デヴィット・ギルモア

2022年9月20日 (火)

ピンク・フロイド Pink Floyd  「Animals 2018 Remix」

「ライナー・ノーツ騒動」経てようやく発売・・・・
5.1サラウンド・ミックス、ステレオ・ミックスHi-Res盤 など各種

<Progressive Rock>

Pink Floyd  「Animals 2018 Remix」
①Sony Music Japan / JPN /SICP-6480
②e-onkyo /Hi-Res flac  192kHz/24bit
③Blue-ray audio : 5.1 surround

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(BLUE-RAY AUDIO)
2018 Remix - Stereo: 24-bit/192kHz Uncompressed, dts-HD MA
2018 Remix - 5.1 Surround: 24-bit/96kHz Uncompressed, dts-HD MA
1977 Original Stereo: 24-bit/192kHz Uncompressed, dts-HD MA

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(Tracklist)

1.Pigs on the Wing 翼を持った豚(Part One)
2.Dogs 犬
3.Pigs 豚(Three Different Ones)
4.Sheep 羊
5.Pigs on the Wing 翼を持った豚(Part Two)

F78645b2368a27911afd2d24cw   ピンク・フロイドの第4期スタートとなったロジャー・ウォーターズ主導で制作された1977年発売のコンセプトアルバム『Animals』の2018年リミックス盤が、なんだかんだとすったもんだしてようやくリリースされた。ジェームス・ガスリーによってオリジナルマスターテープからのリミックスだが、特に最近「Pink Floyd権」を持つD.ギルモアとその一派(敢えて一派というのは、まさしくロジャー・ウォーターズがいみじくも歌ったアルバム『炎』の曲"Welcome To The Machinようこそマシーンへ"で批判した音楽産業の営利独占主義そのものになってしまっているギルモアの女房で実業家のpolly samson主導のアメリカ流商業主義の組織である)のマーク・ブレイクMark Blake(英国ミュージック・ジャーナリスト)がこのリミックス盤の為に書いたライナー・ノーツを拒否するというみっともない独占欲の抵抗で、遅れに遅れてここに日の目を見た。・・・これに関しては既に詳しくここ記したところである(参照:"2021.7.4「Pink floyd 「Animals」(5.1Surround)」リリースか")

  これも話題になったロジャー・ウォーターズの発想でバターシー発電所に豚が飛ぶ象徴的なアートワークも、ヒプノシスの元メンバーでもあったアートデザイナー、オーブリー・パウエルによって元画(↓参照)を生かして一新、上のように現代風に衣替え(初めて見たときは、これは現代調で良いと思ったが、比較してみると1977年のオリジナル・デザインの方が、やっぱりいいですね)。ここに 発売45周年、またバンドのデビュー55周年を迎えた2022年ついにピンク・フロイドの歴史的問題作が一新リリースとなったのである。

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 この『Animals』は、人間の世界を動物に置き換えながら社会問題を痛烈に批判したコンセプトのプログレッシブ・ヘビー・ロック・アルバム。
 又この1970年代半ばは、英国において特に社会不安高まった時代だった。ロック界はプログレッシブ・ロックの波が最高潮を迎え、その結果形骸化、AOR化という流れは否定できず、それに反応してのパンクの波の襲来は、イエス、キング・クリムゾンなどの巨星をも撃沈し、当然恐竜と化したピンクロフロイドにも向かった。確かにピンク・フロイドもアルバム『炎』の内向き傾向から方向性を失いつつあった中で、この刺激こそ眠っていたロジャー・ウォーターズの眼を覚ましたのである。そして彼は自身の目論見の為にはアルバム制作にマイナスの者の締め出しも行った。これはこのバンドの頂点への一歩であったと同時に、ある意味悲劇の始まりでもある。

 とにかくこの英国社会不安は、当時労働組合と労働党政府の間での断絶、ストライキの発生、経済不安は頂点に達し、スポーツでもサッカーは衝突の場となり、街にも暴力が増えパンクとスキンヘッドの連中により扇動された不安社会が動き、一方右翼の台頭は人種問題にまで発展していた。こんな時にウォーターズの世界観が動かないはずはない。そしてピンク・フロイドは宇宙的浮遊的快いサウンドから、ウォーターズは新しいサウンドの試みを展開し、ウォーターズの歌詞にも誘導され、ギルモアもそのキター・ワークはヘビーな展開を見せたのだ。ただ一人リック・ライトの色は消え、彼の協力も薄くなりクレジットから消えてしまっている。
 このフロイドの新時代が・・・彼らの歴史の中でも最高潮の4期の開幕となったのである。

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 こんな事態背景の中でのロック界、ピンク・フロイドは消滅に向かうだろうという見方がなされ、代わりにセックス・ピストルズのようなバンドに方向は向いていた。しかしこのアルバムの登場は、ミュージック評論家はこぞってネガティブ反応とフロイド・ミュージックの変化に批判を集中させたが、しかし事態はそれに反して、ピンク・フロイド熱は更に上昇し、各地でのライブは異常な熱気の中で成功をおさめ、パンクからの支持まで生まれ、ロック市場では圧倒的支持を得たのである。更にバンドには当時ウォーターズの要請でスノーウィ・ホワイトがサポート・ギタリストとして加わってツイン・ギターのスタイルでこれも好評だった。

 このアルバムの中身は長編"Dogs犬", "Pigs豚(Three differrent ones)" 、"sheep羊"3曲と、ウォーターズのソロ"Pigs on The Wing翼を持った豚 part1,part2"によって成り立っているが、一曲はウォーターズとギルモアの共作だが、その他は全てウォーターズの曲、そして作詞は全てウォーターズであり、"支配階級"(豚の社会構造連鎖の頂点に金と権力で太る存在)、"権力者"(ビジネスのボスたる犬)、"従順な羊"を描き社会の三構造に痛烈な批判をする(しかし、よく聴いてみると一般に言われるようなそんな単純でないところにウォーターズの意図は隠されている。社会の疎外と残酷さが暗くのしかかってくるし、羊の犬に対しての逆襲をも示唆している)、なんと冒頭と最後の曲"翼を持った豚"は、対照的に非常に優しい歌でウォーターズのロマンスの相手キャロライン・クリスティーに捧げているという芸達者だ。

 こうしてロック・ミュージックは、その時代の社会に根差したものとしての市民権の獲得に根拠を回復し、ピンク・フロイドはウォ-ターズ主導の社会派転換によって更に基盤は確実なものに築き上げられた。続く『The Wall』、『Final Cut』と他の追従を許さない世界の構築がなされるのだ。しかしこれが又ピンク・フロイドにとっての一つの悲劇ともなった。

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 今回は、当然私はリミックス盤として、「BLUE-RAY AUDIO」盤を手に入れたが、ここには「2018REMIX」の①5.1Surround 24bit/96kHz と、②Stereo 24bit/192KHz が収録されている。又e-onkyoからHi-Res192kHz/24bitもダウン・ロードして聴いているが、しかし今回のREMIXは、宣伝にあるほどの大きな変化はない。従って5.1Surroundがお勧めである。しかしこのSurroundも昔のもののような著名な音の分離はなく、比較的前面に音を集めていて聴きやすく作られている。そんな訳で、面白さという点では少々期待を裏切っていた。
 目下80歳を目の前にしているウォーターズは北米ツアー「This is not a Drill」を展開して、相変わらず社会問題としての訴えを続けている。そしてそこには今回はこのアルバムからの"Sheep"を演じているのだ。彼は過去のどのツアーにおいてもこの『Animals』からは必ず一曲は演じ、特に"Bigs"によるトランプ前米国大統領批判はインパクトを残している。

(評価)
Remix効果  :   80/100
Surround効果 :  70/100

(参考試聴)

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2022年8月 6日 (土)

ピンク・フロイド Pink Floyd 「HEY HEY RISE UP」

ウクライナ支援のために・・・・

<Progressive Rock>

(CD Single) Pink Floyd 「HEY HEY RISE UP」
Sony Music Japan international / JPN / SICP6479 / 2022

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Pink Floyd (David Gilmour, Nick Mason, G.Pratt, N.Sawhney)
Andriy Khlyvnyuk (Boombox)

(Tracklist)
01. Hey Hey Rise Up
02. A Great Day for Freedom 2022

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 ピンク・フロイドが、ウクライナの人々を支援するための新曲「HEY HEY RISE UP」が限定CDシングルで発売。収益はウクライナ人道支援募金へ寄付されるとのことだ。7インチは日本のみClear Vinyl仕様となっているらしい。

Subbuzz159816477w   事の始まりは、ピンク・フロイドのデイヴィッド・ギルモアは、息子のチャーリーと結婚しているウクライナ人アーティストのヤニナ・ペダンから、2015年に知ったウクライナの歌手アンドリー・クリヴニュクAndriy Khlyvnyuk(ウクライナのロック・グループBoomboxのメンバー →)のインスタグラムの投稿を見せられ、ロシア・ウクライナ戦争でウクライナを支援する何かを録音するよう促された。そこで彼はニック・メイソンに連絡を取り活動を提案したことによるようだ。
 ピンク・フロイドはもうここ数年間活動しておらず、ギルモア自身もはバンドが再結成しないと何度か言っていた。しかし、この戦争に対して身内の中からも訴えが出てきたことから、腰を上げたようだ(再結成と行っても相変わらずロジャー・ウォータースとの関係はない)。このインスタグラムの投稿内容は、A.クリヴニュクのウクラエル軍に所属してのウクライナ国歌をキエフのソフィア広場で、聖ソフィア大聖堂の鐘楼を背景にして歌うパフォーマンスを動画で撮影したものだった。

 今回のこのCDシングルには、一曲の新曲M1. "Hey Hey Rise Up"が収録されている。そしてこの曲にはA.クリヴニュクのインスタグラムの投稿から、キーウのソフィア広場で歌う彼の声を使用。彼の歌う「ああ、草原の赤きガマズミよ(英題:Oh, The Red Viburnum In The Meadow)」が使われている。従って彼とD.ギルモアらは一緒に録音していない。この曲は第1次世界大戦中に書かれたもので、ウクライナの抗議のフォーク・ソングであって、同国がロシアから侵攻されてからウクライナの人々を鼓舞すべく世界各地で歌われてきたもの。そしてピンク・フロイドのこの曲のタイトルは、この曲の歌詞「さあ、立ち上がろう、勝利の喜びを(HEY HEY RISE UP and rejoice)」からきているものである。
  この曲のアートは、キューバ人芸術家のヨサン・レオン(Yosan Leon)の描いたウクライナの国花ヒマワリの絵が使われている。

  ニック・メイスンは立場上、呼ばれただけで曲の作成にどんな役割をしているかは全く不明だが、A.クリヴニュクの如何にもウクライナらしい国の曲が高らかに歌い上げられ、それを支えるべくギルモアの泣きのギターが入るパターンだ。悪くない。
 D.ギルモアとA.クリヴニュクの関係というと、2015年のロンドンで行われたベラルーシ人民の支援コンサートで一緒になるはずが実らなかった事件がそもそもスタートらしい。

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 もともと今回のCDシングル・リリースの件は、D.ギルモアの身内にたまたまウクライナ人がいて、ウクライナ支援という戦争に対しての反応のようであるが、不思議に思うのは、かって彼はピンク・フロイドの「創造的才能」と言われるR.ウォーターズの反戦運動、そして戦争に導かれる社会的・政治的問題、それらに対するコンセプト・アルバム作成には、D.ギルモア自身は"ミュージック至上主義"で、そのような曲作りや演奏にはリック・ライトと共に反対してきた経過があるが、今にしてこうした反応は、いかなるものかと疑問が湧いてくる。

000000038566_k63sw ウクライナ支援は決して悪いこととは思わないが、そこにある根本的な民族的、社会的問題に相対してゆかねばどこか形だけのものに見えてきてしまう。R.ウォーターズがアルバム『ANIMALS』から『THE WALL』『THE FINAL CUT』で訴えてきた事、そして彼はバンド内での協力が得られなくなり孤立し脱退することになった。そしてそれ以後のギルモア主導のピンク・フロイドとは何であったのかと、今更にして疑問も残る事ではある。最後のアルバム『The Endless River』で終わっていた方がD.ギルモアらしかったと言えるような気がする。

 又D.ギルモアは「R.ライトが死亡してのピンク・フロイドはあり得ない」と、ピンク・フロイドを終わらせた。しかし、今回このシングルをリリースしたことに関しては、かってのライトのいたころの曲をつけて辻褄(つじつま)を合わせている。そして更に今回発売にようやく至ったアルバム『ANIMALS』リマスター版に対しても、その時代の背景、政策に至る経過のライナー・ノーツをつけるのを反対したりと、R.ウォーターズにしてみれば納得できないことなんだろうとも想像できる。

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 R.ウォーターズは、D.ギルモアは結構お人好しなんだと言い、アルバム『The Final Cut』制作においても彼一人協力してくれたと感謝している。そしてR.ウォーターズの過去の大々的なライブにも顔出し出演を誘ってきた。しかし人間関係はそれを取り巻く人々によってゆがめられて行ってしまう事も多い。今のピンク・フロイド・サイドは商業的営利主義が旺盛で(特にギルモアの作品の歌詞を殆ど書いている出版業界から始まった商業感覚の旺盛な米国人の女房のポリー・サムソンPolly Samsonの影響が大きいようだ)、そんなことで、R.ウォーターズの反発も大きい。そしてその波に乗らざるを得なくなっているD.ギルモアも、被害者なのかもしれない。R.ウォーターズがかって曲"Welcome To The Machine"で訴えた現実がここにもあるようだ。
 
(評価)
□ 曲・演奏  88/100
□ 録音    85/100
(視聴)

 

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2021年12月 1日 (水)

箱根アフロディーテ50周年記念の年として・・ピンク・フロイド

ピンク・フロイド Pink Floyd
アルバム「原子心母」の再発と1971年来日映像、更に「完全記録盤」の出現

  今年も最後の12月を迎えました。コロナ禍ということで日本始め世界の全てが抑制され、日本で華々しく行われるはずであった「オリンピック」「パラリンピック」も無観客開催という異例の盛り上がらないものとして終わった。
 音楽界も大々的なライブ活動や、落ち着いた小さな会場でのライブも中止されて例の無い低調な年でもあった。

 思い起こすと、ロックが社会を動かしていた時代に、初来日で話題になった伝説の「ピンク・フロイドの箱根アフロディーテ・ライブ」が行われて50年、そんな記念の年でもあった。従って日本でも記念的動きがあった中でのピンク・フロイド記念アルバムのリリースもあったので、日本企画で「箱根アフロディーテ」の映像盤とアルバム「原子心母」の再発が行われた。ちょっと時間が経ったが、年末も近くなったので今年の記念行事みたいなものなので、ここに取上げておく。

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<Progressive Rock>

Pink Floyd 「Atom Heart Mother」
Sony Music Entertainment / JPN / SICP-6396-7 / 2021

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<CD>
1.Atom Heart Mother
2.If
3.Summer'68
4.Fat Old Sun
5.Alan's Psychedelic Breakfast

<Blu-ray>
1.Hakine Aphrodite Festival,1971
2.Scott & Watt

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 CDは、アルバム『Atom Heart Mother 原子心母』そのものである。このアルバムは1970年10月のリリースで、来日の前年である。従つて来日ライブの曲目としては、当然メインのものとなるが、そもそもこのアルバムは、所謂ロックの分野で"Progressive Rock"といわれるものが提唱された記念的アルバムで、これ以降キング・クリムゾン、イエスなども"プログレ"といわれる世界に評価されるようになったものだ。
 このプログレというものは、日本盤アルバムの帯に「ピンク・フロイドの道はプログレッシブ・ロックの道なり!」と書かれたことが有名で、意外に日本において世界のロックの区分けをする草分けになったととも言われていて、そんな意味でも記念的アルバムである。今回はその再発であるが、音質はそれなりに改善している(2011年リマスターしたものかとも思われる)。

 Blu-rayは、伝説の箱根アフロディーテのライブ映像版だが、内容はかなりお粗末。当時放送されたものの映像を手を加えて見やすく改善されているが、特に新鮮なところは無い。かって我々が見てきたものと大差は無い。来日の羽田空港からの映像など、これもかって見たものである。ロジャーが女房のジュディ・トリムと仲良くしているところが印象的だ。
 その他、3分ほどのものだが、ピンク・フロイドのクルーを追いかけたB-Roll映像が新発見され、ホテルから機材を積んでトラックで運び、現地で前日の大雨で泥濘にはまった機材車をブルドーザーが引っ張っている様子など、短いながらも当時の会場設営の苦労風景を見ることのできるという、貴重と言えば貴重な映像が付け加えられている。

 いずれにしても、しかし6600円で大騒ぎして売るほどのものでは無いと思った次第。

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 さて、話題を変えて、その箱根アフロディーテのライブは、映像は極めて少なくもうこれ以上は出てこないと思われるが、ライブ音源記録も実はなかなかパーフェクトなものも無く、なんと当日の演奏のセットリストも寧ろ謎になっていたところもある。しかし、ここに来てSigmaから貴重盤が出ているのでこちらを紹介する。
 上の記念盤の映像を見ておいて、こちらはブートではあるが、アフロディーテのパーフェクト音源収録盤として聴くこと出来る。それには良好の記録を選りすぐって編集して完全なライブ記録に仕上げたもので、全貌を知ることが出来るという寧ろこれこそ貴重盤だ。

<Progressive Rock>

PIMK FLOYD 「HAKINE APHRODITE 1971 2ND NIGHT」-50TH ANNIVERSARY-
Sigma 283 / 2021

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HAKONE Aphrodite, Hakone, Japan 7th Augast 1971 TRULY PERFECT SOUND(from Original Masters)

Disc 1 (65:51)1. The Circle Game (Buffy Sainte-Marie)
2. Soundcheck / Announcement
3. Atom Heart Mother 
4. Soundcheck
5. Green Is The Colour
6. Careful With That Axe, Eugene 
7. Soundcheck 
8. Echoes

Disc 2 (43:55) 
1. Soundcheck 
2. Set The Controls For The Heart Of The Sun 
3. A Saucerful Of Secrets
4. Soundcheck
5. Cymbaline

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 これまでアフロディーテ録音もので箱根初日と思われたものも、ここに来て全て箱根二日目の記録であることが明らかになり、いわゆる注目盤は全て二日目と言うことであった。それは勿論オーディエンスものであり、主として下に紹介する五つの記録がある。しかし残念ながら、それぞれ完全なモノは一つも無かったのであった。

 ▶[記録1=モノラル録音46分] 幻の名作アナログ・モノラル録音もの
 ▶[記録2=ステレオ録音62分] 最高音質を誇るステレオ録音(『APHRODITE1971』既発)
 ▶[記録3=モノラル録音31分] 取り柄が特になし
 ▶[記録4=モノラル録音55分] 名音源、"太陽讃歌"と"エコーズ"が完全収録
 ▶[記録5=モノラル録音100分] 最長録音モノで"神秘"が初めて聴けたもの。"太陽讃歌"、"シンバライン"もノーカット。謎のあった当日を完全解明することの出来た貴重モノ

 このブート・アルバムは、これらの五つの録音モノを分析して、欠落部を補完する作業をし、完全版の制作を行ったモノである。簡単に説明すると・・・
 まず、Disc1のライブ前半は、最高録音モノ[記録2]を中心に完全化したもの。"ュージン"の中盤の30秒、"エコーズ"の終盤5分を[記録4・5]で補完。
 Disc2は、最長モノ[記録5]を[記録4]で補完。

 このように、最良のものを中心に欠けていた部分を補完して、曲間も含めて完成させた100分を超える第二日完全盤である。

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 とにかく、このライブにおいてもピンク・フロイドは手抜きをしていないことが良く解る。発売後間もなくであった"原子心母"、そして当時実験中の"エコーズ"と、更に謎であったセットリストは、過去のライブ人気曲の"ユージン"、『モア』の"グリーン・イズ・ザ・カラー"、"シンバライン"などを全て網羅している。この辺りはプロ根性ですね、手抜きはしていない。そしてその当日の記録が完全に聴けるのである。

   演奏内容は"原子心母"からスタートするが、オートバイの効果音は冒頭に配しているが、勿論アルバムのようにチェロ、ブラスバンド、コーラス隊はない。実は彼らのライブは殆どこのタイプだが、ギルモアのギターやウォーターズのベースとライトのキーボードの旋律の流れなどの演奏の味があって、このほうが私は好きなのである。そして続くは、美しいウォーターズの曲"Green is The Colour"、これはシド・バレットの抜けた後、ギルモアをなんとか売り出そうとウォーターズが彼に歌わせたモノである。そしてウォーターズの絶叫曲"ユージン"もしっかり披露している。又この年11月にリリースされた『おせっかい』の"エコーズ"も24分の演奏でほぼ完成されている。
 その他も改めて聴くと後半の"神秘"の演奏も19分で迫力満点、しかも打ち上げられた花火の音も収録されている。最後は"シンバライン"で聴衆の拍手の音頭と共に演奏され括っているのも感動もの。

 とにかくこの二枚組ブートこそ、謎だらけであった「箱根アフロディーテ」を知ることと共に感動を呼ぶ貴重盤であるのだ。

 

(視聴) 箱根アフロディーテ

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Atom Heart Mother 1970

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2021年7月 4日 (日)

ピンク・フロイドPink Floyd リミックス版「Animals」(5.1Surround)リリースか

またしてもギルモアの独占的妨害で、ライナー・ノーツ無し

<Progressive Rock>

PINK FLOYD 「ANIMALS」
 REMIX - 5.1Surround

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Roger Waters
David Gilmour
Nick Mason
Richard Wright

61krnmcjuml_ac_  プログレッシブ・ロックとしてのピンク・フロイドPink Floydの作品群の中で、一つの到達点であったと言える第10作目のアルバム「アニマルズAnimals」(1977年Hervest/SHVL815 →)は、世界のロックの歴史においても物議がかもされた重要な作品である。それが当時立体音響にて録音され、マスター・テープが保存されていた。そのリミックスによる5.1サラウンド・サウンドでリリースされるところにきた。しかし、そこに一つのトラブルが発生した。
 (参照) ピンク・フロイドの到達点「アニマルズ」(http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2009/01/pink-floyd-1729.html)

 米国から広がり、英国でスタートした第二世代ロックは、ビートルズの出現で瞬く間もなく全世界に広がり、そして多様に変化し発展してプログレッシブ・ロックを産んだ。そこには音楽的な実験的センスによるところまでも昇華し、そして次第に本来のロックとは何かという問題も生むに至った。とくに英国ではピンク・フロイド、キング・クリムゾン、イエスは三大プログレ・バンドとして圧倒的人気を獲得したのだが、時に1970年代半ばから後半に台頭したバンク・ロツク・ムーブメントを中心として、特にブログレ・ロックはやり玉にされ、なんとキング・クリムゾン、イエスはほゞ撃沈されてしまう。そもそもパンクとはメロトロンやシンセサイザー等の機材を使い音楽的追求や技巧を追求する当時のハードロックやプログレッシブ・ロック・シーンに対する反発により生まれたものだ。簡素なロックンロールへの回帰、簡潔なスタイルで大衆に根ざしたタイプを求めた。従つて攻撃的スタイルで浸透し、ブルースの要素すらも排除された。これはピンク・フロイドの根底にも実はみられるブルース調とは相対したものであった。

 そんな時に、ピンク・フロイドも例外でく影響を受け批判も浴びた。アルバム「狂気」(1973)、「炎」(1975)など、AOR(Adult-Oriented Rock,  Album-Oriented Rock)化したロックとして否定的な流れに直面したのだ。ところが音楽の方向性に追究してやまないロジャー・ウォーターズの基本的思想に強烈な刺激を与えることになった。彼は当時ライブで盛んに演奏した曲"Raving And Drooling"、"You're Gotta Be Crazy"が、前作第9作「炎」に相応しくないと判断して温存していたものに手を加え(歌詞も変更した)、この第10作「アニマルズ」のアルバム作りに彼の根底にある社会批判を露骨に示し、逆にパンク、ニューウェーブに打って出ることを試み、ここにロジャーは3曲を追加して一つの回答を示したのであった。内容は、収録の5曲のうち、1曲のみロジャーとギルモアの共作で、それ以外は全てロジャーひとりによる作曲となり、全曲作詞となった。そして録音はかなりの難航があったが、彼の決断でかってのスタイルからむしろ敢えてシンプルな音作りに変更し挑戦した。しかし当時過去のものにとらわれるミュージック評論家からは、その変化を受け入れる事無く賛辞は得られなかった。一方、なんと新たな変化が功を奏してか、大規模なツアーはパンクを圧倒し更なる成功を成し遂げ、バンドにも過去以上の成功をもたらしたのだ。

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Unnamed_20210704105401  こんな多くのプログレ・バンドの惨敗期に、ピンク・フロイドの存続かどうかという重要な状況下のロジャー・ウォーターズを中心としてのピンク・フロイドの流れを実に素直に見つめ、事実に基づいてマーク・ブレイクMark Blake(英国ミュージック・ジャーナリストであり各種書籍の著者、ピンク・フロイド研究に実績ある。→ )が、このリミックス・アルバム「アニマルズ」のライナー・ノーツを書いたのだ。ピンク・フロイド自身のミュージツクに対する葛藤と変更に至る経過、メンバーの果たしてきた事などを忠実に実に簡潔に纏めたライナー・ノーツであり、内容はニック・メイスン、ロジャー・ウォーターズの認めるところであり。又デヴィット・ギルモアも否定はしなかったのだが、このライナーを今回のニュー・リミックス・アルバムに付けることにはギルモアは拒否をしたのである。あまりにも当時のピンク・フロイドが、ロジャー主導のものであった事実の公開に、ギルモア及び彼の女房のジャーナリストで実業家のポリー・サムソンPolly Samsonが拒否したのだ。ピンク・フロイドの業績のあらゆるものをギルモアのものしようとするには、秘密にしておきたかった内容の事実公開という事が気に入らなかったのである。確かに「アニマルズ」の構想にはギルモアの関与は少なく、ロジャーの独壇場と化していたことは事実で、ジャケ・デザインまでもかってのヒプノシスと決別し、ロジャーがあのロンドン郊外の火力発電所の四本の煙突塔の上に豚を飛ばすというアイデアを思いつくまで熱を込めていたのだ。
 この「アニマルズ」の誕生の背景には、英国の産業競争、経済混乱、北アイルランド問題、人種暴動などの時代があり、アルバム・コンセプトがロジャーにより造られ、羊が専制的な豚と権威主義的な犬に仕えるという動物を擬人化しての悪循環に陥った人類の描写と批判に集中した。

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 こんなパンク・ニューウェーブに対してのピンク・フロイドの葛藤とロジャーの発想の流れを教えてくれた貴重なライナーを拒否するというギルモア側の暴挙によって、5.1サラウンド・リミックス版はそのリリースまでも風前の灯火となった。
1w_20210704120001  そこまで露骨なやり方に対して、ロジャーとメイスンはアルバムのリリース実現のために、この貴重なライナーを付けることを断念したのである。もともとニック・メイスンのピンクフロイド回顧録「INSIDE OUT - A personal History of PINK FLOYD」(→)にも発行をさせないように働いたギルモア、これはギルモアとポリー・サムソンの自利主義の結果によるものである。しかし、メイスンはこの回顧録を断固発刊した。しかし今回は、又もやのライナーの拒否にあきれつつも、大人の対応としてロジャーと共にメイスンもやむを得ないと折れたのである。

 ピンク・フロイドは今や巨大産業として、ギルモア・サイドの営利主義と独占欲で固められており、ピンク・フロイドのFacebookにロジャーは投稿も許されていない。こんな中で、ロジャーはやむをえず不本意ながらライナーを付ける事を断念したところである。しかしこの貴重なブレイクのライナーを闇に葬るわけにもゆかず、ついにここにきて rogerwaters.comに公開したと言うことになったのである。

 ここに「マーク・ブレイクのライナー・ノーツ」を公開する。当時のピンク・フロイドの葛藤や、如何に「アニマルズ」が造られたか、パンク・ニューウェーブとの流れの中でのロジャー・ウォーターズの試みがどう成されたが手に取るように参考になる。(英文苦手の方はGoogle翻訳などで見てください)

Mark Blake: Liner Notes
Pink Floyd: Animals
Despite being recorded in London during the long, summer heatwave of 1976, Pink Floyd’s Animals remains a dark album. Its critique of capitalism and greed caught the prevailing mood in Britain: a time of industrial strife, economic turmoil, The Troubles in Northern Ireland, and the race riots of Notting Hill. The album was released on January 23rd 1977, but the roots of Pink Floyd’s tenth studio album go back earlier in the decade. Following the success of 1973’s The Dark Side Of The Moon, Pink Floyd pondered their next move. During a two-to-three week jam session in early 1974, the band worked on ideas for three new compositions. From these sessions the band developed Shine On You Crazy Diamond, (A passionate tribute to Syd Barrett, words by Roger Waters. Added by me, sorry couldn’t help it.) which became the centrepiece of Floyd’s next album, Wish You Were Here, and Raving And Drooling (composed by Roger Waters) and You Gotta Be Crazy written by Waters and David Gilmour.
Raving And Drooling was a tale of violent social disorder, while You Gotta Be Crazy told the story of a soulless businessman clawing and cheating his way to the top. Both were performed live for the first time on the Floyd’s winter tour of 1974. They were both considered for the Wish You Were Here album, but Roger insisted that neither song was relevant to the overall idea, that “Wish You Were Here” was essentially about absence, and as neither song fitted his conception of the record’s overall theme, neither song should be included. The band eventually concurred. Scroll forward two years, and Roger had an idea for the next Pink Floyd album. He borrowed from George Orwell’s allegorical story, Animal Farm, in which pigs and other farmyard animals were reimagined anthropomorphically. Waters portrays the human race as three sub-species trapped in a violent, vicious cycle, with sheep serving despotic pigs and authoritarian dogs. You Gotta be Crazy and Raving And Drooling perfectly fitted his new concept. In the meantime, a year earlier, the group had bought a set of disused church buildings in Britannia Row, Islington, which they’d converted into a studio and storage facility. Prior to this every Pink Floyd studio release had been partly or wholly recorded at Abbey Road studios. Pink Floyd had also found a new recording engineer. Brian Humphries, an engineer from Pye studios, who they had met while recording the sound track for “More”, a movie directed by Barbet Schroeder. Brian had gone on to engineer Wish You Were Here at Abbey Road, and also helped them out on the road, so they had got to know him very well. Using their own studio marked a significant change in their working methods. There were setbacks and teething problems, but also a great sense of freedom.
Following Roger’s instincts about the new songs paid off, the songs had an aggressive edge far removed from the luxuriant soundscapes on Wish You Were Here. It was a timely change of direction. At Britannia Row, he renamed Raving And Drooling, Sheep and Gotta Be Crazy became Dogs. The narrative was completed by the addition of two new Waters songs: Pigs (Three Different Ones) and Pigs On The Wing.

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On Pigs (Three Different Ones), the lyrics namechecked Mary Whitehouse, the head of the National Viewers And Listeners Association. Whitehouse was an outspoken critic of sex and violence on British television and a topical target for Roger’s ire. The subject matter was bleak, but Nick Mason recalled lighter moments over dubbing songs with special effects and barnyard noises. While Sheep also made room for Roger’s blackly comic variation on Psalm 23: “He maketh me to hang on hooks in high places/ He converteth me to lamb cutlets…” The music and the performance mirrored the intensity of the lyrics. Keyboard player Richard Wright’s eerie-sounding synths and Hammond organ cranked up the unease. While David Gilmour’s shared lead vocal on Dogs and his guitar playing throughout Animals offered a striking counterpoint to Roger’s brutal lyrics. In contrast, Animals began and ended on an optimistic note. The verses of Pigs on The Wing were split in two and bookended the album. Roger’s lyrics and vocal performance of acoustic intro and outro (“You know that I care what happens to you/ And I know that you care for me too…”) suggested hope for humanity. The idea for Pink Floyd’s flying pig was also Roger’s. He had already commissioned its building as a stage device for the next tour. Storm Thorgerson and Aubrey Powell of the design company Hipgnosis, had produced a number of design ideas for an Animals sleeve and presented them to the band but none of the band, liked them, and when Roger added his disapproval someone said, ”Well why don’t you come up with something better then?” So he did, on the drive from his house in South London to Britannia Row, he regularly passed Battersea Power Station. He was drawn to the imposing brick building, and by the number four. Four in the band, four phallic chimneys, and if the power station were turned upside down then it resembled a table with four legs. He pursued his idea and had a maquette made, a small scale model of the eventual full scale inflatable pig. He then took photographs of Battersea Power station and created a photographic mock up of an album sleeve. The rest of the band loved it. Storm and Po, who had designed all of the previous Pink Floyd album covers, graciously offered to source photographers for the photo shoot, and did. On the first day of the photo shoot, the pig failed to inflate. On the second day, it broke free of its moorings and disappeared into a beautiful brooding sky, prompting a frantic call to the police and a halt to all flights in and out of Heathrow. The pig eventually crash-landed in a farmer’s field in Kent. The following day, the shoot went ahead without a hitch, great shots of pig in situ but no brooding sky. So Storm and Po stripped Day three Pig into Day two sky, bingo! History. Animals was a hit, reaching Number 2 in the UK and Number 3 in the US. Pink Floyd’s pig, Algie, made its live debut on their subsequent “In The Flesh” tour in 1977. At stadium shows in America, it was joined by another Water’s idea, an inflatable nuclear family comprising a mother, father and 2.5 children, surrounded by the spoils of a consumerist lifestyle: an inflatable Cadillac, oversized TV and refrigerator. Roger called it Electric Theatre. Both the album and the tour signposted the way to Pink Floyd’s next release, The Wall, and to Roger’s ever more ambitious ideas, both in terms of his music, narratives, politics and stage shows. But his themes and ideas explored on Animals have endured. More than 40 years on the album has been remixed in stereo and 5.1. In troubled times and an uncertain world, Animals is as timely and relevant now as it ever was.
Mark Blake

 

(Mark Blake 紹介 - Wikipediaより)

Mark Blake is a British music journalist and author. His work has been published since 1989 in The Times and The Daily Telegraph, and the music magazines Q, Mojo, Classic Rock and Prog. In May 2017, he was hired as launch editor of Planet Rock magazine and is a contributing editor to the title.

41de5clj77l Career
Blake is the author of the 2007 music biography, Pigs Might Fly: The Inside Story of Pink Floyd,[2] published by Aurum Press (available under the title Comfortably Numb: The Inside Story of Pink Floyd in the United States); Stone Me: The Wit & Wisdom Of Keith Richards,[3] (Aurum Press, 2008); Is This The Real Life: The Untold Story of Queen (Aurum Press, 2010) and Pretend You're in a War: The Who and The Sixties, published by Aurum Press in September 2014. His next book, Bring It On Home: Peter Grant, The Story Of Rock's Greatest Manager is due for publication by Little Brown/Da Capo in the UK and US in 2018.

Blake is a former Assistant Editor of Q, and previously edited the books Dylan: Visions, Portraits and Back Pages and Punk: The Whole Story" (Dorling Kindersley, 2004 & 2005). He has also contributed to official projects for Pink Floyd, including Pink Floyd: Their Mortal Remains, The Who, Queen and the Jimi Hendrix estate. He is represented by Matthew Hamilton at The Hamilton Agency.

Books
Blake, Mark (2008). Pigs Might Fly : The Inside Story of Pink Floyd. London: Aurum.
Blake, Mark (2010). Is This the Real Life : The Untold Story of Queen. London: Aurum.
Blake, Mark (2014). Pretend You're in a War : The Who & The Sixties. London: Aurum.
Articles
Blake, Mark (Dec 2014). "The birth & death of Pink Floyd : in the beginning". Mojo. 253 (6): 66–73.

 

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2020年7月22日 (水)

ピンク・フロイドの「the best of tour 72」の完全版の出現

まだまだ続くピンク・フロイドの「72'レインボーシアター名演」の完璧録音盤への道

 

<Progressive Rock>

PINK FLOYD  「LIVE  THE BEST OF TOUR72  - DEFINITIVE EDITION」
Sigma / ITA-JPN / Sigma 249-1,2 /2020

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Rainbow Theatre, Finsbury Park, London , UK  20th February 1972

(Tracklist)

Uktour <Disc1>  (74分14秒)
Breathe

Variation Of "On The Run"
Time
Breathe Reprise
Variation Of "The Grate Gig In The Sky" Part One
Variation Of "The Grate Gig In The Sky" Part Two
Money
Us And Them
Any Colour You Like
Brain Damage
Eclipse
One of These Days
Careful with  That Axe, Eugene 

<Disc-2> (66分49秒)
Tuning
Echoes
A Sauceful Of Secrets
Blues
Set The Controls for The Heart Of The Sun

 ここにフロイド・ファンにとっては、かけがいのない「72年レインボーシアターライブ」(右上)の決定版アルバムの出現をみた。
   これは1972年の冒頭を飾る「UK TOUR '72」において、1年後にリリースした彼らの最も最高傑作のアルバム『The Dark Side of The Moon狂気』の全容を、初めてステージで公開した最も注目されるライブであった (これは前年71年の11月29日から12月10日までロンドンのDecca Studiosにてアルバムとライブの為にデモ・レコーディングを行い、'72になって1月17-19日リハーサルを行い、1月20日からUKツアーをスタートさせ、2月20日に打ち上げたもの)。 つまりその最終日の録音ものだ。
  更に注目は、この直後3月には「JAPANESE TOUR」を(東京、大阪、京都、横浜、札幌)行ったのだっだ。しかし当然日本ではまだ知らざる曲の披露で戸惑ったというのも事実であった。

 そしてこのアルバムを語るには、少々歴史を語る必要があり、下のこのライブを収録したアルバムに話しを持って行かざるを得ない。

█ PINK FLOYD 「Live , THE BEST OF TOUR' 72」Lp11973 (→)
  We Did It For You / UK / LP / 1973

 ピンク・フロイドの多くの歴史的名ライブ録音盤の中でも、ファンにとって貴重で5本の指に数えられるものの一つが、注目の1972年2月20日のレインボーシアター公演を収録したこのコレクター盤(当初はLP、後に当然CD化された)である。これは翌年1973年リリースの世紀の名盤『The Dark Side Of The Moon 狂気』の原型が聴けるとして注目されたもの。以来この50年近く、このアルバムに関してはLP盤、CD盤、別テイク盤も含め、音質の改善がなされつつ現在解っているところでもなんと61枚が手を変え品を変えリリースされてきた。
   非公式音源盤(Bootleg)であるが、この"親子ブタ"のジャケは、知る人ぞ知る忘れられない逸物だ ( 右のように、ジャケ表には何の文字も無いのが初期LP盤の特徴。アルバム『原子心母』の"牛"は傑作と言われているが、それにも匹敵する出来映え)。

 そしてこのブート盤は幾度となく改良が加えられてきたが、更なる改良が加えられた"究極の完全版"といえる代物が、なんと今年になってイタリアと日本の力によってリリースされたのだ。それがここで取上げる「 DEFINITIVE EDITION」と名付けられたものだ。ピンク・フロイド専門レーベル「Sigma Records」 からのもので、それが今日のテーマである。


 私が以前から所持しているこの改良版CDは、既に音質の良さから究極のモノとされている「THE SWINGIN' PIG RECORDS」の"TSP-CD-049"盤 PINK FLOYD「LIVE」(1990年↓)であるが、これはこのライブの中の第一部での公式アルバム『The Dark Side of The MOON 狂気』(1973)に関する音源のみを収録したものだ。従ってその他のこの日の演奏曲は入っていない、それでも私は満足していたのだが・・・更に全容を求める声もあった。
 更にこの名盤でも、フロイド・ファンなら良く聴くと解るとおり、編集では上手く繋いでいるのだが、曲("time"、"eclipse"など)の一部、音の欠落している部分が少々あったりしている。従ってこんな感動モノでありながら更にその上を求めるのがファン心。

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Japantourx  そもそも、ピンク・フロイドは、ライブ演奏を繰り返しながら曲を完成させてゆくバンドであり、この名盤『The Dark Side of The MOON 狂気』がリリースされたのは1973年3月で、その内容はなんと一年以上前には、ここに聴けるが如く既にほぼ完成させライブ演奏していたのである。そんな中の1972年7月には映画音楽曲集のニューアルバム『OBSCURED BY CLOUDS 雲の影』がリリースし、『The Dark Side of The MOON 狂気』はその更に後のリリースであるから、このレインボーシアター公演は新曲を求めるファンにとっては注目の公演であり、それが又高音質で聴けるとなれば当時大騒ぎになったのも当然の話である。更に一方その直後の3月に「JAPANESE TOUR」(S席2800円→)が行われた歴史的年だ( 当時は日本では当然未発表アルバム『狂気』は知らない訳で、キャッチフレーズが "吹けよ風 呼べよ嵐"であった)。

 私の関心もピンク・フロイドとなると、1983年の『THE FINAL CUT』までが興味の対象で、それ以降はオマケの部類であって、特に1970年代がほぼ最高潮の時であったと言っても良い。そんな事情から、現在もこの1972年のレインボーシアター公演は注目されるのである。
 そうして50年近くを経過しようとしている今日においても、この『THE BEST OF TOUR 72』をなんとか完璧にと求める作業は続いていたのである。そしてここに出現したのが、究極の1972年レインボーシアター盤であるピンク・フロイド専門レーベルSigmaの「DEFINITIVE EDITION」である。これはこのレーベルの意地によって究極版を仕上げたと言って良い。

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(三つある有名録音)

 実はこの日のライブ音源というのは、雑多であるが、基本的にほぼ認められているものは三っあるのである。
① Recorder 1 (デレクDerek・A氏録音) : 過去最高の音質を誇る。上に紹介した名ブート盤「Live , THE BEST OF TOUR' 72」だ。曲の一部に欠落あり。マスターテープは盗難にあって現存しない為修復不可。 
② Recorder 2 (スティーヴSteve・B氏録音) : 平均以上の音質を維持、曲間は欠落。近年音質の改善が行われ再び注目。
③   Recorder 3 (ジョン・バクスターJohn Baxter氏録音) : 当日のショーの曲間も含め完全録音。しかしやや音質に難。
  それぞれこの3つともこのように何らかの難点を抱えていて、特に高音質の①は、内容の完璧さに欠けているのが最も残念なところである。そこで、②がここに来て音質の改善が高度な技術でかなり為し得てきたと言うことで注目された。

 そこで、この三録音を如何に組み上げるかによってこの日の実質2時間30分のショーを完璧再現出来ると、幾多の試みがなされたが、根本的にそこには甘さがあって、イマイチというのが偽らざる実情であった。

 しかしいずれの時代にも頑張るところが出現する。今回のこの「Sigma」においては、この三つの選び抜かれた最良のソースを使って、音質は勿論、演奏内容にも忠実にハイレベルな位置を目指して作り上げたのである。

 

(究極の「DEFINITIVE EDITION」の内容)

 この注目のSigmaの「DEFINITIVE EDITION」においては、まず上のTracklistにみるDisc1の「第一部」は、音源は最高音質の「① Recorder 1」をベースに仕上げている。冒頭は「③   Recorder 3」 を使って、ライブ開始までの臨場感と観衆の興奮を伝え、"Spek to me"は「③   Recorder 3」を使い、続く"Breathe"は最高音質の「① Recorder 1」が登場すると言った流れで、冒頭のロジャーのベースの迫力と続くギルモアのギターのメロディーのリアル感はスタジオ版と違って圧巻である。
 "Time"においては、欠落のあった3:36-56の間は完全に補填されて完璧な姿となっている。"Eclipse"も後半知り切れ部分を「③Recorder 3」で補填して完璧な姿に。
 チューニングの部分も「③Recorder 3」を使って臨場感ありだ。"Careful with That Axe, Eugene"も冒頭のロジャーの曲紹介などが入っていてライブそのものの形が出来ている。
 後半のDisc2の「第二部」は、「①Recorder 1」の音源が無いため「②Recorder 2」をベースにして曲間、チューニングなどは「③Recorder 3」で補填している。ここでもおなじみの"Echoes" は尻切れから完全型となり、"Set The Controls for The Heart of The Sun"も、中間部の当時の彼らの得意のミステリアスな世界が浮き彫りになっている。終演部も十分当時のライブの様を聴かせてくれる。とにかくその補填の技術が違和感なくスムーズに移行させていて、このあたりの技術の高さも感ずるところだ。

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 こうして、50年前のライブを完璧なものにとエネルギーを注ぐと言うことは、今の若き人達にも聴く方からとしての要求があり、そしてそこにはレーベルの意地と努力がこうして答えるというコレクター・エディションの姿なのだ。70年代のピンク・フロイドの歴史的価値というのは今だに失せていないどころか、まだまだ探求が盛んになっている。
 こんなマニアアックな道は、究極ファンが支えているわけで、1960-1970年代のロックの潮流は恐ろしい。いずれにしてもこの状況みるにつけ、これを喜んで聴いて感動している私も何なんだろうか・・・と。

(評価)
□ 内容・演奏  90/100
□ 録音     80/100 (歴史的なコレクターものBootlegとしての評価)

(参考視聴) 当時のこの名盤はLPであり、スクラッチ・ノイズが入っている (後にTSPのCDでは完全に改良された)

 

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2020年6月 1日 (月)

ピンク・フロイド PINK FLOYD アルバム「ZABRISKIE POINT」の復活

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(今日の一枚) 我が家の庭から・・ヤマボウシの花
       Sony α7RⅣ,  FE4/24-105 G OSS , PL

                                     - - - - - - - - - - - - - - -

蘇る仮想「ZABRISKIE POINT」の全貌
美しいピアノの調べと、サイケデリックな浮遊感の世界

<Progressive Rock>

PINK FLOYD
VIRTUAL STUDIO ALBUM 「ZABRISKIE POINT」

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Recorded Nov./Dec. 1969 in Rome for the film "Zabriskie Point"

 今や、ブート界もあるべきであったアルバムの復活に力を注いでいる。すでに行き詰まっている現ギルモアとサムスンの主催するピンク・フロイドにおいては、当然復活は望めないため、かってのピンク・フロイドを愛し研究し資料を蓄積した輩の成果として、少しづつあるべき姿の再現が行われている。先日紹介したロジャー・ウォーターズの『PROJECT K.A.O.S.』もその一環である。

61mj6ozaryl_ac_  そしてこれは今年初めに手中にしたもので、1969年にご本家ピンク・フロイドの映画『Zabriskie Point』(→)に提供され、無残にも彼らの曲を理解できなかった監督アントニーニによって消え去られた曲群の集約によって蘇ったアルバム『ZABRISKIE POINT』なのである。実はこれは10年前にリリースされ、即完売。幻の名盤と化していたもので、ここに来て復刻されたものである。
 こうして今、当時のピンク・フロイドの世界を知ることができるのは幸せというものだと、この制作陣に感謝しつつ鑑賞できるのである。しかも音源はライブものでなく、スタジオ録音されたもの、映画からの抜粋など苦労のたまもので、音質も良好で嬉しい。
 当時、この映画に提供されたモノでのアルバム作りをしたらこうなるのではないかと、「仮想ZABRISKIE POINTアルバム」を76分40秒にて作り上げたものから、果たして我々は何を知りうるのか、それは恐らくピンク・フロイドを愛する輩には響いてくるはずである。

 

(Tracklist)

1. Love Scene
2. Intermezzo
3. The Violence Sequence
4. Crumbling Land Pt.1 *
5. Sleep
6. Oenone Pt.1
7. Fingal's Cave
8. Red Queen Prelude
9. Crumbling Land Pt.2 *
10. Rain In The Country
11. Blues
12. Red Queen Theme
13. Oenone Pt.2
14. The Embryo
15. Heart Beat Pig Meat *
16. Oenone(Reprise)
17. Come In Number 51 Your Time Is Up *

  *印 映画に採用された3曲(”Heart Beat, Pig Meat”(”若者の鼓動”),”Crumbling Land”(”崩れゆく大地”),”Come In Number 51, Your Time Is Up”(”51号の幻想”))
  又、採用されなかった曲の内 4曲:”Country ”Song",”Unknown Song",”Love Scene (Version 4)”,”Love Scene (Version 6)” は、後に 2枚組の 『 Zabriskie Point Original Motion Picture Soundtrack 』 に登場。
 更にその他の曲の一部が、2016年のボックスセット「THE EARLY YEARS 1965-1972」に収録された。

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M1-M3 美しいピアノのメロディーが流れる。M1はギターの別バージョンもある。M3.は"us and them"の原型が聴かれますね。
M5."Sleep" 静かな世界は出色。
このあたりまで、当時のライトのクラシック・ピアノを学んだキーボードの効果が甚大に出ている。
M6."Oenone" フロイド得意のサイケデリックな浮遊感たっぷり世界。後半には当時ウォータースがよく使ったドラムの響きと、ギルモアのギターによる音により盛り上がる。当時のフロイドの世界を十分に堪能出来る。これがM13,M16と登場する。
M7."Fingal's Cave"このサイケデリックにしてハード、そしてヘヴィ・メタルっぽい盛り上がりも凄い。
M8." Red Queen Prelude"アコギによるプレリュード
M9." Crumbling Land Pt.2"初期のフロイドの音と歌声と英国ロックを実感する。
M10."Rain In The Country "ギターの調べが優しい。後半は当時のウォータース得意のベースのリズムに、おそらくギルモアのギターの二重録音が聴かせる。
M11."Blues"ギルモアの原点であるブルース・ギターそのものの展開だ。
M12."Red Queen Theme " 珍しい歌モノ、ギルモアが歌う。
M13."Oenone Pt.2 " は懐かしいピンク・フロイドの音がたっぷりと再現されてますね。
M14."The Embryo" ここに挿入されているところが、一つの遊びでもあり、考えようによっては、どのアルバムにも寄りどころの無かった名曲"The Embryo"の住処を見つけたかの如く居座っているところがニンマリです。これがフロイド・マニアにとっては原点だという曲。
M15." Heart Beat Pig Meat " このリズム感が聴きどころ、映画のオープニングに流れる。これは映画サウンド・トラックでしょうね。
M17." Come In Number 51 Your Time Is Up" 当時のピンク・フロイドの代表曲ウォーターズの奇異感たっぷりの"Careful With That Axe, Eugene"の世界で幕を閉じる。映画の最後の爆発のシーンをも思い出すところだ。

 『ZABRISKIE POINT』の為に、1969年11月から12月にかけて、イタリアのローマにてピンク・フロイドは多くの楽曲をレコーディングしたのだが、それらを蘇らせてみると、ここにも、ウォーターズの発想である俗世間から異なる空間を描くというサイケデリック世界が盛り込まれていることが解る。彼らはこうして映画のサウンド・トラックにも、しっかりと自己の世界を築いていて、それが監督アントニーニには気に入らなかったのだろうか。

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  映画は  60年代後半、黒人差別撤廃、公民権運動、ベトナム反戦運動等の学園闘争の嵐が吹き荒れる南カリフォルニアの大学。60年代のアメリカの資本主義的大量消費、学生運動、銃社会、ヒッピー文化とフリーセックスなどが背景にある。
 社会に疑問を持ち、学生運動を展開する中で、現実逃避せざるを得なくなった男(学生)マークとその死、理想像とは全く別の資本主義的世界に疑問を持つ女性ダリアの葛藤を描いているのだが、そこに3曲のみの登場でしかなかったピンク・フロイドの曲、多くは残されたままになってしまった。最後のレストハウスの大爆破シーンは有名だが、アメリカの物質文明への批判であったのか、流れる曲Pink Floydの「51号の幻想」も印象的だった。

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 そんな経過のなかでのこうして、架空の完全版を作成してゆく努力には、おそらくコンセプト主義のロジャー・ウォーターズにしてみれば、作品の完璧主義には異論があっても、歓迎の気持ちは内心あるのではないだろうか。おそらく彼はこれを聞かれると、"そんなことは関係ないことだ"と答えるに相違ない。そこがウォーターズの持ち味である。
 しかし、こうして改めてトータルに聴いてみると、次第に異空間に逃避した世界から現実の文明社会の不正に挑戦するに至るウォーターズの出発点をここに見る思いである。

Zabriskie_point_img_3887 (参考) 「Zabriskie Point」
  ザブリスキーポイント(→)は、アメリカ合衆国カリフォルニア州 デスバレー国立公園のデスバレーの東に位置するアマゴサ山脈の一部で、 侵食された景観で有名です。 死の谷が誕生するずっと前に、500万年前に干上がったファーネスクリーク湖の堆積物で構成されている地。樹木の無い地の景観が異様で現在観光地となっている。

 

(評価)
□ 曲・演奏・貴重度  95/100
□ 音質        80/100

(視聴)

映画「ZABRISKIE POINT」のエンディングと"Come In Number 51, Your Time Is Up"

 

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2020年3月18日 (水)

ピンク・フロイドPink Floyd 絶頂の75年ライブ 「LOS ANGELSE 1975 4TH NIGHT」

警察による逮捕者続出のライブの記録
マイク・ミラードによる好録音の出現

 

<Progressive Rock>

Pink Floyd 「PINK FLOYS LOS ANGELSE 1975 4TH NIGHT」
~ MIKE MILLARD ORIGINAL MASTER TAPES
Bootleg / Sigma 242 / 2020

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Live at Los Angeles Memorial Sports Arena, Los Angeles, CA, USA 26th April 1975

Pink Floyd
Venetta Fields : Backing vocals
Dick Parry : Saxophone
Cariena Williams : Backing vocals

  とにかくこの何十年の間にもピンク・フロイドのブートは何百枚と出現している。あのボックス・セット「Early Years 1965-1972」「The Later Years (1987-2019)」のオフィシャル・リリースによって下火になるのかというと全くそうでは無い。むしろ火を付けているのかと思うほどである。それもピンク・フロイドそのものはディブ・ギルモアの手中に握られたまま、全くと言って活動無くむしろ潰されている存在だ。これが本来のロジャー・ウォーターズにまかせれば、今頃米国トランプや英国の低次元の騒ぎなど彼の手によって一蹴されているだろうと思うほどである。相変わらずのファンはこのバンドの世界に夢を託しているのである。

 そんな時になんとあの彼らの絶頂期であった1975年の「FIRST NORTH AMERICAN TOUR」のライブものが、オフィシャルに使われるほどの名録音で知られるマイク・ミラードの手による良好録音ものの完全版が出現をみるに至ったのである。

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  とにかく世界的ベストセラーになったアルバム『狂気』(1973)以来、彼らにとっては全く別の世界の到来となる。金銭的には驚くほどの成果を上げ、それと同時に重圧ものしかかる。又スポンサーとのトラブル、四人の社会に於ける存在の意義にも変化が出る。

810cgm6w   そして1975年1月ようやく次のアルバム『炎』(1975 →)の作業に入る。しかしそこには『狂気』当時の彼らのクリエイティブなエネルギーのグループの姿はなかった。メイスンは個人的な問題から意欲は喪失していた("Shine on you Crazy Diamond","Wish You Were Here "の2曲はロジャー、デイブ、リックの三人、""Welcome to The Machine,"Have a Ciigar"の2曲はロジャーの作品である)。又ロジャー・ウォーターズの葛藤がそのままライブ(この「NORTH AMERICAN TOUR」)にも反映されていた。まさにライブとスタジオ録音が平行して行われメンバーも疲弊していた。更に慣れない4チャンネル録音で、技術陣も失敗の繰り返し。とにかくつまづきの連続で困難を極めたが、そこでロジャーは一つの開き直りで"その時の姿をそのままアルバムに"と言うことで自己納得し、ライブで二十数分の長い"Shine On"(後に"Shine On You Crazy Diamond")を2分割し、間にロジャーが以前から持っていた曲"Have a Cigar"を入れ、当時の音楽産業を批判したロジャー思想の"Welcome to the Machine"を入れ、更にロジャーのシドへの想いと当時の世情の暗雲の環境に対しての"詩"だけは出来ていたその"Wish you were here"は、ロジャーとギルモアが主として曲を付け仕上げた。しかしこの75年がバンド・メンバーの乖離の始まりであり、そんな中でのアルバム作りとなったのであるが・・・。
 そして予定より半年も遅れて9月にこの『炎』のリリースにこぎ着けたのだが、今想うに『狂気』に勝るとも劣らない名作だ。

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 しかしこのような状況であったこも関わらず、当時のピンク・フロイドの人気は圧倒的で、このロスのライブの4夜の4月22,23,24,26日の6万7千枚のチケットは一日で完売、追加の27日公演は数時間で売り切れというすざまじい売り上げであったのだ。
 そしてここに納められているのは26日(土)のライブの姿である。

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Disc 1 (63:33)
1. Mike Test
2. Intro.
3. Raving And Drooling
4. You Gotta Be Crazy
5. Shine On You Crazy Diamond Part 1-5
6. Have A Cigar
7. Shine On You Crazy Diamond Part 6-9 

Disc 2 (56:54)
The Dark Side Of The Moon
1. Speak To Me
7_20200316200101 2. Breathe
3. On The Run
4. Time
5. Breathe(Reprise)
6. The Great Gig In The Sky
7. Money
8. Us And Them
9. Any Colour You Like
10. Brain Damage
11. Eclipse

Disc 3
1. Audience 
2. Echoes

 このはライブは、絶頂期アルバム『狂気』、『炎』、『アニマルズ』の三枚に関係するセットリストの内容であり、又彼ら人気の最高に至る経過を盛り込んでおり、ブート界でもこの録音モノは引っ張りだこなのだ。しかもアンコールでは"ECHOES"も登場するのである。

Hogsinsmog  私がかってから持っていて出来の良いブート・アルバムは『Hog's in Smog '75』(STTP108/109=1975年4月27日追加公演モノ)で、セットリストは同一である。これもかなりの好録音であった(→)。
  
 しかしここに登場したマイク・ミラード録音モノは、更にその上を行く。Audienceとの分離はしっかりとしており、特に音質は高音部の伸びが素晴らしい。そして全体の音に迫力がある。
 当時のピンク・フロイドのライブは、スタジオ・アルバム版との演奏の違いは各所にあって、ギルモアのギターのアドリブも多く、マニアにはたまらない。ヴォーカルはロジャーの詩に込める意識は強くその歌声にも意欲が乗っていて聴きどころがある。そして至る所にやや危なっかしいところがあって、そこがリアルでライブものの楽しみが滲み出てくる。今回のものは既に出まわっていたモノの改良版で、内容が更に充実している。
 とにかく集まった聴衆の行為にも異常があり、爆竹の音もある。とにかく警察による逮捕者の多さでも話題になったライブでもある。

 "Raving And Drooling "は、『アニマルズ』の"sheep"の原曲だが、スタートのベースのごり押しが凄いしギターのメタリックの演奏も特徴的だ。"You Gotta Be Crazy"は"dogs"の原曲でツインギターが響き渡る。 この難物の2曲もかなり完成に至っている。『狂気』全曲も特に"On the run"のアヴァンギャルドな攻めがアルバムを超えている。そして一方この後リリーされたアルバム『炎』の名曲"Shine on you Crazy Diamond"の完成に近づいた姿を聴き取れることが嬉しい。
 又アンコールの"Echoes"にDick Parryのサックスが入っていて面白い。

8

 いずれにしても、今にしてこの時代の良好禄音盤が完璧な姿で出現してくるというのは、実はギルモアというかポリー・サムソン支配下の現ピンク・フロイド・プロジェクトが、このロジャー・ウォーターズの葛藤の中からの重要な歴史的作品を産み、そして時代の変化の中でロックの占める位置を進化していった時期を無視している事に対して、大いに意義があると思うのである。そのことはピンク・フロイドの最も重要な『狂気』から『ザ・ウォール』までの四枚のアルバムに触れずに、ここを飛ばしてピンク・フロイド回顧と実績評価のボックス・セット「Early Years 1965-1972」「The Later Years (1987-2019)」を完成させたというナンセンスな実業家サムソンの作為が哀しいのである。

 当時のライブものとしては、この後5月はスタジオ録音に没頭、そして再び6月から「NORTH AMERICAN TOUR」に入って、『HOLES IN THE SKY』(Hamilton,Canada 6/28/75=HIGHLAND HL097/098#PF3 下左 )、『CRAZY DIAMONDS』(7/18,75=TRIANGLE PYCD 059-2  下右)等のブートを聴いたのを懐かしく思う。

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(評価)

□ 演奏・価値 ★★★★★☆   95/100 
□ 録音    ★★★★☆   80/100

(視聴)

 

 

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2017年11月23日 (木)

現代ピンク・フロイドPink Floyd論 = 番外編-その1-

PINK FLOYD

「お祭り騒ぎ」と「総決起集会」 ~ デビュー50周年の話題

 

 ロックの歴史の中で日本人は最も”プログレッシブ・ロックの好きな民族”と言われているらしい(私もその構成員)。その中でも、このピンク・フロイドというロック・バンドの占める位置はまさに異常というか、怪奇というか・・・・70年代アルバムが未だにヒットチャートに登場しているところはキング・クリムゾン、イエス、E.L.P.、ジェネシスと言えどもあり得ない事実なのである。
 そのピンク・フロイドが今年はデビュー50周年と言うことで、又々騒ぎは大きくエスカレートしている。ロック・ミュージック界の低調の中では、唯一商業価値が間違いないと言うことで、ロンドンでは「ピンク・フロイド大回顧展」が開催された。このフロイドの『神秘』(1968)、そしてキング・クリムゾンの『クリムゾン・キングの宮殿』(1969)以来は完全リアルタイムでロック・ファンあった私は、長いお付き合いにふと想いを馳せるのである。

 

Gilmour1Waters1_2

 

 

 

 

 

 

 

 まあ回顧は別として、今年もピンク・フロイド絡みでは、デヴィッド・ギルモアの「飛翔ライブ=ライブ・アット・ポンペイCD+DVD発売」、そしてロジャー・ウォーターズのニュー・アルバム『is this the life we really want?』と「UA+THEM ライブ」は、もはや何をさておいてもロック界のトップニュースになってしまっているのだった。

 さて、そんな中であの奇妙な意味の解らない2014年のアルバム『永遠』で幕を下ろしたかの感のあるピンク・フロイドだが、それがどうして益々ここにギルモアとウォーターズの価値感が高揚していることが、我々をして興味の渦に陥れるのである。

 

 まずギルモアは、結構なことに取り敢えずはギルモアらしいアルバム『飛翔』(Columbia/88875123262)をリリースして、ようやくピンク・フロイドという重責から逃れて自分を演じた。そしてその「飛翔ライブ」を欧州南北米ツアーを展開、その中でも欧州各国の遺跡や古城、宮殿などでの世界遺産公演を敢行したのであった。
 一方ウォーターズは、なんとロック・アルバムとしては25年ぶりに『is this the life we really want?」』をリリースし、同時に「UA+THEM ライブ」南北米ツアーを半年に渡って展開、更には来年早々引き続いてオーストラリア、欧州ツアーを行う。


■ デヴィッド・ギルモア『ライブ・アット・ポンペイ』 (Sony Music/SICP-31087)

Liveatpompeii こんな流れから出てきたギルモアのライブ版
 『ライブ・アット・ポンペイ』 (SonyMusic/SICP-31087)(→)
  もちろん彼の”「飛翔」ライブ”の一会場モノである。それもCDそしてDVDと映像絡みでリリースして、”ピンク・フロイドのその昔の無人ポンペイ遺跡円形闘技場の記念すべきライブ”の再現とばかりにアッピールしているのである。
 いやはや頼もしいと言えば頼もしい、しかし如何せんギルモア女房のジャーナリストのポリー・サムソンの商業主義の展開そのもので、ギルモアの意志はあるのかないのか、派手なライト・ショーが会場いっぱいに展開、なんとお祭り騒ぎに終わってしまっている。もともとアルバム『飛翔』も、”アダムとイヴの旅立ち”という如何にもコンセプトというか思想があるのか無いのか、むしろ無いところがギルモアらしい。まあ女房の作詩頼りに彼女の発想にまかせての気軽さだ(それが良いとの見方もあるが)。
 しかしそうは言っても、あのかってのピンク・フロイド時代の曲を織り交ぜてのギター・サウンドの魅力を引っさげての展開は、それはそれファンを酔わせてくれるのである。まさにギタリストの所謂「The Voice and Guitar of PINK FLOYD」なのである。
 しかし、ウォーターズの去ったピンク・フロイドを数十年引きずってきた男が、あの昔のピンク・フロイドの円形スクリーンそままで、ピンク・フロイドは俺だと言わなければならないところに、未だピンク・フロイド頼りの姿そのままで、ちょっと哀しくなってしまうのである。

■ ロジャー・ウォーターズ『US + THEM ライブ』

 

Isthisthelife 一方ロジャー・ウォーターズは、70歳を過ぎた男にして、今日の混乱の時代が作らせたと誰もが信じて疑わないアルバム『is this the life we really want?」』(Sony Music/SICP-5425)(→)をリリースした。
 それはNigel Godrichとの名コンビで、”現代プログレッシブ・ロックはこれだ”と圧巻のサウンドを展開。”ロック=ギター・サウンド”の既成概念を超越したダイナミックなピンク・フロイドから昇華したサウンドには感動すらある。
 ”歪んだポピュリズムPopulism・ナショナリズムNationalismへの攻撃”と”新たな抵抗Resistのスタート”のコンセプトと相まって、ミュージック界に殴り込みをかけた。

 そして日本の評論家の反応も面白い。何時もよく解らない事を言っている立川直樹も絶賛せざるを得ないところに追い込まれ、ロックと言う面から見ればそれこそ本物である伊藤政則は”怒り”の姿に共感し、ロックをギタリストとしてしか見れない和久井光司にはこの進化は理解不能に、最近カンバックした市川哲史の冷静な評論では、あのアルバム『風の吹くとき』のコンセプトとオーバー・ラップさせながらも、”破壊寸前の国際情勢に徹頭徹尾対峙したアジテーション・アルバムに特化した”と74歳の男の生き様に感動している。

23722640_1604990236211442_499588949 そして「UA+THEM ライブ」では、
 今回のニュー・アルバムの曲と同時に、彼の自らのコンセプトで作り上げたピンク・フロイド・アルバム『狂気』、『ザ・ウォール』、『アニマルズ』を再現している。それは今様に新解釈を加えつつ、今まさに展開している世界情勢に照らし合わせての”抵抗の姿”の展開は、”US(我々)とTHEM(彼ら)の関係”に挑戦しているのである。
 米国大統領トランプの出現は、彼に火を付けてしまった。反トランプの歌に特化した『アニマルズ』からの"Bigs (Three Different Ones)"は、トランプをしてあの歌のシャレードと決めつける。又パレスチナ問題、米・メキシコ関係問題にみる「壁」問題は、何時になっても人間の姿としての「心の壁」を含めてその存在にメスを入れている、まさに『ザ・ウォール』だ。
 しかも『狂気』の"Us and Them"に見るが如く、彼のピンク・フロイド時代の問題意識は現在に於いても色褪せていないどころか、彼の意識の高さを今にして認識させられるのである。
 (これは余談だが・・・日本に於ける安倍総理の”あの人達は”発言(これこそ"THEM")にみる危険性をも感じ得ない世相にふと想いを馳せざるをえない)
Djjhcgmuqaa_cth_3 彼は、「The Creative Genius of PINK FLOYD」とのキャッチ・コピーそのものからの展開なのである。”戦後の反省からの理想社会”からほど遠くなって行くこの今の世界情勢に、自分の出来ることはこれが全てと、彼をしてライブでの訴えに奮い立たせている。もう止せば良いのにと言うことがはばかる”戦争のトラウマ”を背負った70歳男の抵抗だ。
*
*
*

(取り敢えずは結論)

 

デヴィッド・ギルモア   ピンク・フロイド 
           (フロイドをどうしても越えられないその姿)

ロジャー・ウォーターズ  ピンク・フロイド 
           (フロイドに止まれない宿命的進化)

 

 この関係が益々はっきりした今年の情勢だった。過去のピンク・フロイドに”イコールの中に生きるギルモア”、”イコールもあるが宿命的にそれ以上を求めざるを得ないウォーターズ”。
▶かってのピンク・フロイドに酔いたい→「イコールこそに満足のファン」
▶あのビンク・フロイドは今何をもたらすのかと期待する→「イコールから発展的世界を求めるファン」
 どちらにとっても愛するピンク・フロイドの現在形であることには変わりは無い。

▼そして並の規模を越えた両者のライブは、
ギルモアは・・・・・・”お祭り騒ぎ”、
ウォーターズは・・・”総決起集会”
        ・・・・という構図は明解になった今年でもあった。


 今ここに、二つのピンク・フロイドが体感できる。これは我々にとって、これ以上のものはないのだろう。

 

                                  (いずれ続編を・・・)

(視聴)

David Gilmour

                   *                         *

Roger Waters

 


*

 

 

 

 

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2016年11月26日 (土)

ピンク・フロイドPINK FLOYD ボックス・セット 「THE EARLY YEARS 1965-1972」~その4

このボックス・セットの目玉はやっぱりCD(10枚)とBlu-ray Audioである

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PINK FLOYD ボックス・セット 
「THE EARLY YEARS 1965-1972」

Columbia/Legacy  / U.S.A. / 88985361952 / 2016

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 このところこのピンク・フロイド・ボックス・セットに圧倒されていたが、やはり中でもCDとBlu-rayに納められた良質音源が感動的ですね。いろいろと映像モノは若きフロイド・メンバーが見れて実に楽しいのだが、そう新しいものの出現もやたら数多いという事でもないので、最終的には彼らの成してきた結晶であるミュージックそのものを、いろいな角度から味わえることが・・・貴重だ。
 特に今回のリミックス盤やその他ライブもの等も、サウンドが特に高音域は繊細に伸びており、低音域は落ち着いたものに作り上げており、センスの良さを感じた。それが非常に快感であった。そこで若干チェックをしたところを書いておく事にする。

4br シド・バレット時代(1965年~)からその後のウォーターズ、ギルモア、メイスン、ライトの4人体制(1968年)の新展開ピンク・フロイドまでは、既に取りあげたので・・・
(バレットとウォーターズの明るい表情が印象的→)、
 それ以降のCD盤を中心にポイントに触れてみたい。

4gilm■ ”Embryo”  ロジャー・ウォーターズの傑作曲

 1968年、これは私の好きな曲。ブートで各種何度も聴いたのが懐かしい。発表が曰く付きだったが(1983年の「WORKS」でようやく公式発表)、ギルモアもシドの影から脱して4人スタイルの役目も明解になり、彼のブルース流から泣きギターもうまく聴かせるようになる。こうしてピンク・フロイドは彼らの世界になって行くのだ。この曲はSE効果(子供の声など)も上手に入れられ、その後のウォーターズ流の原点をみる。Early Yearsの重要な曲。

■ BBC Radio Session もの ( 1967.9 、 1967.12 、1968.6、 1968.12.2 、1968.12.20、 1969.5、 1970.7、  1971.9、 計8回  ) 

  BBCはピンク・フロイドのSessionものとして重要なものを数多く残してくれた。その為、このボックス・セットで過去を知るため音源として採用されているものが多く、最も大きな役割を果たしている(数えると上記の8回の放送分が納められている)。しかも音質も良く、有り難いところである。
 リアルな音源として、ライブ録音ものと双璧をなすところだ。

4wright「More」 Album alternative Version, non  album version

 ここに映画「More」も画像改良が試みられて全編収納されているが、そのサントラ関係は、原点である「The Man & The Journey」組曲として、ライブ(アムステルダム)もので納得の音源が聴ける。更にアルバム『More』に納まらなかった曲のアウトテイクの公開もここにされていて・・・・納得。
 曲”Thema” は、映画「More」の冒頭に聴かれるもの。私はこの後の映画「The Vallee」は好きになれなかったが、この「More」は感動映画だった。その為この曲を聴くと今でも心に響いてくる。あのピンクの字で”Music : The Pink Floyd”と画面に出たときは興奮したものです。 
 その他の曲”More Blues”は、まさにブルースで、こうゆうものもなかなかの聴きモノ。”Embryo”もこのアウトテイクに入る。
 この頃の曲の作曲は、ピンク・フロイド立て直しに頑張ったロジャー・ウォーターズよるものが多く、演奏ではリック・ライトのキー・ボードの因子が非常に重要な役を果たしていた。デヴィット・ギルモアはギターよりむしろヴォーカルで魅力を発揮といった形がとられている。

4m「Atom Heart Mother」

 この曲は、多くのVersionが、これでもかこれでもかと襲ってくる。
 まあピンク・フロイドがこの曲がヒットしたことによって、分解せずにグループとして存在して行く事になった訳だから、当然と言えば当然。これがなかったら間違いなく”Echoes”はなかった。
①ブラス・オーケストラ合唱無し: Montrewux Live , Early Studio Version Band onlyなど。私はこのオーケストラ、コーラスなしの方がフロイドらしいロック・バンドの味を感じられて好きなんですね。中盤の手法は”Echoes”にも通ずるところがあって聴きどころ。いろいろと過去に於いてもブートで聴いてきたところです。
②チェロ、合唱、ブラス・アンサンブル付き: これもブートで過去にいろいろとお目見えしたが、ここにも好録音が納まっている。ブートではこのタイプの方が人気はあったが、私は①の方なんですね。

4w■ 「ZABRISKIE POINT」Soundtrack 全16曲 (第4巻)

 今回、この映画そのものは、このセットに納まっていない。当時、映画サントラに関心のあったフロイドは、曲作りに結構頑張ったが、映画に実際に採用された曲が少なかった。その為、彼らをガッカリさせたというか怒らせたというか・・・。私はしっかり映画及びLPを持っていました。
   後の”Us and Them”となる原曲”The Riot Scene”や”Careful with That Axe, Eugene”ばりの”Explosion” 、”One of These Days”となる”Take Off”など興味深い原曲が聴ける。
しかし、それ以外にも”Love Scene”と言う曲など、ピンク・フロイドとは思えない優しい曲もあって是非聴いておくべきもの。

■ 「Echoes」

   「原子心母Atom Heart Mather」の成功によって(英国アルバム・チャート1位)、このバンド・メンバーは自ずから諸々の問題があっても(実は既に解散ムードもあった)一つにならざるを得ない流れに入ることになる。
 それは各方面から次作への期待と要求が高まって、次なるアルバム製作を試みることになる。その為メンバー4人で”Nothing ~”と命名された多くの曲を生み出して(実に24曲の存在が解っている)、これが”Echoes”として組み立てられてゆくわけたが、その辺りも納得のゆくようにこのボックス・セットでは企画されている。
 このセットで、LiveそしてBBC Radio sessionものなど、非常に多くのVersionものに接することが出来る。又おまけとして”74年Wembley Live”ものまで収録されていて、これはSaxがフィーチュアーされ旋律を奏でるという異色タイプ。

 久しぶりにこの「Early Years」ボックス・セットの出現で、ピンク・フロイドの始動期から頂点への歩みの道に関して振り返ることが出来た。このブログの4回の私の感想アーティクルは、あまり系統的で無く、適当に聴いたり観たりしたものを取り敢えず書かせて頂いた。まだ何か落としているかもと思うところだが、まあ取り敢えずこんなところでした。

(参考視聴)
”Green is The Colour” (music & Words : R.Waters,  Vocal : D.Gilmour)

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2016年11月23日 (水)

ピンク・フロイドPINK FLOYD ボックス・セット 「THE EARLY YEARS 1965-1972」~その3

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宇宙空間から人間社会へ 

(「おせっかい」・「雲の影」から「狂気」へ)

PINK FLOYD ボックス・セット 
「THE EARLY YEARS 1965-1972」

Columbia/Legacy  / U.S.A. / 88985361952 / 2016

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 1969年から1972年の4年間でピンク・フロイドは作られたと言っても過言で無い。この4年間こそピンク・フロイドの全てが試みられ、そして形作られ、彼らの頂点の「狂気」に繋がるのだ。その過程を多くの資料を収載してくれたこの「THE EARLY YEARS 1965-1972」の企画はみるに充実感がある。

■ ”Atom Heart Mother ”は、ブラス・オーケストラ・合唱付きのものと彼ら4人によるモノの2タイプがあるが、それを紹介すべく数多く納められている。しかし残念なことにこの当時から彼らのライブはオフィシャルな完璧な良質映像録画モノがない。これがピンク・フロイドの体質であったのだ。おそらく彼らは自身で納得した状況でのもの以外は収録拒否していたのであろう。
 取り敢えず、映像なしでは、CDにはこの両タイプを楽しめるべく良質録音ものが収められている。
 そんな訳で、当時のライブ映像としては、「ポンペイ・ライブ」は貴重なのだ。

Meddle(注目経過)
1969年「The Man & The Journey 」(ライブ全曲)
    映画「ZABRISKIE POINT」サウンドトラック収録(全16曲CD収納)
▲1970年『原子心母Atom Heart Mother 』(Original 4.0 Quad Mix盤+ライブ録音もの)
▲1971年4月「Ehoes」 完成 (Original 4.0 Quad Mix盤 +ライブ録音もの)
▲1971年8月「Hakone Aphrodite Open Air Festival」(テレビ放映Video)
▲1971年10月「Live at POMPEII」撮影
▲1971年11月『おせっかいMEDDLE』リリース
▲1972年2-3月映画「LA VALLEE」サウンドトラックをレコーディング(映画収録、CDに全曲)
▲1972年6月『雲の影Obscured by Clouds』リリース(2016 remix 盤+アルバム未収録曲)
▲1972年9月「Live at POMPEII」公開(映像5.1 surround Mix 版)
▲1972年11月-1973年1月「Roland Petit-Pink Floyd Ballet」公演 (放映Video)
()内、当ボックス・セット内容

 この4年間の注目経過はこんなところだが、1971年に「Echoes」を完成させ(Original 4.0 Quad Mix を納めたのは歓迎)、彼らの宇宙空間的ミュージックの完成を見た。そして彼らの評価は既にヨーロッパ諸国ではProgressive Rockとして右に出る物なしの感覚すら生まれていた。しかし一方ロック界は多様で、ロックの精神であるメッセージ性のなさに”Echoes”のネガティブ評価も生まれたのである。

Photo■ 「Hakone Aphrodite Open Air Festival」    6-7,Augast 1971映像

 実は完全に近いアフロディーテ映像に期待していたのだが、残念ながら、過去に何度か見てきたブート映像と比べるとこちらはカラーであるが同じものであった。テレビ放映用に組まれたもので、これは私の期待を裏切った一つ。もう少し別物でマシなものがないのであろうか。
 これに関しては、今回この企画の製作スタッフが、オリジナル映像をかなり探したようだが発見できず、現存しないと判断したらしい。ほんとは完璧な映像を見たいところであるのだが。

映画「LA VALLEE」、アルバム「雲の影Obscured by Clouds」

 映画「LA VALLEE」:全編改良映像で収録
 アルバム「雲の影Obscured by Clouds」: 2016年Remix盤(CD)

 72年には”Careful with that axe, Eugene”、”Set the controls for the heart of the sun”、”Atom heart mother”、” Ecoes” を中心に世界でのライブは圧倒的支持を得る中で、彼らの当時の関心事である映画サウンドトラックにも着手した。そこでは彼らの持つもう一つの世界である牧歌的な大地に足を付けたミュージックにも目を向けアルバム『雲の影Obscured by Clouds』の完成となったのである。

Obs_4 しかしこの「雲の影」は、ピンク・フロイドとしては一般にあまり評価が高く無い。それは彼らの築いたコスミックなスペーシーなサウンドでないためだと思うが、実はこれも彼らの持っている貴重な一面であって、牧歌的にして簡素なフォーク調の曲を中心に納められ、”Wot's...Uh The Deal”(Waters,Gilmour)、”Free Four”(Waters)など良く聴くと実に味があるのだ。(アコースティックな演奏→)
  彼らのそれまでの凝ったサウンドでなく、ストレートなギターの音、そしてヴォーカルなど”素材そのまま”であるだけに、ファンとしては彼らと現実に接している感覚となるだけでなく、彼らを知ることのために意味あるアルバムだった。

 そして今回このアルバムは2016年リミックス盤として、音質の改良も加えられ全編第6巻に納められてお目見えしたのである。実はこれを歓迎しているファンも多い。

■ 「Roland Petit-Pink Floyd Ballet」

 フランス・ツアーにおけるローラン・プティのマルセイユ・バレエ団との共演。過去に無い一つの実験であったと思うが、この映像モノは結構多数収められている。これに関しては、私はその意義について特にコメントは無い。

 1972年までの結論

72rog_3 こんな映画サントラ作業の一方では、ロジャー・ウォーターズの心には、”Echoes”のメッセージのなさに対しての批判を受けた事のショックは大きく、ここに彼にはもともと持っている”現代人の生活に疑問を抱いていた心”に大きな刺激を受けたのである。
 そして人間の持つ”狂気・我が儘、生と死、人間社会の矛盾の意味”に的を絞って、全ての曲にウォーターズが詩を付けてメッセージを込めた作品作りに着手。それが世界的作品となる『狂気The Dark Side of The Moon』である。


72gil_3 この多忙極めた1972年に「狂気」構想は練られ、曲作りされ収録を開始した。そしてロジャー・ウォーターズの得意とするコンセプトの確立が行われたのだ。そして翌年1973年3月にリリースされた。

 この1972年の「狂気」作成の過程においては、それぞれ異なったメンバーの個性が、ライブを重ねながら有機的に絡んでエネルギーを増していったことは事実である。つまり彼らの意識は別として、ピンク・フロイドとしての4人バンドの頂点に到達すべくそれぞれが挑戦的な作品作りに邁進したのであった。

 つまりこの『狂気』作成への1972年までが、ピンク・フロイドの”Early Years” としての大きな意味ある時であり、それに関する資料を纏め上げたのがこの企画である。その後の彼らの姿は誰もが知っているところに落ち着くわけで、ここまでの”Early Years” が最もピンク・フロイドとして私にとっては面白いところなのだ。

( 「THE EARLY YEARS 1965-1972」考察その4 に続く)

(参考視聴:Grantchester Meadow)

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