リン・アリエル Lynne Arriale 「BEING HUMAN」
社会や文化の二極化の悪影響に反応して、愛、希望、団結をテーマに展望を描く
<Jazz>
Lynne Arriale 「BEING HUMAN」
challenge Records / Import / CR73272 / 2024
Lynne Arriale - Piano & YAMAHA Clavinova
Alon Near - Double bass
Łukasz Żyta - Drums
Recorded dates : july 27-28, 2023
リン・アリエル(エリエイル)(1957年生まれ ↓左)の新メンバーによるピアノ・トリオ新作アルバム。 ビルボードやThe New Yorker、United Press Internationalなどのチャートにランクインしてきたアメリカの女流ピアニスト・作曲家で、リーダーとしての17枚目である。
この『Being Human』は、最近のオランダのChallenge Records Internationalからの4枚目のアルバムだ。ベーシストはイスラエルのアロン・ニア(↓中央)、ドラマーはポーランドのルカシュ・ザイタ(↓右)というNYCで活躍するメンバーによるトリオにて、人生を肯定する人間の側面を探求するオリジナル曲を演じている。
近年、リン・アリエルの作曲やアルバムは、ライナーにも書いているが、現在の社会問題をテーマに熱く反応している。『Chimes of Freedom』(2020年)は、世界的な移民危機と、自分自身と家族のためにより良い生活を見つけるべく危険にさらす難民の経験に焦点を当て、『The Lights Are Always On』(2022年)は、COVID-19がもたらした人生を変える出来事を検証し、パンデミックの最前線で介護者として活躍した人や、民主主義を擁護した人など、英雄に敬意を表した作品であった。
今回の『Being Human』では、アリエルのオリジナル曲で主題が曲のタイトルそのものになっており、情熱、勇気、愛、信念、好奇心、魂、忍耐、心、感謝、喜びによって私たちの人生が豊かになる様を希望的に称えている。社会や文化における二極化の悪影響に反応して、愛、希望、団結を肯定するためにこのアルバムを制作したというのだ。そして曲はそれぞれ対象者に献呈している。
実際アリエルは次のように語っている・・・「この組曲は、この世界の分裂と混乱に応えて書きました。この音楽は、私たち全員が共有する資質に焦点を当てています。それは私たちの人間性を定義します。このアルバムが高揚感と一体感と楽観主義を伝えるものになることを願っています。献呈は、音楽にインスピレーションを与えた特徴を体現していると感じる人々への私の賞賛を反映しています」
(tracklist)
02. Courage (3:35)
03. Love (3:16)
04. Faith (3:34)
05. Curiosity (2:43)
06. Soul (3:44)
07. Persistence (4:14)
08. Heart (4:29)
09. Gratitude (3:29)
10. Joy (4:13)
11. Love (Reprise) (2:42) (chorus + keyboard?)
*all compositions by Lynne Arriale
コンテンポラリー・ジャズの世界感で全曲アリエルの作曲だ。曲のタイトルが彼女の主張する人間のテーマであり、どちらかというとポジティヴな攻めのリズムとむしろ明るさの目立つメロディーで愉しめるピアノ・トリオ作品。印象として人間賛歌の主張といったほうが良い響きで迫ってくる。それは締めのM11."Love"が、YAMAHAのコーラスで演じられているところに全てを物語っている。
まあ、このアルバムのテーマというかコンセプトからいっても、私の好むところの哀愁あるメロディーによるピアノの響きというピアノ・トリオ作品とは一線を画している。
M1."Passion" 、M2."Courage"と、情熱と勇気を力強さを感ずる演奏で冒頭から攻めて来る。M1.はスウェーデンの若き女性環境活動家Greta Thunbergに捧げ、M2.は、ウクライナ国民への讃えだ。
M3."Love" 愛情あふれるピアノが丁寧に演奏される。人類に捧げるのだ
M4."Faith" フォーク調の明朗(という表現が当たるだろうか)な曲、科学を超えた信仰の意思を。信仰を持つ人々へ
M5."Curiosity" 好奇心を称え、いよいよ彼女らしいコンテンポラリーな展開。ベース、ドラムスの展開が激しい中にきらりと光るピアノの美しい音。インプロの醍醐味に迫る私の注目曲。
M6."Soul" 魂、ブルージーで意外に落ち着いた世界。自由と民主主義を擁護活動家Amanda Gormanに捧ぐ
M7." Persistence" 根強さ、強い不屈の精神の発展的讃歌、女性の平等と機会を求める力となったMalala Yousafzaiに捧げている
M8."Heart" アロンのベースが語りにちかい即興メロディーで心を休める
M9."Gratitude" 感謝、ぐっと落ち着いた迫り、難病で死に至ったMottie Stepanekに捧げている
M10."Joy" 明るさの展開、溌溂と。
M11."Love (Reprise)" 混声合唱が描く人類讃歌。
彼女が描く社会派コンセプト・アルバムとして作り上げているが、あまり難しく考えないで聴く方が、全体の意欲的な溌溂感と演奏の楽しさを味わえるかもしれないが、そこに描くところの人間という存在のプラス思考を描いている姿は感じて聴く必要があろう。
スイング感をベースしていて、ジャズの伝統的流れを尊重しつつ、難しくしないでごく親しみやすい明快な演奏が活発に展開。フォーク調が入るのは意外だったが、哀愁感のバラードも聴かせ、得意のコンテンポラリーな即興も織り込んで、結構多彩な変化を聴かせメリハリある攻めの演奏が主体で楽しる。なかなか意欲作である。
(評価)
□ 曲・演奏 : 88/100
□ 録音 : 88/100
(試聴)
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コメント
社会への強いメッセージと言うとロックというイメージですが、JAZZの世界でもこういうプロテストソングを歌い上げる女性歌手の方がいるんですね~!目から鱗の様な気持ちです。
(PS)「エリック・カルメン」の訃報が入ってきたので哀悼記事を公開しました。1970年代にラズベリーズで元気なPOPソングを歌い、75年~80年代は美しいバラードで魅了した隠れた名アーティストですので是非聴いてみて下さい。あっ!・・・、貴殿にとっては全く興味がない対極のジャンルでしたかな・・。社会に訴えるメッセージもなく、愛だの恋だのばっかりですし・・(苦笑)
投稿: ローリングウエスト | 2024年3月18日 (月) 11時12分
ローリングウエスト様
コメント有難うございます
ジャズの世界でも社会的メッセージを発信するミュージシャンもそれなりにいますね。
このリン・アリエルは、SSWのベテラン・ピアニストですが、近年は確固たる意志を感ずる世界を描いていると思いますね。
Eric Carmenは知らないできたんですが、"All By MySelf"などを演じ歌い上げるところを拝見すると、ローリングウエスト様の若き時代に心を打ってきたであろうことは容易に解りました。ご紹介有難うございました。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2024年3月18日 (月) 17時31分