ヘルゲ・リエン Helge Lien Trio & Tore Brunborg 「FUNERAL DANCE」
カルテット演奏でヘルゲ・リエンの美学を凝縮
<Jazz>
Helge Lien Trio & Tore Brunborg 「FUNERAL DANCE」
Ozella Music / Germ. / OZ106CD / 2023
Helge Lien (p)
Johannes Eick (b)
Knut Aalefjaer (ds)
Tore Brunborg (ts)
ノルウェーのピアニスト、ヘルゲ・リエン(Helge Lien, 1975- 下右)のトリオの新譜『Funeral Dance』がリリースされた。これは彼が師と仰ぐウクライナ生まれのピアニスト、ミハイル・アルペリン(Mikhail Alperin, 1956 – 2018)への追悼の意を込めて制作したアルバムだ。彼のトリオに加えアルペリンとの共演歴もあるサックス奏者のトーレ・ブルンボルグ(Tore Brunborg 下左)を迎えて完成させた。
アルバムは2018年5月にノルウェーの首都オスロでミハイル・アルペリンが亡くなった直後にコンセプトは出来上がり、死後ちょうど1年経った頃各地のコンサートでこれらの曲が演奏され始め、この年の中国の北京ジャズ・フェスティヴァルに現在のトリオであるクヌート・オーレフィアール(Knut Aalefjaer, ds)とヨハネス・エイク(Johannes Eick, b)とで演奏した時にアルバムの制作を確信したと。しかしコロナのパンデミックで完成には時間を要したようである。
ヘルゲ・リエンの師ミハイル・アルペリン(Mikhail Alperin →)は、ソ連時代のウクライナの1956年生まれのユダヤ人・ピアニスト/作曲家。1980年にソ連では最初のジャズ・アンサンブルを結成し、その後モスクワに移りロシアの伝統音楽やクラシック、ジャズを融合したモスクワ・アート・トリオ(Moscow Art Trio)を結成、リーダーを務めた。1993年にノルウェーの首都オスロに移住。ノルウェー音楽アカデミーの教授を務め、ヘルゲ・リエンらを指導した。このアルバムに参加しているサックス奏者トーレ・ブルンボルグも加わっているアルバム『North Story』(ECM5310222/1997)など、ミーシャ・アルペリン(Misha Alperin)名義でECMから複数の作品をリリースしている。
そしてリエンは「アルバム「Funeral Dance 葬送のダンス」はミーシャ(Mikhail Alperin)に捧げられたもので、作曲したときもミーシャのことを念頭に置いていました。ダンスチューンと言われるかもしれませんが、それは大したことではありません。私はそういう矛盾が昔から好きでした。ミーシャもきっとそう望んでいることでしょう。彼の死を悼むのではなく、歌と踊りで彼の人生を祝いましょう。彼の生徒であり、同僚であり、友人であったことに永遠に感謝しています」と記している
曲は、ヘルゲ・リエンが5曲、トーレ・ブルンボルグが4曲という構成である。
(Tracklist)
1.Adam (Helge Lien) 8:19
2.Apres Un Reve (Gabriel Faure) 4:27
3.Riss (Tore Brunborg) 6:48
4.Funeral Dance (Helge Lien) 3:57
5.Kaldanuten (Tore Brunborg) 5:13
6.Gupu (Tore Brunborg) 6:27
7.The Silver Pine (Helge Lien) 6:15
8.Bomlo (Helge Lien) 3:48
9.A Wonderful Selection Of Gloomy Keys (Helge Lien) 4:44
10.Savelid (Tore Brunborg) 5:18
M1."Adam" 非常に安定感のある穏やかさがある曲からスタート、リエンの曲であるがブランボルグのサックスも敬虔なる心を表しているように聴こえる。演奏はトリオはむしろ控えめで時にリエンの美しいピアノの旋律も入るがむしろサポートだ。
M2."Apres Un Reve" 同様にサックスの調べから展開する。ピアノもハモリながらオマージュの心を表すべく美しくも優しい旋律を流すM3."Riss" ブランボルグの曲。やはり主力はサックスの描く旋律により曲は流れる。そしてピアノ・トリオはサポート役。リエンの性格がよく出ていてサックスを差し置いてピアノの旋律を流さず、サックスの合間を埋めるに終始、そしてバック固めに収まる。
M4."Funeral Dance" アルバム・タイトル曲でリエンの作曲。彼の繰り返しの展開にサックスが深く沈める。
M5."Kaldanuten" 次の曲とともにブランボルグの曲。ピアノとドラムスでキザム低音のリズム、そこにサックスがやや沈鬱な世界を歌う。そして次第に高まり再び沈みゆく。
M6."Gupu" サックスはどこか回想的に静かな情景を歌い、ベースの描くところに導きそしてピアノが讃歌するがごとく響く。
M7."The Silver Pine" 今度はここから3曲リエンの曲。ピアノの情景描写が展開し爽やかな嘆きをサックスが補助。
M8."Bonlo" ぐっと静かなドラムスとピアノの音からスタート、ベースのアルコも加わってどこか異世界に導く響き。
M9."A Wonderful Selection Of Gloomy Keys" 低めの沈むベースとドラムスのリズム展開に、サックスとピアノのユニゾンで描き、次第にサックスが歌いあげてゆく。
M10."Savelid" サックスのソロで始まり、ピアノ・トリオが美学を主張しての曲を展開させ締める。
このアルバムもサックスとピアノ・トリオのカルテットの演奏だが、私は究極このスタイルはあまり好きではない。個人的な偏見では、描くところジヤズ演奏の中ではサックスとピアノは全く相いれない世界を構築すると思っているからだ。ピアノの高潔さとサックスの主張の強さとか懐疑的な人間の深みに迫る世界は異なると思っているためだ(異論は多いでしょうね)。
しかしこのアルバムは不思議に協調し沈んだ世界を見事に美化して見せる。サックスは前面に出て高らかに歌い上げるのが通常のパターンだが、ここでは葬送がテーマであるためか、それを抑えて流れる。従って、リエンの遠慮しがちなピアノの響きがいやにマッチしているから不思議だ。
つまりリエンの性格もあろうかと思うが、その流れの合間に自己主張なくピアノトリオの美しさを演ずる方法論を取っている。したがってよく聴かれるピアノを打ち消してのサックス世界を感じないで済んでいるのだ。そこが好感のポイントかもしれない。
究極このアルバムはヘルゲ・リエンのピアノ・トリオを聴こうとすると若干欲求不満になる。それはこのカルテットでサックスとの関係でピアノ・トリオがサポートに回る演奏部が多くなる為かもしれない。前作『REVISITED』(OZ101CD/2021 )のようなトリオを味わうことはできない。ただヘルゲ・リエンの美学というものの世界は十二分に感じ取れるアルバムとして位置付けると納得できるところに到達する。これはこれとして価値感を感じたい。
(評価)
□ 曲・演奏 90/100
□ 録音 87/100
(試聴)
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