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2024年3月28日 (木)

ペッテル・ベリアンデル Petter Bergander Trio 「Watershed」

葛藤・分裂とに想いを馳せ、音楽による喜びを描く

<Jazz>

Petter Bergander Trio 「 Watershed」
(CD)Prophone Records / Import / PCD324 2024

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Petter Bergander ペッテル・ベリアンデル (piano)
Eva Kruse エーファ・クルーゼ (double bass)
Robert Mehmet Sinan Ikiz ロベルト・メフメット・シナン・イキズ (drums)

 スウェーデンのキャリアある中堅ピアニストのペッテル・ベリアンデル(1973年生まれ、王立ストックホルム音楽大学で学ぶ 下中央)の、2014年結成の自己のトリオによる第3作アルバムの登場だ。前作と同じ鉄壁レギュラー・トリオであるハンブルク生まれのエーファ・クルーゼ Eva Kruse(1978‒ 下左)の女流ベース、イスタンブール生まれのロベルト・メフメット・シナン・イキズ Robert Mehmet Sina Ikiz(1979‒ 下右)のドラムだ。彼らはスウェーデンはじめヨーロッパにてのツアーを行ってきている。

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 ペッテル・ベリアンデルは音楽について次のように語っている。「私たちは人々にクレイジーでエキサイティングな体験と熱意を伝えたいと思っています。本作 『ウォーターシェッド』 は混乱した世界と時代から生まれたアルバムです。曲を書いたとき、人生における分裂の種を蒔きかねないような出来事について考えました。友人間、家族間、あるいは自分自身の中での葛藤。音楽は喜びと芸術を取り戻す手段のようになりました。」と。
 テーマは「分岐・分裂」というところか、しかしなかなか三者の連携プレイがみごとであって、その点は注目はされてきたトリオだが、この新作では、これまでよりインタープレイは更に洗練されてきて、モダンなビートと、そして即興が描くところ、葛藤を乗り越えた姿にこれまた磨きがかかってきた点が注目されるアルバムである。全曲ベリアンデルのオリジナル。

(Tracklist)

1. On The Train To Lviv
2. Watershed
3. Day Eleven
4. Get Out Of Here
5. Lilla Blåvinge
6. If I Would Have Known
7. Lucky
8. Days To Come

 「葛藤」、「分裂」などテーマは暗さをイメージさせるが、トータルに暗いアルバムではなく、極めて安定感の中にむしろ展望がイメージされる世界に聴きとれた。

 M1. "On The Train To Lviv"  ウクライナの戦争下, 列車が向かうはウクライナ小さな美しい都市Lviv、列車の進行する様と戦い中にある都市への思いが複雑に交錯して描かれる。
 M2. "Watershed" "あらゆる人間関係の対立によぎる分裂の不安とは"と問いかける。ネガティブな印象はない、真摯な気持ちの印象。
 M3. "Day Eleven"  "厳しい現実を知る事による暗い不安"が滲むピアノの低音の響きで始まる曲。中盤からのピアノ美しい音、ベースのソロに近い演奏部分に描いている世界が微妙に不安が襲う。ドラムスのブラッシ音もどこか不安な世界に導く。私の注目曲。
 M4. "Get Out Of Here" ベースの響きとクラシックを思わせるピアノ流れ(これはバツハだ)とに、ドラムスの軽快なブラッシ。最後の三者のユニゾンの響きが印象的。
 M5. "Lilla Blåvinge" 絶滅した蝶の名前のようだが、地球に対する人間の行いに問題意識を訴えているのか、繰り返すピアノの旋律が不安げ。
 M6. "If I Would Have Known" 来し方の状況分析にも光明がある姿を描いたか、どこか展望を感ずる。
 M7. "Lucky" いかにも三者対等な音楽は気持ちの浮き上がりの感ずる演奏。
 M8. "Days To Come" 冷静な心と期待感も含めての展望も感じられる曲。

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 私の印象深い曲はM3."Day Eleven"だ。人間の醜い分裂の姿を見てしまった自分に今できることは今何が求められているのだろうかと、懐疑的にしかし何かに向かおうする意志が感じられる曲として評価したい。
 このトリオは、あくまでも詩的情緒とノリの快感を重要視する今時風の抒情派の味を持ったコンテンポラリーな快演だ。従ってテーマの割には暗部にのめり込まないところが救いである。そして美しいメロディーも顔を出すが、あくまでも耽美的に溺れないところがテーマを生かす特徴なのかもしれない。クルーゼ(b)やイキズ(ds)の芸の細かい技によるバックアップも大いに印象を深めるが、しかしやはりそれより遥かに増してベリアンデル(p)のごく自然体の力みのない独創性満点のアドリブ演奏が、やや難題の曲想であるが手慣れた展開で演じ切る。なかなか卓越した技量のピアニストだ。

(評価)
□ 曲・演奏   88/100
□ 録音     87/100
(試聴)
"Day Eleven"

 

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コメント

この演奏を背景にギターを弾いたら面白かったです。

投稿: iwamoto | 2024年3月28日 (木) 16時28分

iwamoto様
コメント有り難うございます
ピアノトリオ+ギターのカルテットですか・・・なかなかいけそうですね(笑)

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2024年3月28日 (木) 17時01分

フリーウッド・マックへのコメントご来訪を頂きありがとうございました。貴殿の紹介されているアーティストは何時も初めて知るものばかりです。お互いに新たな音楽分野へ幅が広がっていくといいですね。今年の洋楽記事公開スケジュールをおおまか固めましたが、5月5日にムーディブルース結成60周年で「童夢」特集を公開する予定です。

投稿: | 2024年4月 1日 (月) 18時08分

失礼しました。ハンドルネームを入れるのを忘れました。

投稿: ローリングウエスト | 2024年4月 1日 (月) 18時09分

ローリングウエスト様
 こちらまで、コメントどうも有り難うございました。
 ロックといっても・・・私はプログレ系に偏っていましたので、今となっていろいろと勉強させていただいてます(笑)。
 今後も精力的な貴ブログを拝見させていただきます。よろしく御願いします。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2024年4月 1日 (月) 21時15分

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