« 2023年11月 | トップページ | 2024年1月 »

2023年12月28日 (木)

寺島靖国 Yasukuni Terashima Presents 「Jazz Bar 2023」

今年もこのアルバムで締めくくり・・・
本来のピアノ・トリオが主体で、聴き応えあり

<Jazz>

Yasukuni Terashima Presents 「Jazz Bar 2023」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1119 / 2023

61c5rmunfw

  今年も締めくくりは、やはりこの寺島靖国プレゼンツとしてのコンピレーション・アルバムだ。この「Jazz Bar」シリーズは年一回のリリースで、今年もこの12月にリリースされました。なんとスタートが2001年で、今年で23年目という事になる。私も飽きずによく聴いてきたと思うのだが、しっかりこれで23枚が並ぶことになった。

Img1  その他このように寺島靖国(左)の名を冠してのコンピレーション・アルバム・シリーズで今年既にリリースされているものは、「For Jazz Audio Fans Only Vol.16」、「For Jazz Vocal Fans Only vol.6」、「For Jazz Ballad Fans Only Vol.4」があり、4種があった。しかしここまで続く彼の選曲シリーズも、おそらく世界でも稀有であろうというより、これ以上のものは無いだろうと思う。その他「For Jazz Drums Fans Only」もあるんですが、今年も出ませんでしたね。

 ジャズの楽しみ方は人それぞれですが、なんといっても私が寺島氏に協調するのは、やはりピアノ・トリオをベースとした⼼の琴線に触れるような哀愁を帯びたメロディーを重要視するところですね。それによって23年間もこのシリーズにお付き合いしているんです。近年は、ただ若干共通するところもある「Ballard Fans Only」があったり、もう長く並行してリリースされている「Audio Fans Only」との関係もあって、少し中身の充実感が下がったような気もするので、又一方若干市場からの要望への妥協もあって、彼自身の色が少し薄れてきたようにも思うので、今年はどうかなぁーーと、思うところがあるんです。

 さて、今年は?・・・以下の内容でした。

(Tracklist)

1 El dia despues / Manel Fortia
2 Nightfall / Enrico Pieranunzi / Charlie Haden / Paul Motian
3 Close to Silence / Claes Magnet Trio
4 Traumerei / Trio X of Sweden
5 In Retrospect / Bernt Moen Trio
6 Echoes from Syria Part #1 / Owls
7 Romancing / Chris Lomheim Trio
8 Condolance / John Venkiah Trio
9 Le Plat Pays / Dan Tepfer Trio
10 Hommage a A. Piazzolla / Creative Art Trio
11 In the Days of Growing Darkness / Carole Nelson Trio
12 Symphony No.8 / Nesin Howhannesijan Trio

  私がまず喜んだのは、今年は珍しく私が持っているアルバムは一枚のみだったことです(Trio X of Sweden「Trāumerei」)。と、いう事は私にとって新しい発見がある可能性が高いという事ですね、ただ昔のように、近作が少なくなっていますね。それはそうです、他のシリーズとダブるわけにもゆきませんから、他で紹介してしまっているという事もある訳です。これがちょっとシリーズものが増えた結果の欠点かも知れません。それと近作が、かってのように多くリリースされていないですね。これもちょっと残念なところです。

 今年のテーマは、どうもジャズは「名曲無くして名演あるのみ」と言うつまり「名演が名曲を生む」という見方から・・ちょっと見方を変えて「名曲が名演を生む」といったところに逆説的にアプローチしたところにあるようだ。それも決してないわけではないと思う節もあって、これも面白いと聴いた訳である。

51aatswcl_awKcd5238

  その為か、今年はクラシックの登場が2曲あった。それは Trio X of SwedenのM4."Traumerei"(上左) シューマンですね。それとNesin Howhannesijan TrioのM12."Symphony No.8"(上右) シューベルトのジャズ演奏だ。私はこれは全く否定しません。それは私自身がジャズを聴くようになったのはジャック・ルーシェの「Play Bach」なんです。思い起こせばもう50年以上前の話で、1960年代にクラシックと共に、このバッハのジャズ演奏に惚れ込んだのです。そして又プログレッシブ・ロックにもまった私が、音楽三昧になったきっかけでもあったわけです。そしてキース・ジャレットのファンにもなってゆくわけですが、そんなことからも、私自身はクラシックのメロディーであれ、スタンダードのメロディーであれ、そのピアノ・トリオの原曲の旋律を生かしてのインプロヴィゼーションの演奏の世界に興味があるんです。その点が、寺島氏の注目点に重なってくるんです。

10085545681007306904506fw

 今回のアルバムではその他、ベース奏者がリーダーのピアノ・トリオであるM1. El dia despues / Manel Fortia「Despertar」(上左)は、沈んでちょっとやりきれない哀愁が見事に描かれていた。
 Dantw さらに M3. Close to Silence / Claes Magnet Trio「Close to Silence」 (上中央)の「静」の世界は美しさと優しさが満ちている。
 そして M9.Le Plat Pays / Dan Tepfer Trio「Five Pedals Deep」(上右) のぐっと深く物思いにふけるムードはただ暗いだけでなく、哲学的な世界を感じて素晴らしかった。リーダーのピアニストのDan Tepfer(右)及びこのトリオは少々別のアルバムを探ってみたいと思ったし、これからもチェックしていってみたい。
 こんなところが興味深く印象に残った。

 全体に選曲されたアルバムは録音は良い方のものを選んでいるように思う。ただリリース年月がちょっと古かったものが多かったのが残念だが、まあ何とかアプローチして見たくなったので、今回は良かったという事と結論付けたい。

(評価)
□ 選曲 90/100
□ 録音 88/100
(試聴)
El dia despues / Manel Fortia

 (ご挨拶)
 このブログを続けて17年になりますが、何とか今年もそれなり書いてくることが出来ました。もともとはカメラ・写真、絵画、映画、音楽、オーディオなどの話題で、私の記録みたいな性質のものでスタートしましたが、写真関係は別室( 参照 : blog「瞬光残像」http://photofloyd.exblog.jp)を設けてから、圧倒的に音楽関係、それもジャズが多くなりました。平均して5日に1回の掲載ですので、それでも1年では70回以上になります。考えてみるとよく続けてきたなとも思います。音楽はロツクは減りましたが、クラシックは相変わらず聴いていますので、来年は少しはそのテーマにもと、ふと思っているところです。
 いずれにしても、今年1年コメントを頂いた方々をはじめ、読んでいただいた方々に感謝申し上げます。又来年もよろしくお願いします。 

| | コメント (4)

2023年12月23日 (土)

マッズ・ヴィンディング Mads Vinding Trio 「Quiet Yesterday」

自然体の中で創造された見事なトリオ作品

<Jazz>

Mads Vinding Trio 「Quiet Yesterday」
Sterville Records / Import / CD / 1014356 / 2024

A0343202630w

Mads Vinding (b)
Dado Moroni (p)
Niclas Campagnol (ds)

  デンマーク・ジャズ界のベテラン・ベーシスト、マッズ・ヴィンディングとイタリアの人気ピアニスト、ダド・モローニ、そしてスウェーデンのドラマー、ニクラス・カンパニョルという豪華メンバーによるピアノ・トリオ・アルバム。2018年9月20日コペンハーゲンの名門クラブ:Jazzhus Montmartreで3人の巨匠が集結して公演を行なった折に録られていたライヴ音源の初ディスク化アルバムである。そしてこのアルバムには5つのスタンダード曲と、モロニによるオリジナル曲「Quiet Yesterday」が収録されている。

Vindingmadsbytorbenw  マッズ・ヴィンディングMads Vinding(右)は、ここで過去にも取り上げたが、1948年デンマーク生まれのベテランそのもののジャズ・シーンの重鎮コントラバス奏者。なんと16歳のときにコペンハーゲンのジャズクラブ、ジャズフス・モンマルトルのハウスベーシストとしてプロとしてのキャリアをスタートさせている。録音だけでも800以上になるというから凄い。最優秀ソリスト、ノルトリング、ベン・ウェブスター賞、パレ・ジャズ賞、ラウニー・グレンダール名誉賞などを受賞。10 枚以上のアルバムをリリースし、ケニー・ドリューやハンク・ジョーンズ、アート・ファーマーらと共演するなど、サイドマンとしても活躍している。

 ピアニストのダド・モロニDado Moroni(1962年イタリア・ジェノヴァ生まれ、下左)は、4歳からピアノを始め独学で音楽を学んだ。10代半でイタリア各地でプロとして演奏し、17歳でファーストアルバムをリリース。1980年代、主にヨーロッパでフェスティバルやクラブで演奏し、1991年に渡米しニューヨークのジャズ・シーンの一員となり、ニューヨークの名門クラブでリーダーやサイドマンとして定期的に出演し、数枚のCDを録音した。その後イタリアを拠点に、世界各地で活動を続けている。2010年、トリノのジュゼッペ・ヴェルディ音楽院のジャズピアノ科教授。今日では、ケニー・バロンとのデュオや、エディ・ゴメスやジョー・ラバーベラとのトリオなど、まさに現代のヨーロッパの巨人。

 ドラマーのニクラス・カンパニョールNiclas Campagnol(1973年スウェーデン・ヴェクショー生まれ、下右)は、長く続いている音楽家系の出身という。音楽へのアプローチが非常に多才で音楽性に優れていて、トーマス・フォンネスベック、ディディエ・ロックウッド、アントニオ・ファラオらと共演してきている人気ミュージシャン。

Dadomoroniw 339076127_21652298970w

 こんなベテラン三者が、それぞれの経験をどのように生かしてトリオ作品を構築するか興味津々の今作である。

(Tracklist)

1.All of You 11:01
2.Quiet Yesterday 08:29
3.Softly, As In A Morning Sunrise 09:01
4.Blue In Green 07:51
5.Alice in Wonderland 08:56
6.Nature Boy 05:28

 上記のように、一曲のオリジナル曲以外、ビル・エヴァンスの名作「Blue In Green」や「Alice in Wonderland」などといったお馴染みのスタンダードナンバーが展開する。このアルバムも録音はピアノは勿論だが、ベース、ドラムスの音もクリアにリアルにしっかり聴きとれてなかなか楽しい。しかしこうしたベテラン達は日ごろ一緒に演じているわけではないのに、彼らの素晴らしい相互作用は、スタンダード・ジャズの解釈に長けているためか、こうして聴くかぎりにおいては、楽々と展開の妙が築かれ、互いに見事なハーモニーやインタープレイを展開し深いつながりの中で共鳴の味わいを聴かせてくれる。

 M1."All of You" スローにスタートするが、次第にベースの響きとドラムスのソロとが軽快にスイングし、ピアノも力みなく達者なパッサージ・ワークに長けた演奏が心地良い。
   M2."Quiet Yeaterday"オーソドックスなベースの歌うが如くの旋律演奏が響く。 
 M3."Softly, As In A Morning Sunrise"  軽快な速攻演奏、ドラム・ソロのカラフルにしてスリリングな華々しさと、それに乗ってのピアノのアドリブの冴えた奮戦が聴きどころ。
 M4."Blue In Green" しっとりとした演奏。録音効果によるところか?エヴァンスものよりピアノがクリアに高だかに響く。
 M5."Alice in Wonderland" 三者の力みのない快適展開の手慣れた感ありの軽快演奏。
 M6."Nature Boy" 最後にきて、ここでは見事なインプロヴィゼーションも展開する。ベースの弦のスラップ奏法の妙が目に見えるように旋律を奏でて、それに乗る硬質でありながら優美さもあるピアノの美しいメロディ。 これを聴くと、もう2-3曲聴きたくなる。

  この3者集合のきっかけは解らないが、こうして組んでの演奏は、歴史的に続いて来たわけではないのだが、不思議にその演奏の結びつきが違和感なく、いつもどおりの情緒豊かなヴィンディングの歌うようなベースの旋律をうまく生かして、それぞれがちゃんと持ち味を出しての協調された演奏は、力みもなくお見事である。この味のあるトリオ共鳴の美は、考えてみると3者それぞれ異なる世代に活動開始しているにもかかわらず不思議と言えば不思議である。これはそれぞれの幾多のサイドマンとしての業績の結果なのかもしれない。
 スタンダード曲を主としている為もあって、親しみやすいメロディーの美くしさ、情緒が響き、それが思いのほか歯切れのいいダイナミックなスウィングで迫ってくる。いずれにしてもオーソドックスな快演と言ったところだった。

(評価)
□ 編曲・演奏  88/100
□ 録音     88/100
(試聴)

 

| | コメント (2)

2023年12月18日 (月)

グリゴリス・テオドルディス grigoris theodoridis trio 「Green of Silence」

  コンテンポラリーなピアノ・トリオ。世界の各地の色合いを意識した展開はオルタナティブに展開

<Jazz>

grigoris theodoridis trio 「Green of Silence」
Irida Jazz / Greece / IRIDAJ009 / 2023

347241621_81161795w_20231215163701

Grigoris Theodoridis ( double bass and compositions)
Attila Gyárfás (Drums)
Orestis Petrakis (Piano)

Recorded at Sierra studios Athens by George Kariotis, 25-26 November 2022

  この「グリゴリス・テオドリディス・トリオ」は、ギリシャ人のコントラバス奏者で作曲家のグリゴリス・テオドリディスGrigoris Theodoridis(下左)が率いる新しいプロジェクトだ。ドラムスはハンガリーのアッティラ・ギャルファス(下中央)とピアノはギリシャのオレスティス・ペトラキス(下右)である。そして2023年イリダ・ミュージックからファースト・アルバムとしてこの『Green of Silence』をリリースした。

0032321409_25Gya_700x450w9360b2cbc87dccw

 テオドルディスは、紹介をみると、ギリシャの田舎の諸々の大変な困難の中から、プロとして音楽演奏家と評価されるようになり、それはジャズと解釈された音楽の世界で活躍するに至った。17歳でアテネに移り住み、ジャズとクラシックのコントラバスを学ぶ。そして2011年にはオランダに渡り、ハーグ王立音楽院でジャズ演奏/コントラバスの学位を取得。そしてヨーロッパ各地のミュージックホールやジャズフェスティバル、ニューヨーク、東京、上海などで演奏のキャリアを積んできている。ニューヨークではロン・カーターとオーランド・ル・フレミングに師事。また、ラリー・グレナディア、ジョー・マーティン、ブラッド・メルドー、ジェフ・バラード、エンリコ・ピエラヌンツィ、マーク・ギリアナ、ジョン・パティトゥッチ、ビジェイ・アイアー、デビッド・リーブマンのセミナーや講演にも参加している。

 このアルバムに収録されている曲群は、ハーグからアテネまでの彼自身の音楽の軌跡をたどり、作り上げたもののようだ。ニューヨークと東京のジャズ・シーンからラテン・アメリカ、ファー・イーストまでの様々なサウンドから影響を受けた所謂コンテンポラリー・ジャズの世界でプレイしている。

(Tracklist)

1.Unnecessary Thoughts 07:33
2.Green of Silence 12:11
3.Sandstorm 05:18
4.Kutsisabishii 07:35
5.Destiny 09:49
6.Sandstorm (Alternative Take) 05:10
7.Naoko 07:59

 何といっても、更に一歩コンテンポラリーに発展する世界を感ずる展開に驚く。もともとピアノ・トリオ・スタイルでも、リーダーがベーシストやドラマーだと、その録音がリアルになって、彼らの音が聴きとれるためにトリオ演奏が面白くなる。聴きようによってはライブものに近い感覚で聴けるところが良い。本作も彼のベース音に加えドラムスの音もしっかり録音され聴きとれるし、ピアノのバツク演奏というのでなく、トリオとしての3者の関係が対等に面白く聴けるところがいい。

Jazzw

 M1."Unnecessary Thoughts"がスタートすると、即、ピアノの美しい流れにより異国の雰囲気が伝わってくる。後半に入るころピアノ、ドラムスが支えてのベースが語るような即興的な音が響き、その後3者のインタープレイが見事。
 M2."Green of Silence" は、冒頭からしばらくベース・ソロから始まって、おもむろにピアノの旋律が登場。静かに自然の姿を表現するが如き演奏だ。ここでも後半ピアノに変わりベースが語るような展開が加味されている。非常に気持ちが安定される世界を描く。12分以上の長曲。
 M3."Sandstorm" "砂あらし"だろうか、ピアノを中心にベースのアルコが響き、ドラムスの多彩な音での神秘的な即興の世界。
 M4."Kutsisabishii" M3の流れをここでは大胆な響きに変調して盛り上がる。
 M5."Destiny" 自己の宿命的運命に想いを馳せているのか・・・ピアノ、ベースが印象的にちょっと内省的に響く。10分に至ろうとする曲。
 M6."Sandstorm (Alternative Take)" ドラムスからの多彩な音に、奇怪なるベース・アルコ音と曲を導くピアノの美音が乗り、これらによる神秘的世界。
 M7."Naoko"ピアノとベースのユニゾンが魅力的に響く。

 所謂イタリア風美旋律の世界と言うのではなく、コンテンポラリー・ジャズで神秘的な世界感のある即興の自由が描くところにあり、おそらく様々な音楽体験した経歴での築かれた一種独特のオルタナティブな色彩もみせる世界である。バック・グラウンド的な聴き方でなく、じっと集中して、聴く者の自由な世界を頭に描いて聴くにその威力を発揮する。トリオのアッティラ・ギャルファス(Drums)とオレスティス・ペトラキス(Piano)も、かなりインプロヴィゼーションに長けているだろうと想像した。特にピアノのペトラキスは、クラシックピアノのレッスンを8年間受け、ジャズピアノと理論を学び、その後、オランダに移り、ユトレヒト音楽院とアムステルダム音楽院で研鑽を積み、既に自己のピアノ・トリオで2枚のアルバムをリリースしている。私の注目株だ。
 曲とタイトルとの関係の理解が難しいが、それにこだわらず聴く者の自由であっていいのだろうと思って聴くとのめり込める。

(評価)
□ 曲・演奏 88/100
□ 録音   88/100

(試聴)

*

 

| | コメント (0)

2023年12月13日 (水)

E.S.T.結成30周年記念 E.S.T. feat. Joel Lyssarides 「 A TRIBUTE TO Esbjörn Svensson Trio」

リュサリディスらを迎え、セクステットでE.S.T.再現ライブ

<Jazz>

E.S.T. feat. Joel Lyssarides
「 A TRIBUTE TO Esbjorn Svensson Trio」

E.S.T. 30th Anniversary Year / STOCKHOLM JAZZ FESTIVAL 2023
2023 after-hours products. / ah23-196(2CDR)

Cdn119781trw

Gettyimages550227995estrw Dan Berglund: bass
Magnus Öström: drums
Joel Lyssarides: piano
Ulf Wakenius: guitar
Magnus Lindgren: flute, tenor sax
Verneri Pohjola: trumpet

 結成から30周年となるE.S.T.は、哀しいかなリーダーのエスビョルン・スヴェンソンEsbjörn Svensson(右)の2008年の事故死というアクシデントにみまわれたが、あれから既に15年の経過をみる。しかしその後も残されたメンバーのダン・ベルグルンド(下左)とマグナス・オストロム(下中央)はそれぞれ活動を続けてきた。そしてスヴェンソンの後継者と言われ今最も注目され、ここでも何回か取り上げてきたピアニストのヨエル・リュサリディス(下右)らを向かえ「E.S.T.デビュー30周年記念公演 30Years of E.S.T. - Tribute Esbjörn Svenson Trio」を行った。これは2023年10月13日に開催された母国最大のストックホルム・ジャズ・フェスティバル公演での事である。

20100330_tonbruket_3trw37f1069dde6f4ef1aa70d2trwHoe7dk1643710072trw

 当日、メンバーは、ヨエル・リュサリディスの外に、オスカー・ピーターソンの最後のカルテットのレギュラー・メンバーを務めた名ギタリストのウルフ・ワケーニウス(下左)、更に18歳でハービー・ハンコックとの共演を果たし注目された実力派フルート/サックス奏者のマグヌス・リングレン(下中央)、プログレッシヴ・ロックのペッカ・ポーヨラの子息で、ヨーロッパでは人気と評価の高いジャズ・トランペット奏者/作曲家のヴェルネリ・ポーヨラ(下右)という、現在のヨーロッパ・ジャズ第一線の強者を迎えて6人の充実したスタイルで行われた。

  さてこのアルバムはブートと言ってもゴージャスなセクステット演奏を、高音質ステレオ・サウンドボードにて1時間半以上にわたり完全収録したCD2枚組で、音質に関しては文句なしのオフィシャルなみ以上の高音質盤。又この公演のセットリストは下記のような、まさに"ベスト・オブ・E.S.T."と言ってもよい見事な内容で、代表曲のオンパレードで感動ものである。

UnnamedtrwMagnuslindgren2_teasertrwWeb_verneripohjolatrw

 (参考)「ストックホルム・ジャズ・フェスティバル(Stockholm Jazz Festival)」は、スウェーデンで最も古く、1980年にスウェーデンのストックホルムで設立された毎年恒例の音楽祭で、もともとは「ストックホルムジャズとブルースフェスティバル」と呼ばれていた。最大のフェスティバルのひとつです。ついこの10月13日から22日まで開催された今年のフェスティバルには、Lakecia Benjamin、Incognito、30 Years of e.s.t. – Tribute to Esbjörn Svensson Trio、Brandee Youngerなどの有名アーティストが出演した。このフェスティバルは、ストックホルム全土の50以上のステージで開催されたもの。

(Tracklist)

(Disc 1)
1. From Gagarin's Point Of View
2.Seven Days Of Falling
3.Tuesday Wonderland
4.Eighthundred Streets By Feet
5.Good Morning Susie Soho
(Disc 2)
1. When God Created The Coffebreak
2.Waltz For The Lonely Ones
3.Behind The Yashmak
4.Dodge The Dodo

 もともとE.S.T.は、美しく深淵なるメロディーが溢れ出る「北欧ならではの静」を描く曲と、対比される彼らが試みたエフェクターを駆使したプレイによるスリリングな「ダイナミックな動」の曲がものの見事に展開する独特の「E.S.T.ミュージック」で流れてきて、私はのめり込まずにはいられなかった。そして未だに彼らのリリースしたアルバムは座右から消えることはない。そんな中での、この30周年記念公演ではピアノ・トリオでの演奏が勿論中心にはなってはいるが、なんとギター、フルート、サックス、トランペットといったジャズに多用される楽器も加わり、上記メンバーによるセクステットのスタイルで、若干お色直ししつつ、迫力のダイナミックさは一層増しての「E.S.T.ミュージック」を聴くことが出来た。

Blobw

 Disc1のM1."From Gagarin's Point Of View "では、ヨエル・リュサリディスのピアノがなんといっても美しい。クラシック音楽からの影響の強いジャズを奏でると評されるところ、北欧の冷えて澄み切った大気の清涼感あるイメージにピッタリである。スヴェンソンの築いた世界をしっかり表現しているところはさすがである。
 M2."Seven Days Of Falling"は、ギタリストのウルフ・ワケーニウスの技量が美しく展開して、これまたダン・ベルグルンドのベースのやや異様なアルコ奏法の音と対比して面白い。
 M3."Tuesday Wonderland"では、ピアノの重低音の響きに乗りつつも、マグヌス・リングレンの意外に独自にリズムカルに展開してのフルートの味も見事。ピアノの展開と並行して、かっての60-70年代のプログレ・ロックのフルートを思い出した。
 M4."Eighthundred Streets By Feet"は、今度はヴェルネリ・ポーヨラのトランペットが静かな世界を描く。後半はマグナス・オストロムのドラムスのリズムに乗っての展開をみせ、そこにピアノ、ベースがサポートして素晴らしい。
 
 Disc2においては、M1."When God Created The Coffebreak "のようなコンテンポラリーな世界と、スリリングなところを再現してくれているし、M4."Dodge The Dodo"は、オストロムのドラムソロから始まって全楽器のユニゾン、そしてそれぞれの個性的ソロに近い演奏を挟み込んでの展開、なんと15分を超える演奏で圧巻。

 こうして強者によるこのセクステットは、ピアノ・トリオとは一味違った様相を呈してはいるが、現在のヨーロッパを代表する実力者達の見事な演奏が、ジャズ・ピアノ・トリオの歴史を一変させたE.S.T.のその結成30周年を記念して、むしろE.S.T.の素晴らしい楽曲群が、再びここに新たに息を吹き返すが如く感じられ、もうこの世にいないエスビョルン・スヴェンソンがふとそこに現れるような錯覚をもたらしてくれた。
 録音音質も良好で、各楽器が手に取るように聴きとれて、それでいて音楽的統一感もしっかり築かれていて快感である。

(評価)
□ 演奏・編曲 90/100
□ 録音    88/100

(試聴)

 目下今年のStockholm 2023 のE.S.Tの演奏画像はまだアップされていないので、かっての"Dodge The Dodo"の演奏映像を懐かしく観てください

 

| | コメント (0)

2023年12月 8日 (金)

ハンナ・スヴェンソン Hannah Svensson「 THE OTHER WAY AROUND」

クール・ロマンティック・ヴォーカルで真摯な世界を歌う

<Jazz>

HANNAH SVENSSON 「 THE OTHER WAY AROUND」
Ladybird / Import / 79556874 / 2023

20230929w

Hannah Svensson ハンナ・スヴェンソン (vocal)
Ewan Svensson エーヴァン・スヴェンソン (guitar)
Jan Lundgren ヤン・ルンドゥグレーン (piano)
Matz Nilsson マッツ・ニルソン (bass except 1, 2, 5, 7) (electric bass on 1, 2, 5, 7)
Zoltán Csörsz ゾルターン・チェルス (drums)

録音 2021年12月 ギューラ・スタジオ(Gula Studion)(スウェーデン)

  スウェーデンの女性ジャズ・シンガーソングライター、ハンナ・スヴェンソン(1986‒)は既に6枚のアルバムをリリースしていて、これは『Snowflakes in December(十二月の雪のひとひら)』につづくニュー・アルバム。

 彼女はスウェーデンでは、最も有名なジャズシンガーの一人としての地位を確立してきているようだ。生まれと育ちはスウェーデン西海岸のファルケンベルクで、彼女の音楽教育は、著名なジャズ・ギタリストである父親のユアン・スヴェンソンによるという。ピアノとギターのレッスンを受けた後、17歳のハンナはエヴァ・キャシディの歌声を聴いて、初めて歌に興味を持ち始めた。21歳の時から、ハンナは自身のグループ、"ハンナ&アコースティック3"を率い、父親もギターを弾いていた。それ以来、彼女は独自の道を切り開いて来たと。そして故郷の文化賞やスウェーデンのエグゼクティブジャズ協会の周年記念賞など、スウェーデンでいくつかの賞を受賞している。
 彼女はその他、画家としても活躍している。具象と抽象のブレンドされた作品で知られているようだ。そのように特徴的なジャズ・ミュージシャンの道を歩んでいる。

 さてこのアルバムだが、収録曲は"The Other Way Around"はじめ彼女の8曲のオリシナル曲に、ボブ・ディランの1曲により構成されている。したがつて内容は彼女の人生観が歌い込まれているようだ。

Hannah2w (Tracklist)

1. Today Is Gonna Be A Better Day (Hannah Svensson)
2. Crossroad (Hannah Svensson)
3. It's All Over Now, Baby Blue (Bob Dylan)
4. The Other Way Around (Hannah Svensson)
5. The Two Of Us (Hannah Svensson)
6. Time To Go Home (Hannah Svensson)
7. We'll Get Through (Hannah Svensson)
8. Carry On (Hannah Svensson)
9. Little Friend (Hannah Svensson)

 

 このアルバムは、過去盤でも共演していたピアノにヤン・ルンドゥグレーンや父親のエーヴァン・スヴェンソンのギターと再び組んだカルテット編成の伴奏での一編。
 彼女のヴォーカルは、自然体で優しく極めて端正で "北欧固有の冷涼な清風を吹きかけるが如きクール・ロマンティック・ヴォーカル"と評されている。透明感とやや高めのトーンのクリーン・ヴォイスによって、歌詞とメロディーをあくまで大切にし心情豊かに丁寧に語りかけてくるような歌である。
 とにかく奥ゆかしさが感じられる自然体の姿で、謙虚に、真摯に切々と語るがごとくに歌うところには気品が感じられ、思わずぐっと引き込まれる。内容は自己の体験からのポジティブな意志の表現のようだ・・・そんなところからも真摯な世界に描いているのかもしれない。

Image_20231205173501

M1. "Today Is Gonna Be A Better Day" 自己のオリジナル、かなり私的な心情の姿を描いて歌っているようだが、情に流されるのでなく冷静な印象。その為、いわゆるジャズ・ヴォーカルと言った世界よりはクラシックよりの雰囲気も。
M3. "It's All Over Now Baby Blue" Bob Dylanの曲、ギターをバックに情緒豊かにしかも美しく歌い上げる。私の一押しの曲。
M4. "The Other Way Around"M5. "The Two Of Us" ちょっと物語風の世界。
M6. "Time To Go Home" 新しい出発と未来への意志が美しく歌われる。
M8. "Carry On" 、M9. "Little Friend" 希望の感じられる明るさが見える展開がいい。  

 自らの経験から真摯に未来に向かっての意志を歌い上げた彼女の作詞・作曲・編曲の曲群が、聴く我々に好感を持って迎えられる因子が多い。エーヴァン・スヴェンソンのギター、 ヤン・ルンドゥグレーンのピアノも洗練されていて聴きやすい。なかなかジャズ・アルバムとしてはテーマも特異でもあるが、これも一つの世界として聴くに十分答えてくれるアルバムであった。

(評価)
□ 曲・編曲・歌  88/100
□ 録音      88/100
(試聴)

 

| | コメント (3)

2023年12月 3日 (日)

ロッセ・マイヤー・ガイガー Rosset Meyer Geiger 「Live at Marsoel Chur」

耽美的な世界を漂わせ圧巻の迫力のインプロが迫る・・・

<Jazz>

Rosset Meyer Geiger 「Live at Marsoel Chur」
UNIT RECORDS / Import / UTR5055 /2023

92662

Josquin Rosset(p)
Gabriel Meyer(b)
Jan Geiger(ds)

   スイスのザンクト・ガレン出身のミュージシャン、ヨスキン・ロッセ(ピアノ)、ガブリエル・マイヤー(ベース)、ヤン・ガイガー(ドラムス)は、20年にわたり、三人明記の現役バンド「ロッセ・マイヤー・ガイガー」として活動し、いよいよ脂が乗ってきている。2010年にはファースト・アルバム『What Happened』(UTR4266)で日本でも知られるところとなり圧倒的支持を得た。前作『Live at Beethoven-Haus』(UTR4866/2021)は、ジャズ・トリオとしての長年にわたるコラボレーションのまさに最高のベスト盤となった。

70374011wRossetmeyergeiger_2021w

  さて今回のアルバムは、2021年6月、スイスの老舗団体が聴衆の前でライブアルバムを録音できるようにするJazzChur Associationのプラットフォームである「le disque blanc」の初版への招待を受け、2021年6月3日から6日にかけて彼らはクールのマルソエル・ホールで3夜を録音することができ、拍手を聞くとまさに少人数の聴衆の前でのコンサートであり、収録は好条件下であった事がうかがえる。そして5つの即興演奏を収録したアルバムとしてリリースさたものだ。それは、彼らの目指すフリー・ジャズそのものの世界で、三者の目指すところの即興演奏の極みを聴くことができる。

(Tracklist)

1.Marsoel Impro 1
2.Marsoel Impro 2
3.Marsoel Impro 3
4.Marsoel Impro 4
5.Marsoel Impro 5

 いっやーとにかく圧倒されますね。立ち上がりからピアノのフリー展開、それに歩調を合わせてのドラムスのステイツク音、ベースも加わって次第に盛り上がり、M1."Marsoel Impro 1", M2."Marsoel Impro 2"の両曲、インプロヴィゼーションの嵐で調和性を逸脱した極めて難解でありながら、どこかひきつけられてしまうところが恐ろしい。M2.は前半の硬質な音のピアノの流れるような演奏が印象的で、ベースのアルコ奏法も魅力的。そして中盤ではベースとドラムスとの競演が面白い。特に録音の質の良さが三者の演奏がそれぞれ手に取るように聴き取れて、インプロの楽しさが十分味わえる。
 M3."Marsoel Impro 3" 静の中に余韻を残して響くベース、ドラムスの演奏、それにピアノの澄んだ音の美しさは例えようもなく、美旋律の静謐な世界。トリオで構築する世界を満喫できる。
 M4."Marsoel Impro 4" 突如現れる三者の荒々しい最速の即興の展開、ピアノの打音とドラムスが展開するリズムの激しさは冒険的。中盤から静の世界に沈み込み終盤にかけてピアノの音が美しく、そして最後は荒々しさに再び転調し締める。
 M5."Marsoel Impro 5" ぐっと静かな世界から次第にピアノが語り始める。ベースとドラムスは静の中にどこかスリリングな音を響かせる。荒々しさが信じられないところから、3者が突時響かせる音には見事なインプロのスリル満点の展開を見せる。最後は再び静の中に沈んで終わる。

Maxresdefaultw_20231128092801

 20年のキャリアのあるトリオの見事な自由の中に構築される直感的な相互作用の刺激による連携プレイには恐ろしさが感ぜられるほどだ。これだけ一気に進行する高速インプロ演奏が自由でありながらその集中力は見事で圧巻そのもの。そして見せる耽美的美しさが襲ってくる曲を交えてのアルバム一枚が見事に構成されていて、5曲が一つの曲として聴きとれるところも素晴らしい。
 いっやー、やはりこのトリオは一筋ならない強力世界だ。

(評価)
□ 曲・即興・演奏  90/100
□ 録音       90/100

(試聴)

 

 

| | コメント (0)

« 2023年11月 | トップページ | 2024年1月 »