山本剛 TSUYOSHI YAMAMOTO TRIO 「 REQUESTS - Tsuyoshi Yamamoto Trio LIVE」
リスナーのリクエスト選曲と往年のタッグでのスタジオライブ録音で
<Jazz>
TSUYOSHI YAMAMOTO 「REQUESTS - Tsuyoshi Yamamoto Trio LIVE」
Meet Yoshihiko Kannari
SOMETHIN'COOL / JPN / SCOL-1076
Tsuyosi Yamamoto山本 剛 (Piano)
Hiroshi Kagawa香川 裕史 (Bass)
Toshio Osumi大隅 寿男 (Drums)
Recording Studio : ONKIO HAUS 1st
Recording & Mixing Engineer : Yoshihiko Kannari 神成芳彦
ピアニスト山本剛(右上)に関して、ある意味での復帰と言っていい2021年のアルバム『Misty For Direct Cutting』(SCOL1056)以来、ピアノ・トリオの演奏だけでなく、CDやLPの音質とにもオーディオ的に注目度が再燃している。最近のハイレゾ・ブームや、現在暗礁に乗り上げた形になってしまっているCDにおけるMQA方式の出現などの刺激によって、良い音で音楽を楽しもうという一つのブームでもある。
そんな中で、想い起すと1970代のあの強烈なジャズ界の刺激でもあったTBM(スリー・ブラインド・マイス)レーベルを、誰もが思い出すことになった。特に山本剛トリオのアルバム『Midnight Sugar』、『Misty』にはジャズ・ファンの誰もが自己のオーディオ装置やオーディオ喫茶で、鮮烈な演奏とリアルな音に虜になったのであった。それが50年近くが経過して、曲"Misty"の作曲者のエロール・ガーナー生誕100周年を記念して山本剛トリオによる音質を追求した『Misty for Direct Cuttimg』がリリースされ、日本のジャズ・ファンも大いに刺激を受け、好評であったのであった。
そしてなんと、話はエスカレートして当時のTBMレーベルの名レコーディング・エンジニアの神成芳彦(↓上左)の登場の話が進み、ここに2022年ピアニスト山本剛(↓上右)とエンジニア神成芳彦の再会が実現したのであった。それが『BLUES FOR K』(SCOL1052)であり、ベース香川裕史(↓下右)、ドラム大隅寿男(↓下左)とのトリオでの録音が実現した。昔を知るファンにとっては何につけてもジャズとオーディオの感動の再現ということで大いに注目し、セールスと評価は好調で、続いて『SWEET FOR K』(SCOL1071, 2024)を発表し海外でも快調な展開があった。
そんな経過の中で、この企画は更に進行して今年2025年には、「伝説のTBMタッグ企画 第3弾」としてこの 山本剛トリオによる『 TSUYOSHI YAMAMOTO / REQUESTS - Tsuyoshi Yamamoto Trio LIVE 』の登場となったのである。これはリスナーのリクエストによる選曲 と スタジオライブ録音という企画が実現して"ベスト・オブ・ベストアルバム"が完成したわけだ。
なお参考までに、このトリオは、2023年にevosoundからホールの臨場感を狙っての高音質録音による充実演奏盤として"Misty","Speak Low", "Midnight Suger"等の他、人気スタンダードを演奏したアルバム『A SHADE OF BLUE』(EVSA2536M)をリリースしている。
これはかつてTBMレーベル作品や前作『SWEET FOR K』もレコーディングされた東京・音響ハウスにて、なんと観客を入れてのスタジオライブレコーディングを行ったもの。神成マジックと言われるスタジオ録音を企画して、山本剛の得意とするライブ演奏を実現させた。曲は事前に公募されたリクエスト曲から選曲されるという音楽ファンの夢を実現しようと試みられた作品だ。
(Tracklist)
1 Alice in Wonderland
2 Fools Rush In
3 Milestones
4 Charade
5 Doxy
6 The Way We Were 追憶
7 For Once in My Life
8 Gentle Blues
9 Jealous Guy
10 Misty
11 The Third Man Theme 第三の男
12 All the Things You Are
13 MC 〜 Blues
14 Danny Boy
このところ、新録音で3枚のアルバムが登場しているので、このアルバムは演奏は目新しいという処は無いが、Marvin HamlishのM6."The Way We Were 追憶"の美しさを感ずる再演が聴かれたり、人気レパートリーのErroll GarnerのM10"Misty"等はもちろん、M1."Alice in Wonderland" , M3."Milestones", M4."Charade", M11."The Third Man Theme 第三の男", M12."All the Things You Are"、等、やはりリクエストならではの選曲で我々の聴きなれた曲の登場で究極のベスト盤となっている。最後がM14."Danny Boy"で締めているが、それらしいこの会のお別れムードを盛り上げている。
この録音はスタジオにオーディエンス(約20名)も入れてのライブのスタイルをとったのであるが、曲間に拍手が録音されている。如何にもライブですよと言っているようで、これがちょっととって付けたような拍手で、むしろ気分を害す。それがいやにクリアに拍手が録音されていて、ちょっと作為的な感じもしないではない。これは敢えて入れなかった方が良かったのではないかと思う。
又このCDはSACD盤である。高音質をうたったCD-MQA盤が座礁している為、このところSACDによるハイレゾ盤が主力になっている。ちょっと価格が上がっているのが難点。カナダのLenbrook Media GroupでMQA方式がグレード・アップさせようとしているようでどうなるだろうか。ここで取り上げたアルバム『Misty For Direct Cutting』は、MQA盤で私はかって購入したがSACDよりは安価であったのが良いところ。
神成芳彦の作品としての特徴のピアノの輪郭のスッキリとしたやや硬めの音は、ちょっとあの昔の名録音盤を思い出させるところがある。ドラムスはシンバルやハイハットからの音はクリアに響き、ベースもしっかり聴けて心地よい。録音にはピアノは単一志向性の4011を含む3本のマイクを使っていて、又ベースはピアノの鍵盤へのタッチの見える位置で見ながら演奏するということでピアノの後ろに位置して2本のマイク、そしてドラムスはなんと9本のマイクを使い、全体像も捉えるのか合計16本使っていたという(↓右の図)。こうして高音質を目指してゆく事も私にとっては快感である。
今回のこのようなアルバムのリリースは、私のように70年代を懐かしむ人間にとっては嬉しい企画であったと言っておく。
(参考) <TSUYOSHI YAMAMOTO / 山本剛> (ネットより)
1948年3月23日、新潟県佐渡郡相川町に生まれる(今年77歳喜寿だ)。すぐに佐渡島より新潟に移り、小学生の頃からピアノを弾き始める。高校生時代、アート・ブレーキーとジャズ・メッセンジャーズの生演奏の虜となりジャズ・ピアノを独学で習得する。1967年、日本大学在学中、19才でプロ入り。ミッキー・カーティスのグループを振り出しに英国~欧州各国を楽遊。1974年、レコード・デビュー(「ミッドナイト・シュガー」TBM)。スケールの大きなブルース・フィーリングとスイングするピアノがファンの注目を集め、続く「ミスティ」(TBM)が大ヒット、以後レコード各社より数多くのリーダー・アルバム、共演アルバムを発表、人気ピアニストの地位を確立する。1977年、アメリカ、サンフランシスコ、モンテレー・ジャズ・フェスティヴァル出演。1979年、スイス、モントルー・ジャズ・フェスティヴァル出演。大好評を得、その後渡米、1年間ニューヨークで音楽活動を行う。帰国後は、六本木のライヴ・ハウス"ミスティー"でハウス・ピアニストとして活動を再開。 笠井紀美子、安田南等ヴォーカリスト達と共演する一方、ディジー・ガレスピー、カーメン・マックレイ、サム・ジョーンズ、ビリー・ヒギンズ、エルビン・ジョーンズ、ソニー・スティット、スティーヴ・ガッド、エディー・ゴメスetc. 多数の本場ミュージシャンと共演。その間、英国のバタシー・パーク・ジャズ・フェスティヴァル、ニューヨーク独立記念日ジャズ・フェスティヴァル、コンコード・ジャズ・フェスティヴァル等に出演。TV番組「リュウズ・バー(村上龍構成、出演)」の音楽を担当するなど各方面で活躍。
(評価)
□ 演奏 88/100
□ 録音 88/100
(試聴)
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