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2024年6月28日 (金)

アルージ・アフタブ Arooj Aftab 「Night Rein」

暗さの中の美と展望という一種独特な世界はまさに聴き応えあり

<Jazz, New-age, Electronic Trance>
Arooj Aftab 「Night Rein」
Universal Music / jpn / UCCV-1199 / 2024

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Arooj Aftab(vocal)
Kaki King(guitar,gryphon)
Vijay Iyer(piano)
James Francies(juno,rhodes)
Joel Ross(vibraphone)
Cautious Clay(flute)
Maeve Gilchrist(harp)
Chocolate Genius Inc(piano,bass,synth,strings)
Moor Mother(voice)

Aroojaftabheadshotw   このアルバムは、アルージ・アフタブ(1985年生まれ)という女性ヴォーカリストの私にとっては初ものである。彼女は前作アルバム『Vulture Prince』(2021)で第64回グラミー賞にて最優秀新人賞にノミネート、そのアルバムの中の曲"Mohabbat"で最優秀グローバル・ミュージック・パフォーマンス賞を受賞したことで一躍話題となったニューヨークのブルックリン在住のシンガー・ソングライターで、パキスタン出身、バークリー音楽大学を卒業している。いずれにしてもパキスタン初のグラミー賞受賞となり人気のミュージシャン。そしてこのアルバムは、メジャー(Verve)からのソロ・デビュー・アルバムである。
 さてこれは、彼女のインスピレーションの源である夜をイメージし描いたもので、夜の暗闇になってから現れる、「恋」、「孤独」、「内省」等の多面的な感情を掘り下げているとの説明があり、そんなところをイメージしての自己のオリジナル8曲+スタンダード1曲の全9曲を収録しているようだ。静けさの中にどこか暗さと哀感があるのだが、むしろ訴えるという力を感ずる歌声は聴きどころだ。 

 

(Tracklist)

1. Aey Nehin 彼はこない
2. Na Gul 花でなく
3. Autumn Leaves (ft. James Francies)枯葉 (feat.ジェイムズ・フランシーズ)
4. Bolo Na (ft. Moor Mother & Joel Ross)話してよ (feat.ムーア・マザー、ジョエル・ロス)
5. Saaqi (ft. Vijay Iyer) 恋人 (feat.ヴィジェイ・アイヤー)
6. Last Night (Reprise) (ft. Cautious Clay, Kaki King, Maeve Gilchrist)月のように (feat.コーシャス・クレイ、カーキ・キング、メイヴ・ギルクリスト)
7. Raat Ki Rani 夜の女王
8. Whiskey ウイスキー
9. Zameen (ft. Chocolate Genius, Inc.)大地 (feat.チョコレート・ジーニアス)

  なかなか中低音域の魅力のある暗いと表現される中に宿る力強さの歌声が印象的である。

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 スタートのM1."Aey Nehin"では、GUitar、Vibraphone、Harp などの美しいバック演奏に、リズムは軽快だが、ぐっと歌声は暗い世界が描かれ内省と孤独感が伝わってくるが、最後のハミングなど美しい。
 注目のM3."Autumn Leaves"は、唯一聴きなれた曲だが、James Francies(juno,rhodes)の演奏が面白い。しかし歌うメロディーはぐっと暗く編曲され異様な「枯葉」である。
 M4." Bolo Na"このベースのリズムの効いた曲はパキスタンとの関係があるのか、その伝統のイメージが生かされているように察した。
 M6."Last Night" はトランス風の世界。
 このアルバムの「夜」に焦点が当てられている中でのM7."Raat Ki Rani"(夜の女王)は、東南アジアでよくみられる夜にしか咲かないジャスミンの花の名前とか、彼女の朗々と歌い上げるが、バックのPianoとHarpの音とともに美への展望の高揚が感じられるところが注目。
 M8."Whiskey "は、彼女は「好きな人と夜遊びをしていて、盛り上がってしまったときのことを歌っていて、友人は飲み過ぎたし、私は疲れていて、どうやって二人で家に帰るか考えないといけない。こんなこの夜との交流はまだかわいいものです」と説明しているとか、この曲はアルバムでは暗さの範疇の曲でなく、むしろ優しさを感ずるところだ。

 とにかく、バック・アーティストの描く世界の効果が、所謂ありきたりのジャズとは一線を画し、一種独特な美しい世界を描き、そこに彼女のこれ又一種独特の世界を持ったヴォーカルによって作り上げられていて、ニュー・エイジ、トランス風の幻想的であり又南アジア・パキスタンという雰囲気も加味されているのか、聴きなれない異国を感ずるところにもある。そしてテーマの「夜」というところに彼女の歌声は響き、これまた独特な暗さを持ちつつ美と展望を描くという稀有なミュージックに遭遇したという印象だ。それは決して悪いものでなく、むしろ歓迎すべき味を持っているというのが本音である。

(評価)
□ 曲・演奏・歌  88/100
□ 録音      88/100

(試聴)
"Raat Ki Rani"

*
"Aey Nehin"

 

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2024年6月23日 (日)

エンリコ・ピエラヌンツィ Enrico Pieranunzi 「HINDSIGHT - Live At La Seine Musicale」

ピエラヌンツィ流メランコリックとグルーヴ感溢るる即興と・・・

<Jazz>

Enrico Pieranunzi 「HINDSIGHT - Live At La Seine Musicale」
Free Flying / Japan / FFPC004 / 2024

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Enrico Pieranunzi (piano)
Marc Johnson (bass)
Joey Baron (drums)

Concertienricopieranunzi1w  私が愛するヨーロッパ・ジャズのパイオニア的な存在であり、イタリアが世界に誇る抒情派ピアノの大御所と言われるエンリコ・ピエラヌンツィ(1949年ローマ生まれ →)のここでは1年半ぶりの登場だ。今回のアルバムは彼のキャリアの中でも重要なトリオ・メンバーのマーク・ジョンソン(b, 1953年米国ネブラスカ州生まれ、下左 )とジョーイ・バロン(d, 1955年米国バージニア州生まれ, 下右)との初録音作品から35年を記念して再集結し、パリの芸術拠点ラ・セーヌ・ミュジカルLa Seine Musicaleに興奮を巻き起こしたといわれる2019年12月のライブの模様を収めたアルバムである。

 コンサートの提案もピエラヌンツィ自身から始まったとのことで、演奏には、この3人で音楽を奏でる喜びの伝わってくるような演奏で、楽曲は1曲をのぞき、全てピエラヌンツィのオリジナル曲だ。そし録音・ミックスはStefano Amerioで好音質で聴くことが出来る。

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(Tracklist)

1. Je Ne Sais Quoi 6:54
2. Everything I Love 5:28
3. B.Y.O.H. (Bring Your Own Heart) 7:23
4. Don't Forget The Poet 9:16
5. Hindsight 7:27
6. Molto Ancora (Per Luca Flores) 5:54
7. Castle Of Solitude 5:21
8. The Surprise Answer 6:00

 メロディーやハーモニーの美は勿論、近年ダイナミックなスイング感をも重んじてのピエラヌンツィ独自の世界が見事に展開する。ヨーロピアン独特のアートな色合いもみせてのインタープレイも尊重されたリリカル・アクション演奏もやっぱり持ち味として迫ってくる。それはもともと結構訴えてくるウォームなジョンソンのベース、バロンのアクティブなドラムスが、ちゃんと見せ場を築いてピアノに迫るところが頼もしい。従ってトライアングルな相互触発によってピエラヌンツィピアノも一層アドリブ奮戦がもともと彼の持っているエレガントでいて精悍な冴えを聴かせながら爽快な演奏へと導かれる。従って究極抒情性には決して溺れないところが彼の味として近年は展開している姿がここにも表れている。

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 M2."Everything I Love"のみ、ピエラヌンツィの曲でなく、コール・ポーターのものだが、ここではジョンソンのベースが旋律を流しそれを追ってピアノ、ドラムスの展開が主役に変わって、トリオの楽しさを聴かせている。ヨーロッパ的世界でなくアメリカン・ジャズの色合いをトリオで楽しんだ姿をこのライブに色付けしている。
 私自身はM3."B.Y.O.H. (Bring Your Own Heart)"のヨーロッパ的世界の方に好みは寄ってゆくのだが、そのM2.との対比によって一層それが強調されて、なかなか組み合わせの妙も感ずるところである。
   M5."Hindsight"のアルバム・タイトル曲は、それぞれのダイナミックな演奏を交えてのての展開に再会トリオの楽しさとグルーヴ感を伝えてくれる。
 M6."Molto Ancora (Per Luca Flores)"では、ぐっと落ち着いた世界に。
 M8."The Surprise Answer "パワフルなドラム・ソロからスタート、そしてピアノ、ベースのユニゾン展開も激しく、トリオのインタープレイにも花が咲き聴衆と一体感の世界に突入。お見事。

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 もともとピエラヌンツィの端正でキレと滑らかさのクリアー・タッチのピアノが十二分に堪能できる。そして哀感の世界とバップ的グルーヴ感を曲により見事に演じ切って飽きさせない。かっての抒情性の世界にクラシック的メロディーで哀愁にどっぷり浸かる様は見られないため、その点は少々寂しいが、むしろ近年の躍動型のスリリングすら感ずる中にリリカルな世界を描くという点に注目して聴いた次第。

(評価)
□ 曲・演奏   88/100
□ 録音     88/100

(試聴)

 

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2024年6月18日 (火)

ノア・ハイドゥ Noah Haidu 「Standards Ⅱ」

文句なしの強力スタンダード・ピアノ・トリオ作品

<Jazz>

Noah Haidu 「Standards Ⅱ」
Sunnyside Records / Import / SSC1739 / 2024

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Noah Haidu (piano)
Buster Williams(bass)
Billy Hart(drums)

RECORDED AT VAN GELDER STUDIOS OCTOBER 7 2023
RECORDING ENGINEER : MAUREEN SICKLER
MIXED AND MASTERED BY KATSUHIKO NAITO

 ニューヨーク市を拠点に置くジャズピアニスト、ノア・ハイドゥNoah Haidu(1972年生)が、なんと驚きの職人技術とインテリジェンスの備わったバスター・ウイリアムズ( bass )と、巨匠ビリー・ハート( drums )の自分の親の歳である80歳を越える両超ベテランのサポートを得てスタンダードに取り組んだピアノトリオ作品。彼の言葉は「最近のツアーで観客から素晴らしい反応をもらったことに感謝しています。今でも自分の音楽を作曲したり、アメリカン・ソングブックのレパートリー以外の様々なプロジェクトを続けたりしていますが、スタンダード・トリオは私にとって重要なステートメントであり、ミュージシャンとしてのアイデンティティの不可欠な部分です」とし、ジャズピアニズムとジャズトリオの本質的な要素に磨きをかけているのだ。


Imagesw_20240614224601  これは2023年にリリースしたアルバム『Standards』(SSC1705)の続編で、キース・ジャレットへの深い敬愛の結果としてのスタンダード重視の演奏に、ジャズの一つの姿を追求している。

 ノア・ハイドゥNoah Haidu(→) : 1972年バージニア州シャーロッツビルで生まれで、幼い頃からクラシックピアノのレッスンを受けていたが、10 代になるとブルース、ジャズ、ポピュラー音楽に惹かれ、高校時代ニュージャージーとロサンゼルスに移るとジャズピアノ、ギター、作曲を学んだ。ラトガース大学に通い、ピアニストのケニー・バロンに師事し、2年後にニューヨークに拠点を移す。ニュースクール大学で美術学士号、ニューヨーク州立大学(ニューヨーク州パーチェス)で音楽修士号を取得。メロディックでエネルギッシュな即興演奏を組み込むスタイルで人気を勝ち取っている。演奏家と作曲家として注目を集めてきた。

Images2w  バスター・ウィリアムズ Buster Williams (→): 1942年アメリカ合衆国ニュージャージー州生まれのモダンジャズ・ベース奏者。父親も音楽家、幼いときからジャズに親しんだ。1959年から演奏家としての活動を始めた。フィラデルフィアでプロとしてデビューした後、ジーン・アモンズ、ソニー・スティットのクインテットやベティ・カーター、ナンシー・ウィルソン、サラ・ヴォーンといった女性歌手のレコーディングに参加、1960年代後半にニューヨークに移りハービー・ハンコックのグループに参加、一時期マイルス・デイヴィスの下でも活躍した。以降はケニー・バロン、デクスター・ゴードン、ジョー・ファレル他にも多くのミュージシャンと活動を共にしている。メロディックでエネルギッシュな即興演奏を組み込むスタイルで人気を勝ち取っている。

1900x1900000000w  ビリー・ハートBilly Hart (→): 1940年ワシントンD.C.で生まれ、アメリカのジャズ・ドラマーにして教育者である。キャリアの早い段階でオーティス・レディング、サム&デイヴ、そしてバック・ヒルやシャーリー・ホーンと共演した。彼はモンゴメリー・ブラザーズ(1961年)、ジミー・スミス(1964年–1966年)、ウェス・モンゴメリー(1966年–1968年)のサイドマンを務めた。1968年にモンゴメリーが亡くなった後ニューヨークに移り、多くの共演がある。ハービー・ハンコックのセクステットのメンバー(1969年–1973年)となり、マッコイ・タイナー(1973年–1974年)、スタン・ゲッツ(1974年–1977年)、クエスト(1980年代)とも共演した。加えて、フリーランスの演奏(1972年のアルバム『オン・ザ・コーナー』におけるマイルス・デイヴィスとのレコーディングを含む)も行っている。

 このアルバムのトリオに関して、ノア・ハイドゥはこう語る「 自分のスタンダード・トリオと一緒に演奏することをツアーの定期的な一部として約束したんだ。私のスタンダード・トリオはミュージシャンとしての私のアイデンティティの重要な一部なんだ。」と。ここには、彼としては巨匠と組んでジャズ・トリオのあるべき姿の本質に迫り、タイトル通りスタンダードに真摯に挑んだ1枚だということだ。

(Tracklist)

1.Over The Rainbow 10:26
2.Someone To Watch Over Me  7:57
3.Up Jumped Spring  11:53
4.Obsesion  8:42
5.Days Of Wine And Roses  7:49
6.After You’ve Gone   6:04
7.I Got It Bad (And That Ain’t Good)  7:45

 スタンダード演奏に如何に対峙してゆくかと言う大前提に立っての主張が聴きとれるアルバムであり、少し曲ごとに深堀してみたい。

  まずスタート曲M1."Over The Rainbow" これが、なんとドラムス・ソロでスタートし、おもむろにピアノの優しく魅力的な音が乗って、ゾっとする感動。しかしなかなかあの知りえたメロディーが出てこない。とにかくスタンダードに取り組んだ王道ピアノ・トリオというが、自由奔放な探求的な解釈で幕を開ける。ベース、ドラムスも対等にその守備範囲を確保し、パフォーマンスの押し引きを繰り広げている。そしてゆったりとした中に編曲と即興を織り交ぜて見事な世界を構築する。
 M2."Someone To Watch Over Me"においても、彼らはスタンダードをテーマにはしているが、それを聴かすというよりは、彼ら自身の世界を演ずるのである。曲のハーモニーとメロディーの可能性を慎重に探り、ハートの繊細なリズムにウィリアムズの機敏な対位法で造られた中にハイドゥの叙情性があって、しかも空間を生かした音で感動的な世界を演じている。
 それはM3."Up Jumped Spring " でも変わることなく、演奏時間は11分を超え、フレディ・ハーバードがアート・ブレイキー& ジャズ・メッセンジャーズにいた時に作曲したインスト曲で、後に歌詞がついて歌われているが、このバンドはイントロのトリオとしての可能性を追求するところから始まって、オープニングのピアノのコードがベースとドラムワークを誘い込み、3者によるルバート演奏が展開。ここには彼ら自身の曲意外に何物でもない。しかし、その後安定したテンポとなり、ウィリアムズとハイドゥの心のこもった伴奏でハートがソロを奏で、2人ともスウィングするソロと最後のメロディーで続き納める。それは録音においても3者同列でそれぞれの音が手に取るように解り、彼らの宇宙空間を形成しているのがよくわかる。

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 M4."Obsesion"では結構メロディーをピアノが演じてくれるが、ベース・ソロが入ったりドラムスのシンバル音が響きトリオが楽しんでいる様が聴きとれる。この曲はアフロ・ラテン界のスタンダードであるが、ハイドゥのセンスとアイデアによって、ジャズ・トリオの世界に誘導している。
 M5."Days Of Wine And Roses"はスウィングし、冒頭から懐かしのメロデイーをピアノが絶妙に演じてくれる。しかし前半にベースの世界に入って即興が流れ、彼らの世界に突入。ピアノも即興に入ってそれをドラムスが軽快にサポート。中盤から後半へはやはり彼らの曲と化す。このあたりのメロディックでエネルギッシュなところがハイドゥなんですね。そして最後には再び主メロディの登場で納める。
 M6."After You’ve Gone" 冒頭の3曲と違ってここでも軽快なジャズを展開。ピアノの流麗な早弾きところが聴かせどころ。三者の一糸乱れぬ展開が見事。最後にドラム・ソロが展開、これぞジャズの楽しさだと響いてくる。ハイドゥのスウィング・タッチとハーモニーの感性が光る。
 M7."I Got It Bad (And That Ain’t Good)"エリントンで締めくくられる。ここではハイドゥがメロディーを語り聴かせるように演奏し、ウィリアムズの即興演奏とハートのブラッシワークが見事に世界を構築し、アルバムを収める。

 とにかく、一曲一曲じっくりと構えて彼ら自身の一つの世界を構築しつつも、原曲の味を逃がさないというところであり、聴き応え十分。ピアノ・トリオとしてのそれぞれの立場は何かという回答のような演奏だ。アンサンブル等の構築などキース・ジャレットの目指し築いたものを是非とも深め発展させたいというハイドゥの心意気を感ずるところでもあった。
 ピアノ・トリオを愛する私としても、一つの大切な部分を聴かされた感があった。
 最後に私の見た一つの評価を記す・・「ジャズピアニズムとジャズトリオの本質的な要素に磨きをかけながら、その初期の約束を実現しています。このアルバムは、ハイドゥのタッチ、即興演奏、ウィリアムズとハートとの交流を披露している。これらの演奏は、新鮮さ、妙技、そして抗いがたい即時性でクラシックを照らし出し、聴き手の注意を惹きつけます」

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏 :   95/100
□   録音       :   90/100

(試聴)

"Days Of Wine And Roses"

*
”Over The Rainbow”

 

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2024年6月13日 (木)

ドゥ・モンテベロ Do Montebello 「B・O PARADISO」

ソフトにして優美な歌で聴きやすいヴォーカル・アルバム

<Jazz>

Do Montebello 「B・O PARADISO」
Fremeaux & Associes / Import / LLL346 / 2024

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DO MONTEBELLO : VOCAL
MARC BERTHOUMIEUX : ACCORDÉON
FRED SOUL : PIANO, FENDER RHODES
HERVÉ MORISOT : GUITAR
RICARDO FEIJÃO : ELE-BASS
CHRISTOPHE DE OLIVEIRA : DRUMS
JULIO GONÇALVES : PERCUSSIONS
JULIA SARR : CHORUS

Domontebelloivansilvaw  フランス・シーンで活躍の女性歌手ドゥ・モンテベロ(フランス南部のアルビAlbi生まれ)の第3作。彼女はポップスやボサノバをセンス良くジャズに取り入れたアプローチを得意とし過去の作品も好評を博している。今作は、彼女の人生を特徴づけた映画音楽を敬意を表し感謝して取り上げ、自己の曲(3曲)と合わせて収録している。
 実は彼女の歌は私は初めて聴いたのだが、非常に聴きやすく素直でソフトな歌が快感で取り上げた次第である。

(Tracklist)

1.NATURE BOY (EDEN AHBEZ)
2.I’M IN THE MOOD FOR LOVE (DOROTHY FIELDS / JIMMY MCHUGH)
3.MANHA DE CARNAVAL (ANTÔNIO MARIA / LUIZ BONFÁ)
4.LA CHANSON D’HÉLÈNE (JEAN-LOUP DABADIE / PHILIPPE SARDE)
5.THE CIRCLE GAME (JONI MICHELL)
6.EVERYBODY’S GOT TO LEARN SOMETIME (J. WARREN & THE KORGIS)
7.ALGER, RUE DEBUSSY (DO MONTEBELLO / SERGIO FARIAS)
8.AUGUSTOU (DO MONTEBELLO / HERVÉ MORISOT)
9.NOVEMBRE (DO MONTEBELLO / MARC BERTHOUMIEUX)
10.MOON RIVER (JOHNNY MERCER / HENRI MANCINI)
11.LES MOULINS DE MON CŒUR (EDDY MARNAY / MICHEL LEGRAND)
12.SMILE (JOHN TURNER & GEOFFREY PARSONS / CHARLIE CHAPLIN)

  取上げた曲は良く知られた映画音楽で、歌は安らぎと詩情をソフトに優雅に歌い上げていて非常に聴きやすい。自己の曲もそれを支えるように歌われて見事にマッチングしている。
  プロデュサーのMarc Berthoumieuxは、ジャズ、ポップミュージック、ボサノヴァのムードを巧みに盛り込んで軽めにアレンジして中身は豪華に施してなかなかサービス精神旺盛に作り上げている。彼女の声の質も中低音が中心で高音もソフトで聴きやすい。
 そしてバックのミュージシャン(ギター、チェロ、コントラバス、アコーディオン)のスウィングに乗せられ、彼女の澄んだ物憂げな歌声は、ポルトガル語、英語、フランス語を繊細に駆使して、決して重くない快適な空間に誘導してくれる。

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 それぞれの曲はよく聴くもので懐かしさ一杯である。基本的には彼女の姿勢は一貫して丁寧なヴォーカルを披露していて、スタートのM1."Nature Boy"つづくM2."I'm in the Mood for Love"などから、むしろ早速懐かしさに誘導し、問題なく彼女の世界に入り込める。
   そしてM3."Manha de carnavel""カーニバルの朝"は、日本では"黒いオルフェ"ですね、そしてM4."エレーヌの歌" これはロミー・シュナイダーの歌で人気曲。フランス・ムード一杯で、私にとっても益々懐かしさに浸ってしまう。
   M7."Alger,rue Debussy"等の自己オリジナル曲もフランス・ムードを維持して異色感がない。
   とにかく殆ど皆知っている曲ばかりだが、彼女らしさがちゃんと歌い込まれていて、その点Berthoumieuxの編曲も原曲に素直で、聴かせの効果も上がっての良作と言って良いだろう。最後M12."Smile"を無難に演じて締めくくるあたりも映画音楽の世界を旨く収めたという処である。

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏・歌 87/100
□ 録音         87/100

(試聴)
"Smile"


*

 

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2024年6月 8日 (土)

ローレン・ヘンダーソン Lauren Henderson 「Sombras」

ダークな中に力強さと美しさとが・・・深く聴き、評価する必要があるアルバム

<Jazz>

Lauren Henderson 「Sombras」
Brontosaurus Records / Import / BR2401 /2024

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Lauren Henderson - vocals
Joel Ross - vibraphone
Sean Mason - piano
Jonathan Michel - bass
Joe Dyson - drums

  ニューヨークやマイアミで活躍しラテン・ルーツの持ち味での人気ヴォーカリストのローレン・ヘンダーソン。レコーディング・アカデミーから「ラテンアメリカのサウンドをブレンドし、拡大している10人のジャズ・アーティスト」の1人として認められいる。更にこのところ寺島靖国氏にも注目され、日本盤もリリースされた。私も2019年のアルバム『Alma Oscural』(BSR201901)以来、注目している。一方ニューヨーク・タイムズ紙には「慰めのささやきと説得力のある宣言の中間」と評価を得ている。そして今年、旧作でも共演のジョエル・ロス(vib 下左)、ショーン・メイスン(p 下左から2番目)、ジョー・ダイソン(ds 下左から3番目)、ジョナサン・マイケル(b 下右)らコンセプトに理解あるメンバーと録音し、ここにニュー・アルバム登場。

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 アルバムタイトルの「Sombras」はスペイン語で、英語で「Shadows」と訳される。このタイトルは、自分の祖先が自分の「影」であるという考えを描いている。ヘンダーソンは自作曲を重んじているのは、現在のアイデンティティと芸術性を模索している作品として音楽アルバムを造るところに意味を持っているからである。。 パナマ、モントセラト、カリブ海にルーツを持ちながら、北米で育った彼女は、多様な現代社会の文化の中で自らの回答を求めている。ヘンダーソンはオリジナル作品を通して自身の歴史を紐解き、アメリカにおけるアフリカン・ディアスポラ(子孫の集合体)の背景を反映した意味のある作品作り上げている。それはかってここで取り上げられたアルバム『La Bruja』にも通じている。

 

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1. Fuego
2. Seasons
3. Venas
4. Sombras
5. Illumination
6. Tormento
7. Walking
8. Dignidad
9. Shadows

 

 ヘンダーソンは、独特のハスキー・ヴォイスで潤い豊かな歌唱を今回も魅惑的に聴かせてくれ、一方内省的であり情熱的であるという複雑な構図を描いている。歌詞は当然オリジナルで、英語とスペイン語の2つの言語を使い分け、私には理解はなかなか大変だが、アフリカン・ディアスポラが家系図を通じてヘンダーソンに与えた影響の質や、より広いクリエイティブな世界を象徴的に表しているようだ。曲は静かでありダークなところが聴く者を引き付ける。このアルバムも「影」が何であるかは、聴く者も理解すべきところだ。  

 音楽的には、名門ブルーノート・レコードからデビューした若き天才ヴィブラフォン奏者のジョエル・ロスが全面参加して、都会的色合いの味わい深いところを加味させて聴かせ、ジョナサン・マイケルの力強いベース、ショーン・メイスンの多芸のピアノ、ジョー・ダイソンの活発なドラムスも魅力的。

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M1. "Fuego"スペイン語で「火」を意味する。スタート曲として力強さに驚くが、イデオロギー的な火を灯し、リスナーに直接訴える。「自分たちが培ってきた美しい炎を忘れず、それを当たり前だと思わず、消し去らないように」と、そして「燃えるような情熱と、人間として向上し、発展するために私たちを鼓舞するものを受け入れる」と。続くM2. "Seasons"で静かに見つめなおす。ヴィブラフォンが心に響き深い心情を描く。
 M4. "Sombras"(影) 「光に向かっているとき、私たちは足場を失うかも、しかしここまでの旅から得た力がある」と。「私たちは逆境に直面しているが、進歩を受け入れることで浮上するチャンスがある」ここでこのアルバムの"信念"をリスナーに訴える。これはアルバム全体のモチーフ。曲はピアノの印象的なフレーズをバツクに展開。
 そしてM5. "Illumination"は、M1.の「火の光」をつなぐ曲で、そしてM6. "Tormento"(苦しめる)が登場、ここでは彼女の心情が歌い上げられ、このアルバムの一つの頂点となる曲。そしてM8."Dignidad"を経て、最後は「Sombras」を英語でM9. "Shadows"(影)としてまとめ上げる。全曲一貫したコンセプトで作り上げられている。歌詞が十分理解してみる必要があろうと、私は目下道半ばである。

 とにもかくにも、ヘンダーソンを理解している彼女のディスコグラフィー全体を手がけたFlux Studiosのダニエル・サニントがエンジニアを務め、演奏陣は基本的に彼女の世界に共感し通じているメンバーで、心情的に理解のある協力関係により、セッションはスムーズに、そしてむしろ盛り上がってクリエイティブに進行できたようだ。そのため単なるヴォーカル・アルバムというのでなく、演奏面にもラテン色の上に洗練された都会的センスを盛り込んでいて注目される。彼女自身はこのアンサンブルの各メンバーの個人的な影響と関わりに感謝の気持ちを込めて認めている。彼女の言葉は「私が尊敬し、大切にしているアーティストとコラボレーションし、彼らに輝くためのスペースを与えることが不可欠です・・・いつもバンドの優しさと忍耐力に魅了されています。それは私たちの創造であり、プロセスはオープンで協力的です」と。
 今回のアルバムは、過去の彼女のアルバムの流れの中でも最もコンセプチュアリスティックな作品として受け入れ、アフリカン・ディアスポラの根源に迫るものとしてとらえて聴いたところである。

(評価)
□ 曲・演奏・歌  90/100
□ 録音      88/100

(試聴)

"Sombras"

"Illumination" 

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2024年6月 3日 (月)

マシュー・シップ Matthew Shipp Trio 「 New Concepts in Piano Trio Jazz」

圧巻の静から動への展開、 アヴァンギャルドにフリー・ジャズ、現代音楽を凌駕する

<Jazz>

Matthew Shipp Trio  「New Concepts in Piano Trio Jazz」 
ESP-DISK / Import / ESP5085CD / 2024

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Matthew Shipp (piano)
Michael Bisio (bass)
Newman Taylor Baker (drums)
Recorded August 2, 2023 at Park West Studios

 80年代後半から独自の世界を演じて来たピアニスト・マシュー・シップ、ピアノ・トリオ愛好者であれば一度は挑戦してほしい彼のアルバム。それは私に言っているようなものだが、何度かかじってそのまま、つまりアルバムであればそれをしっかり何度か聴いてみるということをせずに今日まで来た。それにはそれなりの理由があるのだが、それはさておきその彼の現行トリオによる2023年録音最新作が登場だ。そして今回はなんとアルバムを通して何回と聴き、それなりの感動があったためここに登場となった。

  マシュー・シップMatthewShipp(下左)は、1960年、アメリカ / デラウェア州生まれの、ポスト・ジャズ・ピアニスト/作曲家。彼の母親がトランペット奏者のクリフォード・ブラウンの友人でもあったことから、シップはジャズに強く惹かれ、5 歳でピアノを弾き始め、高校時代にはロックグループでも演奏した。1984年にニューヨークに移り、1990 年代初頭から、バンドリーダー、サイドマン、またはプロデューサーとして数十枚のアルバムに出演。当初はフリージャズをメイン・スタイルにしていたが、その後、現代音楽、ヒップホップ、エレクトロなど、多岐にわたるジャンルで高い評価を得ている。

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 さて本作だか、いっやー恐ろしいアルバム・タイトルですね。現在のジャズ・ピアノ・トリオ界への挑戦か、はたまた自身における革命的挑戦か、いずれにしてもここまで上段に構えるのだから尋常でなく気合が入っている。ニューマン・テイラー・ベイカー(上中央)、マイケル・ビシオ(上右)という息の合ったトリオで、聴くものに迫ってくる。

(Tracklist)

1 Primal Poem 3:28
2 Sea Song 6:24
3 The Function 7:03
4 Non Circle 6:58
5 Tone IQ 3:54
6 Brain System 4:53
7 Brain Work 3:02
8 Coherent System 11:39

 5年間一緒に活動し、定期的にレコーディングをしているということだが、その結果、トリオ構成のぶれることなく推し進められる世界は見事である。そしてその流れはリーダーが支配して終わるトリオではなく、作曲されたものと3人のメンバーが打ち出すインプロヴィゼーションの兼ね合いが、それによる相互作用に基づいてスリリングに構築されるアグレッシブなアンサンブルを聴かせている事に"New Concepts"という発想に繋がったと推測する。

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 「ジャズの道はこれだ」とばかりに、束縛なしの自由な三者の即興演奏をアクティブに展開してみせるわけであるのだが・・・。ただし、オープニングのM1." Primal Poem"は、異次元の世界を構築しながら、ぐっと抑えて瞑想的なテーマで心をつかみ、続く・・M2." Sea Song "で自然の姿に神秘性を宿わせる。この2曲があってしっかりこのアルバムの世界に私の場合見事に引き込まれてしまう。そして彼らの示す本題の曲に繋がってゆく。
   M3." The Function"から気合が入ってくる。ベースの低音のリズムが不気味にリード。ピアノはメロディーでなくスリリングな展開に、特に後半ドラムスと共に即興対立的世界に。
 M4." Non Circle "ドラムスからスタートするも、三者でのバトルが印象的に進行。
 M5." Tone IQ" 三者とも一つ一つの音を大切に響かせ、余韻を生かして迫ってくる。特にピアノの低音と高音の単音の響きとベースのアルコで異世界の静粛さ描き、ドラムスはちょっとスリル感を聴かせる。
 M6." Brain System" ここでもベースがアルコでの異世界が続く。ピアノとシンバル音がさらにそれを高め次第にピアノがその神秘性を語り始める。
 M7." Brain Work" いよいよピアノ・ソロで現代音楽的側面をにおわせて、次に続く彼らの三者の自由なインプロヴィゼーションのバトルの予感を感じさせる。 
 M8." Coherent System " 私から言わせるとバトルそのものだ。ピアノとドラムスが対等にたたき合い、その姿を支え整えるベース。まさに3者による干渉と緊密な構成の美が描かれる。

 とにかく"New Concepts"と銘打った彼らの目指すものが、トリオ・メンバーのお互い知り尽くした三者対等なアンサンブルを信頼関係が基礎にあっての構築される世界が、十二分に描かれ演じられている。それぞれの高度な演奏技術に互いに信頼関係があってのインプロヴィゼーションを発展させての曲仕上げは恐ろしいほどだ。M1, M2で深く引き寄せ、最後は彼らの世界に引っ張り込むアルバム構成も見事。
 ここまで発展してくると、聴くものが何を求めるかによって世界は明確に分化されるだろうと思う。私が日ごろ愛しているユーロ系の哀愁の美旋律ピアノ・トリオとは全くの別世界であるが、描くところにシャズ・ピアノ・トリオとしての世界の一つの美学としての姿として感じられるのは事実で、今後の発展にさらに期待するのである。

(評価)
□ 曲・演奏 :   92/100
□ 録音    88/100

(試聴)

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