リズ・ライト Lizz Wright 「Shadow」
人生模様が物語風に展開して充実感たっぷりの世界
<Jazz>
Lizz Wright 「Shadow」
Concord / Import / 6945087 / 2024
Lizz Wright : Vocal
Adam Levy(g), Chris Bruce(g, key, b, perc)
Lynne Earls(el-p, g, hand perc), Glenn Patscha(p,el-p, org)
Kenny Banks, Sr.(p, org), Rashaan Carter(b)
Deantoni Parks(ds), Abe Rounds(perc)
Trina Basu(vln), Arun Ramamurthy(vln)
Katherine Hughes(vln), Elizabeth Brathwaite(vln)
Jeff Yang(vla), Melissa Bach(cello)
Brandee Younger (Harp)
Angelique Kidjo : Vocal
Meshell Ndegeocello: Bass
デビュー・アルバムのリリースから約20年が経ち、高い評価を得ているヴォーカリストのリズ・ライトが8thアルバムをリリースした。彼女に関しては、2017年のアルバム『GRACE』(Ucco-1192)がお気に入りだが、南部出身の彼女は、ゴスペルとソウルのスペシャリストである。1980年1月22日、米、ジョージア州生まれでいよいよ脂が乗ってきた。
教会の牧師で、音楽監督を務めていた実父の影響でブルース、ジャズに開眼する。ハイ・スクール時代は聖歌隊に参加、ナショナル・コーラル・アウォードという賞を受賞。その後ジョージア州立大学では本格的なバンド活動をスタートし、シンガーとしての頭角を現した彼女は卒業後、2003年、ヴァーヴ・レーベルと契約、アルバム『ソルト』でデビュー。2005年にはクレイグ・ストリートをプロデューサーに迎え、2ndアルバム『ドリーミング・ワイド・アウェイク』をリリース。ゴスペルで培った深みと憂いのあるスピリチュアル・ヴォイスで、オリジナリティ溢れるR&B/ブルースの世界を創り上げている。
今作はリズ・ライト自身の親族関係(祖母との別れ)の個人的な悲しみの経験から、悲しみを経て人間愛という力で自身の生きる希望への展開を織り交ぜたアルバムと見て取れる。
そして彼女のオリジナル曲は5曲登場し、それは"Root of Mercy"、"Circling"、"This Way"に加えて、Angelique Kidjoをフィーチャーした"Sparrow"、Meshell Ndegeocelloとの"Your Love"だ。そしてコール・ポーター、ジリアン・ウェルチ&デヴィッド・ローリングス、サンディ・デニー、キャンディ・ステイトン、トシ・リーゴン、ケイトリン・キャンティの曲を彼女の世界に導入し、ジャズやブルースからフォークやソウルまで官能的なボーカルで歌い込んでいる。
(Tracklist)
1. Sparrow (feat. Angelique Kidjo) *
2. Your Love (feat. Meshell Ndegeocello & Brandee Younger) *
3. Root of Mercy *
4. Sweet Feeling
5. This Way *
6. Lost in the Vallet (feat. Trina Basu & Arun Ramamurthy)
7. I Concentrate on You
8. Circling *
9. No More Will I Run
10. Who Knows Where the Time Goes
11. I Made a Lover’s Praye
(*印 彼女のオリジナル曲)
さすが、NYタイムズ紙がその歌声を「熟成したバーボンや上質なレザーを思わせるようななめらかでダークなアルト・ヴォイス」と称した彼女のヴォーカル世界にたっぷり浸かって、ゴスペルで培った深みと憂いのあるスピリチュアル・ヴォイスが響き渡り、オリジナリティ溢れるR&B/ブルースの世界を創り上げている。
彼女はこのアルバムについて、「ついに、私の人生を決定づける愛、祖母マーサを失う番がやってきた。彼女が私を愛してくれたおかげで、見知らぬ人たちの前で何年も歌い、決して孤独を感じないというバックボーンが生まれました。彼女は世界を小さく、暖かく見せた。彼女の長い変遷を見ていると、彼女の愛が私に残した印象と、それをどうするかについて考えさせられました。『Shadow』は、悲しみを辛抱強く感じ、探求すると同時に、喪失や不確実性を前にして、より明白で力強い愛を讃えた結果です」と語っている
M1. "Sparrow" 中音の落ち着いたヴォーカルで不幸から新しい物語の始まりの意欲的情景を描いてスタート。Angelique Kidjoの協力を得ている。
M2. "Your Love" Meshell Ndegeocelloのベースの活力ある音で進行し、そしてBrandee Youngerの希望に満ちたハープ音とで描く世界。そこには愛の未来への希望が歌われる。
M3. "Root of Mercy" 低音でしっとりとしたヴォーカル。
M4. "Sweet Feeling" Candi Stantonの曲でソウル感あふれたブルースが圧巻。
M5. "This Way" 物憂げではあるが、自分の歩む道に堂々とした展望の雰囲気を見せている見事なスローバラード。
M6. "Lost in the Vallet" フォークぽい世界
M7. "I Concentrate on You" 迷いのない心を訴える
M8. "Circling" 彼女の曲だが、優しさと明るさがあるところが救われる。
M9. "No More Will I Run" 訴える響きが見事な歌声。
M10. "Who Knows Where the Time Goes" 情景が描かれ見事に心に訴えるが如く歌い上げる
M11. "I Made a Lover’s Praye" アコースティック・ギターの落ち着いた調べて、人生の意欲を見事に力みなく響かせるヴォーカル。
いっや・・・、感動のアルバムですね。とにかく無駄な曲が無く充実していて、彼女の歌声と共に聴けば聴くほど味わいが出てくる。このアルバムには彼女のステートメントが存在し、それはアメリカ文化の評価と社会の複雑な分断を極めつつの愛と人間性への焦点を当てての世界は深い。アンジェリーク・キジョーとメシェル・ンデゲオチェロが参加した意義も大きい。バック演奏ではアコースティックギターを軸に、弦楽四重奏、ハープ、オルガン、ゴスペル・ヴォーカルなどが厚みを構築している。今年の名盤として推薦できるアルバムである。
(評価)
□ 曲・歌・演奏 : 90/100
□ 録音 : 90/100
(試聴)
*
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コメント
風呂井戸さん,こんばんは。リンクありがとうございました。
Chris Bruceのプロデュースもよく,今回もいい作品を届けてくれました。昨今の動静があまり伝わらないCassandra Wilsonのポジションは,完全にLizz Wrightが補えると確信できるアルバムを連発していますね。
是非また生で聞いてみたい人です。来日してくれませんかねぇ。
ということで,当方記事のリンクを貼り付けさせて頂きます。
https://music-music.cocolog-wbs.com/blog/2024/04/post-4f608e.html
投稿: 中年音楽狂 | 2024年4月28日 (日) 21時55分
中年音楽狂様
コメントそしてリンク有り難うございました。
>Cassandra Wilsonのポジションは,完全にLizz Wrightが補えると確信できるアルバムを連発していますね。
そうそうそのあたりに我々の要求は行くことになりますね。そこで納得なんですね(笑)。
しかし実力は確実に付いていて、見事でした。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2024年4月29日 (月) 10時44分