ロジャー・ウォーターズ

2020年3月18日 (水)

ピンク・フロイドPink Floyd 絶頂の75年ライブ 「LOS ANGELSE 1975 4TH NIGHT」

警察による逮捕者続出のライブの記録
マイク・ミラードによる好録音の出現

 

<Progressive Rock>

Pink Floyd 「PINK FLOYS LOS ANGELSE 1975 4TH NIGHT」
~ MIKE MILLARD ORIGINAL MASTER TAPES
Bootleg / Sigma 242 / 2020

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Live at Los Angeles Memorial Sports Arena, Los Angeles, CA, USA 26th April 1975

Pink Floyd
Venetta Fields : Backing vocals
Dick Parry : Saxophone
Cariena Williams : Backing vocals

  とにかくこの何十年の間にもピンク・フロイドのブートは何百枚と出現している。あのボックス・セット「Early Years 1965-1972」「The Later Years (1987-2019)」のオフィシャル・リリースによって下火になるのかというと全くそうでは無い。むしろ火を付けているのかと思うほどである。それもピンク・フロイドそのものはディブ・ギルモアの手中に握られたまま、全くと言って活動無くむしろ潰されている存在だ。これが本来のロジャー・ウォーターズにまかせれば、今頃米国トランプや英国の低次元の騒ぎなど彼の手によって一蹴されているだろうと思うほどである。相変わらずのファンはこのバンドの世界に夢を託しているのである。

 そんな時になんとあの彼らの絶頂期であった1975年の「FIRST NORTH AMERICAN TOUR」のライブものが、オフィシャルに使われるほどの名録音で知られるマイク・ミラードの手による良好録音ものの完全版が出現をみるに至ったのである。

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  とにかく世界的ベストセラーになったアルバム『狂気』(1973)以来、彼らにとっては全く別の世界の到来となる。金銭的には驚くほどの成果を上げ、それと同時に重圧ものしかかる。又スポンサーとのトラブル、四人の社会に於ける存在の意義にも変化が出る。

810cgm6w   そして1975年1月ようやく次のアルバム『炎』(1975 →)の作業に入る。しかしそこには『狂気』当時の彼らのクリエイティブなエネルギーのグループの姿はなかった。メイスンは個人的な問題から意欲は喪失していた("Shine on you Crazy Diamond","Wish You Were Here "の2曲はロジャー、デイブ、リックの三人、""Welcome to The Machine,"Have a Ciigar"の2曲はロジャーの作品である)。又ロジャー・ウォーターズの葛藤がそのままライブ(この「NORTH AMERICAN TOUR」)にも反映されていた。まさにライブとスタジオ録音が平行して行われメンバーも疲弊していた。更に慣れない4チャンネル録音で、技術陣も失敗の繰り返し。とにかくつまづきの連続で困難を極めたが、そこでロジャーは一つの開き直りで"その時の姿をそのままアルバムに"と言うことで自己納得し、ライブで二十数分の長い"Shine On"(後に"Shine On You Crazy Diamond")を2分割し、間にロジャーが以前から持っていた曲"Have a Cigar"を入れ、当時の音楽産業を批判したロジャー思想の"Welcome to the Machine"を入れ、更にロジャーのシドへの想いと当時の世情の暗雲の環境に対しての"詩"だけは出来ていたその"Wish you were here"は、ロジャーとギルモアが主として曲を付け仕上げた。しかしこの75年がバンド・メンバーの乖離の始まりであり、そんな中でのアルバム作りとなったのであるが・・・。
 そして予定より半年も遅れて9月にこの『炎』のリリースにこぎ着けたのだが、今想うに『狂気』に勝るとも劣らない名作だ。

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 しかしこのような状況であったこも関わらず、当時のピンク・フロイドの人気は圧倒的で、このロスのライブの4夜の4月22,23,24,26日の6万7千枚のチケットは一日で完売、追加の27日公演は数時間で売り切れというすざまじい売り上げであったのだ。
 そしてここに納められているのは26日(土)のライブの姿である。

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Disc 1 (63:33)
1. Mike Test
2. Intro.
3. Raving And Drooling
4. You Gotta Be Crazy
5. Shine On You Crazy Diamond Part 1-5
6. Have A Cigar
7. Shine On You Crazy Diamond Part 6-9 

Disc 2 (56:54)
The Dark Side Of The Moon
1. Speak To Me
7_20200316200101 2. Breathe
3. On The Run
4. Time
5. Breathe(Reprise)
6. The Great Gig In The Sky
7. Money
8. Us And Them
9. Any Colour You Like
10. Brain Damage
11. Eclipse

Disc 3
1. Audience 
2. Echoes

 このはライブは、絶頂期アルバム『狂気』、『炎』、『アニマルズ』の三枚に関係するセットリストの内容であり、又彼ら人気の最高に至る経過を盛り込んでおり、ブート界でもこの録音モノは引っ張りだこなのだ。しかもアンコールでは"ECHOES"も登場するのである。

Hogsinsmog  私がかってから持っていて出来の良いブート・アルバムは『Hog's in Smog '75』(STTP108/109=1975年4月27日追加公演モノ)で、セットリストは同一である。これもかなりの好録音であった(→)。
  
 しかしここに登場したマイク・ミラード録音モノは、更にその上を行く。Audienceとの分離はしっかりとしており、特に音質は高音部の伸びが素晴らしい。そして全体の音に迫力がある。
 当時のピンク・フロイドのライブは、スタジオ・アルバム版との演奏の違いは各所にあって、ギルモアのギターのアドリブも多く、マニアにはたまらない。ヴォーカルはロジャーの詩に込める意識は強くその歌声にも意欲が乗っていて聴きどころがある。そして至る所にやや危なっかしいところがあって、そこがリアルでライブものの楽しみが滲み出てくる。今回のものは既に出まわっていたモノの改良版で、内容が更に充実している。
 とにかく集まった聴衆の行為にも異常があり、爆竹の音もある。とにかく警察による逮捕者の多さでも話題になったライブでもある。

 "Raving And Drooling "は、『アニマルズ』の"sheep"の原曲だが、スタートのベースのごり押しが凄いしギターのメタリックの演奏も特徴的だ。"You Gotta Be Crazy"は"dogs"の原曲でツインギターが響き渡る。 この難物の2曲もかなり完成に至っている。『狂気』全曲も特に"On the run"のアヴァンギャルドな攻めがアルバムを超えている。そして一方この後リリーされたアルバム『炎』の名曲"Shine on you Crazy Diamond"の完成に近づいた姿を聴き取れることが嬉しい。
 又アンコールの"Echoes"にDick Parryのサックスが入っていて面白い。

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 いずれにしても、今にしてこの時代の良好禄音盤が完璧な姿で出現してくるというのは、実はギルモアというかポリー・サムソン支配下の現ピンク・フロイド・プロジェクトが、このロジャー・ウォーターズの葛藤の中からの重要な歴史的作品を産み、そして時代の変化の中でロックの占める位置を進化していった時期を無視している事に対して、大いに意義があると思うのである。そのことはピンク・フロイドの最も重要な『狂気』から『ザ・ウォール』までの四枚のアルバムに触れずに、ここを飛ばしてピンク・フロイド回顧と実績評価のボックス・セット「Early Years 1965-1972」「The Later Years (1987-2019)」を完成させたというナンセンスな実業家サムソンの作為が哀しいのである。

 当時のライブものとしては、この後5月はスタジオ録音に没頭、そして再び6月から「NORTH AMERICAN TOUR」に入って、『HOLES IN THE SKY』(Hamilton,Canada 6/28/75=HIGHLAND HL097/098#PF3 下左 )、『CRAZY DIAMONDS』(7/18,75=TRIANGLE PYCD 059-2  下右)等のブートを聴いたのを懐かしく思う。

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(評価)

□ 演奏・価値 ★★★★★☆   95/100 
□ 録音    ★★★★☆   80/100

(視聴)

 

 

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2019年12月16日 (月)

ロジャー・ウォーターズRoger Waters 「PROJECT K.A.O.S.」検証

「RADIO K.A.O.S.」の完全版スタジオ・アルバム

<Progressive Rock>

Roger Waters 「PROJECT K.A.O.S.」
Reissue, Unofficial Release / Jpn / 2017

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Roger Waters & Bleeding Heart Band
Mixed by Chad Hendrickson

 しかしロック・アルバムといっても、コンセプト・アルバムという世界を構築してきたロジャー・ウォーターズの関係するところでは、今でも本人以上に、ファン仲間ではトータル・アルバムとしての作品への思い入れは大きい。かってピンク・フロイド時代の映画「モア」のサントラ音楽に提供したため崩壊したピンク・フロイドの組曲「ザ・マン」「ザ・ジャーニー」を未だに求めたり、又アルバム『ウマグマ』(1969)に納められている"Careful With Tfat Axe,Eugene"と、映画「砂丘」に登場するピンクク・フロイドの曲"51号の幻想"の関係、そして"若者の鼓動"、"崩れゆく大地"の2曲も含めての世界。更に映画「2001年宇宙の旅」とアルバム『おせっかい』の曲"エコーズ"との関わり合い。更にリイッシューされたアルバム『ファイナル・カット』では、曲"when the tigers broke free"追加され完成させたりと、話は尽きない。

Kaos1  これらはコンセプト・アルバムという世界に起こる不思議な現象で、更に2000年以降もロジャー・ウォーターズのソロ・アルバムにおいてもこれは起きているのである。
 まずは「ザ・ウォール・ライブ・ベルリン」では最後の締めくくりの曲に、アルバム『RADIO K.A.O.S.』(→)の"The Tide Is Turning"が採用され、アルバムどおり演じてきたコンセプト作品「ザ・ウォール」の曲にソビエト崩壊の時代の変化をオーバー・ラップさせ、喝采を得た。

 そしてここで取り上げるは、彼のソロ・アルバム『RADIO K.A.O.S.』である。このアルバム・リリースは1987年、彼のソロとしての腹づもりが固まったときである。バンド名も当時は"Roger Waters &Bleeding Heart Band"として活動した。それはこの前年にリリースされた長編アニメーション映画『風が吹くとき』のサウンド・トラック制作に力を注いだ時からだ。当時彼には世界冷戦下の核戦争の恐怖を中心としたもともと持っていた"反戦思想"に関心は高く、前ソロ作『ヒッチハイクの賛否両論』は内に向けた葛藤であり、それから今度はこのような外に向けたエネルギーの発露でもあった。

Pkaos  しかしこのアルバム『RADIO K.A.O.S.』は、ウォーターズの求めていたコンセプト・ストーリーを表すには実は不十分に終わってしまっていた。当時CD時代の幕開けにそってLPサイズにはこだわらない長編を彼は企画して曲も作っていたが、レコード会社は40分少々のLPサイズにこだわったため、大きく削っての作品となってしまっていたのである。そして一部の曲は先行した映画『風の吹くとき』のサントラに提供していたのである。
 そこで既にリリースされたアルバム『RADIO K.A.O.S.』を本来の姿に完成させようという動きがあって、まずは2000年に『PROJECT K.A.O.S.』が ライブ音源を中心に造られた。(参照 : 「ロジャー・ウォーターズの世界に何を見るか」)
 しかしその後はスタジオ録音版を収集して2017年には完成版『PROJECT K.A.O.S.』(→)が登場し、今にしてブートレグ界では持てあまされている。それがここに取り上げたリイッシュー版の『PROJECT K.A.O.S.』の原型である。
 もともとこのアルバムはウォーターズの反核戦争思想をベースにしての人の交わりを描いたアルバムであるが、彼の"自己を見つめる世界"、"社会をみつめる世界"のどちらかというと後者に当たる。そしてその数曲の追加収録によって、コンセプトが更に明快になってゆくのである。

(Tracklist)

Rw12 1. Get Back To Radio 4:51 *
2. Radio Waves (Extended) 6:57
3. Who Needs Information 5:56
4. Folded Flags 4:27 *
5 .Me Or Him? 5:17
6. The Powers That Be 3:57  
7. Going To Live In LA 5:38 * 
8. The Fish Report With A Beat 1:49 * 
9. Sunset Strip 4:46
10. Molly's Song 3:11*
11. Home 6:00
12. Four Minutes 4:00 13
13. The Tide Is Turning (After Live Aid) 6:16
14. Pipes And Drums 1:30 *
                                        (*印 新規収載)

  このアルバムは上記のように6曲が新規収録されていて、オリジナルが41:24分であったものが、なんと65:03分というストーリーを充実したアルバムになっている。注目はM1."Get Back To Radio"、M7."Going To Live In LA"、M10."Molly's Song"などが上げられるが、ジム・ラッドのセリフの充実や、話の主人公ビリーの新規セリフも入って、コンセプト・ストーリーがかなり解りやすくなっていると言うのだが・・・英語の理解力不足で少々残念。
 
 もともとストーリーとそのコンセプトは・・・
 主人公ビリーは植物人間的な存在、兄の擁護で生活。世界中に流れるラジオ電波(Radio Waves)と交信出来る超能力を持つことに気づく。様々な電波と交信している中で、電波を通じて社会や人間を操ろうとする権力者の存在に気付く。ビリーの抵抗は始まり、革新的試みが感じられるラジオ局「Radio KAOS」に接触。そして、DJのジムと共に世界に向けて平和のメッセージの発信を試みる。第二次大戦中の原爆開発プロジェクト「マンハッタン計画」やレーガン大統領、サッチャー首相ら、当時の政治家を交えながら、核の脅威が描かれる。物語の終盤では、ビリーの超能力は政府のスーパーコンピュータを操作できるほど強力になり、核兵器を制御して世界の混乱を納めることになる。

Rw11  既存のマスメディアの批判を試みつつ、更に「Radio K.A.O.S.」という仮想媒体を通して多くの社会的メッセージを発信しているアルバム。ピンク・フロイド在籍時のラスト・アルバム『ファイナル・カット』(1983年)の続編的存在で、マーガレット・サッチャーやロナルド・レーガンを実名で批判する。また、核兵器廃絶も強く訴えるものだ。ラストのM13. "流れが変わる時〜ライブ・エイドが終わって〜"では、想いもしなかったソ連の崩壊という社会現象から平和的で暖かなメッセージが歌われ一つの収束をするところは一つの救いでもある。

 このアルバムは、当時、"ピンク・フロイドの存続・所有権問題"の中での一つの戦いでもあったウォーターズは、ライブでもエネルギーたっぷりの展開を見せ、音楽的にも従来のフロイド・タイプをただ継承するので無く、むしろ一歩進めたことからも歴史的に興味深いアルバムである。更にそのコンセプトの完全化を期待するファンも多く、このような完全版が造られることは実に興味深い。

  当時の状況の中でのウォーターズのその姿には更に興味深いところがあるため、それぞれの新規収録曲の内容検討しながら、この完成盤の検証をいずれ又もう少し深入りしたい。

(評価)
□ 収録曲・演奏   ★★★★★☆ (完成度を高めた努力を評価) 
□ 録音       ★★★★☆

(参考「Radio K.A.O.S.」の多彩なメンバー)

Roger Waters – vocals, acoustic and electric guitars, bass guitar, keyboards, shakuhachi
Graham Broad – percussion, drums
Mel Collins – saxophones
Nick Glennie-Smith – DX7 and E-mu on "Powers That Be"
Matt Irving – Hammond organ on "Powers That Be"
John Lingwood – drums on "Powers That Be"
Andy Fairweather Low – electric guitars
Suzanne Rhatigan – main background vocals on "Radio Waves", "Me or Him", "Sunset Strip" and "The Tide Is Turning"
Ian Ritchie – piano, keyboards, tenor saxophone, Fairlight programming, drum programming
Jay Stapley – electric guitars
John Thirkell – trumpet
Peter Thoms – trombone
Katie Kissoon, Doreen Chanter, Madeline Bell, Steve Langer & Vicki Brown – background vocals on "Who Needs Information", "Powers That Be" and "Radio Waves"
Clare Torry – vocals on "Home" and "Four Minutes"
Paul Carrack – vocals on "The Powers That Be"
Pontarddulais Male Voice Choir - chorus

(参考視聴)

 

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2019年12月12日 (木)

ロジャー・ウォーターズRoger Waters 「Roger Waters With Eric Clapton / Chicago 1984」

クラプトンのギターが美しく響くウォーターズのライブ
今となれば貴重な記録が・・好録音で

<Progressive Rock>

Roger Waters 「Roger Waters With Eric Clapton / Chicago 1984」
IAC( KING STREET) / JPN / KING2CD4105 / 2019

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(Tour band)

Roger Waters: Lead vocals, Bass guitar, Acoustic guitar
Eric Clapton: Lead guitar 
Tim Renwick: Rhythm guitar, Bass guitar
Michael Kamen: Keyboards
Andy Newmark: Drums
Chris Stainton: Hammond organ, Bass guitar 
Mel Collins: Saxophone
Katie Kissoon: Backing vocals
Doreen Chanter: Backing vocals

 しかし相変わらすロジャー・ウォータースの話題は尽きない。つい先日は世界的に「US+THEM」映画の公開で話題をさらったが、ここに彼がピンク・フロイドから一歩引いてのソロ活動当初に再び関心が高まるのである。まずその一つがこのエリック・クラプトンとのライブ録音の驚愕とも言える素晴らしい音源が出現した。このライブは話題高かったがその記録版は、私も何枚かを所持しているが、どちらかというと見る耐えない何となく解る程度の映像モノ、そしてサウンド版も良好と言ってもかなり聴くに問題の多いモノ。しかし中身はさすがクラプトンのギター世界は素晴らしい、そしてメル・コリンズのサックスも、マイケル・カーメンのキー・ボードもと聴きどころは多かったのだ。
 とにかくギルモアとは全くの趣違いのクラプトンのギターと、ピンク・フロイド時代のウォーターズの手による曲をとにかくアグレッシブに編曲したところの楽しさだ。当時は最も脂ののったウォーターズのこと、エネルギーに満ち満ちたプレイが凄い。

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 ピンク・フロイドの熱気最高潮の「アニマルズ・ツアー」、莫大な資金をかけた「ザ・ウォール」ツアー。しかしその後の、1983年にリリースする12thアルバム『ファイナル・カット』以後、ピンク・フロイド は内部亀裂によりコンサート・ツアーを行わず、バンドは活動休止する。そんな中で、 ロジャー・ウォーターズは1984年にソロ・アルバム『ヒッチハイクの賛否両論(原題:The Pros And Cons Of Hitch Hiking)』(右下)をリリースした。これは彼が『ザ・ウォール』時代に既に出来上がっていたものだが、ピンク・フロイド・メンバーに受け入れられず、アルバム・リリース出来なかったモノだが、ギタリストにエリック・ クラプトンを起用して、彼の心の内面にある不安の世界を描いた作品として、クラプトンのギターの美しさと共に注目された。そしてエリック・クラプトンと共にメル・コリンズをも帯同して大規模なライヴ・パフォーマンスを披露する。同年6月16日の スウェーデンのストックホルムからスタートし、ヨーロッパ~北米で19公演を行う。その中で最終公演 となる7月26日のイリノイ州シカゴでのコンサートは地元のロック専門FMラジオWXRT-FMのスペシャル番組として収録・放送されたのであった。このアルバムはそれが音源となっているためサウンドはオフィシャル級で、30年以上経ってのこのオフィシャル・ブートレグの出現は驚愕を持って受け入れられているのだ。

(このライブの評価)
□ ロジャー・ウォーターズの世界に何をみるか
http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2007/01/post_aff8.html

 

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(Disc 1)
01 太陽讃歌
02 マネー
03 もしも
04 ようこそマシーンへ
05 葉巻はいかが
06 あなたがここにいてほしい
07 翼を持った豚
08 イン・ザ・フレッシュ?
09 ノーバディ・ホーム
10 ヘイ・ユー
11 ザ・ガンナーズ・ドリーム
1db4d8e94f124bfc95703bd4e71b9ffa (Disc 2)
01 4:30 AM トラベリング・アブロード
02 4:33 AM ランニング・シューズ
03 4:37 AM ナイフを持ったアラブ人と西ドイツの空
04 4:39 AM 初めての出来事 パート2
05 4:41 AM セックス革命
06 4:47 AM 愛の香り
07 4:50 AM フィッシング
08 4:56 AM 初めての出来事 パート1
09 4:58 AM さすらう事そして生きる事をやめる
10 5:01 AM心のヒッチハイキング
11 5:06 AM ストレンジャーの瞳
12 5:11 AM 透明なひととき
(Encore)
13 狂人は心に
14 狂気日食

 セット・リストは第1部、第2部、そしてアンコールを含めて全25曲で、このアルバムは上のように完全収録している。このコンサートの特筆すべき点はウォーターズがピンク・フロイドから一歩離れてのロックらしい世界に原点回帰している事と、やはり エリック・クラプトンの参加である。自己の世界を持つクラプトンが、自らの楽曲は一切演奏せず、ピンク・フロイドとロジャー・ウォーターズの楽曲を一人のリード・ギタリストとして デヴィッド・ギルモアとは全く異なる世界で完璧なギター・ソロを披露している。特に前半のピンク・フロイド曲の変化が面白い、これは当時のウォーターズのフロイド・メンバーへの不満が攻撃性となり、一方クラプトンが時々見せるギター・ソロ・パーフォーマンスは、完全に彼ら自身の世界に突入し、かっての曲がむしろ異色に変化して新鮮に蘇ってくる。これはウォーターズとクラプトンのプライドの成せる技であったのかも知れない。このあたりは当時単にピンク・フロイドの再現を期待したファンには不満があったと言われているが、何度聴いてもその変化はブルージーなロックに変化していて面白い。又こうも演者によってギターの音色も変わるのかと圧倒される。

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  後半のアルバム『ヒッチハイクの賛否両論』の再現は、クラプトンの美しいギターによって描かれるところが聴きどころであり、相変わらずのウォーターズの造る美しいメロディーと"美・静"の後に来る"彼の絶叫"と"爆音"に迫られるところは圧巻である。そして"セックス革命"のテンションの高いギターと"愛の香り"、"ストレンジャーの瞳"の美しさにほれぼれとするのである。

Image2  商業的問題から僅か19公演で終了したこのツアーであったが、この二人を筆頭に豪華メンバーでの パフォーマンスを収録したこのライヴ・アルバムはファンにとってまさに驚きで迎えられる作品である (圧巻のライブ・バック・スクリーン映像→) 。
 そして輸入盤を国内仕様としてここにオフィシャル盤以上にかなり丁寧な解説付きでリリースされているところは評価したい。久々にロジャー・ウォーターズのアグレッシブな編曲演奏に触れることが出来、又あのピンク・フロイドの転換期を体感できるところが貴重である。

(評価)
□ 曲編成・演奏 ★★★★★☆
□ 録音       ★★★★☆

 

(視聴)

 

 

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2019年9月30日 (月)

ロジャー・ウォーターズRoger Waters 「US+THEM」Film 公開

「US+THEM Tour」の記録を映画として制作し公開する

音楽と人権、自由、愛のメッセージにインスピレーションを与える創造的な先駆的な映画・・・と言うが

 

<Rock>   映画 「Roger Waters US+THEM」
                               by Bean Evans and Roger Waters

Usthemmoview  ロジャー・ウォーターズの2017-2018年の世界的ツアーであった(残念ながら日本にはこなかった)「US+THEM」ツアーの模様を納めた映画の公開を、世界的にこの10月2日と6日に行う。
 ライブものとしては今までに無い画期的な内容と言われているが、その中身は不明、彼のことだから何か新しい試みをしているのだろうことは容易に想像が付く。

 その前の歴史的大規模だった3年に及んだ「The Wall 」ツアーの記録は、彼の戦場で失って会えることが無かった父親を戦争批判をこめて回顧した映画として作り上げたが、果たして今回は ?・・・・。

   おそらくこの作品も「映像もの」として一般にリリースしてくれるだろうと期待しているのだが。

 一方、彼は大がかりなツアーは、この「US+THEM」で終わりにすると言っていたが・・・、ここに来て別企画の北アメリカ、メキシコにてのライブ・ツアーを2020年に行うこともほのめかしているようだ。彼の集大成をしたいのか、入場料は無料でやりたいと言っているらしい。
 "アンチ・トランプ"、"パレスチナ情勢"などに問題意識を持って訴えた「US+THEM」であったが、今度は何を企画しているか・・・このあたりも、彼のエネルギーが続く限りは問題意識の中から何かを展開してゆくのであろう。楽しみと言えば楽しみである。

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(参考視聴)


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2019年6月 3日 (月)

ロジャー・ウォーターズRoger Watersの「US+THEM」記録盤

「US+THEM TOUR」 の英国ハイド・パークの記録

<Progressive Rock> 

PINK FLOYD'S ROGER WATERS 「 US+THEM」
HYDE PARK LONDON  FRIDAY 6 JULY 2018
COLUMBIA/LEGACY / EU /4607147953443 37852 / 2019

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 既に、ここで何回か取り上げたピンク・フロイドの頭脳ロジャー・ウォーターズの「US+THEM Tour」ライブの記録されたCD2枚組盤。これはキング・クリムゾンのロバート・フリップがよく行ってきたオフィシャル・ブートレグというタイプの代物である。(COLUMBIA/Legacy 、Roger Waters.com、SONY MUSIC の名がクレジットされている)
Roger1  従って、ロジャー・ウォーターズも当然関わっているものと思うが、なるほど期待以上の高音質録音盤である。とにかくこのツアーものは、数え切れないほどの映像版も含めて巷には溢れている中で、それならばと、取り敢えずオーディエンス録音には近いが、音質はライブものとしてはトップ・クラスに値するものを出してくれた訳です。今年中には映像版とともに正規版がリリースされるという話がある中での思わぬ出現に驚いたといったところ。

  2016年、トランプ批判を展開したアルバム「アニマルズ」の曲"Pigs(three different ones)"が圧倒的支持を得たことに端を発して、彼の久々のニュー・アルバム「is this the life we really want ?」も丁度リリースされた時でもあり、その紹介曲も含めての人気のアルバム「狂気」「炎」「アニマルズ」「ザ・ウォール」からの選曲で構成して、特にピンク・フロイドと言っても殆ど彼のワンマン・バンドと化したアルバム「アニマルズ」からの"Dogs","Pigs"には充実した演奏を展開した。特に"Pigs"は、"TRUMP IS PIG"と大々的に打ち上げ、そして人間の根源に迫る"Us and Them"を演奏して世界情勢の不安定を訴えた。

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 いずれにしても再び大規模な世界ツアーへと発展したこの「US+THEM Tour」。2017年北米・オセアニア・ツアーから2018年の欧州、南米のほゞまる2年間の世界規模ツアーと拡大して、その2018年7月6日のブリティッシュ・ハイド・パーク・フェスにてのパフォーマンスをここに収録されたものだ。残念ながら日本には上陸しなかったが、このツアーの大規模さは群を抜いている。そしてすでに私自身も多くの映像ブートレグでも見てきたものである。しかしこれはおそらく放送用音源として録音されたものではないかと推測される良質もの。とにかくSEはもちろん効果音もしっかりとクリアに記録されていて十二分に楽しめる。

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 メンバーは10名編成バンドで、重要なギターはお馴染みのデイブ・キルミンスターに加えて人気のジョナサン・ウィルソンのツイン構成。そしてジョン・カーリンがキー・ボードを中心にマルチなプレイヤーぶりを発揮。また、女性ヴォール陣はLUCIUSの二人、又サックスは長い付き合いになっているイアン・リッチー。2年間通して同じメンバーでやりきった団結力も見事であった。

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 歴史的経過からは、ピンク・フロイドを離れたろロジャー・ウォーターズだがこうして聴いてみると、殆どがなんのことはない彼によって作られた曲群であって何の違和感もなく、むしろ彼によるピンク・フロイドの問題意識をここに再現していることに驚かされる。そしてニュー・アルバム「is this the life we really want? 」の世界情勢の不安定さに問題意識が、なんともう40年以上も前のアルバムがここに生きている彼のピンク・フロイド作品に驚くのである。このライブ演奏の締めくくりは相変わらず"Comfortably Numb"であったが、「狂気」の最後を飾る"Brain Damage", "Eclipse"が、ここまで生き生きとこの時代にマッチするのに驚きを隠しえなかった。

 おそらく、これ程大規模ツアーはウォーターズはもう考えていないだろうから、ロックの時代を作った彼の今となっての75歳の男の努力に敬意を表したい。

(参考視聴)

 

 

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2018年11月 3日 (土)

ロジャー・ウォーターズの世界~ストラヴィンスキー「兵士の物語The Soldier's Tale」

これは彼の生き様からの教訓の物語か?
     ~クラシックに迫るプログレッシブ・ロッカーの道

<Classic>
Roger Waters
IGOR STRAVINSKY'S THE SOLDIER'S TALE (兵士の物語)

Sony Classical / EU / 19075872732 / 2018

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(演奏)
ロジャー・ウォーターズ(語り)
ブリッジハンプトン室内楽音楽祭の音楽家たち

   スティーヴン・ウィリアムソン(クラリネット)   
   ピーター・コルケイ(ファゴット)
   
デイヴィッド・クラウス(トランペット/コルネット)
   デミアン・オースティン(トロンボーン)
   コリン・ジェイコブソン(ヴァイオリン)
   ドナルド・パルマ(コントラバス)
   イアン・デイヴィッド・ローゼンバウム(パーカッション)

Recorded at The Bridgehampton Presbyterian Church, December 11-12,2014

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 ここで先日取りあげた~このロジャー・ウーターズのクラシック・アルバムを聴くに、何故どうして今このストラヴィンスキーなのかと・・・・疑問はなかなか晴れるわけで無いのだが、しかし逆にそれであるから、いろいろと思い巡らしての面白い機会を持てたというところである。
 彼とクラシック・アルバムと言えば、難産の結果生まれた2005年のフランス革命を描いたリアル・オペラ「サ・イラ~希望あれ」がすぐ思い出すところである。そこにはウォーターズの意識というものが必ず存在していた訳で、たまたまこの「兵士の物語Soldier's Tale」の作曲家が、ロシアのストラヴィンスキーIgor Stravinsky(1882-1971)と来れば、まずはある意味での過激性のある問題の意識をどうしても持たざるを得ない。彼は20世紀クラシック界において、そこに大きな変革期を演じたその一人であるからだ。
 そしてしかもその彼の異色作と言われる「兵士の物語」であるからこそ、そこにウォーターズの意志を感ずると同時探りたくもなるのである。

 さてこのクラシック曲は3人のナレーション(語り、兵士、悪魔)と小オーケストラ(7人の器楽奏者)によって演奏される舞台作品で、1918年、第一次世界大戦直後の疲弊した社会環境の下で生み出された作品。ウォーターズの祖父は第一次世界大戦で戦死しており(また父親は第二次世界大戦、イタリア戦線・アンツィオの激戦で戦死)、そのことがこの作品を録音するきっかけになっているとの事とは言え、果たしてそれだけなのかと、単純に捕らえられないウォーターズのこと、一歩掘り下げてみたくなるのである。

79280004429d2dcf_2 そもそもこの「兵士の物語」は、ストラヴィンスキーがロシア革命後の政策下で資産没収により困窮し、その困難を打破するために仕事を展開した。かといって戦争直後の疲弊した状況下では大規模な作品の上演はまずもってあり得ない状況だった。そこで少人数の巡業劇団クラスで上演できるような作品を考えたことにこの曲は生まれることになったらしい。原作を民俗学者・アレクサンドル・アファナーシェフの編纂によるロシア民話集に求め、スイスの小説家・ラミュに脚本の執筆を依頼し、ストラヴィンスキーが曲を構成したと言う経過。

 [そしてその内容]は、ロシア民話の実は教訓をその実とした物語で、兵士ジョゼフが休暇をとってかって幸せであった故郷の母の下に婚約者に会いに行く。そこに悪魔が表れ彼の背にあったヴァイオリン(心)とお金やなんでも手に入るという本の交換をしてしまう。金持ちになった兵士は故郷に帰るも、たった3日間というのが騙され3年の経過があり、婚約者は結婚し夫と子供も居る。故郷では彼を相手にしない。彼は怒りヴァイオリンを悪魔から取り返し、その音色で王室の娘の病気を治して結婚し幸せになる。そこで兵士は昔の故郷の幸せも懐かしくなり結婚した姫と二人で、国境を越え故郷に向かうも又悪魔の仕業により、越えた瞬間に再び悪魔のヴァイオリンにより破綻する。

 (コラール)
   今持っているものに、昔持っていたものを足し合そうとしてはいけない
   今の自分と昔の自分、両方持つ権利は無いのだ
   全て持つ事は出来ない
   禁じられている
   選ぶことを学べ

   一つ幸せなことがあればぜんぶ幸せ
   二つの幸せはなかったのと同じ

You must not seek to add
To what you have, what you once had;
You have no right to share
What you are with what you were.

No one can have it all,
That is forbidden.
You must learn to choose between.

One happy thing is every happy thing:
Two, is as if they had never been.
 

673576878 さて、このような人間の生き方を教訓として歌いあげるこの「兵士の物語」は、ウォーターズの手による改変が成されているようだが、そこまで私は深めていない(私の手にあるアルバムは輸入盤で、当然ナレーションの英語の内容は記されているが、私にとって十分に訳せるものではない。日本盤には和訳があるのだろうか)。

 いずれにせよ、語り手、兵士、悪魔の3人をウォーターズが一人でナレーションしているその業には真迫感が有りお見事で脱帽だ。彼にはいまやそうした世界にも深める事を試み、そしてこの曲の教訓までも訴えているところが恐ろしい。
 目下の「US+THEM Tour」の延長による延長の成功も、今や彼はピンク・フロイドの頭脳として作ってきた時代評価の強者として、更に昇華して存在している。ここにはAnti-Warとしての共通点は見いだされるが・・・・。

 しかし、彼のロッカーとしての人生は、才能と努力によってその道による成功をもたらし財産家となってはいるが、少年期の父不在の不幸、戦争のもたらした人間的不幸を反省しきれない世情の不信感、これは一向に晴らすことは出来ないでいる。そして果たして家族的幸せも獲得できているのだろうか、それは度重なる離婚劇は彼にとって何なのか、ここにはこの「兵士の物語」を彼が熱演する何かがありやしないだろうか。

 The Soldier's Tale is a Modern Fairytale and at the sametime an Anti-War piece

 このアルバムの録音は2014年。その時のメンバーによって翌2015年にブリッジハンプトン室内音楽祭(ニューヨーク州)で実演にもかけられている。 採算性は全く考えられないこうしたアルバムをリリースするウォーターズの生き様は益々目を離せない。

「THE SOLDIER'S TALE」
Part 1:
1. “The Soldiers March”
2. “Slogging Homeword”
3. “Airs by a Stream”
4. “As You Can Hear…”
5. “The Soldiers March (Reprise)”
6. “Eventually, Joseph Reaches his Home Village…”
7. “Pastorale”
8. “The Soldier, Disconsolate…”
9. “Pastorale (Reprise)”
10. “The Soldier, Slowly Coming Back to Himself…”
11. “Airs by a Stream (Reprise) - To Stretch Out on the Grass…”
12. “Hey Satan, You Bastard…”
13. “Airs by a Stream (2nd Reprise)”
14. “Now to be Gained Here…”
Part 2:
15. “The Soldiers March (2nd Reprise) - Down a Hot and Dusty Track…”
16. “He Doesn't Even Know Himself…”
17. “The Soldiers March (3rd Reprise) - Will he Take the Road to Home…”
18. “He doesn't have a Home Anymore…”
19. “The Royal March”
20. “So all was Arranged…”
21. “Later that Night…”
22. “The Little Concert - Light Floods the Eastern Sky…”
23. “The Soldier, with a Confident Air…”
24. “Three Dances - Tango, Pt. 1”
25. “Three Dances - Tango, Pt. 2”
26. “Three Dances - Waltz & Ragtime”
27. “So First a Tango…”
28. “The Devil's Dance”
29. “The Devil, Confused…”
30. “The Little Chorale”
31. “The Devil Recovers Some of his Wits”
32. “The Devil's Song - All Right! You'll be Safe at Home…”
33. “Hm, a Fair Warning…”
34. “Grand Chorale (Part 1)”
35. “Spring, Summer, Autumn…”
36. “Grand Chorale (Part 2)”
37. “Steady Now…”
38. “Grand Chorale (Part 3)”
39. “Steady, Just Smell the Flowers…”
40. “Grand Chorale (Part 4)”
41. “Now I have Everything…”
42. “Grand Chorale (Part 5)”
43. “The Princess, all Excited…”
44. “Grand Chorale (Part 6)”
45. “And so, Off They Go…”
46. “Triumphal March of the Devil”

(視聴)

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2018年9月18日 (火)

ロジャー・ウォーターズRoger Watersストラヴィンスキーに挑戦「The Soldier's Tale 兵士の物語- Narrated By Roger Waters」

ピンク・フロイドの頭脳が遂にストラヴィンスキーの世界に

 驚きのニュース!!、目下2年にわたる「US+THEM」ツアー中のあの元ピンク・フロイドの"The Creative Genius of Pink Floyd~ピンク・フロイドの創造的鬼才"と言われるロジャー・ウォーターズが、ロシアの異色作曲家ストラヴィンスキーの作品『The Soldier's Tale 兵士の物語』(1918年発表)を題材に、器楽演奏のナレーションを独自の構想で行うというクラシック・アルバムの発売ニュースがアナウンスされている。

<Classic>
Roger Waters
「The Soldier's Tale 兵士の物語- Narrated By Roger Waters」

Sony Classical / 19075872732 / 2018

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<演奏>
ロジャー・ウォーターズ(語り)
ブリッジハンプトン室内楽音楽祭の音楽家
 スティーヴン・ウィリアムソン(クラリネット)
 ピーター・コルケイ(ファゴット)
 デイヴィッド・クラウス(トランペット/コルネット)
 デミアン・オースティン(トロンボーン)
 コリン・ジェイコブソン(ヴァイオリン)
 ドナルド・パルマ(コントラバス)
 イアン・デイヴィッド・ローゼンバウム(パーカッション)

<録音>
2014年12月11日 12日 Bridgehampton Presbyterian Church

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 ストラヴィンスキー(イーゴリ・フョードウィッチ・ストラヴィンスキー1882-1971)と言えば「火の鳥」「春の祭典」などは聴いたことがあるが、この「兵士の物語」は全く知らない。第一次世界大戦の社会的・人間的疲弊の中での作品と言われ、考えて見るとロジャー・ウォーターズの祖父は第一次世界大戦で戦死、また父親は第二次世界大戦でイタリアのアンツィオの激戦で戦死している。従って父親とのコンタクトなく少年時代を過ごした彼には、常にこのトラウマが人生を左右してきた。彼のピンク・フロイド時代の作品に於いても後期(特にアルバム「狂気」以降、「THE WALL」、「THE FINAL CUT」には切々と訴えてくる)にはこの事実のトラウマとの闘いでもあった。とすれば彼の才能からすれば、このクラシック作品に挑戦するというのは、極めて自然な話なのかも知れない。

 中身は”読まれ、演じられ、踊られる”作品と紹介されるこの「兵士の物語」は、3人のナレーション(語り手、兵士、悪魔)と7人の器楽奏者によって演奏される舞台作品だそうだ。原作はフランス語だが、その英語版をもとにウォーターズ自身が改作。本来3人で演じられるものを声色やアクセントの変化をつけることで、ロジャーひとりで語りを担当したニュー・ヴァージョンと言う事だ。
 ロジャーのこうした挑戦は、ピンク・フロイド作品から全くのブレもなく一貫している。彼の戦争という社会悪にあらゆる側面から訴え続ける道には一つも陰りが無い。
 彼のフランス革命を題材にしたクラシック・オペラ作品『サ・イラ』(2005年) 以来のソニークラシカルからの作品近々リリースだ。

 取り敢えず早く聴いてみたい一枚である。

(参考視聴)

① Stravinsky "The Soldier's Tale "

*
② Roger Waters "The Fletcher Memorial Home"(from 「the final cut」)

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2017年11月23日 (木)

現代ピンク・フロイドPink Floyd論 = 番外編-その1-

PINK FLOYD

「お祭り騒ぎ」と「総決起集会」 ~ デビュー50周年の話題

 

 ロックの歴史の中で日本人は最も”プログレッシブ・ロックの好きな民族”と言われているらしい(私もその構成員)。その中でも、このピンク・フロイドというロック・バンドの占める位置はまさに異常というか、怪奇というか・・・・70年代アルバムが未だにヒットチャートに登場しているところはキング・クリムゾン、イエス、E.L.P.、ジェネシスと言えどもあり得ない事実なのである。
 そのピンク・フロイドが今年はデビュー50周年と言うことで、又々騒ぎは大きくエスカレートしている。ロック・ミュージック界の低調の中では、唯一商業価値が間違いないと言うことで、ロンドンでは「ピンク・フロイド大回顧展」が開催された。このフロイドの『神秘』(1968)、そしてキング・クリムゾンの『クリムゾン・キングの宮殿』(1969)以来は完全リアルタイムでロック・ファンあった私は、長いお付き合いにふと想いを馳せるのである。

 

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 まあ回顧は別として、今年もピンク・フロイド絡みでは、デヴィッド・ギルモアの「飛翔ライブ=ライブ・アット・ポンペイCD+DVD発売」、そしてロジャー・ウォーターズのニュー・アルバム『is this the life we really want?』と「UA+THEM ライブ」は、もはや何をさておいてもロック界のトップニュースになってしまっているのだった。

 さて、そんな中であの奇妙な意味の解らない2014年のアルバム『永遠』で幕を下ろしたかの感のあるピンク・フロイドだが、それがどうして益々ここにギルモアとウォーターズの価値感が高揚していることが、我々をして興味の渦に陥れるのである。

 

 まずギルモアは、結構なことに取り敢えずはギルモアらしいアルバム『飛翔』(Columbia/88875123262)をリリースして、ようやくピンク・フロイドという重責から逃れて自分を演じた。そしてその「飛翔ライブ」を欧州南北米ツアーを展開、その中でも欧州各国の遺跡や古城、宮殿などでの世界遺産公演を敢行したのであった。
 一方ウォーターズは、なんとロック・アルバムとしては25年ぶりに『is this the life we really want?」』をリリースし、同時に「UA+THEM ライブ」南北米ツアーを半年に渡って展開、更には来年早々引き続いてオーストラリア、欧州ツアーを行う。


■ デヴィッド・ギルモア『ライブ・アット・ポンペイ』 (Sony Music/SICP-31087)

Liveatpompeii こんな流れから出てきたギルモアのライブ版
 『ライブ・アット・ポンペイ』 (SonyMusic/SICP-31087)(→)
  もちろん彼の”「飛翔」ライブ”の一会場モノである。それもCDそしてDVDと映像絡みでリリースして、”ピンク・フロイドのその昔の無人ポンペイ遺跡円形闘技場の記念すべきライブ”の再現とばかりにアッピールしているのである。
 いやはや頼もしいと言えば頼もしい、しかし如何せんギルモア女房のジャーナリストのポリー・サムソンの商業主義の展開そのもので、ギルモアの意志はあるのかないのか、派手なライト・ショーが会場いっぱいに展開、なんとお祭り騒ぎに終わってしまっている。もともとアルバム『飛翔』も、”アダムとイヴの旅立ち”という如何にもコンセプトというか思想があるのか無いのか、むしろ無いところがギルモアらしい。まあ女房の作詩頼りに彼女の発想にまかせての気軽さだ(それが良いとの見方もあるが)。
 しかしそうは言っても、あのかってのピンク・フロイド時代の曲を織り交ぜてのギター・サウンドの魅力を引っさげての展開は、それはそれファンを酔わせてくれるのである。まさにギタリストの所謂「The Voice and Guitar of PINK FLOYD」なのである。
 しかし、ウォーターズの去ったピンク・フロイドを数十年引きずってきた男が、あの昔のピンク・フロイドの円形スクリーンそままで、ピンク・フロイドは俺だと言わなければならないところに、未だピンク・フロイド頼りの姿そのままで、ちょっと哀しくなってしまうのである。

■ ロジャー・ウォーターズ『US + THEM ライブ』

 

Isthisthelife 一方ロジャー・ウォーターズは、70歳を過ぎた男にして、今日の混乱の時代が作らせたと誰もが信じて疑わないアルバム『is this the life we really want?」』(Sony Music/SICP-5425)(→)をリリースした。
 それはNigel Godrichとの名コンビで、”現代プログレッシブ・ロックはこれだ”と圧巻のサウンドを展開。”ロック=ギター・サウンド”の既成概念を超越したダイナミックなピンク・フロイドから昇華したサウンドには感動すらある。
 ”歪んだポピュリズムPopulism・ナショナリズムNationalismへの攻撃”と”新たな抵抗Resistのスタート”のコンセプトと相まって、ミュージック界に殴り込みをかけた。

 そして日本の評論家の反応も面白い。何時もよく解らない事を言っている立川直樹も絶賛せざるを得ないところに追い込まれ、ロックと言う面から見ればそれこそ本物である伊藤政則は”怒り”の姿に共感し、ロックをギタリストとしてしか見れない和久井光司にはこの進化は理解不能に、最近カンバックした市川哲史の冷静な評論では、あのアルバム『風の吹くとき』のコンセプトとオーバー・ラップさせながらも、”破壊寸前の国際情勢に徹頭徹尾対峙したアジテーション・アルバムに特化した”と74歳の男の生き様に感動している。

23722640_1604990236211442_499588949 そして「UA+THEM ライブ」では、
 今回のニュー・アルバムの曲と同時に、彼の自らのコンセプトで作り上げたピンク・フロイド・アルバム『狂気』、『ザ・ウォール』、『アニマルズ』を再現している。それは今様に新解釈を加えつつ、今まさに展開している世界情勢に照らし合わせての”抵抗の姿”の展開は、”US(我々)とTHEM(彼ら)の関係”に挑戦しているのである。
 米国大統領トランプの出現は、彼に火を付けてしまった。反トランプの歌に特化した『アニマルズ』からの"Bigs (Three Different Ones)"は、トランプをしてあの歌のシャレードと決めつける。又パレスチナ問題、米・メキシコ関係問題にみる「壁」問題は、何時になっても人間の姿としての「心の壁」を含めてその存在にメスを入れている、まさに『ザ・ウォール』だ。
 しかも『狂気』の"Us and Them"に見るが如く、彼のピンク・フロイド時代の問題意識は現在に於いても色褪せていないどころか、彼の意識の高さを今にして認識させられるのである。
 (これは余談だが・・・日本に於ける安倍総理の”あの人達は”発言(これこそ"THEM")にみる危険性をも感じ得ない世相にふと想いを馳せざるをえない)
Djjhcgmuqaa_cth_3 彼は、「The Creative Genius of PINK FLOYD」とのキャッチ・コピーそのものからの展開なのである。”戦後の反省からの理想社会”からほど遠くなって行くこの今の世界情勢に、自分の出来ることはこれが全てと、彼をしてライブでの訴えに奮い立たせている。もう止せば良いのにと言うことがはばかる”戦争のトラウマ”を背負った70歳男の抵抗だ。
*
*
*

(取り敢えずは結論)

 

デヴィッド・ギルモア   ピンク・フロイド 
           (フロイドをどうしても越えられないその姿)

ロジャー・ウォーターズ  ピンク・フロイド 
           (フロイドに止まれない宿命的進化)

 

 この関係が益々はっきりした今年の情勢だった。過去のピンク・フロイドに”イコールの中に生きるギルモア”、”イコールもあるが宿命的にそれ以上を求めざるを得ないウォーターズ”。
▶かってのピンク・フロイドに酔いたい→「イコールこそに満足のファン」
▶あのビンク・フロイドは今何をもたらすのかと期待する→「イコールから発展的世界を求めるファン」
 どちらにとっても愛するピンク・フロイドの現在形であることには変わりは無い。

▼そして並の規模を越えた両者のライブは、
ギルモアは・・・・・・”お祭り騒ぎ”、
ウォーターズは・・・”総決起集会”
        ・・・・という構図は明解になった今年でもあった。


 今ここに、二つのピンク・フロイドが体感できる。これは我々にとって、これ以上のものはないのだろう。

 

                                  (いずれ続編を・・・)

(視聴)

David Gilmour

                   *                         *

Roger Waters

 


*

 

 

 

 

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2017年8月18日 (金)

ジョナサン・ウィルソンJonathan Wilsonのアルバム 「Fanfare」

不思議な多要素満杯のロック・アルバム

< Rock,  Pop,  Folk,Wold,&Country, Psychedelic>
Jonathan Wilson 「Fanfare」

Down Town / USA / 70373 / 2013

Fanfare

Songwriter : Jonathan Wilson
Produced and Recorded by Jonathan Wilson at Fivestarstudios in Los Angeles

 シンガー・ソングライターでプロデューサーとして知る人ぞ知るジョナサン・ウィルソンJonathan Wilson(1974年、ノースカロライナ生まれ) のアルバム。実は私は詳しいことは全く知らなかったが、これは彼の2ndアルバムだ。
 しかし、こうした不思議な充実ロック・アルバムがあることを知っただけでも収穫だ。
 何故、このアメリカン・ロックの世界に首を突っ込んだかと言うと、そうです今北米ロツク・ツアーを行っているロジャー・ウォーターズの「US+THEM Tour」の10人のメンバーの一人で、重要なヴォーカルとギターを演じているのがジョナサン・ウィルソン。しかも彼はウォーターズのニュー・アルバム『is this the life we really want? 』でも重要な役をしている。

Mi0003732431(Tracklist)
1. Fanfare
2. Dear Friend

3. Her hair is growing long
4. Love to love
5. Future Vision
6. Moses pain
7. Cecil Taylor
8. Illumination
9. Desert Trip
10. Fazon
11. New Mexico
12. Lovestrong
13. All the way down

  しかし彼の多能力というか、多芸というか、そんなところが如実に出ているアルバムだ。近年のロイ・ハーパーやドーズなど多くのアーティストのプロデューサーとしての実績も大きいだけあって、このアルバムは、ロックの多様性を全て詰め込んだような感想を持つのだ。しかし、ヘビー・メタルとかゴシック・メタル調は全くない。
 どうもよく解らないのがアルバム見開きの写真(↓)、このアルバムに私の持つ印象とは違う。それでも、ここに描かれるところは人間模様として、作者にとっては重要なのかも知れない。

Fanfare1

 M1. ”Fanfare” 思いの外、壮大な曲である。日本語で言う”ファンファーレ”だが、その意味するところは?。そしてなんとプログレっぽいではないかと思わせるに十分の曲。ピアノ、ストリングスも加味され、かっての70年代イタリアン・プログレをふと思い出したが、ジョナサンのヴォーカルもソフトで聴き応えあるし、彼のメロディーの持つところも美しく実感する。驚きは彼のマルチ・プレイヤーぶりだ。ここでは9種の楽器とヴォーカル担当している。そしてロックの多要素をふんだんに盛り込んだような曲。
 M2.” Dear Friend” キダーとヴォーカルでなかなか味な曲。描くは、宇宙感覚で見た人間模様か?、これも私に言わせると歌ものイタリアン・プログレだ。中盤から後半にかけてのギター・ソロは聴かせます。
 M3. Her hair is growing long 彼の6種の楽器とヴォーカルでの曲。オープニングには子供の声のSEも入って、アコーステック・ギターでゆったりと聴かせる。この曲のムードは一種独特のジョナサン世界。
 ここまでに明らかなのは、彼はやっぱりギタリストなんだなぁ~というところだ。しかし私には、Psychedelicというイメージはどうも感じられない。
 M4. ”Love to love” これぞオールド・ロックで明解な歌。M5.. ”Future Vision”は軽快ロック。M6..” Moses pain” は、まさしくフォーク・ロック、多分これが得意のパターンだろう。8. Illumination はヘビー・ロック。M9.”Desert Trip”、M12.” Lovestrong”は、美しいスロー・ロック・バラード、エレキの泣きソロも聴かせる。
 ヴォーカルは、70年代のピンク・フロイド流にも通ずるところ。

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(US+THEM tour)
          *
          *
          *
          *
 グラハム・ナッシュ、デヴィッド・クロスビー、ジャクソン・ブラウン、パット・サンソンなどゲスト参加、又ロイ・ハーパーとの共作曲も。とにかくメタルの以外のロックの多要素を詰め込んでの芸達者ロック・アルバム。
 成る程、ロジャー・ウォーターズが彼のアルバムにギタリスト&ヴォーカルとして選ぶのも理解出来る。

 ついでに、このアルバムでジョナサン・ウィルソンの操る楽器群を紹介する(驚きのマルチ・プレイヤー)→Electric Guitar, Organ, Clavinet, Synthesizer, Drums, Bass, Piano, Fender Rhodes, Mellotron, Millennium bells, Hammond Organ, Vibes, Percussion, Acoustic 12 string Guitars, Piano

(視聴) ”Dear Friend” from 「Fanfare」

 

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2017年6月 8日 (木)

ロジャー・ウォーターズRoger Waters”怒り”のニュー・アルバム「Is This The Life We Really Want?」

『If I had been God 』 (もし私が神ならば) 
            から
『Is This The Life We Really Want?』
これが我々が本当に望んでいる人生なのか?への怒りの展開

  「不安」そして「訴え」「抵抗」の問題作

<Progressive Rock,  Art Rock>
Roger Waters 「Is This The Life We Really Want?」
SONY MUSIC ENT. / JPN / SICP5425 / 2017

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 (Members)
Roger Waters – vocals, acoustic guitar, bass guitar
Nigel Godrich – keyboards, guitar, sound collages, arrangements
Gus Seyffert – guitar, keyboards, bass guitar
Jonathon Wilson – guitar, keyboards
Roger Manning – keyboards
Lee Padroni – keyboards
Joey Waronker – drums

Lucius (Jess Wolfe, Holly Laessig)–  vocals
David Campbell – string arrangements

 ピンク・フロイドの“Creative Genius創造的鬼才”=ロジャー・ウォーターズの25年振り「怒り」のニュー・アルバムだ。そもそも宗教問題も含めて社会にアプローチした『If I had been God (もし私が神ならば)』のタイトルで作り上げてきたアルバムだが、ここに来ての世界では米国トランプ大統領誕生などを始めとしての如何にも理解とか納得の範疇から逸脱した政治情勢、増え続ける紛争、差別問題、環境問題への意識低下などと不安情勢によって、彼の元々のテーマであった「不安」がエスカレート、”訴え”と”抵抗”のスタートとして『Is This The Life We Really Want?(これが我々が本当に望んでいる人生なのか?)』と題してのアルバムと化して到着した。

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Nigelgodrich011trw プロデュサーはナイジェル・ゴッドリッチNigel Godrich(英国, 1971-)だ(→)。彼は英国、米国系のポピュラー・ミュージック界では40歳代にして既にプロデュサーとして実績ある重鎮で、オルタナティブ・ロック系アーティストを多く担当してきている。サウンドはメタル・ロック系とは一線を画していて、どちらかというとクリアと言われる音が構成要素。又かってのピンク・フロイド風とはちょっと異なり、近年のロジャー・ウォーターズの趣かと思われるところ。あの2015年の『Roger Waters: The Wall』でもプロデュースを担当している。そしてこのアルバムの出来をみると、今作への気合いは相当であったと推察する。実際、演奏面でのKeyboads、Guitar での介入もしている。

 このアルバム、全編を通してアコースティック・ギター、ピアノ、ドラムスがクリアに重く響き、バックのKeyboad系や、String系の音場の広がりによる立体感も素晴らしく、それによる単なる乾いたサウンドでなくウォーターズ流の重厚なところで展開する。録音の出来も最高クラス。

Jwilson2tr 近年のウォーターズ自身のサウンドの指向の色合いも変化しているが、今回そんな意味でも、バンド・メンバーを見ても、現在の彼の北米ツアー「The US+THEM Tour」に同行しているギターのJonathon Wilson (近作アルバム『Fanfare』(Downtown/USA/70373/2013) →)にも注目だ。彼はおそらくゴッドリッチとの関係で、今回のアルバムやツアーにウォーターズとの関係が出来たのでは?と思うところ。その他、Joey Waronker (drums)、Gus Seyffert (guitar,  bass )もツアー・メンバーとなっている。こんなところからも、今回のアルバムはサウンド的にもピンク・フロイド時代の流れからはかなり変化を示しており、ギルモア流のエレキによるギター・ソロ的因子は殆ど影を消していて、アコースティックでハードな因子が強い。そのあたりが、ウォーターズの意志の感ずるところで新鮮と言えば新鮮。

(Tracklist)
1. “When We Were Young” 1:38
2. “Déjà Vu” 4:27
3. “The Last Refugee” 4:12
4. “Picture That” 6:47
5. “Broken Bones” 4:57
6. “Is This The Life We Really Want?” 5:55
7. “Bird In A Gale” 5:31
8. “The Most Beautiful Girl” 6:09
9. “Smell The Roses” 5:15
10. “Wait For Her” 4:56
11. “Oceans Apart” 1:07
12. “Part Of Me Died” 3:12

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(Roger Waters, Gus Seyffert & Jonathon Wilson  )

 このアルバムは、もともとタイトルが『If I had been God 』であった様に、”もし私が神だったら、何が変わるだろうか、何が変わっていただろうか”と、宗教的因子のもたらす社会現象に警告を発しつつ、M2.“Déjà Vu”から問題提起が始まる(この曲は”Lay Dawn Jerusalem (If had Been God)”で 2014年発表)。この”デジャブ”というのはフランス語で、”既視感”と訳されるが、実際には一度も体感したことが無いのに、以前どこかで体感したことがあるように感ずることを言うらしい。そんなところからウォーターズの神だったらの仮定から発展して、かなり抽象的に社会異常を皮肉たっぷりに歌いあげている。M3.“The Last Refugee”では今に生きる難民に追いやられた子供の姿から悲観的側面を描き、そしてM4“Picture That”でこの異常社会の告発を爆発させる。

 そしてハイライトはM6.“Is This The Life We Really Want?” だ。静かに始まるこの曲で、社会に渦巻く不安感、絶望感、それを生み出す世界の紛争、危機、差別を訴え、その今の社会環境、政治などへの怒りがぶちまけられる。"若い娘が人生を無為に過ごす そのたびに 大馬鹿者が大統領に就任する そのたびに"などなど・・・延々とかず数え切れない異常事態を歌いあげる。そして、『これは我々が本当に望んだ人生なのか?』と問いかけるのだ。この曲の悲劇的暗さは凄い。続くM7.“Bird In A Gale”の悲劇的不安感へのやるせない訴えは、ウォーターズの心そのものだ。

 ネガティブ因子の強いメッセージが詰め込まれたこのアルバムではあるが、ウォーターズは過去のアルバムでは、何時もその最後の曲には、必ず少しの光明を覗かせてきた。しかしこのアルバムの最後の曲M12.“Part Of Me Died”に何かの光明は感じ取れるのだろうか、悲観的因子の中でも自分の救いの居場所を感じ取れたのであろうか?、今回は、私は悲劇にしか終わらない世界の疑問の中で終わってしまった。

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 さて、現在進行中のウォーターズの北米ツアーが、オーバー・ラップするのだが、彼はツアーとこの新作を通して、一つにはトランプと同類の勢力へのレジスタンスを起こしたいとも公に語っている。その布石がこの突如タイトルが変えられたこのアルバムであり、後はツアーを通して理解出来る仲間を通じて、力ある勢力となり得るかどうか、それが今彼の出来る運動でもある訳だ。「連中のようなナルシズム、欲望、悪意、そして他人の気持ちをなんとも思わない態度、ほかの誰とも共感しない態度」に対抗していきたいと言い、そして「ドナルド・トランプのような反社会的な社会病質者は共感の欠如が生み出したものなんだ」と説明している。もはやウォーターズが最も信じてきた「人類が第2次世界大戦の反省に立った新しい人間的世界への構築の約束」が破壊されていくことの落胆と怒りとが収まらない不満がこのアルバムに込められている。

 1960年代に産声を上げたロックの歴史は何らかの「抵抗」から始まったとも言って良い。それが多様な発展を遂げながら、社会構造に存在するエネルギーを何時も生み出してきたとも言える。しかし50年以上の歴史を経ての今日こうしたロックの力はどのように存在するのか?疑問の多い中で有りながら、何かこのウォーターズのニュー・アルバムに、一つのロックの究極の姿を見たよう気がするのは私だけであろうか?。

<追記>
  BBC : UK Top 40 Rock Album (Friday 9th June  2017)
       1. Roger Waters / is this the life we really wants? *
       2. KISS / KISSWORLD *
       3. SikTh / The Future In Whose Eyes *   
              ↓    
      
5.Pink Floyd / The Dark Side of The Moon
     15.Pink Floyd / The WAll
     21.Pink Floyd / Wish You Where Here
     38.Pink Floyd / Animals

          *印: 新登場,   Top40に恐ろしいですね、Roger Waters と Pink Floyd で
           5アルバムがチャート・インしています。

(視聴)

1  “Picture That”

2   “The Last Refugee”

“Smell The Roses”

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