イーデン・アトウッド

2012年12月11日 (火)

イーデン・アトウッドEden Atwoodのニュー・アルバム:「Angel Eyes」

やっぱり彼女のアルバムは完成品の風格

 イーデン・アトウッドをここで話題にしたのは既に2年半も前になってしまう。その間に「Like Someone in Love」というアルバムのリリースがあったが、今回のこのアルバムは、私の独断と偏見によると彼女らしい面の良く現れたアルバムだと思うことと、まあ女性ジャズヴォーカル好きにとってはスタンダート的アルバムというところで取り上げたわけである。

Eden Atwood 「Angel Eyes」
Sinatra Society of Japan  XQAM-1523 ,   2012

Angeleyes
Recorded June,2009/Umbrella Media,Chatsworth,CA/ December,2011,April 2012/Pinewood Studios,Missoula,MT

 イーデン・アトウッドと言うと、私の好みからは、アルバム「This Is Always」(2004年)が最高で、それ以上のものはもう多分ないだろうと思っているのであるが・・・、それでもニュー・アルバムがリリースされると聴かざるを得ない存在である。
 彼女は声帯に出来た腫瘍の切除術を受けてもう数年になるが、声の質が変わって高音部の繊細さは後退して、やや全体にハスキーになったと言われているが、それでも百戦錬磨のジャズ・ヴォーカル歴は伊達ではなく、歌唱技法の質の高度なところは万人の認めるところであろう。

(Members)
  Eden Atwood : Vocals
   David Morgenroth : Piano
   Chris Colangelo : Bass
   Kendall Kay : Drums
   Craig Hall : Guitar

Angeleyeslist  さてこのアルバムは、ブルージーな曲、ロック、そしてポピュラーなジャズ・スタンダードと多彩。左のような12曲+日本盤ボーナストラック1というところ。そして3曲目は彼女のオリジナル、その他は全てカヴァーである。
 彼女自身が明らかにした”性”の問題を持った体質と、不幸な結婚歴、両親の離婚などから、陰の先入観でどうしても聴いてしまうのだが、1曲目”I'm so lonesome i could cry”はそんな意味でも、ベースの音からスタートしてピアノの演奏も聴き応えあり、彼女のヴォーカルも哀しき訴えの歌に聴こえてくる。そして確かに高音部のハスキーさは増して、昔とは違っていると言えば違うところか。
 2.4.などは、ポピュラーな曲だが、しっかりイーデンの歌になっている。しかしこれらよりは3曲目の彼女の曲”As far as the eye can see”のほうが心に響く哀愁があって私は好きだ。
 6.7.などはロックの曲をしっかりジャズ・ヴォーカル曲に仕上げているところはお見事。
Eden1 5.”At last”はギターが、9.”The moon's a harsh mistress”はピアノがムードたっぷりの演奏で、彼女はしっとり唄ってくれて私好み。
 12.”Company”は、コーラスが入るが、彼女の多重録音によるものらしい。ちょっと珍しい作りであった。

 いずれにしても彼女のヴォーカル・アルバムは、本人はジャズ・ヴォーカルの本道とは異なったところに魅力を広げようとしているらしいが、結局のところ私から見ると、むしろ本道そのもので、ロックを唄ってもジャズになっており、ジャズ・ヴォーカルものとしては、完成品に近いものに感じられるが、いかがなものか。
 今回リリースも、前作との間隔も手頃で順調な彼女の活動が窺われ、結構なところである。

(参考) http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2010/05/eden-atwood-f1e.html

Pa061843monoblog
(ポーランド・クラクフにて  2012.10)

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2010年5月27日 (木)

イーデン・アトウッド Eden Atwood (2) まさにジャズ・ヴォーカルの一級品

声帯手術後の復活、更にジャズ・ヴォーカルの完成へ

Eden2b   先般取り上げたイーデン・アトウッド Eden Atwood であるが、私の大推薦の2004年のアルバム「This Is Alway-The Ballad Session」以来、沈黙を保っていた。ところが5年の経過があっての昨年(2009年)になって、日本盤でニューアルバムがリリースされた。そして同時に、日本に於いては11月から12月の間、各地でのライヴ・ツアーが行われた。
 いずれにしても、前回紹介したように、多くの不幸を背にした女性ヴォーカリストの復活で、特に日本での話題は大きかったと言える。又、ヴォーカリストの生命でもある声帯の手術を2007年に受けたと言うことで、その後のヴォイスの変化などにも注目を集めたわけだ。

Turnmeloose 「EDEN ATWOOD / TURN ME LOOSE ターン・ミー・ルース」 XQAM-1512 , 2009

 かっての1993年 CONCORD よりのデビー時は(しかし私が初めてアトウッドを知ったのは2000年以降)、キュートというか可憐と言っていいのかそんな印象すらあったと言われる彼女である。今回のアルバムはそんな時より十数年経ているわけで、中堅どころと言うかベテランになっての現在、まさにキュートといった感覚は全くなく、むしろダイナミックで変化の多いジャズ・ヴォーカルの完成品とすら思わせるものに仕上げてきた。
 手術後の問題の声の質の変化だが、もともと音質はややハスキーな部分があって、変わった部類の方であったが、今回のアルバムではいっそうそのハスキーさは顕著になったと言っていいし、又線が太くなったという感があり、高音部の繊細な美しさという点では後退している。又、録音では前作よりは彼女の声が前面に出てきて、若干ホール感程度のエコーが効かされている。この点は過去のモノとは変化していると思う。

Turnlist  曲目は、左(クリック拡大にて参照)のとおりで、古いスタンダードから比較的最近のもの、そして自作の”true north”まで多彩だ。しかしその節回しは見事で堪能できるが、細やかな繊細な世界というのとは異なる。
 比較的新しいところの”Pure Imagination” では、かっての彼女の世界をふと思い出させるし、このアルバムでは私の好むところ。
 更に”I'll Close My Eyes”では、スタートは無伴奏で、そしてそのあと静かなピアノをバックに唄い挙げて、彼女の実力をみせつける。
 もともと、私の好みが彼女のアルバムでは「This Is Always - The Ballad Session」というところからもお解りと思うが、どちらかというとスロー・バラードでじっくりと唄い、そしてトランペットがバックで静かに奏でる夜のムードたっぷり型がいい。そんな意味では、このアルバムはクラブにおける聴衆と一緒にジャズを楽しむタイプで、会心作であることには間違いないと思うが、私にとっては若干前作の後ろに置かれることになる。

 新人女性ジャズ・ヴォーカルが多く登場している昨今の中で、こうしたベテラン・クラスの健闘もそれなりの味があっていい。我々にとってはこの分野が多彩であることは楽しみが増えることで歓迎である。

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2010年5月19日 (水)

静かな夜の落ち着いた気分に、イーデン・アトウッド Eden Atwood

美人女性ヴォーカリストの苦悩の結果描くジャズの世界


Edenatwood  このところ女性ヴォーカリストの話題が、多くなってしまっているが・・・、今回は美人女性として名の通っているジャズ・ヴォーカリストのイーデン・アトウッドだ。昨年5年ぶりにアルバム「TURN ME LOOSE」をリリースした彼女であるが、2007年に声帯に出来た腫瘍手術を受けた後wて゜も健在ということで、ファンをほっとさせたことであろう。
 もう彼女もアルバム「No One Ever Tells You 」でその名も知らしめてから十数年の経過がある。その後女優やファッションモデルとしても活躍していたこともあって、既にベテラン歌手だ。
 
 昨年「ジャズ批評」に載せられた記事で知ったことだが、彼女は”アンドロゲン不応性症候群”という体質があり、実は性染色体は”XY”なのだそうだ。つまり男性なのである。性ホルモンの男性ホルモンの感受性がなく、女性の体型に成長しているのだ。このことは彼女自身が公表しているのでプライバシーの侵害にはならないと思うが、そうした苦悩の人生がバックにある。その為、養子をもらい自分の母乳(ホルモン投与により可能)で育てたという経験を持っている。つまり女性としての人生を全うしているのだ。
 
 今回のアルバムで五枚目になると思われるが、ここで取り上げるのは私の好みから長いブランク前の過去の4枚のアルバムから、その最後のものである。
Thisisalways 「EDEN ATWOOD / This Is Always   the ballad session」 Groove note records GRV1022-2  2004

Vocals : Eden Atwood
Piano : Bill Cunliffe
Trumpet : Tom Harell
Bass : Darek Oleszkiewicz
Drums : Larance Marable

 ピアノトリオ+トランペットというバックでの彼女のスロー・バラードのオンパレードだ。スタジオ・ライブでの録音の形をとっている関係か、確かに音場は狭い。そして彼女の歌は、比較的バラードといえどもパワーは感ぜられず引っ込み気味であるが、例のややハスキーな声が丁寧な歌として響く。一方名手といえども、ちょっと Harell のトランペットが右から出過ぎの感もある。
 しかし、全体のムードは凄い。静かな夜のしっとりとした世界感、そしてややデプレッシブ(鬱的)な情景そのものだ。それを一枚のアルバムを通している。ここまで徹したアルバムもそうはないと思う。

 (曲目リスト)
    1. Without a song
    2. This is always
    3. Day by Day
    4. Blame it on my youth
    5. Deep Purple
    6. You're nearer
    7. Serenata
    8. You leave me Breathless
    9. Come rain or come shine
   10. for all we know
 
 確かに、彼女のこのアルバムの声は、録音法であろうがまさに目の前で語るがごとく変な脚色がない。そして 2. This is always は、ピアノの語りに彼女の歌が静かに乗り、そして安心して聴けるトランペトと、このアルバムのタイトル曲となっているだけに完璧な出来で出色だ。
  静かなベースをバックに語るがごとく歌うのは、4曲目の Blame it on my youth である。こうなると、少しも聴きそらす事が出来ずに聴き入ってしまう。ここでは後半静かにトランペットがサポートするが、それも適度でこの曲は私好みそのもの。 6曲目の You're Nearer も同様なパターンである。
 全体に、こうしたパターンで進行するが、全く飽きさせない。いずれにしてもジャズ・ヴォーカルとして聴くものを堪能させるテクニックは、女性ヴォーカルもの近年は多しと言えども、一枚も二枚も上にある。

 彼女の性的問題以外にも、両親が早くに離婚し、又父親は自殺といった多くの不幸な現実を経てきていることから、私自身の印象にその暗さという部分を必要以上に感じてしまうためだろうか、このアルバムは類を見ない夜の世界である。しかしこのあたりは、イーデンの表現技術の熟練の結果なのであろうと思う。
 このアルバムは私は非常に好きなアルバムであるので、まずはここで取り上げた。

(試聴)

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