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2024年1月27日 (土)

マルチン・サッセ Schoenecker / Sasse / Schieferdecker 「Trio Tales」

ベテランのギター・ピアノ・ベースによるドラムレス・トリオで描く物語・・・

<Jazz>

Schoenecker / Sasse / Schieferdecker 「 Trio Tales」
JazzJazz / Import / JJ1037  / 2024

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Joachim Schoenecker (guitar)
Martin Sasse (piano except 7)
Markus Schieferdecker (bass except 7)

Recorded and mixed by Klaus Genuit at Hansahaus Studios Bonn on October 8th & 9th, 2021

  ドイツが誇る3アーティストが集結した。それはギターのヨアヒム・シェーネッカー(1966年旧西ドイツのザールブリュッケン生まれ 下左)を中心に、人気ピアノのマルチン・サッセ(1968年旧西ドイツのハム/ヴェストファーレン生まれ 下中央)、ベースのマルクス・シーファーデッカー(1972年旧西ドイツのニュルンベルク生まれ 下右)であり、いずれもキャリア豊富なドイツの精鋭陣が顔を揃えた連名ドラムレス・トリオのアルバムだ。

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 この作品はタイトルにもある通り"Tales 物語"をテーマにしており、敢えてリーダーを決めず、 メンバー3人による音楽的な会話を交わす、つまりインタープレイの楽しさを目指して作成されたようだ。この"Tale"には"むだ話"のような意味もあるので、とにかく3人がリラックスして楽しんでいるとみていいだろう。

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1.Blues For PB
2.Body & Soul
3.Groovy Waltz
4.Longing
5.Green And Blue
6.One For Jeanni-e
7.Autumn In NY
8.Pannonica
9.Song 42

 オープニングのM1."Blues For PB"のブルースから、なんとなく仲間意識で盛り上がって、一緒に演奏する純粋な喜びが感じられるようなゆとりのある演奏に聴こえる。それはメロディックでリズミカルでもあり快感。
 また意外な繊細さが彼らのオリジナル曲M4からM6には感じられ、自然にメロディー演奏が3者に転換されて行って対等感がにじみ出ている。お互いに敬意を払ってクールに流すところもみられ、それはまさにベテランの味である。

 近作マルチン・サッセのピアノトリオ新作アルバム『Longing』(JJ51035/2024 紹介下記)にも収録されているM4とM5が出色の出来を感ずる。特にM5."Green And Blue"では、ギターの味がピアノの音に先行して美しい旋律を流し、それを作曲者のサッセがほほ笑むようにピアノでホローする形で美しい音を聴かせ、その流れの微妙な繋がりが素晴らしい。それに更にベース・ソロに近い流れが加わって、この色付けが静かにしてちょっと物憂いところがジャズのムードを盛り上げていて楽しい。マイルス・ディヴィスの"Blue in Green"を大いに意識してのものであろうことは想像に難くないが、私はこのアルバムでは一押しだ。

 M7."Autumn In NY"はギター・ソロで、2分20秒と短いが、なかなか編曲とアドリブとインプロが生きて変化していて、ジャジーな充実感の中にちょっと寂しい秋が実感できる。そしてM8."pannonica"へ流れ3者の間を巡る演奏によってインプロによる静かな花が咲く。

 究極、彼らの演ずるストーリーは、メロディックでリズミカルな繊細さに満ちており、一方クールさでも自信の結果で安定感ばっちり。彼らの描くところ、エレガントに仕上げる年期の味が満ちていてこれも好感である。テーマやスタイル、和音やリズムを変化させる技術は経験の深さであろうと聴いた。なかなか味のあるアルバムであった。

(評価)
□ 曲・編曲・演奏  90/100
□ 録音       88/100
(試聴)  "Green And Blue"

            - - - - - - - - - - - - - - - 

 

(参照)  マルチン・サッセのピアノ・トリオ・アルバム

  エレガントで軽快にメロディックなピアノ・トリオ作品

<Jazz>
MARTIN SASSE TRIO 「LONGING」
JazzJazz / Import / JJ51035 / 2024

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Martin Sasse (piano)
Martin Gjakonovski (bass)
Joost van Schaik (drums)

Recorded and mixed by Reinhard Kobialka at Topaz Studio Köln.

 上記アルバムのピアニストのマルチン・サッセの、これはついこの間リリースされた自己名義トリオによるアルバムである。彼のオリジナル曲のM03."Longing"とM06."Green And Blue"が、こちらのアルバムにも登場する。同じトリオ・スタイルでも楽器編成が異なるので、その違いが楽しいところだ。

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01. How Little We Know
02. Groovy Waltz
03. Longing
04. Never To Return
05. The Soul Of Jazz
06. Green And Blue
07. Swing, Swing, Swing
08. Bennetts Blues
09. Lover Man
10. With You

 サッセのピアノはエレガントであり聴くに気持ちが良い。サウンドはメロディーに乗っての軽妙さが印象的だ。収録は8曲の彼のオリジナルに、スタンダード曲M01."How Little We Know"M09." Lover Man"が収録されているが、M03."Longing"、M06."Green And Blue"が、上記アルバム『Trio Tales』と共通であるところから聴き比べが注目点。こちらでは曲の展開はほゞ同じスタイルでありベースの演ずる役割も似ているが、純粋なアコースティック・ピアノ・トリオの良さとしてのメロディーの美しさがピアノによって描かれている為、上記のギター・ジャズ・ムードが加味されての世界とは印象が結構大きく異なる。どちらが良いかは好みというところ。
 なかなか情景豊かな演奏で、ピアノ派にとっては好まれる因子のあるアルバムである。

(評価)
□ 曲・演奏  88/100
□ 録音    87/100
(試聴)     "Breen And Blue"

 

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2024年1月22日 (月)

アンニ・キヴィニエミ Anni Kiviniemi Trio 「Eir」

リアルなサウンドで独創的な世界を描くフリー・ジャズ

<Jazz>

Anni Kiviniemi Trio 「 Eir」
WeJazz/ Import / WJCD58 / 2024

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Anni Kiviniemi, piano
Eero Tikkanen, double bass
Hans Hulbaekmo, drums

Composed by Anni Kiviniemi
Recorded & mixed by Aksel Jensen at Newtone AS, Oslo
Mastered by Juho Luukkainen
Executive producer & design by Matti Nives

  米国ロサンジェルスを拠点とするフィンランド人女流ピアニスト、アンニ・キヴィニエミAnni Kiviniemi(下左)は、ベーシストのイーロ・ティカネンEero Tikkanen(1987-下中央)とドラマーのハンス・フルベクモHans Hulbaekmo(1989-下右)をフィーチャーしてのトリオ・デビュー作品。彼女は米国へ移住する前はノルウェーに住んで学んでいたようだ。
  このニュー アルバム「Eir」は、キヴィニエミのオリジナル8曲で構成され、このタイトルは、リリース前に生まれたキヴィニエミの娘にちなんで名付けられたということだ。

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 そしてこのトリオの演ずるところ、"現代クラシック音楽、ノルウェーの民俗音楽、北アフリカと中東の音楽の伝統、フリージャズに関するキヴィニエミの研究の影響を受けています"と表現されていて、"内省的でムーディーでありながらスウィングするピアノ・トリオ"と紹介されている。

 キヴィニエミの言葉(作曲プロセスについて次のように語ってる)
「音楽においても、おそらく人生においても、私は常に未知のものに引き寄せられます。すぐには認識できない珍しいメロディーや奇妙なコードを聴いたら、ピアノに飛び乗って、それが何であるかを理解する姿勢で来た。・・・・私は作曲家として常に自分自身に厳しい制限を設けていますが、仲間のミュージシャンには完全な自由を与えています。 私の音楽を自分なりの方法で解釈してください。彼らが何かを変えたいなら、自由に変えてください。私はバンドリーダーとして驚くのが大好きです。それは私に多くのことを教えてくれて、いつも楽しいです。アルバムは95%は即興ですが、ライブでプレイすると99%に近づいていきます。」

(Tracklist)

1.Tiu Dropar
2.Gwendolyn
3.Judy
4.Arguably
5.Atoms
6.Mére
7.Mengi
8.Choral
   
  スタートのM1."Tiu Dropar"を聴いた瞬間、曲よりもまずトリオのドラムスとベースの音がリアルで驚く。ステック音、シンバル音が響き、ピアノとシンクロするベースの低音も曲を見事に支える。まさに現代的録音だ。そしてそれに引けをとらずのピアノが美旋律という世界でなく即興の為か不思議な展開のメロディーがクリアな音でリアルに迫ってくる。これぞ、寺島靖国の「For Jazz Audio Fans Only」に取り上げられそうな世界である。

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 そして、私は何といっても注目したのはM4."Arguably"だ。このアルバムでは最も長く7分を超えた演奏だが、かなり即興の因子が強い。ぐっと静粛性の中に響くピアノの響き。なんとなく内省的な世界に導かれる。余韻が妙に印象的でドラマーの演ずる太鼓と金属音が深遠だ。ベースもアルコで異様な世界を演ずる。
 そして一転してM.5"Atoms"は、驚きの攻撃的演奏。ドラムス、ベースの演ずるところにピアノも同調。
 続くM6."Mére"はぐっと落ち着いて再び内省的である。
 M7."Mengi"ベースが訴えてくるリズムカルな面白い曲。
   最後M8."Choral"は、ソロに近いピアノ演奏で結論的なまとめを聴かせる。

 女流ピアニスト・コンポーザーと言うことで、ムーディーなのかとちょっと気楽に接したら、なかなかスリリングな演奏が中盤に現れて驚いた。フリー・ジャズを研究しているというだけのものがある。そして一方現代クラシックの世界が響いてきてなかなか聴き応えある。一曲づつというのでなく、アルバムを一つとして聴くと楽しい。
  トリオのコンサート・パフォーマンスは、「叙情的で爆発的」であると同時に、「堂々と独創的で、美しく時代を超越している」、そして「現代のピアノ・トリオ・ジャズの表面的な決まり文句に完全にさらされている」と評されているらしい。確かに美しさと驚きの瞬間が混在していてリアルな音を響かせるところは現代的。

(評価)

□ 曲・演奏  88/100
□ 録音    90/100

(試聴)

 

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2024年1月17日 (水)

アルネ・トールヴィーク Arne Torvik Trio 「Songs for Roman」

ウクライナ戦争勃発の衝撃から生まれた人間主張(?)のアルバム

<Jazz>

Arne Torvik Trio 「Songs for Roman」
Losen Records / Import / LOS2862 / 2024

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Arne Torvik アルネ・トールヴィーク (piano)
Bjørnar Kaldefoss Tveite ビョルナル・カルデフォス・トヴァイテ (double bass)
Øystein Aarnes Vik オイスタイン・オールネス・ヴィーク (drums)

Recorded june 2022 by Peer Espen Ursfjord at Newtone Studio, Oslo, Norway

  ノルウェー西岸のジャズ・フェスティバルでも有名なモルデを拠点とするピアニストのアルネ・トールヴィーク Arne Torvik(1981‒)、ヴォス出身のベーシスト、ビョルナル・カルデフォス・トヴァイテ Bjørnar Kaldefoss Tveite (1987‒)、そしてオスロ生まれのドラマー、オイスタイン・オールネス・ヴィーク Øystein Aarnes Vik(1990‒)の3人による(ピアノ・トリオ)新作2ndアルバムである(デビュー作は『Northwestern Songs』(2020/LOS240))

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 「ノルウェー・モダンジャズ」を「今」の感覚で発展させる活動を続けていると言われるトールヴィーク、この新作の『Songs for Roman』は、ウクライナがロシアの侵略を受けたという衝撃的な出来事によるショックを受けた2022年の春に作曲された曲を中心に作られたものであるという。タイトルの"Roman"というのは、彼がノルデで教えていた「ジャズ国際コース」でインプロヴィゼーションを学んでいたウクライナ出身のトランペッターの名前という事だ。

Aaspen_arnetorviktrw <アルネ・トールヴィークの言葉>
「私たちはニュースで見聞きしていることを当初あまり信じていませんでした。数年前、私はキエフを観光客として訪れ、この街を心から楽しみました。しかし突然、街は爆撃を受けて街路が破壊され、人々が命の危険に絶えず恐怖を感じながら暮らさなければならない場所となったのです。この間、私はモルデの「Landslinje for jazz」でローマンという若いトランペット奏者に即興演奏を教えていました。会話を通じて、彼にはウクライナに家族や親戚がいることが明らかになり、彼は混乱と悲しみを感じさました。
 このとこが、私に衝撃を与え、「For Roman」という曲を書くきっかけになりました。新作は、2022年3月にローマンと戦争について話したことからインスピレーションを受けて誕生しました。この作品をリリースすることが、何らかの形で意味のあるものになれば幸いです。(アルネ・トールヴィーク)」

(Tracklist)

1 Going Home
2 Cinematic
3 Longing For The Woods
4 Eastbound
5 Places To Write
6 Geert
7 For Roman

  クラシック・ピアノの雰囲気のある打鍵法の正確性は、聴く者に不快感を与えない。そんな中でのどちらかというとユッタリに寄った端正にして爽快なるピアノが主体性を持ってリードしてゆく。トータルの印象はエレガントで、昔のアメリカン・ジャズ世界は全く感じない。曲は全てオリジナルな為、このトリオの目指すところは何かと聴き込むが、そう抒情派の耽美主義というのでなく、むしろロマンテイックな世界に流れてゆく傾向を感じた。

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 バックに北欧の牧歌的なトラデッショナルな曲調も取り込んでいるように思えたが、そのあたりはあくまでも想像である。
 とにかく聴きやすい展開と、テーマからして真摯な印象を受ける。ベースはあまり主張しないで、ピアノを支える。ドラムスも基本に忠実な展開を見せる。
 私としては、特に印象に残った曲は、M4."Eastbound"は"東へ"と言う意味か、どこか静かな中に人間的な世界を感ずる詩的な真摯な曲。
 M3."Longing for The Woods"は自然へのオマージを感ずる世界で気持ちも洗われる。
 M7."For Roman"は主テーマの曲であろうが、優しく抒情的なピアノが美しく流れるが、終盤には意志の強さも感ずる展開に。

 ただ、ぐっーーと引き寄せられ心情を揺らすような哀愁メロディーに遭遇して痺れたというところはなかった。極めてヨーロッパ的詩的な世界である。テーマがテーマであるが、そう暗さが満ち満ちて沈んでゆくというパターンではない。むしろ人間的な美しさを礼賛して慰めの方向に流れて希望を抱く方向にあるような印象を受けた。

(評価)
□ 曲・演奏  87/100
□ 録音    88/100

(試聴)

 

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2024年1月12日 (金)

ジョージー・ブラウン Georgie Brown 「My Gramps Was A Jazzman」

初のお目見えアルバム、中身は多種・多芸なジャズ

<Jazz>

Georgie Brown 「My Gramps Was A Jazzman」
Bam Productions / Import / CD1299GEOMY / 2023

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Channels4_profile Georgina Brown (vo)
Oliver Oliver (p)
Jean-Hugues Billmann (b)
Eric Bourciquot (ds,per)

Geraldine Laurent (as)
Sebastian Munoz (ts)
Varery Bertrand (g)
Lionel Berthomes (congas)

  ジャズ・ヴォーカルは今や圧倒的に女性の世界ですね、これはフランス系英国人女性シンガーソングライター・ジョージー・ブラウンの初のジャズ・アルバムで、彼女自身はかなりの実績を積み上げてきたようで、両親からも音楽の影響を受け、13歳でスウィング・ジャズ・バンドのメンバーになり初めてジャズを歌い始めた。その後新しいジャンルを探求することに情熱を注ぎ、兄とEDMトラックに取り組み始め、2020年にはロンドン・グラマーのサウンドにインスパイアされた初のエレクトロニック・ポップ・ソング「Free」をリリースした。
 しかし現在、パリでジャズを学んでいる彼女は、初のジャズ作品アルバムをここにリリースにこぎつけ、単なる新人という感じではなく、これまでの彼女の人生から得たインスピレーションをもとに、書き上げられたオリジナル曲で独自の個性を発揮したアルバムとなっている。
 演奏陣はピアノ・トリオを中心に、曲によってサックス、ギター、コンガなどの数人のゲストアーティストが加わるスタイル。一貫したコンセプトのある作品というよりは、私はこんなジャズを歌いますといったてんこ盛り的アルバムだ。

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1.I Can Try
2.Entre deux
3.The River
4.My Gramps Was A Jazzman
5.Conmigo
6.Not In My Arms
7.Le temps est changeant
8.Rêve d'un inconnu
9.Valentine
10.Music To Me 

 彼女の歌声は、中低音部が深く充実したところにある。バック演奏はゲスト・ミュージシャンとしてはサックスの因子が大きいスタイルの印象が強い。曲は極めて多様、伝統ジャズの世界から、現代的しっとりムードのフィーリングを取り入れたり、ボサ・ノヴァの世界などと多様に楽しめる作品に仕上げている。又言語も英語、フランス語など曲により使い分けているところも多芸ぶりを発揮している。

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 M1."I Can Try"は、静かなピアノからスタートし、ゆったりと充実感たっぷりのややハスキーの低音で歌いはじめ、ジャズ・ミュージシャンの意気込みを力みなくサックスの間奏を挟んで歌い上げる。なかなかジャズ向きの感あり。
 M2."Entre deux" ぐっとリズムは軽快、言語もフランス語で軽く・・・、流れはオールド・ジャズ調。
 M3."The River" ピアノとサックスがしっとりと演じて、歌声もバラード調でぐっと迫ってくる、ここでは高音も優しくのびる。このあたりが本領発揮なのだろう。彼女は初お目見えと言っても場数は踏んでいると推測する。
 M4."My Gramps Was A Jazzman" オリジナルのアルバム・タイトル曲。全曲から一転して古き良き時代の速攻ジャズ。彼女は家系的にジャズとの付き合いのある事を訴えているのか、後半にスロー転調をみせるところは旨い。
   M5."Conmigo" ギター、コンガなどでボサノバ・スタイルでムードを一変。
 M6."Not In My Arms" 自分の世界をしっとりと訴える。切なさの心情を訴えているように。
 M7."Le temps est changeant" ここでもサンバ調。
   M8."Reve d'un inconnu" スローな展開も結構旨い。
   M9."Valentine" 憧れ的訴えを歌い上げているのか。
   M10."Music To Me" 最後は明るい軽快な曲で。

 まあ、彼女としては自己のキャリアの中で、これだけジャズを歌ってきましたという自己アッピールの作品で、Facebookを見てもアルバムが出来たことを喜んでいる姿が見れる。ヴォーカルとしては、ダイアナ・クラールなどが目標のようだが、さあ、どこまで迫れるかはこれからだろう。声の質は高音美声というよりは中低音で聴かせるところに魅力があるといったタイプ。
 陽気な軽快なジャズ歌唱もこなしているが、一方バラードものをしっとりとした歌いまわしで郷愁、思慕、切なさの心情を深く歌うというところも聴かせて、なかなか芸は広く期待株。

(評価)
□ 曲・歌  87/100
□ 録音   87/100

(試聴)

*

 

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2024年1月 7日 (日)

ガーボル・ヴァルガ Gabor Varga Trio 「Cool Jazz ReLoad」

繊細にクールにそして知的な世界が展開される
ピアノは話題のBoganyi B-292

(注意) 「消えたアルバム」です !!
 今回紹介するこのアルバムは、私はサブスク・ストリーミングで聴いていましたが、なんと1月5日には、突然消えました。YouTubeにあった参考演奏映像も突然消えております。リリース会社の問題か、発売が中止になったか、遅れて内容変更しての発売となるのかもしれません。ご参考までに、こうゆうことがあるんですね。素晴らしいアルバムですから、無事日本でのCD販売もされることを期待しています。(NativeDSDよりのダウンロード入手可能)

<朗報>
  お待たせしました、当アルバムは復活いたしました。タイトルがトリオ・グループ名の変更と3人の名前を挙げてのものに変更されています。下記のものは正しくはこのようになります(↓)
Gabor Varga Jazz Trio Feat.Tibor Csuhaj-Barna,Győrgy Leszensky & Gabor Varga 『Cool Jazz Reload』
トリオ・グループ名が問題があったようですが、解決してリリースされています。(2024.2.20)

<Jazz>

Gabor Varga Trio 「Cool Jazz ReLoad」
Hunnia Records / Import / HRCD2123 / 2023

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Gabor Varga ガーボル・ヴァルガ(piano)
Tibor Csuhaj-Barna ティボル・チュハイ=バルナ(double bass)
György Jeszenszky ジェルジ・イェセンスキー(drums)

録音:2021年7月8日、スーパーサイズ・レコーディング・スタジオ(ハンガリー)/レコーディング・オーディオ・フォーマット:Native DSD256

1007708909fw  ハンガリーのピアニスト、ガーボル・ヴァルガ率いるピアノ・トリオのニュー・アルバム。2013年にこのトリオがリリースした話題のアルバム『Cool Jazz』(→)は、2020年のオランダのHiResサイトのNativeDSDにおいて高音質アルバムPureDSDとして提供され、DSD重大イベントの1つとなった。これは2020年のアルバム・オブ・ザ・イヤーを受賞し、そして今もなおNativeDSDトップセラーリストに登場する人気作品。私はサブスク・ストリーミングで聴いているのだが、そしてここにその続編的なアルバムとしてこの『Cool Jazz Reload』が登場したんです。ステレオDSD 256で録音され、ここでは180gのLPとして提供され、PureDSDのダウンロードとしても利用可能であった。そして続いてCDとしてもまたリリース販売へ。

 更に話題は、曲はBoganyi B-292グランドピアノ(↓)で演奏された。ボガニーのフラッグシップモデルであり、フルサイズのグランドコンサートピアノ。なにせ驚きの近未来的外観で、滑らかでパワフルなサウンドは新次元とも表現される。ハンガリーのピアニストGergely Boganyi氏が、10年もの歳月をかけて作り上げた。温度や湿度の影響を受けにくいカーボンコンポジットという素材を使っていて、これまでの木材を使ったグランドピアノよりも力強い音を鳴らすことが可能になったとのことだ。

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1. Hunting
2. First Time When I Saw You
3. Together
4. Hungarian Dreams
5. Five In Four
6. Alone

 最高級ピアノそしてステレオDSD256録音と、音質に相当なエネルギーを費やしたアルバム造りされていて、聴く方を楽しませる。
 演奏はクール・ジャズをうたっているだけあって、ぐっと控えめな世界で美しいサウンドでトリオとしてのアンサンブルの味の深さを聴かせてくれる。そんな中でのピアノとベースのユニゾンの美しさも聴けるし、又ベース、ドラムスの位置も単なるバツク演奏という感じでなく、きちんと訴えてくるところがいい。

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 ヴァルガは、このように言っている「このアルバムのために曲を書いた人はいないのに、曲が生まれた。このアルバムのリハーサルは誰もしていなかったのに、最初の試みで録音された。誰もこのアルバムを欲しがらなかったが、誰もがこのアルバムを愛していた。このアルバムは直感的で、正直で、自分自身を反映している。それはどこから来たり、どこに属したりしたいわけでもなく、ただ演奏され、聴かれることを望んでいます。人間は伝えたいメッセージであり、それが唯一の目的でもあります。それは何も説明しようとはしないが、それでも誰もがそれを理解するだろう。それが私たちです。— ありがとうございます。」と。

 こうして即興で綴られた曲を見事に聴く者にどこか安堵感と安らぎと充実感を感じさせる。強力なインパクトを求めないだけ、なんとなくバックグウンド・ミュージック的に聴いても快感である。クール感はあっても深刻な暗さは無い。
 このトリオは、15年、それなりに続いてきてそして互いに目指すところが解り合った姿を曲で表現して、アルバムとして自分たちの記録を書き表現したという世界のようだ。黒人音楽として生まれたジャズが次第に白人の世界に浸透し情熱から、そこには知的な因子がよりこく宿ったクール・ジャズの魅力は、こうしてヨーロッパで受け入れられ育っているところが興味深い。

(評価)
□ 曲・演奏 90/100
□ 録音         90/100

(試聴)
    これが不思議にYouTubeからも突然消えました。前作アルバムの『Cool Jazz』からの演奏を参考までに・・・

(追記)-2024.2.20 アルバムは復帰しYouTubeでも再び登場しましたので、下に付けます。試聴してください・・

 

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2024年1月 2日 (火)

謹賀新年 2024 ビル・エヴァンス Bill Evans 「TALES」

明けましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします

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 新しい年2024を迎え、取り敢えず音楽は何から聴いてゆこうかと考えたが、幸い昨年も遅くにこのニューアルバムの登場があったので、やはりスタートはビル・エヴァンスだろうという事で・・ここに登場させることとした。

 

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ゼヴ・フェルドマン・プロデュースの発掘作品もここに11作目の登場

<Jazz>

Bill Evans 「TALES - Live in copenhagen (1964)」
ELEMENTAL MUSIC / JPN / KKJ224 / 2023

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(1-6)
Bill Evans (piano), Chuck Israels (bass), Larry Bunker (drums)
Danish Radio, Radiohuset, Copenhagen, August 10, 1964
(7-10)
Bill Evans (piano), Chuck Israels (bass), Larry Bunker (drums)
TV-City, Copenhagen, August 25, 1964
(11)
Bill Evans (piano), Eddie Gomez (bass), Marty Morell (drums)
Stakladen, Aarhus, Denmark, November 21, 1969

  Img_e58b9d9d4d1d754aba814e147e37934e6901ビル・エヴァンス物語は未だに終わるところが無い。なんとゼヴ・フェルドマンが手がけたビル・エヴァンス・エステートとしての正式な発掘発売作品が昨年末に又もや出現しました。
 昨年春は、ここで紹介した3枚組LPと2枚組CDで『Treasures: Solo, Trio and Orchestra Recordings from Denmark (1965-1969)』(KKJ-10013)を発売、それに収録できなかった全く別の貴重な録音がエレメンタル・レコードのジョルディ・ソレイ、カルロス・オーガスティン、そして名盤発掘請負人のゼヴ・フェルドマンの共同プロデュースによってここにお目見えした。ゼヴ・フェルドマンが手がけたビル・エヴァンス・エステートの正式な発掘発売作品はこの作品で『Live at Top The Gate』以来11作目。(過去の2019年の『SOME OTHER TIME』(KKJ1016)にも飛びついたものです(笑))

 もう昔話の1964年に、ビル・エヴァンスは初めてのヨーロッパ演奏ツアーを行ったが、訪問したデンマークの2か所で収録された貴重な音源。古き名盤『TRIO'65』(1965, Verve)のチャック・イスラエル(b)、ラリー・バンカー(ds)というメンバーで、いくつかの名盤を残しているトリオだ。
 
 内容は、主たるは国営デンマーク放送の本部、コペンハーゲンの“ラジオハウス”で1964年8月10日に録音収録された6曲で、聴衆なしのスタジオ・セッションもの。それに加え、2週間後の8月25日にコペンハーゲン郊外グラッドサクセにあるデンマーク国営TV “テレビ・ビューウン(TV-Byen)”で、これは聴衆を前にしたライブ・レコーディングとして収録されたものが追加されている。更にボーナス・トラックとしてエディ・ゴメス(b)、マーティ・モレル(ds)のトリオが1969年11月オーフス大学の学生会館のライブ会場で演奏した「Round' Midnight」(『Treasures』未収録)を追加収録されている。

(Tracklist)
1. Waltz For Debby (Bill Evans) 5:32
2. My Foolish Heart (Ned Washington-Victor Young) 5:15
3. How My Heart Sings (Earl Zindars) 4:51
4. Sweet And Lovely (Gus Arnheim-Jules LeMare-Harry Tobias) 5:33
5. I Didn't Know What Time It Was (Richard Rodgers-Lorenz Hart) 4:40
6. Five [Theme] (Bill Evans) 2:09
7. My Foolish Heart #2 (Ned Washington-Victor Young) 5:06
8. How My Heart Sings #2 (Earl Zindars) 4:32
9. Sweet And Lovely #2 (Gus Arnheim-Jules LeMare-Harry Tobias) 4:24
10. Five [Theme] #2 (Bill Evans) 2:23
11.’Round Midnigh (Thelonious Monk-Bernie Hanighen-Cootie Williams) 7:06-BONUS TRACK

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 さてこのトリオは結成し体裁が整ってきての1年余りという時の録音で、エヴァンスの目指す三位一体、有機的一体感がしっかり作り上げられているところが聴きどころと言えるだろう。そしてもう一つは何といっても古い記録であるので問題は録音の質だが、なんと現代の技術を注ぎ込んでの改良が試みられたと言われ、思いの外M1-M6のスタジオ・セッションものは良いレベルに到達している。もともとエヴァンスものは録音の質に問題の多いアルバムが多かったが、そんなことを意識しての改良であったと思われる。しかしM7以降は若干落ちるも耐えられないものではない。そんな点は取り敢えず満足できるところである。

Billevanspicture375x234  とにもかくにも" Waltz For Debby ""My Foolish Heart"の代表曲がたっぷり聴ける(それぞれ2録音の4曲)というのが驚きだ。アルバム『Walz for Debby』(2023リマスター,UCCO-46013)のVillage Vanguardのライブ(1961年)と比較して聴いてみると面白い。
 エヴァンスの描くトリオ全体が対等で自由な展開のインタープレイの世界を特にこのメンバーでの欧州演奏では更に発展させているように見えるのが、この"Walz for Debby"であり、彼のピアノのはずみは明るい。そしてそれに答えてのチャック・イスラエルのベースも、どこかゆとりのある明るさを感ずる。
 そして"My Foolish Heart"の情感は、美しいメロディーと響きの中での表現が、いわゆる暗さはなく未来展望に希望的に向かうところが感じられ、その点はここでは一層聴きとれる演奏だ。
 そして続く"Haw My Heart Sings"での明るさは、ベースのやや高音部の音、ドラムスのブラッシングの音と繋がり、3者の展開が躍動する。
 又、過去にも未来にもここだけだろうと言える曲"I Didn't Know What Time It Was"の登場も意義深い処。

 なかなかこのスタジオ・セッションも、欧州への演奏ツアーにおける結びつきも良好だったと推測できるところが伺える。
 ビル・エヴァンスものを、いろいろと評価するのも奥がましいので、取り敢えず期待以上の音質で、しかもトリオの充実感を感じて聴けることに、このアルバムの評価をしたいと思うところだ。

 なおこのアルバムには、丁寧にも、エヴァンスの研究者、ウォール・ストリート・ジャーナルのレギュラー寄稿家マーク・マイヤーズによる解説が載っている。また、メンバーのチャック・イスラエルやラリー・バンカーの未亡人ブランディン・バンカーの貴重なインタビューや証言も納められている。又音質に関しては、放送音源マスターテープからマスタリング・エンジニアのバーニー グランドマンがマスタリング(M1-M6はオリジナルのMONO録音音源を24bit ステレオでリマスタリング)したことも注目して良いところ。

(評価)
□ 選曲・演奏   88/100
□ 録音      88/100

(試聴) "My Foolish Heart"

"Copenhagen Rehearsal 1966"

 

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