ブリア・スコンバーグ Bria Skonberg 「What Is Means」
彼女のトランペツトよりヴォーカルに注目して一票を入れる
<Jazz>
Bria Skonberg 「What Is Means」
CELLAR LIVE / Import / CM072624 / 2024
Bria Skonberg (trumpet) (vocal on 02, 03, 04, 07, 08, 11)
Don Vappie (electric guitar except 11) (banjo on 06)
Chris Pattishall (piano)
Grayson Brockamp (acoustic bass)
Herlin Riley (drums, percussion except 11)
Aurora Nealand (soprano saxophone on 01)
Rex Gregory (tenor saxophone on 04, 08, 10) (bass clarinet on 09)
Ethan Santos (trombone on 04, 08, 09, 10)
Ben Jaffe (sousaphone on 01, 10)
Gabrielle Cavassa (vocal on 08) (female)
米ニューヨーク・シーンで活躍しているカナダ出身の女性トランぺッター兼ヴォーカリスト(兼ソングライター)のブリア・スコンバーグ(1983年カナダ-ブリティッシュ・コロンビア州チリワック生まれ。左)のアルバム。彼女は現在まで着々とアルバムをリリースしているが、今回は、小コンボ体制(と、言っても上記のように豪華体制)で、自己の音楽的ルーツであるニューオーリンズ・ジャズ〜トラディッショナル・ジャズに焦点を当てた作品。
ニューオルリンズ・ジャズとなると、トランペットの活躍場所は大いにあって、彼女は溌溂と吹き上げている。しかし古典ジャズのニュアンスはどうしても拭うことはできず、ちょっと古臭い感覚にもなるが、彼女のヴォーカルも11曲中6曲に挿入されていて、その方が聴き応えある。
2021年1月、世界的なロックダウンの暗い重みの中、彼女は他のミュージシャンと交流した回数は10回未満に落ち込み、さらに、親になるという未経験の世界とで、"世界的孤立"と"新しい種類の愛"の両方を経験した。そしてようやくギグが再開され始めたとき、彼女は「自分は、戻る方法と前進する道を同時に見つけようとしているように感じた」と言っている。そこで10代の頃に学んだ曲、ルイ・アームストロングの"Cornet Chop Suey"などの名曲を再検討し、ヴァン・モリソンやビートルズなどの家族ぐるみでの愛好音楽を再考した。それが今回のアルバムの基礎にあるとみてよい。
その上に、ブリア・スコンバーグは、既にダイアナ・クラール等が開拓したジャズ因子の絡めた洗練されたポップ・シーンを目指し、新たな領域をもって確固たる地位を築くことを試み、そもそも2015年のPortrait Recordsからのデビューアルバム『Bria』(このアルバムで私は初めて彼女を知ったのだが。→)には、スタンダード曲と5曲のオリジナル曲が収録されていて、「クラシックジャズを愛し、そこにリズム、パーカッションを重んじた現代的なポップ色あるところを融合させる」という手法をとってきた。その流れは今回のアルバムでも感ずるところにある。
忘れてはならないのは、このアルバムには、ニューオーリンズのジャズシーンからいろいろなミュージシャンが参加している。特に、ドラマー/パーカッショニストのHerlin Riley(下中央)は、ニューオーリンズの伝説である。ベーシストであるGrayson Brockamp とは初仕事。ピアニストのクリス・パティシャルChris Pattishall(下右)は、ブリアの最も長いコラボレーターで、豊富な映画音楽の経験を生かしている。ギターとバンジョーで活躍するDon Vappie(下左)は、ニューオーリンズの音楽遺産の巨人。M1.で聴くソプラノサックス奏者のAurora Nealandは、ストックホルムのスウィングフェスティバルで彼女の元ルームメイトとか。
(Tracklist)
01. Comes Love
02. Sweet Pea*
03. Do You Know What It Means To Miss New Orleans?*
04. The Beat Goes On*
05. In The House
06. Cornet Chop Suey
07. Beautiful Boy (Darling Boy)*
08. Days Like This*
09. Petit Fleur
10. Elbow Bump
11. Lullabye (Goodnight My Angel) /A Child Is Born (vo/tp-p-b trio)*
*印 Vocal入り曲
もともとラッパ物入りニューオルリンズ・ジャズには興味のない私であるので、これはスコンバーグのヴォーカル・アルバムとして聴いてみようと思ったところだ。思った通りどちらかというとクラシックなスタイルの明るくハキハキとしたトランペットの響きが主体の演奏で、それ自体は悪くないが、私はあまり興味もわかなかったのである。しかし彼女のヴォーカルの入る曲にはちょっと一目を置いた次第。
M1. "Comes Love" 戦前のブロードウェイ・ミュージカル曲のスタンダード化したポピュラーな曲が軽快に登場。トランペットが活躍して、管楽器の合奏でこれから楽しくゆきましょうと言った感じのクラシカル・ジャズ。しかし中盤から変調するなどして洒落ている。
M2. "Sweet Pea" さっそく彼女の高音寄りのヴォーカルの登場。白人系ではきはきしていて端正、スッキリ感で良い。
M3. "Do You Know What It Means To Miss New Orleans?" おおここでは、彼女の可愛げなスローバラード調のヴォーカルが登場、後半になってトランペットがメロディーを演ずるがなかなかいいムードだ。この曲からアルバム・タイトルが造られたのだろう。
M4. "The Beat Goes On"ロックン・ロールして楽しそう。
M5. "In The House" も軽快、ベースの響きのリズムが印象的、トランペットもコントロールしての歯切れの良い独演、ピアノの相槌がいい。管楽器のユニゾンよりは私は好き。
M6. "Cornet Chop Suey" 昔のルイ・アームストロング が作曲したジャズ・ナンバー。演奏の奇抜さが評判の曲を彼女は負けず劣らず見事に技巧を凝らして演奏する。
M7. "Beautiful Boy (Darling Boy)"ジョン・レノンの息子への曲、彼女の優しさの溢れたヴォーカルで、このアルバムでは異色作。
M8. "Days Like This" ヴァン・モリソンの曲、家族で愛している曲と。
M9. "Petit Fleur" 日本で昔ピーナッツが歌った"可愛い花"。彼女のトランペットが聴きどころだが、"小さな花"の懐かしき曲。
M10. "Elbow Bump" 興味は湧かなかった。
M11. "Lullabye (Goodnight My Angel) /A Child Is Born" (vo/tp-p-b trio) ビリー・ジョエルの美曲。ここでのスコンバーグのなかなか優しい歌は聴きどころ。最後にM7.とともに我が子へ送る歌だろうか。
このアルバムでは、ブリア・スコンバーグの溌剌明快なところとプルースの渋さ満点のところのあるトランペツトが一番の聴き処だろうが、私は彼女のヴォーカル曲を、美声であり、曲によっての歌いまわし技巧がすぐれていて、ソウフルな味もあっての点に注目して快く聴くことが出来た。もともと古めかしい華々しさのそんなニュー・オルリンズ・ジャズには興味がないのだが、それでも演奏陣は、現代にマッチすべくトラディッショナル趣向をうまく新感覚に併わせて演奏し、リフレッシュ効果を忘れずに奮戦していた。当初からのヴォーカル中心の世界に絞って聴こうとしていたわけだが、そこも加味して高評価しておきたい。
(評価)
□ 曲・演奏・歌 88/100
□ 録音 87/100
(試聴)
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