アルージ・アフタブ Arooj Aftab 「Night Rein」
暗さの中の美と展望という一種独特な世界はまさに聴き応えあり
<Jazz, New-age, Electronic Trance>
Arooj Aftab 「Night Rein」
Universal Music / jpn / UCCV-1199 / 2024
Arooj Aftab(vocal)
Kaki King(guitar,gryphon)
Vijay Iyer(piano)
James Francies(juno,rhodes)
Joel Ross(vibraphone)
Cautious Clay(flute)
Maeve Gilchrist(harp)
Chocolate Genius Inc(piano,bass,synth,strings)
Moor Mother(voice)
このアルバムは、アルージ・アフタブ(1985年生まれ)という女性ヴォーカリストの私にとっては初ものである。彼女は前作アルバム『Vulture Prince』(2021)で第64回グラミー賞にて最優秀新人賞にノミネート、そのアルバムの中の曲"Mohabbat"で最優秀グローバル・ミュージック・パフォーマンス賞を受賞したことで一躍話題となったニューヨークのブルックリン在住のシンガー・ソングライターで、パキスタン出身、バークリー音楽大学を卒業している。いずれにしてもパキスタン初のグラミー賞受賞となり人気のミュージシャン。そしてこのアルバムは、メジャー(Verve)からのソロ・デビュー・アルバムである。
さてこれは、彼女のインスピレーションの源である夜をイメージし描いたもので、夜の暗闇になってから現れる、「恋」、「孤独」、「内省」等の多面的な感情を掘り下げているとの説明があり、そんなところをイメージしての自己のオリジナル8曲+スタンダード1曲の全9曲を収録しているようだ。静けさの中にどこか暗さと哀感があるのだが、むしろ訴えるという力を感ずる歌声は聴きどころだ。
(Tracklist)
1. Aey Nehin 彼はこない
2. Na Gul 花でなく
3. Autumn Leaves (ft. James Francies)枯葉 (feat.ジェイムズ・フランシーズ)
4. Bolo Na (ft. Moor Mother & Joel Ross)話してよ (feat.ムーア・マザー、ジョエル・ロス)
5. Saaqi (ft. Vijay Iyer) 恋人 (feat.ヴィジェイ・アイヤー)
6. Last Night (Reprise) (ft. Cautious Clay, Kaki King, Maeve Gilchrist)月のように (feat.コーシャス・クレイ、カーキ・キング、メイヴ・ギルクリスト)
7. Raat Ki Rani 夜の女王
8. Whiskey ウイスキー
9. Zameen (ft. Chocolate Genius, Inc.)大地 (feat.チョコレート・ジーニアス)
なかなか中低音域の魅力のある暗いと表現される中に宿る力強さの歌声が印象的である。
スタートのM1."Aey Nehin"では、GUitar、Vibraphone、Harp などの美しいバック演奏に、リズムは軽快だが、ぐっと歌声は暗い世界が描かれ内省と孤独感が伝わってくるが、最後のハミングなど美しい。
注目のM3."Autumn Leaves"は、唯一聴きなれた曲だが、James Francies(juno,rhodes)の演奏が面白い。しかし歌うメロディーはぐっと暗く編曲され異様な「枯葉」である。
M4." Bolo Na"このベースのリズムの効いた曲はパキスタンとの関係があるのか、その伝統のイメージが生かされているように察した。
M6."Last Night" はトランス風の世界。
このアルバムの「夜」に焦点が当てられている中でのM7."Raat Ki Rani"(夜の女王)は、東南アジアでよくみられる夜にしか咲かないジャスミンの花の名前とか、彼女の朗々と歌い上げるが、バックのPianoとHarpの音とともに美への展望の高揚が感じられるところが注目。
M8."Whiskey "は、彼女は「好きな人と夜遊びをしていて、盛り上がってしまったときのことを歌っていて、友人は飲み過ぎたし、私は疲れていて、どうやって二人で家に帰るか考えないといけない。こんなこの夜との交流はまだかわいいものです」と説明しているとか、この曲はアルバムでは暗さの範疇の曲でなく、むしろ優しさを感ずるところだ。
とにかく、バック・アーティストの描く世界の効果が、所謂ありきたりのジャズとは一線を画し、一種独特な美しい世界を描き、そこに彼女のこれ又一種独特の世界を持ったヴォーカルによって作り上げられていて、ニュー・エイジ、トランス風の幻想的であり又南アジア・パキスタンという雰囲気も加味されているのか、聴きなれない異国を感ずるところにもある。そしてテーマの「夜」というところに彼女の歌声は響き、これまた独特な暗さを持ちつつ美と展望を描くという稀有なミュージックに遭遇したという印象だ。それは決して悪いものでなく、むしろ歓迎すべき味を持っているというのが本音である。
(評価)
□ 曲・演奏・歌 88/100
□ 録音 88/100
(試聴)
"Raat Ki Rani"
*
"Aey Nehin"
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コメント
風呂井戸さん,こんばんは。
貴ブログにArooj Aftabが登場するとは思いませんでしたが,これいいですよねぇ。このムーディさがたまりません。私がいいと思ったのがこの人の声はもちろんなのですが,そのバックでのベースの音でした。ベースの音はこういう風に録って欲しいと思えるもので,それも魅力でした。Elvis Costelloの名を見た時はさすがに驚きましたが。前作"Love in Exile"も大好きなので,よろしければストリーミングででも聞いてみて下さい。
ということで当方記事のリンクを貼り付けさせて頂きます。
https://music-music.cocolog-wbs.com/blog/2024/06/post-3358a5.html
投稿: 中年音楽狂 | 2024年6月28日 (金) 23時44分
中年音楽狂様
コメント有難うございます。又リンクも有難うございます。
彼女に関しては、アルバムとしては今回初めてしっかり聴かせていただきましたが・・アルバム『Vulture Prince』の存在は知ってましたが、『Love In Exile』の方は知りませんでしたので、今夜聴かせていただきました。なるほど、こちらの方がTrance色は強く、独特の声とその描くところ歌詞は抜きにして、人間模様に迫ってくる感があり、やはり異色感たっぷりですね。こちらの方がトリオ作で、演奏へのヴォーカルの溶け込みが凄いですね。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2024年6月29日 (土) 22時51分