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2024年10月31日 (木)

エレン・アンデション Ellen Andersson 「Impressions of Evans 」

スカンジナビアのジャズ界の歴史を顧みて、ビル・エヴァンスを歌い上げる

<Jazz>

Ellen Andersson 「Impressions of Evans 」
Prophone Records / International Version / PCD344 / 2024

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Ellen Andersson エレン・アンデション(vocal )
Heine Hansen ハイネ・ハンセン(piano )
Thomas Fonnesbæk トマス・フォネスベク(bass )
Andreas Svendsen アンドレーアス・スヴェンセン(drums )
Bjarke Falgren ビャーケ・ファルグレーン(strings )

録音 2022年12月 V-Recording(コペンハーゲン)

61xl4gjx8l_ac_slw    このアルバムは、4年前(2020年)にここで取り上げた前作『You Should Have Told Me』(PCD204, 2020)が好評であったスウェーデンのヴォーカリスト、エレン・アンデション(1991年生まれ、下左)の新作(3枚目)である。
  それはなんと60年前の1964年に、ビル・エヴァンスとスウェーデンの女性ヴォーカリストのモニカ・ゼッタールンドMonica Zetterlund(下右)が共演し、スカンジナビアのジャズヴォーカル界に新しい時代を生み出したと評価される私の愛聴盤にして歴史的名盤のM.Zetterlund&B.Evans『Waltz For Debby』(UCCU-5904、末尾参照、右上)を記念し、エヴァンスとゼッタールンドをトリビュートした一枚なのである。

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 アンデションは、2016年の『I'll Be Seeing You』(PCD165)でデビューして以来、私の注目株であったが、「好奇心旺盛な若さと成熟した経験豊富な2つの声を1つにまとめた独特の歌声」として注目されたが、私的には「あどけなさと大人の味の2面」といったところにあって、その表現力には芸術的深みにも通じて、まさに稀有な存在だ。そして2020年の2ndアルバム『You Should Have Told Me』は、スウェーデンのグラミー賞にノミネートされたほか、スカンジナビアの歴史的ジャズ女性歌手を記念した「モニカ・ゼッタールンド賞」を受賞した。その為なのか、本作ではゼッタールンドをトリビュートすることになったのかと推測するのだ。

 このアルバムは、「北欧の自然の牧歌性」と「ニューヨークという都会」の相対する世界をどのように描くのか、ビル・エヴァンスの曲をどのように歌い上げるのか等と、面白い面の注目点がある。

(Tracklist)

1. Jag vet en dejlig rosa(Traditional)
2. Monicas vals(Bill Evans/Beppe Wolgers)
3. Very Early(Bill Evans/Carol Hall)
4. Summertime(GeorgeGershwin/DuBose Heyward/Dorothy Heyward/Ira Gershwin)
5. My Bells/Childrenʼs Play Song(Bill Evans/Gene Lees)
6. Vindarna suska uti skogarna(Traditional)
7. Some Other Time(Leonard Bernstein/Betty Comden/Adolph Green)
8. Just You, Just Me(Jesse Greer/Raymond Klages)
9. Om natten är alla änkor grå(Olle Adolfphsson/Carl Fredik Reuterswärd)
10. Blue in Green(Bill Evans/Miles Davis/Hansen)

 いっやーー、驚きました。このアルバムもアンデションは全くゆるぎなく自己のヴォーカル世界を貫いている。
 M1."Jag vet en dejlig rosa"(美しいばらを知っている)は、スウェーデンのトラディッショナルらしく、アルバム・ジャケのイメージでの非常に牧歌的な歌で心に響く。
 そしてエヴァンスの曲M2."Monicas vals(=Walz for Debby)"(モニカのワルツ)をゼッタールンドが歌ったのだが、それをアンデションがスウェーデン語歌詞で歌うのだ。異質の両曲であるが、彼女のささやきに近い歌声で、情感と歌心溢れる繊細さでどこか親密感を感じさせるヴォーカルを聴かせてくれる。
 そしてM6."Vindarna suska uti skogarna"(風が森でため息をつき)もトラディショナルであるが、バックの演奏も美しく、北欧の世界が脳裏をかすめる優しいヴォーカルが印象的。
 とにかくビル・エヴァンスの4曲、そしてガーシュウィン(M4.)やバーンスタイン(M7.)の曲が、ゼッタールンドが歌い上げたのと異なって、まさにアンデション節になっているのが驚きであると同時に恐れ入りましたというところだ。

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 印象に残る曲として、ウッレ・アドルフソンのM9."Om natten är alla änkor grå"(夜、未亡人はみんな灰色なの?)は、ゼッタールンドの大切なレパートリーだったようだが、共感をこめ、美しいピアノをバックに説得力ある情感ある曲に仕上げてあり、エヴァンスとマイルス・デヴィスの曲M10."Blue in Green"より印象的だったのが驚きだ。

 いずれにしても、「エヴァンスの印象」と題して、ここに歌い込んだ挑戦に喝采すると同時に、その仕上げにて、尊敬するモニカ・ゼッタールンドの真似に終わらず、一歩も妥協せずに自分の世界を貫いたアンデションにお見事と言いたいのである。

(参照)
album『Waltz for Debby』(monica Zetterlund with Bill Evans 1964)
-Tracklist--
1.Come Rain or Come Shine
2.Jag vet en dejlig rosa
3.Once Upon a Summertime
4.So Long Big Time
5.Monicas vals (Waltz for Debby)
6.Lucky to Be Me
7.Vindarna sucka uti skogarna
8.It Could Happen to You
9.Some Other Time
10.Om natten

 

(評価)
□ 編曲・歌  90/100
□ 録音    87/100

(試聴)

 

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2024年10月27日 (日)

アーロン・パークス Aaron Parks 「Little Big Ⅲ」

パークスの別の面を見るプロジェクトだが、今作は意外に大人しかった

<Jazz>
Aaron Parks 「Little Big Ⅲ」
Blue Note Records / International Version / 6578465 / 2024

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Aaron Parks(p,key)
Greg Tuohey(g)
David Ginyard Jr.(b)
Jongkuk Kim(ds,per)

Imagesw_20241023162301  いっやーーアーロン・パークスのアルバムは久しぶりだ。彼は、かって2008 年に名盤『Invisible Cinema』で名門ブルーノートからデビューし、"メロディの繊細さとサウンド・メイキングの素晴らしさ"ということで、知るに至るのだが、その後のECMの活動を経て14年振りにブルーノートへ移籍し、ここに新作をリリースした。それは2018年からの「リトル・ビッグ」プロジェクトの第三弾にあたる。これはブルーノートの社長ドン・ウォズとパークス自身の共同プロデュースとなるもので、紹介されているように「即興音楽をエレクトロニカやヒップホップ、サイケデリアなどあらゆるジャンルと融合させること」と言うことをコンセプトとしているものだ。

 私自身は、彼に関しては『Invisible Cinema』の充実度の高さに驚き、ECMからリリースの2013年のピアノ・ソロ・アルバム『ARBORESCENCE』、2017年のピアノ・トリオ・アルバム『Find The Way』あたりでお気に入りであったが、この「リトル・ビック」プロジェクトに関しては・・・このアルバムを聴いていて前作を思い出したのであるが、「ECMもの」のような期待度とは少々異なる。彼らは実験的な世界を構築し、次への進歩の道を探っているような研究と実践効果を狙っている。そんなところから、むしろ私が聴くところでは遊び感覚の方が前に出そうだ。まあそれはそれで楽しいと言えば楽しいのでやっぱりじっくり聴きこみたいのである。

(Tracklist)

1. Flyways
2. Locked Down
3. Heart Stories
4. Sports
5. Little Beginnings
6. The Machine Says No
7. Willamina
8. Delusions
9. Ashé

 曲の構成は、M1, 2, 3とM8, 9の5曲がパークスの曲でメインの役割を果たしている。M4、M7はギターリストのテューイ、そしてM5はベーシストのギンヤードの曲である。
   結論的には想像していた世界からスリリングな味が後退していた。しかしここにみる未来感覚というのはミュージシャンの持っている創造性の重要な感覚であろうか、パークスもなんとなくリーダー作の演奏と異なって、トリオのお互いが同等に演ずるのびのびした演奏の雰囲気を出している。

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 M1."Flyways"は、ピアノからギターへと旋律を橋渡しして、思ったより大人しい出だし。M2."Locked Down"がやはりこのアルバムを特徴づけるピアノとベースの低音のリズムとりの響きが異様で面白い。M3."Heart Stories"はパークスらしい美世界。
 そしてこのプロジェクトのスリリングな味を特徴とする世界を作っているのはドラムスのように思う、特にM6."The Machine Says No"のようにたたみ込んでくる様がこのプロジェクトの特徴になっているように思うのだ。
 又M7."Willamina"のように、テューイの曲らしくギターのリードが主役をなして展開し、やはりピアノ・トリオの味と異なったピアノ・トリオ+ギターのカルテットとしての形が印象的。
 M8."Delusions"は、ピアノとギターの旋律のユニゾンが見事で、次第にミニマムな演奏にて流れてゆく。M9."Ashé"は、パークス作らしく、ピアノ、ベース、ギターの特徴的ユニゾンを聴かせ、しっとりと美世界を築く。

 今作になって、良いのか悪いのかこのプロジェクトとしては、パークスならではの美しいメロディと絶妙なバランスのアコースティック、エレクトリック・サウンドが聴けるも、前作よりは大人しくなっていた。それぞれ円熟してきたということも言えるのかもしれない。しかしいつも通り、パークスはここにて新たな創造への道を探っているのだろう、そんな実験が次作の彼のリーダー作に反映する基礎として作り上げているアルバムの印象である。私は好みからは、このプロジェクトよりは彼の場合はECM盤に軍配を上げるのだが、しかしそれにはこの世界もプラス効果として影響して貴重なのかもしれない。

(評価)
□ 曲・演奏    88/100
□ 録音          87/100
(試聴) 
"Heart Stories"

*
"The Machine Says No"

 

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2024年10月22日 (火)

サマラ・ジョイ Samara Joy 「Portrait」

高い音楽性と斬新な創造性で圧倒的歌唱力をみせるが、私にとっては期待外れ

<Jazz>

Samara Joy 「Portrait」
Verve / International Version / 6801315 / 2024

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Samara Joy(vo)
Jason Charos(tp, flh)
David Mason(as, fl)
Kendric McCallister(ts)
Donavan Austin(tb)
Connor Rohrer(p)
Felix Moseholm(b)
Evan Sherman(ds)

Samarajoy_overview  24歳の若さで、サラ・ヴォーンを思わせる圧倒的な歌唱力で絶賛を集めるニューヨーク出身の女性ジャズ・ヴォーカリスト、サマラ・ジョイ (Samara Joy→)の2ndアルバムの登場である。前作『Linger Awhile』(2022)が好評で当然期待度の高いところだが、前作と異なるのは、メジャー・デビュー前から後見してきたマット・ピアソンではなく、トランペット奏者のブライアン・リンチBrian Lynchとサマラ自身が共同プロデュースしている事のようだ。更にツアー・バンドのメンバー等と録音したのも新展開の試みであったと。
 彼女は第65回グラミー賞ではメジャー・デビュー・アルバム『Linger Awhile』にて「最優秀新人賞」と「最優秀ジャズ・ヴォーカル・アルバム賞」の2部門を受賞、翌年の第66回グラミー賞ではシングル『Tight』で「最優秀ジャズ・パフォーマンス賞」を受賞と、まさに久々の注目株。「カスタードのようなリッチな歌声」、「静謐で悠然な音楽」などの表現で絶賛の中にいる。

(Tracklist)

1.You Stepped Out Of A Dream
2.Reincarnation Of A Lovebird
3.Autumn Nocturne
4.Peace Of Mind/Dreams Come True
5.A Fool In Love (Is Called A Clown)
6.No More Blues
7.Now And Then (In Remembrance Of…)
8.Day By Day

 オーセンティックなジャズ・ヴォーカルと言われるぐらいに評価があり、2024年2月、多くの名盤がレコーディングされてきたヴァン・ゲルダー・スタジオにて3日間に渡って録音されたもので、「サマラの脇を固めるのはツアーを共にした新進気鋭の若手ジャズ・ミュージシャン7人。スタンダードとオリジナルが織り交ぜられた内容で、彼女の類まれなる歌唱力と表現力を全面に押し出した力作」と早くも好評。

Images1w  しかし、私自身は古典的ジャズ(例えばデキシーランド・ジャズ)などは好まないし、トランペット、トロンボーン、サックス等が合奏するスタイルはどうも好きでないというタイプのせいか、今回のこのゴージャスなスタイルがどうも敬遠したくなるのである。まあ今回のプロデューサーのブライアン・リンチ(→)はアフロ・キューバン系のトランペッターですから、そんな世界になって行くのでしょうが。彼女の歌唱力と迫力は納得のところにあるのだが、ジャズのジャンルは好みの問題で致し方のないところ。前作の方が圧倒的に好きである。

 例えばM7."Now And Then"のように、美しめのピアノのバックでラッパものは静かに後ろでゆったりと支えていてくれ、彼女のヴォーカルがバラード調に流れると、ほっとしつつ、聴き込むのである。このアルバムでは最も親近感を持った。M5."A Fool In Love"はやはりバラード調で、バックも小コンポ様の演奏でゆったりと聴ける。この程度なら私も対応可能だ。
 又M2."Reincarnation Of A Lovebird"などの歌い上げる様はやはり抜きんでてますね。入りはアカペラで実力をみせつけ、前半は説得力あるヴォーカルは魅力なのですが、後半のバックのなんとも古めかしく合奏で盛り上げるところは、私には願い下げなんです。
 M3."Autumn Nocturne"の新解釈の歌いこみは凄いし、そしてM4."Peace Of Mind"の前半の説得力ある歌も聴きこむと魅力はある。
 M6."No More Blues"は期待したのだが、ブルースの味は感じ取れなかった。

Samara_joy_inntne_12  アルバム全体としてどうも私の好むところではない。高い音楽性と斬新な創造性には敬意を払うし評価もする。そして彼女の全域を歌い上げる技量には感服するし、豪華・迫力という線は見事だが、哀愁・情緒・味わいといった線からは、もともと編曲の目的が異なるものなのであろう。いずれにしても進化の途中として、こんな方向にどんどん進んでゆくのだろうか、とすると、それも致し方ないが、私は寂しいところだ。
 まあ、好みのジャズ・スタイルの問題であって、このアルバムを絶賛する世界もあると思うし、高評価のポイントは多いと思うが、いずれ彼女の方向がどのように向かってゆくのかと言うことには、私の関心も高い。いずれにしても私はこの線だとお気に入りの世界に収めるのは無理なのである。

(評価)
□ 曲・編曲・歌   87/100
□ 録音       85/100

(試聴)
"You Stepped Out Of A Dream"

*
"Now and Then"



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2024年10月16日 (水)

メラニー・デ・ビアシオ Melanie De Biasio 「Il Viaggio」

移民者であるルーツに自分を見つめる探索の旅から生まれた世界

<Electronic,  Jazz,  Pop>  (Style : Easy Listening, Ambient)

Melanie De Biasio 「Il Viaggio」
Pias Le Label / Germany / PIASLL202CD / 2023

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Malenie De Biasio : Vocals,Flute,Lansdcapes,Guitar 
Pascal N.Paulus : Keyboards, Clavinet, Rjhodes,Guitars,Drums etc.
David Baron : Wurlitzer,Mellotron,Synthetisers,Felt Piano
Rubin Kodheli : cello

   私が2014年の2ndアルバム『No Real』以来注目している女性ジャズ・SSW/Singer のメラニー・デ・ビアシオの5作目のアルバム。これは昨年末にリリースされたが、取り上げるのをためらって今になってしまった。過去のアルバムはやはりここで考察・悪戦苦闘したのだが、それにも増してこのアルバムとはある種の覚悟を持って入って行かないと対応が難しい。と、言うのも過去のアルバムを聴きこんでのイメージから発展しないと、まともな理解が出来ないところにあるからだ。

Melanie_de_biasio_credit_jer_me_witzw  メラニー・デ・ビアシオ(Melanie De Biasio、1978年7月12日 - )は、ベルギーのジャズ歌手、フルート奏者、作曲家。ベルギー人の母とイタリア人の父の間にシャルルロワで生まれた。3歳からバレエを習い、8歳からウエスタン・コンサートフルートを習い始める。ニルヴァーナ、ポーティスヘッド、ピンク・フロイド、ジェスロ・タルなどのロック・グループのファンだった彼女は、15歳のときにしばらくの間ロックバンドに参加していた。ブリュッセル王立音楽院で3年間の歌唱学を学んだ後、彼女は最高の栄誉を持つ一等賞を受賞。2004年、ロシアでのツアー中に、深刻な肺感染症にかかり、丸1年間歌唱能力を失った。この間、彼女は特徴的なささやき声の詠唱を発達させた。

 彼女のルーツはジャズだが、長年ジャズを、または少なくとも純粋なジャズを作っていない。彼女の過去のアルバムは、2007年『A Stomach Is Burning(胃が焼けている)』、 2013年『No Deal(合意なし)』、2016年『Blackened Cities(黒く染まった都市)』 (EP、これが又かなりの問題作) 、2017年『Liles』とあって、今作は6年ぶりの第5作だった。
 このアルバム『Il Viaggio』(旅)のアイデアは、2021年に学際的な芸術祭「Europalia」がデ・ビアシオに"Trains & Tracks(列車と線路)"をテーマにするよう依頼したことから生まれたという。それをきっかけに彼女は、父方の祖父母がイタリアからベルギーへの移民のルートを再構築してみることを決意した。古いカメラと軽量の録音機器だけを武器にフィールドレコーディングを行ったメラニー・デ・ビアシオは、イタリアのアブルッツォ州(下写真のような高原や山岳地帯が多い=snsより借用)にある小さな山間の村レットマノッペッロに一人で定住した。そしてそこから家族の出身地であり、子供の頃に夏を過ごしたドロミテを旅した。この旅こそが彼女の内省的な姿に、又それだけでなく、この作品作りに中心的な影響をもたらしたというのである。

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Disc1
Lay Your Ear To The Rail
1 Lay Your Ear to the Rail
2 Nonnarina
3 Il Vento
4 We Never Kneel to Pray
5 I'm Looking for
6 Mi Ricordo Di Te
7 Chiesa
8 Now Is Narrow
9 San Liberatore
Disc2
The Chaos Azure
10 The Chaos Azure
11 Alba

 このアルバムは、彼女の「芸術的進化と音楽技術への献身の証」だと言わしめている。音楽的、肉体的、精神的な再生のための探求であり、目覚めた感情的な記憶から生まれた作品だと言う。コンクリート(楽器ではなく、生活音や騒音、川の流れや鳥の音などの自然の音を使って創作される音楽)とアンビエントが融合し、映画一シーンのような自然に恵まれた中での人間の営む静かな風景を見つめるが如くの世界に引き込まれる。これにはフィールドレコーディングとか、おそらくサウンド・コラージュも行われての曲作りだったと推測する。そして収録された11曲が、一つの世界として聴き込む必要があるアルバム造りである。さらに幸い私はイタリアの長靴のような形の国を車で南から北へ縦断した経験があるが、あの途中で見た山や高原に点在する古い村落などを見たことが、なんとなくこのアルバムに描かれる世界が見えてくるのである。

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 まずは、オープニングトラックのM1."Lay Your Ear to the Rail"から音の流れに魅了される。メラニーのバラードは、ジャズに根ざしながらも、そんなジャンルを超越した普遍的な魅力を持っており、ささやく歌詞が、移民の安堵のない不安定な荒涼たる世界にすぐに引き混まれてしまう。
 そしてM2."Nonnarina"に入ると、いかにも親密な人間の姿が浮かび上がるが如く彼女の歌が響く。そしてM3."Il Vento"では深遠な世界に沈み込む。
 そしてM4." We Never Kneel to Pray"においては祈りの世界に導いている。
 M5."I'm Looking for"のギターの響きは、決して明るい安堵の世界でなく暗雲が広がるような展開に。しかし続くM6."Mi Ricordo Di Te"のギターと彼女の歌声に救われる。
 しかしM7."Chiesa"では再びアルバムの冒頭に引き戻される。不安に満ちたこの世界こそが、彼女の発見した現実なのかもしれない。彼女の声がアンビエントな空間に響く。
 M10."The Chaos Azure" のチェロの響きは深層心理への響きが感じられる。M11."Alba"はミニマル奏法で永遠なる大地と自然と人間の営みの世界からの別れを描くのか、是非聴いてほしい18分の世界。

 こうして彼女のルーツを探索する旅が進行し、果たして得られたモノは何かは私のような聴く者には解らない。ただシンセの響きに、彼女の不思議な歌声、そしてギターが異様な世界を描き、彼女のフルートが深遠な人間集団を表現する。単なる回顧に終わらない彼女の世界の複雑性が深く印象に残るのである。
 このアルバムは、ジャズ、オルタナティブ、チルアウト(電子音楽のスローテンポなさまざまな形式の音楽を表す包括的な言葉として)のジャンルが調和して融合しており深みのある世界は抜きんでている、不思議にして複雑であるが普遍的な聴覚体験をさせてもらうことが出来る。これには、Pascal N.Paulus (Key, Guitar 下左)とDavid Baron(Mellotron,Synthetisers 下右)の力も大きいと推測している。


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  不思議に何度聴いても飽きない、それは歌詞の意味がまったく解らないところにあって、それがむしろ聴く者の個人の世界に一つの空想空間を築く様に誘導してくれるのだ。私のこのアルバムとの格闘はまだまだ続いている。

(評価)
□ 曲・演奏・歌  95/100
□ 録音      88/100

(試聴)

*
"Lay Your Ear To The Rail"

(解説) イタリア・アブルッツォ州   (snsを参考にした)
 ローマの東に位置するイタリアの州で、アドリア海沿岸とアペニン山脈に面しています。内陸部には険しい山岳地帯が広がり、多くが国立公園や自然保護区に指定されている。丘の上に築かれている町は歴史が古く、中世やルネサンス時代にまでさかのぼる。州都は城壁都市のラクイラですが、2009 年に地震が発生し被害を受けた。州の65%が山岳地帯で、アドリア海とアペニン山脈の間には丘陵地帯があり、平地はわずか1%しかない。中央イタリアに位置していますが、1860年にイタリア王国に統一されるまではナポリ王国の領土であったため、歴史的にも文化的にもイタリア南部に近いと言える。山岳が多いこともあり人口密度が低く、他の南イタリアの州同様経済は遅れており、戦前まではイタリアで最も貧しい州の一つでした。1960年代以降は、首都ローマとアブルッツォを結ぶ高速道路の完成を契機に工業化が進みました。ドウ畑は海と山に挟まれた丘陵地帯に広がっている。基本的に夏は暑く乾燥し、冬は温暖で雨が多い地中海性気候だが、内陸部の標高の高いエリアは冷涼です。ただ、アドリア海から内陸に入るとすぐに丘陵地帯で、30〜50kmで山岳地帯となるため、ほとんどのブドウ畑は海と山の両方の影響を受ける。

 レットマノッペッロ(Lettomanoppello)は、イタリアのアブルッツォ州に位置する小さな村。自然豊かな環境に囲まれた村で、特にマイエッラ国立公園の一部に位置しているため、ハイキングや自然愛好家に人気の場所。村自体は人口が非常に少なく、歴史的な建造物や教会が点在しています。主な見どころの一つとして、石材の加工で知られるこの地域特有の建築物や彫刻があり、古くから採石業が盛ん。特に、白色の石灰岩「マイエッラ石」がこの地域で採れ、伝統的な建物や彫刻に使用されている。住民は、地域の伝統や文化を大切にしており、村では小さな祭りやイベントが開催されることもある。アブルッツォ州全体としても、豊かな食文化があり、特にパスタやワイン、チーズなどが有名です。歴史的には、レットマノッペッロは中世からの村であり、その歴史を今も感じることができる静かで魅力的な場所。

 

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2024年10月12日 (土)

グレン・サレスキ Glenn Zaleski Trio 「Star Dreams」

人間的な感情の機微を描くところに味わいがある

Glenn Zaleski Trio 「Star Dreams」
SUNNYSIDE RECORDS / Import / SSC 1744 / 2024

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Glenn Zaleski(piano)
Dezron Douglas(bass)
Willie Jones III(drums)
Recorded October 9th 2023 at Acoustic Studios Brooklyn NY


Glenn2023w   トリオでスタンダードを中心とした第一作、オリジナルを中心とした第二作、そしてクインテット編成の第三作とSunnysideレーベルより自身の音楽を発展させてきて今注目の米国若手ジャズ・ピアニストのグレン・ザレスキ(→)、この2023 年録音の最新盤『Star Dreams』は再びピアノ・トリオでのリリースだ。ベーシストのデズロン・ダグラス(米、下左)、ドラマーのウィリー・ジョーンズ 3 世(米、1968年生まれ、下右)が、スウィングしながらもピアノ・トリオでジャズの幅を広げるコンテンポラリーなジャズを展開する。

 ザレスキは1987年マサチューセッツ州ボイルストン生まれ。ブルーベック・インスティテュートと、名門ニュースクールに学び、「コール・ポーター・フェロウシップ・イン・ジャズ」でファイナリスト、2011 年の「セロニアス・モンク・インターナショナル・ジャズピアノ・コンペティション」でセミファイナリストに選出され、頭角を現した。2009年から2011年まで、ニューヨーク大学の大学院で学び学位を取得し、ニューヨーク大学の教員としても活躍している。

 2016年に自身のトリオで全国 7ヶ所の来日ツアーを成功させ注目株。  彼の最近のコラボレーションには、セシル・マクロラン・サルヴァント、ケン・ペプロウスキー、ラヴィ・コルトレーンなどの素晴らしいミュージシャンが挙げられる。

 このトリオの結成経過は、ザレスキがダグラスと出会ったのはコルトレーンとのコラボの時で、又ジョーンズとは、ペプロウスキーのアンサンブルでの事であったと。そしてパンデミック禍の間、トリオ組んで2年間にわたって演奏してきたと言うことだ。
 ザレスキは、この二人がサポートとインタラクションの完璧なバランスを演じてくれることに納得して、そのリズミカルなエネルギーを持つ強力なスウィングが気に入っていた。そんな彼らが素晴らしく感じられ、このトリオにて録音するのが理想的と判断。同時代人や友人を称えるという彼の特徴を継続しての曲の選定を行い、このアルバムは、下記のようにザレスキのオリジナル3曲、スタンダード5曲で構成される事になったという経過。

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(Tracklist)

1. I WISH I KNEW* 4:31
2. TWO DAYS 6:27
3. MONDAY 4:23
4. OPUS DE FUNK 6:04
5. WAYNE 5:19
6. STAR DREAMS 5:47
7. PASSPORT 4:17
8. I'M IN THE MOOD FOR LOVE 5:35
*Arranged by Adam Kolker

Compositions: Two Days, Wayne, Star Dreams (Glenn Zaleski)
I Wish I Knew (Harry Warren); Monday (Cécile McLorin Salvant)
Opus De Funk (Horace Silver); Passport (Charlie Parker)
I'm In The Mood For Love (Jimmy McHug)

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 スタートは、ハリー・ウォーレンのM1."I Wish I Knew"のピアノの弾むようなテイクで始まる
 M2."Two Days"はザレスキが初めて書いた曲(16歳)とか、このトリオの多彩な因子が織り込まれている。
 ザレスキのお気に入りとか、セシルのM3."Monday"、ぐっと落ち着いた世界。
 ザレスキは、ブルースを演奏することがピアニストのスタイルの最高のバロメーターであると。このホレス・シルヴァーのM4."Opus de Funk"を選曲し、ベース、ドラムスを生かして楽しく演奏している。
 ザレスキのバラード曲M5."Wayne"は、クラシックなシャズの落ち着き感があって、このアルバムの私のお気に入りの曲。
 タイトル曲M6."Star Dreams"は、ザレスキの息子が眠っている間に何を想像するかと思うそんな親の情景を描く。遊び心のある高揚と同時に、ちょっと不思議な満足感を描く。
 チャーリー・パーカーのM7."Passport"では、成程このトリオのコードへの挑戦姿勢が演じられる。
 そして締めは、ジュリー・ロンドンも歌って私の好きなザレスキもお気に入りというバラードM8."I'm In The Mood for Love"。ぐっと静かに優しく心にピアノの音が染みてくる。こんなムードがほっとするところである。

 このトリオは人間的な感情を見事に表現しているところが、魅力の一つだろう。演ずるところジャズの伝統を重んじつつ、やはり若さで描く対象に未来への展望の感じられるコンテンポラリーなところも評価されるところなのかもしれない。

(評価)
□ 曲・演奏 :   88/100
□   録音   :   87/100 

(試聴) "I wish I Knew"

*
  "I'm In the Mood for Love"

 

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2024年10月 7日 (月)

マイケル・ウルフ Michael Wolff 「MEMOIR」

リズミカルにダイナミックな曲展開と、一方思慮深い演奏と

<Jazz>

Michael Wolff 「MEMOIR」
SUNNYSIDE RECORDS / Import / SSC 1726 / 2024

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Michael Wolff (Piano),
Ben Allison (Bass)
Allan Mednard (Drums)

448467976_8164917830186161w  革新的なスタイルと言われるアメリカのジャズ・ピアニスト/作曲家のマイケル・ウルフ(1952年メンフィス生まれ)の新アルバム『Memoir』がリリースされた。実情は詳しくは解らないが、珍しいタイプの癌により死の淵に立たされ、4年間の闘病生活から奇跡的に回復して録音したピアノ・トリオ新作ということで注目度も高い。
 長年のコラボレーターであるベーシストのベン・アリソン(1966年生まれ、米国 下左)とドラマーのアラン・メドナード(1986年生まれ、米国 下右)とのトリオだ。そして11曲入りのコレクションは、新曲と、彼のお気に入りの未発表オリジナル曲の新解釈によるものが主で、アルバム・タイトル「Memoir」は"回顧録"という意味に捉えてよいのか、 彼が言うには「すべての音符や曲がリスナーの心に響き、自分の経験の旅を反映したかったのです。このアルバムは、非常に個人的で思慮深い感情を伝えていますが、それでも素晴らしいエネルギーを持っています」ということで、闘病・再起の経験から自己見つめてきた事による状況が伺いとれ、それを何としても訴えるとともに人生の重大な物語を表現するそんな重い内容のアルバムとして聴くことになった。

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(Tracklist)

1 Left Out
2 Afternoon
3 Zawinul
4 Leland
5 On My Mind
6 Jamaican Turnaround
7 Could Be
8 No Lo Contendre
9 Wheel of Life
10 Sad Clown
11 You've Changed

 曲は闘病生活後のかなり「個人的な感情」の表現であるようだが、やはりスタートM1."Left Out"はベースとピアノの重い音でスタートするが、次第に人生を語る物語調の世界で明るさも感ずる。そして続くは、妻(女優/作家/監督のポリー・ドレイパー)がニューヨークの晴れた日の午後にキッチンで忙しくしている間にピアノに向かって即興で書かれたというバラード曲M2."Afternoon"がまずは注目されるところで、この曲はメランコリックな感情の一つの表現であろうが、沈み切るのでなく説得力の感じられるところが凄い。

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 なにせ名人芸と革新的なスタイルで知られるヴォルフであり、ここでも新たな音のアイデアの探求は続いているようで、ジャズ・フュージョンのオーストリアのキーボーディスト:ジョー・ザヴィヌル(1932-2007)を礼賛し捧げる歌とみられるM3."Zawinul"では、軽快な展開とヴォルフの驚きのパーカッシブなピアノ演奏法や変幻自在なリズムの変調などで彼の探求が健在だ。続くM4."Leland"は、John Leland(英、美術家)を描いているのか、ぐっと落ち着いた世界に。
   斬新なアプローチは、M6."Jamaican Turnaround"とかM8."No Lo Contendré"で身に染みてくる。特にM8.では、ラテンの影響を受けた燃えるような自由奔放な三者のジャム、ピアノのリフがドラマテックに展開し、ジャズの楽しさの即興演奏が開花している、まさに人生賛歌に聴ける。
 M9."Wheel of Life"ぐっと落ち着いた世界に、彼の今の心情が伝わってくる。
 そんな中で、襲ってくる憂鬱な気持ちからは逃れられず、締めくくりにおいては内省的な曲M11."You've Changed"(唯一のカバー曲)で表現されている。

 彼のダイナミックな曲展開の中に、同時にソウルフルな人生の探求を描き、ウルフの演奏の多彩で複雑な世界にトリオ・メンバーのアーティスト魂が注ぎ込まれた演奏が展開する。
 「個人的な感情」は、ウルフのより思慮深い演奏と作曲によるいくつかのバラード曲で表現され、彼の経験がミュージシャンとしての彼の進化にどのように影響を与えたかを音楽的に表現したものと言えるらしいが、印象では、まだまだそれは前進の過程にあるようだ。人種隔離された南部で育った彼のルーツ、トゥレット症候群との生涯にわたる闘い、ジャズ界での名声の獲得、そして最終的には癌の征服まで、多彩な彼の人生と音楽キャリアを記録しているものとして聴くと味わい深い。

(評価)
□ 曲・演奏 : 88/100
□ 録音   : 88/100

(試聴)
  "Afternoon"

 

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2024年10月 2日 (水)

クレア・マーティン Claire Martin 「Almost in Your Arms」

充実感たっぷりのヴォーカルで説得力十分

<Jazz>
Claire Martin 「Almost in Your Arms」
Stant Records / Import / XSTUCD24062 / 2024

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Claire Martin クレア・マーティン (vocal)
Martin Sjöstedt マッティン・ショーステット (piano) (maybe organ on 05, 09, 10?)
Niklas Fernqvist ニクラス・フェーンクヴィスト (double bass)
Daniel Fredriksson ダニエル・フレードリクソン (drums) (percussion on 04, 05)

guest musicians 
Karl-Martin Almqvist カール=マッティン・アルムクヴィスト (tenor saxophone on 02, 06)
Joe Locke ジョー・ロック (vibraphone on 01, 07, 10)
Mark Jaimes マーク・ハイメス (guitar on 04, 10?, 11)
Nikki Iles ニッキ・アイルズ (accordion on 04)
Charlie Wood チャーリー・ウッド (vocal on 02) (voice≒narration on 07)
James McMillan ジェイムズ・マクミラン (trumpet, flugelhorn on 02, 05, 09, 10) (keyboard, programming on 02, 04, 05, 06, 07, 08, 09, 10, 11)

2024年1月24-26日 Quiet Money Studios (英国)録音

Imagesw_20240928191801  円熟味を増してきた英国のベテラン女性ジャズ・シンガー=クレア・マーティン(1967年英国サウス・ロンドンのウィンブルドン生まれ→)の、デンマークStunt Recordsからの4作目となるアルバムがリリースされた。本盤は、過去にも共演しているスウェーデンのマッティン・ショーステット(p下左)のピアノ・トリオ(ニクラス・フェーンクヴィスト (double bass下中央)、ダニエル・フレードリクソン (drums下右) )によりバックを固めている。

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 そして注目は、更に多くのゲスト・ミュージシャンが参加している。スウェーデンのサクソフォン奏者カール=マッティン・アルムクヴィスト、アメリカのヴァイブ奏者ジョー・ロック、イギリスのギタリスト、マーク・ハイメス、イギリスのここではアコーディオン演奏しているニッキ・アイルズなど、更にアメリカのオルガニスト&ピアニスト、チャーリー・ウッドはヴォーカルで参加。イギリスのジェイムズ・マクミランがトランペット、フリューゲルホルン、キーボード、プログラミングを担当しています。

 そして今回の選曲は、ミュージシャンとプロデューサーを務めるジェイムズ・マクミランと共にクレア・マーティンが選曲し、ポピュラーとジャズの幅広いナンバーを取り上げている。  彼女は、2018年「ベスト・ヴォーカリスト」賞を含め、過去に英国ジャズ賞(British Jazz Awards)を計8回分受賞してきた英国最高のジャズ・シンガーの位置を獲得している。

(Tracklist)

01. I Feel A Song Coming On
02. This One's From The Heart
03. Almost In Your Arms
04. Apparently, I'm Fine*
05. Bitter With The Sweet
06. The Art Teacher
07. Train In The Desert
08. This House Is Empty Now
09. Water And Salt
10. September Song*
11. Do You Ever Wonder?

*印: マクミランと彼女共作とマクミランのオリジナル

  曲は、私の知らない曲が主だが、彼女の幅広い知識を反映しているレパートリーだという。それは映画音楽(M1, M2, M3)や、キャロル・キング(M5)、ルーファス・ウェインライト(M6)やマーク・ウィンクラー(M7, M11)、タイ・ジェフリーズ(M9)らの曲で、クレアが高く評価するソングライターたちの作品だそうだ。その他、バート・バカラックとエルヴィス・コステロの名コンビの書いた(M8)、そしてマクミランとクレアの共作によるオリジナル(M4)や、マクミランの曲(M10)で、オープニングからクレア・マーティンの意欲の感ずる曲群が登場する。

Dgqxjmh69344f23560d4cb0bcbbbc9568438015  私は、彼女の場合、バラード系の曲をしっとりと歌い上げるのが好きなので、まずM2."This One's From The Heart"のチャリー・ウッドとのデュオがいいですね。彼女のややハスキーであり魅力的な声が一層響いてくる。
M4."Apparently, I'm Fine"の語り聴かせる説得力が凄いし、M6."The Art Teacher"ピアノとサックスのバックに沿っての優しく歌い上げるムードも最高だ。
更に、M8."This House Is Empty Now"の歌い描く世界の物語性は、ジャズの良さを感じ取れて一流の証。
M10."September Song"のSeptemberのやや寂しさも見事。トランペットとの相性もいい。
M11."Do You Ever Wonder?" アルバム締めの曲。ベースの響きと共に、ギターの優しい調べ、そしてそれにも勝る優しい別れの歌声で、満足感がある。
バラード調以外でも、M2."This One's From The Heart"M5."Bitter With The Sweet" のような軽快な曲も貫禄の歌いまわしが見事。とにかく変な話だが、どんな曲も安心して聴けるというのが素晴らしいのである。M9."Water And Salt"は、名曲"Fever"を想わせるところがある曲だが、これもジャジーな味付けが旨い。

 このアルバムはバラード調の曲も多く、その間をリズムカルな曲でうまく繋ぐという構成が旨い。彼女の歌声は、自然体の中に潤いや温もりのある安定感に満ちていて、ハスキーと中音域の美声の味付けがうまく、しかも包容力を感じさせる。歌詞とメロディーを大切にした歌いっぷりは素晴らしく、優しい情緒豊かな節回しを聴かせてくれるが、スウィンギンな曲でのグルーヴ感もしっかりと聴かせるというジャズ・ヴォーカルの神髄をいっていると思う。これは彼女にとっても上位のアルバムと評価する。

(評価)
□ 選曲、編曲、歌  90/100 
□ 録音       88/100

(試聴)
"The Art Teacher"

 

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