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2024年4月19日 (金)

ヘイリー・ロレン Haile Loren 「Dreams Lost and Found」

パンデミックの暗さから新しい展開への意欲の歌

<Jazz>

Haile Loren 「Dreams Lost and Found」
(CD)Victor Entertainment / JPN / VIVJ-61794 / 2024

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Halie Loren : vocal
Taurey Butler : piano
Sam Kirmayer : guitar
Morgan Moore : bass
Jim Doxas : drums

 久々のヘイリー・ロレンのニュー・アルバム登場。アラスカ出身のヴォーカリストの彼女は、Jazzy not Jazz路線でその美貌と相まって日本ではトップ・クラスの人気者。なにせ前作は6年前の『From The Wild Sky』で、原点回帰というかジャズというよりはロック寄りに彼女自身は一つの焦点を持っていて、デビュー作『Full Circle』(2006)同様、彼女の作品集でありロックから進歩したオルタナティブ・ミュージックであつた。
 しかし日本でのヒット『青い影』以来、作られたヘイリー・ロレン像というのは、Jazzy not Jazz路線で、しかもバラード曲が人気を集めているわけであり、彼女のジャズ路線への期待が大きい中での今作の登場である。

 不思議に私が上京する時に彼女は来日公演が行われていて、Cotton clubで2回はライブに参加したのだが、やはり会場の期待度はJazz路線にあって多くのスタンダード曲のカヴァーが人気があった。ロック系は彼女自身のオリジナル曲で浸透していなかったせいもあるかもしれないのだが、しかし日本での人気のスタートは、プロコム・ハレムの"青い影"であり、やっぱりロックとの関係は無視できない。

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 そんな中での今回は、パンデミック経ての久々ということもあり、又前作での彼女の本来のオルタナティブ・ロック路線は十分やりつくしたところもでもあり、期待度の高いJazzy not jazz路線で作り上げられている。ジャジーでしかもポップ,両者の間を自然に行き来する彼女の最新作のテーマは“再生”,“つながり”,“希望”というところにあるようだ。いずれにしてももうデビューから20年で、円熟味を増した表現力,現代シンガーソングライターとしての持ち味,その全てが揃ったヘイリー・ロレンの集大成といえる形での登場である。なおバック演奏では今作ではベースの音が気になったが、そのベーシストのMorgan Moore(上右)の助力が大きく働いての製作であったようだ。

 彼女の言葉・・・「このアルバムでは,内面的な変化に訴えかけるような曲を集めたの。パンデミックを経て私たちは皆,何らかの形で変わり,自身の異なった側面を見つけた。私たちが前進するため,将来に向けて持ち続けるべき新しい夢は,もう以前のものとは異なるかもしれない。今回の曲の多くは,そのような変化について歌っている」

(Tracklist)

1.For All We Know
2.How High The Moon
3.Dance Me To The End Of Love
4.Sabor a Mi
5.All I Want
6.More
7.C’est le printemps (Prelude)
8.It Might As Well Be Spring
9.All Night Long
10.Stop This World
11.Fool On The Hill
12.Under The Same Moon
13.Sukiyaki (You Took Your Love Away)
14.I’ll Be Seeing You
(Bonus Tracks)
15.Sukiyaki (Altenate Version)
16.Sabor a Mi (Altenate Version)

 選曲は、レナード・コーエン、ジョニー・ミッチェル、ビートルズ、坂本九のヒット曲、ジャズ・スタンダードなどと多彩だ。しかし、そこには、パンデミック時の暗い社会の中での苦労や人間関係から一歩脱皮しての希望の展開を歌っているようだ。人の愛情にも女性としての生きざまに光を感じられるようになった様子が歌い込まれてもいるようだ。相変わらずのロレン節が展開されていて楽しい面も十二分に聴くことが出来る。

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M1."For All We Know" 低音の物憂げなヴォーカルでスタート。このしっとり感はロマンティックでもあり悪くない。彼女の今の心境を表現しているようで、未来を見据えているところが納得。そして陽気なジャズ・ギターの印象的なアップテンポの曲M2.へ繋がる。
M3."Dance Me To The End Of Love" コーエンの代表曲。悲しみも喜びも共に人生を歩もうという意欲の湧く曲を歌い込む。Mooreのベースが印象的。
M4."Sabor a Mi" ラテン・ボレロをスペイン語でジャジーにしっとりと歌いこむ。
M5."All I Want" ジョニ・ミッチェルの名曲、節回しが如何にもロレン節。
M6."More" 彼女の曲、切なる想いをピアノのバックと共に歌い上げる。
M7."C’est le printemps" フランス語でのスロー・バラード、なかなか芸達者に。
M8."It Might As Well Be Spring" 活発な曲展開で展望と渇望を歌い上げる
M9."All Night Long" なかなかスロー・ブルースを歌いこんでの心の暴露が聴き応えあり、この世界は彼女の従来のポップさとは別物だが、これからに力を入れてほしいところ。
M10."Stop This World" こちらはアップテンポに変調、ギター・ソロ、ピアノ・ソロと展開が曲を楽しく盛り上げ、彼女もヴォーカルも乗りに乗る。
M11."Fool On The Hill" 昔、セルジオ・メンデスのラテン・タッチが良かったので、つい比較してしまうが・・・まあ、彼女のコンテンポラリな世界を歌い描いていて、これはこれでよく聴くとなかなか面白い。
M12."Under The Same Moon" 切ない想いを歌い、感情の表現がなかなかうまい。
M13."Sukiyaki (You Took Your Love Away)" 上を向いて歩こう"がその軽快なリズムを生かして、悲しみも忘れて未来に展望を歌う
M14."I’ll Be Seeing You" 最後はバラード、しっとりと切ない想いが伝わってくる歌いこみ.
(ボーナス・トラック)
こちらの"Sukiyaki"は、しっとりバラード調。

 ジャージーな面が今作は強くなっていて、おそらくファンの期待度は満足だろうというところ。この6年間のいろいろな想いを彼女としては凝縮させて作り上げたアルバムの様だ。結論的には新しい出発ともいえる心意気が感じたところはよかったと思う。

(最近のヘイリー・ロレンの紹介文・・・ネットより) ヘイリー・ローレンは、国際的に受賞歴のあるジャズシンガーソングライターです。彼女は、昔ながらの音楽の道に新鮮で独創的な視点をもたらし、いくつかの言語で歌い、音楽の境界を越えたつながりについての生来の理解を導き、北米、アジア、ヨーロッパの多様な聴衆との絆を築きます。2008年のデビュー・ジャズCD『They Oughta Write a Song』は、2009年のジャスト・プレイン・フォークス・ミュージック・アワード(当時世界最大のインディペンデント・ミュージック・アワード)で「ベスト・ヴォーカル・ジャズ・アルバム・オブ・ザ・イヤー」を受賞し、アジアでは瞬く間にJVCケンウッド(ビクターエンタテインメント)と契約。その後、ヘイリーはさらに9枚のアルバムをリリースし、シンガーソングライターとして多くの賞を受賞しました。北米や世界各地では、カナダを拠点とするJustin Time Recordsと契約している。レコーディングの成功に加えて、ローレンのライブパフォーマンスは、権威あるインターナショナル・ブリット・フェスト・オーケストラ、ソウルのジャズ・パーク・ビッグ・バンド、シチリアのジャズ・オーケストラ、モンタナのグレイシャー交響楽団、オレゴン州のコーバリス・OSU交響楽団、オレゴン州のユージン交響楽団、ルイジアナ州のモンロー交響楽団との共演にまで拡大している。過去数年間、彼女は米国とカナダ、日本、イタリア、中国、香港、韓国、ハイチ、エジプト、英国、フランスなど、世界の他の地域を東西に旅してきました。ローレンは、米国や他の国を横断するツアーを続けており、彼女のツアーに他の国を追加することを楽しみにしています。ニューアルバム『Dreams Lost and Found』はケベック州モントリオールでレコーディングされ、2024年4月12日にリリース。

(評価)
□ 歌・編曲演奏  88/100
□ 録音      88/100

(試聴)

 

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コメント

アラスカ出身の美人JAZZ歌手さん、初めて知りましたがロック系曲のチョイスプロコルム青い影いいですね~!ジョニー・ミッチェル、ビートルズ、坂本九まで・・親近感が湧きます。

投稿: ローリングウエスト | 2024年4月20日 (土) 05時29分

ローリングウェスト様 コメント有難うございます
 ロック系のオネタナティブな因子の強いSSWをベースにしている彼女ですが、Jazzy not Jazz路線での人気があることから、パンデミックではかなりの苦汁を飲まされたようですが、久々にその線での曲をふんだんに盛り込んでのニューアルバムです。
 彼女なりきの高音への発声に裏返るような特徴がありますが、ロレン節として特徴あるところを作り上げているとも言えそれはそれとして受け入れています(笑)。
 もうデビューから20年近いわけでして、実力は備わっていて聴き応えはありますね。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2024年4月20日 (土) 13時39分

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