01. Comes Love 02. If I Should Lose You 03. Autumn In New York 04. Close Your Eyes 05. My Old Flame 06. I Concentrate On You 07. Once In A While 08. I Fall In Love Too Easily 09. Besame Mucho 10. I'll Be Seeing You
今回もガラティの編曲演奏がやはり注目するところだ。ロマンティックな耽美性は相変わらずだが、彼の持ち味の嫌みの無い展開が時にスウィングし、時に刺激的なところを織り交ぜての過去の曲の演奏スタイルにとらわれない独自の世界がいい。選曲そのものは寺島靖国が行なったようだが、編曲にはガラティの独自的解釈が強化されて、バラードっぽくを期待した面を特にM1."Comes Love"のようにスウィングした軽快な出だしで、期待とは別展開させているところが面白い。アルバム・タイトル曲M4."Close Your Eyes"も同様でありピアノ、ベースの演奏も楽しめる。しかしどんな場面でも決して力んだ展開はみせず、あくまでもソフト・テンダリーに押さえている。曲の中で、ガラティのピアノ演奏の占めるところも多く、そんな意味では今回の方が、ある意味では変化が多くジャズっぽい。
いずれにしても、このエルのヴォーカル・スタイルは、やっぱりウィスパー系がぴったりで、M5."My Old Flame"の流れはいいし、中盤のガラティのピアノも美しい。そしてそのパターンは、M8."I Fall In Love Too Easily"の世界で頂点を迎える。ここではヴォーカルのイメージを大事に間をとりながらのピアノ演奏の世界が美しく、しかも進行して行くうちにスウィングしてみせたり、その流れは如何にもガラティの世界。
1.Introduction 2.Carpet Of The Sun 3.Mother Russia 4.Can You Hear Me ? 5.Ocean Gypsy 6.Running Hard 7.Band Introduction 8.Touching Once 9.Prologue
これは丁度私が最もお気に入りだったアルバム『Novella お伽噺』(1977)のリリース時のもので、上のような演ずる曲は注目の"Can You Hear Me ?"があり、アルバム3th『プロローグ』から7th『お伽噺』までの五枚のアルバムから選ばれている。1977年英国の音楽番組「Sight & Sound」用に収録されたもので、ロンドンBBCライブによる70分のパフォーマンスがプロショット映像でこうして観れるのだ。当時このようなものが観れたら日本中大騒ぎだったと想像に難くない。
(Tracklist) 1. Time's passage (Enrico Pieranunzi) 5,40 2. Valse pour Apollinaire (Enrico Pieranunzi) 4,13 3. Biff (Enrico Pieranunzi) 4,33 4. In the wee small hours of the morning (David Mann & Bob Hilliard)*Quartet version 4,58 5. Perspectives (Enrico Pieranunzi) 5,15 6. A nameless gate (Enrico Pieranunzi) 5,04 7. In the wee small hours of the morning (David Mann & Bob Hilliard) **Voice&piano version 3,56 8. The flower (Enrico Pieranunzi) 7,10 9. Vacation from the blues (Arthur Hamilton/Johnny Mandel) 5,53
M1."Time's passage "は、アルバム・タイトル曲で、ピアノ・トリオとゲストのヴォーカルとヴィブラフォンの演奏だが、美しさという世界でも無く、ヴォーカル曲というのでも無く、アンサンブル尊重なのか、意味のあまり理解できない曲。 まあ、彼女のヴォーカルを主体に聴くならM2., M4.といったところか。M2."Valse pour Apollinaire"は、リズムカルにして、メロディーがよく、彼女は生き生きとしていてパリ・ムード、演奏も躍動感あって良い曲に仕上がっている。一方M4., M7. " In the wee small hours of the morning"はフランク・シナトラが歌った名曲で、しっとり歌い上げて聴き応えあるし、ヴィブラフォンとピアノとの相性が良い美しいヴォーカル曲として上出来。 ところがM6."A nameless gate"あたりは、ヴォーカルと演奏におけるピアノの美しさが中途半端。何に感動して良いのか考えてしまうという状態。 とにかく聴くにポイントはそれぞれ多々あるのだが、例えばM7.のヴォーカルと続くM8." The flower"で盛り上げた何か訴えてくるムードはかなり良い線をいっているにもかかわらず、M9."Vacation from the blues "のアンサンブルで全く別世界に連れてゆかれ、描いた世界が台無しになってしまう。描く世界の主体がハッキリしない変わったアルバムであった。
Personnel: Monika Hoffman - vocals (+ violin on 3) Arno Haas - saxes on 3,5,8,10 Klaus Graf - alto sax solo on 9 Alexander Buhl - tenor sax solo on 1 Peer Baierlein - trumpet/flh on 2,6,8,10 Marc Godfroid - trombone solo on 6 Christoph Neuhaus - guitar on 4,5,8,10 Patrick Tompert - MD + piano (except 1,9) Martin Schrack - piano on 1,9 Jens Loh - double bass on 2,4,7,10 Benny Jud - electric bass on 3,5,8 Axel Kuhn - double bass on 1,6,9 Fulgencio Medina Jr. - drums on 2,4,7,10 Alvin Mills - drums on 3,5,8 Guido Joris - drums on 1,6,9 The Jazzfactory Orchestra - on 1,6,9
1. First Time 2. Sway 3. Fading Like a Flower 4. Cheek to Cheek 5. Where Do I Begin 6. Besame Mucho 7. Bang Bang 8. Lover Man 9. What are You Doing the Rest of Your Life 10. Lullabye of Broadway 11. Over the Rainbow
まあどちらかというと、ジャズの中でもポピュラーな曲が続く。それも自身の敬愛する 10人の女性ヴォーカリスト の Doris Day, Judy Garland, Ella Fitzgerald, Rosemary Clooney, Marie Fredriksson, Shirley Bassey, Cezalia Evora, Cher, Barbra Streisand, Etta James に関係した作品を採り上げて歌い込んだと言うことのようだ。
M1."First Time", M6." Besame Mucho" など期待したが、なんとビックバンドによるヴォーカルで、騒々しくて私向きで無かった。しかし彼女はジャズ・ステージは相当こなしてきているようで、その曲での歌い込みはかなり手慣れていて堂々と歌い上げている。 とくに、M4."Cheek to Cheek"などは、ジャズの典型的なスタイルをオーソドックスに、しかも彼女らしさも出して危うさがない。 私の場合は、M2."Sway"がバラード調に流れ、バックも静かな中で彼女なりきの編曲も多彩に込められて、後半のトランペットもバックにピアノと共に入るが、落ち着いていて好感度が高かくこの線なら期待度高い。
M5."Where Do I Begin(Love Story)"は懐かしい曲だ。最近聴いていなかったせいか、熱唱とバックのギターの味と妙に気に入ってしまった。 M7."Bang Bang"ベースのリズムの刻みが効を呈して、ピアノの演奏も快調で彼女の熱唱に盛り上がって、この曲の編曲も面白く聴ける仕上げ。 M9."What are You Doing the Rest of Your Life"バック演奏も、彼女のヴォーカルが始まると当時にサポートに変化して彼女の情感を盛り上げる。 M11."Over the Rainbow" 彼女のオリジナル旋律の歌から始まって、この曲本来のメロディーがすぐに出てこないが、締めくくりに相応しくしっとりと歌い込むところは充実感ある。
1.Antonico 2.Sombra De La 3.Brisa 4.Sense Pressa 5.Mediterraneo 6.Filho De Oxum 7.Pra Que Discutir Com Madame 8.Danca Da Solidao 9.Saudades Da Guanabara 10.Choro De Baile 11.Record De Nit 12.Samba De Um Minuto 13.Baiao De Quatro Toques 14.jo vine
曲は、オリジナル及びカヴァーの曲によって構成されている。 M1."Antonico" やや物憂いように歌うサンバが意味ありげで気を引きますね。 M2."Sombra De La"は、彼女のオリジナル曲で、ヴォーカルとFlugelhornが演じられている。特に印象に残るという程ではない。 M3."Brisa" 快調なテンポで展開する。トランペット、ヴァイオリン、ピアノ、ドラムスのソロを後半並べて展開するが、聴く方より演者が楽しんでいるような曲仕上げ。まあメンバー紹介のようなものとして聴きました。 M4."Sense Pressa"も彼女自身の曲。スローに展開する中にバックも小コンポで控えめ、何か意味深に訴えているようで、Flugelhornもしっとりしていて若き彼女としては成熟感あり聴き応えあり。 M5."Mediterraneo"は典型的ラテン・タッチでありながら、スペイン・ムードを描く。彼女のソプラノ・サックスが後半に聴かせるところが味噌。 M6."Filho De Oxum" 彼女のアカペラで始まり、カヴァキーニョ(ギター)の弦の響きに乗って艶のあるヴォーカルに焦点のある曲。
M7."Pra Que Discutir"はサンバの古典をハイテンポで、M8."Danca Da Solidao"は三つのローカル色の高いギターが列び、クラリネットが旋律を流し、彼女の充実ヴォーカルはこうだとブラジルの名曲をフラメンコ調でゆったりとひとりコーラスを含めて聴かせ魅力的。 M9."Saudades Da Guanabara"はコーラスとトランペット・ソロというだけのもの。 M10.".Choro De Baile" インスト・ナンバー、彼女のミュート・トランペットが登場しこれが聴きたかったがようやく登場。ヴァイオリンとの共演が珍しくテンポの良く明るめの曲であるが、私的にはちょっと期待外れ。 M11."Record De Nit" なかなか味わい深い7弦ギターと彼女のヴォーカルのデュオ。この世界はいいですね。 M12."Samba De Um Minuto" は、ムードはどっちつかず。 M13.".Baiao De Quatro Toques"は、彼女のポルトガル語世界で締めくくる。このアルバムの意味づけがここにあることを強調している事が解るが、挿入曲からしてもブラジルをも関連して意識させるところがにくい。
(Tracklist) 1. September In The Rain 2. Let's Face The Music And Dance 3. Estuary * 4. How Deep Is The Ocean 5. Humdrum Blues 6. I Only Have Eyes For You 7. You Don't Know What Love Is 8. Contemplating Moon * 9. Dearly Beloved 10. Blame It On My Youth ( *印 : 彼女とメンバーなどとのオリジナル )
冒頭のM1."September In The Rain"そしてM2." Let's Face The Music And Dance"を聴くと、彼女のヴォーカルが如何にも中心であるという曲仕上げで、その曲のアレンジがスウェーデン流なのか、なんとく未完成っぽくて逆に新鮮度がある。バックの演奏もサックスが演ずるところでも、いやに出張ってくることもなく、ヴォーカル・アルバムを意識して仕上げているところに好感度高い。M2.などのピアノもなかなか中盤に熱演して見せて、ジャズの面白みもある。 M3."Estuary "はアルバム・タイトル曲。スロー・ナンバーに仕上げていて、ヴォーカル、ピアノ、サックスが交互に展開の主役を演じながらも、何か一つの物語を聴かせてくれているようで引き込まれる。それはM4."How Deep Is The Ocean"でも同様で、聴く方にとってはゆったり感の中で、ジャズを楽しる。 M5."Humdrum Blues"のブルース・リズムが異色で、楽しさもありこのアルバムでいい色を添える。 M6."I Only Have Eyes For You"などを聴くと、スウィングする中に極めてオーソドックスなジヤズ演奏である。 M7."You Don't Know What Love Is" のバラードにしてもピアノ、サックスが美しく力みが無いところが良いし、歌声は嫌みが全くない。
Personnel: Vocals - Lauren Henderson Bass - Michael Thurber Piano - Sullivan Fortner (4, 7, 8) & Damian Sim Drums - Allan Mednard & Joe Saylor (4, 7) Percussion - Moses Patrou Violin Soloist - Tessa Lark Violins - Lavinia Pavlish and Brendan Speltz Harp - Charles Overton Guitar - Gabe Schneider Clarinet - Mark Dover Flute - Emi Ferguson Trumpet - Jon Lampley Viola - Rose Hashimoto Cello - Tara Hanish Guest Vocals - Leo Sidran
ローレン・ヘンダーソンの実力評価については既に知られているところだが、今回私は初めて彼女のアルバムに手を付けてみた。これも寺島靖国の誘導ですね。もう8年前の『Jazz Bar 2012』、そして今年の『For Jazz Vocal Fans Only Vol.4』です。 ラテン・タッチのヴォーカルが特徴あるが、マサチューセッツ州生まれだ。ただしもともとメキシコ、スペインに住んでいたことがあるようでスペイン語OKで、又フラメンコもこなしているという。 収録曲は8曲で少なめのアルバム。プロデューサーはベーシストのMichael Thurberで4曲提供している。又彼女自身のオリジナル曲も4曲登場。うち両者の共作が1曲。
(Tracklist) 1. From The Inside Out (Leo Sidran) 2. Something Bigger (Michael Thurber) 3. Alma Oscura (Lauren Henderson & Michael Thurber) 4. El Arbol (Lauren Henderson) 5. Ven Muerte (Michael Thurber) 6. Where Are You Now? (Michael Thurber) 7. Protocol (Lauren Henderson) 8. Dream (Lauren Henderson)
M1."From The Inside Out" このアルバムの技術陣のMix担当のLeo Sidranの曲を、物憂げなラテンタッチで描き、なんと中盤から彼とのデュエットで仕上げた曲。意識的にセクシーにしたというのでなく、彼女の歌うところなんとなく不思議な女性としての魅力が漂う。 M3."Alma Oscura" はアルバム・タイトル曲、プデューサーと彼女の共作曲で、このアルバムでの私の一押しの曲。しっとりとスペイン語で歌い込んで、これもなんとなくどこかセクシーなのだ。 M5."Ven Muerte"も囁き調のヴォーカルで、雰囲気が女性ならではの味を出してうまい。 M6."Where Are You Now?"、柔らかくソフト・タッチ・ヴォーカル、美しく歌うのだが、どこかこの作曲者のベーシストのMicheal Thurberの曲とはマッチングが良い感じで、彼女の女性的魅力を引き出している。 M3.は、フルート、M5.はクラリネット、M6.はハープが入って曲作りも上手いし、M7."Protocol"はタンゴ調で、アルバムの曲の配列にメリハリを付けている。
Gretje Angell 「...in any key」 GREVLINTO RECORDS / IMPORT / / 2018
Gretje Angell (vocals) Dori Amarilio (guitar) Kevin Axt (Bass) Gabe Davis (Bass) Kevin Winard (Percussion) Steve Hass (Drums)
Produced, arranged, recorded, mixed, mastered by Dori Amerilo
このグレッジェ・エンジェルも私にとっては初物。彼女はオハイオ州アクロン生まれ、LAで活躍しているジャズヴォーカリストで、なんと遅咲きデビューアルバムだ。これも寺島靖国『For Jazz Vocal Fans Only Vol.4』で知ったもの。 2世代に渡りジャズドラマーであった祖父と父親のもとに育った彼女は"幼少の頃からスモーキーで薄暗いジャズクラブで過ごした。そういう環境から物心つかないころから常にジャズが横にあった"と紹介されている。しかし音楽はクラシック、オペラを学んだ経歴があるようだ。 このアルバムは、LAのギタリスト、プロデューサー、アレンジャーのドリ・アマリリオDori Amarilioによる企画のようだが、その彼とのデュオ作品。曲はスタンダーズやボサノバの比較的ポピュラーな曲が中心で、曲によってはPercussion 、Bass、 Drums 、Trumpet などの入る曲もあるも、 どちらかというとインティメイトな仕上がりである。
(Tracklist) 1. Love Is Here to Stay 2. I'm Old Fashioned 3. Fever 4. Deep in a Dream 5. Berimbau 6. Do Nothing 'Til You Hear from Me 7. One Note Samba 8. Tea for Two 9. Them There Eyes
ただ一曲だけオーケストラの入った曲M4."Deep in a Dream"があり、このアルバムでは異色。いわゆるJazzy noy Jazzのパターンでゆったりした美しく優しさ溢れた歌声であり、バックにミュートの効いたトランペットも入ってムード満点の仕上げ。これは寺島靖国に選ばれた曲。 とにかくオープニングのM1." Love Is Here to Stay"からボサノバ・ギターのバックで、リラックスした雰囲気が盛り上がってくる。 M3." Fever"は、彼女らしい世界。Percussionが流れを刻み、押さえたギター、ドラムスなどがリズムが快く展開。この曲は強烈に歌い上げることが出来るが、そうではなく力みが無くソフト・タッチ。これが彼女流なんでしょうね。 M7."One Note Samba"、M8."Tea for Two"も、ギターとのデォオで、手慣れたヴォーカルを展開。途中にはアドリブも入って個性的作品にしている。
オーディオ・マニアが結構気に入っているアルバムに PREMIUM RECORDS の『BEST AUDIOPILE VOICES』というコンピレーション・アルバムがあるが、これは主としてJazzy not Jazz パターンから、Jazzにいたる女性ヴォーカルが主体である。目下7巻目の「Ⅶ」がお目見えしている。実はその記念すべき2003年の第1巻(→)においては、ここで何度も取上げているEva Cassidyが2曲収録されて主役の役を果たしているが、この米国女性ジャズ・ピアニストにしてヴォーカリストのカーリン・アリソンKarryn Allysonmも登場。そこで実は気にはしていたが、私は欧州系に寄ってしまうために、これまでアルバムをしっかり聴くということなしで来てしまった。しかしなんとなく気になっていて、この秋にアプローチしてみようと思ったのである。
█ <Jazz> KARRIN ALLYSON 「BALLADS-Remembering John Coltrane」 Concord Jazz / USA / CCD-4950-2 / 2003
Karrin Allyson : Vocals, Piano James Williams : Piano John Patitucci : Bass Lewis Nash : Drums Bob Berg : Tenor Sax Lames Carter : Tenor Sax Steve Wilson Soprano Sax
1. Say It (over And Over Again) 2. You Don't Know What Love Is 3. Too Young To Go Steady 4. All Or Nothing At All 5. I wish I Knew 6. What's New 7. It's Easy To Remember 8. Nancy (With The Laughing Face) 9. Naima 10. Why was I Born ? 11. Everytime We Say Goodbye
このように、M1-M8 までコルトレーンのアルバムと完全に曲順も同じに演じきった。ピアノ演奏はここでは彼女はM5.の一曲のみで、他はJames Williamsがピアノ・トリオのパターンで演じ、それにSaxが加わる。 とにかく彼女はヴォーカルに専念し、力んで気負っていることも無く例のハスキーがかった声で、当時のまだ若き年齢を考えると深みのある心を寄り添っての歌に驚きだ。全体に明るいジャズでなくバラードでやや暗めの線を行くも、なかなかの表現力があって聴き応えは十分。なにせコルトレーンですからサックスのウェイトが気になるが、彼女のヴォーカル以上の位置には出ずに、本来のコルトレーン・パターンとは異なった世界を築いていることは、むしろ好感が持てる。 冒頭のM1."Say It"から、サックスとデュオのパターンで進行して、この女性ヴォーカルを生かしたパターンはそれなりに花があり、こうしたこのアルバム造りはスタートから面白いと感ずる。ジャズ・アルバムはスタンダードが人気があるのは、曲だけを聴くのでなく、その演奏者の解釈と演者自身の魅力を味わうところにあるのであって、ここまで徹底して自己のジャズ世界で、トリビュート・アルバムを作り上げた意欲に脱帽する。M5."I wish I Knew"はサックス抜きの彼女のピアノ・トリオで演じたことにその意欲が表れているところだ。又M7."It's Easy to Remember"のようにピアノ主体のバックで、アカペラに近いところも聴き応えあり。 全体に決して軽さの無い深みのある女性ヴォーカル・アルバムに仕上げてくれたことに私は寧ろ大きく評価したい。
1. Turn Out the Stars (Bill Evans-Gene Less) 2. April Come She Will (Paul Simon) 3. Goodbye (Gordon Jenkins) 4. I'm Always Chasing Rainbows (Harry Carroll-Joseph McCarthy) 5. Spring Can Really Hang You Up the Most (Fran Landesman-Tommy Wolf) 6. Smile (Charlie Chaplin) 7. Sophisticated Lady (Duke Ellington-Irving Mills-Mitchell Parish) 8. There's No Such Thing As Love (Ian Fraser-Anthony Newley) 9. The Shadow of Your Smile (Johnny Mandel-Paul Francis Webster) 10. Send In the Clowns (Stephen Sondheim) 11. 'Round Midnight (Thelonious Monk-Cootie Williams-Bernard Hanighen)
やはり持ち前の米国には珍しいやや陰影のある中に、情感豊かにして曲の描く世界を十分に歌い込んでいる。 驚きはM1."Turn Out the Stars"はジャズで、M2."April Come She Will "はフォーク調と、その変化も自在である。 M3."Goodbye "のポピュラー・ナンバーが良いですね、低音の深く厚い歌声の魅力を発揮。 M5."Spring Can Really Hang You Up the Most"の語りかけるように歌い上げ、ジャズとしては美しさを強調して聴かせる。 M6."Smile" 彼女の得意のレパートリーの一つ、ピアノが美しく、編曲をこらしてゆっくりじっくり歌い込む。途中のハーモニカは不要か。 M7."Sophisticated Lady"は彼女の思い入れが感ずるし、M9."The Shadow of Your Smile "これは私の好きな"いそしぎ"ですね、alto FluteとAcoustic Guitarの演奏の中で、ゆったりとしっとりと歌い込んでナイスです。 M.10."Send In the Clowns"ギターとともに静かさが描かれていいですね。M11." 'Round Midnight"はアルバム・タイトル曲で、夜の静かさと寂しさをベースとの語るようにしっとり歌うところも魅力的。
I Didn't Know About You (Concord Jazz, 1993) Sweet Home Cookin' (Concord Jazz, 1994) Azure-Té (Concord Jazz, 1995) Collage (Concord Jazz, 1996) Daydream (Concord Jazz, 1997) From Paris to Rio (Concord, 1999) Ballads: Remembering John Coltrane (Concord Jazz, 2001) Yuletide Hideaway (Kas, 2001) In Blue (Concord Jazz, 2002) Wild for You (Concord, 2004) Footprints (Concord Jazz, 2006) Imagina: Songs of Brasil (Concord Jazz, 2008) 'Round Midnight (Concord Jazz, 2011) Many a New Day: Karrin Allyson Sings Rodgers & Hammerstein (Motema, 2015) Some of That Sunshine (Kas, 2018) Shoulder to Shoulder: A Centennial Tribute to Women's Suffrage, as The Karrin Allyson Sextet (eOne Music, 2019)
Ellen Andersson 「YOU SHOULD HAVE TOLD ME」 Prophone Recpords / sweden / PCD204 / 2020
Ellen Andersson エレン・アンデション (vocal) Joel Lyssarides ヨエル・リュサリデス (piano except 3, 4, 5) Anton Forberg アントン・フォシュベリ (guitar on 4, 5, 8, 9) Niklas Fernqvist ニクラス・フェーンクヴィスト (bass) Johan Lötcrantz Ramsay ユーハン・ローヴクランツ・ラムジー (drums) Peter Asplund ペーテル・アスプルンド (trumpet on 1, 4) Johanna Tafvelin ユハンナ・ターヴェリーン (violin on 2, 6, 8) Nina Soderberg ニーナ・ソーデルベリ (violin on 2, 6, 8) Jenny Augustinsson イェニー・アウスティンソン (viola on 2, 6, 8) Florian Erpelding フローリアン・エーペルディング (cello on 2, 6, 8)
四年前にスウェーデンからの新人女性ジャズ・ヴォーカリストの有望株として紹介したエレン・アンデション(『I'LL BE SEEING YOU』(PCD165/2016))の待望のニューアルバムの登場だ(1991年生まれ)。とにかく嬉しいですね、あのセンス抜群のジャズ演奏とヴォーカルの協演がここに再びと言うことだ。ダイアナ・クラール、メロディ・ガルドーとこの秋、期待のニュー・アルバムが登場したが、彼女らの円熟には及ばずとは言え、あのJazzy not Jazz路線と違って、香り高きジャズ本流のヴォーカル・アルバムに挑戦していて感動であり、しばらく聴き入ってしまうこと間違いなし。 彼女はデンマークのヴォーカル・グループ「トゥシェ」のメンバーとしても活躍しているが、これは彼女のソロ・アルバム。 今回はジャズ・スタンダードそしてビートルズ、ミッシェル・ルグラン、ランディ・ニューマンなどの曲(下記参照)を、ジャズ色濃く編曲して妖艶さも増して披露している。
(Tracklist)
1. You Should Have Told Me (Bobby Barnes / Redd Evans / Lewis Bellin) 2. Once Upon A Summertime (Michel Legrand / Eddie Barclay) 3. You've Got A Friend In Me (Randy Newman) (vo-b-ds trio with 口笛) 4. Just Squeeze Me (Duke Ellington / Lee Gaines) 5. Too Young (Sidney Lippman / Sylvia Dee) (vo-g-b-ds quartet) 6. The Thrill Is Gone (Ray Henderson / Lew Brown) 7. ‘Deed I Do (Fred Rose / Walter Hirsch) (vo-p-b-ds quartet) 8. Blackbird (John Lennon / Paul McCartney) 9. I Get Along Without You Very Well (Hoagy Carmichael / Jane Brown Thompson)
エレン・アンデションの声は、なんとなくあどけなさの残った瑞々しい可憐さが感じられる上に、意外にも前アルバムでも顔を出した妖艶さが一層増して、ちょっとハスキーに響く中低音部を中心に、高音部は張り上げず優しく訴える端麗ヴォイスだ。 M1." You Should Have Told Me "のように、バックがジャズの醍醐味を演ずると("M7." ‘Deed I Do"なども)それと一体になりつつも、彼女の特徴は失わずに協演する。 M2."Once Upon A Summertime"はミッシェル・ルグランの曲、とにかく一転してピアノとストリングスでの美しさは一級で、彼女の心に染み入る中低音のテンダーなヴォーカルが聴きどころ。 M4."Just Squeeze Me"は、トランペットの響きから始まって、彼女のあどけなさとけだるさと不思議な魅力あるヴォーカルでベースの語り歌うような響きと共にジャズの世界に没頭させる。
女性叙情派ユーロ・ジャズ・ヴォーカル・ファンにお勧めは、なんと言っても素晴らしいM6." The Thrill Is Gone"だ。ストリングスの調べが加味した美しいピアノの音とメロディーに、しっとりと優しく囁きかけるように歌い上げるところだ。中盤にはピアノ・トリオがジャジーに演ずる中に後半ストリングスも加わって、再び彼女のヴォーカルが現れると静かに叙情的な世界を演ずる、見事な一曲。 M5."Too Young"のナット・キングコールの歌で歴史的ポピュラーな曲は、冒頭からアカペラで彼女の世界に引っ張り込み、静かに現れるバックのギターとジヤズ心たっぷりに描いてくれる。次第にベース、ドラムスが続き「静」から「動」にスウィングしてゆく流れはお見事と言いたい。
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