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2024年7月28日 (日)

ダイアナ・クラール Diana Krall 「Famous Blue Raincoat - 2024 TOKYO 3RD NIGHT」

ギター抜きのトリオ仕立てもなかなかで・・・・

<Jazz>

Diana Krall 「Famous Blue Raincoat - 2024 TOKYO 3RD NIGHT」
ORIGINAL MASTER / IEM Matrix Recording / Xavel Hybrid Master - 214

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ダイアナ・クラール Diana Krall(vocal, piano)
トニー・ガルニエ Tony Gamier(bass)
マット・チェンバレン Matt Chamberlain(drums)

Live at Shouwa Joshi Daigaku, Hitomi Memorial Hall, Tokyo, Japan 10th May 2024

Pastedgraphic1w   ダイアナ・クラール5年ぶりの今年の「2024年ジャパン・ツアー」は追加も含めて全6公演となった中、ツアー3日目であり東京3連続公演の最終日、追加公演でもあった5月10日昭和女子大学人見記念講堂でのライブの模様だ。とにもかくにも彼女は人気者ですね、どんな会場でも満席になる。私としては少なくともコットンクラブやブルーノートぐらいかそれ以下の小会場で聴きたいのだが、それは殆ど叶わぬ期待ですね。そんなわけで参加していなかった私にとっては嬉しいアルバムなのである。
 このアルバムは並行して第1日(東京ドームシティホール)、第2日(昭和女子大人見記念講堂)と並行して発売されているbootlegの第3日目のものなのだが、例のごとくステレオIEMマトリクスにてコンプリート収録されている。つまりそれはまずダイアナがステージ上で使用していたイヤー・モニター・ソースを、良質デジタル・オーディエンス録音ソースと配合してステレオ・ミックスしたIEMマトリクス音源ものである。従ってダイアナのボーカルはもちろんだか、トリオによるアンサンプル演奏とのハイブリッド・サウンドにて当日の模様を忠実に再現したものである。

 そして今回のツアーでは、彼女のライブものの一般的スタイルのギター、ベース、ドラムスに加えて彼女のヴォーカルとピアノというカルテット・スタイルと違って、ギター・レスのピアノ・トリオに彼女のヴォーカルが乗るスタイルである。アコースティック・ベースとエレクトリック・ベースを兼ねるトニー・ガルニエ(1956-)(上右)と、ドラマーのマット・チェンバレン(1967-)(上左)を引き連れてのステージとなった。
 このトリオ・セッションの雰囲気を楽しんでほしいというダイアナの希望を取り入れた企画で、前半はスタンダード、後半はスタンダードに近いカバー曲が中心であつて、それぞれの間にオリジナル曲を挿入するという形をとっている。このパターンは今回の全会場の共通スタイルである。ただし会場ごとに曲を入れ替えしたりしてなかなか充実している。

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Disc 1
01. Almost Like Being in Love
02. All or Nothing at All
03. Happy Birthday, Tony! / All of Me
04. I've Got You Under My Skin
05. Like Someone in Love
06. The Girl in the Other Room
07. Just You, Just Me

Disc 2
01. 'S Wonderful
02. Night And Day
03. Fly Me to the Moon (In Other Words)
04. Famous Blue Raincoat
05. I Was Doing All Right
06. East of the Sun (and West of the Moon)
07. You're My Thrill
08. Temptation
09. Day In, Day Out
10. Route 66
-encore-
11. Queen Jane Approximately
12. Ophelia

  さて今回の録音の出来だが、ブートとしては非常に良好ではあるが、欲を言えばステレオ・ミックス法に私が聴くところでは若干の不満があった。それは明らかにダイアナ・クラールの声は見事に入っているのだが、少々セッション演奏部分が弱い、もう少しリアルにしっかりミックス録音されていると良かったのではと言うところである。前回の来日時は彼女は風邪をひいていて発声に万全でなかったのだが、あの来日時のアルバムの方に録音された音としては私は軍配をあげるのでる。
 しかし、このように1ケ月足らずのうちに、こうして良質なアルバム化してくれているところは、参加していなかった我々にとっては嬉しい事である。あまり文句を言ってもいけませんね。

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 今回の同行者のトニー・ガルニエは1980年代後半からのボブ・ディランのバンドのベーシストとして知られるところだが、トム・ウェイツ、カーリー・サイモン、ルシンダ・ウィリアムス等との共演も好評。ダイアナ・クラールのアルバムでは『Turn Up the Quiet』(2017年)や『This Dream Of You』(2020年)に参加している。
 一方、ドラマーのマット・チェンバレンは、ブルース・スプリングスティーン、レナード・コーエン、デヴィッド・ボウイ、ブラッド・メルドーなどのアルバムに参加する売れっ子セッションマンである。
 まず彼らのリスム隊としての意気投合しての迫力は、Disc1のM2."All or Nothing at All"あたりで迫ってくる。 この二人が共にしたトリオ体制下での演奏は、こうしてオーディエンスの前での演奏は今回のツアーが初めてのことだという。ダイアナ・クラールのギター・レス体制でのライブものは私にとっては初聴きで、以下Disc2においての感想だが、M7."You're My Thrill"のしっとりとしたバラードもののムードも印象が過去のものと異なってなかなか新鮮であると同時にピアノの静かに描く世界の役割も大きく最高だ。又得意のM8."Temptation"は、ベース、ドラムス共にリズムを明瞭に刻み、彼女のピアノもそれに乗って跳ねるように展開し、なかなか過去のものと異なった味を見せてくれている。M9."Day In, Day Out" のスウィングする展開もなかなかトニーとマットの息もあっていて楽しい曲仕上げになっているし、M10."Route 66 "でのリズムの変調もリズム隊はなかなか面白い。M12."Ophelia"ではエレキ・ベースでダイアナの歌を盛り上げる。

 いずれにしてもダイアナ・クラールの元気な姿は全く昔と変わりなく、中盤のM1."'S Wonderful"からM5."I Was Doing All Right"の彼女のソロ5曲もなかなか楽しい。又愛嬌も歳と共に増してきて、中低音のややハスキーな充実ヴォーカルも衰えずピアノ・プレイもジャズ・センスが佳くて素晴らしい。そうそうDisc1のアルバム「When I Look in Your Eyes」に収録された曲M4."I've got You Under My Skin"がなかなかしっとり大人ムードで20年の経過を実感する。
 いずれにしてもそろそろ又、ジャズ因子の強い彼女のニュー・アルバムを期待したいところだ。

(評価)
□ 選曲・演奏・歌  90/100
□ 録音       87/100

(参考視聴) 

*
Diana Krall 2024 Live in Jakarta

 

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2024年7月23日 (火)

リ-・リトナ-、デイヴ・グルーシン Lee Rittenour & Dave Grusin 「BRASIL」

久々に心地よい南国ブラジルのボッサに浸れる

<Jazz, Samba, Latin>

Lee Rittenour & Dave Grusin 「BRASIL」
Pony Canyon / Jpn / PCCY-01996 / 2024

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Lee Ritenour リー・リトナー (acoustic guitar, electric guitar)
Dave Grusin デイヴ・グルーシン (piano, keyboard, electric piano)
Bruno Migotto ブルーノ・ミゴット (electric bass, bass)
Edu Ribeiro エドゥ・ヒベイロ (drums)
Marcelo Costa マルセロ・コスタ (percussion on 3, 5, 6, 7?)
Unknown (flute on 3)
Ivan Lins イヴァン・リンス (vocal on 4)
Tatiana Parra タチアナ・パーハ (vocal on 1, 4) (possibly? also on 5, 8)
Celso Fonseca セルソ・フォンセカ (vocal, guitar on 5)
Chico Pinheiro シコ・ピニェイロ (guitar on 6) (vocal on 7)
Grégoire Maret グレゴア・マレ (harmonica on 1, 2, 8)

61p1sby2sl_acw   夏の海岸砂浜でのリラックス向きのアルバムの登場である。いやはや40年前の1985年に発売され、グラミー編曲賞を受賞したブラジリアン・フュージョン・アルバム『HARLEQUIN ハーレクイン』(→)の続編ということだが、今年の作品だ。ギターのリー・リトナーと ピアノ・キーボードのデイヴ・グルーシンの超ベテランによるものだ。おそらく二人のブラジル音楽によせる想いがここに結実しているものだと言うが。

 そして上記のように多くのミュージシャンが集まっているが、4曲にヴォーカルも登場する。それは世界的に名が通っているイヴァン・リンス、ブラジルで人気のセルソ・フォンセカ、シコ・ピニェイロ、新進女性ヴォーカリスト:タチアナ・パーハ(下右)だ。
 又ハーモニカ界の重鎮のグレコリア・マレ(下右から2番目)が参加しているのが注目される。

(紹介)
▶リー・リトナー(G)(下左):1952年米カリフォルニア州ロサンジェルス生まれ。1970年代、10代でスタジオミュージシャンの活動を始め、70年代80年代のクロスオーバー、フュージョン、AOR シーンのトップ・ギタリストとして脚光を浴びる。『キャプテン・フィンガーズ』(1977)、『RIT』(1981)が大ヒット。デイブ・グルーシンとの合作『ハーレクイン』(1985)にてグラミー受賞。その後スーパー・グループ、フォープレイを結成。また自身のソロ・プロジェクトで意欲的な作品を数多く残している。

▶デイブ・グルーシン(Piano, Key)(下左から2番目):1934年米コロラド州リトルトン生まれ。幼少から音楽を学び、ジャズ・ピアノと編曲を身に着けNYで活動。その後LAに移りTV、映画の世界でも活躍。「卒業」「トッツィー」「グーニーズ」「恋のゆくえ」他の音楽を担当し、グラミー賞、アカデミー賞などを獲得する。一方1970年代に始まったクロスオーバー、フュージョンのムーブメントと共に、プレイヤー、アレンジャーとしても活躍。リー・リトナーとの合作『ハーレクイン』(1985)にてグラミー受賞している。1978年GRP Recordsを設立し、ヒット作品を世に送りだす。現在もリー・リトナーとの共演で世界広く活躍中。

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(Tracklist)

1. Cravo e Canela (Cloves & Cinnamon) クラヴォ・イ・カネーラ(クローヴ・アンド・シナモン) – featuring Tatiana Parra, Grégoire Maret
2. For The Palms フォー・ザ・パームズ – featuring Grégoire Maret
3. Catavento カタヴェント
4. Vitoriosa (Victorious) ヴィトリオーザ – featuring Ivan Lins & Tatiana Parra
5. Meu Samba Torto (My Crooked Samba) メウ・サンバ・トルト – featuring Celso Fonseca
6. Stone Flower ストーン・フラワー – featuring Chico Pinheiro
7. Boca de Siri (Keep It Quiet) ボーカ・ヂ・シリ – featuring Chico Pinheiro
8. Lil' Rock Way リル・ロック・ウェイ – featuring Grégoire Maret
9. Canto Invierno (Winter Song) カント・インヴィエルノ

 とにかく楽しく聴けるので、楽しむのが一番。ブラジルにしては意外に清涼感に満ちたアコースティック・ギターと魅惑のエレクトリック・ギター、ピアノもこれ又意外にさらっと繊維な音で、エレピもしつこさが無く快感、これが枯れた味なのかもしれない。それに女性ヴォーカルも情熱的と言うより爽やかな印象、そして特にハーモニカの音も哀感があっていい。それらがサンバのリズムに乗って実に軽妙でお洒落な世界を演じている。ブラジルの爽快感のあるリオ デ ジャネイロのコパカバーナ ビーチやイパネマビーチ、コルコバードの丘などを想像してしまう。
 そもそも古い昔の話だが、私はジャズを少々かじった頃、ジャック・ルーシェのピアノ・トリオと一方"セルジオ・メンデスとブラジル66"のファンであつたので、このブラジリアン・ボッサは懐かしさも加わって気分最高である。

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 M1. "Cravo e Canela" 軽快なリズムと 新進のTatiana Parraの優しい充実感あるヴォーカルが楽しい。
 M2. "For The Palms"  ギターとこのセッションの特徴のGrégoire Maretのハーモニカが哀感をもってぐっと落ち着いた世界を描く。
 M3. "Catavento" パーカッションの軽快サンバ・リズムでスタート、それに乗ってピアノとギターの競演。
 M4. "Vitoriosa"   男性Ivan Lins と女性 Tatiana Parraのデュオ・ヴォーカルでしっとりと歌い上げる。
 M5. "Meu Samba Torto"  Celso Fonsecaのヴォーカルとエレクトリック・ジャズ・ギターでサンバで南国を描く。
 M6. "Stone Flower" 聴きなれた曲だが、Chico Pinheiroのギターも加わってリズムカルな充実演奏。
 M7. "Boca de Siri" ここでは人気のChico Pinheiroのヴォーカル、軽快なパーカッションとギター。
 M8. "Lil' Rock Way" ここでも Grégoire Maretのハーモニカが頑張り、特異な女性ヴォーカル・リズムで盛り上がる。
 M9. "Canto Invierno "ピアノ、ギターが美しく演じて締める。

 かってのアルバム『ハーレクイン』とは作風は異なっていて、一層ブラジル色が前面に出ている。やはり女性ヴォーカルのムードがいいですね、昔のラニ・ホールを思い出して懐かしい。リトナーの渋いギターが描き上げる南国ムードが聴きどころで、グルーシンのピアノの展開の妙も聴きどころ。
 いずれにしても、快適なリズムと若干染み入る哀愁とが洗練されていて楽しいアルバムであった。

(評価)
□ 曲、演奏、歌  87/100
□ 録音      87/100

(試聴)
"Meu Samba Torto"

*
"Cravo e Canela"

 

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2024年7月17日 (水)

シモーネ・コッブマイヤー Simone Kopmajer 「Hope」

相変わらずのスウィートにしてマイルドな歌声

<Jazz>

Simone Kopmajer 「Hope」
自主制作 /Import / SKLMR24  /2024

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Simone Kommajer - vocals
Terry Myers - saxophone
Paul Urbanek - piano
Karl Sayer - bass
Reinhardt Winkler - drums

Foto1w  過去に取り上げてきたオーストリア出身の歌姫、シモーネ・コップマイヤー(1981年生まれ)の新作、今回は自主製作版ようだ。もともと彼女の持ち味である爽やかな可愛らしさにスウィートにしてマイルドな歌声は相変わらずで聴きやすさが売り物だ。
  ここでも取り上げた評判の良かったアルバム『MY WONDERLAND』(2020)でバックを務めたTerry Myers(ts), Paul Urbanek(p)が今回もゆったりムードの演奏でシモーネの歌唱を支え。選曲は彼女自身の曲のほか、AORといわれる分野の曲からJazzまでの比較的やさしい曲で、シモーネの魅力を満たそうとした作品だ。

(Tracklist)

1. Pick Yourself Up (Dorothy Fields/Jerome Kern) (3:27)
2. Black Tattoo (Karolin Tuerk/Simone Kopmajer) (3:46)
3. Careless Whisper (George Michael/Andrew Ridgeley) (3:29)
4. Little Green Apples (Robert Russell) (4:19)
5. What A Difference A Day Makes (Stanley Adams/Maria Grever) (4:29)
6. Sittin´ On The Dock Of The Bay (Steve Cropper/Otis Redding) (4:01)
7. Amsterdam (Karolin Tuerk Paul Urbanek) (3:01)
8. Old Devil Moon (Burton Lane, E.Y. Harburg) (4:14)
9. Hope (Simone Kopmajer & Paul Urbanek) (4:02)
10. As The Night Goes By (Paul Urbanek) (4:40)
Bonus Track
11. So Faengt Das Leben An (Simone Kopmajer/Paul Urbanek) (3:13)

 彼女も年期も入ってきたので、このアルバムでは、もう少しジャズらしくなってきたかと思ったが、むしろポップス色が強くなっている感がある。その点は少々残念であったが、自主製作盤であって彼女自身の好みに準じての作風かも知れない。まあ時に気楽に聴くヴォーカルものとして良いとしておこう。

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 彼女のオリジナル曲に注目してみたが、ピアノのPaul Urbanekの協力を得ていて、アルバム・タイトル曲M9."Hope"は、AORタイプでちょっとカントリーっぽい曲だ。又M11." So Faengt Das Leben An"はあまり特徴のない曲となっている。
 M6."Sitting on the Dock of the Bay"は、オーティス・レディングの曲で有名だが、ペギー・リーなども歌っていて私にとっても最も親しみやすい曲だが、しっとりと仕上げていてこれはこれで納得。M3."Careless Whisper"ジョージ・マイケルの曲、これはまさにポップですね。本人が好きなのか、ファン・サービスか。
  ダイアナ・クラールなども歌っているM1."Pick Yourself Up"は、ちょっとジャズ・ムードでオープニング曲。ダイアナ・ワシントンの歌っていたM5."What a Difference a Day Makes"(縁は異なもの)はむしろ若々しく軽快にこなしている。

 そんな感じで、元来の彼女のソフトなスウィート、マイルドといったところを維持しながら、そろそろ円熟味もちょっと出したといった感じのヴォーカルでポップな味付けのジャズ・ヴォーカルが全編に渡って展開。ジャズ・ヴォーカル・ファンとしてはそのスタイルにちょっと物足りなさを感じたところだが、無難で広く勧められるアルバムとして結論づける。

(評価)
□ 曲・編曲・歌 :  87 /100
□   録音     :  85 /100

(試聴)
"What a Difference a Day Makes"

 

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2024年7月13日 (土)

ファーガス・マクリーディー Fergus McCreadie Trio 「 Stream」

見事な独創性で民族音楽とコンテンポラリー・ジャズの融合を図る

<contemporary Jazz>

Fergus McCreadie Trio / Stream
Edition Records / Import / EDN1228 / 2024

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Fergus McCreadie (piano)
David Bowden (double bass)
Stephen Henderson (drums)

 私にとっては初物の登場です。スコットランドの注目のピアニスト・作曲家ファーガス・マクリーディーの ピアノ・トリオ4thアルバム。ジャズとスコットランドの伝統音楽の革新的な融合で、スコットランドの伝統の美旋律を現代的なセンスで演ずるコンテンポラリー・ジャズ・サウンドが注目されている。
 彼はスコットランド出身のピアニスト兼作曲家。彼の注目度は2021年発表の2nd『Cairn』(下中央)以降急速に高まり、2022年マーキュリー賞の最終候補に選ばれ、同年の3rdアルバム『Forest Floor』(下右)はスコットランド・アルバム・オブ・ザ・イヤー(SAY)を獲得した。
 今回のこの新作を聴くにあたり前作『Forest Floor』を聴いてみたが、『Cairn』以来取り上げている「自然のテーマ」を明らかに継続しているようだ。そして今回は「水の本質」に焦点を当てているというのだが・・・。

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 そしてこのトリオ構成は、デヴィッド・ボウデン(David Bowden, bass 下左)とスティーヴン・ヘンダーソン(Stephen Henderson, drums下右)という長年の仲間で、十代の2016年に権威あるピーター・ウィッティンガム・ジャズ・アワードを受賞したほか、その他各種の賞を受賞している。そしてトリオは、スコットランド各地のジャズフェスティバルに定期的に出演し、北欧などでツアーを行って、オスロやストックホルムのジャズ・フェスティバルにも参加。

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 デビュー・アルバムはマクリーディー20歳時の2018年春にリリースされた自主製作盤『Turas』(上左)で、"スコットランドの風景や音楽の伝統との関わりを反映しながら、ジャズ・ピアノの伝統をしっかりと理解している"と称賛され、国の名誉ある賞に輝いている。聴いてみるとスコットランドの風土をイメージさせる"静"と、民族的な雰囲気のある"動"の曲展開が見事。

 ファーガス・マクリーディーFergus McCreadie ( piano  上中央)は1997年スコットランドの小さな町・ジェームスタウン生まれ。幼少期からピアノの才能を示し、12歳の頃にはすでにピアニストの道を決めていたという。15歳で「U17s Young Scottish Jazz Musician award」を受賞。翌年も受賞し、同賞創立以来初の2連覇の偉業を成し遂げた。2018年にスコットランド王立音楽院を卒業し、最も影響を受けたピアニストはキース・ジャレットだという。

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1. Storm 4.11
2. The Crossing 12.37
3. Driftwood 5.38
4. Snowcap 3.31
5. Sun Pillars 6.29
6. Mountain Stream 2.16
7. Stony Gate 5.26
8. Lochan Coire Àrdair 13.12
9. Coastline 5.47

 

 アルバム・タイトル通りの時に穏やかで、時に嵐のように、しかし常に前進する、水のように流れる音楽が展開される。
マクリーディーは「このアルバムで一番好きなのは、アルバムが進むにつれて暗いものから明るいものへと進化していくところだ。曇り空から晴れ空への旅みたいな感じで、曲の順番が恣意的だった以前のアルバムとは全く違うんだ」と。
 繊細なタッチと若さ漲る大胆なストロークを展開する彼らのサウンドは、過去の2作から積み上げてきた自然との対話と民族的な誇りに支えられての彼ら自身の独特な道を切り開く世界に確固たる前進の心をもってこのアルバム「Stream」を展開している。又一枚のアルバムにトータルに捉え描く意欲が見事と言いたいところだ。

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 M1. "Storm " は、オープニングにふさわしくいかにも物語の始まり風の動と静の美学で迫る。中盤のの荒々しさは攻撃的な世界観を感ずる。そして再び静の世界に・・そして締めくくりの三者の合奏の盛り上がりで見事。
 M2. "The Crossing"12分以上の長曲。メロディーがどこか民族風で豊か、そして動の盛り上がりとの対比が面白い。
 M3. "Driftwood" "流木" 活発なドラムスから速攻展開のピアノと中盤のアクティブなピアノ が聴かせどころか
   M4. "Snowcap" 前半のピアノとベースの軽快なユニゾンが続く、山頂の雪の融雪と流れを描いているのか
   M5. "Sun Pillars" 確かに明るい展開が、中盤のベース・ソロが快活に、そして続くピアノも快活に展開
 M6. "Mountain Stream " ぐっと深遠なピアノの響き
   M7. "Stony Gate" 確かに心弾む展開に、民族的古来のメロディーか
   M8. "Lochan Coire Àrdair " ベースがメロディーを奏でる・・そして澄んだピアノの音とのユニゾンが美しく展開し、次第に雄大な流れを描く
   M9. "Coastline " 静かに美しく豊かなメロディー、最後は広大な海に

 こうして聴いてみると確かに水の流れから始まって雄大な川となる物語のようである。しかし描くところ自然の壮大さであろうが、そこには彼らの"人生観"をオーバーラップさせているようにも思う。時には穏やかで、時には激しく、しかし常に流れ続ける「stream」は、スコットランドの豊かな風景に反映された民族音楽と彼らの構築したコンテンポラリー・ジャズの世界を淀み無く流れている感がある。「暗」から「明」へという点に聴く者にとっては好感が持てる姿である。見事な独創性で民族音楽とコンテンポラリー・ジャズの融合を図る好作品と結論づける。

(評価)
□ 曲・演奏 :  88/100
□ 録音       :  88/100

(視聴)
"Stony Gate"

*
"Live in Glasgow 2023"

 

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2024年7月 8日 (月)

ディミトリ・ナイディッチ Dimitri Naïditch「Chopin Sensations」

ショパンをモチーフに自己のピアノ・トリオ・ジャズを展開

<Jazz>

Dimitri Naïditch「Chopin Sensations」
Piano Ma Muse / import / AD7876C / 2024

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Dimitri Naïditch(piano)
Gilles Naturel (bass)
Lukmil Perez (drums)

   クラシックとジャズ両ジャンルの世界で活躍しているピアニスト、ウクライナ出身でフランスで活躍中のディミトリ・ナイディッチ(↓左)がピアノ・トリオとソロで、今度はショパンの楽曲をジャズとして解釈した作品。過去に2019年バッハ集(『Bach Up』)、2020年モーツァルト集(『Ah! Vous dirai-je...Mozart』)、 2022年フランツ・リスト集(『Soliszt』) をリリースしていて、ここでも過去に取上げてきたが、それに続くものだ。
 相変わらず美しいクラシカルなタッチで、軽妙にジャズ・アプローチを行って、表現の豊かさはさすがと言うところで魅力の演奏を聴かせてくれる。そしてドラムスのキューバ人のルクミル・ペレス(1970- ↓右)とフランス人のベテランベーシスト、ジル・ナチュレル(1960- ↓中央)の現在フランスで活躍している二人との相性もなかなか良さそうだ。

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🔳 ディミトリ・ナイディッチDimitri Naïditchは・・・・
  父は科学者で母ピアノ教師のもと、1963年にウクライナの首都キーウ(キエフ)で生まれた。幼少期よりピアノを演奏してきている。1988年から翌年にかけて、リトアニアで開催された全国ピアノコンクールとポーランドで開催された国際コンクールで優勝し、その後キーウの高等音楽学校とモスクワのグネーシン音楽大学で学び技術を磨き上げる。
  1991年にフランスに渡りクラシックとジャズのコンサート活動を続け、1994年からはリヨン国立高等音楽院で教鞭を取るようになった。その後もフランスを拠点にソロ・コンサートから交響楽団との共演まで幅広く演奏活動を行っている。また、2007年から2009年にかけて、彼はウクライナの伝承音楽に焦点をあてた Les Chants d’Ukraine, Davnina と Trio Kiev というプロジェクトで各地でコンサートを行った。

(Tracklist)

1 Nocturne du Jour
2 Valse à Trois
3 Lasse Étude
4 Improvisation sur le Prélude n°7
5 Nocturne à Peine
6 Prélude en Boléro Bémol Majeur
7 Improvisation sur la Marche Funèbre
8 Valse des Astres
9 Pleine Étude
10 Improvisation sur le Prélude n°20
11 Ballade en Bolide
12 Valse N° 2en do dièse mineur Op.64

 編曲を駆使し又自由な即興演奏を取り入れて、原曲を見事にジャズ化している。ピアノトリオ編成でショパンに捧げる叙情性たっぷりのジャズだが、彼のセンスが溢れている即興演奏は見事で圧倒してくる。つまりショパンを演ずるのでなく、ショパンの味を自己の世界に取り入れるというところにあるのである。

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 つまり収録曲のラストのM12."Valses, Op. 64: n°2 en do dièse mineur"(ワルツ第7番 嬰ハ短調 作品64-2)以外の曲は、なんと全てディミトリ・ナイディッチの作曲クレジットとしており、それぞれ曲の要所にショパンのフレーズを引用して自分の曲や即興との交流を図り自己の曲として構築し美しい世界を描くところが凄い。
 それでも原曲のモチーフである前奏曲作品28-15「雨だれ」をしっかり聴けるM6."Prélude en boléro bémo lmajeur"とか、誰でも知っている練習曲10-3の「別れの曲」をちょっとイメージを変えたM9."Pleine étude"などのような曲もあり、親しく面白く聴けるのも楽しいところである。
 唯一このアルバムでショパンを名乗るM12.は、ショパンが晩年に残した有名なワルツだが、ここでは最後にその他の曲とは一線を画し、即興をほぼ入れずに、ディミトリのソロでショパンの世界を我々に知らしめるのである。

 全体に少々残念なのは、ベース、ドラムスがうまくアクセントをつけてサポートして盛り上げているのだが、ピアノ主導の因子が強く、もう少し彼らも前面に出ての独自の世界の主張の即興などを織り交ぜてくれるとジャズ・トリオらしさが出たのではと思ったところがあった。

 過去のナイディッチのバッハ、モーツァルト、リストものに於いては、それぞれが全く異なった世界を聴かせたところは驚きであったが、このショパンものは、これ又それらとは全く異なるセンチメンタルな抒情性の美学が漂っていて、これはそれぞれの歴史的作曲家の本質を知り尽くしての技であろう。そんなところも聴き込むに価値ある演奏であった。

(評価)
□ 編曲・即興・演奏  90/100
□ 録音        88/100

(試聴)

"Pleine Ētude"

 

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2024年7月 3日 (水)

トーマス・スタンコ・カルテット TOMASZ STANKO QUARTET 「 SEPTEMBER NIGHT」

スタンコの荒々しさとダーティーな哀感の世界をマルチン・ボシレフスキ・トリオが支える

<Jazz>

TOMASZ STANKO QUARTET 「 SEPTEMBER NIGHT」
Universal Music / Jpn / UCCE-1207 / 2024

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トーマス・スタンコ TOMASZ STANKO (trumpet)
マルチン・ボシレフスキ MARCIN WASILEWSKI (piano)
スワヴォミル・クルキエヴィッツ SLAWOMIR KURKIEWICZ (bass)
ミハウ・ミスキエヴィッツ MICHAL MISKIEWICZ (drums)

録音年 2004年9月9日
録音場所 ミュンヘン、ムファットホール

 2018年に享年76歳で他界したポーランドを代表するトランペッターのトーマス・スタンコ(1942-2018 下左)が、“21世紀のECM”を代表する同じポーランドのピアノ・トリオと繰り広げた今から20年前の2004年のライヴ音源が登場した。つまりECMデビュー前夜のマルチン・ボシレフスキ・トリオ(下右、まだ“シンプル・アコースティック・トリオ”として活動していた頃)をフィーチャーしたカルテットで繰り広げた2004年のミュンヘンでのライヴ音源。
 この年には、このカルテットでのアルバム『Suspended Night』がリリースされて、彼としても更なる発展段階にあった時で魅力的なドキュメントであり、又我が愛するマルチン・ボシレフスキにおいても、若手としての技能の高さで注目度の高まった時期の状況を知れるものとしても魅力たっぷりのアルバム。

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  この組み合わせは、2年前の2002年にこのポーランドのカルテットとしての共演作がお目見えし、トーマス・スタンコを新たな評価へと押し上げた。 それがボシレフスキ、クルキエヴィッツ、ミスキエヴィツとのECM第1弾『Soul of Things』(2002)であり、 ヨーロッパ・ジャズ賞を受賞することになる。
 そして今回のこのライブ音源は、その2004年このカルテットでの第2作アルバム『Suspended Night』のレパートリーである歌曲の形式と、翌2005年に録音された第3作アルバム『Lontano』で探求された即興的な分野の間を巡り巡っているところが、グループの音楽の発展段階を捉えた魅力的なドキュメントとなっていて貴重であるのだ。

  この2004年には、ボシレフスキ、クルキエヴィッツ、ミスキエヴィッツは、彼ら自身も確固たる国際的評価を確立していた。10代に結成した「シンプル・アコースティック・トリオ」として10年間を経て、彼らは「マルチン・ボシレフスキ・トリオ」として新たなアイデンティティを確立し、アーティストとしてますます力をつけている。これにはトーマス・スタンコは当時、彼らを評価し語っている「ポーランドのジャズ史上、このようなバンドは存在しなかった」「私は毎日、このミュージシャンたちに驚いている。 そして、彼らはますます良くなっている」と。

(Tracklist)
1. Hermento’s Mood ヘルメントズ・ムード 5:28
2. Song For Sarah ソング・フォー・サラ 6:20
3. Euforia ユーフォリラ  9:44
4. Elegant Piece エレガント・プレイス 10:22
5. Kaetano カエターノ 8:48
6. Celina セリーナ 10:44
7. Theatrical シアトリカル 6:34

 このこのミュンヘン公演は、スタンコ・カルテットがアメリカとヨーロッパで大規模なツアーを行った年の最高潮の演技と言えるものであると言われている。当時、過去にポーランド・ジャズの大御所クリシュトフ・コメダとの共演などの多くの実績のある偉大なトランペッターとしての評価のあるスタンコは、ここでリーダーシップと最高の魅力を十二分に発揮し、スラブの伝統に根ざしクラシック音楽からの発展形をベースに新しいジャズを演じてきていた若きボシレフスキ、クルキエヴィッツ、ミスキエヴィッツのピアノトリオのエネルギッシュなサポートと見事なカルテットとしての演奏力に力を得て、彼らしい素晴らしい演奏を披露している。

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  M2."Song For Sarah "あたりから、マルチン・ボシレフスキ・トリオの本質がちゃんと見えてきて、彼らがピアノによる深遠な世界を構築し、スタンコがダーティーに乗って行くかのスタイルが見える。
 M3."Euforia"は、ベースのリードからスタートして、それにスタンコがエネルギッシュに盛り上がると、反応するがごとくピアノ・トリオが動を即興で演じ更にエモーショナルな展開をみせ、中盤は今度はピアノが語り始め、ドラムスが展開を形作る。まさにピアノ・トリオの主導のバトルに再び終盤にはトランペットが逆に収める役を果たし、ドラムスが答えて最後はトリオとスタンコでまとめあげる。
 そしてM4."Elegant Piece "は再び静の世界に、10分を超える曲で中盤からトランペットの訴えが始まり、つづいてピアノが延々と語り始める。最後は両者の響きでハーモニックなところを見せながら納める。

 このような、四人の対等なカルテットの演奏が流れ、やはりスタンコのトランペットは彼独特の荒々しい音色は響かせるのだが、ドラマチックな展開の中に憂鬱感の暗さがあったり、哀愁感に満ちたりと人間的な世界を描くところは抜きんでている。そこに又ジャズの激しさをちらっと見せグルーヴ感をちゃんと聴かせながらも、どこか深淵にして人の心を哀感を持って描いてくれるポーランド風ボシレフスキ・ピアノ・トリオの世界が顔を出し、いつの間にか引き付けられてしまう。これがライブ録音かと思うぐらいカルテットとして充実していて、曲の配列も見事でアルバムとしても完成している。
 ここに来て、スタンコの名盤に入るアルバムが登場した感がある。

(評価)
□ 曲・演奏   90/100
□ 録音     87/100

(試聴)

 

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