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2024年12月29日 (日)

アレッサンドロ・ガラティ Alessandro Galati Trio 「Plays Standards vol.2 & vol.3」

展望感ある美の展開(Vol.2)と、哀愁の美旋律世界(Vol.3)

<Jazz>

Alessandro Galati Trio 「Plays Standards vol.2」
(SACD) Terashima Records / JPN / TYR-1122 / 2024

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Alessandro Galati (piano)
Ares Tavolazzi (bass)
Bernardo Guerra (drums)

Recording at Larione 10 studio, Florence
Mix & Mastering :Stefano Amerio (Artesuono Recording Studios)

357719389_739887534809624_30966376199430   前回紹介の寺島レコードからの抒情性豊かなアレッサンドロ・ガラティ・トリオのスタンダード演奏集3作の第2巻である。

(Tracklist)

1 Stella by Starlight
2 All the Things You Are
3 I Remember Clifford
4 My Romance
5 Someone to Watch Over Me
6 Lament
7 Old Folks
8 Body and Soul

  こちらも、アレッサンドロ・ガラティが「相互作用とプロフェッショナリズムの面で最高の結果を出すために最高のミュージシャンを選びました」と語る同一メンバーにての8曲。やっぱりCD盤としては収録曲が少々少ない。寺島氏に言わせると、曲数を多く収録すると一曲一曲の聴く方の集中力が落ちて、その良さが少し落ちてしまうので、2枚のアルバムで良かったものを3枚にしたと言うが、どうもそのあたりは「?」で、おそらく当初は2枚組のアルバム一つと考えていたのではと、疑ってしまう。いよいよここに来て商業主義もちらっと頭を上げたのか(笑)、はたまたLPリリースの為か、なんと3枚盤で計23曲とした感じだ。おそらく2枚組としたら購入する方はもう少し安上がりだったのではと、ちょっと苦言を呈したい。

  アレッサンドロ・ガラティについては(過去の作品等)、こちらへ→http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/cat54938545/index.html

 まあ、それはさておき、この2巻目は、日没後の夜になんとなく哀愁を湛えながらも、夜の帳を下ろした後の期待感を感じさせるM1."Stella by Starlight"から始まり、M2."All the Things You Are"、M4."My Romance"などは、人生の楽しさすら感じさせるガラティがちょっと弾んだ世界だ。なるほど、2巻目はそんな意味付けを大切にしている。そしてガーシュウィンのM5."Someone to Watch Over Me"になって、ぐっと真摯な誠実な世界の美を感ずる。    
  M6."Lament"でも、ピアノ奏でる流れはインプロの自由が主体で、そしてベース・ソロが続き、高揚感の演奏が演じられる。

  この3作でも、この2巻目は、かなりプラス思考の展開の美が演じられている。

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<Jazz>

Alessandro Galati Trio 「Plays Standards vol.3」
(SACD) Terashima Records / JPN / TYR-1123 / 2024

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Alessandro Galati (piano), Ares Tavolazzi (bass), Bernardo Guerra (drums)

(Tracklist)

1 The Old Country
2 Last Tango in Paris
3 I'll Be Seeing You
4 My Old Flame
5 I'm Glad There Is You
6 Never Let me Go
7 Russian Lullaby

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  最後の第3巻は、寺島靖国がライナーノーツを書いているが、このところ彼の力でガラティに、ヨーロピアン・トラッドを集めた『European Walkabout』(TYR-1100,2022)、ジョビンの名曲を集めたボサノヴァ作品『Portrait in Black and White』(TYR-1109,2022)などのアルバム作成をさせてきたというのは、私にとっては嬉しいことで、ここにスタンダード集をピアノ・トリオでのバラッド中心演奏として聴かせてくれて、これも大きな功績だと評価する。近年、コロナ禍によってミュージシャンの活動低下は顕著で、アルバム・リリースも減少していた中での快挙である。

 さてこの最後の第3巻は寺島靖国節を高揚させたM1."The Old Country"だが、確かに出来がいいですね、やや暗めのイントロによる入りが文句なく私はこの世界に導かれ、微妙な主旋律を聴いて暗さでない美を感じさせるところが憎い。ベースの語りを織り込む流れもうまい。
 M3."I'll Be Seeing You"においてもベースの聴かせどころをちゃんとおいて、美旋律へ繋げるところの哀感への誘いが心憎い。
 M4."My Old Flame"のピアノのゆったりとした旋律の間と、ドラムスのブラッシングとシンバルの音の入りの微妙な関係が、これぞトリオ・バラードと言えるものだ。そしてM5."I'm Glad There Is You"の聴きなれたメロディーで、ほっとさせるのである。

 この最後の第3巻は確かに寺島世界を知らしめられた感じで、それはガラティがその急所をとらえるセンスの素晴らしさの結晶でもある。いずれにしても今年最後の長い夜のこの時に、これを提供してくれたことをこのうえ無く喜んでいるのである。

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏 :    92/100
□   録音       :    90/100

(試聴)

(今年最後のご挨拶)
 今日は今年最後の日曜日ですね、例年になく冬型の天気が続き、我が信州は毎日のように雪が舞い落ちてきます。今年は皆さまは如何な年であったでしょうか?。何かと実りの多かった方々は良かったですね、私自身は何とか無難に過ごせたことで喜んでおります。災害の多い年でしたので、それに遭遇された方々は、是非無事に立ち上がって、来る令和7年は佳い年でありますよう祈念いたします。

 当ブログは、今年は今日が最後となります、いろいろと有難うございました。2006年から私自身の備忘録としてスタートして20年続いてきました。取り上げた音楽アルバムも膨大になってしまってます。更に音楽を愛してゆきたいと思いますが、その他にもまだまだアプローチしたいと思ってますので、来る年も頑張りの年として迎えたいと思って居るところです。ご指導ください。皆様には佳い新年をお迎えになられますように。

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2024年12月25日 (水)

アレッサンドロ・ガラティAlessandro Galati Trio 「Plays Standards vol.1」

イタリアン・リリシズムの叙情感溢るる演奏でのスタンダード集3巻の第1巻

<Jazz>

Alessandro Galati Trio 「Plays Standards vol.1」
SACD / Terashima Records / JPN / TYR-1121 / 2024

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Alessandro Galati アレッサンドロ・ガラティ (piano)
Ares Tavolazzi アレス・タヴォラッツィ (bass)
Bernardo Guerra ベルナルド・グエッラ (drums)

Mixed, Mastered by Stefano Amerio (Artesuono Recording Studios - Cavalicco(Udine), Italy)

Imagesw_20241224220201   我が愛するイタリアの個性派ピアニスト:アレッサンドロ・ガラーティ(1966年イタリアのフィレンツェ生まれ、→)のトリオ編成によるスタンダード曲の演奏集、3部作シリーズの第1弾。これは近年ガラティの演奏に熱心にアプローチしている寺島靖国氏の自己のレーベルTERASHIMA RECORDSからの「Plays Standards」シリーズでここに来て一気にVol.1,2,3と3作がリリースされたのだ。とにかく私のユーロでも注目の長く愛聴してきたアレッサンドロ・ガラティのピアノ演奏であり、これは見過ごせないと一気に3作購入した。

  私がこのアレッサンドロ・ガラティに注目したのは、ここでは何時も話に出てくるアルバム『TRACTION AVANT』(VVJ007, 1994)以来である。イタリア独特の歌心があり、ジャズの基本的スイング感をしっかり基礎に演じ、しかも米国の伝統的なブルース感覚やバップ・スピリットもしっかりと持っている。更にどことなく人情的な哀感のメロディーを重んじて、ヨーロピアンらしい詩的な世界をエレガンスな味わいもある上に、エヴァンス世界に通ずるところも彷彿とさせるところがあって、とにかくイタリアらしい粋なところが更にあって気に入ってしまうのだ。かっては澤野工房がアルバムのリリースに熱心であったが、近年は寺島靖国氏の手に移って、このTerashima Recordsから、各種リリースさて来ている。(詳細はこちら→http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/cat54938545/index.html)
  そしてトリオ・メンバーとして気心の知れたアレス・タヴォラッツィ (bass 下左)、 ベルナルド・グエッラ (drums 下右)が起用されている。

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 なお、このアルバムは、寺島靖国らしく、サウンドにも気を使い録音ミックス・マスターに名手ステファノ・アメリオが起用されており、SACDの高音質盤としてリリースされているところも、私が飛びつく一つの因子である。

(Tracklist)

1. I'll Close My Eyes
2. Blue Bossa
3. I Fall In Love Too Easily
4. You And The Night And The Music
5. In Love In Vain
6. But Not For Me
7. You Don't Know What Love Is
8. How Deep Is The Ocean

 このように収録は若干CDとしては少ない8曲、そしてスタンダードと言えども、意外に私の知らない曲もあるのだが、基本的には有名曲でこのアルバムは構成されていた。そして寺島氏からの要求があったのか、ガラティには好きに演らせると、意外にアヴァンギャルドというか現代的な演奏の流れも登場させるのだが、そんな面は抑えられていて、どっちかと言うと日本人のリリカル好きに向きながら、優しさと優美さと親近感ある展開に納めている。

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 いずれにしても3部作となると、冒頭の曲がかなり注目するが、ここでは知れたるBilly ReidのM1." I'll Close My Eyes"からスタート。美しいピアノの響きとアメリオの録音らしくドラムス、ベースがしっかりと聴きとれるトリオ演奏が堪能できる。バラード調でイントロの美から始まる流れはガラティ世界が来たなと言う印象。
 M3." I Fall In Love Too Easily"も期待した曲だ。かなりのスロー・バラードでピアノの旋律を重んじた演奏で、彼のピアノを堪能できる。それにベースのサポートも美しい。しかしM4."You And The Night And The Music"、M6."But Not For Me"では、彼の編曲によって展開がやや攻略的なところも見せる。

 しかし究極このアルバムは、ぐっと美しさの流れの尊重で、しかも端正できめ繊細な構築がアドリブ技にもみえて、技術力の高さが聴きとれる。そして透明感と深い陰影が交差してリリカルな世界を構築するのでたまらない。
 いずれにしても日本を意識したガラティの美しい世界であった。

 

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏 : 90/100
□ 録音       : 90/100
(試聴)

 

 

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2024年12月20日 (金)

ロベルト・オルサー ROBERTO OLZER TRIO 「AURORA 」

今回はメランコリーよりは優美な世界の印象を受けるアルバムだ

<Jazz>

ROBERTO OLZER TRIO 「AURORA 」
ATELIER SAWANO / JPN / AS-505 / 2024

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Roberto Olzer(piano)
Yuri Goloubev(bass)
Mauro Beggio(drums)

Rcorded, mixed & mastered on 1-3 march 2023 at Artesiono Recording Studios-Cavalicco (Udine)-Italy
Sound Engineer : Stefano Amerio

454563097_387693301595w   澤野工房から久々に待望のイタリアのロベルト・オルサー・トリオ作品の六枚目がリリースされた。何んと言ってもヨーロッパ耽美詩情派の典型たるこのトリオは、憂いや物悲しいメランコリーを描くには最右翼、今回も鉄壁の不変のトリオで、いよいよ脂の乗ってきたロベルト・オルサー(1971年イタリアのドモドッソラ生まれ、→)のピアノに実力派ソヴィエト系のクラシックからの転向したユーリ・ゴルベフ(下右)のベース、そしてドラムスはイタリアでの経験豊富なマウロ・ベッジオ(下左)という構成である。
 そしてなんと世界的にも神秘的な美と言われる「オーロラ」をテーマにしている。今年2024年の不思議にも連続で発生した太陽フレアが起こした大規模な磁気嵐によって、世界の低緯度の国々にもオーロラを出現させ、日本でも観察できたというが、それはこのアルバムの出現とは偶然で、昨年イタリアのスタジオ録音物である。そして嬉しいことに録音エンジニアは、あの名録音技師のステファノ・アメリオが担当している。それだけでもオーディオ・マニアにとっても期待されるものだ。
  そして収録曲は12曲で、オリジナルはオルサーの4曲(下*印)と今回も大きな協力をしているコルベフの3曲(下#印)の7曲で、残るはカヴァー5曲だ。

 

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(Tracklist)
01. After You Went Away
02. Saharan Dream
03. Aurora*
04. A Minuet Mint#
05. Torre del lago*
06. Parisian Episode IX#
07. Piano Concerto
08. Heimweh*
09. Yumeji's Theme
10. Blue Eyes Blue#
11. Corale*
12. A Little Waltz

 冒頭のM1."After You Went Away"からピアノの美旋律が顔を出す、しかしアルバム・タイトル曲は3曲目で、それとの関連付けがあるのかどうなのか、この曲は哀愁と言うよりはピアノとベースによる旋律の運びが歴史的なイタリア風の美的な優雅さが感じられる。
 M2."Saharan Dream"は、エンニオ・モリコーネの「サハラの夢」で、さっそくゴルベフのアルコのベース音が導いて、ピアノの旋律がここでも優雅に流れる。
 M3."Aurora"は、オルサー自身ののタイトル曲で、ピアノのリズムカルな流れで繊細で端正なしっとり感漂うメロディック演奏にベースもむしろ軽く流れを維持して美しく演じ上げる。そこにはなんとなく物語を語る雰囲気があるのだ。
 このようにこのアルバムは沈む込む暗さと言うか、どこか悲しき不安が主たる世界ではなく、M4."A Minuet Mint"に繋がって描くはメランコリーな因子もあるが、むしろファンタジックなと言ってよさそうな世界に美旋律を乗せての世界で流れてゆく。
 

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 M05."Torre del lago"で、アグレッシブなドラムスも聴かせ、ジャズの面白さも演じてくれる。
 そしてM06." Parisian Episode IX"では、不思議な世界へと、そして陰影のある世界へと導き、美旋律のピアノとベースの連携プレイが哀感を感じさせる。
   M7."Piano Concerto"では結構鮮やかさがあり、M8." Heimweh"に繋がる。
   全体的にも、オーロラの如く空間に描かれる神秘性のある美的な北欧の世界を描いたのかもしれない。それにしてもM9."夢二のテーマ"などは心に響くピアノとベースの調べにはM10."Blue Eyes Blue", M11."Corale"と共に人情の深みにも通ずる。そしてM12."A Little Waltz"においては、未来に開かれる感覚が広く展開する。

 とにかく私においては、究極エレガンスに包まれ詩人っぽい文学性のある世界に美旋律で導かれ、優しさと美しさに描かれた世界を浮遊するようなアルバムとして聴きとれた。クラシック・ピアノの気品が生きている中で、ジャズをしっかり描いているところも味がある。いろいろと暗さの最近の世情の中ではちょっと稀有なアルバムだった。

(評価)
□ 曲、演奏 : 90/100
□ 録音  :   90/100

(試聴)
当アルバムの曲が澤野工房盤(日本)でまだ未公開の為、彼のソロ"Torre del lago"を供覧

 

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2024年12月15日 (日)

ビル・エバンス Bill Evans「 In Norway: The Kongsberg Concert」

未発表音源の出現に酔う・・・70年のノルウェーのライブ

<Jazz>

Bill Evans 「 In Norway: The Kongsberg Concert」
Elemental Music / EU / 5990447 / 2024

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Bill Evans (piano) , Eddie Gomez (bass) , Marty Morell (drums)
Kongsberg Jazz Festival at Kongsberg Kino, Kongsberg, Norway, Friday, June 26, 1970.

  今年もビル・エヴァンス・トリオの完全未発表音源が登場した。このところ毎年のことのようにかっての聴くに堪えない録音ものでなく、50年以上前と考えれば標準的なライブ録音で登場してくれることは嬉しいことである。まあ私は何につけてもピアノ・トリオ好きではあるが、ビル・エヴァンスの根っからのファンということではないが、全てにおいて基本的なものとしての愛好者で、それなりにアルバムもなんとなく多くなっている。
Img174w 今回の掘り出し物は、この貴重なライブ音源は近年になってノルウェーの「コングスベルグ・ジャズ・フェスティバル」の書庫で発見され、近年のビル・エヴァンス(当時左)の発掘作品に特に実績のあるエレメンタル・ミュージックに正式盤としての発売オファーが来たものとのことだ。これは1970年のジャズ・フェスティバルもので、エヴァンスのトリオは、エディー・ゴメス(B 下中央)とマーティ・モレル(Dr 下右)とのもので、スコット・ラファロ(B)とポール・モチアン(Dr)とのトリオでエヴァンスがトリオの意味を確立しつつある矢先にラファロを交通事故で失った後の1968年10月に発進したトリオで2年目の1970年6月26日のものである。このトリオは1974年の秋まで6年という期間活動したトリオで、エヴァンスとすると最長のトリオのようだ。
 いずれにせよ、全く情報のなかったアルバム『From Left To Light』の後のスイスのモントル-・ジャズ・フェスに出演し、フィンランドを経てこのノルウェーに参加したもので、既にトリオ結成2年の経過で通じ合う確信は持っての演奏だったようだ。
 この年の1970年に録音された作品としてはこのアルバムと同メンバーでの『Montreux II』が有名であるが、このゴングスベルグの録音の記録はなかったもので、エヴァンスのどのディスコグラフィーにも掲載されていない貴重な初出音源となるとのこと。そしてこの当日は納められた13曲の演奏で、7+6曲の2セットで行われたようだ。
 もともとモレルに言わせると、ビル・エヴァンスはノルウェーだけでなく、北欧つまりスカンジナビア諸国で愛されていたので、この欧州での演奏はかなり本人も楽しみのようだったという。そんな状況下だと思って聴くと一層味わい深い。

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(Tracklist)

1. Come Rain Or Come Shine 5:58
2. What Are You Doing The Rest Of You Life? 5:46
3. 34 Skidoo 5:57
4. Turn Out The Stars 5:09
5. Autumn Leaves 5:55
6. Quiet Now 5:34
7. So What 6:59
8. Gloria’s Step 4:58
9. Emily 5:18
10. Midnight Mood 6:21
11. Who Can I Turn To? 6:38
12. Some Other Time 5:42
13. Nardis 9:48

 現在でも、ノルウェーのピアノ・トリオというと私のお気に入りが多い。特にTord Gustavsen , Espen Eriksen , Helge Lien, Bugge Wesseltoft,  Kjetil Mulelid, Martin Tingvallなどなど、多くのジャズ・ピアニストはエヴァンスの影響を何らか受けて今日も我々を楽しませてくれているのだ。このようにエヴァンスは北欧にはその地のミュージックにおそらく親しみがあっただろうし、それにより更に逆に多くのピアニストに影響をもたらした結果になっているのだろうと思う。
 エヴァンスは60年代以降の各地のライブものが現在も我々は接することが出来るのだが、このノルウェーものはスイスに引き続いて、非常にアメリカン・ジャズとは異なった欧州因子の感じられる曲風に多くが演じられていて、そんな私の歓迎するところの13曲を聴くことが出来る。 

Img173w  収録は全13曲。当時エヴァンスが好んで演奏していたお馴染みのスタンダード曲が中心だが、演奏はエヴァンスのこの小さな美しい街(なにせ現在人口28000人程度)での熱意に感動していたようで、非常に聴衆に心を寄せた印象の強い曲で華々しさとは別の味のある貴重なものであった。そして特筆すべきは音質も当時のものとしては素晴らしい。かなり丁寧な技術を施しての公開であろうが、記録ではREVOXのA77テープレコーダーとAGFAのPE36テープを7.5 インチ・スピード (19cm) でSHURE 565と545のマイクを使用し録音されたものと公表されている。ステレオで録音であり、まあオーディオファンも納得してよい代物。

  オープニングはライブらしく会場の拍手からスタートしてM1."Come Rain Or Come Shine"は挨拶代わりのエヴァンスのピアノが軽快な展開をみせ、続いてゴメスのベース・ソロがじっくりと演じ、最後は三者での見事な展開を見せる。 そしてM2."What Are You Doing The Rest Of You Life? "は、ぐっとしっとりとこのライブの意味付けを聴かす。そしてM3."34 Skidoo"M4."Turn Out The Stars "ではエヴァンスのピアノを堪能させてくれる。とにかくこのノルウェーの聴衆の心に順応した心優しさが感じられる展開で、ピアノ・トリオの味付けは美学に結び付けられている。そしてM6."Quiet Now"に至ると、人間としての心を通じ合わせる世界を描くところがエヴァンスらしい描きで、そんな素晴らしい曲として演じ切った。
 そして後半は楽しさを感じさせるところが見事で、M7."So What "では、ドラム・ソロ、ベースの流れる演奏などを聴かせてくれる。M9."Emily "がいいですね、しっとりとした演奏のピアノ、そして次第にスウィングする曲の流れはエヴァンス・ジャズの醍醐味だ。アンコールはマイルスのM13." Nardis"で、思った以上に充実感を与えてくれる演奏で締めている。

 こうして記録としては薄かったライブであるが、ここまでその地に寄り添った演奏をしていたことに驚きつつ、このアルバムの出現を歓迎したのである(ブックレットの充実も評価できる)。

(評価)
□ 選曲・演奏  90/100
□ 録音     87/100

(試聴)

 

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2024年12月10日 (火)

寺島靖国氏の看板アルバム 「Jazz Bar 2024」

今回もピアノ・トリオのオンパレード

<Jazz>

Yasukuni Terashima Presents  「Jazz Bar 2024」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1129 / 2024

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Terashima2w  毎年の年末行事と化しているTERASHIMA RECORDSからの13曲入りの「Jazz Bar 2024 」がリリースされた。ジャズ愛好家は誰も知っている寺島靖国氏(→)の選曲するところのオムニバス・アルバムだ。彼に関しては、近年日本のジャズ界では、取り敢えずジャズ喫茶オーナー、評論家としてスタートしたといってもよい彼が、今や1938年生まれと言う86歳と言う高齢でありながら、オーディオ界、ジャズ関係書籍出版界、レコード出版界、音楽評論家界などにて破竹の勢いである。そして自己のレーベル「寺島レコード」を2007年に発足させ、彼なりきの感覚でジャズ系のレコード(CD、LP)をリリースしている。
 そしてそのリリース・アルバムの骨格はこの「Jazz Bar」シリーズといってよい。これは彼のレーベル発足前の2001年に初版がdiskUnionの力を借りてリリースした。それ以来24年、毎年の1巻リリースで経過で24巻、なんと十二支を二周したことになる。こうなると恐るべき延命のオムニバス・アルバムである。そして我がCD棚をみると2001から2024まで全て欠けるもの無く並んでいるという私も好き者なのである。彼のジャズ系のオムニバス・アルバムは、これに留まらず「For Jazz Audio Fans Only」16巻、「For Jazz Vocal Fans Only」7巻「For Jazz Ballad Fans Only」5巻「For Jazz Drums Fans Only」2巻と、合わせて54巻既にリリースしているのである。

 そして話は「Jazz Bar」に戻すと、主たる内容は世界各地のピアノ・トリオものが圧倒的に多い。その点は私の好みにピッタリであり、又どちらかと言うとヨーロッパ系が多いのもクラシックやトラッドの流れの因子の強いところに寄っていて、その点も私は大賛成なのである。ただ2001年の第1巻からしばらくは、まだその他のシリーズがスタートしていないのでヴォーカルものも入っている。

71woj1mmfhl_acw  スタートの2001年版(→)では、彼はオムニバスであることに面白いことを言っている「個人色は強く出す。社会一般のことなど考慮せず、とにかく好きなものをかき集める。そして虫眼鏡でのぞき、ふるいにかけ、あたかもマッケンジー河から砂金を取り出すごとく抽出してCDに収めるのである」と、そして「一曲一曲は砂金である。ゴールドである。・・・・以上のような性格が帯びたとき、はじめて普通一般のCDを飛び越えることがありうるのである」と。なかなか面白いではないかと、私もそれにお付き合いして24年、今年も巡り合えたことを喜んでいるのである。

 そもそも、私にとって新発見の好物が一番の目的であった。ここにすばらしさを知った曲のアルバムを入手したという事は、数えきれないぐらいあって、感謝してきたのである。さて、今年はどうであったであろうか・・・・・

(Tracklist)

1.Nightfall / Diego Imbert, Enrico Pieranunzi, Andre Ceccarelli
2.Den Vilsna Tomten / Tingvall Trio
3.Home / Joonas Haavisto
4.Solveigs Sang/ Henrik Gunde, Jesper Bodilsen & Morten Lund
5.Neena / Michel Bisceglia Trio
6.Grateful / Soren Bebe Trio
7.Room 93 / Marc Martin Trio
8.Overnight / Marco Frattini
9.Kansas Skies / Walter Lang Trio
10.Elle / Colin Vallon Trio
11.Deep Blue / Colin Stranahan, Glenn Zaleski, Rick Rosato
12.Valsa Para Julieta / Alexandre Vianna Trio
13.Au fil et a mesure / Dominique Fillon Augmented Trio

  以上の13曲、それぞれ異なったミュージシャンのリリースされたアルバムからの選曲であったが、近年は少々古いものも入ることも多くなった。とにかく、Audio的に注目のもの、Balladもの、Vocalものなどは、それらのシリーズが並行して動いていることや、ここ2000年以降、コロナ禍でアルバム作成が低調であったこと、又アルバム作成がCDとしてリリースしないことも増えてきたことなど、彼にとってもこのところは選曲対象が減少しているのではないかと推測するのである。
 そんなことなどで、なんと今回の13曲中7曲という半分以上が、実は私の持っているアルバムからの曲であった。最も趣向が似ているのであるからあり得ることであろうが、新発見を目的にしている私にとっては、ちょっと空しかったのである。

  当然注目曲は、おなじみのTingvall Trio (M2.), Joonas Haavisto (M3.), Michel Bisceglia (M5.), Soren Bebe Trio (M6.), Colin Vallon  Trio (M10.)のこの流れの常連ですね。私は既に聴いているものであって、寺島氏と共通であることを実感した。今回はそれが非常に多かったところだ。これらは当然、美旋律、哀愁などの世界でお勧めアルバムである。

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 さて、私がこのアルバムで新たに注目できたのは、まずスペインのMarc Martin Troの陰影感の曲(M7."Room 93" from 「Roaming」(2017, 上左))、イタリアのドラマーのトリオの Marco Frattiniの静の世界(M8."Overnight" from 「Empty Music」(2022,上中央))、 フランスのDominique Fillon Augmented Trio の聴くほどに味の出る曲(M13."Au fil et a mesure" from 「Awiting Ship」(2021,上右) ) 等であった。これらのアルバムはまずはサブスク・ストリーミングで既に試聴はしているが、更にアプローチしてみたいと思ったところだ。
 今年のニューアルバムからは、ここでも既に私は取り上げた寺島氏自身のレーベルのアルバムHenrik Gunde Trio『MOODS』(TYR-1127)のみであった。毎年のことではあるが年の締めくくりにふさわしい寺島靖国氏の『Jazz Bar 2024』を取り上げてみた。

(評価)
□ 選曲 : 90/100
□   録音 :   87/100 (全体的に)

(試聴) Marc Martin trio "ROOM93"

 

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2024年12月 5日 (木)

ジョン・バティステ Jon Batiste 「BEETHOVEN BLUES」

異色のベートーヴェンとアメリカン・ブルースの融合

<Jazz, Classic>

Jon Batiste 「BEETHOVEN BLUES」
Verve / International Version / UCCV-1209 /2024

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Jon Batiste : piano

Ab67616d0000b2737873w 「ベートーヴェンが唯一無二の存在だからだ。僕にとって、長年子供の頃から演奏してきた音楽と学んできた音楽との間につながりを築くことが、音楽の旅そのものだった。音楽は修練の道だ。ベートーヴェンの作品には、様々な音楽的方向性や含蓄が詰まってる。リズム的には驚くほどアフリカ的なアプローチが見られる部分もあって、そこから導き出せるものには、他のどんな偉大な作曲家にもない独特なものがあるんだ」
・・・と言うのは、今や泣く子も黙る勢いのある魔法の指先を持つと言われるジョン・バティステ(1986年11月11日 ニューオルリンズ生まれ →)だが、グラミー賞5冠に輝く才能発揮してのクラシックの名曲、ベートーヴェンをジャジーに演じ上げたピアノ・ソロ・アルバムの登場だ。

 ジャズ・ピアニストがベートーヴェンを取り上げたのは、あの「プレイ・バッハ」のジャク・ルーシェが2003年に交響曲第7番をテーマにトリオ演奏収録したのを思い出すが、バッハを演じ始めた若き時と異なって、人生達観した男の描くところであり、聴く方もちょっとそれなりの味を感じ取れた。
 そしてこのアルバムではバティステは若き勢いの上昇中において取り上げたベートーヴェンとの対話であり、それが又別の意味で興味が湧くところだ。内容は、11曲が収録されているがベートーヴェンの代表作のアレンジが主で、バティステ自身の新曲は3曲という構成である。
 
 ジョン・バティステ(Jonathan Michael "Jon" Batiste)は、幼少時から音楽に囲まれ育つ。8歳の時よりパーカッション、11歳でピアノと接し、10代からインターネット上で音楽をリリースし、弱冠17歳でインディーズから“Times in New Orlean”を発表。その後、ジュリアード音楽院でピアノの学士号・修士号を取得し、メジャー・デビュー作『ハリウッド・アフリカンズ』を発表、収録曲の"セント・ ジェームス病院"が2019年のグラミー賞最優秀アメリカン・ルーツ・パフォーマンス賞にノミネートされ、トップ・アーティストとして評価を得る。現在は彼がリーダーのバンド「ステイ・ヒューマン」で活躍、また、ジャズの本場NYにあるナショナル・ジャズ・ミュージアム・ハーレムではクリエイティヴ・ディレクターを務め、音楽ディレクターとしても高い評価を得ている。2020年の映画『ソウルフル・ワールド』でアカデミー賞、ゴールデングローブ賞で作曲賞を受賞し、2022年第64回グラミー賞では、史上3位となる11部門にノミネートされ、アルバム『ウィー・アー』、『ソウルフル・ワールド』で「アルバム・オブ・ザ・イヤー」を含む最多5部門を受賞した。

(Tracklist)
01.エリーゼのために - バティステ Fur Elise - Batiste
02.交響曲第5番-ストンプ Symphony No. 5 Stomp
03.月光ソナタ-ブルース Moonlight Sonata Blues
04.ダスクライト・ムーヴメント Dusklight Movement※
05.交響曲第7番-エレジー 7th Symphony Elegy
06.アメリカン・シンフォニーのテーマ American Symphony Theme※
07.歓喜の歌 Ode to Joyful
08.交響曲第5番-イン・コンゴ・スクウェア 5th Symphony in Congo Square
09.ヴァルトシュタイン-ウォブル Waldstein Wobble
10.ライフ・オブ・ルートヴィヒ Life of Ludwig※
11.エリーゼのために - レヴェリー Fur Elise-Reverie

 
Mv5bzjm4y2jkotmtowe5w   バティステが次のように言っている「コンセプトは……言ってみれば、ベートーヴェンの音楽に、この僕の発想から生まれる音楽的および文化的レファレンス、時には新たなテーマやセクションすら加えて、より拡張された音楽にするということだね」。
 やはり単なるクラシック音楽の名曲カバー集ではない。ジョン・バティステらしい意図があって作られたものだということが解る。タイトルに『Beethoven Blues』と名付けているようにM01.M11.「エリーゼのために」M02."Symphony No.5"「運命」からなんとアメリカのブラック・ミュージックの要素が聴こえてくるという極めて異様なアルバムだ。しかし原曲のメロディーはちゃんと生かしていてそこが聴かせどころだと思われる。

 彼が言うには、「アフリカから離散した者達が生み出したアメリカン・ブルースのリズムは、二つの異なる拍子を同時に用いるという考えに基づいている。例えば、1-2、1-2の2拍子と、1-2-3-4-5-6、1-2-3-4-5-6の6拍子が同時に存在し、演奏される。この世界で最初のリズムとも呼べる、西アフリカの離散者から生まれたドラムサークルの音こそ、ベートーヴェンの音楽に色濃く表れ、彼が欧州クラシック音楽に新しいリズムの考え方を取り入れた一例だ。ベートーヴェンが革新的だったのはハーモニーやメロディだけじゃない。リズムに関してもそうなんだ。同時に複数の拍子が用いられるというのは、アフリカのディアスポラの概念の継承と言えるものなんだよ」
 こんな彼の話を頭に置いて聴くと、M03."月光ソナタ"M09"Waldstein"など、美しさの中に彼の編曲がちょっと異様なのも、なんとなくそんなアフリカの音楽との関係がそれぞれのテーマに出ているのだ。そしてそこで成程と理解まではゆかなくとも、そうゆうところなのかと面白く聴ける。
 とにかく彼は"エリーゼのために"への思い入れが凄い。なんとM11."Fur Elise-Reverie"は15分を超える演奏になっている。この一曲だけでも聴く価値がある。いずれにしても、そんなところに注目して、これから何回かと聴いてみてのお楽しみといった奥深さがあるところなのだ。そして彼は更にベートーヴェンの第2弾とかショパンを考えているとの話もある。

□ 選曲・編曲・演奏  88/100
□ 録音        88/100
(試聴) "Fur Elise (エリーゼのために)"

 

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