LP-playerの復活(4) ハービー・マン Herbie Mann の多様なジャズ・フルート
ロック、ボサ・ノヴァをこなすジャズ・フルートのハービー・マン
長らく離れていたLP盤の再聴を今年のスタートに当たって行っていると、やはり1960~70年の熱き時代が、いまもつい先日のように感じられる。
そんな中で、このところ触れてきた”セルジオ・メンデス&ブラジル’66”そして”バーデン・パウエル”のブラジル・ボサ・ノヴァの世界に足を入れたところで、当時ジャズ・フルートのハービー・マンに繋がるところをここで回顧するのだ。
「Do the Bossa Nova With HERBIE MANN ボサ・ノバ/ハービー・マン」 ATLANTIC P-6096A 1972
日本でこのアルバムがお目見えしたのは、セルジオ・メンデスやバーデン・パウエルのボサ・ノヴァをベースにしての音楽が60年代後半に知れ渡ったことによる。実はそれより前の1962年に、ジャズ・フルート奏者のハービー・マンが彼らのブラジル音楽に注目して収録したアルバムがあった。それがこのアルバムで、日本では1972年にお目見えしている。
当時、バーデン・パウエルはボサ・ノヴァ・ギターにその実績を積み上げているが、セルジオ・メンデスはまだ例のロック感覚を加味したブラジル’66の世界には至っておらず、むしろサンバにジャズ的アプローチを試みていたジャズ・ピアノ奏者だった。
そしてこの両者は、ハービー・マンがブラジルを訪れた際に共演したのである。収録8曲の内、2曲にセルジオ・メンデスとボサリオ6重奏団が、さらに別の2曲にバーデンのギターが登場する記念的貴重盤だ。特にB面3曲目には、あのバーデンの曲”Consolacao コンソレーション”が彼のギターで登場し主たる旋律を奏でて、ハービーのフルートがバックを構成しながら合間にアドリブ的演奏で味付けしている。こんな共演が楽しめるのだ。
このようにハービー・マンはクールでモダンなサンバ=ボサ・ノヴァに興味を持ち、彼のフルートを生かす方法論を作り上げたのだった。
日本において、ハービー・マンは「Memphis Underground メンフィス・アンダーグラウンド」ATLANTIC AMCY-1042 1969 で名を馳せたと言っていい。
今でもこのアルバムには絶賛する人が多い。’60年代後半のソウル、ロック、ファンクなど取り入れたジャズ・スタイルが興味が持たれてきた中で、特にハービー・マンのそうした意欲は旺盛で、このあと大きなジャズ界のムープメントであったフュージョンの先駆者とも言える。
アルバム・タイトル曲”Menohis Underground”は彼の作った代表作。リズム・セッションが流れる中に、ハービーのフルートとロィ・エアーズのヴィブラフォンが掛け合いを繰り返し、アドリブを効かせて進行する。
メンバーは、フルートのHerbie Mann と ヴァイブラフォンのRoy Ayers、ギターの Larry CoryellとSonny Sharrock それに加えてのメンフィスのリズムセクションである。永遠の名盤だ。(デジタルリマスターした2007年のCD盤 WPCR-75356 がある)
左の「HERBIE MANN and Soul Flutes GOLDEN PRIZE」 A&M GP-204 1971 という如何にも大衆受けを狙ったアルバムもあった。
アルバム名にある Soul Flutes というのは、このアルバムの為に結成されたグループのようであるが、全12曲あらゆる分野のポピュラーな曲をハービー・マンのフルートを中心に、主としてラテン・ロックに乗ったイージー・リスニング・ミュージックとして展開している。こうした大衆サービス的なアルバム造りをしたのは、当時あまりにも彼のフルート・サウンドが広く受け入れられた為であろう。そんな意味で、私にとっては若干魅力には乏しいところであったが、”Unchain My Heart”、”Scarborough Fair”、”朝日のあたる家”などなど続々ポヒュラー・ミュージックが登場する中で、私はディズニーの漫画映画からの”Trust in Me”が、彼らしいフルートの美しい世界が聴けて救いであった。
さて、その後ATLANTICから、ロック・ギタリストのデュアン・オールマンを迎え、バックにはジャズ界のセッション・マンを集め、彼独特のロック、ソウル、ジャズのクロスオーバーを作り上げたアルバムをリリースした。
「HERBIE MANN PUSH PUSH」 P-8164A 1971
このあたりは、本当の彼のやりたかった曲なのだと思う。アルバム・タイトル曲の”push push”などは、フルートとパーカッションの掛け合いから、エレキギターのリードなどを織り交ぜて素晴らしい。これは当時、他にみない独特の感覚を呼び起こしてくれてハービー・マンのファンになったものだ。このアルバムはその他フルートとギターの掛け合いが面白い曲など、今聴いても素晴らしい。これがハービー・マンだ。
もう一つ私のお気に入りのLPがあった。
「HERBIE MANN MISSISSIPPI GAMBLER」 ATLANTIC P-8246A 1972
これは、ハービー・マンが余りにも多彩な音楽スタイルを取り入れて演奏する中で、再び彼自身の原点回帰をしたようなもので、あのヒットしたアルバム「メンフィス・アンダーグラウンド」の流れのアルバムだ。ディープ・サウスのミシシッピー一帯は黒人達のミュージックをもとにジャズ感覚の宝庫。彼はそこから多くを汲み取ってこのアルバムを作り上げたのだろう。彼の曲”mississippi gambler”は、コンガが刻むリズムにフルートが踊り、そしてテナー・サツクス(David Newman)、ギター(Reggie Young)が次第に色づけして行くスタイルで楽しい。
1930年ニューヨーク生まれのハービー・マンは、残念ながら2003年に亡くなっている。テナー・サックス奏者からフルートに転向して、ワールドミュージュックの要素を多角的に取り入れて、ボサ・ノヴァをいち早く演奏したり、ニュー・ロックとジャズを組み合わせ一つの世界を作り上げたりして、一世をを風靡した。私にとっては、やはりLP時代の忘れ得ないミュージシャンであった。
(視聴)
| 固定リンク
| コメント (5)
| トラックバック (1)
最近のコメント