、Pink Floyd時代から変わらない謎めいた表現で脚色しながら、彼の若き時代の歌詞に深遠さのあるコンセプトの拡大の味を加え、彼の哲学的風貌すら感ずる創作をここに結晶させたのである。
制作にあたってWatersとGus Seyffertによるプロダクションは、壮大な深淵な宇宙的サウンドにウォーターズのの80歳の男としての心のつぶやきを乗せて、サイケデリックな味とプログレッシブな味とクラシックな味を乗せたオーケストレーション築き、かってのアルバムにはなかった世界を対比的に聴かせてくれる。
「オリジナルの『The Dark Side of the Moon』は、ある意味、人間の現状に対する年長者の嘆きのように感じられる。しかし、曲を作ったとき、Dave、Rick、Nick、そして私はとても若かった。だから、80歳の知恵が再解釈に何をもたらすかを考え始めたんだ。最初にGusとSeanに『The Dark Side of the Moon』の再レコーディングの話をしたとき、みんな私が狂っていると思った。でも、考えれば考えるほど、『肝心なのはそこじゃないよね』と思ったんだ。半世紀の時を超えて手を取り合い、堂々とオリジナルと並べることが出来る作品に仕上がったことを、私は非常に誇りに思っている」とRoger Watersは語る。
そしてこのアルバム・リリースの試みは又してもPink Floydメンバーのデヴィット・ギルモアの猛反対という憂き目にあった。これは若き当初のこのアルバムのコンセプトの世界に存在していなかったギルモアであったことを露骨に暴露した。哀しいことに、これは真の作者にしか解らない半世紀の経過を経た人生が如何に人間の重きを築いているかが理解出来ないのである。もっともこれはアメリカ商業主義の独占欲の強いギルモアの女房のポリー・サムソンの仕業なのかもしれないが。
しかし一方、Pink Floydのニック・メイスンはリリースに大賛成した。そこが学生時代の男の夢をバンド結成という一つの手法の下で、互いに共に築いてきた人格を持っている事の違いであった。ウォーターズはかっての『The Dark Side of the Moon』にとって代わろうなどとは全く考えておらず、勿論否定しているどころか、むしろ若き時代の結晶として評価していることが今回の「Redux」の発想に繋がっているのだ。メイスンは、あれから半世紀経過した人生の作り上げたものを確実に表現したことを理解し、更に音楽的完成度についても感動し後押ししてくれたのである。それによってウォーターズはリリースを決意したのであった。
今や、人生の総決算に入っているウォーターズにとっては、パレスチナ支持イスラエル批判、戦争の無意味さの国連発言、彼の作品やライブの意味が理解できない反ユダヤ主義やナチス礼賛のという濡れ衣に対する反発など、常に政治思想が取り巻いているが、その中でも何につけても父親の死にまつわるトラウマを背負っての戦争否定につながる活動・運動はいまだに続いている。そんな中で、むしろ若き時代を礼賛し、そして年老いた現在の存在を確認しているのだと思う。ここまで来ると、このアルバムの評価はいろいろと言う世界を超越しているのである。
(評価)
□ 企画・演奏・歌 95/100
□ 録音 90/100
(試聴)
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コメント
初めまして!ローリングウエストと申します。新潟県柏崎生れ川崎市在住、65歳中年オヤジ(旅好き・歴史好き・洋楽ロック・サッカー好き)でございます.。小生は60年代末~70年代ロックファンですが、自分と洋楽趣味が一緒だな~と思い初めて訪問させて頂きました。ピンクフロイドに嵌っていたので今もなおデビッド・ギルモアが元気で活躍していることが本当に嬉しきことです。今はサンタナ特集を公開していますのでよろしかったら覗いてみて下さい。これを機会に旅記事や洋楽ブログで交流ができたら幸いと存じます。
投稿: ローリングウエスト | 2023年10月 8日 (日) 17時49分
待望のリリース…、どうなる事やらとヒヤヒヤ?しながら聴いてみましたが、なるほど、こういう事かと妙に説得力を持って迫ってきたから面白い。
こんな作り、他に誰も成し得ない、正にロジャーの真骨頂、そして集大成として恥じない作り映えで緊張感を持って取り組めますね。
投稿: フレ | 2023年10月 8日 (日) 21時19分
ローリングウェスト様
初めまして、コメント有難うございます。これからもよろしくお願いします。
60年代からのロック・ミュージシャンの活躍に喝采をしております。私はフロイド、クリムゾン派ですが、サンタナもいいですねぇ・・・私は若き頃はラテンものが好きでした(今でも好きですが)。かってはラテンとロックの融合で小躍りして喜んだものです。そちらに訪問させて頂いて又楽しませてください。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2023年10月 8日 (日) 22時40分
フレ様
コメント有難うございます
しかしウォーターズも頑張りますねぇ…。もう気楽にしていても良い状況と思いますが・・まだライブ活動にツアーに精力的で、更に現若者ロッカー以上にRESIST精神旺盛で・・・。そしてこうしたアルバム造りですから恐れ入ります。
まさに80歳の抵抗ですね。
そして見事な世界を構築していますね。とにかく驚きは"Free Four"でした。あの作品で80歳人生を考え、ここにそれを実現する。すべてが彼の仕業は繋がっていますね。恐ろしいです。
ギルモアもサムソンの詩で歌を歌っているのでなく、むしろウォーターズを引き込むくらいの男意気があれば、まだ名作が出来るのにもったいないですね(これは余談でした)。
80歳男に乾杯して聴きこみたいですね。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2023年10月 8日 (日) 22時52分
コチラへのご来訪を頂きありがとうございました。わがブログの洋楽メイトお気に入り登録をさせて頂きましたので今後ともお付き合いよろしくお願いいたします。
投稿: ローリングウエスト | 2023年10月 9日 (月) 10時04分