ロジャー・ウォーターズ

2023年10月 8日 (日)

ロジャー・ウォーターズ Roger Waters 「The Dark Side of The Moon Redux」

50年の歴史を経て・・ここに帰ってきたモノは、深淵にして壮大な世界

<Progressive Rock>

Roger Waters 「The Dark Side of The Moon Redux」
Cooking Vinyl / Import / SGB50CD / 2023

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Credits:
Roger Waters: Vocals, Bass on Any Colour, VSC3 / Gus Seyffert: Bass, Guitar, Percussion, Keys, Synth, Backing Vocals / Joey Waronker: Drums, Percussion / Jonathan Wilson: Guitars, Synth, Organ / Johnny Shepherd: Organ, Piano / Via Mardot: Theremin / Azniv Korkejian: Vocals / Gabe Noel: String,Arrangements, Strings, Sarangi / Jon Carin: Keyboards, Lap Steel, Synth, Organ / Robert Walter: Piano on Great Gig // Produced by Gus Seyffert and Roger Waters // Art Direction and Design: Sean Evans // Photography: Kate Izor


   ロック史に輝く名盤中の名盤、ピンク・フロイドの最高傑作と言われる『The Dark Side of the Moon 狂気』(1973)を、ロジャー・ウォーターズがオリジナル・レコーディングから50年、80歳を迎えるに人生の区切りに再解釈した壮大な世界をここに公開した。
 そもそもピンク・フロイドの歴史の中で、全曲をウォーターズが作詩して彼の出してきた基本的なコンセプトにメンバーが肉付けして音像を作り上げた最初のアルバムで、その流れは以降彼が在籍した最後のアルバム『Final Cut』(1983)の5作にまで続くことになった。このアルバムは当初"Eclipse"というタイトルで進行したが、謎めいたウォーターズのアイデアは人間の問題、社会の問題、個人的トラウマ、シド・バレットの狂気などを常にはらんでいて難解であると同時に聴くものの感性に訴える世界でもあった。

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 大学時代、ロック・ミュージツクを通じて夢を描いて結成したPink Floyd。それはニック・メイスン、リチャード・ライトと共に、ウォーターズは高校時代の友シド・バレツトを呼び込んでの4人バンドで、サイケデリックと言われた世界で花咲かせた。最大の難関は音楽的リーダーのシドの精神状態の悪化からの脱落であった。しかしウォーターズの執念は、ギタリスト・デヴット・ギルモアを呼び込んで更にプログレッシブな流れに重きをおいてバンド活動を続け、『Atom Heart Mother』(1970)にて一つの価値観を築き、遂に29歳のとき、Pink Floydとしてレコーディングした『The Dark Side of the Moon』は、彼の独特な人間の経験、時代の暗部、狂気への恐怖、などの彼の異常ともいえる常人の感覚を超えた世界を描くことにより圧倒的な支持を得たのだった。

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1. Speak to Me
2. Breathe
3. On the Run
4. Time
5. Great Gig in the Sky
6. Money
7. Us and Them
8. Any Colour You Like
9. Brain Damage
10. Eclipse

 このアルバムは「老いた男の記憶、それは全盛期の男の行動である」という冒頭の言葉から始まる。ご存じでしょうか、この"Speak to Me"では、なんとアルバム『Obuscured by Clouds雲の影』の曲"Free Four"の詩が登場しているではないか、驚きましたね、彼の繋がっているコンセプトの世界には。既にウォーターズは20歳代に老人への世界にまで想いを馳せていた。そして『The Dark Side of the Moon Redux』で、この50年に及ぶ経過を歩み、彼自身のトラウマ、歩んだ道、哲学、年齢という諸条件新たな視点を持って、彼自身のコンセプトで築いたオリジナルの創作物を見直し回顧し新展開を試みる。彼の近年の人生の重みを感ずるヴォーカルは、Pink Floyd時代から変わらない謎めいた表現で脚色しながら、彼の若き時代の歌詞に深遠さのあるコンセプトの拡大の味を加え、彼の哲学的風貌すら感ずる創作をここに結晶させたのである。

 制作にあたってWatersとGus Seyffertによるプロダクションは、壮大な深淵な宇宙的サウンドにウォーターズのの80歳の男としての心のつぶやきを乗せて、サイケデリックな味とプログレッシブな味とクラシックな味を乗せたオーケストレーション築き、かってのアルバムにはなかった世界を対比的に聴かせてくれる。

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 「オリジナルの『The Dark Side of the Moon』は、ある意味、人間の現状に対する年長者の嘆きのように感じられる。しかし、曲を作ったとき、Dave、Rick、Nick、そして私はとても若かった。だから、80歳の知恵が再解釈に何をもたらすかを考え始めたんだ。最初にGusとSeanに『The Dark Side of the Moon』の再レコーディングの話をしたとき、みんな私が狂っていると思った。でも、考えれば考えるほど、『肝心なのはそこじゃないよね』と思ったんだ。半世紀の時を超えて手を取り合い、堂々とオリジナルと並べることが出来る作品に仕上がったことを、私は非常に誇りに思っている」とRoger Watersは語る。

Pinkfloydrogerwatersnickmasondarjsideoft  そしてこのアルバム・リリースの試みは又してもPink Floydメンバーのデヴィット・ギルモアの猛反対という憂き目にあった。これは若き当初のこのアルバムのコンセプトの世界に存在していなかったギルモアであったことを露骨に暴露した。哀しいことに、これは真の作者にしか解らない半世紀の経過を経た人生が如何に人間の重きを築いているかが理解出来ないのである。もっともこれはアメリカ商業主義の独占欲の強いギルモアの女房のポリー・サムソンの仕業なのかもしれないが。
 しかし一方、Pink Floydのニック・メイスンはリリースに大賛成した。そこが学生時代の男の夢をバンド結成という一つの手法の下で、互いに共に築いてきた人格を持っている事の違いであった。ウォーターズはかっての『The Dark Side of the Moon』にとって代わろうなどとは全く考えておらず、勿論否定しているどころか、むしろ若き時代の結晶として評価していることが今回の「Redux」の発想に繋がっているのだ。メイスンは、あれから半世紀経過した人生の作り上げたものを確実に表現したことを理解し、更に音楽的完成度についても感動し後押ししてくれたのである。それによってウォーターズはリリースを決意したのであった。

 今や、人生の総決算に入っているウォーターズにとっては、パレスチナ支持イスラエル批判、戦争の無意味さの国連発言、彼の作品やライブの意味が理解できない反ユダヤ主義やナチス礼賛のという濡れ衣に対する反発など、常に政治思想が取り巻いているが、その中でも何につけても父親の死にまつわるトラウマを背負っての戦争否定につながる活動・運動はいまだに続いている。そんな中で、むしろ若き時代を礼賛し、そして年老いた現在の存在を確認しているのだと思う。ここまで来ると、このアルバムの評価はいろいろと言う世界を超越しているのである。

(評価)
□ 企画・演奏・歌   95/100
□ 録音        90/100

(試聴)

*

 

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2023年7月23日 (日)

ピンク・フロイドの頭脳・ロジャー・ウォーターズ「新『狂気』」10月公開 Roger Waters 「The Dark Side Of The Moon REDUX」

50有余年、ロックと共に戦ってきた男の心のアルバム

<Progressive Rock>

Roger Waters 「The Dark Side Of The Moon REDUX」

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(この動物(犬)の目の中に、あのジャケのプリズムが光を分散している=クリック拡大してみると解る。にくい演出です)

   ロジャー・ウォーターズがロック界きっての名作『狂気 The Dark Side of The Moon』(1973)のオマージュ作品を温めていたが、その公開に踏み切った。この10月にリリースされる。

Rwrockdownsw  コロナ・パンデミックにてすべてが抑制された中での先ごろの話題のロックダウン・セッションThe Lockdown Sessions』(2022 →)としてリリースされたアルバムに納められた曲を、それぞれの過去の曲からアコースティックな雰囲気への削ぎ落とされた曲として録音した時、アルバム『狂気』のリリース50周年が間近に迫っていた。このアルバムは、オリジナル作品へのオマージュとしてだけでなく、アルバム全体の政治的、感情的なメッセージに再び取り組むためにも、同様のリワークの適切な候補になる可能性があると思いついたのだという。

362115349_807288040768w  ウォーターズはこのところの協力者と話し合いリリースに向けて製作にかかることにしたもの。それは彼が言うように、明らかにかけがえのないオリジナルの代替品でなく、それは79歳の男性が29歳の目に映り描いた世界から50年経た今日のその間を振り返り、ウォーターズのトラウマと言うべき幼少時に戦死した父親との対峙であり、私の詩を引用するために、「私たちは最善を尽くし、彼の信頼を保ちました、私たちの父は私たちを誇りに思っていたでしょう」と言う世界である。

 こうした作品のリリースにはD.ギルモアは例のごとく反対したが(もう彼の独占欲はいいかげんにしてほしい)、ピンク・フロイドのスタート時からのメンバーのニック・メイスンは、むしろ当時からの制作目的、心情を知っているがゆえに、その内容に大きな評価をして、ウォーターズ主導であった『狂気』(曲は10曲中8曲にウォーターズがクレジットされており、歌詞は全て彼の当時の心情で書かれている)の半世紀の経った現在の世界をオーバータブして描いたアルバムのリリースに賛同した。このことはリリースに大きな力になったのだ。

 そしてこの10月CD、LP、ストリーム等でリリースされるが、ここに来て現在その中の曲"Money"のみが公開された。(↓)


 これを聴いてみて、やはりこのところウォーターズのライブ『This is not a Drill』(下左)や、彼の国連での発言(下中央)、又ドイツの反ユダヤ主義としての反発事件とそれに対抗しての歓迎キャンペーン(下右)など、相変わらず彼の歩むところ、問題が起きてはいるが、これこそ彼の歩んできた道であり、そのようなミュージシャンとしては異色の行動からの反発に対してもめげずに戦っている80歳を迎える男の生きざまには圧倒される。

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 ロック界においては、いろいろな老け方があるが、レナード・コーエンのような"老紳士の味わい"を前面に出しての世界も素晴らしいが、ウォーターズのように今も「Resist CAPITALISM」、「Resist WAR」、「Resist FASCISM」を掲げて戦い抜いている姿も、これ又人それぞれの道であり、評価に値するところだ。
 10月のニュー・アルバムの内容におそらく彼の80歳男の心情が見えてくると思われるが、これは過去の名作『狂気』とは全く別の観点で描くところのモノであって、ニック・メイスンも共感した時代を見つめてきたロック活動家の姿をここに味わいたいと思うのである。

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2023年6月23日 (金)

ロジャー・ウォーターズ 2023欧州ライブ プロショット映像版 Roger Waters 「THIS IS NOT A DRILL - LIVE FROM PRAGUE 2023」

デストピアを描き、反戦・原爆廃止・人権擁護を訴える"フェアウェル・コンサート"

<Progressive Rock>

Roger Waters 「THIS IS NOT A DRILL - LIVE FROM PRAGUE 2023」
Complete Live Broadcast HD BluRay Edition
Live at O2 Arena, Prague, Czechia, 25th May 2023

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NTSC Full HD 1920 x 1080p Linear PCM Stereo + Dolby 5.1 Surround Total Duration 171min.

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Roger Waters – Vocals, Guitar, Bass
Gus Seyffert – Bass, Synth, Vocals
Joey Waronker – Drums
Dave Kilminster – Guitar
Jonathan Wilson – Guitar and Vocals
Jon Carin – Synth, Vocals, Guitar
Shanay Johnson – Vocals
Amanda Belair – Vocals
Robert Walter – Keyboards
Seamus Blake - Sax

 2022の北米ツアーでスタートしたピンク・フロイドの頭脳と言われるロジャー・ウォーターズの「THIS IS NOT A DRILL」が今年の欧州ツアーが追加され、既に各地を回っているが、この5月チェコ・プラハでの公演がプロショット映像でLinear PCM Stereo + Dolby5.1SurroundのBlue-Ray版が手に入る。
 これは全世界の劇場に生配信されたプラハ公演(上左)で、フルHDのプロショット映像の為圧巻である。
 このツアーは、間もなく80歳になろうとしている彼の「farewell Live 別れのライブ(第1章?)」ということもあってか各地で盛り上がっている。相変わらず斬新な方法論を示すライブ会場、ステージは会場の中央に設置され、その上には全方向からみれるスクリーン、そして例のごとく豚が宙を舞い、その上に今回は羊も会場の頭上を旋回する。

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 このライブは相変わらずの彼の政治思想の色づけが見られる為、ドイツでは騒動が起きた。まずドイツ・フランクフルトで「反ユダヤ主義」の疑いで公演がキャンセルされた。これは彼のイスラエル批判に端を発しているが、世界各地で長年にわたって行ってきた「人権を擁護する活動の一環」であって、エリック・クラプトン等の擁護する署名活動の展開があったり、ウォーターズ自身も「ロジャー・ウォーターズを非難している当局者はイスラエルの違法で不当な政策を批判する行為と反ユダヤ主義を混同するという危険な動きに加わっていることになる」と批判し、訴訟を起こし勝訴している。

Wall1w  更に行われた「ベルリン公演」が物議を醸している。そのことに関してはウォーターズは自分を「黙らせたい」ための「中傷」だとして声明を発表している。彼はベルリン公演でナチスを彷彿とさせる衣装が登場したことから警察の捜査を受けていることが明らかになっている。ベルリン公演ではロジャー・ウォーターズが第二次世界大戦を連想させるような服を着ていた上にホロコーストの犠牲者であるアンネ・フランクの名前もスクリーンに映し出されたことから物議を醸すこととなったのだ。しかし、彼のピンク・フロイド、そしてソロ活動の一連のアルバムにも見るとおり、彼の一貫した政治思想は個人の尊厳であってまずは、人間尊重の「反戦思想」である。

 ウォーターズは、「いかなるものであれ、戦争で人が死ぬことは絶対悪」であるという立場をとる。そしてそれに加え「弱きモノへの弾圧」に抵抗する。これも彼の父親の戦死の悲劇の事実が大きくのしかかっている。戦争のもたらす悲劇に比べたら「妥協による共存がはるかにマシである」ということ。彼が国連での発言に見るように西側、東側という立場でなく、ベルリンの壁崩壊時のゴルバチョフと約束したNATOの不拡大の約束を守らず、ウクライナを戦争に導くのではなくロシアと妥協させて戦争を防止しなかったバイデン大統領も「戦争犯罪者」であると糾弾する。

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 今回のライブにおいても反戦、イスラエル非難、反人権無視、原爆禁止などがテーマと上がってくるためにあらゆるところで物議を醸している。しかし、今回明白になったのは、ロジャー・ウォーターズを擁護するエリック・クラプトン、トム・モレロ(レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン)、ニック・メイスン(ピンク・フロイド)ら多くの一連のミュージシャンによる、フランクフルト公演中止決定を覆すことを求める署名活動も行われ、「ミュージシャンの社会的主張」の存在意義が焦点になったが、法廷での否定は行われなかった。これは結果としてウォーターズ側が勝訴したことになっている。

 そんな話題の多い欧州ツアーは現在も進行中であるが、ピンク・フロイドの黄金時代を象徴するクリエイティブなロジャー・ウォーターズが、一夜限りで、プラハにおけるライブを"初のフェアウェル・ツアー「This Is Not A Drill」"としとて世界中の映画館で一斉に披露した。そしてこのBlu-Ray映像版はそれが原点と思われる。いずれにしても圧巻のサラウンド・サウンドの効果も大きく見ごたえ十分だ。

(Tracklist)
01. Intro 02. Comfortably Numb 03. The Happiest Days of Our Lives 04. Another Brick in the Wall (Part 2) 05. Another Brick in the Wall (Part 3) 06. The Powers That Be 07. The Bravery Of Being Out of Range 08. The Bar 09. Have a Cigar 10. Wish You Were Here 11. Shine On You Crazy Diamond (Parts VI-IX) 12. Sheep 13. Intermission 14. In the Flesh 15. Run Like Hell 16. Stop 17. Déjà Vu 18. Is This the Life We Really Want? 19. Money 20. Us and Them 21. Any Colour You Like 22. Brain Damage 23. Eclipse 24. Two Suns in the Sunset 25. The Bar (Reprise) 26. Outside the Wall N

 いずれにしても彼は反戦を主体とした政治思想をライブで展開することは彼の信条であり、面白いことに、このライブの冒頭に「ピンク・フロイドを愛すが、ロジャー・ウォーターズの政治思想が嫌なら、会場を出てバーにでも行って飲んでいてほしい」とアナウンスしている。

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 又M10. Wish You Were Here, M11. Shine On You Crazy Diamond (Parts VI-IX) でのピンク・フロイド結成当時とシド・バレットの思い出には彼の心情が歌い上げられる。今回のアルバム「アニマルズ」からはM12."Sheep"が取り上げられ弱き大衆の反乱を描く。

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 やはり後半に入ると「デストピアDystopia」に焦点は当てられ、発達した機械文明の、否定的・反人間的な側面が描き出され、典型例は反自由的な社会であり、隠れた独裁や横暴な官僚システムなどを批判し訴える。これを描く世界はM18. Is This the Life We Really Want? , M19. Money, M20. Us and Them で頂点に至る。そして最後には、M24. Two Suns in the Sunsetでは原爆の恐ろしさを描いて幕を閉じる。

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 ウォーターズの人生においては、彼のトラウマは「人生一度も話が出来なかった戦死した父親」であって、しかも祖父も同様であったことからの全て「反戦」が基調となって発展している。もう80歳になろうとしている今回の彼の「Farewell Concert」においても一貫してその線は崩れていないし訴え続けている。又"The Bar"の新曲も披露している。

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         (ツアー・メンバー)

 相変わらず、ウォーターズ・ツアー・メンバー(上)のDave Kilminster (Guitar)、Jonathan Wilson (Guitar and Vocals)そしてJon Carin (Synth, Vocals, Guitar)の演奏技術の高さはお見事と言いたい。見ごたえのあるライブだ。

(評価)
□ 曲・演奏・舞台装置 90/100
□ 録音・映像     90/100
(視聴)

*

 

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2023年2月15日 (水)

ロジャー・ウォーターズ 「ロシアのウクライナ侵攻」について国連で発言

ロシアによる侵攻を「違法」だと非難し、一方「ロシアに対する挑発があった」とウクライナ・欧米諸国を批判
・・・・即時停戦を訴えた

 2022年2月24日、ロシアはウクライナへの軍事侵攻を開始し、民間人に死傷者を出す攻撃を行い、病院、学校、住宅などの市民の建物に被害を与えている。戦時国際法に違反する無差別攻撃が行われ、その一部は戦争犯罪に当たる可能性がある。
 しかし、現在までにロシア兵の死者は13万人は超えていて、20万人に迫ろうとしていると言われ、一方ウクライナ兵の死者も同数に近いのではとみられ、又ウクライナ民間人の死者も相当な数字(1万人に迫っているか)に上っていると言われている。不幸な戦争だ。

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Photo_2022w  国連安全保障理事会は、この2月8日、ロシアの要請に基づきウクライナへの武器の供与に関する公開会合を開いた。そしてその席に反戦主義を信条としている "Creative Genius of Pink Floyd(ピンク・フロイドの創造的鬼才)と言われるロジャー・ウォーターズは、ロシアの外交官のリクエストによりスピーチを行っている。

 ウォーターズは、「ロシア連邦によるウクライナ侵攻は違法です。できる限り強い言葉で非難します」と語り、一方「ロシアの侵攻は謂(いわ)れのないものではないとも考えられ、"挑発されていない"わけではないので、挑発者を可能な限り強い言葉で非難します」と。これはロシアによる侵攻を「違法」だと非難する一方、「ロシアに対する挑発があった」とウクライナや欧米諸国をも批判する場面もあった。

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 そして利益や世界支配のために国民を犠牲にすることは「災いを招くだけです」と警告している。 
 そしてウォーターズはこのスピーチを次のように締めくくっている。「私たちの意見では唯一の懸命な選択肢はウクライナ戦争の即時停戦を求めることです。もしもも、しかしも、そしてもありません。ウクライナ人もロシア人も誰一人の命は犠牲になってはいけません。誰もがかけがえのない命なのです」と、即時停戦を訴えた。

    *    *    *

 過去の歴史においても、戦争にはその当事者である国の歴史を含めての諸事情がある。今、どちらの国が正しいとか正しくないという事よりも、まず悲劇の中にある両国民のために停戦し、ロシア、ウクライナは勿論だが、米国、西側諸国NATOも、中国も、当然日本もその為の努力をすべきところであるというのは、間違いではない主張と思うところである。
 冷戦終結したと思われてから30年経った今なお、国際社会はまだ冷戦構造から抜け出せていない。1989年ベルリンの壁崩壊後、西側NATOとロシアの関係に米国の介入などが、ユーゴスラビア解体から始まっての安保理決議なしのNATOセルビア空爆、2008年コソボ独立などの経過から両者の不信感は再び増している。そして第2次世界大戦後に設立され、70年以上も経った国際機関が侵略戦争に全く無機能。国連安全保障理事会も拒否権を持つロシアと中国を前に無機能状態。更にそれどころか、米国も英国も中国も日本も停戦へのリーダーシップは全く取れていない。
 ウォーターズは武器供与の前に何はともあれ停戦の努力をすべきと言っているのだ。米国が世界のリーダーであるなら、まずはその努力をロシアとウクライナに対して先頭に立ってすべきであろう。しかしバイデンにはそんなところは見えない。

     *     *      *

「ロジャー・ウォーターズの安全保障理事会での発言全文」 
   (和訳はGoogle翻訳などでしてください)

Madame President, Excellencies, distinguished members of The Security Council, Ladies and Gentlemen.
I feel profoundly honoured to be afforded this singular opportunity to brief your excellencies today. With your forbearance, I shall endeavor to express what I believe to be the feelings of countless of our brothers and sisters all over the world, both here in NY and across the seas. I shall invite them into these hallowed halls to have their say.
We are here to consider possibilities for peace in war torn Ukraine, especially in light of the increasing volume of weapons arriving in that unhappy country. Every morning when I sit down at my laptop, I think of our brothers and sisters, in Ukraine and elsewhere, who, through no fault of their own find themselves in dire and often deadly circumstances. Over there, in Ukraine they may be soldiers facing another deadly day at the front, or they may be mothers or fathers facing the awful question how can I feed my child today, or they may be civilians knowing that today the lights will go out, for sure, as they always do in war zones, knowing that there is no fresh water, that there is no fuel for the stove, no blanket, just barbed wire and watch towers and walls and enmity. Or, they may be over here, in a big rich city like NY, here brothers and sisters can still find themselves in dire straights. Maybe, somehow, however hard they worked all their lives, they lost their footing on the slippery tilting deck of the neo liberal capitalist ship we call life in the city and fell overboard to end up drowning.. Maybe they got sick, or maybe they took out a student loan, maybe they missed a payment, the margins are slim, who knows, but now they live on the street in a pile of cardboard, maybe even within sight of this United Nations building. Anyway, wherever they are, all over the world, war zone or not, together they make up a majority, a voiceless majority. Today I shall endeavor to speak for them.
We the people wish to live. We wish to live in peace in conditions of parity that give us the real opportunity to look after ourselves and our loved ones. We are hard workers and we are ready to work hard. All we need is a fair crack of the whip. Maybe that’s an unfortunate choice of idiom, after five hundred years of imperialism, colonialism and slavery.
Anyway please help us.
To help us you may have to consider our predicament, and to do so you may have to take your eye off the ball for a moment, to put your own goals momentarily to one side. What are your goals by the way? And here maybe I direct my enquiries more to the five permanent members of this Council. What are your goals? What is in the pot of gold at the end of the rainbow? Bigger profits for war industries? More power globally? A bigger share of the global cake? Is mother earth a cake to be gobbled up? Does not a bigger share of the cake mean less for everyone else? What if today, in this place of safety, we were to look in another direction, to look at our capacity for empathy for instance, to put ourselves in other’s shoes, like, right now, for instance, the shoes of that chap on the other side of this room, or even the shoes of the voiceless majority, if they have any shoes that is.
The Voiceless Majority is concerned that your wars, yes your wars, for these perpetual wars are not of our choosing, that your wars will destroy the planet that is our home, and along with every other living thing we will be sacrificed on the altar of two things, profits from the war to line the pockets of the very, very, few and the hegemonic march of some empire or other towards unipolar world domination. Please reassure us that that is not your vision for there is no good outcome down that road. That road leads only to disaster, everyone on that road has a red button in their briefcase and the further we go down that road the closer the itchy fingers get to that red button and the closer we all get to Armageddon. Look across the room, at this level we’re all wearing the same shoes.
So back to Ukraine. The invasion of Ukraine by The Russian Federation was illegal. I condemn it in the strongest possible terms. Also, The Russian invasion of Ukraine was not “unprovoked”, so I also condemn the provocateurs in the strongest possible terms. There, that’s got that out of the way.
When I wrote this speech yesterday, I included an observation that the power of veto in this council only lay in the hands of its permanent members, I was concerned that that was was undemocratic and rendered This Council toothless…. This morning I had a revelation……..TOOTHLESS! maybe toothless is in some ways a good thing……..If this is a toothless chamber……..I can open my big mouth on behalf of the voiceless without getting my head bitten off……. How cool is that. I read in the paper this morning, some anonymous diplomat quoted as saying, “Roger Waters! To address the Security Council? Whatever next?..... Mr Bean! Hwah! Hwah! Hwah! For those of you who don’t know, Mr Bean is an ineffectual character in an English comedy show on TV. So it’s a penny to a pound the anonymous diplomat is an Englishman, Hwah! hwah! hwah! To you too Sir! Ok, I think it’s time to introduce my mother, Mary Duncan Waters, she was a big influence on me, she was a school teacher, I say was, she’s been dead for fifteen years. My father, Eric Fletcher Waters, was a big influence on me too, he too is dead, he was killed on the 18th of February 1944 at Aprilia near The Anzio Bridgehead in Italy, when I was only five months old, so I know something about war and loss. Anyway back to my Mum. When I was about thirteen I was struggling with some knotty adolescent problem or other trying to decide what to do, it doesn’t matter what it was, I can’t remember anyway, but my mum sat me down and said, “Listen, you’re going to be faced with many knotty problems during your life and when you are here’s my advice, read, read, read find out everything you can about whatever it is, look at it from all sides, all angles, listen to all opinions, especially ones you don’t agree with, research it thoroughly, when you’ve done that you will have done all the heavy lifting and the next bit is easy, “Is it? Ok mum what’s the easy bit?”…….”Oh, the easy bit is, you just do the right thing.“
So speaking of doing the right thing brings me to human rights.
We the people, want universal human rights for all our brothers and sisters all over the world irrespective of their ethnicity, religion or nationality. To be clear, that would include but would not be limited to the right to life and property under the law for, for instance, Ukrainians, and for instance Palestinians. Yup, let that sink in. And obviously for all the rest of us. One of the problems with wars is that in a war zone or anywhere where the people live under military occupation, there is no recourse to the law, there are no human rights.
Today our brief is the possibility of peace in the Ukraine, with special reference to the arming of the Kiev regime by third parties.
I’m running out of time so,
What do the Voiceless millions have to say?
They say
Thank you for hearing us today
We are the many who do not share in the profits of the war industry.
We do not willingly raise our sons or daughters
To provide fodder for your cannons.
In our opinion
The only sensible course of action today
Is to call for an immediate ceasefire in Ukraine.
No ifs, no buts, no ands.
Not one more Ukrainian or Russian life is to be spent.
Not one.
They are all precious in our eyes.
So, the time has come to speak truth to power. You all remember the story of the Emperor’s new clothes? Of course you do. Well the leaders of your respective Empires stand, in one degree or another, naked before us. We have a message for them. It is a message from all the refugees in all the camps, a message from all the slums and favelas, a message from all the homeless, on all the cold streets, from all the earthquakes and floods, on earth. It is also a message from all the people, not quite starving but wondering how on earth to make the pittance they earn, meet the cost of a roof over their head and food for their families. My mother country England is, thank god, an Empire no more, but in that country now, there is a new catch phrase “Eat or Heat?” you can’t do both. It’s a cry echoing round the whole of Europe.
Apparently, the only thing the Powers that Be think we can all afford is perpetual war. How crazy is that?
So, from the four billion or so brothers and sisters in this Voiceless Majority who together with the millions in the international anti-war movement represent a huge constituency, enough is enough! We demand change.
President Joe Biden, President Putin, President Zelenski,
USA, NATO, RUSSIA, THE EU, ALL OF YOU.
PLEASE CHANGE COURSE NOW,
AGREE TO A CEASEFIRE IN UKRAINE TODAY.
That, of course, will only be the starting point. But everything extrapolates from that starting point. Imagine the collective global sigh of relief. The outpouring of joy. The international joining of voices in harmony singing an anthem to peace! John Lennon pumping the air with his fist from the grave. We have finally been heard in the corridors of power. The bullies in the schoolyard have agreed to stop playing nuclear chicken. We’re not all going to die in a nuclear holocaust after all. At least not today. The powers that be have been persuaded to drop the arms race and perpetual war as their accepted modus operandum. We can stop squandering all our precious resources on war. We can feed our children, we can keep them warm. We may even learn to cooperate with all our brothers and sisters and even save our beautiful planet home from destruction. Wouldn’t that be nice?
Your Excellencies,
I thank you for your forbearance.
Roger Waters

(参考) 国連安全保障委員会でのウォーターズ

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2022年12月12日 (月)

ロジャー・ウォータース Roger Waters 「The Lockdown Sessions」

コロナ禍にてミュージシャンがリモート集合しての演奏で録音
  (新アルバム・・ストリーミング・サービス・リリース)

<Progressive Rock>

Roger Waters 「The Lockdown Sessions」
Legacy Recordings / 2022

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ROGER WATERS : Vocals,  Guitar,  Piano
"US+THEM Tour"and"This is Not A Drill Tour"Members
Dave Kilminster (g)、Jon Carin (key, g)、Jonathan Wilson (g, vo)、Joey Waronker (d)、Gus Seyffert (b, g)、Robert Walter (org)、Ian Richie (ts)、Bo Koster (Ham)、Lucius(Jess Wolfe, Holly Laessic - vo)、Shanay Johnson (vo)、Amanda Belair (vo)

2022 The copyright in this sound recording is owned by Roger Waters Music Overseas Limited, under exclusive licence to Legacy Recordings, a division of Sony Music Entertainment

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 ピンク・フロイドの"The Creative Genius(創造的才能)"を自負するロジャー・ウォーターズが、ここにストリーミング・サービスにて新アルバムをリリースした。
 このコロナ禍で予定した「This is Not A Drill」ツアーが延期を繰り返していて、ようやく今年北米で実現したところだが(反響が大きく2023年欧州ツアーが追加された)、このロックダウン中2020年から2021年に、彼がツアー・メンバーと連絡を取りつつ、自宅からリモートでつないで新アレンジにて演奏し歌いあった曲がYouTubeで公開していたのであるが、それをここにアルバムとしてリリースした。そして先日紹介した今回の「This is Not A Drill」ツアーのオープニングで公開した曲"Comfartably Numb 2022"のニューバージョンを追加している。
 これは身近にはe-onkyoでは、Hi-Res 音質(flac 48kHz/24bit)でダウンロード出来る為、手に入れたものだ。

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(Tracklist)

1 Mother
2 Two Suns In the Sunset
3 Vera
4 The Gunner's Dream
5 The Bravery of Being Out of Range
6 Comfortably Numb 2022

 ロジャー・ウォーターズはこのようにコメントしている。
 " 僕たちの『US+THEMツアー』は3年に渡って終わった…どのギグでも、ショウの本編を"コンフォタブリー・ナム"で締めくくった後でアンコールをやった。アンコール曲にはいつも"マザー"だ。ツアーの終盤に僕はこう思うようになった、“アンコールを全曲集めたら興味深いアルバムができそうだな”.....そしたらロックダウンになってしまった!、“アンコール”プロジェクトはもう諦めるしかないかと思った時もあったけど…とにかく、この作品集ができた。この最後には"コンフォタブリー・ナム2022"を付け加えた。この愛の輪を締めくくる感嘆符の適切な置き所だと思ってね"

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 もうじき80歳になろうとする彼が精力的な活動をしている。ロックダウン中もツアー・メンバーと連絡を取り合い、リモートによって集まって、それぞれが自分の居場所にて曲を演奏していたのだが、YouTubeでの公開が意外に好評で、ウォーターズはアコーステック・ギターを中心に、時にはピアノも演じてしっとりと歌った曲群だ。

 M1.,  M3., M6.はアルバム「THE WALL」(1979)から、アルバム「THE FINAL CUT」(1983)からはM2., M4.、彼のソロ・アルバム「AMUSED TO DEATH」(1992)から M5.と、相変わらず戦争、社会不安に焦点があり反核を訴える曲が多い。(ウクライナ戦争に関しては、ウクライナ・ゼレンスキー大統領夫人及びプーチン大統領本人に公開書簡を送って話題になった)

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 今回のツアーにおける演奏曲も締めくくりに、問題曲M2." Two Suns In the Sunset"が取り上げられており、彼が一貫して訴えてきた反戦、そして反核の思想はぶれていない。ここでは、夕陽に映える2つの太陽、"風防ガラスが溶けるとともに、僕の涙も蒸発してゆく、後には炭しか残らない・・・灰とダイヤモンド、敵と友人 結局僕らはみな同じなのだ"と、歌い上げ40年間訴え続けている。
 それと関係して余談であるが、私は今回この曲を聴くに付け、彼の大々的ツアー・ライブでは披露していないピンク・フロイドとは別物であるが、映画サウンド・トラック・アルバム「WHEN THE WIND BLOOWS 風が吹くとき」(1986)にある彼の作曲し当時の彼のTHE BLEEDING HEART BANDと演奏した"THE RUSSIAN MISSILE"から"FOLDED FLAGS"までの10曲の中から、歌詞にも意味のある"TOWERS OF FAITH"そして"FOLDED FLAGS"などを、どこかで演奏してほしいと思っているのだが・・・。

 ここでは、M1."Mother"は意味の違う曲だが、これは人気曲で単純にライブのアンコールで彼がソロでよく歌う曲であって、今回も最も早期に披露した。

 いずれにしても、こうして老体にむち打って歌唱の力は落ちたとは言え、訴えを中心に演奏活動も頑張っている彼の姿を見るにつけ、このアルバムにも喝采をしたいと思うのである。

(評価)
□ 曲・演奏  88/100
□ 録音    90/100

(視聴)
"Two suns in the sunset"

*

 

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2022年11月25日 (金)

ロジャー・ウォーターズ Roger Waters 「Comfortably Numb 2022」

ウォーターズの意地の回答
「Comfortably Numb」ニュー・バージョンの登場
暗さと不安と不吉を描く感動の曲に・・・・

<progressive Rock>

Roger Waters 「Comfortably Numb 2022」

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 ロジャー・ウォーターズRoger Waters(1943年生まれ、79歳)は、1979年のピンク・フロイド時代のアルバム『ザ・ウォールTHE WALL』(1979)中の人気曲「Comfortably Numb」の新しいバージョンをリリースした。タイトルは2022年のものとして「Comfortably Numb 2022」となり、アップデートは、オリジナルよりもかなり暗く、描くところ不安と不吉なムードが漂っている。
 これは目下の彼の"別れのショー"としての北米ツアー「This Is Not a Drill」(人気の為、2023年には引き続きヨーロッパでのツアーが3月17日からポルトガルのリスボンで始まり、続いて14か国で40回のショーが追加企画されいている)のオープニングの為に書かれた曲で、話題になっているもの。それをシングルとしてリリースした。(YouTubeにて公開中 ↓)

 「コロナ禍で予定されたツアーが中止となり(今年ようやく2年越しにスタートした)、そのパンデミック下に新しいショーのオープニングとして「Comfortably Numb」の新しいバージョンのデモを作成しました」とR.ウォーターズはニューリリースに関し述べ、「イ短調で、暗くするために一歩下がって、ソロなしでアレンジしました。アウトロのコードシーケンスを除いて、私たちの新しい歌手の1人であるシャネイ・ジョンソンShanay Johnsonによる話題になるほど美しい女性ボーカルソロがあります」と付け加えている。
 成程、彼らしい曲の展開で、現在の世界情勢が破滅に向かう事に対しての警告となっている。

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  ライブ・メンバーの10人のミュージシャンが「Comfortably Numb 2022」の作成に貢献し、ストリングス、パーカッション、ベース、ギターなどを提供し、ウォーターズ自身はトラックを共同プロデュースし、ボーカルも担当した(↑)。

Credits:
Produced by Roger Waters and Gus Seyffert
Roger Waters – Vocals
Gus Seyffert – Bass, Synth, Percussion, Vocals
Joey Waronker – Drums
Dave Kilminster – Vocals
Jonathan Wilson – Harmonium, Synth, Guitar and Vocals
Jon Carin – Synth, Vocals
Shanay Johnson – Vocals
Amanda Belair – Vocals
Robert Walter – Organ/Piano
Nigel Godrich – Strings, amp and backing vocals from Roger Waters ‘The Wall’ Sessions.
Video produced and directed by Sean Evans.

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 もともと1979年のアルバム『The Wall』は、ピンク・フロイドものといっても、中身はロジャー・ウォーターズの自伝にもとづいて彼主導で作成されもので、ロック・オペラとも言えるところもあっての人気アルバムだが、その中の人気曲「Another Brick In The Wall 」は当時、子供の教育問題を歌い上げ、しかも子供のコーラス入りという事で、ご本家英国では発売禁止にもなった話題アルバムだ。
 そしてその中の「Comfortably Numb」(作詞:Roger Waters, 作曲David Gilmour,Roger Waters)は、ピンク・フロイドの有名な曲の1つである。その歌詞は、肝炎に苦しんでいた時のR.ウォーターズがステージに上がる前に精神安定剤を注射された1977年の事件に触発されている。「それは私の人生で最長の2時間でした」と彼は後にローリングストーンに語った。「腕を上げることがほとんどできないときにショーをやろうとしている」といった状況だったようだ。

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 さて、このニュー・バージョンの注目点は、もともとこの曲の人気はR.ウォータースの語り利かすようなヴォーカルと不安なベース音、そしてD.ギルモアの現実の世界から離れる感覚へ誘うギター・ソロが大きな因子であった。そしてR.ウォーターズがピンク・フロイドから離れたあと、多くのファンの期待から「ライブ8」に際して一時的再結成した際の最後のメンバー4人によるショーの締めくくりにも演じられた貴重な曲でもある。
 しかし、その後のファンの期待があってもピンク・フロイドの再結成の夢も実現せず、R.ウォーターズからは彼自身のライブにてD.ギルモアを呼んで、この曲を演じさせたりなどしたが、D.ギルモア側のピンク・フロイド名義の企業的独占欲が強く、もう40年という経過を経ても再結成は実現できないで来た。
  しかもなんとここに来て、ピンク・フロイド再起の一つのターニング・ポイントとなった1977年のアルバム『ANIMALS』のリマスター版の発売に関して、英国ミュージック・ジャーナ・リストのマーク・ブレイクMark Blake(ピンク・フロイド研究に実績と評価がある)の書いたライナー・ノーツ(どうしてもR.ウォーターズの功績が浮き彫りになってしまう)をD.ギルモアが拒否して発売もままならない状況になるという不祥事が起きるなどして、R.ウォーターズは諸々に不信感を持ちそれが極限に達してしまった。

 そんな時に書かれたこの「Comfortable Numb 2022」は、R.ウォーターズの人気曲を使っての"無言の回答"である。人気のあったD.ギルモアのギター・パーツをすぱっと削除して、R.ウォーターズの得意の社会の不安、人間の不安を描ききった。しかもそこには全く異なったメロディーで美しい女性ヴォーカルを聴かせ、今回のツアーにおける冒頭の曲として登場させ、多くの喝采を得たのである。そして曲に対する多くの要望で、なんとここにシングル・リリースとなった。
 ここにて彼は完全にD.ギルモアを切ったのである。そしてそれが彼の「Farewell Tour」として演じられているのだ。

(評価)
□ 編曲・演奏 : 90/100
□   録音           : 87/100  

(LIVE視聴)

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2022年9月20日 (火)

ピンク・フロイド Pink Floyd  「Animals 2018 Remix」

「ライナー・ノーツ騒動」経てようやく発売・・・・
5.1サラウンド・ミックス、ステレオ・ミックスHi-Res盤 など各種

<Progressive Rock>

Pink Floyd  「Animals 2018 Remix」
①Sony Music Japan / JPN /SICP-6480
②e-onkyo /Hi-Res flac  192kHz/24bit
③Blue-ray audio : 5.1 surround

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(BLUE-RAY AUDIO)
2018 Remix - Stereo: 24-bit/192kHz Uncompressed, dts-HD MA
2018 Remix - 5.1 Surround: 24-bit/96kHz Uncompressed, dts-HD MA
1977 Original Stereo: 24-bit/192kHz Uncompressed, dts-HD MA

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(Tracklist)

1.Pigs on the Wing 翼を持った豚(Part One)
2.Dogs 犬
3.Pigs 豚(Three Different Ones)
4.Sheep 羊
5.Pigs on the Wing 翼を持った豚(Part Two)

F78645b2368a27911afd2d24cw   ピンク・フロイドの第4期スタートとなったロジャー・ウォーターズ主導で制作された1977年発売のコンセプトアルバム『Animals』の2018年リミックス盤が、なんだかんだとすったもんだしてようやくリリースされた。ジェームス・ガスリーによってオリジナルマスターテープからのリミックスだが、特に最近「Pink Floyd権」を持つD.ギルモアとその一派(敢えて一派というのは、まさしくロジャー・ウォーターズがいみじくも歌ったアルバム『炎』の曲"Welcome To The Machinようこそマシーンへ"で批判した音楽産業の営利独占主義そのものになってしまっているギルモアの女房で実業家のpolly samson主導のアメリカ流商業主義の組織である)のマーク・ブレイクMark Blake(英国ミュージック・ジャーナリスト)がこのリミックス盤の為に書いたライナー・ノーツを拒否するというみっともない独占欲の抵抗で、遅れに遅れてここに日の目を見た。・・・これに関しては既に詳しくここ記したところである(参照:"2021.7.4「Pink floyd 「Animals」(5.1Surround)」リリースか")

  これも話題になったロジャー・ウォーターズの発想でバターシー発電所に豚が飛ぶ象徴的なアートワークも、ヒプノシスの元メンバーでもあったアートデザイナー、オーブリー・パウエルによって元画(↓参照)を生かして一新、上のように現代風に衣替え(初めて見たときは、これは現代調で良いと思ったが、比較してみると1977年のオリジナル・デザインの方が、やっぱりいいですね)。ここに 発売45周年、またバンドのデビュー55周年を迎えた2022年ついにピンク・フロイドの歴史的問題作が一新リリースとなったのである。

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 この『Animals』は、人間の世界を動物に置き換えながら社会問題を痛烈に批判したコンセプトのプログレッシブ・ヘビー・ロック・アルバム。
 又この1970年代半ばは、英国において特に社会不安高まった時代だった。ロック界はプログレッシブ・ロックの波が最高潮を迎え、その結果形骸化、AOR化という流れは否定できず、それに反応してのパンクの波の襲来は、イエス、キング・クリムゾンなどの巨星をも撃沈し、当然恐竜と化したピンクロフロイドにも向かった。確かにピンク・フロイドもアルバム『炎』の内向き傾向から方向性を失いつつあった中で、この刺激こそ眠っていたロジャー・ウォーターズの眼を覚ましたのである。そして彼は自身の目論見の為にはアルバム制作にマイナスの者の締め出しも行った。これはこのバンドの頂点への一歩であったと同時に、ある意味悲劇の始まりでもある。

 とにかくこの英国社会不安は、当時労働組合と労働党政府の間での断絶、ストライキの発生、経済不安は頂点に達し、スポーツでもサッカーは衝突の場となり、街にも暴力が増えパンクとスキンヘッドの連中により扇動された不安社会が動き、一方右翼の台頭は人種問題にまで発展していた。こんな時にウォーターズの世界観が動かないはずはない。そしてピンク・フロイドは宇宙的浮遊的快いサウンドから、ウォーターズは新しいサウンドの試みを展開し、ウォーターズの歌詞にも誘導され、ギルモアもそのキター・ワークはヘビーな展開を見せたのだ。ただ一人リック・ライトの色は消え、彼の協力も薄くなりクレジットから消えてしまっている。
 このフロイドの新時代が・・・彼らの歴史の中でも最高潮の4期の開幕となったのである。

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 こんな事態背景の中でのロック界、ピンク・フロイドは消滅に向かうだろうという見方がなされ、代わりにセックス・ピストルズのようなバンドに方向は向いていた。しかしこのアルバムの登場は、ミュージック評論家はこぞってネガティブ反応とフロイド・ミュージックの変化に批判を集中させたが、しかし事態はそれに反して、ピンク・フロイド熱は更に上昇し、各地でのライブは異常な熱気の中で成功をおさめ、パンクからの支持まで生まれ、ロック市場では圧倒的支持を得たのである。更にバンドには当時ウォーターズの要請でスノーウィ・ホワイトがサポート・ギタリストとして加わってツイン・ギターのスタイルでこれも好評だった。

 このアルバムの中身は長編"Dogs犬", "Pigs豚(Three differrent ones)" 、"sheep羊"3曲と、ウォーターズのソロ"Pigs on The Wing翼を持った豚 part1,part2"によって成り立っているが、一曲はウォーターズとギルモアの共作だが、その他は全てウォーターズの曲、そして作詞は全てウォーターズであり、"支配階級"(豚の社会構造連鎖の頂点に金と権力で太る存在)、"権力者"(ビジネスのボスたる犬)、"従順な羊"を描き社会の三構造に痛烈な批判をする(しかし、よく聴いてみると一般に言われるようなそんな単純でないところにウォーターズの意図は隠されている。社会の疎外と残酷さが暗くのしかかってくるし、羊の犬に対しての逆襲をも示唆している)、なんと冒頭と最後の曲"翼を持った豚"は、対照的に非常に優しい歌でウォーターズのロマンスの相手キャロライン・クリスティーに捧げているという芸達者だ。

 こうしてロック・ミュージックは、その時代の社会に根差したものとしての市民権の獲得に根拠を回復し、ピンク・フロイドはウォ-ターズ主導の社会派転換によって更に基盤は確実なものに築き上げられた。続く『The Wall』、『Final Cut』と他の追従を許さない世界の構築がなされるのだ。しかしこれが又ピンク・フロイドにとっての一つの悲劇ともなった。

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 今回は、当然私はリミックス盤として、「BLUE-RAY AUDIO」盤を手に入れたが、ここには「2018REMIX」の①5.1Surround 24bit/96kHz と、②Stereo 24bit/192KHz が収録されている。又e-onkyoからHi-Res192kHz/24bitもダウン・ロードして聴いているが、しかし今回のREMIXは、宣伝にあるほどの大きな変化はない。従って5.1Surroundがお勧めである。しかしこのSurroundも昔のもののような著名な音の分離はなく、比較的前面に音を集めていて聴きやすく作られている。そんな訳で、面白さという点では少々期待を裏切っていた。
 目下80歳を目の前にしているウォーターズは北米ツアー「This is not a Drill」を展開して、相変わらず社会問題としての訴えを続けている。そしてそこには今回はこのアルバムからの"Sheep"を演じているのだ。彼は過去のどのツアーにおいてもこの『Animals』からは必ず一曲は演じ、特に"Bigs"によるトランプ前米国大統領批判はインパクトを残している。

(評価)
Remix効果  :   80/100
Surround効果 :  70/100

(参考試聴)

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2022年7月23日 (土)

ロジャー・ウォータース Roger Waters 大規模ツアー「This Is Not a Drill」開始

ピンク・フロイドのCREATIVE GENIUS(創造的才能)の
面目躍如の世界 
 --  初めての別れのツアーの開始 -- (その1)
           

<Progressive Rock>
Roger Waters :「This Is Not a Drill」- 2022Tour

 ロジャー・ウォーターズがこの7月6日、ペンシルヴェニア州ピッツバーグのPPGペインツ・アリーナで公演を行ない、4年ぶりの北米ツアー「This Is Not a Drill」が幕を開けた。

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 もうじき80歳を迎える彼にとって、おそらく最後の大規模ツアーであろうと見られているが、今年いっぱい北米中心に行われる。そんなことの為か、会場でのスタートに当たってのアナウンスが会場スクリーンに映し出されるテキストと共に流れる。いやはや彼独特の皮肉も込められたアナウンスだ。

 If You're one of those " I Love Pink Floyd, but I can't stand Roger's Politics " people, You might do well to fuck off the bar right now.
    (あなたが「ピンク・フロイドは大好きだけど、ロジャーの政治に耐えられない」人の一人なら、今すぐバーにファックオフするのが良いかもしれません)

 これには、冒頭からファンも度肝を抜かれつつ熱狂的な拍手とロジャーの期待道理のブーイングすらも寄せられた。彼のメッセージが大々的なショーでの歓声となんと嘲笑でも満たされるのは一つのマジックでもあり、又ロジャーの総決算的心の開示でもある。こんなところがロジャーにしかないロックの歴史に残してきた世界でもあり、又それが彼に対しての狂信的なファンを生んで来た所以である。

 こうして彼の総決算とも言える異色のステージがオープンする。
 それを物語るのが、冒頭の曲"Comfortly Numb"だが、これがなんと驚きの新編曲での展開だった。そこには、より暗く深く沈み込むアレンジによりバックスクリーンに描かれるは、荒廃した都市景観が描かれ、その風景を通り抜ける無表情・無感覚な人々の地上の崩壊の黙示録的な情景。こんな叙事詩的であり非常に暗示的な世界を描きつつスタートするのだ。そしてなんとこの曲の有名なギターソロを放棄し、非常に深遠にして重厚感ある音空間を広げるのだ。普通なら圧倒的なバンド演奏で迫ってのライブ・スタートとなるのだが、今回は見事に裏切り、深遠な響きと視覚と聴覚の霧のような霞んだ世界を作り出すことによって、それは群衆を一つの奥深い世界に誘い、神経を集中させる手法をとった。

 

 いままでの、ツアーに見られた彼の意識や信条、社会批判、反戦の世界を描くものとしての位置づけは更に濃密になっている。その上に最近繰り広げられた1977年のアルバム『ANIMALSアニマルズ』のデラックス・リイッシューに関して起きたロジャーとデヴィッド・ギルモアとの騒動、ここに書かれた貴重なアニマルズ誕生の秘話のマーク・ブレイクMark Blakeのライナーノーツにギルモアが反発したことを知ってのロジャーの不信感の爆発、その結果の一つがこのギルモアのギター・ソロを無視した曲の編曲がなされた一つの所以でもある。そして一方、曲というのは造りようによっては、どんな変化をもたらすか、そこに訴えるものは何か、そしてもたらす効果は何なのかをここに示したのである。1977年が2022年に通ずるというこのあたりがトリックの得意なロジャーのなせる業だ。

 ピンク・フロイドがアルバム『THE DARK SIDE OF THE MOON 狂気』『WISH YOU WERE HERE 炎』で、プログレッシブ・ロックの頂点に立ったときに、これらをAORとして否定する社会派ロック運動の一つであったパンク・ムーブントへの回答として、ロジャーが作り出したアルバム『ANIMALS』の世界観であったことの暴露は、あまりにもロジャーの偉業が大きすぎるために、ピンク・フロイドを名乗っているにも関わらず、影に隠れてしまうことを嫌ったギルモアの抵抗でもあった。この事のあまりの馬鹿馬鹿しさにロジャーおよびニック・メイスンはこのライナー・ノーツの掲載に関してはやむを得ないものとして折れて載せることを止めることを認めたわけだが、そんな「歴史的社会現象の中から生まれてくるロック・ミュージックの流れ」を現代の若者に伝えたいという作業は、「単なるミュージック」として捉えるギルモアの思惑で消えることになった。ロジャーにしてみれば、ロックのロックたる所以は音楽であると同時に訴えであることが重要と考えているためだ。これがこの9月リリース予定のリイッシュー・リマスター・アルバム『ANIMALS』騒動であった。

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 今回のライブでも、アルバム『ANIMALS』から曲"Sheep"を登場させている。前回の「US+THEM Tour」では曲"Big"、"Dog"を登場させ、トランプ批判を展開したが、今回もこのアルバムでの社会批判はロジャーにとっては後期ピンク・フロイド・ミュージックの魂でもあることによっている。これがあのアルバム『THE WALL』にもつながるのであるから。このあたりが、彼が"Creative Genius of Pink Floyd"(ピンク・フロイドの創造的才能)と言われる所以でもある。

 (参考)この「アニマルズ」の誕生の背景には、英国の産業競争、経済混乱、北アイルランド問題、人種問題・暴動などの時代があり、アルバム・コンセプトがロジャーにより造られ(1曲のみ共作で、残る4曲はロジャーによるもので、すべての歌詞もロジャー作だ)、「羊」が経済的優位に立つ専制的な「豚」とインテリに代表される権威主義的な「犬」に仕えるという動物を擬人化しての"悪循環に陥った人類・社会の描写とその問題と批判"に集中したものである。

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■Roger Waters, PPG Paints Arena, Pittsburgh, PA, July 6, 2022, Setlist
-Set 1-
1. Comfortably Numb
2. The Happiest Days of Our Lives
3. Another Brick in the Wall, Part 2
4. Another Brick in the Wall, Part 3
5. The Powers That Be
6. The Bravery of Being Out of Range
7. The Bar
8. Have a Cigar
9. Wish You Were Here
10. Shine On You Crazy Diamond(Parts VI-IX)
11. Sheep
-Set 2-
12. In the Flesh
13. Run Like Hell
14. Déjà Vu
15. Is This the Life We Really Want?
16. Money
17. Us and Them
18. Any Colour You Like
19. Brain Damage
20. Eclipse
21. Two Suns in the Sunset
22. The Bar(Reprise)
23. Outside the Wall

 今回は、ピンク・フロイド曲は当然だが、ロジャーのソロ・アルバムから5曲登場し、更に新曲"The Bar"が演じられている。バンド・メンバーは若干の変動はあるがギタリストのジョナサン・ウィルソンとデイヴ・キルミンスター、ギタリスト/ベーシストのガス・セイファート、キーボーディスト/ギタリストのジョン・キャリンあたりは常連で変わっていない。又このところ時々見られるロジャーのピアノの演奏が初めてツアー・ライブに登場した。

(Band members)
Roger Waters (b, g, piano, vo)
Dave Kilminster (g)
Jon Carin (key, g)
Jonathan Wilson (g, vo)
Joey Waronker (d)
Gus Seyffert (b, g)
Robert Walter (org)
Amanda Belair (vo)
Shanay Johnson (vo)
Seamus Blake (ts)

Remasteranimalsw  ちょうどこのツアーと期を一にして、2018年ジェームズ・ガスリーによるピンク・フロイド・アルバム『ANIMALS』の新しいミックスが完成し、当アルバム史上初の5.1サラウンド・サウンド・ミックスも登場する。パンデミック下であったことと、ロジャー・ウォーターズとデヴィッド・ギルモアの絶え間ない口論の間で(問題のライナー・ノーツを書いたピンク・フロイド研究で評価の高いマーク・ブレイクにしてみれば、内容の真実に対してのギルモアの拒否行動にはあきれると同時に空しかったようだ)、実際に発売までには時間がかかったが、ついにこの9月16日にさまざまなエディションで発売されることとなった。これも考えてみると奇遇である。

 今回のこのツアーは、ロジャーの"初めての別れのツアー"と言われている。彼が、祖父そして父親の戦死よりの孤独な幼少期から始まっての社会への疑惑、国家的教育の不信、世界の紛争、戦争、貧困、人種問題などなど社会に疑問の人生から生まれたロック・ミュージックに生きて、ここに80歳を迎えようとして、今なお訴えるロック魂を失われずいるのが不思議なくらいだが、ここに別れのツアーを開始したのだ。

(試聴)

 

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2021年12月 1日 (水)

箱根アフロディーテ50周年記念の年として・・ピンク・フロイド

ピンク・フロイド Pink Floyd
アルバム「原子心母」の再発と1971年来日映像、更に「完全記録盤」の出現

  今年も最後の12月を迎えました。コロナ禍ということで日本始め世界の全てが抑制され、日本で華々しく行われるはずであった「オリンピック」「パラリンピック」も無観客開催という異例の盛り上がらないものとして終わった。
 音楽界も大々的なライブ活動や、落ち着いた小さな会場でのライブも中止されて例の無い低調な年でもあった。

 思い起こすと、ロックが社会を動かしていた時代に、初来日で話題になった伝説の「ピンク・フロイドの箱根アフロディーテ・ライブ」が行われて50年、そんな記念の年でもあった。従って日本でも記念的動きがあった中でのピンク・フロイド記念アルバムのリリースもあったので、日本企画で「箱根アフロディーテ」の映像盤とアルバム「原子心母」の再発が行われた。ちょっと時間が経ったが、年末も近くなったので今年の記念行事みたいなものなので、ここに取上げておく。

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<Progressive Rock>

Pink Floyd 「Atom Heart Mother」
Sony Music Entertainment / JPN / SICP-6396-7 / 2021

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<CD>
1.Atom Heart Mother
2.If
3.Summer'68
4.Fat Old Sun
5.Alan's Psychedelic Breakfast

<Blu-ray>
1.Hakine Aphrodite Festival,1971
2.Scott & Watt

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 CDは、アルバム『Atom Heart Mother 原子心母』そのものである。このアルバムは1970年10月のリリースで、来日の前年である。従つて来日ライブの曲目としては、当然メインのものとなるが、そもそもこのアルバムは、所謂ロックの分野で"Progressive Rock"といわれるものが提唱された記念的アルバムで、これ以降キング・クリムゾン、イエスなども"プログレ"といわれる世界に評価されるようになったものだ。
 このプログレというものは、日本盤アルバムの帯に「ピンク・フロイドの道はプログレッシブ・ロックの道なり!」と書かれたことが有名で、意外に日本において世界のロックの区分けをする草分けになったととも言われていて、そんな意味でも記念的アルバムである。今回はその再発であるが、音質はそれなりに改善している(2011年リマスターしたものかとも思われる)。

 Blu-rayは、伝説の箱根アフロディーテのライブ映像版だが、内容はかなりお粗末。当時放送されたものの映像を手を加えて見やすく改善されているが、特に新鮮なところは無い。かって我々が見てきたものと大差は無い。来日の羽田空港からの映像など、これもかって見たものである。ロジャーが女房のジュディ・トリムと仲良くしているところが印象的だ。
 その他、3分ほどのものだが、ピンク・フロイドのクルーを追いかけたB-Roll映像が新発見され、ホテルから機材を積んでトラックで運び、現地で前日の大雨で泥濘にはまった機材車をブルドーザーが引っ張っている様子など、短いながらも当時の会場設営の苦労風景を見ることのできるという、貴重と言えば貴重な映像が付け加えられている。

 いずれにしても、しかし6600円で大騒ぎして売るほどのものでは無いと思った次第。

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█ 
 さて、話題を変えて、その箱根アフロディーテのライブは、映像は極めて少なくもうこれ以上は出てこないと思われるが、ライブ音源記録も実はなかなかパーフェクトなものも無く、なんと当日の演奏のセットリストも寧ろ謎になっていたところもある。しかし、ここに来てSigmaから貴重盤が出ているのでこちらを紹介する。
 上の記念盤の映像を見ておいて、こちらはブートではあるが、アフロディーテのパーフェクト音源収録盤として聴くこと出来る。それには良好の記録を選りすぐって編集して完全なライブ記録に仕上げたもので、全貌を知ることが出来るという寧ろこれこそ貴重盤だ。

<Progressive Rock>

PIMK FLOYD 「HAKINE APHRODITE 1971 2ND NIGHT」-50TH ANNIVERSARY-
Sigma 283 / 2021

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HAKONE Aphrodite, Hakone, Japan 7th Augast 1971 TRULY PERFECT SOUND(from Original Masters)

Disc 1 (65:51)1. The Circle Game (Buffy Sainte-Marie)
2. Soundcheck / Announcement
3. Atom Heart Mother 
4. Soundcheck
5. Green Is The Colour
6. Careful With That Axe, Eugene 
7. Soundcheck 
8. Echoes

Disc 2 (43:55) 
1. Soundcheck 
2. Set The Controls For The Heart Of The Sun 
3. A Saucerful Of Secrets
4. Soundcheck
5. Cymbaline

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 これまでアフロディーテ録音もので箱根初日と思われたものも、ここに来て全て箱根二日目の記録であることが明らかになり、いわゆる注目盤は全て二日目と言うことであった。それは勿論オーディエンスものであり、主として下に紹介する五つの記録がある。しかし残念ながら、それぞれ完全なモノは一つも無かったのであった。

 ▶[記録1=モノラル録音46分] 幻の名作アナログ・モノラル録音もの
 ▶[記録2=ステレオ録音62分] 最高音質を誇るステレオ録音(『APHRODITE1971』既発)
 ▶[記録3=モノラル録音31分] 取り柄が特になし
 ▶[記録4=モノラル録音55分] 名音源、"太陽讃歌"と"エコーズ"が完全収録
 ▶[記録5=モノラル録音100分] 最長録音モノで"神秘"が初めて聴けたもの。"太陽讃歌"、"シンバライン"もノーカット。謎のあった当日を完全解明することの出来た貴重モノ

 このブート・アルバムは、これらの五つの録音モノを分析して、欠落部を補完する作業をし、完全版の制作を行ったモノである。簡単に説明すると・・・
 まず、Disc1のライブ前半は、最高録音モノ[記録2]を中心に完全化したもの。"ュージン"の中盤の30秒、"エコーズ"の終盤5分を[記録4・5]で補完。
 Disc2は、最長モノ[記録5]を[記録4]で補完。

 このように、最良のものを中心に欠けていた部分を補完して、曲間も含めて完成させた100分を超える第二日完全盤である。

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 とにかく、このライブにおいてもピンク・フロイドは手抜きをしていないことが良く解る。発売後間もなくであった"原子心母"、そして当時実験中の"エコーズ"と、更に謎であったセットリストは、過去のライブ人気曲の"ユージン"、『モア』の"グリーン・イズ・ザ・カラー"、"シンバライン"などを全て網羅している。この辺りはプロ根性ですね、手抜きはしていない。そしてその当日の記録が完全に聴けるのである。

   演奏内容は"原子心母"からスタートするが、オートバイの効果音は冒頭に配しているが、勿論アルバムのようにチェロ、ブラスバンド、コーラス隊はない。実は彼らのライブは殆どこのタイプだが、ギルモアのギターやウォーターズのベースとライトのキーボードの旋律の流れなどの演奏の味があって、このほうが私は好きなのである。そして続くは、美しいウォーターズの曲"Green is The Colour"、これはシド・バレットの抜けた後、ギルモアをなんとか売り出そうとウォーターズが彼に歌わせたモノである。そしてウォーターズの絶叫曲"ユージン"もしっかり披露している。又この年11月にリリースされた『おせっかい』の"エコーズ"も24分の演奏でほぼ完成されている。
 その他も改めて聴くと後半の"神秘"の演奏も19分で迫力満点、しかも打ち上げられた花火の音も収録されている。最後は"シンバライン"で聴衆の拍手の音頭と共に演奏され括っているのも感動もの。

 とにかくこの二枚組ブートこそ、謎だらけであった「箱根アフロディーテ」を知ることと共に感動を呼ぶ貴重盤であるのだ。

 

(視聴) 箱根アフロディーテ

*
Atom Heart Mother 1970

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2021年7月16日 (金)

スノーウィ・ホワイト Snowy White 「SOMETHING ON ME」

ホワイトらしい優しさに包まれたブルース・ロック色が濃い

<Rock>

Snowy White and The White Flames「SOMETHING ON ME」
Soulfood / EU / SWWF2020 / 2020

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Snowy White : Guitor
Thomas White : Drums
Rowan Bassetts : Bass
Juan van Emmerloott : Drums, Perercussion
Ferry Lagenddijk : Piano, Organ
Max Middleton : Keys

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 スノーウィ・ホワイト Snowy White(1948-)(→)は私の愛するギタリストだが、70年代から活動し、80年代初頭にソロキャリアを開始した。「Blues Agency」、「Blues Project」、「The White Flames」などの名前で独自のバンドを結成してきた。かってのピーター・グリーン(フリートウッド・マック)、ピンク・フロイド、ロジャー・ウォーターズなどとの共演、そしてアイルランドのハードロックバンド、シン・リジィなどの活動も見逃せない。私が興味を持ったのは70年代にピンク・フロイドのサポート・メンバーとしての時代だが、その後ロジャー・ウォーターズとの活動は長きにわたった。

 このニュー・アルバムは「The White Flames」となっているが、メンバーは一新されている。もともと1993年から2000年の間に、彼は2人のなかなか味のあるオランダ・インドネシアのミュージシャン、Juan van Emmerloot(ドラム/パーカッション)とWalter Latupeirissa(ベースとリズムギター)と一緒にツアーとレコーディングを行った。 「The White Flames」として、彼らは『No Faith Requir』、『Restless』、『The Way It Is』、『Realistic』などの一連のアルバムをリリースし、ヨーロッパ全土でライブ演奏した。更にバンドはキーボードのマックス・ミドルトンMax Middletonをも増強しての充実ぶりだった。
 その後近年2017年の「The White Flames」のアルバム『Reunited...』(SWWF2017)ではこのメンバーが久しぶり集結していたが、2019年には『THE SITUATION』(SWWF 2019)をリリース。今回は主としてドラムスにThomas White、ベースにRowan Bassettsと (Juan van Emmerloottが曲により参加)なり、その他多様な「The White Flames」メンバーが競演していて、演奏スタイルも更に優しくなって変化している。そして彼の控えめな態度がそのものとして、ジャケでは彼は愛器ギブソンの影に顔を隠しているところが面白い。

Snowy_white1w_20210715154501 (Tracklist)
1.Something On Me (7:44)
2.Another Blue Night (5:09)
3.Another Life (5:13)
4.Get Responsible (5:08)
5.Cool Down (3:42)
6.Ain’t Gonna Lean On You (8:00)
7.It’s Only The Blues (5:45)
8.Commercial Suicide (7:05)
9.I Wish I Could (4:22)
10.Whiteflames Chill (4:29)
11.One More Traveller (4:40)

  全曲、ホワイト自身のオリジナル曲。相変わらず刺激のない彼独特のヴォーカルが聴ける。とにかくよき時代から今日までのロック界においては、最も紳士といわれる彼だから、極めて大人の味を聴かせてくれる。とにかくクラシックなブルース指向の英国のエレクトリック・ギター・プレーヤーの1人で、そのサウンド、テクニック、スタイルは、ブルースの独創性とモダンロックの因子を反映し、彼独自と言ってよい「イングリッシュ・ブルース」を構築した。ハード・エッジのリフを持ってブルース・フレーズを演じての世界は、極めて上品なギター演奏で、それに基づいたどちらかというとのんびりとしたブルージーな曲仕上げ、このアルバムは、なかなか品と味の音楽コレクションである。 

 こうしたブルースとの彼の交わりは、かって70年代に、今や伝説的なブリティッシュブルースのギタリストであるピーター・グリーンと親しくなり、一緒にジャムをすることに多くの時間を費やしたという経過が大きく影響していると思われる。これはバンド「Blues Project」という活動にも残されている。

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 彼自身が独自での主体的に演ずるとこんな世界となり、実は元ピンク・フロイドのロジャー・ウォーターズの攻撃性のロックとは、見方によると相対するモノとなっている。ところがその彼がロジャー・ウォーターズの総決起集会のような何年にも及ぶ世界ツアーなどに、『Roger Waters THE WALL Live in Berlin』以降、ほぼ25年間に及ぶ間、ずっと長く付き合ってきたのは実に不思議な現象である。この違いこそが、むしろ両者をしてお互いに無いものをもってして、相手を認め合うところとなったのではないかと想像するのだ。男同士の付き合いというのはそれなりに不思議なもので、とにかく彼の今日の老界に突入する前は、殆どロジャー・ウォーターズとのお付き合いに費やされており、合間をみてソロ・アルバムをリリースしてきた。   

 このアルバムは、どちらかというとブルース主体のバンド「Blues Project」よりは、メンバーの関係か、ややハード・ロックよりの「The White Flames」名のバンドで演じたものであるが、それでも彼なりのブルースよりの演奏が主体になっている。とにかく何ともいえない優しい世界に包まれており、彼の今の安定した老期を迎えての一つの世界であると同時に、世界のコロナ・パンデミック社会を見据えてのアルバム作りになっていたものかも知れない。

(評価)
□ 曲・演奏・歌 :  85/100
□   録音     :  85/100

(試聴)

 

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