シネイド・オコナー

2009年12月 7日 (月)

シネイド・オコナーの反骨と宗教と音楽と(2)

シネイド(シニード)の真の姿はどこにあるか?

 2ndアルバム「I Do Not Want Haven't Got 蒼い囁き」のヒットで一躍スターダムにのし上がったシネイドではあったが、ライブでも見れるがごとく、しっとり歌い上げたかと思うと激しいシャウトがあったり、彼女のヴォーカル・スタイルは異色であった。そしてそれにも増して、主としてアメリカにおけるトラブルが多かったが、その一つはアメリカ国歌の拒否、そして1992年にはローマ法王の写真を破り捨てたりと、騒ぎが後を絶たなかった。
 一方、彼女の歌唱能力にも評価と否定の両面が世間で囁かれた時に、驚きの3rdアルバムが登場する。

Photo 「Am I Not Your Girl? 永遠の詩集」 Chrysalis, TOCP-7380 , 1992
  シネイドのアルバムとは思えない、なんとスタンダード・ナンバーを歌い上げる。それは自分が耳にした歌群で、それで育った自分を示すというのだ。しかも社会の歪みにに存在する人々に捧げると・・・・。更に異色なのはアルバム最後にはスピーチが入る。その内容は神聖ローマ帝国への批判と挑戦。
  当時、このアルバムは私にとっても期待はずれで、つまらないと思っていたが・・・・・
 しかし、このアルバムを今になって聴いてみると、なかなかそれぞれの曲を見事にシネイド節でこなされていることが解る。静かに囁いてくるような歌い回しで魅力があるし、意外に素直な表現も多い。

    1.Why don't you do right?
    2.bewitced, botherd and bewildered
    3.secret love
    4.black coffee
    5.success has made a failure of our home
    6.don't cry for me argentina
    7.i want to be loved by you
    8.gloomy sunday
    9.love letters
   10.how insensitive
   11.my heart belongs to daddy
   12.almost in your arms
   13.fly me the moon
   14.scarlet ribbons
   15.Don't cry for me Argentina(inst.)
   SPEECH

 私が当時思ったことは、シネイドは純粋さの故に誤解も多いのかも知れない。”このアルバムで、自分は一般の歌手と同じように歩みたいのだ”と言っているようにも思えた。オーソドックスな歌手としての地位を築きたいとも言っているのかも・・・・。
 残念ながら、このアルバムは売れなかった。しかしこのアルバムの意味は今、回顧してみると一つのポイントであったと思えるのだ。

 振り返ってみると、あの人気が爆発した1990年、シネイドはなんとベルリンの壁の崩壊しヨーロッパに新時代を迎えた時に、ピンク・フロイドを脱退したロジャー・ウォータースの起死回生の一大イベント「ザ・ウォール・ライブ」に登場している。
Berlin ’90年7月21日、ベルリン・ポツダム広場に企画された空前の東西ドイツの統一記念イベントで20-30万人が集まったと言われているが、左がそのライブの様子で、「ザ・ウォール」の”Mother”を、向こうで優しく見つめながら唄うロジャー・ウォーターズとともに歌い上げているところだ。
 ところが、ここでも事件は起きた。なんと彼女の唄うこの場面になって、電源トラブルが起きてマイク音が途切れてしまう。そこで前日のリハーサル音声を流して、口(くち)パクでその場をしのいのだ。彼女の怒りは爆発した。ライブで口パクをさせられたと怒ったのだ。幸い如何なるトラブルも回避すべく、このイベントの録画を当時レーザー・ディスク盤でリリースする予定であった為、リハーサル映像も撮ってあり、それがライブ映像アルバム「THE WALL LIVE IN BERLIN」で使われている。それは彼女が怒って、ライブ終了後の再撮影に応じなかった為のようだ。その他のおなじトラブルにみまわれたウテ・レンパーなどは、ライブ終了後のその会場にて深夜収録に応じ、それがライブ映像に使われているのだ。ロジャーは言う、”彼女はまだ若い、ショーを行うものとしての根性はこれから必ず育つと思う”と、決して非難はしなかった。しかし、この前日のリハーサル映像のシネイドこそ、その表情にみえるものは、純粋な少女そのものに見えてならない。そして明日に控えた大イベントへの期待も大きかったのであろう。むしろトラブルによりこの映像が正規のリリース盤に使われたことが、我々にとって見れば幸いのような気がする。往年の多くのロック野郎に囲まれ、ロジャーの見つめる中で、はにかむような笑顔のこの表情に彼女の全てが見えるような気がしてならない。

Photo_2 2000年になって、5thアルバム「Faith and Courage 生きる力」 ATLANTIC AMCY-7162 , 2000  が登場する。
 1999年、彼女のビック・ニュースは新興宗教団体の独立カトリック教会の女性司祭となったことだ。そして作られるアルバムに盛られる曲は、レゲエ、アイリッシュ・トラディショナルとしての基本路線を持っている。そして引退宣言、復活活動の変動を経て、前回検証したアルバム「THEOLOGY」に繋がってくる。
 
 民族活動と共に、宗教と神と人間に迫ろうとする姿が次第に色濃くなって現在に至ってきた。
 
 これからの彼女の活動はどうゆう形をとるかは、ここ3年の沈黙があり予想できるところにはないが、又もう一つ何か驚かされそうな予感もしてならない。むしろそうあって欲しいと願っている私であるが・・・・・・。

 

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2009年12月 6日 (日)

シネイド・オコナーの反骨と宗教と音楽と

アイリッシュ・フォークとオルタナティヴ・ロックの彼女の世界

Sinocmono  シネイド(私にとっては、デビュー時の”シンニード”と言ったほうが実感があるが、その後”シニード”となって、現在は”シネイド”と日本では書かれている)はデビューの1990年以来既に20年が経過しようとしている。やはりスキン・ヘッドとアルバム「I Do Not Want What I Haven't Got 蒼い囁き」の中のヒット曲"Nothing Compares 2U 愛の哀しみ"の印象の相違が強烈であって、日本でも話題性は高く、人気という面では圧倒的な支持を得た。
 とにかく彼女には常に話題が絶えなかった1990年代を経て、最も近作はインディーズ系のリリースとなっているが、ここで一度も取り上げなかったのが不思議なくらいだ。
 とにもかくにも、’90年当時”Best Singer”であり”Worst Singer”であったというかってない特異な存在である。それには彼女の曲とその歌声への絶賛と、又行動の意外性からのパッシングが混在しての10年と言ってもいい。

 2003年引退宣言の後は、2005年のレゲエの・カバー・アルバム「Throw Down Your Arms」の再出発以来、いわゆるヒット・チャート系に名前を連ねると言うより、彼女の真の世界が覗かれて、見方によっては今が旬であるとも言えないことはない。そんな意味で若干考察してみたいとこである。


Theology  近作というとこの「Theology」Rubyworks /KOCH VICP-63973-4, 2007 ということになる。(2008年にはこのライブものもがあるが)
 このアルバムはオリジナル8曲とカバー曲という構成であるが、アルバム・タイトルは”神学”と訳して良いのであろう。その内容も歌詞の解釈も、日本人のように無宗教に近い我々にとっては難解でもあるが、かっての彼女の宗教批判からも、そして近年のキリスト教系の新興宗教団体の司祭としての活動からも、その世界に問題意識と自らの活動の意味づけをこの音楽活動の根拠にしているようにも取れる。
 しかし、もともとのアイルランドの悲劇、そして家族的悲劇と、ある意味に於いては不幸な環境に育った彼女の一つの獲得した世界とも見ることが出来、特にこのアルバムにはそうした印象が充ち満ちている。
 このアルバムは「Dublin Sessions」「London Sessions」の2枚のCDにより構成されていて、Dublin はアコーステック盤、London はフル・バンド盤いっていい形をとっている。そして基本的には両CDも同じ彼女の8曲(下記*印)を中心とした+αの曲群で、比較対照して聴くと非常に面白く、又感動的でもある。
 
”DUBLIN SESSIONS”
    1.Something beatiful*
    2.we people who are darker than blue
    3.out of the depths*
    4.dark i am yet lovely*
    5.if you had a vineyard*
    6.watcher of men*
    7.33*
    8.the glory of jah*
    9.whomsoever dwells*
   10.rivers of babylon
   (Hidden Track) 11.Hasanna filio david (trad)

 もともと、このDUBLINのアコースティック盤でのリリース予定であったようであるが、ロン・トムRon Tom(プロデューサー)の希望から、フル・バンドをバックとした LONDON盤が出来上がったようだ。
Livedubli
彼女の映像盤である2002年の「Sean-Nos,Nua」ツアーのDUBLINでのライブDVD(左=「LIVE IN DUBLIN」"goodnight thank you. You've been a lovely audience "Eagle Vision 2003)を見ても、この中で小編成のアコースティックな演奏での場面は、むしろ彼女の印象がクローズ・アップされ、曲の繊細な歌い回しやアッピールするところが強調され、彼女向きであるようにもとれる。彼女自身も経験的にアコースティックな曲展開が、ライブで支持が強いと感じていたとも言っている。
 そんなことからも、アコースティック盤のリリースを企画していたのであろう。そしてこの「THEOLOGY」で実現したといっていいと推測する。確かにその出来は、このアルバムの曲群からも、繊細なギターの音をバックの上に彼女のヴォーカルが乗って実に素晴らしい。
 ところが、ロン・トムによるフル・バンド盤はどうかというと、実は私の予想を裏切る出来に驚いている。これもなかなかアコースティックと印象が変わって彼女のイメージであるアイルランド系の一種独特の世界をものの見事に演出している。やはりこの2枚組は両方とも捨てがたいというところか。特に、フル・バンド盤の"watcher of men"のヴァイオリンの哀しげな音色、"whomsoever dwells"の曲の流れと展開は、このアルバムの世界の典型的な部分であり、ロン・トムのセンスの素晴らしさが解る部分だ。
 
  シネイドの一連のアルバムは、このアルバムに来て彼女の世界が一つの結実を見たと言って決して過言でない。冒頭にもふれたように、こうしたインディーズによるリリース盤になって、又4人の子供の母親になって、更に宗教的価値観の世界にも悟りが形成されつつあるのか、彼女の民族的レゲエの尊重意志とアイリッシユ・フォークとロックの融合という”シネイド世界”が出来上がったと結論づけておきたい。
 

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