ファーガス・マクリーディー Fergus McCreadie Trio 「 Stream」
見事な独創性で民族音楽とコンテンポラリー・ジャズの融合を図る
<contemporary Jazz>
Fergus McCreadie Trio / Stream
Edition Records / Import / EDN1228 / 2024
Fergus McCreadie (piano)
David Bowden (double bass)
Stephen Henderson (drums)
私にとっては初物の登場です。スコットランドの注目のピアニスト・作曲家ファーガス・マクリーディーの ピアノ・トリオ4thアルバム。ジャズとスコットランドの伝統音楽の革新的な融合で、スコットランドの伝統の美旋律を現代的なセンスで演ずるコンテンポラリー・ジャズ・サウンドが注目されている。
彼はスコットランド出身のピアニスト兼作曲家。彼の注目度は2021年発表の2nd『Cairn』(下中央)以降急速に高まり、2022年マーキュリー賞の最終候補に選ばれ、同年の3rdアルバム『Forest Floor』(下右)はスコットランド・アルバム・オブ・ザ・イヤー(SAY)を獲得した。
今回のこの新作を聴くにあたり前作『Forest Floor』を聴いてみたが、『Cairn』以来取り上げている「自然のテーマ」を明らかに継続しているようだ。そして今回は「水の本質」に焦点を当てているというのだが・・・。
そしてこのトリオ構成は、デヴィッド・ボウデン(David Bowden, bass 下左)とスティーヴン・ヘンダーソン(Stephen Henderson, drums下右)という長年の仲間で、十代の2016年に権威あるピーター・ウィッティンガム・ジャズ・アワードを受賞したほか、その他各種の賞を受賞している。そしてトリオは、スコットランド各地のジャズフェスティバルに定期的に出演し、北欧などでツアーを行って、オスロやストックホルムのジャズ・フェスティバルにも参加。
デビュー・アルバムはマクリーディー20歳時の2018年春にリリースされた自主製作盤『Turas』(上左)で、"スコットランドの風景や音楽の伝統との関わりを反映しながら、ジャズ・ピアノの伝統をしっかりと理解している"と称賛され、国の名誉ある賞に輝いている。聴いてみるとスコットランドの風土をイメージさせる"静"と、民族的な雰囲気のある"動"の曲展開が見事。
ファーガス・マクリーディーFergus McCreadie ( piano 上中央)は1997年スコットランドの小さな町・ジェームスタウン生まれ。幼少期からピアノの才能を示し、12歳の頃にはすでにピアニストの道を決めていたという。15歳で「U17s Young Scottish Jazz Musician award」を受賞。翌年も受賞し、同賞創立以来初の2連覇の偉業を成し遂げた。2018年にスコットランド王立音楽院を卒業し、最も影響を受けたピアニストはキース・ジャレットだという。
1. Storm 4.11
2. The Crossing 12.37
3. Driftwood 5.38
4. Snowcap 3.31
5. Sun Pillars 6.29
6. Mountain Stream 2.16
7. Stony Gate 5.26
8. Lochan Coire Àrdair 13.12
9. Coastline 5.47
アルバム・タイトル通りの時に穏やかで、時に嵐のように、しかし常に前進する、水のように流れる音楽が展開される。
マクリーディーは「このアルバムで一番好きなのは、アルバムが進むにつれて暗いものから明るいものへと進化していくところだ。曇り空から晴れ空への旅みたいな感じで、曲の順番が恣意的だった以前のアルバムとは全く違うんだ」と。
繊細なタッチと若さ漲る大胆なストロークを展開する彼らのサウンドは、過去の2作から積み上げてきた自然との対話と民族的な誇りに支えられての彼ら自身の独特な道を切り開く世界に確固たる前進の心をもってこのアルバム「Stream」を展開している。又一枚のアルバムにトータルに捉え描く意欲が見事と言いたいところだ。
M1. "Storm " は、オープニングにふさわしくいかにも物語の始まり風の動と静の美学で迫る。中盤のの荒々しさは攻撃的な世界観を感ずる。そして再び静の世界に・・そして締めくくりの三者の合奏の盛り上がりで見事。
M2. "The Crossing"12分以上の長曲。メロディーがどこか民族風で豊か、そして動の盛り上がりとの対比が面白い。
M3. "Driftwood" "流木" 活発なドラムスから速攻展開のピアノと中盤のアクティブなピアノ が聴かせどころか
M4. "Snowcap" 前半のピアノとベースの軽快なユニゾンが続く、山頂の雪の融雪と流れを描いているのか
M5. "Sun Pillars" 確かに明るい展開が、中盤のベース・ソロが快活に、そして続くピアノも快活に展開
M6. "Mountain Stream " ぐっと深遠なピアノの響き
M7. "Stony Gate" 確かに心弾む展開に、民族的古来のメロディーか
M8. "Lochan Coire Àrdair " ベースがメロディーを奏でる・・そして澄んだピアノの音とのユニゾンが美しく展開し、次第に雄大な流れを描く
M9. "Coastline " 静かに美しく豊かなメロディー、最後は広大な海に
こうして聴いてみると確かに水の流れから始まって雄大な川となる物語のようである。しかし描くところ自然の壮大さであろうが、そこには彼らの"人生観"をオーバーラップさせているようにも思う。時には穏やかで、時には激しく、しかし常に流れ続ける「stream」は、スコットランドの豊かな風景に反映された民族音楽と彼らの構築したコンテンポラリー・ジャズの世界を淀み無く流れている感がある。「暗」から「明」へという点に聴く者にとっては好感が持てる姿である。見事な独創性で民族音楽とコンテンポラリー・ジャズの融合を図る好作品と結論づける。
(評価)
□ 曲・演奏 : 88/100
□ 録音 : 88/100
(視聴)
"Stony Gate"
*
"Live in Glasgow 2023"
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コメント
コチラへのご来訪ありがとうございます!民族音楽と・ジャズがコラボする独創性、ジャズも幅広さと多様性がありますね~。フレンチPOPS記事にコメントを頂いた別の方からも、フランスはジャズ世界の方が身近な音楽だったとの言葉があり、そうなのかと驚きました。
投稿: ローリングウエスト | 2024年7月15日 (月) 06時42分
ローリングウェスト様
コメント有難うございます
こうしたコンテンポラリー・ジャズも今や盛んですね。ユーロ系ジャズ畑も充実は素晴らしいです。
そうそう、私がもともとクラシックやロックが主力だった'60年代頃にジャズに興味を持つきっかけは、フランスのジャック・ルーシェの「プレイ・バッハ」からでした。今もユーロではクラシック畑からジャズを演ずるようになるミュージシャンも多いですね。アメリカの黒人ミュージシヤンの築いた歴史とは違う発展ですね。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2024年7月16日 (火) 20時51分