エミル・ヴィクリッキー Emil Viklicky Trio 「Moravian Rhapsody」
哀愁描写の美旋律ピアノがジャズのダイナミックな世界に展開
<Jazz>
Emil Viklicky Trio 「Moravian Rhapsody」
Vinus Records / JPN / VHGD10014 / 2024
Emil Viklicky エミール・ヴィクリッキー (piano)
Petr Dvorsky ペトル・ドヴォルスキー (double bass)
Jirka Stivin Jr. ジルカ・スティヴィン (drums)
2024年4月4日,5日チェコ-プラハ録音
チェコのジャズピアニストの第一人者、エミル・ヴィクリッキーのヴィーナスレコードの第4弾。モラヴィア(チェコの東部地方)のフォークソングを題材に、ジャズピアノの深淵に挑戦するのピアノ・トリオとしてのピアニズムに注目だ
Emil Viklickýは、1948年11月23日にチェコスロバキアのオロモウツで生まれたジャズ・ピアニスト兼作曲家だ。彼の作品はジャズ、クラシック音楽、チェコの民謡(モラヴィア民謡のメロディーや音楽的な特性を現代ジャズに)を融合させた独特のスタイルで知られている。
彼は1971年にパラツキー大学で数学の学位を取得し、その後クラシック音楽の訓練を受けた後ジャズピアノに専念した。1974年にはチェコスロバキア・アマチュア・ジャズ・フェスティバルで最優秀ソリスト賞を受賞し、1977年にはバークリー音楽大学で作曲とアレンジメントを学ぶ奨学金を得て留学。
その後、数多くの国際的なアンサンブルで演奏し、特にジャズ・ピアニストの評価は高いが、クラシック音楽の作曲やオーケストラとの共演もあり、一方映画音楽やテレビシリーズのスコアも手掛けてきた。彼の音楽のメインは、ジャズの表現とモラヴィア民謡の魂の深さを融合させたものと言われ、ヨーロッパの主力ピアニスト兼作曲家として評価されている。
(Tracklist)
01. 黒と黄色の冒険 Adventure In Black And Yellow (Emil Viklicky) 6:24
02. プレスブルグ,ドナウ川のそばで By Donau, At Presburg (Moravian Folk arr. Emil Viklicky) 6:38
03. モミの木の上で Up On A Fir Tree (Emil Viklicky) 6:28
04. ホワット・イズ・ゼア・トゥ・セイ What Is There To Say (Vernon Duke) 6:28
05. ムーン・スリーピング・イン・ザ・クレイドル Moon Sleeping In The Cradle (Emil Viklicky) 5:36
06. グレイ・ピジョン Grey Pigeon (Moravian Folk arr. Emil Viklicky) 6:30
07. トイズ Toys (Herbie Hancock) 7:52
08. シンフォニエッタ・クラリネット・テーマ Clarinet Theme Sinfonietta (Janacek arr. Emil Viklicky) 6:47
09. チャンズ・ソング Chan's Song (Herbie Hancock) 4:49
10. 愛の終わり Perished Of Love (Moravian Folk arr. Emil Viklicky) 4:00
11. ヤンコが徴兵された時 When Janko Was Drafted (Emil Viklicky) 7:21
12. 玉川ブルース Tamagawa Blues (Emil Viklicky) 6:22
M01."Adventure In Black And Yellow" スタートは、彼自身の曲で、想像と別の驚きの力強い攻撃的なトリオ・アクションでドラムスの爆発が印象的で圧巻。
M02."By Donau, At Presburg" がらっと変わって、このアルバムのテーマのモラヴィア・フォークの登場。冒頭からのピアノはヨーロピアンらしい耽美性や浪漫溢れる哀愁描写を聴かせ、中盤では親しみやすい躍動型メロディック・プレイを綴る。後半のベース・ソロも物語調で、続くピアノの旋律とのバランスも見事。
このフォークは他に2曲登場して、M06." Grey Pigeon "は、これは描くは鳩なのか、 平和感のあるジャズ・アレンジ。M10."Perished Of Love"は、いかにも優しい曲に演じ上げる。
M03." Up On A Fir Tree " これも彼の曲で、更に美的センスが深まってゆく、流麗にして抒情的なピアノが流れ、その後次第に快調なアドリブに変化し、やはりベースとの共演が快感。
M04." What Is There To Say "、M05."Moon Sleeping In The Cradle" ピアノのメロディー演奏がいっそう美しく。
60年代に彼はハービー・ハンコックのファンとなり、ここでもM07." Toys" 、M09."Chan's Song"の2曲を取り上げ演ずる。
M08."Clarinet Theme Sinfonietta " ヤナチェクの曲、ドラマティックな展開。
M11."When Janko Was Drafted" 学生時代に書いた曲、どこか空想的な世界に。
M12."Tamagawa Blues " トリオ演奏を楽しむがごとき三者の躍動感あるブルース。
なかなか硬質でありながら、抒情性豊かな哀愁描写のピアノの音に痺れる。一方ダイナミックなアグレッシヴな重厚ハードボイルド・アクションもあって、さすが百戦錬磨のピアニストの味がたっぷりと感じ取れる。ヨーロピアンらしい哀愁描写の中に、意外と親しみやすい旋律のエキゾティック・フォーク風情の世界にも浸れてなかなか中身の濃いアルバムであつた。
(評価)
□ 曲・演奏 : 90/100
□ 録音 : 88/100
(試聴)
"By Donau, At Presburg"
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