アルマ・ミチッチ Alma Micic 「You're My Thrill」
ニュー・ヨーク・ジャズに故郷のバルカン半島の心を籠める
<Jazz>
Alma Micic 「You're My Thrill」
Vinus Records / JPN / VHGD-10013 / 2024
Alma Micic アルマ・ミチッチ (vocal)
Rale Micic ラレ・ミチッチ (electric guitar on 2, 3, 4, 5, 8, 9)
Brandon McCune ブランダン・マッキューン (piano except 3, 8)
Alexander Claffy アレクサンダー・クラフィ (bass except 6)
Jason Tiemann ジェイソン・ティーマン (drums except 6)
Eric Alexander エリック・アレクサンダー (tenor saxophone on 1, 2, 7, 9)
2023年6月16日米ニュージャージー州イングルウッド・クリフスのVan Gelder Studio録音
(engineered by Maureen Sickler)
私にとっては初物の現在ニューヨークのクラブで活躍中のジャズ・ボーカリストであるアルマ・ミチッチの登場。彼女独特の魅力的なソフトで中低音の充実しヴォイスで高音にも伸びる本格的ジヤズを歌い上げ、その表現力の素晴らしさはなかなかのもの。今回のアルバムは日本のヴィーナスレコードからで、テナー・サックスのエリック・アレキサンダーが4曲参加している。
アルマ・ミチッチは、セルビア・モンテネグロ共和国=旧ユーゴのベルグラードで生まれ育った。16歳の時、地元のカルテットで演奏を始め、すぐに彼女はラジオ・ベオグラード・ビッグ・バンドのゲスト・ボーカリストとなった。ツアーを始め、多くの地元のジャズ・フェスティバルやテレビ、ラジオ放送に出演した。1995年、マサチューセッツ州ボストンの名門バークリー音楽大学に入学するための奨学金を授与され、1999年に卒業、以降ニューヨーク市に住む。その後2000年から彼女は多岐に活躍し、2004年に1stアルバム『Introducing Alma』をリリース、広くわたって好評を得る。その後『Hours』(2008)、『Tonight』(2013)をリリースとキャリアは十分。アルマの歌は、「自信に満ち、ソウルフルで、傷つきやすく、リズミカルに精通しており、最も官能的なビブラートが聴ける」と評されている。クレオ・レイン賞(優秀音楽家賞)やニューヨーク・アーツ・カウンシル(NY Arts Council)のBRIO賞など、数々の賞を受賞している。
(Tracklist)
1 バイ・バイ・ブラック・バード Bye Bye Blackbird (Mort Dixon - Ray Henderson) 4:44
2 アイル・ビ・シーイング・ユー I'll Be Seeing You( Irwin Kahal - Sammy Fain) 3:25
3 イン・ア・センチメンタル・ムード In A Sentimental Mood ( Duke Ellington) 4:04
4 マッド・アバウト・ユー Mad About You (Aaron Earl Livingston) 4:20
5 あの子は最高 Moja Mala Nema Mane ( Traditional, arr. Alma Micic) 3:01
6 マイ・ワン・アンド・オンリー・ラブ My One And Only Love (Robert Mellin - Guy Wood) 3:01
7 いそしぎ The Shadow Of Your Smile (Paul Francis Webster - Johnny Mandel) 4:48
8 ユア・マイ・スリル You're My Thrill (Sidney Clare - Jay Gorney) 3:20
9 黄色いマルメロ Zute Dunje (Traditional, arr. Alma Micic) 5:54
まずの印象は、あまり癖のない極めて標準的な歌を展開する。あるところでは「メロウ・テンダー&クール・ソフトな優しいしっとり感と敏活でダイナミックなスイング&ブルース・センスを併せ持った基本はあくまで柔和で節度とゆとりある抒情派ヴォーカル」という評をしているが、これは案外的(まと)を得ていると思う。つまりスローでもアップ・テンポでも自在に歌い上げる表現力の素晴らしさを持っている。
主力はやはり自己の主張による彼女のオリジナル曲を展開するSSWの機能発揮でなく、いわゆるクラブなどでスタンダードなど彼女自身の好むところを歌い上げて、会場に心地よさを提供するといった世界とみる。
M6."My One And Only Love"のようにバラード調は見事に歌い上げ、M7."The Shadow Of Your Smile"のようなポピュラーなスタンダードは、手慣れた歌だ。
アルバム・タイトル曲はM8."You're My Thrill"で、これは古い1933年の人気曲で、ジャズ界の多くに愛されてきた曲(ジェイ・ゴーニー作曲、シドニー・クレア作詞)で、映画『ジミーとサリー』(1933年)で披露。これをメインにおいてのアルバム造りから、ニュー・ヨークのジャス界に根ざしている彼女の姿が見て取れる。
しかし注目は、続く最後のM9."Zute Dunj(ズテ・ドゥンジェ)"で、これはこのアルバムでも異色で、特にバルカン半島の伝統的な民謡に属する曲で、彼女の故郷のボスニア・ヘルツェゴビナやセルビアなどの地域で歌い継がれて来たものだと。そして曲のテーマは、愛や悲しみ、自然への愛(季節の移ろいなど)を歌った内容が多く、地元の人々にとって感情深い歌詞と旋律が特徴的で、愛されているようだ。
更に、M5."Moja Mala Nema Mane"も、セルビアやクロアチアの伝統的なフォークソングのようで、「私の小さな(恋人/妻)には欠点がない」という意味で、主に愛や魅力について歌った内容であって明るい曲だ。バルカンの伝統音楽には、このように情熱的で感情表現豊かなスタイルが多く、リズミカルなビートや複雑なメロディーラインが特徴的のようだ。この2曲がちょっと異質ではあるが、彼女にとっては生まれ故郷を想い一つのよりどころとしているのだろう、こんなところからは、彼女の心の歌としてここに登場させているところが、ちょっと哀感の感ずるところである。
バックは、ちょっと粋な味を見せるピアノ(Brandon McCune )やソウル感溢れるブルージーなギター(Rale Micic)、テナー(Eric Alexander)はそれらしい力をみせて、アメリカ・ジャズっぽいグルーヴ感を演じつつ彼女の抒情派ヴォーカルを旨く乗せているという感じだ。まあそれで良いのだろうと思うところ。
(評価)
□ 編曲・歌 87/100
□ 録音 87/100
(試聴)
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