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2024年3月28日 (木)

ペッテル・ベリアンデル Petter Bergander Trio 「Watershed」

葛藤・分裂とに想いを馳せ、音楽による喜びを描く

<Jazz>

Petter Bergander Trio 「 Watershed」
(CD)Prophone Records / Import / PCD324 2024

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Petter Bergander ペッテル・ベリアンデル (piano)
Eva Kruse エーファ・クルーゼ (double bass)
Robert Mehmet Sinan Ikiz ロベルト・メフメット・シナン・イキズ (drums)

 スウェーデンのキャリアある中堅ピアニストのペッテル・ベリアンデル(1973年生まれ、王立ストックホルム音楽大学で学ぶ 下中央)の、2014年結成の自己のトリオによる第3作アルバムの登場だ。前作と同じ鉄壁レギュラー・トリオであるハンブルク生まれのエーファ・クルーゼ Eva Kruse(1978‒ 下左)の女流ベース、イスタンブール生まれのロベルト・メフメット・シナン・イキズ Robert Mehmet Sina Ikiz(1979‒ 下右)のドラムだ。彼らはスウェーデンはじめヨーロッパにてのツアーを行ってきている。

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 ペッテル・ベリアンデルは音楽について次のように語っている。「私たちは人々にクレイジーでエキサイティングな体験と熱意を伝えたいと思っています。本作 『ウォーターシェッド』 は混乱した世界と時代から生まれたアルバムです。曲を書いたとき、人生における分裂の種を蒔きかねないような出来事について考えました。友人間、家族間、あるいは自分自身の中での葛藤。音楽は喜びと芸術を取り戻す手段のようになりました。」と。
 テーマは「分岐・分裂」というところか、しかしなかなか三者の連携プレイがみごとであって、その点は注目はされてきたトリオだが、この新作では、これまでよりインタープレイは更に洗練されてきて、モダンなビートと、そして即興が描くところ、葛藤を乗り越えた姿にこれまた磨きがかかってきた点が注目されるアルバムである。全曲ベリアンデルのオリジナル。

(Tracklist)

1. On The Train To Lviv
2. Watershed
3. Day Eleven
4. Get Out Of Here
5. Lilla Blåvinge
6. If I Would Have Known
7. Lucky
8. Days To Come

 「葛藤」、「分裂」などテーマは暗さをイメージさせるが、トータルに暗いアルバムではなく、極めて安定感の中にむしろ展望がイメージされる世界に聴きとれた。

 M1. "On The Train To Lviv"  ウクライナの戦争下, 列車が向かうはウクライナ小さな美しい都市Lviv、列車の進行する様と戦い中にある都市への思いが複雑に交錯して描かれる。
 M2. "Watershed" "あらゆる人間関係の対立によぎる分裂の不安とは"と問いかける。ネガティブな印象はない、真摯な気持ちの印象。
 M3. "Day Eleven"  "厳しい現実を知る事による暗い不安"が滲むピアノの低音の響きで始まる曲。中盤からのピアノ美しい音、ベースのソロに近い演奏部分に描いている世界が微妙に不安が襲う。ドラムスのブラッシ音もどこか不安な世界に導く。私の注目曲。
 M4. "Get Out Of Here" ベースの響きとクラシックを思わせるピアノ流れ(これはバツハだ)とに、ドラムスの軽快なブラッシ。最後の三者のユニゾンの響きが印象的。
 M5. "Lilla Blåvinge" 絶滅した蝶の名前のようだが、地球に対する人間の行いに問題意識を訴えているのか、繰り返すピアノの旋律が不安げ。
 M6. "If I Would Have Known" 来し方の状況分析にも光明がある姿を描いたか、どこか展望を感ずる。
 M7. "Lucky" いかにも三者対等な音楽は気持ちの浮き上がりの感ずる演奏。
 M8. "Days To Come" 冷静な心と期待感も含めての展望も感じられる曲。

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 私の印象深い曲はM3."Day Eleven"だ。人間の醜い分裂の姿を見てしまった自分に今できることは今何が求められているのだろうかと、懐疑的にしかし何かに向かおうする意志が感じられる曲として評価したい。
 このトリオは、あくまでも詩的情緒とノリの快感を重要視する今時風の抒情派の味を持ったコンテンポラリーな快演だ。従ってテーマの割には暗部にのめり込まないところが救いである。そして美しいメロディーも顔を出すが、あくまでも耽美的に溺れないところがテーマを生かす特徴なのかもしれない。クルーゼ(b)やイキズ(ds)の芸の細かい技によるバックアップも大いに印象を深めるが、しかしやはりそれより遥かに増してベリアンデル(p)のごく自然体の力みのない独創性満点のアドリブ演奏が、やや難題の曲想であるが手慣れた展開で演じ切る。なかなか卓越した技量のピアニストだ。

(評価)
□ 曲・演奏   88/100
□ 録音     87/100
(試聴)
"Day Eleven"

 

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2024年3月22日 (金)

イエス!トリオ YES! TRIO (Aaron Goldberg & Omer Avital & Ali Jackson) 「 Spring Sings」

三者のインタープレイで築くグルーブ感、これぞジャズ・トリオだ

<Jazz>

YES! TRIO ( Aaron Goldberg & Omer Avital & Ali Jackson ) 「 Spring Sings」
(CD) Jazz & People / Import / JPCD824001/ 2024

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Aaron Goldberg (piano except 03)
Omer Avital (bass)
Ali Jackson (drums except 03)

  ドラムスのアリ・ジャクソン(1976年米ミシガン州デトロイト生まれ)をリーダー格とする、ピアノのアーロン・ゴールドバーグ(1974年米マサチューセッツ州ボストン生まれ)とベースのオメル・アヴィタル(1971年イスラエルのギヴァタイム生まれ)のピアノ・トリオである。
  このYes! Trioの好評前作『Groove Du Jour』(2019)に続いての最新アルバム(第3作)が5年ぶりに登場である。
  彼ら3人は1990年代にニューヨークで出会い、それぞれが独自のジャズを極めつつ異なった経験から積み上げた違いを尊重しつつ、ここに三者で彼らならではのジャズを作り上げているところに妙味がある。

 このトリオの特徴を見る意味で、三者の略歴を下に紹介。

6303856118_dbdew  アリ・ジャクソンは、デトロイト出身のアフリカ系アメリカ人ジャズプレイヤーの家族に生まれたドラマー、10代の頃にウィントン・マルサリスに見出された。ニューヨーク市のニュースクール現代音楽大学の学生として、マックス・ローチとエルヴィン・ジョーンズに師事する機会に恵まれ、彼は全額奨学金で大学に通い、作曲の学士号を取得。1994年、伝説のジャズ・ドラマー、マックス・ローチを称えるビーコンズ・オブ・ジャズ・プログラムのゲスト・ソリストに選ばれた。セロニアス・モンク・インスティテュートとジャズ・アスペンは、才能のあるミュージシャンのための第1回ジャズ・アスペンに参加するために彼を選抜した。また、1998年にミシガン州の権威あるArtserv Emerging Artist Awardの最初の受賞者である。又トランペッターのウィントン・マルサリスのジャズ・アット・リンカーン・センター・オーケストラで10年以上もドラマーを務める。

Omeravitalalw   オメル・アヴィダルは、イスラエルに生まれ、独自の旋律とグルーヴを生み出して彼ならではのスタイルを切り拓いたベーシスト。幼い頃からクラシック・ギターを学び、イエメン系ユダヤ人独特の聖歌を耳にして育ったという。テルマ・イエリン芸術学校に入学するとジャズにも開眼。92年、アヴィシャイ・コーエンらとともに米・ニューヨークへ移住、ニュースクール大学に在籍しながら本場ジャズ・ムーヴメントの中でキャリアを積む。2001年に初のリーダー作『Think With Your Heart』を発表。NYジャズ・シーンで頭角を表わしつつある中で、一時イスラエルへ帰国するが、再びNYへ戻り、自身のスタイルを確立。2014年2月、スタジオ・アルバム『New Song』をリリース。

Aarongoldbergw   アーロン・ゴールドバークは、ボストン生まれの秀才、両親は著名な科学者。7歳からピアノ、14歳でジャズを始める。ハーバード大学で歴史と科学の学位を取得し、意識の科学的理論に関する論文にて新プログラムの学位を取得し優等で卒業。しかし音楽にも集中し続け、国際ジャズ教育者協会のクリフォード・ブラウン/スタン・ゲッツ・フェローシップを授与された。バークリー音楽大学でもジャズ・ピアノでの演奏を習得、ボストンそしてニューヨークのジャズシーンで演奏。ブラッド・メルドーなどのバンドで頭角を現して以来、多忙を極めるピアニスト。卒業後の1996年、ニューヨークに戻り、再び音楽活動に専念。1998年、アーロン・ゴールドバーグ・トリオを結成し、1999年にデビュー・アルバム『Turning Point』をリリース。そんな多彩な音楽活動を続ける中でもタフツ大学の修士課程にて2010年に分析哲学の修士号を取得。2010年にはアルバム『Home』、ブラジル音楽も研究し2012年にギジェルモ・クライン(アルゼンチン作曲家)とのコラボによる『Bienestan』をリリース。2012年にはアルバム『Yes!』、2014年11月、自身の曲、スタンダード、ブラジルの曲のアルバム『The Now』をリリースし高評価。多くのジャズ・ミュージシャンと共演している。

(Tracklist)
01. Spring Sings
02. 2K Blues
03. Bass Intro To Sheikh Ali (solo bass)
04. Sheikh Ali
05. The Best Is Yet To Come
06. Sancion
07. Omeration
08. How Deep Is The Ocean
09. Shufflonzo
10. Fivin'

 まさに現代ピアノ・トリオと言わしめるところの三者の役割が見事に結集している。それは上の三者の紹介に見るようにそれぞれの経歴が非常に異なっている中での実力者で、その為の効果が著しく味を高めている。


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 スタートのM01."Spring Sings"からアルバム・タイトル曲が登場し、スウィングを愛しながらもジャズを探求している試みの集合がコンテンポラリーに展開。ベースは弾きに独特なうねり感があり時にアルコも響かせる、軽やかに繰り出してくるが意外なところでパンチを効かせるドラム、歯切れのよさや透明感たっぷりのクリアー・タッチのピアノが心地よい。三者の乱れぬ交錯が対等に進行してまさにトリオ演奏。     
 M02."2K Blues"は、ベースの速攻とピアノの旋律、ドラムスのブラッシ音の躍動的攻め合いはものの見事に展開される。中盤のベース、それに続くドラムスの響きが曲のメリハリに貢献、最後は早弾きピアノが印象的。
 M03."Bass Intro To Sheikh Ali "は、ベースソロ。充実した低音が心に響く。そして M04."Sheikh Ali"のピアノ・トリオ演奏に繋がって、ピアノの役割を盛り上げ最後は硬質な繊細なピアノでまとめる。
 M05."The Best Is Yet To Come" ジャズの溌溂とした流れが生きている。トリオの流れが楽しい。
 M06."Sancion" 珍しいゆったりとしたピアノ旋律主導の曲。リズム隊のドラムスとベースの協調が品格ある。
 M07. "Omeration"息の合ったトリオの繰り返すハーモニーとユニゾンが見事、それを誘導するドラムスが頼もしい。
 M09. "Shufflonzo" スウィングしてのピアノに、ベース、ドラムスが快調に展開する。軽やかなベース・ソロ、続くドラムス・ソロのパンチ力も聴きどころ。演者の楽しさが伝わってくる。
 M10 "Fivin'" ドラムスのリズムに乗ってのベースとピアノとの掛け合いがこれまた楽しさ十分。

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 ピアノ・トリオであるので、自ずから旋律がピアノによる曲の運びは当然みられるが、ベースの多彩な音、ドラムスの展開を誘うダイナミズムが、これぞトリオ演奏と色付けされ聴き応え十分。とにかく剛柔バランスが絶妙にとれていて、今日感覚溢れるコンテンポラリーな展開が続く。トリオとしての主役であるゴールドバーグ(p)の自然体な正攻法に展開する流れに、アヴィタル(b)のそれに難題を振り向けるような熱い演奏が色付けにいい役割をしている。このトリオのリーダーのジャクソン(ds)は、やはり一歩引いているが、インタープレイの誘導がなかなか旨く、三者三様の立ち振る舞いが、それぞれの個性を発揮していてグルーヴ感を築く楽しい演奏だ。これぞ現代ジャズの一つの重要な流れであろう。ユーロ・ジャズのクラシックからの発展形としての流れなどに私などは満足している今日ではあるが、ジャズの王道をしっかり築いている風格すら感ずるこのタイプは当然歓迎だ。

(評価)
□ 演奏  90/100
□ 録音  88/100

(試聴)

 

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2024年3月17日 (日)

リン・アリエル Lynne Arriale 「BEING HUMAN」

社会や文化の二極化の悪影響に反応して、愛、希望、団結をテーマに展望を描く

<Jazz>

Lynne Arriale 「BEING HUMAN」
challenge Records / Import / CR73272 / 2024

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Lynne Arriale - Piano & YAMAHA Clavinova
Alon Near - Double bass
Łukasz Żyta - Drums

Recorded dates : july 27-28, 2023

  リン・アリエル(エリエイル)(1957年生まれ ↓左)の新メンバーによるピアノ・トリオ新作アルバム。 ビルボードやThe New Yorker、United Press Internationalなどのチャートにランクインしてきたアメリカの女流ピアニスト・作曲家で、リーダーとしての17枚目である。 
 この『Being Human』は、最近のオランダのChallenge Records Internationalからの4枚目のアルバムだ。ベーシストはイスラエルのアロン・ニア(↓中央)、ドラマーはポーランドのルカシュ・ザイタ(↓右)というNYCで活躍するメンバーによるトリオにて、人生を肯定する人間の側面を探求するオリジナル曲を演じている。

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 近年、リン・アリエルの作曲やアルバムは、ライナーにも書いているが、現在の社会問題をテーマに熱く反応している。『Chimes of Freedom』(2020年)は、世界的な移民危機と、自分自身と家族のためにより良い生活を見つけるべく危険にさらす難民の経験に焦点を当て『The Lights Are Always On』(2022年)は、COVID-19がもたらした人生を変える出来事を検証し、パンデミックの最前線で介護者として活躍した人や、民主主義を擁護した人など、英雄に敬意を表した作品であった。

  今回の『Being Human』では、アリエルのオリジナル曲で主題が曲のタイトルそのものになっており、情熱、勇気、愛、信念、好奇心、魂、忍耐、心、感謝、喜びによって私たちの人生が豊かになる様を希望的に称えている。社会や文化における二極化の悪影響に反応して、愛、希望、団結を肯定するためにこのアルバムを制作したというのだ。そして曲はそれぞれ対象者に献呈している。

 実際アリエルは次のように語っている・・・「この組曲は、この世界の分裂と混乱に応えて書きました。この音楽は、私たち全員が共有する資質に焦点を当てています。それは私たちの人間性を定義します。このアルバムが高揚感と一体感と楽観主義を伝えるものになることを願っています。献呈は、音楽にインスピレーションを与えた特徴を体現していると感じる人々への私の賞賛を反映しています」

(tracklist)
02. Courage (3:35)
03. Love (3:16)
04. Faith (3:34)
05. Curiosity (2:43)
06. Soul (3:44)
07. Persistence (4:14)
08. Heart (4:29)
09. Gratitude (3:29)
10. Joy (4:13)
11. Love (Reprise) (2:42) (chorus + keyboard?)
*all compositions by Lynne Arriale

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 コンテンポラリー・ジャズの世界感で全曲アリエルの作曲だ。曲のタイトルが彼女の主張する人間のテーマであり、どちらかというとポジティヴな攻めのリズムとむしろ明るさの目立つメロディーで愉しめるピアノ・トリオ作品。印象として人間賛歌の主張といったほうが良い響きで迫ってくる。それは締めのM11."Love"が、YAMAHAのコーラスで演じられているところに全てを物語っている。
 まあ、このアルバムのテーマというかコンセプトからいっても、私の好むところの哀愁あるメロディーによるピアノの響きというピアノ・トリオ作品とは一線を画している。
 M1."Passion" 、M2."Courage"と、情熱と勇気を力強さを感ずる演奏で冒頭から攻めて来る。M1.はスウェーデンの若き女性環境活動家Greta Thunbergに捧げ、M2.は、ウクライナ国民への讃えだ。
 M3."Love" 愛情あふれるピアノが丁寧に演奏される。人類に捧げるのだ
 M4."Faith"  フォーク調の明朗(という表現が当たるだろうか)な曲、科学を超えた信仰の意思を。信仰を持つ人々へ
 M5."Curiosity" 好奇心を称え、いよいよ彼女らしいコンテンポラリーな展開。ベース、ドラムスの展開が激しい中にきらりと光るピアノの美しい音。インプロの醍醐味に迫る私の注目曲。
 M6."Soul" 魂、ブルージーで意外に落ち着いた世界。自由と民主主義を擁護活動家Amanda Gormanに捧ぐ
 M7." Persistence" 根強さ、強い不屈の精神の発展的讃歌、女性の平等と機会を求める力となったMalala Yousafzaiに捧げている
 M8."Heart" アロンのベースが語りにちかい即興メロディーで心を休める
 M9."Gratitude" 感謝、ぐっと落ち着いた迫り、難病で死に至ったMottie Stepanekに捧げている 
 M10."Joy" 明るさの展開、溌溂と。
 M11."Love (Reprise)" 混声合唱が描く人類讃歌。

 彼女が描く社会派コンセプト・アルバムとして作り上げているが、あまり難しく考えないで聴く方が、全体の意欲的な溌溂感と演奏の楽しさを味わえるかもしれないが、そこに描くところの人間という存在のプラス思考を描いている姿は感じて聴く必要があろう。
 スイング感をベースしていて、ジャズの伝統的流れを尊重しつつ、難しくしないでごく親しみやすい明快な演奏が活発に展開。フォーク調が入るのは意外だったが、哀愁感のバラードも聴かせ、得意のコンテンポラリーな即興も織り込んで、結構多彩な変化を聴かせメリハリある攻めの演奏が主体で楽しる。なかなか意欲作である。

(評価)
□ 曲・演奏 : 88/100
□ 録音   : 88/100
(試聴)

 

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2024年3月12日 (火)

山本剛 Tsuyoshi Yamamoto Trio 「SWEET FOR K」

山本剛トリオと神成芳彦 伝説のTBMタッグが再びしっとりと美しくエロール・ガーナーを

<Jazz>
Tsuyoshi Yamamoto Trio 「SWEET FOR K」
SOMETHIN'COOL / JPN / CD / SCOL1071 /  2024

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山本 剛(piano)
香川 裕史(bass)
大隅 寿男(drums)

レコーディング、ミックス:神成芳彦  2023年11月20日音響ハウス(Tokyo)にて

 ここで、一昨年取り上げた前作『Blues for K』(SCOL-1062)で再会したピアニスト・山本剛(↓左)と、TBMレーベルの元録音エンジニア・神成芳彦の新作アルバムの登場。 『ミッドナイト・シュガー』『ミスティ』など画期的な高音質録音と名演奏で数々の日本発・世界的名盤を生み出して、我々の若き頃を楽しませてくれたこのコンビが、栃木県那須高原にある神成のプライベートスタジオで吹き込んだ前作品は、「ジャズオーディオディスク大賞2022 銅賞」も受賞するなど、話題と高い評価を得た。そして2023年には、「ぜひプロスタジオでの録音でも聴いてみたい!」という声も上がったとかで、神成芳彦が「東京・音響ハウス」に登場して、昔のTBMレーベルもレコーディングを行ったこのスタジオで老骨に鞭打って再び腕をふるう事となったもの。 選曲は山本剛が敬愛してやまないエロール・ガーナーを中心としたバラッド集。まあ二人にとってみればお互い歳を取って、ここにその昔の再現を試みたというのは、これまた注目していいものである。メンバーは、香川 裕史(bass↓中央)、大隅 寿男(drums↓右)と不変のトリオ。

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(Tracklist)

1. Night Wind (ErrollGarner)
2. Paris Bounce (ErrollGarner)
3. When Paris Cries (ErrollGarner)
4. Dreamy (ErrollGarner)
5. Mood Island (ErrollGarner)
6. Solitaire (ErrollGarner)
7. Daahoud (Clifford Brown)
8. Polka Dots and Moonbeams(Jimmy Van Heusen)
9. Sweet for K
10. Laura (David Raksin)
11. Garner Talk

46347   エロール・ガーナーErroll Louis Garner (1921,6,15 - 1977,1,2 右)と言えば、意外に皆が言わないのだが、現代ピアノ・トリオの元祖と言ってもいい人だ。それは1944年でありモダン・ジャズ時代のピアノ・トリオの先駆者である。つまり、ピアノ・トリオの元祖はナット・キング・コールであるが、実は、その最初のスタイルは、ピアノ、ベース、ギター編成だったんですね。それをピアノ、ベース、ドラムスの形に仕上げたのがエロル・ガーナーなのだ。我々はエロル・ガーナーといえば"Misty"ということになって、曲が最初に出てくるが、現代ピアノ・トリオの先駆者としてのピアニストの貢献が大きかった人である。

 山本剛は、若い時にこのガーナーの"Misty"を演じてスター・ダムに乗ることとなったので、エロル・ガーナーには相当の思い入れがあると思う。そんなわけで意外に知らないガーナーの曲をここで聴くことになったのだ。リストを見ると6曲ここに収録されている。

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 エロル・ガーナーの曲は、M1.からM6.まで6曲続く、まずM1."Night Wind" は、今回の録音の最初の演奏は気合付でM2."Paris Bounce"であったようだが、このアルバムではバラード演奏で聴かせるトップ曲に出てきた。
 そして、M2. "Paris Bounce" は軽快に
   M3. "When Paris Cries" ぐっとピアノがしっとりと演じられる。香川の旋律のアルコ奏法がさらにムードを盛り上げる。とにかくうっとりだ。
 M4. "Dreamy" 一時代前の夜のアメリカンな甘さが響いてくる。
 M5. "Mood Island" 気分を変えてちょっと軽く軽快に 
   M6. "Solitaire" ガーナーの最後は、ピアノ・ソロで美しくそして軽い中にちょっと切なく
 M7. "Daahoud" Clifford Brownの曲をバラード調で
 M8. "Polka Dots and Moonbeams" ライブではおなじみのようだが、時代的な古い感じはあるがバラードでの演奏に聴き入ってしまう
   M9. "Sweet for K" 山本の回顧的感謝の美しさの曲
   M10. "Laura" David Raksinの曲だか、ガーナーの持ち曲でもあったようだ。うっとりと聴ける
   M11. "Garner Talk" ガーナーへの想いを美しく

  とにかくうっとりとして聴いていればそれでOKというアルバム。演奏は日本のピアノ・トリオの一面として貴重な世界。
 問題の神成芳彦(上写真前)の録音だが、ここでも復活の気合が入ったことは十分に窺い聴くことができた。特に山本のピアノはパーフェクトに近い録音だと思う。ただちょっと残念なのはドラムスの響きとブラシの音やシンバル音の硬質な繊細な美しさがアメリオ録音の音には負けていた。ベースももうちょっとソリッドな音でリアルに前に出ても良かったのでは(好みもあると思いますが)とも思う、そこは私としては若干残念に思ったというところ。
 そうは言っても、これだけ音質にも迫って良質なアルバムを求めるのは嬉しいことである。評価はしたがって良いところに落ち着いた。

(評価)
□ 選曲・演奏  88/100
□ 録音     88/100

(試聴)

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2024年3月 7日 (木)

ヴィクトリア・トルストイ Viktoria Tolstoy「STEALING MOMENTS」

清々しいテンダーにしてロマンティックな好印象のアルバム

<Jazz>

VIKTORIA TOLSTOY 「 STEALING MOMENTS」
ACT MUSIC / Import / ACT97472 /  2024

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Viktoria Tolstoy (vocal) (possibly tambourine? on 03)
Joel Lyssarides (piano except 01) (keyboard on 01, 08, 09, 10) (celeste on 03)
Krister Jonsson (electric guitar except 01) (acoustic guitar on 01)
Mattias Svensson (bass except 01)
Rasmus Kihlberg (drums except 01) (percussion on 06, 08, 09)

Produced by Nils Landgren

Viktoria_tolstoyaw    文豪トルストイが高祖父に当たるということで話題のロシア系スウェーデン人のジャズ歌手ヴィクトリア・トルストイ(1974年スウェーデン-シグトゥーナ地区マーシュタ生まれ)の、今回は、ACTでの第1作『Shining On You』(2004年)から20年になるのを記念しての、ピアノ、ギター、ベース、ドラムのカルテットをバックにした彼女をとりまくファミリーを意識したある意味感謝のアルバムのようだ。もともと彼女は1990年よりの活動で、既に30年以上のベテランということの仲間入りしている。もともとジャズに軸足を置いてはいるが、ポップス、ファンク畑などオールラウンドな適応力もあっての人気ヴォーカリストらしい作品となっている。
   過去にここでは彼女の映画音楽を歌ったアルバム『Meet Me At The Movie』(2017)を取り上げたことがあったが評価はよかった。
 今回のアルバム中身はデビュー作から関係しているアーティスト達の作曲した曲が中心になっている。下の曲リストを見ると解かるが、スウェーデン・ジュズ界の巨匠ニルス・ランドグレンをはじめ、イーダ・サンド、ヴォルフガング・ハフナー、セシリエ・ノルビー、ラース・ダニエルソン、イイロ・ランタラ、ヤン・ルンドグレンといったベテランミュージシャン、長年の友人や仲間たちが、彼女の歌声や造られてきたイメージを新しい曲に盛り込んで書き下ろし、また注目は、故エスビョルン・スヴェンソンのインスト曲であった「Hands Off」も収録されている。

(Tracklist)

1 A Love Song (Nils Landgren)
2 Good and Proper End (Iiro Rantala, Anna Alerstedt)
3 Wherever You're Going (Ida Sand)
4 Hands Off (Esbjörn Svensson, Eva Svensson)
5 Summer Kind Of Love (Jan Lundgren, Hanna Svensson)
6 I Don't Wanna Lose You (Ida Sand)
7 License To Love (Lars Danielsson, Caecile Norby)
8 What Should I Do (Ida Sand)
9 Synchronicity (Wolfgang Haffner, Anna Alerstedt)
10 Stealing Moments (anna alerstedt)

 プロデュサーのニルス・ラングレンの曲M1. "A Love Song" (vo-acg-key)から、オープニングということで、 アコースティック・ギターのバックがムードを盛り上げて、心から感謝をしっとりと歌い込む。
 M3. "Wherever You're Going" (vo/tambourine?-elg-p/celeste-b-ds) ポピュラーっぽい歌が展開。
 M4. "Hands Off" (vo-elg-p-b-ds) 注目のEsbjörn Svenssonのインスト曲。やはりガラっとムードが変わる。中盤のピアノの調べと対比して彼女の歌が説得力のある清々しい歌声で、情緒たっぷりに歌う。
 M5. "Summer Kind Of Love" (vo-elg-p-b-ds) ジャズっぽいエレキのサウンドとピアノの響きとで、難しい旋律をうまくこなして歌い込む。この辺りは見事なジャズに展開。
 M6. "Don't Wanna Lose You" (vo-elg-p-b-ds/per) ぐっとバラード調で、心に染み入るしっとりとしたムードで歌い上げる。時として襲う優しく歌う高音が美しく響く。やさしいギターとピアノの演奏の味付けが良い。
 M7. "License To Love" (vo-elg-p-b-ds) 清々しい歌、彼女の世界に歌う。
   M9. "Synchronicity" (vo-elg-p/key-b-ds/per) 丁寧な歌い込み。
   M10. "Stealing Moments" (vo-elg-p/key-b-ds) エレキ・ギターとの対話的ゆったりとしたヴォーカルが聴きどころ、後半のベースの旋律が効果的。

Gettyimages47017w  やはり彼女の透明感のあるクリーンに澄みきった声は貴重だ。そして歌詞の情感を見事に歌い込みちらっと見せるハスキーな味も魅力がある。又バックの繊細なピアノと優しく描くギターがヴォーカルを生かすべく見事に演じ切る。こうしたヴォーカルものは、大編成バックでないほうがしっとり感が出てよい。そしてなんとなく全編を通して品のある処が見事である。
 そもそもACTデビュー20周年の仲間というかファミリーとして関係諸氏に感謝しているということもあるのか、非常に親近感ある好印象の世界を演じ切っている。若干ポップぽいところも見せながら、非常に丁寧に歌い込むところは貴重。又一方我々にとってもエスビョルン・スヴェンソンの名前が出てくるだけで感動してしまうところがある。
 取り敢えず、お勧めのアルバムだ。

(評価)
□ 曲・演奏・歌  88/100
□ 録音      87/100

(試聴)

 

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2024年3月 2日 (土)

ロブ・ヴァン・バヴェル Rob Van Bavel 「Time for Ballards - The Solo Sessions」

バラードを演じたピアノ・トリオ2作品から最後に登場のピアノ・ソロ作品

<Jazz>

Rob Van Bavel 「 Time for Ballards - The Solo Sessions」

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Rob Van Bavel : Piano

19088518880_ee84w   オランダを代表するピアノの詩人と言われるロブ・ヴァン・バヴェル(→)による人気のピアノ・トリオ作品『Time for Ballads バラードの時間』2作品に続いて、3部作の最後のソロ・ピアノ・アルバムである。
 彼は、1987年にロッテルダム音楽院を最高点で卒業した後、セロニアス・モンク・ジャズピアノ・コンペティションやオランダのグラミー賞Edisonなど数々の賞を受賞する実力派。アムステルダム音楽院(CvA)および王立音楽院(デン・ハーグ)で教師として勤務。 これは2022年から発表してきたバラード集

 ピアノは話題のベルギーのChris Maene Straight Strung Concert Piano(下) により最高峰の音を聴かせる。このピアノは、300年以上にわたるピアノ製作の深い知識と最新の技術を組み合わせたクリス・メーンのストレートストリンググランドピアノで、徹底的な研究と、現代のグランドピアノに代わる革新的で芸術的な代替品を構築したいという究極の願望からの大胆な新世代の楽器として制作されたもの。

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 ロブ・ヴァン・バヴェルについては、過去に日本では2000年に澤野工房がピアノ・トリオ・アルバム『JUST FOR YOU』(Rob van Bavel : piano, Marc van Rooij : bass, Hans van Oosterhout : drums / AS007/ 2000)をリリースしてくれて知れたところであるが、躍動感あるリズムにのりつつ、リリカルで爽快な一枚として受け入れられた。
 そしてこの2022年にリリースされた『Time for Ballads』は、彼のピアノと別メンバーのベース、ドラムスのトリオで「The The Maene Sessions」と「The Studio Sessions」の2アルバムが、リリカルにして優雅、優しさとリズムが快感で好評であった。そして2023年になってストリ-ミング及びダウンロードという方法で、このピアノ・ソロ版がお目見えしたという経過だ。

(Tracklist)

1.Everything Happens to Me 05:07
2.Love Dance 03:47
3.Ballad of the Sad Young Men 05:23
4.Two for the Road 03:26
5.Always and Forever 04:08
6.Bob's Piano Bar 04:18
7.Cinema Paradiso 02:45
8.Guess I'll hang my Tears out to Dry 03:19
9.For Lieke 02:54
10.Ballad for René 03:19
11.Ballad for Danny 02:52
12.Your Nocturne 01:24

 もともと私はジャズに於いてのピアノものは何よりも好むのだが、それはソロよりはベース、ドラムスとのトリオ好きである。しかしこのアルバムはピアノ・ソロである。しかし、実は前作の『Time for Ballads』の2つのアルバムは、トリオものであったが、実はその内容は、バヴェルのピアノ主導型のアルバムで、それぞれ3者のインタープレイも楽しめるが、インプロヴィゼーションもピアノ主体であってトリオとしての面白みは若干少なかった。ただ比較的優しい演奏であったため、今回はソロということだが、それほど大きな違和感はなく続編的な受け入れが出来た。

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 M1."Everything Happens to Me"スタートから情緒たっぷりのバヴェルの流麗なピアノが聴ける。フランク・シナトラ、チェット・ベイカーなどの歌が有名だが、しっとり感も十分。
 こんな流れで全編スタンダードなど美しい詩的なメロディで綴ってくれる。M11"Ballad for Danny",M12"Your Nocturne"の締めくくりも刺激の少ない万人向けのピアノトリオ・ファンの心を掴むであろう演奏である。夜に、部屋にそう大きな音でなく適音量で流していると快感の作品。ときにこうしたアルバムも精神衛生上良いのではとお勧めである。

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『Time for Ballards 』の前作2アルバムは以下のようなものである

🔳Rob Van Bavell『Time for Ballards - The Maene Sessions』
    Dox Records / Import / Dox5881 / 2022

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Rob van Bavel - grand piano
Frans van Geest - bass
Marcel Serierse - drums

(Tracklist)

1.Ballad for Rene 03:44
2.In A Sentimental Mood 05:15
3.Your Nocturne 03:42
4.Search for Peace/Peace 05:53
5.Bob's Piano Bar 04:57
6.Elegie 05:08
7.I Guess I'll Hang My Tears Out To Dry 03:24
8.Ballad For Danny 04:26
9.De Tor Ahead 04:50
10.For Lieke 02:40
11.Roaring Heights 04:18
12.The Shadow Of Your Smile 06:31
13.Body And Soul 04:46

 とにかくピアノ・トリオ・ファンから圧倒的支持があった人気アルバム。何んといっても難しい演奏でないところが万人受けしたと言って良い。若干トリオとしての三者のインタープレイのスリリングな味が少し薄いところが残念なところか。

 

🔳Rob Van Bavell『Time for Ballards - The Studio Sessions』
    Dox Records / Import / DU8192R001CD / 2022

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Rob van Bavel (piano)
Marcel Serierse (drums)
Frans van Geest (bass)

(Tracklist)

1.A NIGHTINGALE SANG IN BERKELEY SQUARE 4:15
2.MANHATTAN 4:23
3.TWO FOR THE ROAD 3:25
4.ALWAYS AND FOREVER 4:33
5.MISTY 4:52
6.BALLAD OF THE SAD YOUNG MEN / LARGO 5:24
7.SLOW BOAT TO CHINA 4:09
8.HARD TO SAY GOODBYE / THREE VIEWS OF A SECRET 4:58
9.EVERYTHING HAPPENS TO ME 5:07
10.THE PEACOCKS 4:49
11.DAYDREAM 4:49
12.LOVE DANCE 3:45
13.CINEMA PARADISO / I'VE NEVER BEEN IN LOVE BEFORE 5:38

 『Time for Ballads』プロジェクトの第2弾、チック・コリアの影響を受けているといわれるバヴェルのピアノが、相変わらず心地よいメロディーを展開。期待のM5."MISTY"は、意外に軽妙なアップテンポでちょっと驚いた。

<当シリーズ3作の総合評価>

(評価)
□ 編曲・演奏  :  88/100
□ 録音     :  88/100

(試聴) 

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