女性ヴォーカル

2024年9月 3日 (火)

サンディ・パットン Sandy Patton 「Round Midnight」

ベテランのアメリカン・スタンダート・ジャズ・ヴォーカル・アルバム

<Jazz>

Sandy Patton 「Round Midnight」
Venus / JPN / VHGD10012 / 2024

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サンディ・パットン Sandy Patton - vocal
マッシモ・ファラオ Massimo Farao' - piano
ダヴィデ・パラディン Davide Palladin - guitar
ニコラ・バルボン Nicola Barbon - double bass

Produced by Tetsuo Hara
Recorded at Art Music Studio - Bassano Del Grappa - Italy
On February 26 & 27, 2024.

Festival_teachers_as_120717_204945_patto   ここに来て、アメリカ生まれの本格派ジャズ・シンガー、 ベテランのサンディ・パットンのニュー・アルバムにお目にかかるとは思っていなかった。それは意外に彼女はキャリアの割には日本ではそれ程一般的には浸透していなかったためだ。そこで興味もあり何はともあれ早速聴くこととしたもの。

 サンディ・パットンSandy Patton(→)は、アメリカ・ミシガン州インクスターに1948年に生まれ、幼少期から音楽に情熱を注ぎ、ワシントンD.C.のハワード大学とマイアミ大学で声楽を学び、マイアミ大学コンサート・ジャズ・ビッグバンドのツアーにも参加した。キャリアの初期にはライオネル・ハンプトンのバンドと共に3年間ツアーを行い、多くのジャズ界の巨匠と共演した経験を持っている超ベテラン。そして音楽活動はアメリカ国内だけでなく、ヨーロッパや中東、極東など世界中に広がっており、特にスイスのベルンにある「Hochschule der Künste」(ベルン芸術大学)では18年間ジャズボーカル教授として教鞭を執り、多くの若手ミュージシャンを育て注目されてきた。

 なんと現在78歳であるが、国際的に活躍しており、過去にフランス、ドイツ、スイス、アブダビ、セネガル、モザンビーク、ロシア/シベリア、ボリビア、韓国で世界各地で公演を行っている。現在イタリアのピアニスト、マッシモ・ファラオとの共演など、ヨーロッパの著名なミュージシャンとも精力的にコラボレーションを続けている。彼女のステージは、感情の深みと技術的な完成度で観客を魅了し、国際的なジャズシーンで高く評価されている。

 今回のアルバム、その経過は解らないが、日本のVenusからのリリースのアメリカン・ジャズ・スタンダード曲集。タイトルが「真夜中」ですから、やっぱり久々のナイト・クラブのムードのジャズ・ボーカル・アルバムとして期待して聴いた次第。

(Tracklist)
1. オールド・カントリー The Old Country (N. Adderley) 7:26
2. ゼア・イズ・ノー・グレイター・ラブ There Is No Greater Love (I. Jones) 5:23
3. ゲット・ハッピー Get Happy (H. Arlen) 2:59
4 .スクラップル・フロム・ジ・アップル Scrapple From The Apple (C. Parker) 3:31
5. ウェーヴ Wave (A.C. Jobim) 3:56
6. サック・フル・オブ・ドリームス Sack Full Of Dreams (L. Savary - G. McFarland) 4:49
7. インビテーション Invitation (B. Kaper) 5:37
8. ラウンド・ミッドナイトRound Midnight (T. Monk) 5:42
9. ラッシュ・ライフ Lush Life (B. Strayhorn) 5:42
10. ウィスパー・ノット Whisper Not (B. Golson) 6:24
11. マイ・ワン・アンド・オンリー・ラブ My One And Only Love (Wood - Mellin) 5:34
12. レディ・ビ・グッド Lady Be Good (G. Gershwin) 4:58

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  M1."The Old Country" オープニングから、ピアノの流れにに乗って、ぐっと深いヴォーカルでもうすっかりジャズ・クラブのムードが、ベテランの味ですね。スキャットや少しフェイクも入れてうまく歌っている。この曲かってキース・ジャレットの昔のアルバム『STANDARS LIVE』で、スタンダーズ・トリオの演奏で聴いたことがあったが、やっぱり名曲だ。
 M4."Scrapple From The Apple "は、スキャットを多用してピアノとのユニゾンでの歌は見事。
 そして、なんといってもアルバムタイトル曲M8."Round Midnight"曲は、マイルス・ディビスの演奏の代表曲("Round about Midnight")でもあり、彼女の気合の入り方も尋常ではない。マッシモ・ファラオ(上左)のピアノの美しさと共に情感と優しさが満ち満ちていて、夜のジャズの良さがしみじみと伝わってくる。ジャズ・ヴォーカルは、現在は、やっぱりなんなくこのスタイルが忘れられているが、今ここで聴くと納得なのである。
 曲によっては、バックがギター(ダヴィデ・パラディン(上右))でムードを盛り上げる曲もあって、M7."Invitation "は、映画音楽だが、なかなかピアノの情感と違って、むしろ感傷的とはいっても洒落た世界を描いている。M9." Lush Life "は、歌詞の表現に見事なテクニックを披露。

3_20240903152201  とにかく、アメリカの良き時代のジャズ・スタンダード曲の流れのおさらいのようなもので、それが又サンディ・パットンのベテランの説得力のあるヴォーカルが、一層歴史的ジャズの良さを実感させるので、広く聴いてほしいアルバム。そうそう演奏の中心であるマッシモ・ファラオ(piano)、そしてダヴィデ・パラディン( guitar)も慣れたもので、この世界を見事に描いていると思う。これはとにかくジャズ・ファンなら、いろいろと言わずに聴いて歴史的スタンダード・ジャズの良さを確認しておくことの出来る名盤の登場と言っても良いものだ。

(評価)
□ 選曲・演奏・歌 :   90/100
□   録音      :    88/100

(試聴) "Round Midnight"

*
(参考) 映画「Round Midnight」

 

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2024年8月27日 (火)

ブリア・スコンバーグ Bria Skonberg 「What Is Means」

彼女のトランペツトよりヴォーカルに注目して一票を入れる

<Jazz>

Bria Skonberg 「What Is Means」
CELLAR LIVE / Import / CM072624 / 2024

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Bria Skonberg (trumpet) (vocal on 02, 03, 04, 07, 08, 11)
Don Vappie (electric guitar except 11) (banjo on 06)
Chris Pattishall (piano)
Grayson Brockamp (acoustic bass)
Herlin Riley (drums, percussion except 11)
Aurora Nealand (soprano saxophone on 01)
Rex Gregory (tenor saxophone on 04, 08, 10) (bass clarinet on 09)
Ethan Santos (trombone on 04, 08, 09, 10)
Ben Jaffe (sousaphone on 01, 10)
Gabrielle Cavassa (vocal on 08) (female)

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 米ニューヨーク・シーンで活躍しているカナダ出身の女性トランぺッター兼ヴォーカリスト(兼ソングライター)のブリア・スコンバーグ(1983年カナダ-ブリティッシュ・コロンビア州チリワック生まれ。左)のアルバム。彼女は現在まで着々とアルバムをリリースしているが、今回は、小コンボ体制(と、言っても上記のように豪華体制)で、自己の音楽的ルーツであるニューオーリンズ・ジャズ〜トラディッショナル・ジャズに焦点を当てた作品。
 ニューオルリンズ・ジャズとなると、トランペットの活躍場所は大いにあって、彼女は溌溂と吹き上げている。しかし古典ジャズのニュアンスはどうしても拭うことはできず、ちょっと古臭い感覚にもなるが、彼女のヴォーカルも11曲中6曲に挿入されていて、その方が聴き応えある。

 2021年1月、世界的なロックダウンの暗い重みの中、彼女は他のミュージシャンと交流した回数は10回未満に落ち込み、さらに、親になるという未経験の世界とで、"世界的孤立"と"新しい種類の愛"の両方を経験した。そしてようやくギグが再開され始めたとき、彼女は「自分は、戻る方法と前進する道を同時に見つけようとしているように感じた」と言っている。そこで10代の頃に学んだ曲、ルイ・アームストロングの"Cornet Chop Suey"などの名曲を再検討し、ヴァン・モリソンやビートルズなどの家族ぐるみでの愛好音楽を再考した。それが今回のアルバムの基礎にあるとみてよい。

811gigbpd1l_ac_slwf  その上に、ブリア・スコンバーグは、既にダイアナ・クラール等が開拓したジャズ因子の絡めた洗練されたポップ・シーンを目指し、新たな領域をもって確固たる地位を築くことを試み、そもそも2015年のPortrait Recordsからのデビューアルバム『Bria』(このアルバムで私は初めて彼女を知ったのだが。→)には、スタンダード曲と5曲のオリジナル曲が収録されていて、「クラシックジャズを愛し、そこにリズム、パーカッションを重んじた現代的なポップ色あるところを融合させる」という手法をとってきた。その流れは今回のアルバムでも感ずるところにある。

 忘れてはならないのは、このアルバムには、ニューオーリンズのジャズシーンからいろいろなミュージシャンが参加している。特に、ドラマー/パーカッショニストのHerlin Riley(下中央)は、ニューオーリンズの伝説である。ベーシストであるGrayson Brockamp とは初仕事。ピアニストのクリス・パティシャルChris Pattishall(下右)は、ブリアの最も長いコラボレーターで、豊富な映画音楽の経験を生かしている。ギターとバンジョーで活躍するDon Vappie(下左)は、ニューオーリンズの音楽遺産の巨人。M1.で聴くソプラノサックス奏者のAurora Nealandは、ストックホルムのスウィングフェスティバルで彼女の元ルームメイトとか。

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(Tracklist)

01. Comes Love
02. Sweet Pea*
03. Do You Know What It Means To Miss New Orleans?*
04. The Beat Goes On*
05. In The House
06. Cornet Chop Suey
07. Beautiful Boy (Darling Boy)*
08. Days Like This*
09. Petit Fleur
10. Elbow Bump
11. Lullabye (Goodnight My Angel) /A Child Is Born (vo/tp-p-b trio)*
*印 Vocal入り曲

 もともとラッパ物入りニューオルリンズ・ジャズには興味のない私であるので、これはスコンバーグのヴォーカル・アルバムとして聴いてみようと思ったところだ。思った通りどちらかというとクラシックなスタイルの明るくハキハキとしたトランペットの響きが主体の演奏で、それ自体は悪くないが、私はあまり興味もわかなかったのである。しかし彼女のヴォーカルの入る曲にはちょっと一目を置いた次第。

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 M1. "Comes Love" 戦前のブロードウェイ・ミュージカル曲のスタンダード化したポピュラーな曲が軽快に登場。トランペットが活躍して、管楽器の合奏でこれから楽しくゆきましょうと言った感じのクラシカル・ジャズ。しかし中盤から変調するなどして洒落ている。
 M2. "Sweet Pea" さっそく彼女の高音寄りのヴォーカルの登場。白人系ではきはきしていて端正、スッキリ感で良い。
 M3. "Do You Know What It Means To Miss New Orleans?" おおここでは、彼女の可愛げなスローバラード調のヴォーカルが登場、後半になってトランペットがメロディーを演ずるがなかなかいいムードだ。この曲からアルバム・タイトルが造られたのだろう。
   M4. "The Beat Goes On"ロックン・ロールして楽しそう。
   M5. "In The House" も軽快、ベースの響きのリズムが印象的、トランペットもコントロールしての歯切れの良い独演、ピアノの相槌がいい。管楽器のユニゾンよりは私は好き。
   M6. "Cornet Chop Suey" 昔のルイ・アームストロング が作曲したジャズ・ナンバー。演奏の奇抜さが評判の曲を彼女は負けず劣らず見事に技巧を凝らして演奏する。
 M7. "Beautiful Boy (Darling Boy)"ジョン・レノンの息子への曲、彼女の優しさの溢れたヴォーカルで、このアルバムでは異色作。
 M8. "Days Like This" ヴァン・モリソンの曲、家族で愛している曲と。
 M9. "Petit Fleur" 日本で昔ピーナッツが歌った"可愛い花"。彼女のトランペットが聴きどころだが、"小さな花"の懐かしき曲。
 M10. "Elbow Bump" 興味は湧かなかった。
 M11. "Lullabye (Goodnight My Angel) /A Child Is Born" (vo/tp-p-b trio) ビリー・ジョエルの美曲。ここでのスコンバーグのなかなか優しい歌は聴きどころ。最後にM7.とともに我が子へ送る歌だろうか。

 このアルバムでは、ブリア・スコンバーグの溌剌明快なところとプルースの渋さ満点のところのあるトランペツトが一番の聴き処だろうが、私は彼女のヴォーカル曲を、美声であり、曲によっての歌いまわし技巧がすぐれていて、ソウフルな味もあっての点に注目して快く聴くことが出来た。もともと古めかしい華々しさのそんなニュー・オルリンズ・ジャズには興味がないのだが、それでも演奏陣は、現代にマッチすべくトラディッショナル趣向をうまく新感覚に併わせて演奏し、リフレッシュ効果を忘れずに奮戦していた。当初からのヴォーカル中心の世界に絞って聴こうとしていたわけだが、そこも加味して高評価しておきたい。

(評価)
□ 曲・演奏・歌 88/100
□ 録音     87/100

(試聴)



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2024年8月22日 (木)

クララ・ハーバーカンプ Clara Haberkamp trio 「Plateaux」

音楽の構造に技巧の複雑性を織り込みつつ描く世界

<Jazz>

Clara Haberkramp trio 「Plateaux」
TYZART / Import / TXA24184 / 2024

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Clara Haberkamp(Piano, Vocals (Danny Boy))
Oliver Potratz(Bass)
Jarle Vespestad(Drums)

Nik9679_clara_haberkampw    ドイツ出身の女性ピアニスト・作曲家のクララ・ハーバーカンプCLARA HABERKAMP(1989-)(→)率いるピアノ・トリオの2024年新作。ピアノ・トリオは2010年に結成、ベルリンの有名なジャズ・クラブ「A-trane」などで活躍、注目を受けていて、クララ・ハーバーカンプのプロ・キャリアとしての流れようだ。彼女は若いころから「Jugend jazzt」や「Jugend musiziert」などのコンペティションで数々の賞を受賞し、その後、ドイツの国立ユースジャズオーケストラにも所属。
   日本ではあまり知られず、前作『Reframing the Moon』(2021)が高評価で聴かれたところだ。2022年には以前からのベーシストであるオリバー・ポトラッツ(下右)に、ノルウェーのヤール・ヴェスペスタッド(下左)がレギュラードラマーとして加わり、そしてこのアルバム『Plateaux』は、このメンバーの最初のレコーディングと言うことだ。
 内容は、オリジナル曲を中心に、カナダを代表するSSWのゴードン・ライトフットの"If You could read My Mind"とトラディショナル・ソング"Danny Boy"(ここでは彼女のヴォーカルを聴かせる)のカバー収録している。
 曲想はかなり独創的で、メランコリックな味付けに感情の高い情熱的な要素が入り、かなり緻密性の高い楽曲が特徴的と言われている。ユーロ・ジャズの特徴の耽美的でリリシズム溢れる作品が魅力。

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(Tracklist)

1.Cycle
2.Fantasmes
3.Plateaux
4.On a Park Bench
5.Ich bin von Kopf bis Fuss auf Liebe eingestellt*
6.Enfold Me like a Poem
7.Counter-Curse
8.If You could read My Mind*
9.Collage
10.Danny Boy*

  このアルバムは、印象としてピアノ演奏芸術を感じさせるところを感ずる世界であるが、ベースのリードが織り込まれ、そこにドラムスの響きがシンバル音なども有効に響くという世界で、ちょっと別世界のピアノ・トリオを聴く想いになる。

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 爽快なスタートをM1."Cycle"で飾る。これは曲を形作る演奏法を表したタイトルか?、冒頭から圧倒的なピアノのアルペジオ奏法が円を描くように流れる展開に、ベースとドラムスが歩調を合わせ、後半にはダスナミックなピアノに続き、ベースが特徴的に主役を演ずるところを織り込んでの流れで、演奏技法に圧倒されただならない世界を感ずる。
 そしてM2."Fantasmes"となり、ピアノの明らかにメロディックな世界に変調して、どこか不安げな印象が伴った夢の展開。
 M3."Plateaux" アルバム・タイトル曲が、次の世界に導く。
 M2., M3.を経て、M4."On A Park Bench"の瞑想的世界にたどり着いた。ぐっと"静"の世界に入り内省的、三者によるテーマの探求であり、ピアノの間をおいた美しい音の響き、トリオのそれぞれがきらめくような美を演ずる。
 M5."Ich bin von Kopf bis Fuss auf Liebe eingestellt"このセッションの奇抜性が描き挙げる曲。
 M6."Enfold Me like a Poem"ぐっと深く沈みつつピアノが美しい。抒情性の極み。
 M7."Counter-Curse"珍しく快活なドラム演奏から始まる。ベースとドラムは、ピアノが進む道をたどりつつ、支えに変化するも、緊張感を維持している。
 M8."If You could read My Mind" やはり瞑想性はここにも演じ込む。
 M9."Collage"ピアノの孤独性に、重なるベース、ドラムスにより進行する緊張感。
 M10."Danny Boy"ピアノのみの響きに彼女のヴォーカルが乗って最期を飾る驚きの緊張感の解放。

 ピアニストのクララ・ハーバーカンプがドイツのジャズシーンにある種のインパクトを与えていることが実感できるアルバムであった。曲を演ずるところに音楽の構造に技巧の複雑性を織り込みつつ、描く世界はそれと共に表現てしてゆき、更にアルバムを一つの世界として作り上げる。そこには瞑想的であったり、抒情性の世界であったり・・・スリリングな展開による危機感であったり、トリオとしてのそれぞれ役割も十分構築してその表現は見事であった。私の注目アルバム。

(評価)
□   曲・演奏  90/100 
□ 録音    88/100

(試聴)
"If You could read my mind"

*
(参考) Trio Live  2022

 

 

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2024年8月12日 (月)

クラウディア・ザンノーニ Claudia Zannoni 「STURDUST ~ Love Nancy」

'50年代活躍のナンシー・ウィルソンのトリビュート・アルバム

<Jazz>

Claudia Zannoni 「STURDUST ~ Love Nancy」
Venus Records / JPN / VHGD-10011 / 2024

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クラウディア・ザンノーニ CLAUDIA ZANNONI - VOCAL
マッシモ・ファラオ MASSIMO FARAO' - PIANO
ダヴィデ・パラディン DAVIDE PALLADIN- GUITAR
ニコラ・バルボン NICOLA BARBON - BASS
ボボ・ファキネッティ BOBO FACCHINETTI - DRUMS

Produced by Tetsuo Hara
Recorded at Art Music Studio - Bassano Del Grappa - Italy
On March 3 & 4, 2024.
Sound Engineers : Diego Piotto
Mixed and Mastered by Tetsuo Hara
Photos by Designed by Artplan

366318949_1023126539w   イタリアのキャリア十分の歌姫クラウディア・ザンノーニ(→)がVinus Recordsからアルバム『 NEW GIRL IN TOWN』で2020年に日本デビューして以来の3作目のニュー・アルバムが、同じVenus Recordsからここにリリースされた。彼女は1990年からキャリアを積んできており、アルバム・リリースもあるが、日本では殆ど知られていなかった存在。少女時代から歌うことが好きで、特に1950年代と60年代のジャズに強い影響を受け、ナンシー・ウィルソン、アニタ・オディ、エラ・フィッツジェラルドを吸収して本格的ジャズ・ヴォーカルを学び、ベースも習得している。90年代末からプロ・シンガー&ベース奏者としてその活動を拡げてきた。
 このアルバムもナンシー・ウィルソンに捧ぐと言うモノで、溢れる愛のスタンダード・ソング集と言ったところだ。

 かっては何というかちょっとえげつないアルバム・ジャケが多かった日本のVinus Recordsからのリリースものだが、これは、それがなんとこの7月リリースであって、それが見ての通りのザンノーニの冬の恰好の写真、この暑い夏にどうもしっくりしない。収録曲が冬物でもないので、どうも対応がいいかげんというか、配慮が足りないというか、言い訳としてリリースが遅れたのであっても、その様な事への対応が準備してあっても良さそうなのに、・・・どうもいただけない。

Nww  さて、ここにザンノーニによりトリビュートされているナンシー・ウィルソンNancy Wilson(1937-2018)(→)は、アメリカのジャズおよびR&Bの歌手であり、その暖かく豊かな声で知られ、1950年代後半から活躍。スタイルはジャズだけでなく、ポップスやソウルミュージックにも影響を受けており、クロスオーバーアーティストとしても高い評価を得ている。彼女の代表的なアルバムには、「Something Wonderful」(1960年)や「How Glad I Am」(1964年)があり、「How Glad I Am」はグラミー賞を受賞。長いキャリアの中で合計3回のグラミー賞を受賞している。テレビや映画にも出演し親しまれた。
 ここでは彼女をそもそも人気者にした曲"GUESS WHO I SAW TODAY "も取り上げられている。

(Tracklist)

1 過ぎし夏の想い出 THE THINGS WE DID LAST SUMMER - (SAMMY CAHN - JULE STYNE)
2 君を想いて THE VERY THOUGHT OF YOU (RAY NOBLE)
3 君住む街角 ON THE STREET WHERE YOU LIVE (ALAN LERNER - FREDERIK LOVE )
4 ネバー・レス・ザン・イエスタデイ NEVER LESS THAN YESTERDAY (LARRY KUSIK - RICHARD ALHERT )
5 オン・グリーン・ドルフィン・ストリート ON GREEN DOLHIN STREET ( BRONISLAV KAPER - NED WASHINGTON)
6 ジス・タイム・ザ・ドリームス・オン・ミー THIS TIME THE DREAM'S ON ME (HAROLD ARLEN -JOHNNY MERCER)
7 スターダスト STARDUST (HOAGYCARMICHAEL- MITCHELL PARISH)
8 恋をしたみたい ALMOST LIKE BEING IN LOVE (FREDERICK LOEWE -ALAN JAY LERNER)
9 アイ・ウィッシュ・ユー・ラブ  I WISH YOU LOVE ( CHARLES TRENET )
10 ゲス・フー・アイ・ソー・トゥデイ GUESS WHO I SAW TODAY (MURRAY GRAND - ELISSE BOYD)
11 君の瞳に恋してる CAN'T TAKE MY EYES OFF OF YOU (FRANKIE VALLI )

  ザンノーニの歌は、極めて標準的なヴォーカルを展開している。声の質も高音も低音もそれなりの美で無難にこなす。そしてそれを見事に支えているのは、前作同様ベテラン、マッシモ・ファラオ(↓左)のピアノである。彼は以前から彼女と共演していて、呼吸はピッタリでの美しい演奏を繰り広げている。 

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 このアルバムの目的を訴えるように、オープニングのM1."THE THINGS WE DID LAST SUMMER " は、ギターと彼女のスキャットがユニゾンスタイルで明るくスタート。
 M2."THE VERY THOUGHT OF YOU" 好きな人を想って歌うしっとりとした曲、ナンシーのムードをうまく取り入れ、バックもベース、ピアノて語り聴かせ、ギターが更にムードを高めている。こうしたバラード曲はナンシーを知らしめたM10."GUESS WHO I SAW TODAY "も、なかなかいい感じだ。
 M3."ON THE STREET WHERE YOU LIVE" 「マイ・フェア・レディ」からの有名な曲を軽快に明るく、ファラオのピアノも軽快に踊る。
   M5."ON GREEN DOLHIN STREET"では、ギターとドラムスが健闘し、リズムに乗っての彼女の歌と楽しさを助けている。
   アルバム・タイトル曲のM7."STARDUST"は、誰もが歌う超有名曲。やはりこのアルバムでは出色の出来。ここでは彼女の歌唱力を見事に発揮して、ピアノの繊細にしてゆったりとしたメロディーの美しさに乗り歌い上げる。

 こんな調子で、戦後の懐かしのアメリカ・ヴォーカル曲を思い出させてくれるが、肩ぐるしいところがなく、気楽に聴くアルバムとして取り敢えず完成されている。

(評価)
□ 選曲・演奏・歌  87/100
□ 録音       87/100

(試聴)

 

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2024年8月 7日 (水)

マデリン・ペルー Madeleine Peyroux 「Let's Walk」

彼女の苦悩の心が歌い込まれる名盤の出現

<Jazz, Folk>

Madeleine Peyroux 「Let's Walk」
BSMF Records / JPN / BSMF5128 / 2024

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Madeleine Peyroux : vocals
Jon Herington : guitor
Andy Ezrin : Keyboad 
Paul Fraser : Bass
Graham Hawthome : Drums

Biow  注目してきたジャズ&フォーク・シンガーソングライターのマデリン・ペルーの久々6年ぶり10枚目のアルバム登場。グラミー賞受賞のプロデューサー&エンジニアのエリオット・シャイナーを迎え、ギタリスト、ジョン・ヘリントン(米、1954-)が作曲・アレンジで全面協力。久しぶりのこのアルバム、過去と異なって、全曲自らも関わってのオリジナルで訴えてきた。どうもコロナ禍によって、全て抑制された困難を乗り越えての、中身は政治的・社会的な問題を彼女ならではの世界観で捉えた歌詞で、ニューヨーク州北部のクラブハウスで録音されたこのサウンドはフォーキーに、ブルージーに、シャンソン風にと多彩に表現している。

 マデリン・ペルーは、1974年アメリカ、ジョージア州生まれのジャズ系シンガー・ソングライター。ニューヨークなどに住んでいたが、13歳の時に両親の離婚で、母親とパリへ移住。2年後セーヌ川の南のラテン・クオーターでストリート・ミュージシャンとして活動を始め、一方ジャズ・グループに参加し経験を積む。そしてアトランティック・レコードに見いだされ1996年『Dreamland』でデビュー。しかし声帯のポリ-プ手術のため8年間のブランク。2004年プロデューサーのラリー・クラインと組んで発表した復帰作『Careless Love』が大ヒット。続く2006年『Half the Perfect World』もヒット。その後2009年『Bare Bones』、2013年『The Blue Room』、2018年『Anthem』など続けて発表。レナード·コーエン、レイ・チャールズなどの名曲を彼女らしさで再構築し、ジャンルという枠を越えた音楽で世界的に評価されてきた。

(Tracklist)
1.Find True Love
2.How I Wish
3.Let's Walk
4.Please Come On Inside
5.Blues for Heaven
6.Et Puis
7.Me and the Mosquito
8.Nothing Personal
9.Showman Dan
10.Take Care

 過去のアルバムから、“21世紀のビリー・ホリデイ”とか形容されることも多い独特の深く温かい力みのない歌声で、今回は作曲者のジョン・へリントン(↓左)のギターに加え、アンディ・エズリン(キーボード↓左から2番目)、ポール・フレイジャー(ベース↓右から2番目)、グレアム・ホーソーン(ドラム↓右)らがバックアップ。フォーキーな因子を聴かせながらも、シャンソン風も顔を出し、ブルージー、ジャジーな曲などで聴く者を飽きさせない。

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 アルバムのオープニング曲M1."Find True Love"は、ジョージ・フロイド殺人事件の裁判中にペイルーに届いた曲だという。闇の中から希望を求めて彼女の歌がスタートする。ヘリントンのアコースティックギターとアンディ・エズリンのKeyboadが優しく彼女の希望の歌を支える。
    M2."How I Wish"は、白いアメリカ人の肌と格闘した哀感漂うやや暗めの心に響くワルツの曲。2020年の3ヶ月間に起きたジョージ・フロイド、ブレオナ・テイラー、アフマド・アーベリーの恐怖の殺人事件に対するペルーの反応である。「2020年は私が目を覚ました年でした」と彼女は言い、一つの苦悩を負っている。それはアメリカ・オクラホマ州出身の哲学者、政治思想家の人種問題を歴史学的分析を用いて論じ、熱心な社会活動家としても知られるコーネル・ウェスト(エチオピア系のアフリカ系アメリカ人)の作品に影響を受けている彼女は、ニーナ・シモン、ルイ・アームストロング、マリアン・アンダーソンなど、抑圧に対して音楽で対応することに感銘を受けている。「アフリカ系アメリカ人の音楽は、私の人生で不変の真の道です」とまで言っている。
 アルバム・タイトル曲M3."Let's Walk"はゴスペル調であるが、アップビートで、コーラスもバックに入れてなかなか快活だ。「この歌詞は、世界中の公民権を求めるデモ参加者の大衆動員について言及しています」と彼女は説明している。「人道主義のイデオロギーを支持する自発的に統一された行動」を歌い上げ、続く難民をテーマにしたM4."Please Come On Inside"M5."Blues for Heaven"では、感情を豊かに高めている。オルガンの響きの印象的なM5.では、天国の平和を願いあげている。

Madeleinepeyrouxw  そして中盤では世界を変えて、フランス語で歌うM6."Et Puis"はパリの街角に白人の特権、そしてM7."Me and the Mosquito"は国境の南カリブへと想いを馳せて、陽気な曲でありながらここではマラリアとの関係に。「私たちはどんな時でも単に喜びを求めてはならない。そして、皮肉を考えずにそのように」と、ただし暗さだけには終わらせていない。

 そして問題作M8."Nothing Personal"では、女性への性的虐待・暴行にも正面から取り組み、加害者は「自分の行動の結果のあらゆる側面を学び、被害者が歓迎するあらゆる方法で回復の当事者になるべきだ」と反省を訴える。ペルーの切なくも決意された心のヴォーカルは優しく美しい。

 このアルバムは、この6年間の困難な社会を生き抜いての彼女の再々出発への一つの道のような位置にあるようだ。人種問題、性問題など社会問題を取り上げての社会的位置を明確にしている。彼女自身の人種については、アメリカ人であり、具体的な人種についての詳細な情報は公にされてい。ただし、音楽のスタイルや影響を受けたアーティストの多くはアフリカ系アメリカ人であるため、ジャズとブルースの伝統を深く理解し、それを自らの音楽に取り入れて、そこから生きるということの大切さを訴えていることが解る。
 久々の彼女のアルバムに触れて、心のミュージックとして曲の多彩さに感動し彼女の決意を見る思いであった。

(評価)
□ 曲・演奏・歌 :   90/100
□   録音     :   87/100

(試聴) "How I Wish"

 

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2024年7月28日 (日)

ダイアナ・クラール Diana Krall 「Famous Blue Raincoat - 2024 TOKYO 3RD NIGHT」

ギター抜きのトリオ仕立てもなかなかで・・・・

<Jazz>

Diana Krall 「Famous Blue Raincoat - 2024 TOKYO 3RD NIGHT」
ORIGINAL MASTER / IEM Matrix Recording / Xavel Hybrid Master - 214

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ダイアナ・クラール Diana Krall(vocal, piano)
トニー・ガルニエ Tony Gamier(bass)
マット・チェンバレン Matt Chamberlain(drums)

Live at Shouwa Joshi Daigaku, Hitomi Memorial Hall, Tokyo, Japan 10th May 2024

Pastedgraphic1w   ダイアナ・クラール5年ぶりの今年の「2024年ジャパン・ツアー」は追加も含めて全6公演となった中、ツアー3日目であり東京3連続公演の最終日、追加公演でもあった5月10日昭和女子大学人見記念講堂でのライブの模様だ。とにもかくにも彼女は人気者ですね、どんな会場でも満席になる。私としては少なくともコットンクラブやブルーノートぐらいかそれ以下の小会場で聴きたいのだが、それは殆ど叶わぬ期待ですね。そんなわけで参加していなかった私にとっては嬉しいアルバムなのである。
 このアルバムは並行して第1日(東京ドームシティホール)、第2日(昭和女子大人見記念講堂)と並行して発売されているbootlegの第3日目のものなのだが、例のごとくステレオIEMマトリクスにてコンプリート収録されている。つまりそれはまずダイアナがステージ上で使用していたイヤー・モニター・ソースを、良質デジタル・オーディエンス録音ソースと配合してステレオ・ミックスしたIEMマトリクス音源ものである。従ってダイアナのボーカルはもちろんだか、トリオによるアンサンプル演奏とのハイブリッド・サウンドにて当日の模様を忠実に再現したものである。

 そして今回のツアーでは、彼女のライブものの一般的スタイルのギター、ベース、ドラムスに加えて彼女のヴォーカルとピアノというカルテット・スタイルと違って、ギター・レスのピアノ・トリオに彼女のヴォーカルが乗るスタイルである。アコースティック・ベースとエレクトリック・ベースを兼ねるトニー・ガルニエ(1956-)(上右)と、ドラマーのマット・チェンバレン(1967-)(上左)を引き連れてのステージとなった。
 このトリオ・セッションの雰囲気を楽しんでほしいというダイアナの希望を取り入れた企画で、前半はスタンダード、後半はスタンダードに近いカバー曲が中心であつて、それぞれの間にオリジナル曲を挿入するという形をとっている。このパターンは今回の全会場の共通スタイルである。ただし会場ごとに曲を入れ替えしたりしてなかなか充実している。

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Disc 1
01. Almost Like Being in Love
02. All or Nothing at All
03. Happy Birthday, Tony! / All of Me
04. I've Got You Under My Skin
05. Like Someone in Love
06. The Girl in the Other Room
07. Just You, Just Me

Disc 2
01. 'S Wonderful
02. Night And Day
03. Fly Me to the Moon (In Other Words)
04. Famous Blue Raincoat
05. I Was Doing All Right
06. East of the Sun (and West of the Moon)
07. You're My Thrill
08. Temptation
09. Day In, Day Out
10. Route 66
-encore-
11. Queen Jane Approximately
12. Ophelia

  さて今回の録音の出来だが、ブートとしては非常に良好ではあるが、欲を言えばステレオ・ミックス法に私が聴くところでは若干の不満があった。それは明らかにダイアナ・クラールの声は見事に入っているのだが、少々セッション演奏部分が弱い、もう少しリアルにしっかりミックス録音されていると良かったのではと言うところである。前回の来日時は彼女は風邪をひいていて発声に万全でなかったのだが、あの来日時のアルバムの方に録音された音としては私は軍配をあげるのでる。
 しかし、このように1ケ月足らずのうちに、こうして良質なアルバム化してくれているところは、参加していなかった我々にとっては嬉しい事である。あまり文句を言ってもいけませんね。

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 今回の同行者のトニー・ガルニエは1980年代後半からのボブ・ディランのバンドのベーシストとして知られるところだが、トム・ウェイツ、カーリー・サイモン、ルシンダ・ウィリアムス等との共演も好評。ダイアナ・クラールのアルバムでは『Turn Up the Quiet』(2017年)や『This Dream Of You』(2020年)に参加している。
 一方、ドラマーのマット・チェンバレンは、ブルース・スプリングスティーン、レナード・コーエン、デヴィッド・ボウイ、ブラッド・メルドーなどのアルバムに参加する売れっ子セッションマンである。
 まず彼らのリスム隊としての意気投合しての迫力は、Disc1のM2."All or Nothing at All"あたりで迫ってくる。 この二人が共にしたトリオ体制下での演奏は、こうしてオーディエンスの前での演奏は今回のツアーが初めてのことだという。ダイアナ・クラールのギター・レス体制でのライブものは私にとっては初聴きで、以下Disc2においての感想だが、M7."You're My Thrill"のしっとりとしたバラードもののムードも印象が過去のものと異なってなかなか新鮮であると同時にピアノの静かに描く世界の役割も大きく最高だ。又得意のM8."Temptation"は、ベース、ドラムス共にリズムを明瞭に刻み、彼女のピアノもそれに乗って跳ねるように展開し、なかなか過去のものと異なった味を見せてくれている。M9."Day In, Day Out" のスウィングする展開もなかなかトニーとマットの息もあっていて楽しい曲仕上げになっているし、M10."Route 66 "でのリズムの変調もリズム隊はなかなか面白い。M12."Ophelia"ではエレキ・ベースでダイアナの歌を盛り上げる。

 いずれにしてもダイアナ・クラールの元気な姿は全く昔と変わりなく、中盤のM1."'S Wonderful"からM5."I Was Doing All Right"の彼女のソロ5曲もなかなか楽しい。又愛嬌も歳と共に増してきて、中低音のややハスキーな充実ヴォーカルも衰えずピアノ・プレイもジャズ・センスが佳くて素晴らしい。そうそうDisc1のアルバム「When I Look in Your Eyes」に収録された曲M4."I've got You Under My Skin"がなかなかしっとり大人ムードで20年の経過を実感する。
 いずれにしてもそろそろ又、ジャズ因子の強い彼女のニュー・アルバムを期待したいところだ。

(評価)
□ 選曲・演奏・歌  90/100
□ 録音       87/100

(参考視聴) 

*
Diana Krall 2024 Live in Jakarta

 

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2024年7月23日 (火)

リ-・リトナ-、デイヴ・グルーシン Lee Rittenour & Dave Grusin 「BRASIL」

久々に心地よい南国ブラジルのボッサに浸れる

<Jazz, Samba, Latin>

Lee Rittenour & Dave Grusin 「BRASIL」
Pony Canyon / Jpn / PCCY-01996 / 2024

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Lee Ritenour リー・リトナー (acoustic guitar, electric guitar)
Dave Grusin デイヴ・グルーシン (piano, keyboard, electric piano)
Bruno Migotto ブルーノ・ミゴット (electric bass, bass)
Edu Ribeiro エドゥ・ヒベイロ (drums)
Marcelo Costa マルセロ・コスタ (percussion on 3, 5, 6, 7?)
Unknown (flute on 3)
Ivan Lins イヴァン・リンス (vocal on 4)
Tatiana Parra タチアナ・パーハ (vocal on 1, 4) (possibly? also on 5, 8)
Celso Fonseca セルソ・フォンセカ (vocal, guitar on 5)
Chico Pinheiro シコ・ピニェイロ (guitar on 6) (vocal on 7)
Grégoire Maret グレゴア・マレ (harmonica on 1, 2, 8)

61p1sby2sl_acw   夏の海岸砂浜でのリラックス向きのアルバムの登場である。いやはや40年前の1985年に発売され、グラミー編曲賞を受賞したブラジリアン・フュージョン・アルバム『HARLEQUIN ハーレクイン』(→)の続編ということだが、今年の作品だ。ギターのリー・リトナーと ピアノ・キーボードのデイヴ・グルーシンの超ベテランによるものだ。おそらく二人のブラジル音楽によせる想いがここに結実しているものだと言うが。

 そして上記のように多くのミュージシャンが集まっているが、4曲にヴォーカルも登場する。それは世界的に名が通っているイヴァン・リンス、ブラジルで人気のセルソ・フォンセカ、シコ・ピニェイロ、新進女性ヴォーカリスト:タチアナ・パーハ(下右)だ。
 又ハーモニカ界の重鎮のグレコリア・マレ(下右から2番目)が参加しているのが注目される。

(紹介)
▶リー・リトナー(G)(下左):1952年米カリフォルニア州ロサンジェルス生まれ。1970年代、10代でスタジオミュージシャンの活動を始め、70年代80年代のクロスオーバー、フュージョン、AOR シーンのトップ・ギタリストとして脚光を浴びる。『キャプテン・フィンガーズ』(1977)、『RIT』(1981)が大ヒット。デイブ・グルーシンとの合作『ハーレクイン』(1985)にてグラミー受賞。その後スーパー・グループ、フォープレイを結成。また自身のソロ・プロジェクトで意欲的な作品を数多く残している。

▶デイブ・グルーシン(Piano, Key)(下左から2番目):1934年米コロラド州リトルトン生まれ。幼少から音楽を学び、ジャズ・ピアノと編曲を身に着けNYで活動。その後LAに移りTV、映画の世界でも活躍。「卒業」「トッツィー」「グーニーズ」「恋のゆくえ」他の音楽を担当し、グラミー賞、アカデミー賞などを獲得する。一方1970年代に始まったクロスオーバー、フュージョンのムーブメントと共に、プレイヤー、アレンジャーとしても活躍。リー・リトナーとの合作『ハーレクイン』(1985)にてグラミー受賞している。1978年GRP Recordsを設立し、ヒット作品を世に送りだす。現在もリー・リトナーとの共演で世界広く活躍中。

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(Tracklist)

1. Cravo e Canela (Cloves & Cinnamon) クラヴォ・イ・カネーラ(クローヴ・アンド・シナモン) – featuring Tatiana Parra, Grégoire Maret
2. For The Palms フォー・ザ・パームズ – featuring Grégoire Maret
3. Catavento カタヴェント
4. Vitoriosa (Victorious) ヴィトリオーザ – featuring Ivan Lins & Tatiana Parra
5. Meu Samba Torto (My Crooked Samba) メウ・サンバ・トルト – featuring Celso Fonseca
6. Stone Flower ストーン・フラワー – featuring Chico Pinheiro
7. Boca de Siri (Keep It Quiet) ボーカ・ヂ・シリ – featuring Chico Pinheiro
8. Lil' Rock Way リル・ロック・ウェイ – featuring Grégoire Maret
9. Canto Invierno (Winter Song) カント・インヴィエルノ

 とにかく楽しく聴けるので、楽しむのが一番。ブラジルにしては意外に清涼感に満ちたアコースティック・ギターと魅惑のエレクトリック・ギター、ピアノもこれ又意外にさらっと繊維な音で、エレピもしつこさが無く快感、これが枯れた味なのかもしれない。それに女性ヴォーカルも情熱的と言うより爽やかな印象、そして特にハーモニカの音も哀感があっていい。それらがサンバのリズムに乗って実に軽妙でお洒落な世界を演じている。ブラジルの爽快感のあるリオ デ ジャネイロのコパカバーナ ビーチやイパネマビーチ、コルコバードの丘などを想像してしまう。
 そもそも古い昔の話だが、私はジャズを少々かじった頃、ジャック・ルーシェのピアノ・トリオと一方"セルジオ・メンデスとブラジル66"のファンであつたので、このブラジリアン・ボッサは懐かしさも加わって気分最高である。

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 M1. "Cravo e Canela" 軽快なリズムと 新進のTatiana Parraの優しい充実感あるヴォーカルが楽しい。
 M2. "For The Palms"  ギターとこのセッションの特徴のGrégoire Maretのハーモニカが哀感をもってぐっと落ち着いた世界を描く。
 M3. "Catavento" パーカッションの軽快サンバ・リズムでスタート、それに乗ってピアノとギターの競演。
 M4. "Vitoriosa"   男性Ivan Lins と女性 Tatiana Parraのデュオ・ヴォーカルでしっとりと歌い上げる。
 M5. "Meu Samba Torto"  Celso Fonsecaのヴォーカルとエレクトリック・ジャズ・ギターでサンバで南国を描く。
 M6. "Stone Flower" 聴きなれた曲だが、Chico Pinheiroのギターも加わってリズムカルな充実演奏。
 M7. "Boca de Siri" ここでは人気のChico Pinheiroのヴォーカル、軽快なパーカッションとギター。
 M8. "Lil' Rock Way" ここでも Grégoire Maretのハーモニカが頑張り、特異な女性ヴォーカル・リズムで盛り上がる。
 M9. "Canto Invierno "ピアノ、ギターが美しく演じて締める。

 かってのアルバム『ハーレクイン』とは作風は異なっていて、一層ブラジル色が前面に出ている。やはり女性ヴォーカルのムードがいいですね、昔のラニ・ホールを思い出して懐かしい。リトナーの渋いギターが描き上げる南国ムードが聴きどころで、グルーシンのピアノの展開の妙も聴きどころ。
 いずれにしても、快適なリズムと若干染み入る哀愁とが洗練されていて楽しいアルバムであった。

(評価)
□ 曲、演奏、歌  87/100
□ 録音      87/100

(試聴)
"Meu Samba Torto"

*
"Cravo e Canela"

 

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2024年7月17日 (水)

シモーネ・コッブマイヤー Simone Kopmajer 「Hope」

相変わらずのスウィートにしてマイルドな歌声

<Jazz>

Simone Kopmajer 「Hope」
自主制作 /Import / SKLMR24  /2024

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Simone Kommajer - vocals
Terry Myers - saxophone
Paul Urbanek - piano
Karl Sayer - bass
Reinhardt Winkler - drums

Foto1w  過去に取り上げてきたオーストリア出身の歌姫、シモーネ・コップマイヤー(1981年生まれ)の新作、今回は自主製作版ようだ。もともと彼女の持ち味である爽やかな可愛らしさにスウィートにしてマイルドな歌声は相変わらずで聴きやすさが売り物だ。
  ここでも取り上げた評判の良かったアルバム『MY WONDERLAND』(2020)でバックを務めたTerry Myers(ts), Paul Urbanek(p)が今回もゆったりムードの演奏でシモーネの歌唱を支え。選曲は彼女自身の曲のほか、AORといわれる分野の曲からJazzまでの比較的やさしい曲で、シモーネの魅力を満たそうとした作品だ。

(Tracklist)

1. Pick Yourself Up (Dorothy Fields/Jerome Kern) (3:27)
2. Black Tattoo (Karolin Tuerk/Simone Kopmajer) (3:46)
3. Careless Whisper (George Michael/Andrew Ridgeley) (3:29)
4. Little Green Apples (Robert Russell) (4:19)
5. What A Difference A Day Makes (Stanley Adams/Maria Grever) (4:29)
6. Sittin´ On The Dock Of The Bay (Steve Cropper/Otis Redding) (4:01)
7. Amsterdam (Karolin Tuerk Paul Urbanek) (3:01)
8. Old Devil Moon (Burton Lane, E.Y. Harburg) (4:14)
9. Hope (Simone Kopmajer & Paul Urbanek) (4:02)
10. As The Night Goes By (Paul Urbanek) (4:40)
Bonus Track
11. So Faengt Das Leben An (Simone Kopmajer/Paul Urbanek) (3:13)

 彼女も年期も入ってきたので、このアルバムでは、もう少しジャズらしくなってきたかと思ったが、むしろポップス色が強くなっている感がある。その点は少々残念であったが、自主製作盤であって彼女自身の好みに準じての作風かも知れない。まあ時に気楽に聴くヴォーカルものとして良いとしておこう。

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 彼女のオリジナル曲に注目してみたが、ピアノのPaul Urbanekの協力を得ていて、アルバム・タイトル曲M9."Hope"は、AORタイプでちょっとカントリーっぽい曲だ。又M11." So Faengt Das Leben An"はあまり特徴のない曲となっている。
 M6."Sitting on the Dock of the Bay"は、オーティス・レディングの曲で有名だが、ペギー・リーなども歌っていて私にとっても最も親しみやすい曲だが、しっとりと仕上げていてこれはこれで納得。M3."Careless Whisper"ジョージ・マイケルの曲、これはまさにポップですね。本人が好きなのか、ファン・サービスか。
  ダイアナ・クラールなども歌っているM1."Pick Yourself Up"は、ちょっとジャズ・ムードでオープニング曲。ダイアナ・ワシントンの歌っていたM5."What a Difference a Day Makes"(縁は異なもの)はむしろ若々しく軽快にこなしている。

 そんな感じで、元来の彼女のソフトなスウィート、マイルドといったところを維持しながら、そろそろ円熟味もちょっと出したといった感じのヴォーカルでポップな味付けのジャズ・ヴォーカルが全編に渡って展開。ジャズ・ヴォーカル・ファンとしてはそのスタイルにちょっと物足りなさを感じたところだが、無難で広く勧められるアルバムとして結論づける。

(評価)
□ 曲・編曲・歌 :  87 /100
□   録音     :  85 /100

(試聴)
"What a Difference a Day Makes"

 

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2024年6月28日 (金)

アルージ・アフタブ Arooj Aftab 「Night Rein」

暗さの中の美と展望という一種独特な世界はまさに聴き応えあり

<Jazz, New-age, Electronic Trance>
Arooj Aftab 「Night Rein」
Universal Music / jpn / UCCV-1199 / 2024

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Arooj Aftab(vocal)
Kaki King(guitar,gryphon)
Vijay Iyer(piano)
James Francies(juno,rhodes)
Joel Ross(vibraphone)
Cautious Clay(flute)
Maeve Gilchrist(harp)
Chocolate Genius Inc(piano,bass,synth,strings)
Moor Mother(voice)

Aroojaftabheadshotw   このアルバムは、アルージ・アフタブ(1985年生まれ)という女性ヴォーカリストの私にとっては初ものである。彼女は前作アルバム『Vulture Prince』(2021)で第64回グラミー賞にて最優秀新人賞にノミネート、そのアルバムの中の曲"Mohabbat"で最優秀グローバル・ミュージック・パフォーマンス賞を受賞したことで一躍話題となったニューヨークのブルックリン在住のシンガー・ソングライターで、パキスタン出身、バークリー音楽大学を卒業している。いずれにしてもパキスタン初のグラミー賞受賞となり人気のミュージシャン。そしてこのアルバムは、メジャー(Verve)からのソロ・デビュー・アルバムである。
 さてこれは、彼女のインスピレーションの源である夜をイメージし描いたもので、夜の暗闇になってから現れる、「恋」、「孤独」、「内省」等の多面的な感情を掘り下げているとの説明があり、そんなところをイメージしての自己のオリジナル8曲+スタンダード1曲の全9曲を収録しているようだ。静けさの中にどこか暗さと哀感があるのだが、むしろ訴えるという力を感ずる歌声は聴きどころだ。 

 

(Tracklist)

1. Aey Nehin 彼はこない
2. Na Gul 花でなく
3. Autumn Leaves (ft. James Francies)枯葉 (feat.ジェイムズ・フランシーズ)
4. Bolo Na (ft. Moor Mother & Joel Ross)話してよ (feat.ムーア・マザー、ジョエル・ロス)
5. Saaqi (ft. Vijay Iyer) 恋人 (feat.ヴィジェイ・アイヤー)
6. Last Night (Reprise) (ft. Cautious Clay, Kaki King, Maeve Gilchrist)月のように (feat.コーシャス・クレイ、カーキ・キング、メイヴ・ギルクリスト)
7. Raat Ki Rani 夜の女王
8. Whiskey ウイスキー
9. Zameen (ft. Chocolate Genius, Inc.)大地 (feat.チョコレート・ジーニアス)

  なかなか中低音域の魅力のある暗いと表現される中に宿る力強さの歌声が印象的である。

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 スタートのM1."Aey Nehin"では、GUitar、Vibraphone、Harp などの美しいバック演奏に、リズムは軽快だが、ぐっと歌声は暗い世界が描かれ内省と孤独感が伝わってくるが、最後のハミングなど美しい。
 注目のM3."Autumn Leaves"は、唯一聴きなれた曲だが、James Francies(juno,rhodes)の演奏が面白い。しかし歌うメロディーはぐっと暗く編曲され異様な「枯葉」である。
 M4." Bolo Na"このベースのリズムの効いた曲はパキスタンとの関係があるのか、その伝統のイメージが生かされているように察した。
 M6."Last Night" はトランス風の世界。
 このアルバムの「夜」に焦点が当てられている中でのM7."Raat Ki Rani"(夜の女王)は、東南アジアでよくみられる夜にしか咲かないジャスミンの花の名前とか、彼女の朗々と歌い上げるが、バックのPianoとHarpの音とともに美への展望の高揚が感じられるところが注目。
 M8."Whiskey "は、彼女は「好きな人と夜遊びをしていて、盛り上がってしまったときのことを歌っていて、友人は飲み過ぎたし、私は疲れていて、どうやって二人で家に帰るか考えないといけない。こんなこの夜との交流はまだかわいいものです」と説明しているとか、この曲はアルバムでは暗さの範疇の曲でなく、むしろ優しさを感ずるところだ。

 とにかく、バック・アーティストの描く世界の効果が、所謂ありきたりのジャズとは一線を画し、一種独特な美しい世界を描き、そこに彼女のこれ又一種独特の世界を持ったヴォーカルによって作り上げられていて、ニュー・エイジ、トランス風の幻想的であり又南アジア・パキスタンという雰囲気も加味されているのか、聴きなれない異国を感ずるところにもある。そしてテーマの「夜」というところに彼女の歌声は響き、これまた独特な暗さを持ちつつ美と展望を描くという稀有なミュージックに遭遇したという印象だ。それは決して悪いものでなく、むしろ歓迎すべき味を持っているというのが本音である。

(評価)
□ 曲・演奏・歌  88/100
□ 録音      88/100

(試聴)
"Raat Ki Rani"

*
"Aey Nehin"

 

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2024年6月13日 (木)

ドゥ・モンテベロ Do Montebello 「B・O PARADISO」

ソフトにして優美な歌で聴きやすいヴォーカル・アルバム

<Jazz>

Do Montebello 「B・O PARADISO」
Fremeaux & Associes / Import / LLL346 / 2024

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DO MONTEBELLO : VOCAL
MARC BERTHOUMIEUX : ACCORDÉON
FRED SOUL : PIANO, FENDER RHODES
HERVÉ MORISOT : GUITAR
RICARDO FEIJÃO : ELE-BASS
CHRISTOPHE DE OLIVEIRA : DRUMS
JULIO GONÇALVES : PERCUSSIONS
JULIA SARR : CHORUS

Domontebelloivansilvaw  フランス・シーンで活躍の女性歌手ドゥ・モンテベロ(フランス南部のアルビAlbi生まれ)の第3作。彼女はポップスやボサノバをセンス良くジャズに取り入れたアプローチを得意とし過去の作品も好評を博している。今作は、彼女の人生を特徴づけた映画音楽を敬意を表し感謝して取り上げ、自己の曲(3曲)と合わせて収録している。
 実は彼女の歌は私は初めて聴いたのだが、非常に聴きやすく素直でソフトな歌が快感で取り上げた次第である。

(Tracklist)

1.NATURE BOY (EDEN AHBEZ)
2.I’M IN THE MOOD FOR LOVE (DOROTHY FIELDS / JIMMY MCHUGH)
3.MANHA DE CARNAVAL (ANTÔNIO MARIA / LUIZ BONFÁ)
4.LA CHANSON D’HÉLÈNE (JEAN-LOUP DABADIE / PHILIPPE SARDE)
5.THE CIRCLE GAME (JONI MICHELL)
6.EVERYBODY’S GOT TO LEARN SOMETIME (J. WARREN & THE KORGIS)
7.ALGER, RUE DEBUSSY (DO MONTEBELLO / SERGIO FARIAS)
8.AUGUSTOU (DO MONTEBELLO / HERVÉ MORISOT)
9.NOVEMBRE (DO MONTEBELLO / MARC BERTHOUMIEUX)
10.MOON RIVER (JOHNNY MERCER / HENRI MANCINI)
11.LES MOULINS DE MON CŒUR (EDDY MARNAY / MICHEL LEGRAND)
12.SMILE (JOHN TURNER & GEOFFREY PARSONS / CHARLIE CHAPLIN)

  取上げた曲は良く知られた映画音楽で、歌は安らぎと詩情をソフトに優雅に歌い上げていて非常に聴きやすい。自己の曲もそれを支えるように歌われて見事にマッチングしている。
  プロデュサーのMarc Berthoumieuxは、ジャズ、ポップミュージック、ボサノヴァのムードを巧みに盛り込んで軽めにアレンジして中身は豪華に施してなかなかサービス精神旺盛に作り上げている。彼女の声の質も中低音が中心で高音もソフトで聴きやすい。
 そしてバックのミュージシャン(ギター、チェロ、コントラバス、アコーディオン)のスウィングに乗せられ、彼女の澄んだ物憂げな歌声は、ポルトガル語、英語、フランス語を繊細に駆使して、決して重くない快適な空間に誘導してくれる。

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 それぞれの曲はよく聴くもので懐かしさ一杯である。基本的には彼女の姿勢は一貫して丁寧なヴォーカルを披露していて、スタートのM1."Nature Boy"つづくM2."I'm in the Mood for Love"などから、むしろ早速懐かしさに誘導し、問題なく彼女の世界に入り込める。
   そしてM3."Manha de carnavel""カーニバルの朝"は、日本では"黒いオルフェ"ですね、そしてM4."エレーヌの歌" これはロミー・シュナイダーの歌で人気曲。フランス・ムード一杯で、私にとっても益々懐かしさに浸ってしまう。
   M7."Alger,rue Debussy"等の自己オリジナル曲もフランス・ムードを維持して異色感がない。
   とにかく殆ど皆知っている曲ばかりだが、彼女らしさがちゃんと歌い込まれていて、その点Berthoumieuxの編曲も原曲に素直で、聴かせの効果も上がっての良作と言って良いだろう。最後M12."Smile"を無難に演じて締めくくるあたりも映画音楽の世界を旨く収めたという処である。

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏・歌 87/100
□ 録音         87/100

(試聴)
"Smile"


*

 

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