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2024年5月29日 (水)

フランス・バク、シーネ・エイ Frans Bak feat.Sinne Eeg 「Softer Than You Know」

人生の感謝の世界を歌い上げる

<Jazz, Popular>

Frans Bak feat.Sinne Eeg 「Softer Than You Know」
Storyville Records / Import / 101 4359 / 2024

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Frans Bak - piano
Sinne Eeg - vocals
Peter Sprague - guitar
Thomas Vang - bass
Emil de Waal - drums
August Wanngren - choir (track 1,3, 5, 6, 7)
Fredrik Lundin - saxophone (track 4)
Hans Ulrik - saxophone (track 6)

All tracks = Music: Frans Bak, Lyrics: Helle Hansen
Recording: The Village Recording, Copenhagen, Denmark, September 2022

 デンマークの重鎮作曲家兼ピアニスト、フランス・バク(下中央)が、自らのオリジナル曲で最新プロジェクトとしてバラード・アルバムをリリース。曲の作詞は、やはりデンマークでミュージシャン・作詞家・教師で活躍しているヘレ・ハンセン(下右)によるものとか。 収録曲は10曲のバラードで構成され、日本でも人気のヴォーカリスト、 シーネ・エイ(下左)がボーカルを担当ということで聴くに至ったものである。

 フランス・バクFrans Bak(1958年デンマーク・コペンハーゲン生まれ)は、デンマーク王立音楽院を卒業後、数々のバンドを結成し、クラシック音楽をさまざまなジャンル、サウンド、現代のテクノロジーと融合させ、アンビエント、メロディック、アトモスフィアなど、独自のサウンドを生み出してきた。80年代から90年代にかけて、ピアニスト、バンドリーダー、作曲家としての役割を両立させ開花。デンマークの多くのアーティストとコラボレーションし、映画音楽やTVシリーズの音楽の作曲でも高い評価を得ている。特に、映画のサウンドトラックの世界に25年の国際的なキャリアを築いてきている。
 シーネ・エイSinne Eeg(1977年デンマーク生まれ)はスカンジナビア屈指の女性ジャズ・ヴォーカリストと言われ、このブログでも何度か登場している。彼女の感情豊かな声で聴衆を魅了し、魅惑的なパフォーマンスとともに国際的な称賛と人気を得ている。デンマーク音楽賞の最優秀ボーカル・ジャズ・アルバム賞を4回受賞するなど、数々の賞と称賛を受けている。

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 レコーディングには、トーマス・ヴァング(ベース)、エミール・デ・ワール(ドラムス)、ピーター・デ・ワール(ベース)、ハンス・ウルリック(サックス奏者)など、豪華なメンバーが参加。

(Tracklist)

1. Softer Than You Know
2. Lonely Waltz
3. Out of the Blue
4. Stay With Me
5. 1-2-3
6. Ready Again
7. Is This It
8. When I’m Near You
9. I Will Never Let You Down
10. Close Your Eyes

  フランス・バクが、彼の音楽の原点へのノスタルジックな回帰を示す最新プロジェクトで、ジャズとポップスの融合と表現しているところのゆったりとしたソウルフルなメロディーにての曲で、しかもヘレ・ハンセンの歌詞がまた心に響くもので、このバラードアルバムを造り上げている。
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの間、バクは自分のバンドのサウンドに夢を抱き、サックス奏者のフレドリック・ランディンとの偶然の出会いがきっかけで音楽への情熱が再燃したとか。そして作詞家のヘレ・ハンセンとのコラボレーションによって曲を仕上げて、シーネ・エイの魅惑的な歌声を得て、フルアルバムの制作に至ったようだ。

 とにかく非常に優しく聴くものすべてに心地よさを提供できるような心温まる曲であり、シーネ・エイもジャズ・ヴォーカルというイメージでなく、ちょっと世界が変わったような自分を見つめる素直な真摯な気持ちで歌い上げている。(下に歌詞を紹介する)

(タイトル曲の歌詞)「Softer Than You Know」
5946964413926w In the silence
Within a moment
All becomes apparent
And it′s clearer than you know
And it's nearer than you know

Whirls of snowflakes
A dance on ice skates
Frosty childhood keepsakes
And it′s brighter than you know
And it's lighter than you know

Every memory unlocking a world
That you used to understand
And its magic is fully unfurled
In the end descending
Till it lands on your hand

Like a sunray
A flying bobsleigh
Candles on a birthday
And it's softer than you know
Like an ember, like a glow
Like the whisper of the snow
So much softer than you know

静寂の中で
一瞬のうちに
すべてが明らかになります
そして、それはあなたが知っているよりも明確です
そして、それはあなたが知っているよりも近いです

雪の渦
アイススケートの上でのダンス
冷ややかな子供時代の記念品
そして、それはあなたが知っているよりも明るいです
そして、それはあなたが知っているよりも軽いです

すべての記憶が世界を解き放つ
あなたが理解していたこと
そして、その魔法は完全に展開されます
最後は下降
それがあなたの手に着地するまで

太陽の光のように
空飛ぶボブスレー
誕生日のキャンドル
そして、それはあなたが知っているよりも柔らかいです
燃えさしのように、輝きのように
雪のささやきのように
あなたが知っているよりもずっと柔らかい

 こんな雰囲気でアルバム全体が経過する。感謝の心の歌と言って良いのかも・・・クリスマスソングを聴いているような雰囲気もあり、どうもジャズと言うには別世界と私は思うのであるが(M4"Stay With Me"はLundinのSaxが入って少々ジャズっぽいが)、時にはこの世界も良いものである。

(評価)
□ 曲・歌詞・歌  88/100
□ 録音      85/100
(試聴)

 

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2024年5月24日 (金)

ミシェル・カミロ、トマティート Michel Camilo & Tomatito 「SPAIN FOREVER AGAIN」

息の合ったラテン・ジャズ・ピアノとフラメンコ・ギターのデュオ作品

<Jazz>

Michel Camilo & Tomatito 「SPAIN FOREVER AGAIN」
Universal Import / UNIP58786422 / 2024

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Michel Camilo : piano
Tomatito : Guitar

 ラテン・ジャズ・ピアノのドミニカ共和国出身の超絶技巧ピアニスト=ミシェル・カミロと(下左)、フラメンコ・ギター界のトップ・アーティスト=トマティート(下右)のコラボレーションのデュオ作品第4弾。

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 この両者のコラボレーションは1997年のバルセロナ・ジャズ・フェスティヴァルでの共演で意気投合してからスタートし、その後『スペイン』(2000年)、『スペイン・アゲイン』(2006年)、『スペイン・フォーエヴァー』(2016年)と3枚のアルバムを発表し、ここに8年ぶりに再び両者でのニューアルバムである。
 情熱的なエモーショナルな演奏で喝采を浴びてきた中で、総決算アルバムと思わしきアルバムの登場である。そして私としては、好きなロドリーゴの「アランフェス協奏曲」が演じられているので、興味深々であった。

Michelcamilotomatitow (Tracklist)

1.Alfonsina Y El Mar 04:40
2.Mambo Influenciado 03:31
3.Antonia 04:23
4 Remembrance 06:29
5.Nardis 04:36
6.La Leyenda Del Tiempo 03:41
7.Aranjuez: 1. Allegro Con Spirito 05:58
8.Aranjuez: 2. Adagio 09:57
9.Aranjuez: 3. Allegro Gentile 05:09

 ピアノとギターのデュオは、聴きようによってはピアノが意外に引っ込んでしまうのだが、このアルバムでは録音・ミックスにおいても、もちろん演奏も全く両者対等に仕上げられている。交互に旋律を演奏して片方がバックに廻って美しく又楽しく聴かせ、時にユニゾン、時にハーモニーといった形をとって、どちらかというと楽しさが感じられる演奏であった。
   演奏曲はフォルクローレ、マンボ、フラメンコから、パット・メセニー、マイルス・デイヴィスのナンバーまで、多種多彩ジャンルに及んだ選曲。

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 M1."Alfonsina Y El Mar"はアリエス・ラミレスの曲でなかなかロマンテイックな味を出し、M3."Antonia"は、パット・メセニーの名曲で、味わい深い世界を描く。
   M5."Nardis"マイルス・デイヴィスが書いた佳曲、哀愁漂うエキゾチックなメロディが聴ける。
 しかし注目は何といってもM7.,M8.,M9.のロドリーゴの名曲ギター協奏曲「アランフェス協奏曲」(1940年初演)全楽章をデュオで演奏していることだ。アルバムのクライマックスで、圧巻のパフォーマンスを披露。この曲は第2楽章のメロディーが最も有名で私の好きな曲。戦争の悲惨な状況でのスペインと古都アランフエスの平和への想いを込めて作曲したと言われている。それは病によって重体となった妻や失った初めての子供に対する神への祈りが込められているとも言われているものだ。ここでは、ピアノ、ギターの旋律が交互に響き非常に美しくもあり、何となく哀しくもあり、真摯に心に響いてくる出来だ。

 久々にピアノとギターのデュオを聴いたが、それぞれの持ち味を十分に生かした編曲演奏で文句ない出来だ。聴くにあたっても意外に楽しく気楽に聴ける。そしてアランフェスでしっかりと気持ちを清らかに落ち着かせてくれて旨いアルバム造りでもあった。

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏  88/100
□ 録音        88/100
(試聴)

 

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2024年5月19日 (日)

ダグ・アーネセン Dag Arnesen Trio 「ICE BREAKING」

メロディー主導型からトリオでの多くのジャズ要素に挑戦

<Jazz>

Dag Arnesen Trio 「ICE BREAKING」
LOSEN RECORDS / Import / LOS 296-2 / 2024

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Dag Arnesen (piano)
Magne Thormodsæter (bass)
Øyvind Skarbø (drums except 9)

Recorded November 19– 21, 2023 by Davide Bertolini
at Griegakademiet Studio, Bergen, Norway
Mixed January 17 and 23, 2024
by Davide Bertolini at Griegakademiet, Bergen
Mastered February 2024 by Morten Lund
at Lund’s Lyd, Oslo, Norway

  1970年代から既に半世紀の評価ある活動の歴史がある中で、近年、ノルウェーの伝統的な音楽やメロディを取り入れノルウェーの音楽文化とジャズの融合を探求したアルバム『Norwegian Song』シリーズ(ⅠからⅣの4枚のCD,2007-2017)が人気を呼び、日本でもおなじみのピアニストのダグ・アルネセン(1950年ノルウェー-ホルダラン県ベルゲン生まれ 下左)の最新ピアノ・トリオ作品。彼はクラシック・ピアノからノルウェーの音楽遺産やグリーグなどの作曲家/ピアニストたちからインスピレーションを受けての美しい世界を築いてきている。

 今回のトリオは新生で、ベースのマグネ・トルモドセーター (下中央)は、ノルウェーでジャズ・ミュージシャンとして活動。作曲家でもあり、グリーグ・アカデミー(出身地ベルゲン)の准教授でとしても活躍する。 ドラムスのオイヴィン・スカルボ (下右)は、グリーガ・アカデミーのテリエ・イスンセに師事し、ノルウェー、キューバ、ナイジェリアの伝統音楽も研究している。ノルウェーの即興音楽シーンを牽引する存在であり、数多くのバンドのメンバーやオーガナイザーとして活躍している。  
 今回のアルバムは、2曲を除いて全曲アーネセンの新作オリジナルが収録。相変わらず聴く者をして一種独特な北欧の世界に導いてくれる。

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(Tracklist)

1. A New One 5:48
2. Ice Breaking 4:33
3. Sarah 5:00
4. That's OK 4:52
5. Podstrana 5:40
6. Bim Bam Bom 4:27
7. After Dinner 5:42
8. Jumping Around 4:34
9. A Special Memory 4:18 (p & b duo)
total time 44:54
*all compositions by Dag S. Arnesen

 メロディーが過去の彼の作品のテーマであったと思うが、このアルバムは進化と言えるのだろうか、音楽的により多くの要素が含まれた多様なアプローチがなされている。例えばリズムやハーモニーが中心的な役割と思われる曲もある。ピアノの響きはなかなか精緻で丁寧な印象でクリアー・タッチ。ベースも印象を深める貢献が大きく、ドラムスも的確にグルーヴ感とスリルを演じている。

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 やはり従来のメロディラインが魅力的なスタート曲M1."A New One"、そして続くアルバム・タイトル曲M2."Ice Breaking "、愛猫に捧げた曲らしいM3."Sarah "では、従来の枠から一歩進んでの形を破る意味合いも込めてトリオで描くジャズ・グルーブとスリルをも楽しんでいるが如くである。
 注目は、複雑なコードの繋がりの味を楽しめるM7."After Dinner"など、彼の音楽的世界の一面を見せている。
 又昔に作曲されたM9."A Special Memory"は、ノスタルジックな味を記憶をたどるように聴かせてくれる。一方やはり古い異色の曲M6."Bim Bam Bom "などのかっての試みを再び再現しているような、これも一つの回顧なのかもしれない。
 M8."Jumping Around"も、今回のアルバムの特徴としての美メロディーに留まっていないところを主張しているようだ。

 従って、彼の『Norwegian Song』のアルバムのような北欧の風土色や独自の心象スケッチ傾向を感じさせるところもあるものの牧歌的・美メロディー、リリカルな世界に期待するとちょっと、それだけに留まっておらず、バラードからアップビートの曲もあり、躍動的なフレーズには意外性を感ずるところがあった。しかしその変化も適度でハード・バップの本道にあり、70歳超えての進化と言うかそんな姿勢だけでも頭が下がるところである。

(評価)
□ 曲・演奏   88/100
□ 録音     88/100

(試聴)

 

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2024年5月14日 (火)

ティム・レイ TIM RAY TRIO「FIRE & RAIN」

グルーヴ感あるバップ・ジャズに叙情性のあるバラードも

<Jazz>

TIM RAY TRIO「FIRE & RAIN」
Whaling City Sound / Import / WCS137 2024

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Tim Ray (piano) (keyboard on 03, 07, 11, 13) (melodica? or accordion? on 04)
John Lockwood (bass except 03) (electric bass on 03)
Mark Walker (drums) (percussion on 03, 04, 07, 12, 13)

   アメリカのベテラン・ピアニスト、ティム・レイTim Ray(下左)が、2014年からのジョン・ロックウッド(b,下中央)、マーク・ウォーカー(d,下右)を迎えてのジャズとしては私が好むピアノ・トリオ・スタイルで吹き込んだ最新作。彼はボストンを中心に活躍しているが、2021年まで伝説のボーカリスト、トニー・ベネットの音楽監督兼ピアニストであり、現在は教育者(全米芸術基金からの助成金の受給者であり、バークリー音楽大学の教授)としても活躍中。サイドマンとして100以上のレコーディングに参加しているが、リーダー作は『Excursions & Adventures』、『Windows』(Trio作品, 2016)、『Ideas & Opinions』(1st 1997,Trio作品 Lewis Nash(d), Rufus Reid(b))、『Tre Corda』(2nd, 2003)、『Squeaky Toy』(2013)、『On My Own Vol. 1』(ピアノ・ソロ)の6枚のアルバムをリリース。しかし過去に私自身は彼の作品にあまり深く関係してこなかった。

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 今回は、彼自身が敬愛する音楽界のヒーローの作品を取り上げ、現代的にアプローチしたもので、ジャズそのものにも迫るほど良いグル-ヴ感溢るる作品ということでここに聴いてみた次第である。
 もともと彼のジャズ・スタイルは、ハード・バップ系とみてよいのだろうが、ジャズ特有のアンサンブルやハーモニーも重要視していてのどちらかと言うと私好みのブルース系とは違ったファンキー・バップ色が濃いが、メロウ&スウィート・テンダーな色合いもみせて結構楽しめるアルバムが出来ているので取り上げてみた。 

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01. Bye-Ya
02. Stolen Moments
03. NO Worries
04. The Meeting: The Jbug and the Kman
05. Mojave
06. Theodore the Thumper
07. Fire and Rain
08. Lawns
09. Moon in the Sea
10. Improv #1 (for Chick)
11. Nighttime
12. The Windup
13. Fire and Rain (radio edit)

  ダイナミックなトリオ・アンサンブルに満ち満ちている展開から、バラードとロマンティックな色合いまで聴かせる内容たっぷりのアルバムだ。

 モンクのM1. "Bye-Ya"で、ちょっと難解だが、ジャズの醍醐味のアンサンブルの楽しさでスタートし、オリバー・ネルソンのブルース調のM2. "Stolen Moments"でジャズの奥深さを聴かせる。
 M3. "NO Worries" ジャレットの曲をグルーヴィーに展開、ここではエレキ・キーボードを使用しお見事。メンバーの年期を感ずる仕上げ。
 M4. "The Meeting: The Jbug and the Kman" 家族の世界か、ぐっと美しいピアノで・・後半は盛り上げ最後は再び静の美。
 M5. "Mojave" アントニオ・カルロス・ジョビンの曲を繊細にリズムカルに。
 M6. "Theodore the Thumper" 明るめのブルースフィーリングの登場に驚き、ドラムスの響きも楽しい
 アルバム・タイトル曲のM7. "Fire and Rain" ジェームス・テイラーの曲で決して明るい曲ではないがハーモニーなど聴きどころ満載
 M8. "Lawns" 極めて静かな安堵感にも通ずる曲で、ほっとして聴ける
 M9. "Moon in the Sea" 多彩な情景が浮かぶロマンティックなムードも聴かせ、中盤のベースとピアノの静かな世界が魅力
 M10. "Improv #1 (for Chick)" ちょっとフリージャズっぽい展開
 M11. "Nighttime" 当初のイメージと異なって心に響く優しさと美しさ、後半の流麗なピアノ・プレイは圧巻、最後は再び静の世界に
 M12. "The Windup" アクティブなアンサンブルでの終結、ドラムソロが印象的

 なかなか粋なファンキー節が込められ、三者の掛け合いの味が見事なバップ系のタイプが主力で、ダイナミック・スウィンギンなジャズの程よいグルーヴ感があって良好。そしてそれに留まらずバラードや抒情性の濃いロマンティックな曲が流れてきてぐっと心をつかむのがうまい。そのあたりは結構期待以上にスウィート・テンダーなフレーズが顔を出しメロウな美メロ・センスをちゃんと聴かせるところが魅力。最終的にはなかなかの名盤という感じであった。

(評価)
□ 編曲・演奏  90/100 
□ 録音     88/100
(試聴)

*

 

 

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2024年5月 9日 (木)

魚返明未 Ami Ogaeri Trio 「Terasu 照らす」

抒情性、深淵なところからアクション展開まで・・・見事な世界が描かれる

<Jazz>

Ami Ogaeri Trio 「Terasu 照らす」
ReBorn Wood / JPN / RBW0031 / 2024

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魚返 明未 (piano)
高橋 陸 (bass)
中村 海斗 (drums)

ReBorn Wood Studios(東京都板橋区本町)録音
2024年日本作品

 気鋭のピアニスト・魚返明未(おがえりあみ、1991年生まれ 下左)の3rdアルバム登場。現代ジャズシーンで既に実績のある若き才能、高橋陸(b, 下中央)、中村海斗(ds, 下右)とのトリオ編成で、より魚返のダイナミックでありながら深淵にして繊細な演奏が満ち溢れた作品となっている。
 また、彼は近年ではジャズピアニストとしての活動に加え、映画音楽の制作でも活躍中。中でも昨年公開された映画『白鍵と黒鍵の間に』で話題になり、各方面より高い評価を得ている。

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 魚返明未の経歴を持て見ると、 4歳からピアノを始める。1998年より東京学芸大学附属小学校・中学校経て。2007年東京学芸大学附属高等学校に入学。モダンジャズ研究部に入部し、ジャズピアノに転向。
 2013年4月 東京藝術大学音楽学部作曲科に入学。2015年7月、大学在学中に初リーダーアルバム『Steep Slope』をタワーレコード限定リリース。2016年8月、ファゴット奏者岡崎耕治のアルバムにて自作曲「2つの小品」を発表。2017年3月 東京藝術大学音楽学部作曲科を卒業。    2018年10月 初のフルアルバム『はしごを抱きしめる』をリリース。現在、魚返明未トリオ(高橋陸、中村海斗)、魚返明未&井上銘(デュオ)、その他様々なバンドでライブ活動
 これまでにクラシックピアノを佐藤恵美、作曲を山口博史、森垣桂一、鈴木輝昭に師事。「Point de Vue vol.12」(2018年4月25日東京文化会館)で、「Switch On, Switch Off」を発表。「Point de Vue vol.16〜TRIO VENTUSを迎えて」(2023年4月19日東京文化会館)では、作曲したクラシック演奏家によるピアノ三重奏曲「Impose Nothing」を初演。

  ここに新進気鋭ミュージシャンと抒情的かつ深淵な世界を表現した待望のピアノトリオ作品。

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01. 曇り空
02. 洞窟
03. 照らす
04. アルコールジェル (Alcohol Gel)
05. 間奏曲I (Interlude I)
06. 棘
07. Normal Temperature
08. 間奏曲II (Interlude II)
09. 昨日の雨
10. 夏の駅
11. かけら
(all songs written by Ami Ogaeri)

  いっや・・なかなか奥深く、抒情性があると同時に深淵にして、ちょっと哲学的深さを描くところがあったと思いきや、スリリングにしてダイナミックな攻撃的演奏をも展開するという一大絵巻を展開している。トリオ・メンバーの若さが信じられないキャリアを感ずる演奏だ。

M1."曇り空" 硬質なピアノの音による深遠な世界。抒情的な美をも感ずるところ。後半の盛り上がりよる華々しさも。
M2. "洞窟" ピアノの流れるような演奏とドラムスのソロはじめ展開が印象的。
M3. "照らす" 一線の光が照らす如き、静に描くピアノそしてユニゾンするベース、静かに刻むドラムスの音。
M4. "アルコールジェル (Alcohol Gel)"  アバンギャルドな展開、三者のバトルが楽しい。
M5. "間奏曲I (Interlude I)" 物思いにふけるような思索性のある世界。
M6. "棘" いばらを連想する攻めの曲、ドラムスの控えめな音によるシャープな速攻とベース、ピアノの意志の強い展開。
M7. "Normal Temperature" ジャズの醍醐味である速攻のトリオのインプロ交えてのスリル満点の8分を超える演奏は見事。このアルバムの一つの頂点に。
M8. "間奏曲II (Interlude II)" 再びゆったりと静かな世界に。
M9. "昨日の雨" ぐっと落ち着いた世界を描く、ピアノとともにベースの語りに近い演奏も聴きどころ。
M10. "夏の駅" 駅をテーマに、新たに始まる未来ある展開を期しているような雰囲気。
M11. "かけら" 前曲がこのアルバムの一つの収めにふさわしいところだが・・・ここに安堵にも近い更にぐっと落ち着いた世界を描いている。

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 自作曲集で見事に仕上げられたアルバムだ。魚返のピアノは適度な硬質感で流麗にして情緒たっぷりにして叙情性があり、又若さ溢れる攻撃的なアクションも聴かせるところは驚きであった。
 ベースの高橋もサポート役に留まらず、うねり感ある演奏とある意味対等にM4.あたりでは攻め合うところもあって快感。ドラムスも快調な展開とかなり神経の繊細な音でシャープにリズムを刻んでくる。ちゃんとM7.はじめ曲によってトリオ・ジャズのクルーヴィーな表現も聴きとれて、この辺りもお見事。
 アルバム作成に於いて、トータルとしての感覚で、間奏曲を交えての曲の組み合わせの構成も見事と言える。久々の若き日本男子の素晴らしいトリオ作品に出合えた。

(評価)
□ 曲・演奏 90/100
□ 録音   88/100

(試聴)

*

 

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2024年5月 4日 (土)

インギ・ビャルニ・スクラソン Ingi Bjarni Trio 「 Fragile Magic」

北国らしい神秘性と叙情性が感じられる世界

<Jazz>

INGI BJARNI TRIO 「Fragile Magic」
Skarkali / import / IBS003 / 2024

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Ingi Bjarni Skúlason – piano
Bárður Reinert Poulsen – bass
Magnús Trygvason Eliassen – drums

Nyglerauguwebw   アイスランド・フェロー諸島出身のジャズ・ピアニスト、インギ・ビャルニ・スクラソンIngi Bjarni Skúlason(→)率いるピアノ・トリオ作品。彼は、既に6枚のアルバムをリリースしているが、トリオものは3枚目のようだ。私は今回初めて彼のアルバムを聴いた。経歴は、オランダのデン・ハーグでジャズ・パフォーマンスの学士号を取得し、その後、ヨーテボリ大学で作曲の修士号を取得した。コペンハーゲンとオスロで交換留学を行ったとの紹介がある。
 彼はピアニストであり作曲家でもあり、即興のサウンド・マジシャンの評価で魅惑的な音色と詩的なメロディーを作り上げ、「表現の自由と、叙情的で自由な即興演奏の両方のためのスペースを備えた独自のフォークミュージック」との紹介がある。ユニークなサウンドと即興演奏への革新的なアプローチで賞賛されているようだ。

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 そしてトリオ・メンバーは、同じくフェロー諸島出身のコントラバス奏者バルズル・ライナート・ポウルセン(上右)とアイスランド人のドラマー、マグナス・トリグヴァソン・エリアセン(上中央)という同郷の三人。 このトリオは、Nordic Jazz Comets、Jazzahead 、VetrarJazz、コペンハーゲン・ジャズ・フェスティバル、レイキャビク・ジャズ・フェスティバルなどの数多くフェスティバルに出演してきたと。そして2018年にはアイスランド音楽賞の年間最優秀ジャズプレイヤーにもノミネート。更に2020年春、クインテットでの録音『Tenging』でアイスランド・ミュージック・アワードに5部門にノミネートされ、最も有望なアイスランドのジャズ・アーティストとして表彰された。硬質さとエレガンスが共存するフォーキーなピアノトリオと評されている。

(Tracklist)

1.Impulsive 06:16
2.Fragile Magic 05:20
3.Visan 05:33
4.Glimpse 05:56
5.Suburb 03:29
6.Úti á götu 05:55
7.Introduction 03:42
8.My Sleepless Nights in June 03:33
9.Einn, tveir, þrír 06:17

   「冷涼な空気感の中に、北の国らしい抒情性が込められたピアノトリオ演奏」と記されたモノがあったが、なんとなく神秘的で世俗から一歩離れた感覚になる世界である。主体は即興演奏からの発展系なのか、アルバム・タイトル曲のM2."Fragile Magic"では、"はかない魔術"ということであろうか、静かな世界に、ピアノによる美しいメロディーが奏でられ、それをベースが独特に叙情的に発展させ、再びピアノが更にその流れから発展し展開する形をとって、私の感覚では、冷涼と言うよりはむしろ季節の自然の変化との対面による厳しい環境下からむしろゆったりと開放的に受け入れる季節の到来に人間的な暖かさを感ずるところがある。非常に叙情的であり、又その中に詩情があって素晴らしい。

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 とにかく全編淀むところが無く、一つの物語の展開の中に没入出来て神秘的な世界を感ずることが出来る。
 又、このトリオのスタイルは、それぞれの描くところが即興の中に綿密な互いの結びつきがあって快感である。特にピアノの美しい流れに加えて、ベースのメロディー及び時に見せるピアノとのハーモニーとユニゾンが魅力的であり、ドラムスは地味ではあるが確かなサポートが大きい。このようなユニークで即興重視の世界はなかなか安易には構築できないと思われ、今後も更に発展して行って欲しいと願うところである。

(評価)
□ 曲・演奏   88/100
□ 録音     88/100

(試聴)

 

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