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2024年10月12日 (土)

グレン・サレスキ Glenn Zaleski Trio 「Star Dreams」

人間的な感情の機微を描くところに味わいがある

Glenn Zaleski Trio 「Star Dreams」
SUNNYSIDE RECORDS / Import / SSC 1744 / 2024

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Glenn Zaleski(piano)
Dezron Douglas(bass)
Willie Jones III(drums)
Recorded October 9th 2023 at Acoustic Studios Brooklyn NY


Glenn2023w   トリオでスタンダードを中心とした第一作、オリジナルを中心とした第二作、そしてクインテット編成の第三作とSunnysideレーベルより自身の音楽を発展させてきて今注目の米国若手ジャズ・ピアニストのグレン・ザレスキ(→)、この2023 年録音の最新盤『Star Dreams』は再びピアノ・トリオでのリリースだ。ベーシストのデズロン・ダグラス(米、下左)、ドラマーのウィリー・ジョーンズ 3 世(米、1968年生まれ、下右)が、スウィングしながらもピアノ・トリオでジャズの幅を広げるコンテンポラリーなジャズを展開する。

 ザレスキは1987年マサチューセッツ州ボイルストン生まれ。ブルーベック・インスティテュートと、名門ニュースクールに学び、「コール・ポーター・フェロウシップ・イン・ジャズ」でファイナリスト、2011 年の「セロニアス・モンク・インターナショナル・ジャズピアノ・コンペティション」でセミファイナリストに選出され、頭角を現した。2009年から2011年まで、ニューヨーク大学の大学院で学び学位を取得し、ニューヨーク大学の教員としても活躍している。

 2016年に自身のトリオで全国 7ヶ所の来日ツアーを成功させ注目株。  彼の最近のコラボレーションには、セシル・マクロラン・サルヴァント、ケン・ペプロウスキー、ラヴィ・コルトレーンなどの素晴らしいミュージシャンが挙げられる。

 このトリオの結成経過は、ザレスキがダグラスと出会ったのはコルトレーンとのコラボの時で、又ジョーンズとは、ペプロウスキーのアンサンブルでの事であったと。そしてパンデミック禍の間、トリオ組んで2年間にわたって演奏してきたと言うことだ。
 ザレスキは、この二人がサポートとインタラクションの完璧なバランスを演じてくれることに納得して、そのリズミカルなエネルギーを持つ強力なスウィングが気に入っていた。そんな彼らが素晴らしく感じられ、このトリオにて録音するのが理想的と判断。同時代人や友人を称えるという彼の特徴を継続しての曲の選定を行い、このアルバムは、下記のようにザレスキのオリジナル3曲、スタンダード5曲で構成される事になったという経過。

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(Tracklist)

1. I WISH I KNEW* 4:31
2. TWO DAYS 6:27
3. MONDAY 4:23
4. OPUS DE FUNK 6:04
5. WAYNE 5:19
6. STAR DREAMS 5:47
7. PASSPORT 4:17
8. I'M IN THE MOOD FOR LOVE 5:35
*Arranged by Adam Kolker

Compositions: Two Days, Wayne, Star Dreams (Glenn Zaleski)
I Wish I Knew (Harry Warren); Monday (Cécile McLorin Salvant)
Opus De Funk (Horace Silver); Passport (Charlie Parker)
I'm In The Mood For Love (Jimmy McHug)

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 スタートは、ハリー・ウォーレンのM1."I Wish I Knew"のピアノの弾むようなテイクで始まる
 M2."Two Days"はザレスキが初めて書いた曲(16歳)とか、このトリオの多彩な因子が織り込まれている。
 ザレスキのお気に入りとか、セシルのM3."Monday"、ぐっと落ち着いた世界。
 ザレスキは、ブルースを演奏することがピアニストのスタイルの最高のバロメーターであると。このホレス・シルヴァーのM4."Opus de Funk"を選曲し、ベース、ドラムスを生かして楽しく演奏している。
 ザレスキのバラード曲M5."Wayne"は、クラシックなシャズの落ち着き感があって、このアルバムの私のお気に入りの曲。
 タイトル曲M6."Star Dreams"は、ザレスキの息子が眠っている間に何を想像するかと思うそんな親の情景を描く。遊び心のある高揚と同時に、ちょっと不思議な満足感を描く。
 チャーリー・パーカーのM7."Passport"では、成程このトリオのコードへの挑戦姿勢が演じられる。
 そして締めは、ジュリー・ロンドンも歌って私の好きなザレスキもお気に入りというバラードM8."I'm In The Mood for Love"。ぐっと静かに優しく心にピアノの音が染みてくる。こんなムードがほっとするところである。

 このトリオは人間的な感情を見事に表現しているところが、魅力の一つだろう。演ずるところジャズの伝統を重んじつつ、やはり若さで描く対象に未来への展望の感じられるコンテンポラリーなところも評価されるところなのかもしれない。

(評価)
□ 曲・演奏 :   88/100
□   録音   :   87/100 

(試聴) "I wish I Knew"

*
  "I'm In the Mood for Love"

 

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2024年10月 7日 (月)

マイケル・ウルフ Michael Wolff 「MEMOIR」

リズミカルにダイナミックな曲展開と、一方思慮深い演奏と

<Jazz>

Michael Wolff 「MEMOIR」
SUNNYSIDE RECORDS / Import / SSC 1726 / 2024

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Michael Wolff (Piano),
Ben Allison (Bass)
Allan Mednard (Drums)

448467976_8164917830186161w  革新的なスタイルと言われるアメリカのジャズ・ピアニスト/作曲家のマイケル・ウルフ(1952年メンフィス生まれ)の新アルバム『Memoir』がリリースされた。実情は詳しくは解らないが、珍しいタイプの癌により死の淵に立たされ、4年間の闘病生活から奇跡的に回復して録音したピアノ・トリオ新作ということで注目度も高い。
 長年のコラボレーターであるベーシストのベン・アリソン(1966年生まれ、米国 下左)とドラマーのアラン・メドナード(1986年生まれ、米国 下右)とのトリオだ。そして11曲入りのコレクションは、新曲と、彼のお気に入りの未発表オリジナル曲の新解釈によるものが主で、アルバム・タイトル「Memoir」は"回顧録"という意味に捉えてよいのか、 彼が言うには「すべての音符や曲がリスナーの心に響き、自分の経験の旅を反映したかったのです。このアルバムは、非常に個人的で思慮深い感情を伝えていますが、それでも素晴らしいエネルギーを持っています」ということで、闘病・再起の経験から自己見つめてきた事による状況が伺いとれ、それを何としても訴えるとともに人生の重大な物語を表現するそんな重い内容のアルバムとして聴くことになった。

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(Tracklist)

1 Left Out
2 Afternoon
3 Zawinul
4 Leland
5 On My Mind
6 Jamaican Turnaround
7 Could Be
8 No Lo Contendre
9 Wheel of Life
10 Sad Clown
11 You've Changed

 曲は闘病生活後のかなり「個人的な感情」の表現であるようだが、やはりスタートM1."Left Out"はベースとピアノの重い音でスタートするが、次第に人生を語る物語調の世界で明るさも感ずる。そして続くは、妻(女優/作家/監督のポリー・ドレイパー)がニューヨークの晴れた日の午後にキッチンで忙しくしている間にピアノに向かって即興で書かれたというバラード曲M2."Afternoon"がまずは注目されるところで、この曲はメランコリックな感情の一つの表現であろうが、沈み切るのでなく説得力の感じられるところが凄い。

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 なにせ名人芸と革新的なスタイルで知られるヴォルフであり、ここでも新たな音のアイデアの探求は続いているようで、ジャズ・フュージョンのオーストリアのキーボーディスト:ジョー・ザヴィヌル(1932-2007)を礼賛し捧げる歌とみられるM3."Zawinul"では、軽快な展開とヴォルフの驚きのパーカッシブなピアノ演奏法や変幻自在なリズムの変調などで彼の探求が健在だ。続くM4."Leland"は、John Leland(英、美術家)を描いているのか、ぐっと落ち着いた世界に。
   斬新なアプローチは、M6."Jamaican Turnaround"とかM8."No Lo Contendré"で身に染みてくる。特にM8.では、ラテンの影響を受けた燃えるような自由奔放な三者のジャム、ピアノのリフがドラマテックに展開し、ジャズの楽しさの即興演奏が開花している、まさに人生賛歌に聴ける。
 M9."Wheel of Life"ぐっと落ち着いた世界に、彼の今の心情が伝わってくる。
 そんな中で、襲ってくる憂鬱な気持ちからは逃れられず、締めくくりにおいては内省的な曲M11."You've Changed"(唯一のカバー曲)で表現されている。

 彼のダイナミックな曲展開の中に、同時にソウルフルな人生の探求を描き、ウルフの演奏の多彩で複雑な世界にトリオ・メンバーのアーティスト魂が注ぎ込まれた演奏が展開する。
 「個人的な感情」は、ウルフのより思慮深い演奏と作曲によるいくつかのバラード曲で表現され、彼の経験がミュージシャンとしての彼の進化にどのように影響を与えたかを音楽的に表現したものと言えるらしいが、印象では、まだまだそれは前進の過程にあるようだ。人種隔離された南部で育った彼のルーツ、トゥレット症候群との生涯にわたる闘い、ジャズ界での名声の獲得、そして最終的には癌の征服まで、多彩な彼の人生と音楽キャリアを記録しているものとして聴くと味わい深い。

(評価)
□ 曲・演奏 : 88/100
□ 録音   : 88/100

(試聴)
  "Afternoon"

 

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2024年10月 2日 (水)

クレア・マーティン Claire Martin 「Almost in Your Arms」

充実感たっぷりのヴォーカルで説得力十分

<Jazz>
Claire Martin 「Almost in Your Arms」
Stant Records / Import / XSTUCD24062 / 2024

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Claire Martin クレア・マーティン (vocal)
Martin Sjöstedt マッティン・ショーステット (piano) (maybe organ on 05, 09, 10?)
Niklas Fernqvist ニクラス・フェーンクヴィスト (double bass)
Daniel Fredriksson ダニエル・フレードリクソン (drums) (percussion on 04, 05)

guest musicians 
Karl-Martin Almqvist カール=マッティン・アルムクヴィスト (tenor saxophone on 02, 06)
Joe Locke ジョー・ロック (vibraphone on 01, 07, 10)
Mark Jaimes マーク・ハイメス (guitar on 04, 10?, 11)
Nikki Iles ニッキ・アイルズ (accordion on 04)
Charlie Wood チャーリー・ウッド (vocal on 02) (voice≒narration on 07)
James McMillan ジェイムズ・マクミラン (trumpet, flugelhorn on 02, 05, 09, 10) (keyboard, programming on 02, 04, 05, 06, 07, 08, 09, 10, 11)

2024年1月24-26日 Quiet Money Studios (英国)録音

Imagesw_20240928191801  円熟味を増してきた英国のベテラン女性ジャズ・シンガー=クレア・マーティン(1967年英国サウス・ロンドンのウィンブルドン生まれ→)の、デンマークStunt Recordsからの4作目となるアルバムがリリースされた。本盤は、過去にも共演しているスウェーデンのマッティン・ショーステット(p下左)のピアノ・トリオ(ニクラス・フェーンクヴィスト (double bass下中央)、ダニエル・フレードリクソン (drums下右) )によりバックを固めている。

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 そして注目は、更に多くのゲスト・ミュージシャンが参加している。スウェーデンのサクソフォン奏者カール=マッティン・アルムクヴィスト、アメリカのヴァイブ奏者ジョー・ロック、イギリスのギタリスト、マーク・ハイメス、イギリスのここではアコーディオン演奏しているニッキ・アイルズなど、更にアメリカのオルガニスト&ピアニスト、チャーリー・ウッドはヴォーカルで参加。イギリスのジェイムズ・マクミランがトランペット、フリューゲルホルン、キーボード、プログラミングを担当しています。

 そして今回の選曲は、ミュージシャンとプロデューサーを務めるジェイムズ・マクミランと共にクレア・マーティンが選曲し、ポピュラーとジャズの幅広いナンバーを取り上げている。  彼女は、2018年「ベスト・ヴォーカリスト」賞を含め、過去に英国ジャズ賞(British Jazz Awards)を計8回分受賞してきた英国最高のジャズ・シンガーの位置を獲得している。

(Tracklist)

01. I Feel A Song Coming On
02. This One's From The Heart
03. Almost In Your Arms
04. Apparently, I'm Fine*
05. Bitter With The Sweet
06. The Art Teacher
07. Train In The Desert
08. This House Is Empty Now
09. Water And Salt
10. September Song*
11. Do You Ever Wonder?

*印: マクミランと彼女共作とマクミランのオリジナル

  曲は、私の知らない曲が主だが、彼女の幅広い知識を反映しているレパートリーだという。それは映画音楽(M1, M2, M3)や、キャロル・キング(M5)、ルーファス・ウェインライト(M6)やマーク・ウィンクラー(M7, M11)、タイ・ジェフリーズ(M9)らの曲で、クレアが高く評価するソングライターたちの作品だそうだ。その他、バート・バカラックとエルヴィス・コステロの名コンビの書いた(M8)、そしてマクミランとクレアの共作によるオリジナル(M4)や、マクミランの曲(M10)で、オープニングからクレア・マーティンの意欲の感ずる曲群が登場する。

Dgqxjmh69344f23560d4cb0bcbbbc9568438015  私は、彼女の場合、バラード系の曲をしっとりと歌い上げるのが好きなので、まずM2."This One's From The Heart"のチャリー・ウッドとのデュオがいいですね。彼女のややハスキーであり魅力的な声が一層響いてくる。
M4."Apparently, I'm Fine"の語り聴かせる説得力が凄いし、M6."The Art Teacher"ピアノとサックスのバックに沿っての優しく歌い上げるムードも最高だ。
更に、M8."This House Is Empty Now"の歌い描く世界の物語性は、ジャズの良さを感じ取れて一流の証。
M10."September Song"のSeptemberのやや寂しさも見事。トランペットとの相性もいい。
M11."Do You Ever Wonder?" アルバム締めの曲。ベースの響きと共に、ギターの優しい調べ、そしてそれにも勝る優しい別れの歌声で、満足感がある。
バラード調以外でも、M2."This One's From The Heart"M5."Bitter With The Sweet" のような軽快な曲も貫禄の歌いまわしが見事。とにかく変な話だが、どんな曲も安心して聴けるというのが素晴らしいのである。M9."Water And Salt"は、名曲"Fever"を想わせるところがある曲だが、これもジャジーな味付けが旨い。

 このアルバムはバラード調の曲も多く、その間をリズムカルな曲でうまく繋ぐという構成が旨い。彼女の歌声は、自然体の中に潤いや温もりのある安定感に満ちていて、ハスキーと中音域の美声の味付けがうまく、しかも包容力を感じさせる。歌詞とメロディーを大切にした歌いっぷりは素晴らしく、優しい情緒豊かな節回しを聴かせてくれるが、スウィンギンな曲でのグルーヴ感もしっかりと聴かせるというジャズ・ヴォーカルの神髄をいっていると思う。これは彼女にとっても上位のアルバムと評価する。

(評価)
□ 選曲、編曲、歌  90/100 
□ 録音       88/100

(試聴)
"The Art Teacher"

 

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