ピンク・フロイド

2025年5月 7日 (水)

「ピンク・フロイド伝説-LIVE AT POMPEII」 5回目のお披露目 Pink Floyd「AT POMPEII ‐ MCMLXXII」

究極の最終形は・・・期待に耐えうるか

<Progressive Rock>

PINK FLOYD AT POMPEII-MCMLXXII
(BLue-Ray)  Sony Music / Jpn / SIXP-51 / 2025

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Music : Pink floyd
Recorded in the Roman Amphitheatre at Pompeii, 4-7 Oct. 1971

 1971年10月、イタリアのポンペイ遺跡で収録されたピンク・フロイド伝説のライヴ・パフォーマンスの映像版は、1972年9月2日に英国映画祭で初公開されたもので、プログレッシブ・ロック・バンドとして日本に定着することとなる大きな切っ掛けとなったものだ。それはどうした経過かは今となっては解らないが、1973年3月17日にNHK総合テレビ「ヤング・ミュージック・ショー」で放映されたことによる。日本では英国ロックとしてビートルズは知られていたが、一つの重大分野でもあった所謂プログレ御三家のピンク・フロイド、キング・クリムゾン、イエスといったところまでは、今の時代のような情報はなかなか浸透するまでには時間がかかった。このNHKの映像には日本のロック・ファンへの大きな刺激をもたらした。こんなロックがあるのかという若きものにとっての関心は大きかった。それでもこの時は既にピンク・フロイドは過去に7枚のアルバムをリリースしていて(1970年アルバム『ATOM HEART MOTHER原子心母』で日本でもプログレッシブ・ロック・バンドとして定着していた)、私にとっては、1968年の『神秘』以来、リアル・タイムに聴いてきたバンドであるが、なんと現在でもロック界最高のセールスを示したアルバムであり彼らの頂点であった『The Dark Side of The Moon 狂気』の8枚目がリリースされる年であったのだ。それまで日本でピンク・フロイドは知る人ぞ知るバンドにはなってはいたが、それは少なくとも来日した「箱根アフロディーテ」(このポンペイの録画の2ヶ月前)のライブが大きかったと言える経過であった。

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 いずれにしても、ある程度の年月が経つと必ずもち上がって来るのがこのポンペイ・ライブものだ。ライブものとはいっても観衆なしのポンペイ遺跡の“世界遺産”古代ローマ「円形闘技場」でのピンク・フロイドの無観客ライヴ・パフォーマンスものである。
 そしてこの映像版は勿論現在も世界的にも"人気ロック・ライブもの"として君臨している。そして又今年2025年に新盤の登場となったもので、少なくとも最初からは主に5回の手が加えられて、40年以上の経過を経てきたモノで、それは以下のような経過である。
   ① 1972年   60分もの Edinburgh Film Festival(映画祭)の公開映像版「Live at Pompeii」
   ② 1974年 80分もの 劇場公開版「Live at Pompeii」(+studio映像)
         1976年 初めてのパッケージ化 (ベーターマックス版「ピンク・フロイドの幻想」)
       1981年 広く一般パッケージ化 (Leser Disc版, VHS版)
   ③ 2003年   ニューバージョン化「Live at POMPEII - The Director's Cut」
   ④ 2016年 「The Early Years 1965-1972」収録「Live at Pompeii」5.1ch化
   ⑤ 2025年 「PINK FLOYD AT POMPEII MCMLXXII」( 2025リミックス)

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 ①は、モノラル録音盤であったが、②はアルバム『狂気』録音中のアビー・ロード・スタジオで撮影されたフッテージを追加して80分に拡大され劇場公開された。しかしなんと、前に触れたように、その前の年の1973年にNHK総合テレビで放映され、これは世界でも最も早い一般公開であり、それはこの最初の60分ものであったが、私にとってはなかなかそれまでは彼らの姿をじっくり見るという状況にもなく手段もなかったわけで、モノクロで興奮して見たのが懐かしい。彼らのヴェスヴィオ火山を四人で歩く姿が又印象的であった。そしてその後、誰もが自分の意思で見れるようになったのが1976年のビデオ・テープのベータマックス版、1980年代になって、VHS版とレーザーディスク版として市販されたことによる。そのLD版は今も持っている代物であり、私は①②もDVDに記録されたモノを持っていて、今も比較鑑賞できる。
 そして③2003年には、新盤として「Live at POMPEII - The Director's Cut」が発売された。これは更に手が加えられスタートのイントロ映像には人工衛星の打ち上げシーンなどが加えられ、又CGなどや火山爆発の被害映像などが加えられワイドスクリーン化してのモノだった。
 そして更に2016年には、ピンク・フロイドの箱物の記念版の「The Early Years 1965-1972」が発売され、そこに収録された「Live at Pompeii」のサウンドは、ジェイムズ・ガズリーによる5.1ch化が行われたものであった。私は取り敢えずここまででフロイドのポンペイものは完璧と思っていたのである。
 こうしてこのように一定の年が経過すると何度も何度も手が加えられ、このポンペイ・ライブの映像・サウンドモノはリリースされてきたところであるが、ここに来て何と主として五回目の改良版「POMPEI」が発売されたわけである。

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 今回の目玉は、まず基本は「MCMLXXII」というタイトルにあるように、これは「1972」という意味で、これはこの映像の初公開の年を示したもので、原点回帰したものだと言う事である。それは近年最も普及した2003年の「The Director's Cut」版は、いろいろと手を入れすぎた感があって、演奏映像の途中に別のイメージ映像が入ったりで、かえって手が込んだ割にはファンは納得しなかったところも多々あった。つまりオリジナルのライブそのものの映像に魅力に期待が大きいということであって、従って、今回は当初のオリジナルに戻って画像の4K化による改善を施し、サウンドはキング・クリムゾンもののサウンド・エンジニアで知られており、自らもロック・ミュージシャンとして活躍もするスティーヴン・ウィルソンの手によるリミックス(Dolby Atmos、5.1 Dolby TrueHD Surround [96k/24b]化)された"究極の「POMPEI」モノ"としてリリースされたのである。内容は以下の通りである。

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<CD1>
1.ポンペイ・イントロ Pompeii Intro
2.エコーズ (Part 1) Echoes - Part 1
3.ユージン、斧に気をつけろ Careful With That Axe, Eugene
4.神秘 A Saucerful of Secrets
5.吹けよ風、呼べよ嵐 One of These Days
6.太陽賛歌 Set the Controls for the Heart of the Sun
7.マドモアゼル・ノブス Mademoiselle Nobs
8.エコーズ (Part 2) Echoes Part 2

<CD2>
1.ユージン、斧に気をつけろ Careful With that Axe, Eugene - Alternate Take
2.神秘 A Saucerful of Secrets - Unedited

<Blu-ray>
Feature Film
1. ポンペイ・イントロ Pompeii Intro
2. エコーズ (Part 1) Echoes Part 1
3. 走り回って On The Run (studio footage)
4. ユージン、斧に気をつけろ Careful With That Axe, Eugene
5. 神秘 A Saucerful Of Secrets
6. アス・アンド・ゼム Us and Them (studio footage)
7. 吹けよ風、呼べよ嵐 One Of These Days
8. マドモアゼル・ノブス Mademoiselle Nobs
9. 狂人は心に Brain Damage (studio footage)
10. 太陽賛歌 Set The Controls For The Heart Of The Sun
11. エコーズ (Part 2) Echoes Part 2

Concert
1.ポンペイ・イントロ Pompeii Intro
2.エコーズ (Part 1) Echoes - Part 1
3.ユージン、斧に気をつけろ Careful With That Axe, Eugene
4.神秘 A Saucerful of Secrets
5.吹けよ風、呼べよ嵐 One of These Days
6.太陽賛歌 Set the Controls for the Heart of the Sun
7.エコーズ (Part 2) Echoes Part 2

Audio Specs:
2.0 Uncompressed LPCM Stereo [96k/24b]
5.1 Dolby TrueHD Surround [96k/24b]
Dolby Atmos [feature only]
Feature film run time: 1:24:58
Concert run time: 1:02:45

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 確かに無観客のライブものというのは、極めて当時のロック・ライブ映像としては珍しいモノだ。私は今は見慣れてしまって不思議に思わないのだが、初めて見たときは非常に異様に感じたものである。当初は撮影監督のエイドリアン・メイペンは、ピンク・フロイド・ミュージックの特異性から、絵画作品とピンク・フロイドの姿を融合することを考えたようであるが、ポンペイ遺跡を知ってこの情景との融合に思いを馳せたようだ。ロックというのは大観衆と共に盛り上がるものであるのが一般通念で、それを逆に無観衆という世界は、一般通念と異なるところに意味があり、このバンドの性格との一致性の試みは見事に成功した作品である。

 ピンク・フロイドが世界的にプログレッシブ・ロックとして浸透したのは1970年のアルバム『ATOM HEART MOTHER 原子心母』からであり、これは彼らがむしろ収拾の付かない曲としてあきらめていたものであり、更に又彼らは分裂の危機にもあった為、リーダーであったロジャー・ウォーターズが友人の実験音楽家のロン・ギーシン(その時、ウォーターズの力を借りてアルバム『Music from"THE BODY"』をリリースしている)に預けて、ギーシンがチェロ奏者、10人の管楽器奏者、20人の合唱団を起用してロック交響楽組曲を造り上げたもので、圧倒的支持を得た。更にこのアルバムでは、ギルモアのギターが曲"Fat old sun"で開花し、ウォーターズは、曲"If"で彼の"不安"を初めてオープンにして、以降のピンク・フロイドの方向性をスタートさせたモノだ。これからピンク・フロイドの一つの道が開け、このポンペイ・ライブは1971年のアルバム『Meddle おせっかい』の製作に関わった世界であり、「Careful With That Axe, Eugene」というシド・バレットと決別後の常連・歴史的曲から「エコーズ」「神秘」「吹けよ風、呼べよ嵐」といった極めて重要な曲がフィーチャーされ、円形闘技場の昼と夜両方の姿を捉えた神秘性のあるビジュアルは、かれらの日常から超越した演奏が作り出す幻想性をさらに強調している。そんなピンク・フロイドの重要な時期のライブがポンペイなのである。これが次のロジャー・ウォーターズ主導の始まりであった最高作品『The Dark Side of The Moon 狂気』(1973年)に繋がってゆくモノであった。

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   ロックというのは、時代を反映したミュージックでもあり、その時代を考察しないとその意義が十分に理解できない。ピンク・フロイドもこの時代から頂点に立った時代以降は、欧州社会は困惑の様相を示し、英国の経済の破綻はひどく、社会混乱も最悪の情勢を迎える。従つてピンク・フロイドを代表するプログレッシブ・ロックはパンク・ロックの台頭により否定され潰されてゆくのは自然の姿だつた。しかしプログレ界でただ一つ其れをものの見事に克服したのはピンク・フロイドでもあった。社会に目を向けずにロックは存在感はなく1977年アルバム『Animals』によって更なる存在価値を高め支持を拡大した経過(これが解らなかったのは当時の日本の音楽評論家で、"エコーズ"にピンク・フロイドの世界が留まって、発展の意味が解らないレベルだった事を知っておくべき。ロックは最高を続けるのでなく時代に相応して常に発展する宿命にある) が、これから以降のピンク・フロイドの歴史になるのであるが、それを知る意味でも、その前期のこの姿は一つの頂点として今でも貴重であり愛され続けているのである。

 こんな歴史的時期の表現でもあるライブものである「ポンペイ」はピンク・フロイド彼らを知る重要なものであり、人気も高い。したがって今回の最高と言われるサウンドと映像は貴重であるので、新しい発見のあると言うモノではなかったが、これはこれとして大きな意義あるモノとして捉えたわけである。

(評価)
□ 曲・演奏・作品の価値 : 90/100
□ 音質・映像の改善価値 : 90/100

(試聴)

 

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2025年2月 2日 (日)

ニック・メイスン 「NICK' MASON'S SAUCERFUL SECRETS」-POMPEII 2023

ピンク・フロイド創設期からの物語

<Progressive Rock>

「NICK' MASON'S SAUCERFUL SECRETS」-POMPEII 2023
Live at Teatro Grande, Pompei, Italy 24th July 2023 
DVD, Amty 763 /  Multicam / COLOUR NTSC Approx.146min

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Nick Mason - drums, percussion / Guy Pratt - vocals, bass, guitars / Gary Kemp - vocals, guitars / Lee Harris - guitars, backing vocals / Dom Beken - keyboards, backing vocal

  ピンク・フロイド話も続きますが、久々のニック・メイスンNicholas Berkeley Mason(1944年1月27日 - )の話題だ。考えてみるとピンク・フロイドの創設メンバーで、彼は1965年のバンド結成以来(当時は建築学を学んでいた)、唯一の不変のメンバーであり、ロジャー・ウォーターズとは学友でいつの時代も仲は良い。そしてピンク・フロイドの各時代すべてのアルバムに登場する唯一のメンバーということになる。もともとドラマーが好みと言うわけでもなかったようで、バンド結成時にはメンバーの都合でドラムスの担当となったようだ。そういえば、ロジャー・ウォーターズもギタリストだったが、シド・バレットの関係でベースに落ち着いたようだ。まあ学生バンドはそんなところからスタートしているということだろう。

91eixnxbwl_ac_sl850w  そしてメイスンはピンク・フロイド時代もソロ・アルバムをリリースしているが、意外にセンスはジャジーな世界であった。1981年のソロ・アルバム『Nick Mason's Fictitious Sports 空想感覚』(⇢)なんかは、典型的なコンテンポラリー・ジャズ・ロック・アルバムで、ジャズでも異色のピアニストのカーラ・ブレイと共演していて、意外や意外の感がある。しかし当時親友のロジャー・ウォーターズからは、既にドラマーとしては旬も過ぎたと、アルバム『THE WALL』では、セカンド・ドラマーとして扱われている。それはリック・ライトも同様であった。
 しかし、ウォーターズがピンク・フロイドから去ることになって、そのピンク・フロイドの名をなんとしても欲しかったデヴィット・ギルモアから誘われて、ピンク・フロイドを続けることになり、ライトもその後復帰したわけである。

 そしてその時代も去り、意外に静かだったメイスンも、親友ウォーターズのソロ・ライブには飛び入り参加したりと、彼は嫌われるという性格の無い人間ということが見て取れる、それだけ癖がないということか。そして ウォーターズのソロ世界ライブの成功や、ギルモアの同様な成功をみて、メイスンも初期のピンク・フロイド曲を演奏するトリビュートバンド「Nick Mason’s Saucerful of Secrets」を立ち上げて2018年より二人よりは若干スケールダウンした世界ツアー・ライブ活動を続けている。このバンドは、ドラマーのニック・メイソンとギタリストのリー・ハリスによって英国のサイケデリックロックバンドでスタートしたピンク・フロイドの初期の曲を演奏している。バンドには、ギターとボーカルにシュパンダウ・バレエ団のゲイリー・ケンプ、ベースとボーカルにピンク・フロイドの長年のコラボレーターであるガイ・プラット、キーボードにプロデューサーのドム・ベケンも参加。メイソンは、グループはトリビュートバンドではなく、時代の「精神を捉える」ことを望んでと述べている。


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(ニック・メイスン・バンドに飛び入り参加のロジャー・ウォーターズと)

 バンドデビューは2018年5月にロンドンの500席のクラブ、ディングウォールズ。その後、ハーフムーン、パットニーでの3つの小さなショー、2018年9月のヨーロッパツアー、2019年の北米ツアーが行われた。2019年4月18日、ロジャー・ウォーターズがニューヨーク・ビーコン・シアターに参加して「Set the Controls for the Heart of the Sun」を歌い、観客を驚かせた。
 その後COVID-19のパンデミックにより延期、彼らは2023年に本格的に再び活動し、短期間のユーロ・ツアーより7月24日イタリア、ポンペイでのライブを行った。それをこのブートDVDは、マルチカメラ仕様によるオーディエンス映像にて、トータル2時間26分にわたりフル収録したものである。。
 なんといっても、ボンペイといえばファンなら誰もが1971年10月の同地でのピンク・フロイドの公式ライブ映像を収録した記録映画が頭に浮かぶわけで、私もそれもあって、何年か前にとにもかくにも訪れてみた遺跡の地だ。あのライブは、NHKも初めてピンク・フロイドを公に日本に紹介したものであった(1973年3月17日「ヤングミュージックショー」)。
 このオーディエンス録画は、なかなか良く出来ていてマルチカメラも駆使されサウンドも良好でうまくマッチングしている。

(Tracklist)

Disc 1 :
1. Intro Part 1 2. Intro Part 2 3. Intro Part 3
(Set 1) 4. Pre-Show 5. One Of These Days 6. Nick Mason MC 7. Arnold Layne 8. Fearless 9. Obscured By Clouds 10. When You're In 11. Candy And A Currant Bun 12. Vegetable Man 13. Nick Mason MC 14. If 15. Atom Heart Mother 16. If (Reprise) 17. Guy Pratt MC 18. Remember A Day 19. Band Introduction 20. Set The Controls For The Heart Of The Sun
Disc 2 :
(Set 2)
1. Astronomy Domine 2. The Nile Song 3. Guy Pratt MC 4. Burning Bridges 5. Childhood's End 6. Lucifer Sam 7. Echoes 8. See Emily Play 9. A Saucerful Of Secrets 10. Bike 11. Outro 12. Ending 13. Nick's Honorary Citizenship Ceremony

 ピンク・フロイドにとっても記念のポンペイであり、この日はライブ前にポンペイ遺跡の凝った約9分のムービーを挿入しており、その映像からしっかり収録。そして円形劇場遺跡の会場に風が吹き抜けるSEが流れ、「吹けよ風、呼べよ嵐」のベース・リフが轟くという演出はなかなかファンにはたまらない演出。多彩なアングルの映像を最新機器で編集、目まぐるしいライティングによってムードを一気に盛り上げる。シド時代から70年代初期までのフロイドが映像美と共に蘇ってウォーターズやギルモアとはちょっと違った趣向。
 さて、メンバーは上記のおじさん達(笑)で、しかもオーディエンスにとってはリアル・タイムに経験する以前の曲で、雰囲気は若者にアッピールするロック・バンドというよりはやはり回顧バンドという感じは致し方ない。

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 しかし、選曲は思った以上に凝っていた。アルバム『Obscured By Clouds雲の影』(1972)から三曲が登場しているのに驚いた。このアルバムは異色監督シュローダーの映画のサウンド・トラック盤だが、彼らの映像と音楽の関係の自信の表れのような作品集だ。取り上げられている曲「Obscured By Clouds」は如何にも映画音楽的で、又「Childhood's End」はブルージーで意外に面白い。更に前半のショーでの注目は、ロジャー・ウォーターズの肝いりの曲「If」を取り上げていたことだ。この曲は、ウォーターズの社会や人間への不安のスタート曲であり、諸々の暗示が歌われていて、後期ピンク・フロイドの幕開けでもある。しかもその間に「Atom Heart Mother原子心母」を挟み込んで、なかなか味な展開を見せ、後半には、やはり私が意外と好きなアルバム『モア』からの「The Nile Song」を演じたり、一方欠かせない「Echoes」を聴かせている。なかなかウォーターズとは別の世界観での違ったメイスンの心と意志が見え隠れしているように思う。

 地味なニック・メイスンの活動もこうして表に出てきて、なかなか味わいがあって良かったと思いながら視聴したところである。今年も継続してこのライブは行われるようで、各地での成功を祈りたい。

(評価)
□ 選曲、演奏   88/100
□ 録音      85/100

(試聴)

" Atom Heart Mother", " If (Reprise)"

*

Roger Watersの飛び入りの様子↓ (2019.4.18)

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2025年1月28日 (火)

デヴィット・キルモア David Gilmour 「MADISON SQUARE GARDEN 2024」

相変わらずのアメリカン・ミュージック・ショー化

<Progressive Rock, Popular>

David Gilmour 「MADISON SQUARE GARDEN 2024」
Madison Aquare Garden, New York, NY, USA 10th November 2024
DVD / Amity 795 / COLOUR NTSC Approx.164min / 2024

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 これは、デヴィット・ギルモアの昨年末のMadison Square Gardenのライブ映像版。

 歴代60年代ロックのミュージシャンも、なんと80歳前後という歳を迎えている。そんな中でもかって3大プログレッシブ・ロック・グループと言われたキング・クリムゾン、ピンク・フロイド、イエスは、それぞれ様々なスタイルではあるが、現在も第一線にあるというのは驚きである。それには、彼らがロックというジャンルにおいても、当時プログレッシブ(進歩する、前進する)と言われた因子をはらみつつ、リスナーの心を捉えてきたということに尽きると思うが、今日の活動を見ても第一線にそれなりの力を発揮している事には驚きと言っていいのだろう。

 さてそのピンク・フロイドだが、結成当時からのロジャー・ウォーターズ(↓上)は、今年82歳になるが、現在はソロ・アーティストとして'23年までも大々的世界ツアー(『「THIS IS NOT A DRILL 」ツアー』)を敢行し、ピンク・フロイド時代の彼の曲やソロ時代になつての曲を展開して反戦・反核のアジテーションをも行って社会的・音楽的話題を残してる。そしてその上にアルバム『The Dark Side of The Moon Redux』をリリース、若き50年前から今の姿を見直している。又ニック・メイスン(↓下)も81歳で、2023年から今年にかけて新グループを結成し『 saucerful of secrets tour 』を展開、懐かしのピンク・フロイドの原点に近いアルバムからの曲群で好評を得ている。

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Roger Waters「This is not a Drill Tour」
  

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Nick Mason「saucerful of secrets tour」


 一方メンバーの少々若いデヴィット・ギルモアは今年79歳になるところだが、昨年ソロアルバム『LUCK AND STRANGE(邂逅)』リリースし、その後のローマ・ロンドン・北米ツアー『LUCK AND STRANGE Tour』を行った。それがここで取り上げたこのブートで映像盤である。 私から見ると三者ともかってのピンク・フロイド時代の曲も多くを演じているが、全く印象の違う世界を醸し出しているのが面白い。まあ、それだけ個性があるということにもなって、それはそれ悪いことではない。

 ギルモアの昨年9月上旬ローマから始まったツアーのファイナルとなる北米ツアーの11月10日のニューヨークは Madison Square Gardenに於けるライブの全記録だ。残念ながらプロショットではない。しかしマルチ・カメラ仕様となるハイクオリティー・オーディエンス映像にて2時間44分にわたりフル収録している。これはWEB上にアップされた映像を元に、海外ファンの複数のアングル映像を最新機器を用いてマルチ化しプロショットに近いモノに仕上げたもので、アリーナ至近距離からのカメラやステージ全体を体感できるスタンド席カメラ、さらに他にも多彩なアングルを納めている。そしておまけにイメージ映像も挿入されており、黒猫や時計、太陽など、曲のイメージに沿った映像が差し込まれ、時には参加メンバーの写真やギルモアのオフショットまで登場する結構凝った編集だ。音声パートもバラバラの映像からの音源をバランス調整も施し違和感なくライブ全編を再現している。まあオーディエンスによる映像モノとしてはなかなか上出来の部類に属するものだ。

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David Gilmour 「LUCK AND STRANGE Tour」

(LUCK AND STRANGE Tour-Tracklist)
(Disc 1) : 1. Guy Pratt Intro 2. 5 A.M. 3. Black Cat 4. Luck And Strange 5. Speak To Me 6. Breathe 7. Time 8. Breathe (reprise) 9. Fat Old Sun 10. Marooned 11. A Single Spark 12. Wish You Were Here 13. Band Introductions 14. Vita Brevis 15. Between Two Points 16. High Hopes
(Disc 2) : 1. Sorrow 2. The Piper's Call 3. A Great Day For Freedom(『The Division Bell』) 4. In Any Tongue 5. Band Crew Introductions 6. The Great Gig In The Sky 7. A Boat Lies Waiting 8. MC 9. Coming Back To Life 10. MC (dedicated to Polly Samson) 11. Dark and Velvet Nights 12. Sings 13. Scattered 14.Comfortably Numb
-Bonus Footage- 15. Luck and Strange

 内容は上記の通りで、古き良き時代のピンク・フロイドの『狂気』を中心とした曲群に、ロジャー・ウォーターズの脱退後のギルモア主導型の時代の曲を交えて、今回の彼のソロ・アルバム『邂逅』から全曲披露している。所謂、1950年代ロック・ミュージックはエレクトリック・ギターのサウンドが一つのポピュラー界にインパクトを与えた重要な因子であって、プレスリーから始まってビートルズもエレキを抱えて若者にアッピールした。1960年代になっての3大プログレ・バンドもそのギター・サウンドはロック・ミュージックの中心サウンドは変わりなく、キーボードが加わって特殊な世界をも構築した。そんなところで、ピンク・フロイドに於いてもシド・バレットのバンド離脱後のウォーターズの構想に乗ってのギルモア加入、そしてギルモア・ギター・サウンドは大きな役割を果たした。

 従って、ピンク・フロイドの1970年代の大成功で、ギルモアのギター・サウンドを愛する者も多く今日まで来ていて、今回のアルバムそしてツアーによるライブはそれなりに大成功している。そしてアルバム『飛翔』と『邂逅』からのソロと、フロイド・ナンバーがちょうど半々づつというバランスの良い構成で、ちなみに『邂逅』からはやはりタイトル・ナンバーを含み計9曲を披露(ここには、娘と息子の二人も参加)。フロイド・ナンバーとしては、今回は定番ばかりでなく、70年代の「Breathe (In The Air)」や、90年代の彼の時代になってのアルバム『対』よりの「A Great Day For Freedom」「Marooned」などの4曲もセットインしているのが一応の注目点。加えてツアー・メンバーとして参加しているギルモアの娘ロマニー・ギルモアも、「Vita Brevis」「Between Two Points」でボーカルやハープを披露したりと、所謂、ロック・コンセプトの流れる社会派ウォーターズのライブのような緊迫感と世界の暗部に迫るソロ・ツアーとは違い、若干お祭り的ビック・ショーに終わらせている。そしてやはり観衆は昔のピンク・フロイドが聴きたいので、79年のウォーターズの自伝とアーティストの狂気を描いた『ザ・ウォール』からの「 Comfortably Numb」などが一番盛り上がっていて、今回のアルバムからの曲は静かに聴いている。

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 こうして、ギルモアのライブ・ステージを観ていても、やはり全盛期からもう数十年経ったピンク・フロイドの人気は衰えず、ギルモア・ギター・ファンは現在も健在だ。しかし華々しい中にアメリカ的ミュージック・ショー因子が強いのは、ギルモアのアルバムにおける曲作りに大きな役割を果たしている女房のポリー・サムソンの影響が大きい事は理解しているが(テーマは「老化と死」にあると言うが)、しかしやはりロック愛好家として若干空しくなったのは、歳はとったとはいえ、かってのロックの根底に流れる時代を見つめ、社会というものに対してのコンセプトを持って、そして問題意識を持ち、訴えて、そして大衆に主張してゆく事の価値感が薄れていることは残念である。かってウォーターズが描いたアルバム『狂気』の曲「Money」、『炎』の「Welcome To The Machine」で描いた恐ろしい現実、レコードの売り上げやソーシャルメディアでの成功を求める業界やのアーティストの欲望によって音楽の姿がしばしば変わる時代に警告を発していたが、ギルモアはむしろウォーターズに言わせると"お人好し的人間"であるだけに、なんとなくそんな世界に流されていないだろうかと・・・もう80歳になろうとしている人間に言うことでもないが、ちょっと頭によぎるものがあるのだ。

 

Fozzn84xsae7176  ウォーターズにおいては、むしろ偏屈とも言われる一貫している思想として、父親の戦死のトラウマと人生経験から流れる「いかなるものであれ、戦争で人が死ぬことは絶対悪」とすることに基ずくものから派生した「社会への批判と要求」は確固としているものがあり、そしてもともとピンク・フロイドというバンド自身が、シド・バレットの脱落後において、創造的才能creative GeniusとかBrain頭脳と言われるロジャー・ウォーターズが果たした役割により最盛期を創り上げてきた。その結果アルバムにはそのような核が存在していた。つまり60-70年代のロック・グループ・メンバーのロック・アルバムやロック・ショーと言うモノは、問題意識や形はいろいろであっても、そうしたものが存在していたのだ。そしてその結果、それが無いとどこか虚しさが感じてしまうところがあるのである。ジョン・レノンの居ないビートルズの寂しさを見てもわかる。やはりそうした根底にあるものの重要性は、特にロックにおいては、時代によって質の変化は当然しつつも、演ずる音楽を倍増するエネルギーとして大きく左右してきたし、これからもするであろう事は間違いない処と思う。

 今、かってのピンク・フロイドの三人が、それぞれの道で三人三様に活躍しているのを見ると、まあ、人間は多くの経験と歩んできた社会や人間関係によってそれぞれが個性ある人生を築いている訳で、今この三人でピンク・フロイドを再結成ということを期待しても、それにはあまりにも非現実的であると思うが、強力なプロデューサーによって、ただそのバチバチした対立と共存で各々の優れたところを凝集出来、アルバムが作られるなんて事があったとしたら、それはそれ恐ろしいロック・アルバムが作られるのではないかと、こうしたライブ・アルバムを見るにつけ、とんでもない幻想(?)を抱いてしまうというのは、シド・バレット時代からピンク・フロイドを愛してきた人間の哀しき性(さが)であるのだ。

(評価)
□ 曲・演奏      :   88/100
□   画像・録音 : 80/100

(参考視聴)

 *

 

 

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2023年7月23日 (日)

ピンク・フロイドの頭脳・ロジャー・ウォーターズ「新『狂気』」10月公開 Roger Waters 「The Dark Side Of The Moon REDUX」

50有余年、ロックと共に戦ってきた男の心のアルバム

<Progressive Rock>

Roger Waters 「The Dark Side Of The Moon REDUX」

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(この動物(犬)の目の中に、あのジャケのプリズムが光を分散している=クリック拡大してみると解る。にくい演出です)

   ロジャー・ウォーターズがロック界きっての名作『狂気 The Dark Side of The Moon』(1973)のオマージュ作品を温めていたが、その公開に踏み切った。この10月にリリースされる。

Rwrockdownsw  コロナ・パンデミックにてすべてが抑制された中での先ごろの話題のロックダウン・セッションThe Lockdown Sessions』(2022 →)としてリリースされたアルバムに納められた曲を、それぞれの過去の曲からアコースティックな雰囲気への削ぎ落とされた曲として録音した時、アルバム『狂気』のリリース50周年が間近に迫っていた。このアルバムは、オリジナル作品へのオマージュとしてだけでなく、アルバム全体の政治的、感情的なメッセージに再び取り組むためにも、同様のリワークの適切な候補になる可能性があると思いついたのだという。

362115349_807288040768w  ウォーターズはこのところの協力者と話し合いリリースに向けて製作にかかることにしたもの。それは彼が言うように、明らかにかけがえのないオリジナルの代替品でなく、それは79歳の男性が29歳の目に映り描いた世界から50年経た今日のその間を振り返り、ウォーターズのトラウマと言うべき幼少時に戦死した父親との対峙であり、私の詩を引用するために、「私たちは最善を尽くし、彼の信頼を保ちました、私たちの父は私たちを誇りに思っていたでしょう」と言う世界である。

 こうした作品のリリースにはD.ギルモアは例のごとく反対したが(もう彼の独占欲はいいかげんにしてほしい)、ピンク・フロイドのスタート時からのメンバーのニック・メイスンは、むしろ当時からの制作目的、心情を知っているがゆえに、その内容に大きな評価をして、ウォーターズ主導であった『狂気』(曲は10曲中8曲にウォーターズがクレジットされており、歌詞は全て彼の当時の心情で書かれている)の半世紀の経った現在の世界をオーバータブして描いたアルバムのリリースに賛同した。このことはリリースに大きな力になったのだ。

 そしてこの10月CD、LP、ストリーム等でリリースされるが、ここに来て現在その中の曲"Money"のみが公開された。(↓)


 これを聴いてみて、やはりこのところウォーターズのライブ『This is not a Drill』(下左)や、彼の国連での発言(下中央)、又ドイツの反ユダヤ主義としての反発事件とそれに対抗しての歓迎キャンペーン(下右)など、相変わらず彼の歩むところ、問題が起きてはいるが、これこそ彼の歩んできた道であり、そのようなミュージシャンとしては異色の行動からの反発に対してもめげずに戦っている80歳を迎える男の生きざまには圧倒される。

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 ロック界においては、いろいろな老け方があるが、レナード・コーエンのような"老紳士の味わい"を前面に出しての世界も素晴らしいが、ウォーターズのように今も「Resist CAPITALISM」、「Resist WAR」、「Resist FASCISM」を掲げて戦い抜いている姿も、これ又人それぞれの道であり、評価に値するところだ。
 10月のニュー・アルバムの内容におそらく彼の80歳男の心情が見えてくると思われるが、これは過去の名作『狂気』とは全く別の観点で描くところのモノであって、ニック・メイスンも共感した時代を見つめてきたロック活動家の姿をここに味わいたいと思うのである。

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2023年6月23日 (金)

ロジャー・ウォーターズ 2023欧州ライブ プロショット映像版 Roger Waters 「THIS IS NOT A DRILL - LIVE FROM PRAGUE 2023」

デストピアを描き、反戦・原爆廃止・人権擁護を訴える"フェアウェル・コンサート"

<Progressive Rock>

Roger Waters 「THIS IS NOT A DRILL - LIVE FROM PRAGUE 2023」
Complete Live Broadcast HD BluRay Edition
Live at O2 Arena, Prague, Czechia, 25th May 2023

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NTSC Full HD 1920 x 1080p Linear PCM Stereo + Dolby 5.1 Surround Total Duration 171min.

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Roger Waters – Vocals, Guitar, Bass
Gus Seyffert – Bass, Synth, Vocals
Joey Waronker – Drums
Dave Kilminster – Guitar
Jonathan Wilson – Guitar and Vocals
Jon Carin – Synth, Vocals, Guitar
Shanay Johnson – Vocals
Amanda Belair – Vocals
Robert Walter – Keyboards
Seamus Blake - Sax

 2022の北米ツアーでスタートしたピンク・フロイドの頭脳と言われるロジャー・ウォーターズの「THIS IS NOT A DRILL」が今年の欧州ツアーが追加され、既に各地を回っているが、この5月チェコ・プラハでの公演がプロショット映像でLinear PCM Stereo + Dolby5.1SurroundのBlue-Ray版が手に入る。
 これは全世界の劇場に生配信されたプラハ公演(上左)で、フルHDのプロショット映像の為圧巻である。
 このツアーは、間もなく80歳になろうとしている彼の「farewell Live 別れのライブ(第1章?)」ということもあってか各地で盛り上がっている。相変わらず斬新な方法論を示すライブ会場、ステージは会場の中央に設置され、その上には全方向からみれるスクリーン、そして例のごとく豚が宙を舞い、その上に今回は羊も会場の頭上を旋回する。

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 このライブは相変わらずの彼の政治思想の色づけが見られる為、ドイツでは騒動が起きた。まずドイツ・フランクフルトで「反ユダヤ主義」の疑いで公演がキャンセルされた。これは彼のイスラエル批判に端を発しているが、世界各地で長年にわたって行ってきた「人権を擁護する活動の一環」であって、エリック・クラプトン等の擁護する署名活動の展開があったり、ウォーターズ自身も「ロジャー・ウォーターズを非難している当局者はイスラエルの違法で不当な政策を批判する行為と反ユダヤ主義を混同するという危険な動きに加わっていることになる」と批判し、訴訟を起こし勝訴している。

Wall1w  更に行われた「ベルリン公演」が物議を醸している。そのことに関してはウォーターズは自分を「黙らせたい」ための「中傷」だとして声明を発表している。彼はベルリン公演でナチスを彷彿とさせる衣装が登場したことから警察の捜査を受けていることが明らかになっている。ベルリン公演ではロジャー・ウォーターズが第二次世界大戦を連想させるような服を着ていた上にホロコーストの犠牲者であるアンネ・フランクの名前もスクリーンに映し出されたことから物議を醸すこととなったのだ。しかし、彼のピンク・フロイド、そしてソロ活動の一連のアルバムにも見るとおり、彼の一貫した政治思想は個人の尊厳であってまずは、人間尊重の「反戦思想」である。

 ウォーターズは、「いかなるものであれ、戦争で人が死ぬことは絶対悪」であるという立場をとる。そしてそれに加え「弱きモノへの弾圧」に抵抗する。これも彼の父親の戦死の悲劇の事実が大きくのしかかっている。戦争のもたらす悲劇に比べたら「妥協による共存がはるかにマシである」ということ。彼が国連での発言に見るように西側、東側という立場でなく、ベルリンの壁崩壊時のゴルバチョフと約束したNATOの不拡大の約束を守らず、ウクライナを戦争に導くのではなくロシアと妥協させて戦争を防止しなかったバイデン大統領も「戦争犯罪者」であると糾弾する。

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 今回のライブにおいても反戦、イスラエル非難、反人権無視、原爆禁止などがテーマと上がってくるためにあらゆるところで物議を醸している。しかし、今回明白になったのは、ロジャー・ウォーターズを擁護するエリック・クラプトン、トム・モレロ(レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン)、ニック・メイスン(ピンク・フロイド)ら多くの一連のミュージシャンによる、フランクフルト公演中止決定を覆すことを求める署名活動も行われ、「ミュージシャンの社会的主張」の存在意義が焦点になったが、法廷での否定は行われなかった。これは結果としてウォーターズ側が勝訴したことになっている。

 そんな話題の多い欧州ツアーは現在も進行中であるが、ピンク・フロイドの黄金時代を象徴するクリエイティブなロジャー・ウォーターズが、一夜限りで、プラハにおけるライブを"初のフェアウェル・ツアー「This Is Not A Drill」"としとて世界中の映画館で一斉に披露した。そしてこのBlu-Ray映像版はそれが原点と思われる。いずれにしても圧巻のサラウンド・サウンドの効果も大きく見ごたえ十分だ。

(Tracklist)
01. Intro 02. Comfortably Numb 03. The Happiest Days of Our Lives 04. Another Brick in the Wall (Part 2) 05. Another Brick in the Wall (Part 3) 06. The Powers That Be 07. The Bravery Of Being Out of Range 08. The Bar 09. Have a Cigar 10. Wish You Were Here 11. Shine On You Crazy Diamond (Parts VI-IX) 12. Sheep 13. Intermission 14. In the Flesh 15. Run Like Hell 16. Stop 17. Déjà Vu 18. Is This the Life We Really Want? 19. Money 20. Us and Them 21. Any Colour You Like 22. Brain Damage 23. Eclipse 24. Two Suns in the Sunset 25. The Bar (Reprise) 26. Outside the Wall N

 いずれにしても彼は反戦を主体とした政治思想をライブで展開することは彼の信条であり、面白いことに、このライブの冒頭に「ピンク・フロイドを愛すが、ロジャー・ウォーターズの政治思想が嫌なら、会場を出てバーにでも行って飲んでいてほしい」とアナウンスしている。

Images_20230716123201    しかし公演前半のスタートM2."Comfortably Numb"のニューバージョンの素晴らしさは、ギター・レスの仕上げでギルモアへのあてつけとともに社会不安を描き、今回のツアー仲間の女性歌手Shanay Johnson(→)のソロの歌声の響き、それは印象的で会場をうならせたのである。
 又M10. Wish You Were Here, M11. Shine On You Crazy Diamond (Parts VI-IX) でのピンク・フロイド結成当時とシド・バレットの思い出には彼の心情が歌い上げられる。今回のアルバム「アニマルズ」からはM12."Sheep"が取り上げられ弱き大衆の反乱を描く。

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 やはり後半に入ると「デストピアDystopia」に焦点は当てられ、発達した機械文明の、否定的・反人間的な側面が描き出され、典型例は反自由的な社会であり、隠れた独裁や横暴な官僚システムなどを批判し訴える。これを描く世界はM18. Is This the Life We Really Want? , M19. Money, M20. Us and Them で頂点に至る。そして最後には、M24. Two Suns in the Sunsetでは原爆の恐ろしさを描いて幕を閉じる。

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 ウォーターズの人生においては、彼のトラウマは「人生一度も話が出来なかった戦死した父親」であって、しかも祖父も同様であったことからの全て「反戦」が基調となって発展している。もう80歳になろうとしている今回の彼の「Farewell Concert」においても一貫してその線は崩れていないし訴え続けている。又"The Bar"の新曲も披露している。

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         (ツアー・メンバー)

 相変わらず、ウォーターズ・ツアー・メンバー(上)のDave Kilminster (Guitar)、Jonathan Wilson (Guitar and Vocals)そしてJon Carin (Synth, Vocals, Guitar)の演奏技術の高さはお見事と言いたい。見ごたえのあるライブだ。

(評価)
□ 曲・演奏・舞台装置 90/100
□ 録音・映像     90/100
(視聴)

*

 

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2022年12月12日 (月)

ロジャー・ウォータース Roger Waters 「The Lockdown Sessions」

コロナ禍にてミュージシャンがリモート集合しての演奏で録音
  (新アルバム・・ストリーミング・サービス・リリース)

<Progressive Rock>

Roger Waters 「The Lockdown Sessions」
Legacy Recordings / 2022

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ROGER WATERS : Vocals,  Guitar,  Piano
"US+THEM Tour"and"This is Not A Drill Tour"Members
Dave Kilminster (g)、Jon Carin (key, g)、Jonathan Wilson (g, vo)、Joey Waronker (d)、Gus Seyffert (b, g)、Robert Walter (org)、Ian Richie (ts)、Bo Koster (Ham)、Lucius(Jess Wolfe, Holly Laessic - vo)、Shanay Johnson (vo)、Amanda Belair (vo)

2022 The copyright in this sound recording is owned by Roger Waters Music Overseas Limited, under exclusive licence to Legacy Recordings, a division of Sony Music Entertainment

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 ピンク・フロイドの"The Creative Genius(創造的才能)"を自負するロジャー・ウォーターズが、ここにストリーミング・サービスにて新アルバムをリリースした。
 このコロナ禍で予定した「This is Not A Drill」ツアーが延期を繰り返していて、ようやく今年北米で実現したところだが(反響が大きく2023年欧州ツアーが追加された)、このロックダウン中2020年から2021年に、彼がツアー・メンバーと連絡を取りつつ、自宅からリモートでつないで新アレンジにて演奏し歌いあった曲がYouTubeで公開していたのであるが、それをここにアルバムとしてリリースした。そして先日紹介した今回の「This is Not A Drill」ツアーのオープニングで公開した曲"Comfartably Numb 2022"のニューバージョンを追加している。
 これは身近にはe-onkyoでは、Hi-Res 音質(flac 48kHz/24bit)でダウンロード出来る為、手に入れたものだ。

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(Tracklist)

1 Mother
2 Two Suns In the Sunset
3 Vera
4 The Gunner's Dream
5 The Bravery of Being Out of Range
6 Comfortably Numb 2022

 ロジャー・ウォーターズはこのようにコメントしている。
 " 僕たちの『US+THEMツアー』は3年に渡って終わった…どのギグでも、ショウの本編を"コンフォタブリー・ナム"で締めくくった後でアンコールをやった。アンコール曲にはいつも"マザー"だ。ツアーの終盤に僕はこう思うようになった、“アンコールを全曲集めたら興味深いアルバムができそうだな”.....そしたらロックダウンになってしまった!、“アンコール”プロジェクトはもう諦めるしかないかと思った時もあったけど…とにかく、この作品集ができた。この最後には"コンフォタブリー・ナム2022"を付け加えた。この愛の輪を締めくくる感嘆符の適切な置き所だと思ってね"

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 もうじき80歳になろうとする彼が精力的な活動をしている。ロックダウン中もツアー・メンバーと連絡を取り合い、リモートによって集まって、それぞれが自分の居場所にて曲を演奏していたのだが、YouTubeでの公開が意外に好評で、ウォーターズはアコーステック・ギターを中心に、時にはピアノも演じてしっとりと歌った曲群だ。

 M1.,  M3., M6.はアルバム「THE WALL」(1979)から、アルバム「THE FINAL CUT」(1983)からはM2., M4.、彼のソロ・アルバム「AMUSED TO DEATH」(1992)から M5.と、相変わらず戦争、社会不安に焦点があり反核を訴える曲が多い。(ウクライナ戦争に関しては、ウクライナ・ゼレンスキー大統領夫人及びプーチン大統領本人に公開書簡を送って話題になった)

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 今回のツアーにおける演奏曲も締めくくりに、問題曲M2." Two Suns In the Sunset"が取り上げられており、彼が一貫して訴えてきた反戦、そして反核の思想はぶれていない。ここでは、夕陽に映える2つの太陽、"風防ガラスが溶けるとともに、僕の涙も蒸発してゆく、後には炭しか残らない・・・灰とダイヤモンド、敵と友人 結局僕らはみな同じなのだ"と、歌い上げ40年間訴え続けている。
 それと関係して余談であるが、私は今回この曲を聴くに付け、彼の大々的ツアー・ライブでは披露していないピンク・フロイドとは別物であるが、映画サウンド・トラック・アルバム「WHEN THE WIND BLOOWS 風が吹くとき」(1986)にある彼の作曲し当時の彼のTHE BLEEDING HEART BANDと演奏した"THE RUSSIAN MISSILE"から"FOLDED FLAGS"までの10曲の中から、歌詞にも意味のある"TOWERS OF FAITH"そして"FOLDED FLAGS"などを、どこかで演奏してほしいと思っているのだが・・・。

 ここでは、M1."Mother"は意味の違う曲だが、これは人気曲で単純にライブのアンコールで彼がソロでよく歌う曲であって、今回も最も早期に披露した。

 いずれにしても、こうして老体にむち打って歌唱の力は落ちたとは言え、訴えを中心に演奏活動も頑張っている彼の姿を見るにつけ、このアルバムにも喝采をしたいと思うのである。

(評価)
□ 曲・演奏  88/100
□ 録音    90/100

(視聴)
"Two suns in the sunset"

*

 

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2022年11月25日 (金)

ロジャー・ウォーターズ Roger Waters 「Comfortably Numb 2022」

ウォーターズの意地の回答
「Comfortably Numb」ニュー・バージョンの登場
暗さと不安と不吉を描く感動の曲に・・・・

<progressive Rock>

Roger Waters 「Comfortably Numb 2022」

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 ロジャー・ウォーターズRoger Waters(1943年生まれ、79歳)は、1979年のピンク・フロイド時代のアルバム『ザ・ウォールTHE WALL』(1979)中の人気曲「Comfortably Numb」の新しいバージョンをリリースした。タイトルは2022年のものとして「Comfortably Numb 2022」となり、アップデートは、オリジナルよりもかなり暗く、描くところ不安と不吉なムードが漂っている。
 これは目下の彼の"別れのショー"としての北米ツアー「This Is Not a Drill」(人気の為、2023年には引き続きヨーロッパでのツアーが3月17日からポルトガルのリスボンで始まり、続いて14か国で40回のショーが追加企画されいている)のオープニングの為に書かれた曲で、話題になっているもの。それをシングルとしてリリースした。(YouTubeにて公開中 ↓)

 「コロナ禍で予定されたツアーが中止となり(今年ようやく2年越しにスタートした)、そのパンデミック下に新しいショーのオープニングとして「Comfortably Numb」の新しいバージョンのデモを作成しました」とR.ウォーターズはニューリリースに関し述べ、「イ短調で、暗くするために一歩下がって、ソロなしでアレンジしました。アウトロのコードシーケンスを除いて、私たちの新しい歌手の1人であるシャネイ・ジョンソンShanay Johnsonによる話題になるほど美しい女性ボーカルソロがあります」と付け加えている。
 成程、彼らしい曲の展開で、現在の世界情勢が破滅に向かう事に対しての警告となっている。

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  ライブ・メンバーの10人のミュージシャンが「Comfortably Numb 2022」の作成に貢献し、ストリングス、パーカッション、ベース、ギターなどを提供し、ウォーターズ自身はトラックを共同プロデュースし、ボーカルも担当した(↑)。

Credits:
Produced by Roger Waters and Gus Seyffert
Roger Waters – Vocals
Gus Seyffert – Bass, Synth, Percussion, Vocals
Joey Waronker – Drums
Dave Kilminster – Vocals
Jonathan Wilson – Harmonium, Synth, Guitar and Vocals
Jon Carin – Synth, Vocals
Shanay Johnson – Vocals
Amanda Belair – Vocals
Robert Walter – Organ/Piano
Nigel Godrich – Strings, amp and backing vocals from Roger Waters ‘The Wall’ Sessions.
Video produced and directed by Sean Evans.

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 もともと1979年のアルバム『The Wall』は、ピンク・フロイドものといっても、中身はロジャー・ウォーターズの自伝にもとづいて彼主導で作成されもので、ロック・オペラとも言えるところもあっての人気アルバムだが、その中の人気曲「Another Brick In The Wall 」は当時、子供の教育問題を歌い上げ、しかも子供のコーラス入りという事で、ご本家英国では発売禁止にもなった話題アルバムだ。
 そしてその中の「Comfortably Numb」(作詞:Roger Waters, 作曲David Gilmour,Roger Waters)は、ピンク・フロイドの有名な曲の1つである。その歌詞は、肝炎に苦しんでいた時のR.ウォーターズがステージに上がる前に精神安定剤を注射された1977年の事件に触発されている。「それは私の人生で最長の2時間でした」と彼は後にローリングストーンに語った。「腕を上げることがほとんどできないときにショーをやろうとしている」といった状況だったようだ。

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 さて、このニュー・バージョンの注目点は、もともとこの曲の人気はR.ウォータースの語り利かすようなヴォーカルと不安なベース音、そしてD.ギルモアの現実の世界から離れる感覚へ誘うギター・ソロが大きな因子であった。そしてR.ウォーターズがピンク・フロイドから離れたあと、多くのファンの期待から「ライブ8」に際して一時的再結成した際の最後のメンバー4人によるショーの締めくくりにも演じられた貴重な曲でもある。
 しかし、その後のファンの期待があってもピンク・フロイドの再結成の夢も実現せず、R.ウォーターズからは彼自身のライブにてD.ギルモアを呼んで、この曲を演じさせたりなどしたが、D.ギルモア側のピンク・フロイド名義の企業的独占欲が強く、もう40年という経過を経ても再結成は実現できないで来た。
  しかもなんとここに来て、ピンク・フロイド再起の一つのターニング・ポイントとなった1977年のアルバム『ANIMALS』のリマスター版の発売に関して、英国ミュージック・ジャーナ・リストのマーク・ブレイクMark Blake(ピンク・フロイド研究に実績と評価がある)の書いたライナー・ノーツ(どうしてもR.ウォーターズの功績が浮き彫りになってしまう)をD.ギルモアが拒否して発売もままならない状況になるという不祥事が起きるなどして、R.ウォーターズは諸々に不信感を持ちそれが極限に達してしまった。

 そんな時に書かれたこの「Comfortable Numb 2022」は、R.ウォーターズの人気曲を使っての"無言の回答"である。人気のあったD.ギルモアのギター・パーツをすぱっと削除して、R.ウォーターズの得意の社会の不安、人間の不安を描ききった。しかもそこには全く異なったメロディーで美しい女性ヴォーカルを聴かせ、今回のツアーにおける冒頭の曲として登場させ、多くの喝采を得たのである。そして曲に対する多くの要望で、なんとここにシングル・リリースとなった。
 ここにて彼は完全にD.ギルモアを切ったのである。そしてそれが彼の「Farewell Tour」として演じられているのだ。

(評価)
□ 編曲・演奏 : 90/100
□   録音           : 87/100  

(LIVE視聴)

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2022年9月20日 (火)

ピンク・フロイド Pink Floyd  「Animals 2018 Remix」

「ライナー・ノーツ騒動」経てようやく発売・・・・
5.1サラウンド・ミックス、ステレオ・ミックスHi-Res盤 など各種

<Progressive Rock>

Pink Floyd  「Animals 2018 Remix」
①Sony Music Japan / JPN /SICP-6480
②e-onkyo /Hi-Res flac  192kHz/24bit
③Blue-ray audio : 5.1 surround

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(BLUE-RAY AUDIO)
2018 Remix - Stereo: 24-bit/192kHz Uncompressed, dts-HD MA
2018 Remix - 5.1 Surround: 24-bit/96kHz Uncompressed, dts-HD MA
1977 Original Stereo: 24-bit/192kHz Uncompressed, dts-HD MA

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(Tracklist)

1.Pigs on the Wing 翼を持った豚(Part One)
2.Dogs 犬
3.Pigs 豚(Three Different Ones)
4.Sheep 羊
5.Pigs on the Wing 翼を持った豚(Part Two)

F78645b2368a27911afd2d24cw   ピンク・フロイドの第4期スタートとなったロジャー・ウォーターズ主導で制作された1977年発売のコンセプトアルバム『Animals』の2018年リミックス盤が、なんだかんだとすったもんだしてようやくリリースされた。ジェームス・ガスリーによってオリジナルマスターテープからのリミックスだが、特に最近「Pink Floyd権」を持つD.ギルモアとその一派(敢えて一派というのは、まさしくロジャー・ウォーターズがいみじくも歌ったアルバム『炎』の曲"Welcome To The Machinようこそマシーンへ"で批判した音楽産業の営利独占主義そのものになってしまっているギルモアの女房で実業家のpolly samson主導のアメリカ流商業主義の組織である)のマーク・ブレイクMark Blake(英国ミュージック・ジャーナリスト)がこのリミックス盤の為に書いたライナー・ノーツを拒否するというみっともない独占欲の抵抗で、遅れに遅れてここに日の目を見た。・・・これに関しては既に詳しくここ記したところである(参照:"2021.7.4「Pink floyd 「Animals」(5.1Surround)」リリースか")

  これも話題になったロジャー・ウォーターズの発想でバターシー発電所に豚が飛ぶ象徴的なアートワークも、ヒプノシスの元メンバーでもあったアートデザイナー、オーブリー・パウエルによって元画(↓参照)を生かして一新、上のように現代風に衣替え(初めて見たときは、これは現代調で良いと思ったが、比較してみると1977年のオリジナル・デザインの方が、やっぱりいいですね)。ここに 発売45周年、またバンドのデビュー55周年を迎えた2022年ついにピンク・フロイドの歴史的問題作が一新リリースとなったのである。

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 この『Animals』は、人間の世界を動物に置き換えながら社会問題を痛烈に批判したコンセプトのプログレッシブ・ヘビー・ロック・アルバム。
 又この1970年代半ばは、英国において特に社会不安高まった時代だった。ロック界はプログレッシブ・ロックの波が最高潮を迎え、その結果形骸化、AOR化という流れは否定できず、それに反応してのパンクの波の襲来は、イエス、キング・クリムゾンなどの巨星をも撃沈し、当然恐竜と化したピンクロフロイドにも向かった。確かにピンク・フロイドもアルバム『炎』の内向き傾向から方向性を失いつつあった中で、この刺激こそ眠っていたロジャー・ウォーターズの眼を覚ましたのである。そして彼は自身の目論見の為にはアルバム制作にマイナスの者の締め出しも行った。これはこのバンドの頂点への一歩であったと同時に、ある意味悲劇の始まりでもある。

 とにかくこの英国社会不安は、当時労働組合と労働党政府の間での断絶、ストライキの発生、経済不安は頂点に達し、スポーツでもサッカーは衝突の場となり、街にも暴力が増えパンクとスキンヘッドの連中により扇動された不安社会が動き、一方右翼の台頭は人種問題にまで発展していた。こんな時にウォーターズの世界観が動かないはずはない。そしてピンク・フロイドは宇宙的浮遊的快いサウンドから、ウォーターズは新しいサウンドの試みを展開し、ウォーターズの歌詞にも誘導され、ギルモアもそのキター・ワークはヘビーな展開を見せたのだ。ただ一人リック・ライトの色は消え、彼の協力も薄くなりクレジットから消えてしまっている。
 このフロイドの新時代が・・・彼らの歴史の中でも最高潮の4期の開幕となったのである。

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 こんな事態背景の中でのロック界、ピンク・フロイドは消滅に向かうだろうという見方がなされ、代わりにセックス・ピストルズのようなバンドに方向は向いていた。しかしこのアルバムの登場は、ミュージック評論家はこぞってネガティブ反応とフロイド・ミュージックの変化に批判を集中させたが、しかし事態はそれに反して、ピンク・フロイド熱は更に上昇し、各地でのライブは異常な熱気の中で成功をおさめ、パンクからの支持まで生まれ、ロック市場では圧倒的支持を得たのである。更にバンドには当時ウォーターズの要請でスノーウィ・ホワイトがサポート・ギタリストとして加わってツイン・ギターのスタイルでこれも好評だった。

 このアルバムの中身は長編"Dogs犬", "Pigs豚(Three differrent ones)" 、"sheep羊"3曲と、ウォーターズのソロ"Pigs on The Wing翼を持った豚 part1,part2"によって成り立っているが、一曲はウォーターズとギルモアの共作だが、その他は全てウォーターズの曲、そして作詞は全てウォーターズであり、"支配階級"(豚の社会構造連鎖の頂点に金と権力で太る存在)、"権力者"(ビジネスのボスたる犬)、"従順な羊"を描き社会の三構造に痛烈な批判をする(しかし、よく聴いてみると一般に言われるようなそんな単純でないところにウォーターズの意図は隠されている。社会の疎外と残酷さが暗くのしかかってくるし、羊の犬に対しての逆襲をも示唆している)、なんと冒頭と最後の曲"翼を持った豚"は、対照的に非常に優しい歌でウォーターズのロマンスの相手キャロライン・クリスティーに捧げているという芸達者だ。

 こうしてロック・ミュージックは、その時代の社会に根差したものとしての市民権の獲得に根拠を回復し、ピンク・フロイドはウォ-ターズ主導の社会派転換によって更に基盤は確実なものに築き上げられた。続く『The Wall』、『Final Cut』と他の追従を許さない世界の構築がなされるのだ。しかしこれが又ピンク・フロイドにとっての一つの悲劇ともなった。

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 今回は、当然私はリミックス盤として、「BLUE-RAY AUDIO」盤を手に入れたが、ここには「2018REMIX」の①5.1Surround 24bit/96kHz と、②Stereo 24bit/192KHz が収録されている。又e-onkyoからHi-Res192kHz/24bitもダウン・ロードして聴いているが、しかし今回のREMIXは、宣伝にあるほどの大きな変化はない。従って5.1Surroundがお勧めである。しかしこのSurroundも昔のもののような著名な音の分離はなく、比較的前面に音を集めていて聴きやすく作られている。そんな訳で、面白さという点では少々期待を裏切っていた。
 目下80歳を目の前にしているウォーターズは北米ツアー「This is not a Drill」を展開して、相変わらず社会問題としての訴えを続けている。そしてそこには今回はこのアルバムからの"Sheep"を演じているのだ。彼は過去のどのツアーにおいてもこの『Animals』からは必ず一曲は演じ、特に"Bigs"によるトランプ前米国大統領批判はインパクトを残している。

(評価)
Remix効果  :   80/100
Surround効果 :  70/100

(参考試聴)

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2022年8月 6日 (土)

ピンク・フロイド Pink Floyd 「HEY HEY RISE UP」

ウクライナ支援のために・・・・

<Progressive Rock>

(CD Single) Pink Floyd 「HEY HEY RISE UP」
Sony Music Japan international / JPN / SICP6479 / 2022

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Pink Floyd (David Gilmour, Nick Mason, G.Pratt, N.Sawhney)
Andriy Khlyvnyuk (Boombox)

(Tracklist)
01. Hey Hey Rise Up
02. A Great Day for Freedom 2022

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 ピンク・フロイドが、ウクライナの人々を支援するための新曲「HEY HEY RISE UP」が限定CDシングルで発売。収益はウクライナ人道支援募金へ寄付されるとのことだ。7インチは日本のみClear Vinyl仕様となっているらしい。

Subbuzz159816477w   事の始まりは、ピンク・フロイドのデイヴィッド・ギルモアは、息子のチャーリーと結婚しているウクライナ人アーティストのヤニナ・ペダンから、2015年に知ったウクライナの歌手アンドリー・クリヴニュクAndriy Khlyvnyuk(ウクライナのロック・グループBoomboxのメンバー →)のインスタグラムの投稿を見せられ、ロシア・ウクライナ戦争でウクライナを支援する何かを録音するよう促された。そこで彼はニック・メイソンに連絡を取り活動を提案したことによるようだ。
 ピンク・フロイドはもうここ数年間活動しておらず、ギルモア自身もはバンドが再結成しないと何度か言っていた。しかし、この戦争に対して身内の中からも訴えが出てきたことから、腰を上げたようだ(再結成と行っても相変わらずロジャー・ウォータースとの関係はない)。このインスタグラムの投稿内容は、A.クリヴニュクのウクラエル軍に所属してのウクライナ国歌をキエフのソフィア広場で、聖ソフィア大聖堂の鐘楼を背景にして歌うパフォーマンスを動画で撮影したものだった。

 今回のこのCDシングルには、一曲の新曲M1. "Hey Hey Rise Up"が収録されている。そしてこの曲にはA.クリヴニュクのインスタグラムの投稿から、キーウのソフィア広場で歌う彼の声を使用。彼の歌う「ああ、草原の赤きガマズミよ(英題:Oh, The Red Viburnum In The Meadow)」が使われている。従って彼とD.ギルモアらは一緒に録音していない。この曲は第1次世界大戦中に書かれたもので、ウクライナの抗議のフォーク・ソングであって、同国がロシアから侵攻されてからウクライナの人々を鼓舞すべく世界各地で歌われてきたもの。そしてピンク・フロイドのこの曲のタイトルは、この曲の歌詞「さあ、立ち上がろう、勝利の喜びを(HEY HEY RISE UP and rejoice)」からきているものである。
  この曲のアートは、キューバ人芸術家のヨサン・レオン(Yosan Leon)の描いたウクライナの国花ヒマワリの絵が使われている。

  ニック・メイスンは立場上、呼ばれただけで曲の作成にどんな役割をしているかは全く不明だが、A.クリヴニュクの如何にもウクライナらしい国の曲が高らかに歌い上げられ、それを支えるべくギルモアの泣きのギターが入るパターンだ。悪くない。
 D.ギルモアとA.クリヴニュクの関係というと、2015年のロンドンで行われたベラルーシ人民の支援コンサートで一緒になるはずが実らなかった事件がそもそもスタートらしい。

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 もともと今回のCDシングル・リリースの件は、D.ギルモアの身内にたまたまウクライナ人がいて、ウクライナ支援という戦争に対しての反応のようであるが、不思議に思うのは、かって彼はピンク・フロイドの「創造的才能」と言われるR.ウォーターズの反戦運動、そして戦争に導かれる社会的・政治的問題、それらに対するコンセプト・アルバム作成には、D.ギルモア自身は"ミュージック至上主義"で、そのような曲作りや演奏にはリック・ライトと共に反対してきた経過があるが、今にしてこうした反応は、いかなるものかと疑問が湧いてくる。

000000038566_k63sw ウクライナ支援は決して悪いこととは思わないが、そこにある根本的な民族的、社会的問題に相対してゆかねばどこか形だけのものに見えてきてしまう。R.ウォーターズがアルバム『ANIMALS』から『THE WALL』『THE FINAL CUT』で訴えてきた事、そして彼はバンド内での協力が得られなくなり孤立し脱退することになった。そしてそれ以後のギルモア主導のピンク・フロイドとは何であったのかと、今更にして疑問も残る事ではある。最後のアルバム『The Endless River』で終わっていた方がD.ギルモアらしかったと言えるような気がする。

 又D.ギルモアは「R.ライトが死亡してのピンク・フロイドはあり得ない」と、ピンク・フロイドを終わらせた。しかし、今回このシングルをリリースしたことに関しては、かってのライトのいたころの曲をつけて辻褄(つじつま)を合わせている。そして更に今回発売にようやく至ったアルバム『ANIMALS』リマスター版に対しても、その時代の背景、政策に至る経過のライナー・ノーツをつけるのを反対したりと、R.ウォーターズにしてみれば納得できないことなんだろうとも想像できる。

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 R.ウォーターズは、D.ギルモアは結構お人好しなんだと言い、アルバム『The Final Cut』制作においても彼一人協力してくれたと感謝している。そしてR.ウォーターズの過去の大々的なライブにも顔出し出演を誘ってきた。しかし人間関係はそれを取り巻く人々によってゆがめられて行ってしまう事も多い。今のピンク・フロイド・サイドは商業的営利主義が旺盛で(特にギルモアの作品の歌詞を殆ど書いている出版業界から始まった商業感覚の旺盛な米国人の女房のポリー・サムソンPolly Samsonの影響が大きいようだ)、そんなことで、R.ウォーターズの反発も大きい。そしてその波に乗らざるを得なくなっているD.ギルモアも、被害者なのかもしれない。R.ウォーターズがかって曲"Welcome To The Machine"で訴えた現実がここにもあるようだ。
 
(評価)
□ 曲・演奏  88/100
□ 録音    85/100
(視聴)

 

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2022年7月23日 (土)

ロジャー・ウォータース Roger Waters 大規模ツアー「This Is Not a Drill」開始

ピンク・フロイドのCREATIVE GENIUS(創造的才能)の
面目躍如の世界 
 --  初めての別れのツアーの開始 -- (その1)
           

<Progressive Rock>
Roger Waters :「This Is Not a Drill」- 2022Tour

 ロジャー・ウォーターズがこの7月6日、ペンシルヴェニア州ピッツバーグのPPGペインツ・アリーナで公演を行ない、4年ぶりの北米ツアー「This Is Not a Drill」が幕を開けた。

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 もうじき80歳を迎える彼にとって、おそらく最後の大規模ツアーであろうと見られているが、今年いっぱい北米中心に行われる。そんなことの為か、会場でのスタートに当たってのアナウンスが会場スクリーンに映し出されるテキストと共に流れる。いやはや彼独特の皮肉も込められたアナウンスだ。

 If You're one of those " I Love Pink Floyd, but I can't stand Roger's Politics " people, You might do well to fuck off the bar right now.
    (あなたが「ピンク・フロイドは大好きだけど、ロジャーの政治に耐えられない」人の一人なら、今すぐバーにファックオフするのが良いかもしれません)

 これには、冒頭からファンも度肝を抜かれつつ熱狂的な拍手とロジャーの期待道理のブーイングすらも寄せられた。彼のメッセージが大々的なショーでの歓声となんと嘲笑でも満たされるのは一つのマジックでもあり、又ロジャーの総決算的心の開示でもある。こんなところがロジャーにしかないロックの歴史に残してきた世界でもあり、又それが彼に対しての狂信的なファンを生んで来た所以である。

 こうして彼の総決算とも言える異色のステージがオープンする。
 それを物語るのが、冒頭の曲"Comfortly Numb"だが、これがなんと驚きの新編曲での展開だった。そこには、より暗く深く沈み込むアレンジによりバックスクリーンに描かれるは、荒廃した都市景観が描かれ、その風景を通り抜ける無表情・無感覚な人々の地上の崩壊の黙示録的な情景。こんな叙事詩的であり非常に暗示的な世界を描きつつスタートするのだ。そしてなんとこの曲の有名なギターソロを放棄し、非常に深遠にして重厚感ある音空間を広げるのだ。普通なら圧倒的なバンド演奏で迫ってのライブ・スタートとなるのだが、今回は見事に裏切り、深遠な響きと視覚と聴覚の霧のような霞んだ世界を作り出すことによって、それは群衆を一つの奥深い世界に誘い、神経を集中させる手法をとった。

 

 いままでの、ツアーに見られた彼の意識や信条、社会批判、反戦の世界を描くものとしての位置づけは更に濃密になっている。その上に最近繰り広げられた1977年のアルバム『ANIMALSアニマルズ』のデラックス・リイッシューに関して起きたロジャーとデヴィッド・ギルモアとの騒動、ここに書かれた貴重なアニマルズ誕生の秘話のマーク・ブレイクMark Blakeのライナーノーツにギルモアが反発したことを知ってのロジャーの不信感の爆発、その結果の一つがこのギルモアのギター・ソロを無視した曲の編曲がなされた一つの所以でもある。そして一方、曲というのは造りようによっては、どんな変化をもたらすか、そこに訴えるものは何か、そしてもたらす効果は何なのかをここに示したのである。1977年が2022年に通ずるというこのあたりがトリックの得意なロジャーのなせる業だ。

 ピンク・フロイドがアルバム『THE DARK SIDE OF THE MOON 狂気』『WISH YOU WERE HERE 炎』で、プログレッシブ・ロックの頂点に立ったときに、これらをAORとして否定する社会派ロック運動の一つであったパンク・ムーブントへの回答として、ロジャーが作り出したアルバム『ANIMALS』の世界観であったことの暴露は、あまりにもロジャーの偉業が大きすぎるために、ピンク・フロイドを名乗っているにも関わらず、影に隠れてしまうことを嫌ったギルモアの抵抗でもあった。この事のあまりの馬鹿馬鹿しさにロジャーおよびニック・メイスンはこのライナー・ノーツの掲載に関してはやむを得ないものとして折れて載せることを止めることを認めたわけだが、そんな「歴史的社会現象の中から生まれてくるロック・ミュージックの流れ」を現代の若者に伝えたいという作業は、「単なるミュージック」として捉えるギルモアの思惑で消えることになった。ロジャーにしてみれば、ロックのロックたる所以は音楽であると同時に訴えであることが重要と考えているためだ。これがこの9月リリース予定のリイッシュー・リマスター・アルバム『ANIMALS』騒動であった。

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 今回のライブでも、アルバム『ANIMALS』から曲"Sheep"を登場させている。前回の「US+THEM Tour」では曲"Big"、"Dog"を登場させ、トランプ批判を展開したが、今回もこのアルバムでの社会批判はロジャーにとっては後期ピンク・フロイド・ミュージックの魂でもあることによっている。これがあのアルバム『THE WALL』にもつながるのであるから。このあたりが、彼が"Creative Genius of Pink Floyd"(ピンク・フロイドの創造的才能)と言われる所以でもある。

 (参考)この「アニマルズ」の誕生の背景には、英国の産業競争、経済混乱、北アイルランド問題、人種問題・暴動などの時代があり、アルバム・コンセプトがロジャーにより造られ(1曲のみ共作で、残る4曲はロジャーによるもので、すべての歌詞もロジャー作だ)、「羊」が経済的優位に立つ専制的な「豚」とインテリに代表される権威主義的な「犬」に仕えるという動物を擬人化しての"悪循環に陥った人類・社会の描写とその問題と批判"に集中したものである。

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■Roger Waters, PPG Paints Arena, Pittsburgh, PA, July 6, 2022, Setlist
-Set 1-
1. Comfortably Numb
2. The Happiest Days of Our Lives
3. Another Brick in the Wall, Part 2
4. Another Brick in the Wall, Part 3
5. The Powers That Be
6. The Bravery of Being Out of Range
7. The Bar
8. Have a Cigar
9. Wish You Were Here
10. Shine On You Crazy Diamond(Parts VI-IX)
11. Sheep
-Set 2-
12. In the Flesh
13. Run Like Hell
14. Déjà Vu
15. Is This the Life We Really Want?
16. Money
17. Us and Them
18. Any Colour You Like
19. Brain Damage
20. Eclipse
21. Two Suns in the Sunset
22. The Bar(Reprise)
23. Outside the Wall

 今回は、ピンク・フロイド曲は当然だが、ロジャーのソロ・アルバムから5曲登場し、更に新曲"The Bar"が演じられている。バンド・メンバーは若干の変動はあるがギタリストのジョナサン・ウィルソンとデイヴ・キルミンスター、ギタリスト/ベーシストのガス・セイファート、キーボーディスト/ギタリストのジョン・キャリンあたりは常連で変わっていない。又このところ時々見られるロジャーのピアノの演奏が初めてツアー・ライブに登場した。

(Band members)
Roger Waters (b, g, piano, vo)
Dave Kilminster (g)
Jon Carin (key, g)
Jonathan Wilson (g, vo)
Joey Waronker (d)
Gus Seyffert (b, g)
Robert Walter (org)
Amanda Belair (vo)
Shanay Johnson (vo)
Seamus Blake (ts)

Remasteranimalsw  ちょうどこのツアーと期を一にして、2018年ジェームズ・ガスリーによるピンク・フロイド・アルバム『ANIMALS』の新しいミックスが完成し、当アルバム史上初の5.1サラウンド・サウンド・ミックスも登場する。パンデミック下であったことと、ロジャー・ウォーターズとデヴィッド・ギルモアの絶え間ない口論の間で(問題のライナー・ノーツを書いたピンク・フロイド研究で評価の高いマーク・ブレイクにしてみれば、内容の真実に対してのギルモアの拒否行動にはあきれると同時に空しかったようだ)、実際に発売までには時間がかかったが、ついにこの9月16日にさまざまなエディションで発売されることとなった。これも考えてみると奇遇である。

 今回のこのツアーは、ロジャーの"初めての別れのツアー"と言われている。彼が、祖父そして父親の戦死よりの孤独な幼少期から始まっての社会への疑惑、国家的教育の不信、世界の紛争、戦争、貧困、人種問題などなど社会に疑問の人生から生まれたロック・ミュージックに生きて、ここに80歳を迎えようとして、今なお訴えるロック魂を失われずいるのが不思議なくらいだが、ここに別れのツアーを開始したのだ。

(試聴)

 

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