マッズ・ヴィンディング Mads Vinding Trio 「Quiet Yesterday」
自然体の中で創造された見事なトリオ作品
<Jazz>
Mads Vinding Trio 「Quiet Yesterday」
Sterville Records / Import / CD / 1014356 / 2024
Mads Vinding (b)
Dado Moroni (p)
Niclas Campagnol (ds)
デンマーク・ジャズ界のベテラン・ベーシスト、マッズ・ヴィンディングとイタリアの人気ピアニスト、ダド・モローニ、そしてスウェーデンのドラマー、ニクラス・カンパニョルという豪華メンバーによるピアノ・トリオ・アルバム。2018年9月20日コペンハーゲンの名門クラブ:Jazzhus Montmartreで3人の巨匠が集結して公演を行なった折に録られていたライヴ音源の初ディスク化アルバムである。そしてこのアルバムには5つのスタンダード曲と、モロニによるオリジナル曲「Quiet Yesterday」が収録されている。
マッズ・ヴィンディングMads Vinding(右)は、ここで過去にも取り上げたが、1948年デンマーク生まれのベテランそのもののジャズ・シーンの重鎮コントラバス奏者。なんと16歳のときにコペンハーゲンのジャズクラブ、ジャズフス・モンマルトルのハウスベーシストとしてプロとしてのキャリアをスタートさせている。録音だけでも800以上になるというから凄い。最優秀ソリスト、ノルトリング、ベン・ウェブスター賞、パレ・ジャズ賞、ラウニー・グレンダール名誉賞などを受賞。10 枚以上のアルバムをリリースし、ケニー・ドリューやハンク・ジョーンズ、アート・ファーマーらと共演するなど、サイドマンとしても活躍している。
ピアニストのダド・モロニDado Moroni(1962年イタリア・ジェノヴァ生まれ、下左)は、4歳からピアノを始め独学で音楽を学んだ。10代半でイタリア各地でプロとして演奏し、17歳でファーストアルバムをリリース。1980年代、主にヨーロッパでフェスティバルやクラブで演奏し、1991年に渡米しニューヨークのジャズ・シーンの一員となり、ニューヨークの名門クラブでリーダーやサイドマンとして定期的に出演し、数枚のCDを録音した。その後イタリアを拠点に、世界各地で活動を続けている。2010年、トリノのジュゼッペ・ヴェルディ音楽院のジャズピアノ科教授。今日では、ケニー・バロンとのデュオや、エディ・ゴメスやジョー・ラバーベラとのトリオなど、まさに現代のヨーロッパの巨人。
ドラマーのニクラス・カンパニョールNiclas Campagnol(1973年スウェーデン・ヴェクショー生まれ、下右)は、長く続いている音楽家系の出身という。音楽へのアプローチが非常に多才で音楽性に優れていて、トーマス・フォンネスベック、ディディエ・ロックウッド、アントニオ・ファラオらと共演してきている人気ミュージシャン。
こんなベテラン三者が、それぞれの経験をどのように生かしてトリオ作品を構築するか興味津々の今作である。
(Tracklist)
1.All of You 11:01
2.Quiet Yesterday 08:29
3.Softly, As In A Morning Sunrise 09:01
4.Blue In Green 07:51
5.Alice in Wonderland 08:56
6.Nature Boy 05:28
上記のように、一曲のオリジナル曲以外、ビル・エヴァンスの名作「Blue In Green」や「Alice in Wonderland」などといったお馴染みのスタンダードナンバーが展開する。このアルバムも録音はピアノは勿論だが、ベース、ドラムスの音もクリアにリアルにしっかり聴きとれてなかなか楽しい。しかしこうしたベテラン達は日ごろ一緒に演じているわけではないのに、彼らの素晴らしい相互作用は、スタンダード・ジャズの解釈に長けているためか、こうして聴くかぎりにおいては、楽々と展開の妙が築かれ、互いに見事なハーモニーやインタープレイを展開し深いつながりの中で共鳴の味わいを聴かせてくれる。
M1."All of You" スローにスタートするが、次第にベースの響きとドラムスのソロとが軽快にスイングし、ピアノも力みなく達者なパッサージ・ワークに長けた演奏が心地良い。
M2."Quiet Yeaterday"オーソドックスなベースの歌うが如くの旋律演奏が響く。
M3."Softly, As In A Morning Sunrise" 軽快な速攻演奏、ドラム・ソロのカラフルにしてスリリングな華々しさと、それに乗ってのピアノのアドリブの冴えた奮戦が聴きどころ。
M4."Blue In Green" しっとりとした演奏。録音効果によるところか?エヴァンスものよりピアノがクリアに高だかに響く。
M5."Alice in Wonderland" 三者の力みのない快適展開の手慣れた感ありの軽快演奏。
M6."Nature Boy" 最後にきて、ここでは見事なインプロヴィゼーションも展開する。ベースの弦のスラップ奏法の妙が目に見えるように旋律を奏でて、それに乗る硬質でありながら優美さもあるピアノの美しいメロディ。 これを聴くと、もう2-3曲聴きたくなる。
この3者集合のきっかけは解らないが、こうして組んでの演奏は、歴史的に続いて来たわけではないのだが、不思議にその演奏の結びつきが違和感なく、いつもどおりの情緒豊かなヴィンディングの歌うようなベースの旋律をうまく生かして、それぞれがちゃんと持ち味を出しての協調された演奏は、力みもなくお見事である。この味のあるトリオ共鳴の美は、考えてみると3者それぞれ異なる世代に活動開始しているにもかかわらず不思議と言えば不思議である。これはそれぞれの幾多のサイドマンとしての業績の結果なのかもしれない。
スタンダード曲を主としている為もあって、親しみやすいメロディーの美くしさ、情緒が響き、それが思いのほか歯切れのいいダイナミックなスウィングで迫ってくる。いずれにしてもオーソドックスな快演と言ったところだった。
(評価)
□ 編曲・演奏 88/100
□ 録音 88/100
(試聴)
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コメント
北欧ジャズっていう分野もあるんですね!デンマーク・ジャズ界に通じている日本人はなかなか貴重なのでは・・!昨日、デンマークに住んでいる娘からクリスマスイブのパーティ写真が送られてきましたが本格的な聖夜の雰囲気がありました、ジャズも北欧独特の深さみたいなものが漂っているのでしょうね。
投稿: ローリングウエスト | 2023年12月25日 (月) 21時52分
ローリングウエスト様
こんばんは、コメント有難うございます
北欧は私好みの音楽の宝庫ですね・・・
あの凛とした寒さと自然の美しさとが四季を通じて描かれる世界が素晴らしさを生んでくれるのではないかと・・・勝手に想像しています。
私の「北欧ジャズ」をクリックしていただいて、覗いてみてください。又お勧めについてもお話させていただくと嬉しいです。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2023年12月25日 (月) 22時19分