ロジャー・ウォーターズ

2020年10月 5日 (月)

ロジャー・ウォーターズ Roger Waters 映像盤「US + THEM」

幼い少女の死を描きつつ・・訴えるロジャーの世界が展開

<Progressive Rock>

[Blu-Ray DISC] Roger Waters 「US + THEM」
A FILM BY SEAN EVANS and ROGER WATERS

Sony Musuc / JPN / SIXP 40 / 2020

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 "Creative Genius of Pink Floyd(ピンク・フロイドの創造的鬼才)"と言われるロジャー・ウォーターズのまさしく史上最高のツアーの一つと評価された『US+THEM』ライブ映像版である。かねてから、世界各所限定劇場公開などで話題になった映像のBlu-Rayのサラウンド・サウンド集録盤だ。このツアーは全世界で230万人を動員したと言われるが、その2018年6月アムステルダム公演の収録である。

(Tracklist)

006 1.Intro
2.Speak To Me
3.Breathe
4.One of These Days
5.Time
6.Breathe (Reprise)
7.The Great Gig in the Sky
8.Welcome to the Machine
9.Deja Vu
10.The Last Refugee
11.Picture That
12.Wish You Were Here
13.The Happiest Days of Our Lives
14.Another Brick in the Wall Part 2
15.Another Brick in the Wall Part 3
16.Dogs
17.Pigs (Three Different Ones)
18.Money
19.Us & Them
20.Brain Damage
21.Eclipse
22.The Last Refugee (Reprise)
23.Deja Vu (Reprise)

ボーナス映像:
"FLEETING GLIMPSE" Documentary
"COMFORTABLY NUMB" (Live Performance)
"SMELL THE ROSES" (Live Performance)

収録2時間27分

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 ここでは何度か既に取上げてきたライブだが、2017年から世界各国1年半に及ぶ『死滅遊戯』以来25年ぶりの新作『イズ・ディス・ザ・ライフ・ウィ・リアリー・ウォント?』に伴うワールドツアーであったが、『狂気』『炎』『アニマルズ』『ザ・ウォール』等からのピンク・フロイド時代の名曲というか、彼が当時情熱を込めたメッセージが今にしても通用するところに焦点を当て、例の如く光の洪水、最新テクノロジーによる最新鋭の巨大LEDスクリーンに映し出される"幼き女の子の死においやられる世界"、そして人権、自由、愛を訴える映像とともに、最高のサウンドと一般のコンサートとは異なる劇場的な演出で甦みがえらせる。最後は突然スクリーンとは別に、観客の上部にアルバム『狂気』のジャケット・アートそのものの7色のレーザー光線が作り上げるピラミッドの美しいトライアングルが浮かび上がって、観衆を驚かせる。

一方この数年来のトランプ政治にみる情勢に痛烈なネガティブ・メッセージを、彼の世界観から訴えた。

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 このライブは、2017年5月26日米カンザスシティよりスタート、2018年12月まで約1年半に渡って行われたワールド・ツアー。北米、オーストラリア、ニュージーランド、欧州、ロシア、南米、中南米と(残念ながら日本公演なし)廻り全156回、230万人の動員を記録。このツアー・タイトルはピンク・フロイドが1973年に発表したアルバム『狂気(The Dark Side of the Moon)』の収録曲の"Us and Them"から来ているが、基本的に当時と変わらぬ"我々と彼ら"という分断に批判を呈して、我々も彼らも一緒でなければならないという訴えであり、そこにトランプ政策への戦いを宣言して、それで"Us +(プラス) Them"としての世界を訴えたのだ。又ここ何年間の彼のテーマである中東パレスチナ問題にも焦点を当てている。

 もともと彼の持つ疎外感に加え、人間社会に見る苦難・破壊・滅亡について彼が何十年も前から訴え続けている厳しい警告をも織り込んでいるところが恐ろしい。

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 さらに加えて、宗教、戦争、政治が引き起こす現在進行形のさまざまな問題への異議を唱えるメッセージが次々に映し出されていく。そこには特にここ何年と訴えてきたパレスチナ問題を中心に、中東で今起きている諸問題にも警告を発する。

 ロジャーが提示しているのは、社会悪の"戦争"というものである。今知るべきは、中東で難民化しているパレスチナ、シリア等の人民の姿だ。母国の独裁から逃れるべく幼い娘との逃避行で海辺へと向かうが、その最愛の幼き娘を逃避行の失敗により失ってしまう。自分は難民の生活の中からフラメンコの踊り子として生きているのだが・・・幸せは無い。こんな悲惨な一般市民の人々を生み出してゆく戦争の無残さ、悲劇をこのライブ全体を通して一つのテーマとして描いているのも、戦争で父親を幼きときに失ったロジャーの一貫した反戦思想の姿である。
 このことは、彼の近作からの曲"The Last Refugee"にみるスクリーンの映像に描かれる。そこにはAzzurra Caccetta(上)の見事な踊りと演技が会場に涙と共に訴える。

 とにかくライブ会場のトリックも見応え十分だ。曲"Dogs"では、想像もつかないアリーナのど真ん中を分断する壁を出現させ、かってピンク・フロイド時代にヒプノシスと決別して彼自身がデザインした『アニマルズ』のジャケットにみたバタシー・パワー・ステーション(発電所)が出現する。テーマは、アメリカ大統領への痛烈なメッセージである。なんとトランプを豚にたとえ「Fuck The Pigs」(ブタども、くそ食らえ)の看板も掲げる。曲"Pigs(Three Differrent Ones)"では、"トランプ大統領"を批判しこき下ろす映像に加えて"空飛ぶ豚"が会場中を旋回する。
  あの物議をかもした1977年という45年も前の問題作『アニマルズ』が、今にして生きていることに驚くのである。

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 ここまで演ずるものは、あらゆるロック・ショーではとても見られない「ロジャー・ウォーターズ独特の世界」であり、その迫ってくる会場においては飽きるところを知らないのである。

  このライブ映像は編集された作品として、2019年10~11月にかけて世界各所で映画上映として公開された。今回発売されるBlu-ray・DVDには、映画版には収録されていなかった曲の"コンフォタブリー・ナム", "スメル・ザ・ローゼス"のライヴ映像2曲、そして、ツアーの舞台裏を公開するドキュメンタリー・フィルム『ア・フリーティング・グリンプス』がボーナス映像として収録されているのも嬉しい。

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 ライブ・バンド・メンバーは10名編成バンドで、重要なギターはお馴染みのデイブ・キルミンスター(上左)に加えて人気のジョナサン・ウィルソン(上中央)のツイン構成。そしてジョン・カーリン(上右)がキー・ボードを中心にマルチなプレイヤーぶりを発揮。また、女性ヴォール陣はLUCIUSの二人、又サックスは長い付き合いになっているイアン・リッチー。2年間通して同じメンバーでやりきった団結力も見事であった。

 このライヴに見るものは、ロジャー・ウォーターズがミュージシャンであると同時に総合エンターテイナーであり、ミュージックを単なるミュージックに終わらせない政治的批判発言者であり闘争者でもある事実だ。しかし究極的にはUSとTHEMの「団結と愛」を訴えるところに悲壮感も見え隠れする。
 

(参考視聴)

 

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2020年7月22日 (水)

ピンク・フロイドの「the best of tour 72」の完全版の出現

まだまだ続くピンク・フロイドの「72'レインボーシアター名演」の完璧録音盤への道

 

<Progressive Rock>

PINK FLOYD  「LIVE  THE BEST OF TOUR72  - DEFINITIVE EDITION」
Sigma / ITA-JPN / Sigma 249-1,2 /2020

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Rainbow Theatre, Finsbury Park, London , UK  20th February 1972

(Tracklist)

Uktour <Disc1>  (74分14秒)
Breathe

Variation Of "On The Run"
Time
Breathe Reprise
Variation Of "The Grate Gig In The Sky" Part One
Variation Of "The Grate Gig In The Sky" Part Two
Money
Us And Them
Any Colour You Like
Brain Damage
Eclipse
One of These Days
Careful with  That Axe, Eugene 

<Disc-2> (66分49秒)
Tuning
Echoes
A Sauceful Of Secrets
Blues
Set The Controls for The Heart Of The Sun

 ここにフロイド・ファンにとっては、かけがいのない「72年レインボーシアターライブ」(右上)の決定版アルバムの出現をみた。
   これは1972年の冒頭を飾る「UK TOUR '72」において、1年後にリリースした彼らの最も最高傑作のアルバム『The Dark Side of The Moon狂気』の全容を、初めてステージで公開した最も注目されるライブであった (これは前年71年の11月29日から12月10日までロンドンのDecca Studiosにてアルバムとライブの為にデモ・レコーディングを行い、'72になって1月17-19日リハーサルを行い、1月20日からUKツアーをスタートさせ、2月20日に打ち上げたもの)。 つまりその最終日の録音ものだ。
  更に注目は、この直後3月には「JAPANESE TOUR」を(東京、大阪、京都、横浜、札幌)行ったのだっだ。しかし当然日本ではまだ知らざる曲の披露で戸惑ったというのも事実であった。

 そしてこのアルバムを語るには、少々歴史を語る必要があり、下のこのライブを収録したアルバムに話しを持って行かざるを得ない。

█ PINK FLOYD 「Live , THE BEST OF TOUR' 72」Lp11973 (→)
  We Did It For You / UK / LP / 1973

 ピンク・フロイドの多くの歴史的名ライブ録音盤の中でも、ファンにとって貴重で5本の指に数えられるものの一つが、注目の1972年2月20日のレインボーシアター公演を収録したこのコレクター盤(当初はLP、後に当然CD化された)である。これは翌年1973年リリースの世紀の名盤『The Dark Side Of The Moon 狂気』の原型が聴けるとして注目されたもの。以来この50年近く、このアルバムに関してはLP盤、CD盤、別テイク盤も含め、音質の改善がなされつつ現在解っているところでもなんと61枚が手を変え品を変えリリースされてきた。
   非公式音源盤(Bootleg)であるが、この"親子ブタ"のジャケは、知る人ぞ知る忘れられない逸物だ ( 右のように、ジャケ表には何の文字も無いのが初期LP盤の特徴。アルバム『原子心母』の"牛"は傑作と言われているが、それにも匹敵する出来映え)。

 そしてこのブート盤は幾度となく改良が加えられてきたが、更なる改良が加えられた"究極の完全版"といえる代物が、なんと今年になってイタリアと日本の力によってリリースされたのだ。それがここで取上げる「 DEFINITIVE EDITION」と名付けられたものだ。ピンク・フロイド専門レーベル「Sigma Records」 からのもので、それが今日のテーマである。


 私が以前から所持しているこの改良版CDは、既に音質の良さから究極のモノとされている「THE SWINGIN' PIG RECORDS」の"TSP-CD-049"盤 PINK FLOYD「LIVE」(1990年↓)であるが、これはこのライブの中の第一部での公式アルバム『The Dark Side of The MOON 狂気』(1973)に関する音源のみを収録したものだ。従ってその他のこの日の演奏曲は入っていない、それでも私は満足していたのだが・・・更に全容を求める声もあった。
 更にこの名盤でも、フロイド・ファンなら良く聴くと解るとおり、編集では上手く繋いでいるのだが、曲("time"、"eclipse"など)の一部、音の欠落している部分が少々あったりしている。従ってこんな感動モノでありながら更にその上を求めるのがファン心。

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Japantourx  そもそも、ピンク・フロイドは、ライブ演奏を繰り返しながら曲を完成させてゆくバンドであり、この名盤『The Dark Side of The MOON 狂気』がリリースされたのは1973年3月で、その内容はなんと一年以上前には、ここに聴けるが如く既にほぼ完成させライブ演奏していたのである。そんな中の1972年7月には映画音楽曲集のニューアルバム『OBSCURED BY CLOUDS 雲の影』がリリースし、『The Dark Side of The MOON 狂気』はその更に後のリリースであるから、このレインボーシアター公演は新曲を求めるファンにとっては注目の公演であり、それが又高音質で聴けるとなれば当時大騒ぎになったのも当然の話である。更に一方その直後の3月に「JAPANESE TOUR」(S席2800円→)が行われた歴史的年だ( 当時は日本では当然未発表アルバム『狂気』は知らない訳で、キャッチフレーズが "吹けよ風 呼べよ嵐"であった)。

 私の関心もピンク・フロイドとなると、1983年の『THE FINAL CUT』までが興味の対象で、それ以降はオマケの部類であって、特に1970年代がほぼ最高潮の時であったと言っても良い。そんな事情から、現在もこの1972年のレインボーシアター公演は注目されるのである。
 そうして50年近くを経過しようとしている今日においても、この『THE BEST OF TOUR 72』をなんとか完璧にと求める作業は続いていたのである。そしてここに出現したのが、究極の1972年レインボーシアター盤であるピンク・フロイド専門レーベルSigmaの「DEFINITIVE EDITION」である。これはこのレーベルの意地によって究極版を仕上げたと言って良い。

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(三つある有名録音)

 実はこの日のライブ音源というのは、雑多であるが、基本的にほぼ認められているものは三っあるのである。
① Recorder 1 (デレクDerek・A氏録音) : 過去最高の音質を誇る。上に紹介した名ブート盤「Live , THE BEST OF TOUR' 72」だ。曲の一部に欠落あり。マスターテープは盗難にあって現存しない為修復不可。 
② Recorder 2 (スティーヴSteve・B氏録音) : 平均以上の音質を維持、曲間は欠落。近年音質の改善が行われ再び注目。
③   Recorder 3 (ジョン・バクスターJohn Baxter氏録音) : 当日のショーの曲間も含め完全録音。しかしやや音質に難。
  それぞれこの3つともこのように何らかの難点を抱えていて、特に高音質の①は、内容の完璧さに欠けているのが最も残念なところである。そこで、②がここに来て音質の改善が高度な技術でかなり為し得てきたと言うことで注目された。

 そこで、この三録音を如何に組み上げるかによってこの日の実質2時間30分のショーを完璧再現出来ると、幾多の試みがなされたが、根本的にそこには甘さがあって、イマイチというのが偽らざる実情であった。

 しかしいずれの時代にも頑張るところが出現する。今回のこの「Sigma」においては、この三つの選び抜かれた最良のソースを使って、音質は勿論、演奏内容にも忠実にハイレベルな位置を目指して作り上げたのである。

 

(究極の「DEFINITIVE EDITION」の内容)

 この注目のSigmaの「DEFINITIVE EDITION」においては、まず上のTracklistにみるDisc1の「第一部」は、音源は最高音質の「① Recorder 1」をベースに仕上げている。冒頭は「③   Recorder 3」 を使って、ライブ開始までの臨場感と観衆の興奮を伝え、"Spek to me"は「③   Recorder 3」を使い、続く"Breathe"は最高音質の「① Recorder 1」が登場すると言った流れで、冒頭のロジャーのベースの迫力と続くギルモアのギターのメロディーのリアル感はスタジオ版と違って圧巻である。
 "Time"においては、欠落のあった3:36-56の間は完全に補填されて完璧な姿となっている。"Eclipse"も後半知り切れ部分を「③Recorder 3」で補填して完璧な姿に。
 チューニングの部分も「③Recorder 3」を使って臨場感ありだ。"Careful with That Axe, Eugene"も冒頭のロジャーの曲紹介などが入っていてライブそのものの形が出来ている。
 後半のDisc2の「第二部」は、「①Recorder 1」の音源が無いため「②Recorder 2」をベースにして曲間、チューニングなどは「③Recorder 3」で補填している。ここでもおなじみの"Echoes" は尻切れから完全型となり、"Set The Controls for The Heart of The Sun"も、中間部の当時の彼らの得意のミステリアスな世界が浮き彫りになっている。終演部も十分当時のライブの様を聴かせてくれる。とにかくその補填の技術が違和感なくスムーズに移行させていて、このあたりの技術の高さも感ずるところだ。

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 こうして、50年前のライブを完璧なものにとエネルギーを注ぐと言うことは、今の若き人達にも聴く方からとしての要求があり、そしてそこにはレーベルの意地と努力がこうして答えるというコレクター・エディションの姿なのだ。70年代のピンク・フロイドの歴史的価値というのは今だに失せていないどころか、まだまだ探求が盛んになっている。
 こんなマニアアックな道は、究極ファンが支えているわけで、1960-1970年代のロックの潮流は恐ろしい。いずれにしてもこの状況みるにつけ、これを喜んで聴いて感動している私も何なんだろうか・・・と。

(評価)
□ 内容・演奏  90/100
□ 録音     80/100 (歴史的なコレクターものBootlegとしての評価)

(参考視聴) 当時のこの名盤はLPであり、スクラッチ・ノイズが入っている (後にTSPのCDでは完全に改良された)

 

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2020年6月 1日 (月)

ピンク・フロイド PINK FLOYD アルバム「ZABRISKIE POINT」の復活

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(今日の一枚) 我が家の庭から・・ヤマボウシの花
       Sony α7RⅣ,  FE4/24-105 G OSS , PL

                                     - - - - - - - - - - - - - - -

蘇る仮想「ZABRISKIE POINT」の全貌
美しいピアノの調べと、サイケデリックな浮遊感の世界

<Progressive Rock>

PINK FLOYD
VIRTUAL STUDIO ALBUM 「ZABRISKIE POINT」

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Recorded Nov./Dec. 1969 in Rome for the film "Zabriskie Point"

 今や、ブート界もあるべきであったアルバムの復活に力を注いでいる。すでに行き詰まっている現ギルモアとサムスンの主催するピンク・フロイドにおいては、当然復活は望めないため、かってのピンク・フロイドを愛し研究し資料を蓄積した輩の成果として、少しづつあるべき姿の再現が行われている。先日紹介したロジャー・ウォーターズの『PROJECT K.A.O.S.』もその一環である。

61mj6ozaryl_ac_  そしてこれは今年初めに手中にしたもので、1969年にご本家ピンク・フロイドの映画『Zabriskie Point』(→)に提供され、無残にも彼らの曲を理解できなかった監督アントニーニによって消え去られた曲群の集約によって蘇ったアルバム『ZABRISKIE POINT』なのである。実はこれは10年前にリリースされ、即完売。幻の名盤と化していたもので、ここに来て復刻されたものである。
 こうして今、当時のピンク・フロイドの世界を知ることができるのは幸せというものだと、この制作陣に感謝しつつ鑑賞できるのである。しかも音源はライブものでなく、スタジオ録音されたもの、映画からの抜粋など苦労のたまもので、音質も良好で嬉しい。
 当時、この映画に提供されたモノでのアルバム作りをしたらこうなるのではないかと、「仮想ZABRISKIE POINTアルバム」を76分40秒にて作り上げたものから、果たして我々は何を知りうるのか、それは恐らくピンク・フロイドを愛する輩には響いてくるはずである。

 

(Tracklist)

1. Love Scene
2. Intermezzo
3. The Violence Sequence
4. Crumbling Land Pt.1 *
5. Sleep
6. Oenone Pt.1
7. Fingal's Cave
8. Red Queen Prelude
9. Crumbling Land Pt.2 *
10. Rain In The Country
11. Blues
12. Red Queen Theme
13. Oenone Pt.2
14. The Embryo
15. Heart Beat Pig Meat *
16. Oenone(Reprise)
17. Come In Number 51 Your Time Is Up *

  *印 映画に採用された3曲(”Heart Beat, Pig Meat”(”若者の鼓動”),”Crumbling Land”(”崩れゆく大地”),”Come In Number 51, Your Time Is Up”(”51号の幻想”))
  又、採用されなかった曲の内 4曲:”Country ”Song",”Unknown Song",”Love Scene (Version 4)”,”Love Scene (Version 6)” は、後に 2枚組の 『 Zabriskie Point Original Motion Picture Soundtrack 』 に登場。
 更にその他の曲の一部が、2016年のボックスセット「THE EARLY YEARS 1965-1972」に収録された。

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M1-M3 美しいピアノのメロディーが流れる。M1はギターの別バージョンもある。M3.は"us and them"の原型が聴かれますね。
M5."Sleep" 静かな世界は出色。
このあたりまで、当時のライトのクラシック・ピアノを学んだキーボードの効果が甚大に出ている。
M6."Oenone" フロイド得意のサイケデリックな浮遊感たっぷり世界。後半には当時ウォータースがよく使ったドラムの響きと、ギルモアのギターによる音により盛り上がる。当時のフロイドの世界を十分に堪能出来る。これがM13,M16と登場する。
M7."Fingal's Cave"このサイケデリックにしてハード、そしてヘヴィ・メタルっぽい盛り上がりも凄い。
M8." Red Queen Prelude"アコギによるプレリュード
M9." Crumbling Land Pt.2"初期のフロイドの音と歌声と英国ロックを実感する。
M10."Rain In The Country "ギターの調べが優しい。後半は当時のウォータース得意のベースのリズムに、おそらくギルモアのギターの二重録音が聴かせる。
M11."Blues"ギルモアの原点であるブルース・ギターそのものの展開だ。
M12."Red Queen Theme " 珍しい歌モノ、ギルモアが歌う。
M13."Oenone Pt.2 " は懐かしいピンク・フロイドの音がたっぷりと再現されてますね。
M14."The Embryo" ここに挿入されているところが、一つの遊びでもあり、考えようによっては、どのアルバムにも寄りどころの無かった名曲"The Embryo"の住処を見つけたかの如く居座っているところがニンマリです。これがフロイド・マニアにとっては原点だという曲。
M15." Heart Beat Pig Meat " このリズム感が聴きどころ、映画のオープニングに流れる。これは映画サウンド・トラックでしょうね。
M17." Come In Number 51 Your Time Is Up" 当時のピンク・フロイドの代表曲ウォーターズの奇異感たっぷりの"Careful With That Axe, Eugene"の世界で幕を閉じる。映画の最後の爆発のシーンをも思い出すところだ。

 『ZABRISKIE POINT』の為に、1969年11月から12月にかけて、イタリアのローマにてピンク・フロイドは多くの楽曲をレコーディングしたのだが、それらを蘇らせてみると、ここにも、ウォーターズの発想である俗世間から異なる空間を描くというサイケデリック世界が盛り込まれていることが解る。彼らはこうして映画のサウンド・トラックにも、しっかりと自己の世界を築いていて、それが監督アントニーニには気に入らなかったのだろうか。

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  映画は  60年代後半、黒人差別撤廃、公民権運動、ベトナム反戦運動等の学園闘争の嵐が吹き荒れる南カリフォルニアの大学。60年代のアメリカの資本主義的大量消費、学生運動、銃社会、ヒッピー文化とフリーセックスなどが背景にある。
 社会に疑問を持ち、学生運動を展開する中で、現実逃避せざるを得なくなった男(学生)マークとその死、理想像とは全く別の資本主義的世界に疑問を持つ女性ダリアの葛藤を描いているのだが、そこに3曲のみの登場でしかなかったピンク・フロイドの曲、多くは残されたままになってしまった。最後のレストハウスの大爆破シーンは有名だが、アメリカの物質文明への批判であったのか、流れる曲Pink Floydの「51号の幻想」も印象的だった。

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 そんな経過のなかでのこうして、架空の完全版を作成してゆく努力には、おそらくコンセプト主義のロジャー・ウォーターズにしてみれば、作品の完璧主義には異論があっても、歓迎の気持ちは内心あるのではないだろうか。おそらく彼はこれを聞かれると、"そんなことは関係ないことだ"と答えるに相違ない。そこがウォーターズの持ち味である。
 しかし、こうして改めてトータルに聴いてみると、次第に異空間に逃避した世界から現実の文明社会の不正に挑戦するに至るウォーターズの出発点をここに見る思いである。

Zabriskie_point_img_3887 (参考) 「Zabriskie Point」
  ザブリスキーポイント(→)は、アメリカ合衆国カリフォルニア州 デスバレー国立公園のデスバレーの東に位置するアマゴサ山脈の一部で、 侵食された景観で有名です。 死の谷が誕生するずっと前に、500万年前に干上がったファーネスクリーク湖の堆積物で構成されている地。樹木の無い地の景観が異様で現在観光地となっている。

 

(評価)
□ 曲・演奏・貴重度  95/100
□ 音質        80/100

(視聴)

映画「ZABRISKIE POINT」のエンディングと"Come In Number 51, Your Time Is Up"

 

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2020年3月18日 (水)

ピンク・フロイドPink Floyd 絶頂の75年ライブ 「LOS ANGELSE 1975 4TH NIGHT」

警察による逮捕者続出のライブの記録
マイク・ミラードによる好録音の出現

 

<Progressive Rock>

Pink Floyd 「PINK FLOYS LOS ANGELSE 1975 4TH NIGHT」
~ MIKE MILLARD ORIGINAL MASTER TAPES
Bootleg / Sigma 242 / 2020

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Live at Los Angeles Memorial Sports Arena, Los Angeles, CA, USA 26th April 1975

Pink Floyd
Venetta Fields : Backing vocals
Dick Parry : Saxophone
Cariena Williams : Backing vocals

  とにかくこの何十年の間にもピンク・フロイドのブートは何百枚と出現している。あのボックス・セット「Early Years 1965-1972」「The Later Years (1987-2019)」のオフィシャル・リリースによって下火になるのかというと全くそうでは無い。むしろ火を付けているのかと思うほどである。それもピンク・フロイドそのものはディブ・ギルモアの手中に握られたまま、全くと言って活動無くむしろ潰されている存在だ。これが本来のロジャー・ウォーターズにまかせれば、今頃米国トランプや英国の低次元の騒ぎなど彼の手によって一蹴されているだろうと思うほどである。相変わらずのファンはこのバンドの世界に夢を託しているのである。

 そんな時になんとあの彼らの絶頂期であった1975年の「FIRST NORTH AMERICAN TOUR」のライブものが、オフィシャルに使われるほどの名録音で知られるマイク・ミラードの手による良好録音ものの完全版が出現をみるに至ったのである。

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  とにかく世界的ベストセラーになったアルバム『狂気』(1973)以来、彼らにとっては全く別の世界の到来となる。金銭的には驚くほどの成果を上げ、それと同時に重圧ものしかかる。又スポンサーとのトラブル、四人の社会に於ける存在の意義にも変化が出る。

810cgm6w   そして1975年1月ようやく次のアルバム『炎』(1975 →)の作業に入る。しかしそこには『狂気』当時の彼らのクリエイティブなエネルギーのグループの姿はなかった。メイスンは個人的な問題から意欲は喪失していた("Shine on you Crazy Diamond","Wish You Were Here "の2曲はロジャー、デイブ、リックの三人、""Welcome to The Machine,"Have a Ciigar"の2曲はロジャーの作品である)。又ロジャー・ウォーターズの葛藤がそのままライブ(この「NORTH AMERICAN TOUR」)にも反映されていた。まさにライブとスタジオ録音が平行して行われメンバーも疲弊していた。更に慣れない4チャンネル録音で、技術陣も失敗の繰り返し。とにかくつまづきの連続で困難を極めたが、そこでロジャーは一つの開き直りで"その時の姿をそのままアルバムに"と言うことで自己納得し、ライブで二十数分の長い"Shine On"(後に"Shine On You Crazy Diamond")を2分割し、間にロジャーが以前から持っていた曲"Have a Cigar"を入れ、当時の音楽産業を批判したロジャー思想の"Welcome to the Machine"を入れ、更にロジャーのシドへの想いと当時の世情の暗雲の環境に対しての"詩"だけは出来ていたその"Wish you were here"は、ロジャーとギルモアが主として曲を付け仕上げた。しかしこの75年がバンド・メンバーの乖離の始まりであり、そんな中でのアルバム作りとなったのであるが・・・。
 そして予定より半年も遅れて9月にこの『炎』のリリースにこぎ着けたのだが、今想うに『狂気』に勝るとも劣らない名作だ。

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 しかしこのような状況であったこも関わらず、当時のピンク・フロイドの人気は圧倒的で、このロスのライブの4夜の4月22,23,24,26日の6万7千枚のチケットは一日で完売、追加の27日公演は数時間で売り切れというすざまじい売り上げであったのだ。
 そしてここに納められているのは26日(土)のライブの姿である。

5_20200316200001 (Tracklist)

Disc 1 (63:33)
1. Mike Test
2. Intro.
3. Raving And Drooling
4. You Gotta Be Crazy
5. Shine On You Crazy Diamond Part 1-5
6. Have A Cigar
7. Shine On You Crazy Diamond Part 6-9 

Disc 2 (56:54)
The Dark Side Of The Moon
1. Speak To Me
7_20200316200101 2. Breathe
3. On The Run
4. Time
5. Breathe(Reprise)
6. The Great Gig In The Sky
7. Money
8. Us And Them
9. Any Colour You Like
10. Brain Damage
11. Eclipse

Disc 3
1. Audience 
2. Echoes

 このはライブは、絶頂期アルバム『狂気』、『炎』、『アニマルズ』の三枚に関係するセットリストの内容であり、又彼ら人気の最高に至る経過を盛り込んでおり、ブート界でもこの録音モノは引っ張りだこなのだ。しかもアンコールでは"ECHOES"も登場するのである。

Hogsinsmog  私がかってから持っていて出来の良いブート・アルバムは『Hog's in Smog '75』(STTP108/109=1975年4月27日追加公演モノ)で、セットリストは同一である。これもかなりの好録音であった(→)。
  
 しかしここに登場したマイク・ミラード録音モノは、更にその上を行く。Audienceとの分離はしっかりとしており、特に音質は高音部の伸びが素晴らしい。そして全体の音に迫力がある。
 当時のピンク・フロイドのライブは、スタジオ・アルバム版との演奏の違いは各所にあって、ギルモアのギターのアドリブも多く、マニアにはたまらない。ヴォーカルはロジャーの詩に込める意識は強くその歌声にも意欲が乗っていて聴きどころがある。そして至る所にやや危なっかしいところがあって、そこがリアルでライブものの楽しみが滲み出てくる。今回のものは既に出まわっていたモノの改良版で、内容が更に充実している。
 とにかく集まった聴衆の行為にも異常があり、爆竹の音もある。とにかく警察による逮捕者の多さでも話題になったライブでもある。

 "Raving And Drooling "は、『アニマルズ』の"sheep"の原曲だが、スタートのベースのごり押しが凄いしギターのメタリックの演奏も特徴的だ。"You Gotta Be Crazy"は"dogs"の原曲でツインギターが響き渡る。 この難物の2曲もかなり完成に至っている。『狂気』全曲も特に"On the run"のアヴァンギャルドな攻めがアルバムを超えている。そして一方この後リリーされたアルバム『炎』の名曲"Shine on you Crazy Diamond"の完成に近づいた姿を聴き取れることが嬉しい。
 又アンコールの"Echoes"にDick Parryのサックスが入っていて面白い。

8

 いずれにしても、今にしてこの時代の良好禄音盤が完璧な姿で出現してくるというのは、実はギルモアというかポリー・サムソン支配下の現ピンク・フロイド・プロジェクトが、このロジャー・ウォーターズの葛藤の中からの重要な歴史的作品を産み、そして時代の変化の中でロックの占める位置を進化していった時期を無視している事に対して、大いに意義があると思うのである。そのことはピンク・フロイドの最も重要な『狂気』から『ザ・ウォール』までの四枚のアルバムに触れずに、ここを飛ばしてピンク・フロイド回顧と実績評価のボックス・セット「Early Years 1965-1972」「The Later Years (1987-2019)」を完成させたというナンセンスな実業家サムソンの作為が哀しいのである。

 当時のライブものとしては、この後5月はスタジオ録音に没頭、そして再び6月から「NORTH AMERICAN TOUR」に入って、『HOLES IN THE SKY』(Hamilton,Canada 6/28/75=HIGHLAND HL097/098#PF3 下左 )、『CRAZY DIAMONDS』(7/18,75=TRIANGLE PYCD 059-2  下右)等のブートを聴いたのを懐かしく思う。

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(評価)

□ 演奏・価値 ★★★★★☆   95/100 
□ 録音    ★★★★☆   80/100

(視聴)

 

 

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2019年12月16日 (月)

ロジャー・ウォーターズRoger Waters 「PROJECT K.A.O.S.」検証

「RADIO K.A.O.S.」の完全版スタジオ・アルバム

<Progressive Rock>

Roger Waters 「PROJECT K.A.O.S.」
Reissue, Unofficial Release / Jpn / 2017

Projectkaosw

Roger Waters & Bleeding Heart Band
Mixed by Chad Hendrickson

 しかしロック・アルバムといっても、コンセプト・アルバムという世界を構築してきたロジャー・ウォーターズの関係するところでは、今でも本人以上に、ファン仲間ではトータル・アルバムとしての作品への思い入れは大きい。かってピンク・フロイド時代の映画「モア」のサントラ音楽に提供したため崩壊したピンク・フロイドの組曲「ザ・マン」「ザ・ジャーニー」を未だに求めたり、又アルバム『ウマグマ』(1969)に納められている"Careful With Tfat Axe,Eugene"と、映画「砂丘」に登場するピンクク・フロイドの曲"51号の幻想"の関係、そして"若者の鼓動"、"崩れゆく大地"の2曲も含めての世界。更に映画「2001年宇宙の旅」とアルバム『おせっかい』の曲"エコーズ"との関わり合い。更にリイッシューされたアルバム『ファイナル・カット』では、曲"when the tigers broke free"追加され完成させたりと、話は尽きない。

Kaos1  これらはコンセプト・アルバムという世界に起こる不思議な現象で、更に2000年以降もロジャー・ウォーターズのソロ・アルバムにおいてもこれは起きているのである。
 まずは「ザ・ウォール・ライブ・ベルリン」では最後の締めくくりの曲に、アルバム『RADIO K.A.O.S.』(→)の"The Tide Is Turning"が採用され、アルバムどおり演じてきたコンセプト作品「ザ・ウォール」の曲にソビエト崩壊の時代の変化をオーバー・ラップさせ、喝采を得た。

 そしてここで取り上げるは、彼のソロ・アルバム『RADIO K.A.O.S.』である。このアルバム・リリースは1987年、彼のソロとしての腹づもりが固まったときである。バンド名も当時は"Roger Waters &Bleeding Heart Band"として活動した。それはこの前年にリリースされた長編アニメーション映画『風が吹くとき』のサウンド・トラック制作に力を注いだ時からだ。当時彼には世界冷戦下の核戦争の恐怖を中心としたもともと持っていた"反戦思想"に関心は高く、前ソロ作『ヒッチハイクの賛否両論』は内に向けた葛藤であり、それから今度はこのような外に向けたエネルギーの発露でもあった。

Pkaos  しかしこのアルバム『RADIO K.A.O.S.』は、ウォーターズの求めていたコンセプト・ストーリーを表すには実は不十分に終わってしまっていた。当時CD時代の幕開けにそってLPサイズにはこだわらない長編を彼は企画して曲も作っていたが、レコード会社は40分少々のLPサイズにこだわったため、大きく削っての作品となってしまっていたのである。そして一部の曲は先行した映画『風の吹くとき』のサントラに提供していたのである。
 そこで既にリリースされたアルバム『RADIO K.A.O.S.』を本来の姿に完成させようという動きがあって、まずは2000年に『PROJECT K.A.O.S.』が ライブ音源を中心に造られた。(参照 : 「ロジャー・ウォーターズの世界に何を見るか」)
 しかしその後はスタジオ録音版を収集して2017年には完成版『PROJECT K.A.O.S.』(→)が登場し、今にしてブートレグ界では持てあまされている。それがここに取り上げたリイッシュー版の『PROJECT K.A.O.S.』の原型である。
 もともとこのアルバムはウォーターズの反核戦争思想をベースにしての人の交わりを描いたアルバムであるが、彼の"自己を見つめる世界"、"社会をみつめる世界"のどちらかというと後者に当たる。そしてその数曲の追加収録によって、コンセプトが更に明快になってゆくのである。

(Tracklist)

Rw12 1. Get Back To Radio 4:51 *
2. Radio Waves (Extended) 6:57
3. Who Needs Information 5:56
4. Folded Flags 4:27 *
5 .Me Or Him? 5:17
6. The Powers That Be 3:57  
7. Going To Live In LA 5:38 * 
8. The Fish Report With A Beat 1:49 * 
9. Sunset Strip 4:46
10. Molly's Song 3:11*
11. Home 6:00
12. Four Minutes 4:00 13
13. The Tide Is Turning (After Live Aid) 6:16
14. Pipes And Drums 1:30 *
                                        (*印 新規収載)

  このアルバムは上記のように6曲が新規収録されていて、オリジナルが41:24分であったものが、なんと65:03分というストーリーを充実したアルバムになっている。注目はM1."Get Back To Radio"、M7."Going To Live In LA"、M10."Molly's Song"などが上げられるが、ジム・ラッドのセリフの充実や、話の主人公ビリーの新規セリフも入って、コンセプト・ストーリーがかなり解りやすくなっていると言うのだが・・・英語の理解力不足で少々残念。
 
 もともとストーリーとそのコンセプトは・・・
 主人公ビリーは植物人間的な存在、兄の擁護で生活。世界中に流れるラジオ電波(Radio Waves)と交信出来る超能力を持つことに気づく。様々な電波と交信している中で、電波を通じて社会や人間を操ろうとする権力者の存在に気付く。ビリーの抵抗は始まり、革新的試みが感じられるラジオ局「Radio KAOS」に接触。そして、DJのジムと共に世界に向けて平和のメッセージの発信を試みる。第二次大戦中の原爆開発プロジェクト「マンハッタン計画」やレーガン大統領、サッチャー首相ら、当時の政治家を交えながら、核の脅威が描かれる。物語の終盤では、ビリーの超能力は政府のスーパーコンピュータを操作できるほど強力になり、核兵器を制御して世界の混乱を納めることになる。

Rw11  既存のマスメディアの批判を試みつつ、更に「Radio K.A.O.S.」という仮想媒体を通して多くの社会的メッセージを発信しているアルバム。ピンク・フロイド在籍時のラスト・アルバム『ファイナル・カット』(1983年)の続編的存在で、マーガレット・サッチャーやロナルド・レーガンを実名で批判する。また、核兵器廃絶も強く訴えるものだ。ラストのM13. "流れが変わる時〜ライブ・エイドが終わって〜"では、想いもしなかったソ連の崩壊という社会現象から平和的で暖かなメッセージが歌われ一つの収束をするところは一つの救いでもある。

 このアルバムは、当時、"ピンク・フロイドの存続・所有権問題"の中での一つの戦いでもあったウォーターズは、ライブでもエネルギーたっぷりの展開を見せ、音楽的にも従来のフロイド・タイプをただ継承するので無く、むしろ一歩進めたことからも歴史的に興味深いアルバムである。更にそのコンセプトの完全化を期待するファンも多く、このような完全版が造られることは実に興味深い。

  当時の状況の中でのウォーターズのその姿には更に興味深いところがあるため、それぞれの新規収録曲の内容検討しながら、この完成盤の検証をいずれ又もう少し深入りしたい。

(評価)
□ 収録曲・演奏   ★★★★★☆ (完成度を高めた努力を評価) 
□ 録音       ★★★★☆

(参考「Radio K.A.O.S.」の多彩なメンバー)

Roger Waters – vocals, acoustic and electric guitars, bass guitar, keyboards, shakuhachi
Graham Broad – percussion, drums
Mel Collins – saxophones
Nick Glennie-Smith – DX7 and E-mu on "Powers That Be"
Matt Irving – Hammond organ on "Powers That Be"
John Lingwood – drums on "Powers That Be"
Andy Fairweather Low – electric guitars
Suzanne Rhatigan – main background vocals on "Radio Waves", "Me or Him", "Sunset Strip" and "The Tide Is Turning"
Ian Ritchie – piano, keyboards, tenor saxophone, Fairlight programming, drum programming
Jay Stapley – electric guitars
John Thirkell – trumpet
Peter Thoms – trombone
Katie Kissoon, Doreen Chanter, Madeline Bell, Steve Langer & Vicki Brown – background vocals on "Who Needs Information", "Powers That Be" and "Radio Waves"
Clare Torry – vocals on "Home" and "Four Minutes"
Paul Carrack – vocals on "The Powers That Be"
Pontarddulais Male Voice Choir - chorus

(参考視聴)

 

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2019年12月12日 (木)

ロジャー・ウォーターズRoger Waters 「Roger Waters With Eric Clapton / Chicago 1984」

クラプトンのギターが美しく響くウォーターズのライブ
今となれば貴重な記録が・・好録音で

<Progressive Rock>

Roger Waters 「Roger Waters With Eric Clapton / Chicago 1984」
IAC( KING STREET) / JPN / KING2CD4105 / 2019

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(Tour band)

Roger Waters: Lead vocals, Bass guitar, Acoustic guitar
Eric Clapton: Lead guitar 
Tim Renwick: Rhythm guitar, Bass guitar
Michael Kamen: Keyboards
Andy Newmark: Drums
Chris Stainton: Hammond organ, Bass guitar 
Mel Collins: Saxophone
Katie Kissoon: Backing vocals
Doreen Chanter: Backing vocals

 しかし相変わらすロジャー・ウォータースの話題は尽きない。つい先日は世界的に「US+THEM」映画の公開で話題をさらったが、ここに彼がピンク・フロイドから一歩引いてのソロ活動当初に再び関心が高まるのである。まずその一つがこのエリック・クラプトンとのライブ録音の驚愕とも言える素晴らしい音源が出現した。このライブは話題高かったがその記録版は、私も何枚かを所持しているが、どちらかというと見る耐えない何となく解る程度の映像モノ、そしてサウンド版も良好と言ってもかなり聴くに問題の多いモノ。しかし中身はさすがクラプトンのギター世界は素晴らしい、そしてメル・コリンズのサックスも、マイケル・カーメンのキー・ボードもと聴きどころは多かったのだ。
 とにかくギルモアとは全くの趣違いのクラプトンのギターと、ピンク・フロイド時代のウォーターズの手による曲をとにかくアグレッシブに編曲したところの楽しさだ。当時は最も脂ののったウォーターズのこと、エネルギーに満ち満ちたプレイが凄い。

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 ピンク・フロイドの熱気最高潮の「アニマルズ・ツアー」、莫大な資金をかけた「ザ・ウォール」ツアー。しかしその後の、1983年にリリースする12thアルバム『ファイナル・カット』以後、ピンク・フロイド は内部亀裂によりコンサート・ツアーを行わず、バンドは活動休止する。そんな中で、 ロジャー・ウォーターズは1984年にソロ・アルバム『ヒッチハイクの賛否両論(原題:The Pros And Cons Of Hitch Hiking)』(右下)をリリースした。これは彼が『ザ・ウォール』時代に既に出来上がっていたものだが、ピンク・フロイド・メンバーに受け入れられず、アルバム・リリース出来なかったモノだが、ギタリストにエリック・ クラプトンを起用して、彼の心の内面にある不安の世界を描いた作品として、クラプトンのギターの美しさと共に注目された。そしてエリック・クラプトンと共にメル・コリンズをも帯同して大規模なライヴ・パフォーマンスを披露する。同年6月16日の スウェーデンのストックホルムからスタートし、ヨーロッパ~北米で19公演を行う。その中で最終公演 となる7月26日のイリノイ州シカゴでのコンサートは地元のロック専門FMラジオWXRT-FMのスペシャル番組として収録・放送されたのであった。このアルバムはそれが音源となっているためサウンドはオフィシャル級で、30年以上経ってのこのオフィシャル・ブートレグの出現は驚愕を持って受け入れられているのだ。

(このライブの評価)
□ ロジャー・ウォーターズの世界に何をみるか
http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2007/01/post_aff8.html

 

81idrepzkfl_ac_wjpg (Tracklist)

(Disc 1)
01 太陽讃歌
02 マネー
03 もしも
04 ようこそマシーンへ
05 葉巻はいかが
06 あなたがここにいてほしい
07 翼を持った豚
08 イン・ザ・フレッシュ?
09 ノーバディ・ホーム
10 ヘイ・ユー
11 ザ・ガンナーズ・ドリーム
1db4d8e94f124bfc95703bd4e71b9ffa (Disc 2)
01 4:30 AM トラベリング・アブロード
02 4:33 AM ランニング・シューズ
03 4:37 AM ナイフを持ったアラブ人と西ドイツの空
04 4:39 AM 初めての出来事 パート2
05 4:41 AM セックス革命
06 4:47 AM 愛の香り
07 4:50 AM フィッシング
08 4:56 AM 初めての出来事 パート1
09 4:58 AM さすらう事そして生きる事をやめる
10 5:01 AM心のヒッチハイキング
11 5:06 AM ストレンジャーの瞳
12 5:11 AM 透明なひととき
(Encore)
13 狂人は心に
14 狂気日食

 セット・リストは第1部、第2部、そしてアンコールを含めて全25曲で、このアルバムは上のように完全収録している。このコンサートの特筆すべき点はウォーターズがピンク・フロイドから一歩離れてのロックらしい世界に原点回帰している事と、やはり エリック・クラプトンの参加である。自己の世界を持つクラプトンが、自らの楽曲は一切演奏せず、ピンク・フロイドとロジャー・ウォーターズの楽曲を一人のリード・ギタリストとして デヴィッド・ギルモアとは全く異なる世界で完璧なギター・ソロを披露している。特に前半のピンク・フロイド曲の変化が面白い、これは当時のウォーターズのフロイド・メンバーへの不満が攻撃性となり、一方クラプトンが時々見せるギター・ソロ・パーフォーマンスは、完全に彼ら自身の世界に突入し、かっての曲がむしろ異色に変化して新鮮に蘇ってくる。これはウォーターズとクラプトンのプライドの成せる技であったのかも知れない。このあたりは当時単にピンク・フロイドの再現を期待したファンには不満があったと言われているが、何度聴いてもその変化はブルージーなロックに変化していて面白い。又こうも演者によってギターの音色も変わるのかと圧倒される。

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  後半のアルバム『ヒッチハイクの賛否両論』の再現は、クラプトンの美しいギターによって描かれるところが聴きどころであり、相変わらずのウォーターズの造る美しいメロディーと"美・静"の後に来る"彼の絶叫"と"爆音"に迫られるところは圧巻である。そして"セックス革命"のテンションの高いギターと"愛の香り"、"ストレンジャーの瞳"の美しさにほれぼれとするのである。

Image2  商業的問題から僅か19公演で終了したこのツアーであったが、この二人を筆頭に豪華メンバーでの パフォーマンスを収録したこのライヴ・アルバムはファンにとってまさに驚きで迎えられる作品である (圧巻のライブ・バック・スクリーン映像→) 。
 そして輸入盤を国内仕様としてここにオフィシャル盤以上にかなり丁寧な解説付きでリリースされているところは評価したい。久々にロジャー・ウォーターズのアグレッシブな編曲演奏に触れることが出来、又あのピンク・フロイドの転換期を体感できるところが貴重である。

(評価)
□ 曲編成・演奏 ★★★★★☆
□ 録音       ★★★★☆

 

(視聴)

 

 

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2019年9月30日 (月)

ロジャー・ウォーターズRoger Waters 「US+THEM」Film 公開

「US+THEM Tour」の記録を映画として制作し公開する

音楽と人権、自由、愛のメッセージにインスピレーションを与える創造的な先駆的な映画・・・と言うが

 

<Rock>   映画 「Roger Waters US+THEM」
                               by Bean Evans and Roger Waters

Usthemmoview  ロジャー・ウォーターズの2017-2018年の世界的ツアーであった(残念ながら日本にはこなかった)「US+THEM」ツアーの模様を納めた映画の公開を、世界的にこの10月2日と6日に行う。
 ライブものとしては今までに無い画期的な内容と言われているが、その中身は不明、彼のことだから何か新しい試みをしているのだろうことは容易に想像が付く。

 その前の歴史的大規模だった3年に及んだ「The Wall 」ツアーの記録は、彼の戦場で失って会えることが無かった父親を戦争批判をこめて回顧した映画として作り上げたが、果たして今回は ?・・・・。

   おそらくこの作品も「映像もの」として一般にリリースしてくれるだろうと期待しているのだが。

 一方、彼は大がかりなツアーは、この「US+THEM」で終わりにすると言っていたが・・・、ここに来て別企画の北アメリカ、メキシコにてのライブ・ツアーを2020年に行うこともほのめかしているようだ。彼の集大成をしたいのか、入場料は無料でやりたいと言っているらしい。
 "アンチ・トランプ"、"パレスチナ情勢"などに問題意識を持って訴えた「US+THEM」であったが、今度は何を企画しているか・・・このあたりも、彼のエネルギーが続く限りは問題意識の中から何かを展開してゆくのであろう。楽しみと言えば楽しみである。

Usthem-2

(参考視聴)


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2019年6月 3日 (月)

ロジャー・ウォーターズRoger Watersの「US+THEM」記録盤

「US+THEM TOUR」 の英国ハイド・パークの記録

<Progressive Rock> 

PINK FLOYD'S ROGER WATERS 「 US+THEM」
HYDE PARK LONDON  FRIDAY 6 JULY 2018
COLUMBIA/LEGACY / EU /4607147953443 37852 / 2019

2

 既に、ここで何回か取り上げたピンク・フロイドの頭脳ロジャー・ウォーターズの「US+THEM Tour」ライブの記録されたCD2枚組盤。これはキング・クリムゾンのロバート・フリップがよく行ってきたオフィシャル・ブートレグというタイプの代物である。(COLUMBIA/Legacy 、Roger Waters.com、SONY MUSIC の名がクレジットされている)
Roger1  従って、ロジャー・ウォーターズも当然関わっているものと思うが、なるほど期待以上の高音質録音盤である。とにかくこのツアーものは、数え切れないほどの映像版も含めて巷には溢れている中で、それならばと、取り敢えずオーディエンス録音には近いが、音質はライブものとしてはトップ・クラスに値するものを出してくれた訳です。今年中には映像版とともに正規版がリリースされるという話がある中での思わぬ出現に驚いたといったところ。

  2016年、トランプ批判を展開したアルバム「アニマルズ」の曲"Pigs(three different ones)"が圧倒的支持を得たことに端を発して、彼の久々のニュー・アルバム「is this the life we really want ?」も丁度リリースされた時でもあり、その紹介曲も含めての人気のアルバム「狂気」「炎」「アニマルズ」「ザ・ウォール」からの選曲で構成して、特にピンク・フロイドと言っても殆ど彼のワンマン・バンドと化したアルバム「アニマルズ」からの"Dogs","Pigs"には充実した演奏を展開した。特に"Pigs"は、"TRUMP IS PIG"と大々的に打ち上げ、そして人間の根源に迫る"Us and Them"を演奏して世界情勢の不安定を訴えた。

List1

 いずれにしても再び大規模な世界ツアーへと発展したこの「US+THEM Tour」。2017年北米・オセアニア・ツアーから2018年の欧州、南米のほゞまる2年間の世界規模ツアーと拡大して、その2018年7月6日のブリティッシュ・ハイド・パーク・フェスにてのパフォーマンスをここに収録されたものだ。残念ながら日本には上陸しなかったが、このツアーの大規模さは群を抜いている。そしてすでに私自身も多くの映像ブートレグでも見てきたものである。しかしこれはおそらく放送用音源として録音されたものではないかと推測される良質もの。とにかくSEはもちろん効果音もしっかりとクリアに記録されていて十二分に楽しめる。

List2_1

 メンバーは10名編成バンドで、重要なギターはお馴染みのデイブ・キルミンスターに加えて人気のジョナサン・ウィルソンのツイン構成。そしてジョン・カーリンがキー・ボードを中心にマルチなプレイヤーぶりを発揮。また、女性ヴォール陣はLUCIUSの二人、又サックスは長い付き合いになっているイアン・リッチー。2年間通して同じメンバーでやりきった団結力も見事であった。

Lastshow

 歴史的経過からは、ピンク・フロイドを離れたろロジャー・ウォーターズだがこうして聴いてみると、殆どがなんのことはない彼によって作られた曲群であって何の違和感もなく、むしろ彼によるピンク・フロイドの問題意識をここに再現していることに驚かされる。そしてニュー・アルバム「is this the life we really want? 」の世界情勢の不安定さに問題意識が、なんともう40年以上も前のアルバムがここに生きている彼のピンク・フロイド作品に驚くのである。このライブ演奏の締めくくりは相変わらず"Comfortably Numb"であったが、「狂気」の最後を飾る"Brain Damage", "Eclipse"が、ここまで生き生きとこの時代にマッチするのに驚きを隠しえなかった。

 おそらく、これ程大規模ツアーはウォーターズはもう考えていないだろうから、ロックの時代を作った彼の今となっての75歳の男の努力に敬意を表したい。

(参考視聴)

 

 

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2018年11月 3日 (土)

ロジャー・ウォーターズの世界~ストラヴィンスキー「兵士の物語The Soldier's Tale」

これは彼の生き様からの教訓の物語か?
     ~クラシックに迫るプログレッシブ・ロッカーの道

<Classic>
Roger Waters
IGOR STRAVINSKY'S THE SOLDIER'S TALE (兵士の物語)

Sony Classical / EU / 19075872732 / 2018

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(演奏)
ロジャー・ウォーターズ(語り)
ブリッジハンプトン室内楽音楽祭の音楽家たち

   スティーヴン・ウィリアムソン(クラリネット)   
   ピーター・コルケイ(ファゴット)
   
デイヴィッド・クラウス(トランペット/コルネット)
   デミアン・オースティン(トロンボーン)
   コリン・ジェイコブソン(ヴァイオリン)
   ドナルド・パルマ(コントラバス)
   イアン・デイヴィッド・ローゼンバウム(パーカッション)

Recorded at The Bridgehampton Presbyterian Church, December 11-12,2014

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 ここで先日取りあげた~このロジャー・ウーターズのクラシック・アルバムを聴くに、何故どうして今このストラヴィンスキーなのかと・・・・疑問はなかなか晴れるわけで無いのだが、しかし逆にそれであるから、いろいろと思い巡らしての面白い機会を持てたというところである。
 彼とクラシック・アルバムと言えば、難産の結果生まれた2005年のフランス革命を描いたリアル・オペラ「サ・イラ~希望あれ」がすぐ思い出すところである。そこにはウォーターズの意識というものが必ず存在していた訳で、たまたまこの「兵士の物語Soldier's Tale」の作曲家が、ロシアのストラヴィンスキーIgor Stravinsky(1882-1971)と来れば、まずはある意味での過激性のある問題の意識をどうしても持たざるを得ない。彼は20世紀クラシック界において、そこに大きな変革期を演じたその一人であるからだ。
 そしてしかもその彼の異色作と言われる「兵士の物語」であるからこそ、そこにウォーターズの意志を感ずると同時探りたくもなるのである。

 さてこのクラシック曲は3人のナレーション(語り、兵士、悪魔)と小オーケストラ(7人の器楽奏者)によって演奏される舞台作品で、1918年、第一次世界大戦直後の疲弊した社会環境の下で生み出された作品。ウォーターズの祖父は第一次世界大戦で戦死しており(また父親は第二次世界大戦、イタリア戦線・アンツィオの激戦で戦死)、そのことがこの作品を録音するきっかけになっているとの事とは言え、果たしてそれだけなのかと、単純に捕らえられないウォーターズのこと、一歩掘り下げてみたくなるのである。

79280004429d2dcf_2 そもそもこの「兵士の物語」は、ストラヴィンスキーがロシア革命後の政策下で資産没収により困窮し、その困難を打破するために仕事を展開した。かといって戦争直後の疲弊した状況下では大規模な作品の上演はまずもってあり得ない状況だった。そこで少人数の巡業劇団クラスで上演できるような作品を考えたことにこの曲は生まれることになったらしい。原作を民俗学者・アレクサンドル・アファナーシェフの編纂によるロシア民話集に求め、スイスの小説家・ラミュに脚本の執筆を依頼し、ストラヴィンスキーが曲を構成したと言う経過。

 [そしてその内容]は、ロシア民話の実は教訓をその実とした物語で、兵士ジョゼフが休暇をとってかって幸せであった故郷の母の下に婚約者に会いに行く。そこに悪魔が表れ彼の背にあったヴァイオリン(心)とお金やなんでも手に入るという本の交換をしてしまう。金持ちになった兵士は故郷に帰るも、たった3日間というのが騙され3年の経過があり、婚約者は結婚し夫と子供も居る。故郷では彼を相手にしない。彼は怒りヴァイオリンを悪魔から取り返し、その音色で王室の娘の病気を治して結婚し幸せになる。そこで兵士は昔の故郷の幸せも懐かしくなり結婚した姫と二人で、国境を越え故郷に向かうも又悪魔の仕業により、越えた瞬間に再び悪魔のヴァイオリンにより破綻する。

 (コラール)
   今持っているものに、昔持っていたものを足し合そうとしてはいけない
   今の自分と昔の自分、両方持つ権利は無いのだ
   全て持つ事は出来ない
   禁じられている
   選ぶことを学べ

   一つ幸せなことがあればぜんぶ幸せ
   二つの幸せはなかったのと同じ

You must not seek to add
To what you have, what you once had;
You have no right to share
What you are with what you were.

No one can have it all,
That is forbidden.
You must learn to choose between.

One happy thing is every happy thing:
Two, is as if they had never been.
 

673576878 さて、このような人間の生き方を教訓として歌いあげるこの「兵士の物語」は、ウォーターズの手による改変が成されているようだが、そこまで私は深めていない(私の手にあるアルバムは輸入盤で、当然ナレーションの英語の内容は記されているが、私にとって十分に訳せるものではない。日本盤には和訳があるのだろうか)。

 いずれにせよ、語り手、兵士、悪魔の3人をウォーターズが一人でナレーションしているその業には真迫感が有りお見事で脱帽だ。彼にはいまやそうした世界にも深める事を試み、そしてこの曲の教訓までも訴えているところが恐ろしい。
 目下の「US+THEM Tour」の延長による延長の成功も、今や彼はピンク・フロイドの頭脳として作ってきた時代評価の強者として、更に昇華して存在している。ここにはAnti-Warとしての共通点は見いだされるが・・・・。

 しかし、彼のロッカーとしての人生は、才能と努力によってその道による成功をもたらし財産家となってはいるが、少年期の父不在の不幸、戦争のもたらした人間的不幸を反省しきれない世情の不信感、これは一向に晴らすことは出来ないでいる。そして果たして家族的幸せも獲得できているのだろうか、それは度重なる離婚劇は彼にとって何なのか、ここにはこの「兵士の物語」を彼が熱演する何かがありやしないだろうか。

 The Soldier's Tale is a Modern Fairytale and at the sametime an Anti-War piece

 このアルバムの録音は2014年。その時のメンバーによって翌2015年にブリッジハンプトン室内音楽祭(ニューヨーク州)で実演にもかけられている。 採算性は全く考えられないこうしたアルバムをリリースするウォーターズの生き様は益々目を離せない。

「THE SOLDIER'S TALE」
Part 1:
1. “The Soldiers March”
2. “Slogging Homeword”
3. “Airs by a Stream”
4. “As You Can Hear…”
5. “The Soldiers March (Reprise)”
6. “Eventually, Joseph Reaches his Home Village…”
7. “Pastorale”
8. “The Soldier, Disconsolate…”
9. “Pastorale (Reprise)”
10. “The Soldier, Slowly Coming Back to Himself…”
11. “Airs by a Stream (Reprise) - To Stretch Out on the Grass…”
12. “Hey Satan, You Bastard…”
13. “Airs by a Stream (2nd Reprise)”
14. “Now to be Gained Here…”
Part 2:
15. “The Soldiers March (2nd Reprise) - Down a Hot and Dusty Track…”
16. “He Doesn't Even Know Himself…”
17. “The Soldiers March (3rd Reprise) - Will he Take the Road to Home…”
18. “He doesn't have a Home Anymore…”
19. “The Royal March”
20. “So all was Arranged…”
21. “Later that Night…”
22. “The Little Concert - Light Floods the Eastern Sky…”
23. “The Soldier, with a Confident Air…”
24. “Three Dances - Tango, Pt. 1”
25. “Three Dances - Tango, Pt. 2”
26. “Three Dances - Waltz & Ragtime”
27. “So First a Tango…”
28. “The Devil's Dance”
29. “The Devil, Confused…”
30. “The Little Chorale”
31. “The Devil Recovers Some of his Wits”
32. “The Devil's Song - All Right! You'll be Safe at Home…”
33. “Hm, a Fair Warning…”
34. “Grand Chorale (Part 1)”
35. “Spring, Summer, Autumn…”
36. “Grand Chorale (Part 2)”
37. “Steady Now…”
38. “Grand Chorale (Part 3)”
39. “Steady, Just Smell the Flowers…”
40. “Grand Chorale (Part 4)”
41. “Now I have Everything…”
42. “Grand Chorale (Part 5)”
43. “The Princess, all Excited…”
44. “Grand Chorale (Part 6)”
45. “And so, Off They Go…”
46. “Triumphal March of the Devil”

(視聴)

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2018年9月18日 (火)

ロジャー・ウォーターズRoger Watersストラヴィンスキーに挑戦「The Soldier's Tale 兵士の物語- Narrated By Roger Waters」

ピンク・フロイドの頭脳が遂にストラヴィンスキーの世界に

 驚きのニュース!!、目下2年にわたる「US+THEM」ツアー中のあの元ピンク・フロイドの"The Creative Genius of Pink Floyd~ピンク・フロイドの創造的鬼才"と言われるロジャー・ウォーターズが、ロシアの異色作曲家ストラヴィンスキーの作品『The Soldier's Tale 兵士の物語』(1918年発表)を題材に、器楽演奏のナレーションを独自の構想で行うというクラシック・アルバムの発売ニュースがアナウンスされている。

<Classic>
Roger Waters
「The Soldier's Tale 兵士の物語- Narrated By Roger Waters」

Sony Classical / 19075872732 / 2018

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<演奏>
ロジャー・ウォーターズ(語り)
ブリッジハンプトン室内楽音楽祭の音楽家
 スティーヴン・ウィリアムソン(クラリネット)
 ピーター・コルケイ(ファゴット)
 デイヴィッド・クラウス(トランペット/コルネット)
 デミアン・オースティン(トロンボーン)
 コリン・ジェイコブソン(ヴァイオリン)
 ドナルド・パルマ(コントラバス)
 イアン・デイヴィッド・ローゼンバウム(パーカッション)

<録音>
2014年12月11日 12日 Bridgehampton Presbyterian Church

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 ストラヴィンスキー(イーゴリ・フョードウィッチ・ストラヴィンスキー1882-1971)と言えば「火の鳥」「春の祭典」などは聴いたことがあるが、この「兵士の物語」は全く知らない。第一次世界大戦の社会的・人間的疲弊の中での作品と言われ、考えて見るとロジャー・ウォーターズの祖父は第一次世界大戦で戦死、また父親は第二次世界大戦でイタリアのアンツィオの激戦で戦死している。従って父親とのコンタクトなく少年時代を過ごした彼には、常にこのトラウマが人生を左右してきた。彼のピンク・フロイド時代の作品に於いても後期(特にアルバム「狂気」以降、「THE WALL」、「THE FINAL CUT」には切々と訴えてくる)にはこの事実のトラウマとの闘いでもあった。とすれば彼の才能からすれば、このクラシック作品に挑戦するというのは、極めて自然な話なのかも知れない。

 中身は”読まれ、演じられ、踊られる”作品と紹介されるこの「兵士の物語」は、3人のナレーション(語り手、兵士、悪魔)と7人の器楽奏者によって演奏される舞台作品だそうだ。原作はフランス語だが、その英語版をもとにウォーターズ自身が改作。本来3人で演じられるものを声色やアクセントの変化をつけることで、ロジャーひとりで語りを担当したニュー・ヴァージョンと言う事だ。
 ロジャーのこうした挑戦は、ピンク・フロイド作品から全くのブレもなく一貫している。彼の戦争という社会悪にあらゆる側面から訴え続ける道には一つも陰りが無い。
 彼のフランス革命を題材にしたクラシック・オペラ作品『サ・イラ』(2005年) 以来のソニークラシカルからの作品近々リリースだ。

 取り敢えず早く聴いてみたい一枚である。

(参考視聴)

① Stravinsky "The Soldier's Tale "

*
② Roger Waters "The Fletcher Memorial Home"(from 「the final cut」)

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