マイケル・ウルフ Michael Wolff 「MEMOIR」
リズミカルにダイナミックな曲展開と、一方思慮深い演奏と
<Jazz>
Michael Wolff 「MEMOIR」
SUNNYSIDE RECORDS / Import / SSC 1726 / 2024
Michael Wolff (Piano),
Ben Allison (Bass)
Allan Mednard (Drums)
革新的なスタイルと言われるアメリカのジャズ・ピアニスト/作曲家のマイケル・ウルフ(1952年メンフィス生まれ)の新アルバム『Memoir』がリリースされた。実情は詳しくは解らないが、珍しいタイプの癌により死の淵に立たされ、4年間の闘病生活から奇跡的に回復して録音したピアノ・トリオ新作ということで注目度も高い。
長年のコラボレーターであるベーシストのベン・アリソン(1966年生まれ、米国 下左)とドラマーのアラン・メドナード(1986年生まれ、米国 下右)とのトリオだ。そして11曲入りのコレクションは、新曲と、彼のお気に入りの未発表オリジナル曲の新解釈によるものが主で、アルバム・タイトル「Memoir」は"回顧録"という意味に捉えてよいのか、 彼が言うには「すべての音符や曲がリスナーの心に響き、自分の経験の旅を反映したかったのです。このアルバムは、非常に個人的で思慮深い感情を伝えていますが、それでも素晴らしいエネルギーを持っています」ということで、闘病・再起の経験から自己見つめてきた事による状況が伺いとれ、それを何としても訴えるとともに人生の重大な物語を表現するそんな重い内容のアルバムとして聴くことになった。
(Tracklist)
1 Left Out
2 Afternoon
3 Zawinul
4 Leland
5 On My Mind
6 Jamaican Turnaround
7 Could Be
8 No Lo Contendre
9 Wheel of Life
10 Sad Clown
11 You've Changed
曲は闘病生活後のかなり「個人的な感情」の表現であるようだが、やはりスタートM1."Left Out"はベースとピアノの重い音でスタートするが、次第に人生を語る物語調の世界で明るさも感ずる。そして続くは、妻(女優/作家/監督のポリー・ドレイパー)がニューヨークの晴れた日の午後にキッチンで忙しくしている間にピアノに向かって即興で書かれたというバラード曲M2."Afternoon"がまずは注目されるところで、この曲はメランコリックな感情の一つの表現であろうが、沈み切るのでなく説得力の感じられるところが凄い。
なにせ名人芸と革新的なスタイルで知られるヴォルフであり、ここでも新たな音のアイデアの探求は続いているようで、ジャズ・フュージョンのオーストリアのキーボーディスト:ジョー・ザヴィヌル(1932-2007)を礼賛し捧げる歌とみられるM3."Zawinul"では、軽快な展開とヴォルフの驚きのパーカッシブなピアノ演奏法や変幻自在なリズムの変調などで彼の探求が健在だ。続くM4."Leland"は、John Leland(英、美術家)を描いているのか、ぐっと落ち着いた世界に。
斬新なアプローチは、M6."Jamaican Turnaround"とかM8."No Lo Contendré"で身に染みてくる。特にM8.では、ラテンの影響を受けた燃えるような自由奔放な三者のジャム、ピアノのリフがドラマテックに展開し、ジャズの楽しさの即興演奏が開花している、まさに人生賛歌に聴ける。
M9."Wheel of Life"ぐっと落ち着いた世界に、彼の今の心情が伝わってくる。
そんな中で、襲ってくる憂鬱な気持ちからは逃れられず、締めくくりにおいては内省的な曲M11."You've Changed"(唯一のカバー曲)で表現されている。
彼のダイナミックな曲展開の中に、同時にソウルフルな人生の探求を描き、ウルフの演奏の多彩で複雑な世界にトリオ・メンバーのアーティスト魂が注ぎ込まれた演奏が展開する。
「個人的な感情」は、ウルフのより思慮深い演奏と作曲によるいくつかのバラード曲で表現され、彼の経験がミュージシャンとしての彼の進化にどのように影響を与えたかを音楽的に表現したものと言えるらしいが、印象では、まだまだそれは前進の過程にあるようだ。人種隔離された南部で育った彼のルーツ、トゥレット症候群との生涯にわたる闘い、ジャズ界での名声の獲得、そして最終的には癌の征服まで、多彩な彼の人生と音楽キャリアを記録しているものとして聴くと味わい深い。
(評価)
□ 曲・演奏 : 88/100
□ 録音 : 88/100
(試聴)
"Afternoon"
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