ケイティ・メルア Simon Goff Katie Melua「AERIAL OBJECTS」
ケイティ・メルアの変身は続く・・そして生まれたものは ?
<Rock, Pops, Indie>
Simon Goff Katie Melua「AERIAL OBJECTS」
BMB/ADA / Germ / 538807842 / 2022
Simon Goff (producer) : Violin, Electronics, Keyboads etc.
Katie Melua : Vocals
ジョージア(旧グルジア)で生まれでイギリスに移住し活動するシンガー・ソングライター、ケイティ・メルア(下左)は、日本でも、その透明感溢れる癒しのヴォーカルでファンの心を惹きつけてきた彼女だが、私も結構お気に入りで何年も多くのアルバムにお付き合いしている。今回はイギリス出身(今はベルリンを拠点に活躍する)作曲家・ヴァイオリニスト&マルチ・インストゥルメンタリスト・プロデューサーのサイモン・ゴフ(下右)と全く異色の新たなコラボレーション・アルバムをリリースした。
ケイティKatie Meluaは、Popsと言ってもややジャズっぽさがあり、"Closest Thing To Crazy"や"Nine Million Bicycles"などヒット曲を放ってもう20年のキャリア、「トップ10」入りのアルバム・リリースも8枚を数える。先日亡くなられた英国女王エリザベスにも気に入られていた。しかし英国で2008年のアデルAdele旋風によるJazzyなPops界の大変動によって、彼女も撃沈され、その後は四苦八苦でEva Cassidyの世界に迫ったり、グルジアのドラッドにまで至って芸術性は高めたが(アルバム『IN WINTER』(2017))、大きなヒットには恵まれなかった。
そしてここに来て2021年にリリースされた最新アルバム『Album No. 8』は原点回帰でようやく多くの賞賛を受けたところだった。
サイモン・ゴフSimon Goffは、上記のようにヴァイオリン奏者、作曲家、グラミー賞を受賞した(映画『ジョーカー』やドラマ『チェルノブイリ』の音楽)サウンド・エンジニア(タイプはエレトニック、クラシック、ポスト・ロック)である。彼とケイティ・メルアは、まったく異なる音楽の世界で生きてきているのだが、しかし二人は約1年前、ケイティのアルバム『Album No.8』の制作時に出会い、その後実験的なソングライティング・セッションを一緒に行っていたようだが、伝統的な音楽の流れと構成に一つの世界が見えてきて、このアルバムの制作へと向かったという事らしい。
(Tracklist)
1 Tbilisi Airport 4:42
Written By – Zurab Melua
Written-By, Violin, Electronics, Keyboards, Bass – Simon Goff
Written-By, Vocals – Katie Melua
2 It Happened 4:57
Written-By, Violin, Electronics, Keyboards – Simon Goff
Written-By, Vocals – Katie Melua
3 Hotel Stamba 5:16
Cello – Dobrawa Czocher
Drums – Tobias Humble
Guitar – Lynn Wright
Written-By – Zurab Melua
Written-By, Violin, Electronics, Keyboards, Viola, Synthesizer – Simon Goff
Written-By, Vocals – Katie Melua
4 Textures Of Memories 4:39
Written-By, Violin, Electronics, Keyboards – Simon Goff
Written-By, Vocals – Katie Melua
5 Aerial Objects 5:06
Written-By, Violin, Electronics, Keyboards, Viola – Simon Goff
Written-By, Vocals – Katie Melua
6 Millions Of Things 6:49
Written By – Nicholas Crane
Written-By, Violin, Electronics, Keyboards, Viola – Simon Goff
Written-By, Vocals – Katie Melua
透明感溢れる癒しのヴォーカルでファンの心を惹きつけてきた彼女だが、このアルバムでもその線は全く崩れていない。またサイモン自身によると、今作のサウンドはストリングスにキーボードやシンセ、そしてパーカッションを幾層も重ねて作りあげたとのことだが迫るものがある。
それはなんと、ベルリンのケーニッヒ・ギャラリーで行われた展覧会に参加したことが、このアルバムのテーマの原点で、人工と自然の異なる両方の風景を探り、ケイティの歌の空間とサイモンの一つの世界に導くメロディーの間を、移動を繰り返す実験的な曲構成へと発展させたらしい。そして手法で言うと、ビジュアル・アートでいうミニマリズムの様式も加味しつつ繊細にして浮遊感のある美しい作品の完成を見た。
しかし、そこで感ずるものは、サイモンのヴァイオリンとシンセによって描く世界とケイティの意味深なる美ヴォーカルとその歌詞との兼ね合いにおいて、例えばM3."Hotel Stamba"は、彼女の幼き8年間過ごした場所をオマージュをもって描くのだが、しかしここでは若干無理の生じた場面を感ずるのだ。彼女のヴォーカルがサイモンの描くストリングスとシンセの盛り上がりの中に消えてしまっている。従って歌詞がよく聴きとれない。これはアルバム作成上のミックスにおいてサイモンの演奏の世界を強調しすぎているのだ。勿論、ヴォーカルがバックの演奏の中に溶け込んで消えていった方が良い状況はよくある事だが・・・このような、そうでない場面はちょっと空しい。
M1."Tbilisi Airport"のトリビシ空港はグルジアの首都でケイティの生誕地、瞑想的に流れる曲。
M2."It Happened"は、むしろサイモンの演奏が静かな曲で、ケイティの歌の味が出ている。災害と運命への服従を歌い、それを超えての後半のラ・ラララ・・・ラ・ラララと歌うケイティの美しさが魅力的。
M4."Textures Of Memories "の、ここでも楽器の演奏内容がおとなしい曲で、失望と後悔そして愛のための闘争の残酷さ歌う。しかしその美しさは極上である。
M5."Aerial Objects"の盛り上がりから、締めのM6."Millions Of Things"の安定感と深遠さへの流れも見事。
非常に優れた面白さを感ずる演奏と歌であるが、演奏なのか、歌を聴くのか、歌は演奏の一部とみるか、又はその両者の融合なのかというバランスにおいて私は難を感ずるところが若干あったのが、やや悔やまれるアルバムと感じたのである。
これはアルバム作成上において楽器演奏に重点を置きすぎた結果の作成上のミスとみている。演奏者がプロデューサーということで良く起こる事でもあるが。その点、ジャズに於いてはピアニストそしてアルバム作成エンジニアは非常にバランス感覚が良い。それは日頃の慣れでしょうね。
ケイティの過去の歩みを歌いそして新展開のあった作品としてその音楽的価値を十分感ずるところにあるだけに、そこがちょっと悔やまれるところだった。
(評価)
□ 曲・演奏・歌 : 88/100
□ 録音・ミックス : 80/100
(試聴)
ここでは、良かった曲 "Textures Of Memories " を・・・・
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ちょっと問題の"Hotel Stamba"
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