レナード・コーエン・トリビュート・アルバム「HERE IT IS : A TRIBUTE TO LEONARD COHEN」
なかなか味な試みのトリビュート盤、10人の歌手が集合
<Jazz>
HERE IT IS : A TRIBUTE TO LEONARD COHEN
BLUE NOTE Hi-Res MQA-flac 96kHz/24bit / 2022
詩人、作家、シンガー・ソングライター、ミュージシャンとして世代、国境、ジャンルを超えて人気を獲得していたカナダ出身のレナード・コーエン(下左)。2016年に82歳で急逝したが亡くなる直前までミュージシャンとして頑張っていた。そこで名プロデューサーとして名高いラリー・クライン(下右)がコーエンとは"1982年頃から友人であり、人生の最後の15年間は特に親しくなった"と言い、さまざまなジャンルの豪華ゲスト・ヴォーカリスト(下記Tracklist参照)と、ジャズ界でちょっとした持ち味を誇るミュージシャンをマッチングさせて制作したコーエンのトリビュート作品。
(なお、私は Hi-Res MQA-flac 96kHz/24bit で聴いています)
レナード・コーエンは、カナダ出身(1934年生まれ)だが、父はユダヤ系、母はロシア系のようで、1960年いわゆるフォーク・ロックと一般には表現されている音楽を奏でるシンガー・ソングライターとしてスタートした。「エロティックな悲惨な詩人」なんて表現を見たが、そんな要素もあったくらいで一種独特の世界があった。私は当時は特に興味もなかったので当時の事はよく解らないが、詩人としての大学卒の経歴があり、人生のいろいろな流れの中で、革命後のキューバに渡ったりとその生きざまは多彩だ。(かって私は彼をここで取り上げたので参照してほしい→「今にして知る レナード・コーエン Leonard Cohen の世界」http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2010/03/leonard-cohen-c.html)。
私が彼に関心を持ったのはたったのこの十数年のことである。しかしその後彼に関しての音楽を聴いてみるにつけ、彼は老年期に入ってからのミュージシャンとしての味は、若き時のものと比較しても格段も中身が濃く味があり人生の風格が滲み手出ての傑作ものであった。特に余談だが、彼のバック・コーラスを務めていたJennifer Warnesなども世にでることにもなって、私の興味を誘ってくれたのである。
(Tracklist)
1. Steer Your Way / Norah Jones (2016年『ユー・ウォント・イット・ダーカー』収録)
2. Here It Is / Peter Gabriel (2001年『テン・ニュー・ソングス』収録)
3. Suzanne / Gregory Porter (1967年『レナード・コーエンの唄』収録)
4. Hallelujah / Sarah McLachlan (1984年『哀しみのダンス』収録)
5. Avalanche / Immanuel Wilkins (1971年『愛と憎しみの歌』収録)
6. Hey, That's No Way to Say Goodbye / Luciana Souza (1967年『レナード・コーエンの唄』収録)
7. Coming Back to You / James Taylor (1984年『哀しみのダンス』収録)
8. You Want It Darker / Iggy Pop (2016年『ユー・ウォント・イット・ダーカー』収録)
9. If It Be Your Will / Mavis Staples (1984年『哀しみのダンス』収録)
10. Seems So Long Ago, Nancy / David Gray (1968年『ひとり、部屋に歌う』収録)
11. Famous Blue Raincoat / Nathaniel Rateliff (1971年『愛と憎しみの歌』収録)
12. Bird on The Wire / Bill Frisell (1968年『ひとり、部屋に歌う』収録)
(奏者):ビル・フリゼール (g)、イマニュエル・ウィルキンス (as)、ケヴィン・ヘイズ (p, Estey)、スコット・コリー (b)、ネイト・スミス (ds)、グレゴリー・リース (pedal steel g)、ラリー・ゴールディングス (Hammond, org)
上のように、多くのヴォーカリストによる詩を重んじた曲が中心であるが、バックは上記のようなそれぞれの味のある演奏者がクラインによって集められたプロジェクトであった。これはアルバムとしての一貫性を失わないように多くの歌手をサポートするにあたり、世界観を統一している試みである。一アルバムのように感じる一貫性のある統一されたサウンドを考えたのだ。それにしても1967年のデビュー作から2016年までの50年の経過の作品の流れをまとめ上げるところにクラインの腕の見せどころであっただろう。
さて、それぞれの曲を聴いてみると・・・・
M1."Steer Your Way"のNorah Jones(↑a)はそれなりに無難に歌い、驚きはアルバム・タイトル曲M2."Here It Is "のPeter Gabriel(↑b)だ。彼の演ずるところコーエンの質をしっかり捉えて歌い上げていて、おやコーエンではと思うほどだ。そんなところではM8."You Want It Darker "のIggy Pop(↑e)もそっくりだったが、彼なりの切り口は独特。
M3."Suzanne"のGregory Poter(↑c)はちょっとクールで面白い。
M5."Avalanche " 、M12."Bird on The Wire"はインストもの、Immanuel Wilkinsはサックスで、Bill Frisellはギターで、それぞれ曲に色を添えるべく演じている。
M7."Coming Back to You" James Taylerの低いキーでの唄もコーエン節が印象的。
女性群がいいですね、M4." Hallelujah"の私のお気に入りのSarah Mclachlan(↑d)は、しっとりと自分の世界に引き込んで歌い上げる。M6."Hey, That's No Way to Say Goodbye "のLuciana Souzaは甘いところを見せつつ意外におとなしく素直に哀悼の意。M9."If It Be Your Will"のMavis Staples(↑f)は、なかなか個性が生きていてその訴えが響いてくるところはお見事と言いたい。
M10."Seems So Long Ago, Nancy " David Gray(↑g)も自分の世界で哀感ある歌い上げて納得。
M11."If It Be Your Will "のNathaniel Rateliff(↑h)が印象深いですね、ここでは他の男性軍は自己主張して挑戦的なところはあまりなく、おとなしくコーエンを描こうとしているが、彼は彼なりの世界で、なかなか哀感もたっぷりで聴き応え十分な歌を披露。私はこのアルバムでは出色と見た。
晩年のコーエンが益々人気が上がったのは、男が歳をとったらこんな洒落っ気がある魅力が欲しいと思わせるところがプンプンしていたことで、歌や詩で語り掛けるところには、ゴスペルの要素がなんとなく見え隠れしていた。逆にそれに皮肉なユーモアも感じさせている。1984年以降の『哀しみのダンス』以来、明るい訳でもなくどこか暗めで人を引き付ける。そして加えてユーモアのセンスは抜群だった。人間的な弱さと強さがみえる歌が人に訴えた。
このアルバムを聴くと、コ-エンの唄はコーエンが一番良いという事を逆に実証したような感がある。しかしこうして一つの世界に統一しての彼を想う10人という歌手の集まりもなかなか味があったことも事実であった。
(評価)
□ 選曲・演奏・歌 : 88/100
□ 録音(MQA・Hi-Res) : 88/100
(試聴)
Gregory Porter"Suzanne"
*
Mavis Staples"If It Be Your Will"
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