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2024年6月 8日 (土)

ローレン・ヘンダーソン Lauren Henderson 「Sombras」

ダークな中に力強さと美しさとが・・・深く聴き、評価する必要があるアルバム

<Jazz>

Lauren Henderson 「Sombras」
Brontosaurus Records / Import / BR2401 /2024

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Lauren Henderson - vocals
Joel Ross - vibraphone
Sean Mason - piano
Jonathan Michel - bass
Joe Dyson - drums

  ニューヨークやマイアミで活躍しラテン・ルーツの持ち味での人気ヴォーカリストのローレン・ヘンダーソン。レコーディング・アカデミーから「ラテンアメリカのサウンドをブレンドし、拡大している10人のジャズ・アーティスト」の1人として認められいる。更にこのところ寺島靖国氏にも注目され、日本盤もリリースされた。私も2019年のアルバム『Alma Oscural』(BSR201901)以来、注目している。一方ニューヨーク・タイムズ紙には「慰めのささやきと説得力のある宣言の中間」と評価を得ている。そして今年、旧作でも共演のジョエル・ロス(vib 下左)、ショーン・メイスン(p 下左から2番目)、ジョー・ダイソン(ds 下左から3番目)、ジョナサン・マイケル(b 下右)らコンセプトに理解あるメンバーと録音し、ここにニュー・アルバム登場。

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 アルバムタイトルの「Sombras」はスペイン語で、英語で「Shadows」と訳される。このタイトルは、自分の祖先が自分の「影」であるという考えを描いている。ヘンダーソンは自作曲を重んじているのは、現在のアイデンティティと芸術性を模索している作品として音楽アルバムを造るところに意味を持っているからである。。 パナマ、モントセラト、カリブ海にルーツを持ちながら、北米で育った彼女は、多様な現代社会の文化の中で自らの回答を求めている。ヘンダーソンはオリジナル作品を通して自身の歴史を紐解き、アメリカにおけるアフリカン・ディアスポラ(子孫の集合体)の背景を反映した意味のある作品作り上げている。それはかってここで取り上げられたアルバム『La Bruja』にも通じている。

 

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1. Fuego
2. Seasons
3. Venas
4. Sombras
5. Illumination
6. Tormento
7. Walking
8. Dignidad
9. Shadows

 

 ヘンダーソンは、独特のハスキー・ヴォイスで潤い豊かな歌唱を今回も魅惑的に聴かせてくれ、一方内省的であり情熱的であるという複雑な構図を描いている。歌詞は当然オリジナルで、英語とスペイン語の2つの言語を使い分け、私には理解はなかなか大変だが、アフリカン・ディアスポラが家系図を通じてヘンダーソンに与えた影響の質や、より広いクリエイティブな世界を象徴的に表しているようだ。曲は静かでありダークなところが聴く者を引き付ける。このアルバムも「影」が何であるかは、聴く者も理解すべきところだ。  

 音楽的には、名門ブルーノート・レコードからデビューした若き天才ヴィブラフォン奏者のジョエル・ロスが全面参加して、都会的色合いの味わい深いところを加味させて聴かせ、ジョナサン・マイケルの力強いベース、ショーン・メイスンの多芸のピアノ、ジョー・ダイソンの活発なドラムスも魅力的。

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M1. "Fuego"スペイン語で「火」を意味する。スタート曲として力強さに驚くが、イデオロギー的な火を灯し、リスナーに直接訴える。「自分たちが培ってきた美しい炎を忘れず、それを当たり前だと思わず、消し去らないように」と、そして「燃えるような情熱と、人間として向上し、発展するために私たちを鼓舞するものを受け入れる」と。続くM2. "Seasons"で静かに見つめなおす。ヴィブラフォンが心に響き深い心情を描く。
 M4. "Sombras"(影) 「光に向かっているとき、私たちは足場を失うかも、しかしここまでの旅から得た力がある」と。「私たちは逆境に直面しているが、進歩を受け入れることで浮上するチャンスがある」ここでこのアルバムの"信念"をリスナーに訴える。これはアルバム全体のモチーフ。曲はピアノの印象的なフレーズをバツクに展開。
 そしてM5. "Illumination"は、M1.の「火の光」をつなぐ曲で、そしてM6. "Tormento"(苦しめる)が登場、ここでは彼女の心情が歌い上げられ、このアルバムの一つの頂点となる曲。そしてM8."Dignidad"を経て、最後は「Sombras」を英語でM9. "Shadows"(影)としてまとめ上げる。全曲一貫したコンセプトで作り上げられている。歌詞が十分理解してみる必要があろうと、私は目下道半ばである。

 とにもかくにも、ヘンダーソンを理解している彼女のディスコグラフィー全体を手がけたFlux Studiosのダニエル・サニントがエンジニアを務め、演奏陣は基本的に彼女の世界に共感し通じているメンバーで、心情的に理解のある協力関係により、セッションはスムーズに、そしてむしろ盛り上がってクリエイティブに進行できたようだ。そのため単なるヴォーカル・アルバムというのでなく、演奏面にもラテン色の上に洗練された都会的センスを盛り込んでいて注目される。彼女自身はこのアンサンブルの各メンバーの個人的な影響と関わりに感謝の気持ちを込めて認めている。彼女の言葉は「私が尊敬し、大切にしているアーティストとコラボレーションし、彼らに輝くためのスペースを与えることが不可欠です・・・いつもバンドの優しさと忍耐力に魅了されています。それは私たちの創造であり、プロセスはオープンで協力的です」と。
 今回のアルバムは、過去の彼女のアルバムの流れの中でも最もコンセプチュアリスティックな作品として受け入れ、アフリカン・ディアスポラの根源に迫るものとしてとらえて聴いたところである。

(評価)
□ 曲・演奏・歌  90/100
□ 録音      88/100

(試聴)

"Sombras"

"Illumination" 

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