ロヴィーサ・イェンネルヴァルとエラス・カペル Ellas Kapell feat. Lovisa Tennervall 「For All We Know」
女性ヴォーカルとピアノ・トリオによるコンテンポラリーな世界
<Jazz>
Ellas Kapell feat. Lovisa Tennervall 「For All We Know」
PROPHONE / Import / PCD321 / 2023
Lovisa Jennervall (vocal)
Manne Skafvenstedt (piano)
August Eriksson (bass)
Edvin Glänte (drums)
2023年6月スウェーデン-ヨーテボリのNilento Studio録音
スウェーデンからの4人組ユニットの3rdアルバム。女性ヴォーカルを立てたピアノ・トリオだ。私にとっては初物であったのだが、女性ウォーカルものというのでなく、あくまでもヴォーカルも入ったカルテットと考えた造りを目指しているようだ。そしてどうもこの「Ellas Kapell」という精鋭トリオは、スタンダード・ナンバーをレパートリーとしているようだが、かなりコンテンポラリーな線を描いていて、ちょっと一筋縄ではゆかないタイプ。そして注目の女性歌手ロヴィーサ・イェンネルヴァルをグループの看板にもしているようだが、その彼女は自己名義のソロ・アルバムもリリースしている。近作では個人的な色彩の濃い『Between You and Me』PCD278/PCD278/2022)が好評の若き実力派女性歌手(兼ソングライター)である。
聴いてみるとカルテットといっても、やはり女性ヴォーカルのロヴィーサ・イェンネルヴァル(→)の因子は大きい。彼女は1990年生まれの33歳、ヴェステルノルランドのヘルネサンドとヨーテボリというところで子供時代と青春期を音楽に囲まれて過ごしたと、2015年春、ニューヨークでジャズを学ぶ。帰国後まもなく、ヨーテボリで「ロヴォーサ・イェンネルヴァル・カルテット」を結成。2016年秋、ストックホルム王立音楽大学に入学、最初の学年でプロジェクト「ロヴィーサ・イェンネルヴァル・ウィンドアンサンブル」を立ち上げ、作曲と編曲を担当し、その後「エラス・カペル」を結成、スタンダードを中心にした曲を編曲し歌った『Longing(あこがれ)』(PCD 216)と『What's It All About?』(PCD 266)の2枚のアルバムが話題を呼んだ。
(Tracklist)
01. I Get Along Without You Very Well
02. Autumn Leaves
03. For All We Know
04. How Could You?
05. Something On Your Mind
06. Softly As In A Morning Sunrise
07. Devil May Care
08. If I Should Lose You
09. (They Long To Be) Close To You
10. For All We Know
まずは、この女性ヴォーカリストのロヴィーサ・イェンネルヴァル の北欧の空を思わせる透明感に満ちた豊潤クール・ヴォイスが、時には温もりまでみせ、そこには清楚可憐な雰囲気さえ描き、英語圏とは若干異なる節回しで迫ってくるところに魅力が溢れている。そしてある時は耽美的に、又ある時はダイナミックなタッチをみせるピアノと、ベース、ドラムスも安定感があり、又曲想によって変幻自在なサポートも板についている。それはユーロ・ジャズのクラシカルなものやメロウにして美メロのイタリア風世界などとは違って、基本的にはコンテンポラリー・ジャズを基調にした北欧美意識を盛り込んだタイプと言っていいかもしれない。
多くの曲は、まずはトリオが彼女の歌をサポートする形でスタートして、中盤にトリオ演奏として三者それぞれの主体性と協調性による形を作って曲を展開させ、最後はヴォーカルを呼び込んで纏め上げるパターンをとる。しかしスタンダード曲を演ずるに、インプロヴィゼーションを時に生かして、原曲をかなりの編曲によって彼ら自身の曲に仕上げてゆく手法はコンテンポラリーな世界でなかなかのもの。
M1. "I Get Along Without You Very Well" 冒頭から圧巻の高く広がり訴えるヴォーカル。
M2. "Autumn Leaves" 初めて聴くタイプの枯葉。スタートと締めに聴きなれない編曲でのヴォーカル、中盤に編曲されたトリオ演奏。
M3. "For All We Know" アルバム・タイトル曲。しっとりと歌い込む曲、中盤の情緒的ピアノが美しい。
M4. "How Could You?" ドラムスがリードするタイナミックなトリオ演奏。アヴァンギャルドな雰囲気も。スキャット・ハミング調のヴォーカルも。
M5. "Something On Your Mind" 状況描写を歌い込みピアノの響きも語るが如く。
M6. "Softly As In A Morning Sunrise" 清々しさと美しさのヴォーカル。スキャットも入れての世界は美しく、ピアノ、ベースも優しく。
M7. "Devil May Care" なかなか軽快さも見事。
M8. "If I Should Lose You" 美しさを描く演奏、説得力のある静かに迫る美しい歌声。
M9. "(They Long To Be) Close To You" 中盤のスキャット・ヴォーカルとベースの新解釈演奏に美しいピアノは注目点。
M10. "For All We Know" ピアノのヴォーカルを導く優しさの展開はお見事で、ドラムスのブラッシ音に乗っての見事なカルテット演奏。
とにかく聴きなれた曲も初めて聴くが如くの世界に浸れる。今までにない新世界を聴く想いである。特にロヴィーサの清楚感の透明感ある艶と香りの歌唱力に脱帽だ。又ピアノ・トリオはコンテンポラリーな世界にリリカルさとダイナミックさの味をしっかり身に着けていて見事。スウェーデン恐ろしという事で今後が楽しみだ。
(評価)
□ 選曲・演奏・歌 90/100
□ 録音 88/100
(試聴)
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