アンニ・キヴィニエミ Anni Kiviniemi Trio 「Eir」
リアルなサウンドで独創的な世界を描くフリー・ジャズ
<Jazz>
Anni Kiviniemi Trio 「 Eir」
WeJazz/ Import / WJCD58 / 2024
Anni Kiviniemi, piano
Eero Tikkanen, double bass
Hans Hulbaekmo, drums
Composed by Anni Kiviniemi
Recorded & mixed by Aksel Jensen at Newtone AS, Oslo
Mastered by Juho Luukkainen
Executive producer & design by Matti Nives
米国ロサンジェルスを拠点とするフィンランド人女流ピアニスト、アンニ・キヴィニエミAnni Kiviniemi(下左)は、ベーシストのイーロ・ティカネンEero Tikkanen(1987-下中央)とドラマーのハンス・フルベクモHans Hulbaekmo(1989-下右)をフィーチャーしてのトリオ・デビュー作品。彼女は米国へ移住する前はノルウェーに住んで学んでいたようだ。
このニュー アルバム「Eir」は、キヴィニエミのオリジナル8曲で構成され、このタイトルは、リリース前に生まれたキヴィニエミの娘にちなんで名付けられたということだ。
そしてこのトリオの演ずるところ、"現代クラシック音楽、ノルウェーの民俗音楽、北アフリカと中東の音楽の伝統、フリージャズに関するキヴィニエミの研究の影響を受けています"と表現されていて、"内省的でムーディーでありながらスウィングするピアノ・トリオ"と紹介されている。
キヴィニエミの言葉(作曲プロセスについて次のように語ってる)
「音楽においても、おそらく人生においても、私は常に未知のものに引き寄せられます。すぐには認識できない珍しいメロディーや奇妙なコードを聴いたら、ピアノに飛び乗って、それが何であるかを理解する姿勢で来た。・・・・私は作曲家として常に自分自身に厳しい制限を設けていますが、仲間のミュージシャンには完全な自由を与えています。 私の音楽を自分なりの方法で解釈してください。彼らが何かを変えたいなら、自由に変えてください。私はバンドリーダーとして驚くのが大好きです。それは私に多くのことを教えてくれて、いつも楽しいです。アルバムは95%は即興ですが、ライブでプレイすると99%に近づいていきます。」
(Tracklist)
1.Tiu Dropar
2.Gwendolyn
3.Judy
4.Arguably
5.Atoms
6.Mére
7.Mengi
8.Choral
スタートのM1."Tiu Dropar"を聴いた瞬間、曲よりもまずトリオのドラムスとベースの音がリアルで驚く。ステック音、シンバル音が響き、ピアノとシンクロするベースの低音も曲を見事に支える。まさに現代的録音だ。そしてそれに引けをとらずのピアノが美旋律という世界でなく即興の為か不思議な展開のメロディーがクリアな音でリアルに迫ってくる。これぞ、寺島靖国の「For Jazz Audio Fans Only」に取り上げられそうな世界である。
そして、私は何といっても注目したのはM4."Arguably"だ。このアルバムでは最も長く7分を超えた演奏だが、かなり即興の因子が強い。ぐっと静粛性の中に響くピアノの響き。なんとなく内省的な世界に導かれる。余韻が妙に印象的でドラマーの演ずる太鼓と金属音が深遠だ。ベースもアルコで異様な世界を演ずる。
そして一転してM.5"Atoms"は、驚きの攻撃的演奏。ドラムス、ベースの演ずるところにピアノも同調。
続くM6."Mére"はぐっと落ち着いて再び内省的である。
M7."Mengi"ベースが訴えてくるリズムカルな面白い曲。
最後M8."Choral"は、ソロに近いピアノ演奏で結論的なまとめを聴かせる。
女流ピアニスト・コンポーザーと言うことで、ムーディーなのかとちょっと気楽に接したら、なかなかスリリングな演奏が中盤に現れて驚いた。フリー・ジャズを研究しているというだけのものがある。そして一方現代クラシックの世界が響いてきてなかなか聴き応えある。一曲づつというのでなく、アルバムを一つとして聴くと楽しい。
トリオのコンサート・パフォーマンスは、「叙情的で爆発的」であると同時に、「堂々と独創的で、美しく時代を超越している」、そして「現代のピアノ・トリオ・ジャズの表面的な決まり文句に完全にさらされている」と評されているらしい。確かに美しさと驚きの瞬間が混在していてリアルな音を響かせるところは現代的。
(評価)
□ 曲・演奏 88/100
□ 録音 90/100
(試聴)
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