イメルダ・メイ Imelda May 「11 Past the Hour」
愛を通して人間の真相にも迫らんとするイメルダ・メイの冒険性の結晶
(変身第2弾)
<Rock, Jazz, Blues>
Imelda May 「11 Past the Hour」
DeccaRecords / Import / B0033471-02 / 2021
Back Musicians : Tim Bran(p,g,b), Charlotte Hatherley(g), Cameron Blackwood(k,Prog),Davide Rossi(Str), Charlie Jones(p,b),Matt Racher(d)
どうもこのところ女性ジャズ・ヴォーカルもののリリースが量と中身が若干低調、そんな中で充実感と迫力でお気に入りだつたアルバムはやはり遅まきながら購入に至ったのでここに取り上げる。
これは英国(と、言ってもアイルランド)のSSWのイメルダ・メイImelda Mayの6枚目のスタジオアルバムである。2021年4月のリリースで既に2年の経過があるが最近はストリーミングにより聴いていた。しかしやっぱり手元にCDとして置いておきたい思う濃いアルバムであり、意外に取り上げられていないのでここに紹介する。
彼女に関しては、ここで何度か話をしてきたが、ジャンルはジャズというよりはロックだ。しかしジャズとして聴ける曲も多く、とにかく歌がうまい。私としては"アイルランドの美空ひばり"と名付けて以前から注目してきた。近年ではジェフ・ベックとの共演の"Cry me a River","Lilac wine"等が出色。そして、出産、離婚後の変身が凄くて前作『LIFE.LOVE.FRESH.BLOOD』(2017)でビックリ、その後のライブ活動も凄く、このアルバムも変身後の2作目で注目度も高かった。
全曲彼女が共同プロデューサーであるティム・ブランとストリングス・アレンジャーのダヴィデ・ロッシらと共作しており、作詞も彼女自身による。そしてロニー・ウッド、ノエル・ギャラガー、マイルズ・ケインといったミュージシャンに加え、女性フェミニスト思想家、政治活動家ジーナ・マーティンなど驚きの顔ぶれが参加する。彼らをフィチャーした曲では、敢えてロックンロールを展開し問題提議しているのだ。
バック・ミュージシャンは今盛んな多くが参加、曲により変化を付けているのも彼女のしたたかな冒険性である(末尾クレジット参照)。
アイルランドにルーツを持つことの意義、かってあの反骨の歌手シネイド・オコナーをも仲良く良い意味で圧倒した彼女のパワーは健在だ。ここにはかってのバンドの拘束から切り放たれた彼女自身そのものの真の姿が浮き彫りされているところに魅力がある。この充実感高いアルバムは、自分の真の姿やアイルランドのルーツ、物語を伝え、魂を込めた愛の歌を展開いる。
(Tracklist)
01. 11 Past the Hour
02. Breathe
03. Made to Love(feat.Ronnie Wood etc)
04. Different Kinds of Love
05. Diamonds
06. Don't Let Me Stand On My Own(feat.Niall McNamee)
07. What We Did in the Dark(feat.Miles Kane)
08. Can't Say
09. Just One Kiss(with Noel Gallagher, feat.Ronnie Wood)
10. Solace
11. Never Look Back
私はM1."11 Past the Hour"のタイトル曲(UKのSSWであるPedro Vitoとの共作)が大歓迎だ。ロカビリー色の欠如で彼女のファンからは異論があっただろうが、アダルトコンテンポラリーの世界は確実に魅力を倍増した。パワフルなゴスペル調(描くは失った人への思い)の曲で、Imelda Mayの圧倒的なヴォーカルが際立つ。ダークでちょっと暑いバラードだが、彼女の声がかっては考えられない重さでのしかかってくる。中盤からのきしむようなギターがこの曲の一つの焦点で悲しみと不安を描く。
この曲は、失った世界から新しく旅する自分を赤裸々に訴えて、愛する人を失った人々に向けた慰めと希望を与える世界だ。背景には、社会から疎外されているコミュニティや制度的不平等に取り組む組織を支援することを目的にアイルランド政府の立ち上げた「Rethink Ireland」キャンペーンのために、彼女が書いた「You Don’t Get To Be Racist and Irish」という詩が、世界的に注目を集めた状況を思い出すと単純でない諸々が見えてくる。 重大なものを失った人々にその悲しみと孤独を共有し、同時に、時間が癒しの力を持つこと。しかし時間が過ぎ去っても、人間的思い出を忘れないでいることの重要性を訴えている。とにかく強い歌声と、力強く美しいメロディが圧巻。彼女の音楽性は、ロックやブルースをベースにしながらも、ジャズやソウルなどの要素を取り入れた独自のサウンドが結実している。
ここに彼女の言葉を記す・・・・
「“11 Past the Hour”は私の真実です。私は常に意味を持って、心を込めて詩を書いています。それぞれの特別な瞬間に、自分の物語を介して人々と繋がることこそが私が書く理由であり、だからこそ、たとえほんのひと時でも、人々と繋がれることを願っているのです。私たちが折にふれて感じるものを、言葉や音楽にすることができるのだと思いたい。私たちは皆、笑い、歌い、愛し、泣き、踊り、キスをし、他人を大切に思っています。私たちは皆、欲望、怒り、喜び、心配、悲しみ、希望を経験します。時には静かに全てを抱え込み、時には踊りながら吹かれる風の中に全てを投げ出すこともありますが、一つだけ確かなことは、私たちは共にこの人生を歩んでいるということ。それぞれの歌は私の人生の瞬間です。それぞれの人生は時代の一瞬。一分一分が大切なんです」
その他一連の曲は・・・
M2."Breathe"、M3."Made To Love"(LGBTQ) とエネルギッシュでポップな曲が続く(Ronnie Woodをフィーチャー)
M4."Different Kinds of Love" 情緒豊かなヴォーカル
M5."Diamonds" ピアノのバックに叙情的スローバラード、深く美しき感謝の訴え(真純なる愛に感謝)
M6."Don't Let Me Stand On My Own" Niall McNameeとのデュオ、民族的、牧歌的世界
m7."What We Did in the Dark " Miles Kane とのデュオ。アップ・テンポで典型的ロックだがどこか切なさが・・・
M8." Can't Say" 説得力の優しさあふれるバラード。彼女の訴えの歌い上げが聴き応え十分。歌詞は重く印象的な曲。
M9." Just One Kiss" 典型的な懐かしロック(Ronnie Woodをフューチャー)
M10."Solace" かなり品格のあるバラード、彼女の美声に包まれる。人生の光明をみつけて・・・
M11."Never Look Back" 祈りに近い訴え
このアルバムは、イメルダ・メイが、U2、ルー・リード、シネイド・オコナー、ロバート・プラント、ヴァン・モリソン、ジャック・セイボレッティ、エルヴィス・コステロら、各種そうそうたるアーティストたちとデュエットを果たし成功してきたこと、近年ではジェフ・ベック、ジェフ・ゴールドブラム、ロニー・ウッドらのアルバムやライヴ・ツアーにも参加した。こんな経験から。幅広い音楽的影響を反映した、ひとつの折衷主義作品となった。それは想像するに、彼女は、過去のロックンロール一途では国際的発展性に割り込むのはむずしいと判断したこともあり、又彼女自身のブルース、ジャズ、ラテン音楽など、多様なジャンルの要素を持ち合わせたことの創造結果かと思う。
そしてアイルランドにルーツを持つ複雑な社会的経験が重なっての彼女のSSWとしての能力がこの重厚な内容のあるアルバムが作り上げられたと思う。ヴォーカル・アルバムとしはその中身の重さに、そして曲の多彩さに感動するアルバムであった。
最近、女性ヴォーカルものが低調であるので、日本ではどうも一般的でないアルバムでありながら中身の濃いところを紹介した。
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(評価)
□ 曲・演奏・歌 90/100
□ 録音 87/100
(試聴)
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