トルド・グスタフセン

2023年1月27日 (金)

2022年 ジャズ・アルバム(インスト) ベスト10

 2023年もスタートして、もう1月も終わろうとしているので、そろそろ昨年リリースされたジャズ・アルバムを取り敢えず整理しておきたい。そのうちに「ジャズ批評」誌でも、恒例の「ジャズ・オーディオ・ディスク大賞」が発表されるので、その前に私なりの独断と偏見によって、特に「INSTRUMENTAL部門」の「ディスク大賞」をここに挙げてみた。

 なお評価はリアルタイムに当初聴いた時の感想によることにした(このブログに当初記載したもの)。後からいろいろと考えると迷うところが多いため、初めて聴いて評価したものを尊重する(現在はちょっと異った評価のものもあるが)。又「ディスク」を評価と言うことでも所謂「曲・演奏(100点満点)」と「録音(100点満点=これは一般的な音の良さで、録音、ミックス、マスターなどを総合考慮)」のそれぞれの評価の合算(200点満点)で評価し、又同点の場合は演奏の評価の高いものの方を上位に、更に両者とも全く同点のものは、現在の評価によって順位を付けた。

 

🔳1 Alessandro Galati Trio  「Portrait in Black and White」
   (曲・演奏:95/100  録音:95/100  総合評価190点)

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🔳2   Worfert Brederode  Matangi Quartet  Joost Libaart  「Ruins and Remains」
    (曲・演奏:95/100  録音:95/100  総合評価190点)

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🔳3   Angelo Comisso  Alessandro Turchet   Luca Colussi「NUMEN」
    (曲・演奏:95/100  録音:95/100  総合評価190点)

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🔳4   Kjetil Mulelid Trio 「who do you love most ?」
   (曲・演奏:90/100  録音:92/100  総合評価 182点)

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🔳5   Tord Gustavsen Trio 「Opening」
   (曲・演奏:90/100  録音:90/100  総合評価180点)

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🔳6   Helge Lien Trio 「Revisited」
    (曲・演奏:90/100  録音:90/100  総合評価180点)

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🔳7   Kit Downes  Petter Eldh  James Maddren 「Vermillion」
    (曲・演奏:90/100  録音:90/100  総合評価180点)

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🔳8   Giovanni Mirabassi  「Pensieri Isolati」
    (曲・演奏:90/100  録音:88/100  総合評価178点)

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🔳9  Joel Lyssarides  Niklas Fernqvist  Rasmus Svensson Blixt  「Stay Now」
    (曲・演奏:90/100  録音:88/100  総合評価178点)

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🔳10 Alessandro Galati Trio 「European Walkabout 」
    (曲・演奏:88/100  録音:90/100  総合評価178点)

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(考察)
 年末に登場したAlessandro Galati Trio 「Portrait in Black and White」が、なんと1位を飾った。2位のWorfert Brederode 「Ruins and Remains」と同点であったが、ジャズ・アルバムとしての楽しさの評価を加味してこの順とさせて頂いた。
 しかし、相変わらずAlessandro Galatiの演ずるところ、ジャズというものの奥深さと聴く人間との関係に迫ってくるところは素晴らしい。そんな意味では「European Walkabout」は、もう少し上位と今は考えているが、聴いた当初の評価がこうであったので10位に甘んじた。

 Worfert Brederode 「Ruins and Remains」は、異色であるが彼の特徴が十分生かされた企画で驚きとともに上位に評価。
 今年はTord Gustavsen の久々のトリオものの出現があって嬉しかった。ほんとは3位ぐらいかもと今となると思うのだが、Angelo Comisso 「NUMEN」Kjetil Mulelid Trio 「who do you love most ?」の実力ある素晴らしさに圧倒されてしまった。
 Helge Lien のトリオものも嬉しかったが、曲が再演奏集というところで、こんなところに落ち着いた。

 Kit Downes 「Vermillion」の品格のあるジャズには高評価を付けた。
 Giovanni Mirabashiは、相変わらずのピアニストの演ずるレベルの高さが実感できた。
 Joel Lyssarides 「Stay Now」この線の北欧世界に期待しての高評価とした。

Stefanoameriowithhorus2w  なお、録音の質もかなり良くなってきているが、その出来から見ても、エンジニアとしては、やはりStefano Amerio(ArteSuono Recording Studio /  Itary→)の活躍が抜きんでていた。私の偏りもあるが、ここに選ばれた10枚うち、なんと6枚が彼の録音によるものであったという結果に驚いている。

  ジャズ演奏の最も基本的なインスト部門では、相変わらず本場米国を凌いでの欧州一派の健闘が昨年も圧倒していた。はてさて今年はどんなところに感動があるか楽しみである。
 なお、この10アルバムは、このブログで取り上げているので詳しくはそちらを見ていただくと嬉しい限りである。

(試聴)
Alessandro Galati Trio  「Portrait in Black and White」

  

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2023年1月12日 (木)

トルド・グスタフセンTord Gustavsen ノルウェー少女合唱団 「Sitlle Grender」

純粋さ漲る少女合唱と・・・・
重量級から澄んだ透明な世界までを描くグスタフセンのピアノ

<Classic,  Jazz>

Det Norske Jentekor,Tord Gustavsen,Anne Karin Sundal-Ask
「stille grender」

2L-164-SABD, EAN13, 7041888525721, ISRC-code,NOMPP2007010-150
Release date:November 2020, Recording date:February 2020

Twl164

Det Norske Jentekor(ノルウェー少女合唱団) / Anne Karin Sundal-Ask, conductor
Tord Gustavsen, piano

Recorded at February 2020, Uranienborg Church, Norway
Disc 1 Hybrid SACD,MCH 5.1DSD,Stereo DSD , RedBook PCM: MQA CD
Disc 2 Pure Audio Blu-ray,2.0 LPCM 192/24, 5.1 DTS HDMA 192/24, 7.1.4 Auro-3D 96kHz, 7.1.4 Dolby Atmos 48kHz mShuttle: MQA + FLAC + MP3

 欧米文化において、クリスマス・ソングというのは一つの文化であって、ある一定のレベルに到達したヴォーカリストは、必ずその関係のアルバムをリリースする事が多い。一年のクリスマス行事を経て神聖な幕閉じ続く新しい年のスタートには、無くてはならない社会的宗教的文化であるからだ。従ってジャズの分野でもクリスマス・ソング・アルバムが多くお目見えするが、どうも日本文化の私にとってはしっくりしない事も多い。音楽であるからジャズも聖歌も讃美歌も同じと考えるのだろうか、いささか私には難しい問題である。

Ab6761610000e5eb04a4b4ecbf44fcf024a34671  さて今日ここに取り上げたアルバムには、そんな疑問もなく素直に聴き入ることが出来る為、このストリーミング時代を迎えて今や完璧にじっくりこの世界に入れる環境も整って、日本文化・欧米文化という事は関係なく、この新しい新年に敬虔な気持ちになれる。又更に私の好むノルウェーのトルド・グスタフセン(→)のピアノも堪能できるのであるからこの上ない。アルバム・リリースから2年以上経ったが、今にしてこの世界がHi-Res環境の良好なる音世界として身近になって、新年の一時を心新たに心安らぐ時間を持つのである。

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 アルバム・タイトルは「静かな集落(村)」と訳してよいのか、とにかくこの主役であるノルウェー少女合唱団の世界は、惚れ惚れする。上の写真のごとく、ほんとに幼い子供から小中学生ぐらい(?)で構成されていて、指導者であり指揮者であるアン・カリン・スンダル・アスクの描くところとトルド・グスタフセンのピアノに浸るのである。

(参考) 又、トルド・グスタフセンのピアノ・ソロ演奏は、別建てのアルバムとしてもリリースされている。彼の独特なる即興を交えてのトラデッショナル、フォークや聖歌などを聴かせてくれるのである。(下のDISC-2)

Twl164solo_20230111182601  <Classic,  Jazz>
 Tord Gudtavsen 「Stille Grender (solo piano)」
 Pure Audio Blu-ray, 2.0 LPCM 192/24, 5.1 DTS HDMA 192/24, 7.1.4 Auro-3D 96kHz, 7.1.4 Dolby Atmos 48kHz
 mShuttle: MQA + FLAC + MP3


(Tracklist)

DISC 1
01. Carol of the Bells  2:06
02. The Bells [solo piano] Tord Gustavsen 2:04
03. Det lyser i stille grender 2:49
04. Deilig er den himmel blå  Det Norske Jentekor,Anne Karin Sundal-Ask  3:05
05. Jul i svingen  Det Norske Jentekor,Anne Karin Sundal-Ask  2:17
06. Glade jul [Stille natt]  2:23
07. Joleklokker over jorda 3:45
08. Eg veit i himmerik ei borg  Det Norske Jentekor,Anne Karin Sundal-Ask  2:32
09. Jul, jul, strålande jul  4:03
10. Jeg er så glad hver julekveld   Det Norske Jentekor,Tord Gustavsen,Anne Karin Sundal-Ask,Janna Dons Strøm,Elida Angvik Hovdar,Agnes Onshus Grønn,Anna Elisabeth Giercksky Russnes,Amalie Eikenes Randen,Anne Magdalene Bru Rem   6:28
11. Nå tennes tusen julelys  3:31
12. Mitt hjerte alltid vanker  8:28
13. Folkefrelsar  Det Norske Jentekor,Tord Gustavsen,Anne Karin Sundal-Ask,Janna Dons Strøm,Elida Angvik Hovdar,Agnes Onshus Grønn  5:48
14. Ljoset nytt i natti rann [solo piano]  Tord Gustavsen  4:15
15. Deilig er Jorden  3:41


DISC 2
01. Ved myrke midnattstid [solo piano] Tord Gustavsen  6:04
02. Sjelenes pilgrimsgang [solo piano]  Tord Gustavsen  1:58
03. Ingen krok er mørk [solo piano]  Tord Gustavsen   2:56
04. Inkarnasjon I [solo piano]  Tord Gustavsen  2:36
05. Inkarnasjon II [solo piano] Tord Gustavsen  1:21
06. Inkarnasjon III [solo piano] Tord Gustavsen 3:14
07. Inkarnasjon IV [solo piano]  Tord Gustavsen 1:21
08. Til lave hytter [solo piano]  Tord Gustavsen  4:14
09. Klårt di krubba skina kan [solo piano] Tord Gustavsen 4:05
10. Inkarnasjon V [solo piano] Tord Gustavsen 3:14
11. Inkarnasjon VI [solo piano] Tord Gustavsen 4:28

 とにかく、幼い声まで聴きとれる合唱団が見事です。特にM5."Jul i svingen (スウィンゲンのクリスマス)"は、おそらくまだ日本でいえば小学校前の幼い少女たちの歌声のようだ。あどけなさの残ったかわいらしさと美しさだ。多くの曲は、中学生ぐらいまでの少女達だろうか、一緒に作り上げる世界が見事なのである。
 こんな世界がクリスマス聖歌・讃美歌としては貴重なんでしょうね。

2l164_recordingw  少女による合唱団は、その独自性に細心の注意を払っているといわれる指揮者であるアン・カリン・スンダル・アスク(→)が率いている。そしてそこにはピアノ演奏者グスタフセンとの密接性が旨く構築され、何とも言えない温かい音楽的関係の中で、合唱団同志自体にそして聴く我々に・・・語りかけてくれる。

 アン・カリン・スンダル・アスクAnne Karin Sundal-Ask は、2005年からノルウェー少女合唱団の芸術監督兼指揮者として働いていて、彼女はトロンハイムの音楽院とノルウェー音楽アカデミーで指揮者、フルート奏者、教師として教育を受けた。そして2017年から、彼女はノルウェー少女合唱団の全てにおける責任者となり、合唱団の指揮でいくつかの賞を受賞し、又合唱団を多くの国際コンクールでトップの地位に導いたと。更に彼女は、国際合唱コンクールの審査員も務めてきているとのこと。
 彼女は、特に質を意識し、目標志向で刺激的なリーダーであり、各団員個人が最高のパフォーマンスを発揮できるように、音楽の目標を歌手に伝える能力を備えていると説明されている。指揮者のイントネーション、サウンド、アンサンブル音楽への焦点はトレードマークになり、彼女は合唱団の音楽表現の開発に継続的に取り組んでいるようだ。

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 ピアニストのトルド・グスタフセンは、特にECMレーベルで実績がある。私は彼のピアノ・トリオにぞっこん惚れ込んでいるのだが、彼の描くところ北欧の自然からの影響と、学んだ心理学の世界とも密接に相乗的に音楽に反映され、それは日本人との感覚にも共通性があるのか支持者は多い。このアルバムでは、彼の役割は、様々なクリスマス・キャロルにイントロを付けたり、得意のジャズ風の伴奏を弾いたり、メリハリのあるアバンギャルドなリフを入れたり、あるいはかなり長いソロを披露したりと、様々な形で合唱と絡み、敬虔さと不思議さの世界を形作る。

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 最初の有名な曲M1."Carol of the Bells"では、低音の弦を使ってエレキ・ベースのようなエッジの効いた音のリフを披露して、少女達の密度の高いハーモニーに色づけする。続けてM2."The Bells"この曲のテーマを今度はソロでアレンジして聴かせるなど、単なる伴奏ピアノには終わっていない。
  又M14."Ljoset nytt i natti rann(昨日の夜、新たな光が)"のグスタフセンのソロはダイナミックで、展開も圧巻である。

 とにかく、聴きなれた曲M6."Glade jul (Stille natt)(きよしこの夜)"も含めてのクリスマスキャロル(私の知識レベルでは聖歌、讃美歌、クリスマスソングも含めている)、フォークソングなどの曲群で、ノルウェー少女合唱団とトルド・グスタフセンが見事な連携プレイを披露している。この緊密な優しくのどかで美しい歌声とピアノの透明感のある音との相互作用の中で、我々は表現を倍増させる即興演奏を介して静かな心の安らぎの世界からうっとりとした瞬間へと導かれるのだ。M12."Mitt hjerte alltid vanker (常に待ち望む心を)"M15."Deilig er jorden(この世はうるわし)"はそのさえたる出来だ。単なる聖歌でないこの世界は貴重であった。
  
 (「Disc-2」のグスタフセンのピアノ・ソロ集は、低音の響きの荘厳さから優しさ美しさに満ちたピアノの音の流れに満ちている。又次の機会に詳しく)

(評価)
□ 曲・合唱・演奏  90/100
□ 録音       90/100

(試聴)

*

 

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2022年4月24日 (日)

トルド・グスタフセン Tord Gustavsen Trio 「Opening」

瞑想性をもって繊細でリリカルな美旋律が溢れてくる

<Jazz>

Tord Gustavsen Trio「Opening」
ECM Records / Germ / ECM 2742 / 2022

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Tord Gustavsen (p, electronics)
Steinar Raknes (b, electronics)
Jarle Vespestad (ds)

Engineer : Stefano Amerio
Produced by Manfred Eicher
 

 初期からのトリオを築き上げたベーシストHarald Johnsenが2011年死亡してから、トルド・グスタフセン(ノルウェー出身)はトリオ演奏アルバムを封印していたのか、3rdアルバムから11年経っての2018年に、ようやくトリオ作品に復帰、4thアルバム『The Other Side』をリリース。そしてそれから4年経ってここにトリオ5作目の待望のアルバムが登場した。
 思い起こせば、2003年、デビュー・アルバム『Changing Places』をECMからリリースして以来、そのリリシズムあふれるヨーロッパならではの美旋律、しかもそれに留まらず哲学的な深みにも及ぶ世界が多くのピアノ・トリオ・ファンを魅了した。勿論私もそれに魅了された一人だ。

 本作では前作とは異なって、ベースはノルウェーの実力派ベーシスト、スタイナー・ラクネスが参加している。グスタフセンの洗練された微妙な味を描き繊細に試みられるコードとヴェスペスタッドのパーカッシブな音やスティックとブラシワークの間にいかにトリオとしての味を構築しいるかも興味の湧くところだ。

(Tracklist)

51ch0ohi0l_acw 1. The Circle
2. Findings / Visa fran Rattvik
3. Opening
4. The Longing
5. Shepherd Song
6. Helensburgh Tango
7. Re-Opening
8. Findings II
9. Stream
10. Ritual
11.Floytelat/The Flute
12. Varsterk,min sjel

 スウェーデンの伝統的な民謡だという「Visa från Rättvik」、Geirr Tveittの「Flutelåt」、美しい曲Egil Hovlandの「Varsterk,min sjel」を除いて、12曲はすべてグスタフセンによって書かれたオリジナル曲で構成されている。

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  オープニングM1."The Circle"では、内省を誘う瞑想的な曲だが意外に深刻にならず優美さがグスタフセンのピアノが美学を追求し、ラクネスのベースもメロディックで、かってのグスタフセンのトリオと特に逸脱することなく、ヴェスペスタッドの繊細なスティックとブラシワークとともに旨く支える側でまとめ上げて居る。
 M2."Findings / Visa fran Rattvik"は、珍しくドラムスの響きからリズム感を盛り上げ、それにピアノはおもむろにうねりをもって歌いあげる。
 テーマ曲M3."Opening"そしてM4."The Longing"は、静かな希望が描かれている。それは美そのもののようでありピアノとベースの相互の作用が生きている。
 M5."Shepherd Song"では、静かに語るようなピアノ、ヴェスペスタッドがライドシンバルとスネアで展開する、ラクネスがアルコ(おそらく)からハーモニックな演奏に移り、グスタフセンは答えるように妖艶なる表現から盛り上がる。
  M6."Helensburgh Tango" 哀愁漂うピアノと電子的に強化されたアルコベースラインのコードからは、沈鬱な世界が迫ってくる。ブラシ、シンバル音がさらにそれを助長して・・・・
  M7."Re-Opening" このアルバムの物語の再開、ベースのアルコ奏法による広がる世界。ドラムス・のシンバル音がメリハリを・・・そして後半には、ピアノの音がかってのアルバムに通ずる懐かしさを誘う。そしてM8."Findings II"の波のように押し寄せるピアノの美しさとダイナミックさが聴きどころ。
 M9."Stream" ここで再びグスタフセンのピアノが描く深淵な世界に流れるが、ベースもその音を次いで描く世界が美しい。
   M10."Ritual"儀式と訳してよいのだろうか、このアルバムでは、トリオがそれぞれが異様に盛り上がる唯一の曲。不吉な、サスペンスフルでロックに通ずる世界だ。グスタフセンは低音和音のリズム、ヴェスペスタッドはピアニストの勢いを強調するためにスネア、ハイハット、キックドラムで応戦。ラクネスのベースは電子的増幅によりエレキギターのような歪んだ音で響く。波のように押し寄せてくる様は、このアルバムの面白いアクセントの曲。
  M11."Floytelat/The Flute"優しさから広がる世界へ、M12."Floytelat/The Flute" 賛美歌の世界か、未来への希望と展開が感じられる。

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 相変わらず、グスタフセンの世界は、繊細で音空間が微妙なずれも許さずモチーフを忍耐強く発展させてゆく様は見事。リリカルにして抒情的な世界が時に瞑想性も描きつつ展開する。どこか精神性の追求感が感じられるのは、オスロ大学での心理学や宗教学を学んだ世界感であろうか。
 このアルバムでも相変わらず彼のピアノのタッチそしてメロディーの流れは美しく迫ってくる。今回はベーシストの交代があったが、ヴェスペスタッドの手慣れたドラムスとの関係も含めて、自らの特徴も見せながらグスタフセンの世界を十二分に描いてくれた。

 又、エンジニアのステファノ・アメリオは、グスタフセンのピアノの弱音をも生かすためか、ドラムスを後方に置き、広く広がる響きを持たせる手法を取って立体性を考えた世界を構築して、曲のイメージを高めたミックス・マスターリングを行っている。こうした曲の描くところの世界を考えての録音が聴けるのも素晴らしい。そんなところは、今や、CDから聴かれる音楽は、ミュージシャンとエンジニアの総合芸術の色が益々濃いですね。

(評価)
□ 曲・演奏  90/100
□ 録音    90/100
(視聴)

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2018年9月 3日 (月)

久々のトリオで・・・トルド・グスタフセンTord GustavsenTrio「The Other Side」

グスタフセンのピアノが待望のトリオで・・・・・

<Jazz>
Tord GustavsenTrio 「The Other Side」
ECM / Germany / 2608 6751618 / 2018

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Tord Gustavsen (piano, electronics)
Sigurd Hole (double bass)
Jarle Vespestad (drums)

Recorded January 2018, at Rainbow Studio, Oslo
Produced by Manfred Eicher

 久々のノルウェーのトルド・グスタフセンTord Gustavsen のピアノ作品がトリオでリリース。2007年の『Being There』 (ECM/2017 B0008757-02)以来となりますね。近年は彼のレパートリーの拡大と新分野への挑戦などで、カルテットやアンサンブルといったところがお目見えしてきたわけだが、私にとっては待望のピアノ・トリオ作品で、これは今年の一月の録音だ。

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 トリオのメンバーは、ベーシストが、Harald JohnsenからSigurd Holeに変わっている。ドラムスはもう長年のお付き合いで変更無しのJarle Vespestad だ。ノルウェー出身の三者によるトリオで、グスタフセンの緩徐で深く沈み込むピアノの流れは変わらずに、心に染み込む静かなメロディーによるトリオの世界を構築している。
 録音もピアノに対してベース、ドラムスも生きていて、なかなかトリオ・バランスを重視した好録音である。

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1. The Tunnel
2. Kirken, den er et gammelt hus
3. Re-Melt
4. Duality
5. Ingen veinner frem til den evige ro
6. Taste and See
7. Schlafes Bruder *
8. Jesu, meine Freude * Jesus, des eneste
9. The Other Side
10. O Traurigkeit *
11. Left Over Lullaby No.4
12. Curves

  今回はトルド・グスタフセン自身の曲が主だが、J.S.Bachが取りあげられている(上記*印の3曲)。
 オープニングM1. "The Tunnel" から、グスタフセン世界が迫ってくる。何度聴いてもドップリと浸れるグスタフセン世界は、やはり深遠であり哲学的でも有り、人間心理の究極の姿を描くが如くで、このアルバムも全編を通して真摯な気持ちで聴くことが出来る。
  M4. "Duality" M5.、 "Ingen veinner frem til den evige ro"に来るともう自他共に許すグスタフセン世界だ。
 アルバム・タイトル曲である彼の曲M9."The Other Side "は、珍しく”彼独特の静寂の中に流れる美しさと深遠さ”というタイプでなく、静かに物語り調に淡々と描いてどこか明るさも感じられる。この"Other Side"の意味はそんなところにあるのだろうか。
 これに続いてM10. "O Traurigkeit"は、やや対比的にJ.S.Bachのメディーをオリジナルの世界とは全く異なる完全なグフタフセン世界に沈み込ませるが、中盤から後半にかけてはトリオで盛り上がる珍しいタイプ。これも彼の今回の一つの試みの曲とみる。
 そしてM11. "Left Over Lullaby No.4"は、彼のファン・サービスの演奏。完全に本来の静寂と沈静の世界ですね。

 いっや~~、やはりトルド・グスタフセンはいいですね。完璧と言ってしまいたいアルバムだ。ピアノの弾くメロディの深遠さ、そして緩急、強弱、余韻の生かし方もハイレベル。何時もニュー・アルバムを待っているのだが、期待を裏切らない。北欧の世界感なのであろうか、又彼の学んだ心理学が生きているのか、この世界はしっかりと守りつつ、今後にも発展していって欲しいものである。

(評価)
□演奏:★★★★★
□録音:★★★★★☆

(私のイメージPHOTO=「夏の記憶に2018」)

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2018.9.3撮影(志賀高原)  Sony α7Ⅲ ILCE-7M3,  FE 4/21-105 G OSS, PL

(視聴)

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2016年2月13日 (土)

トルド・グスタフセンTord Gustavsen 変則トリオの最新作品「What was said」

スーフィズムとキリスト教の出逢いなのか
~今作はジャズ・ファン万人向けでないことは事実、しかしグスタフセン・ファンは必聴盤

<Jazz  Traditional>
    Tord Gustavsen, Simin Tander, Jarle Vespestad
             「What was said」
       ECM Records /  Jermany / ECM 2465 4758697 / 2016

Whatwassaid
Tord Gustavsen ( piano, electronics,synth bass) Simin Tander (voice) Jarle Vespestad (drums)
Recorded April 13-15, 2015 at Rainbow Studio, Oslo

(Tracklist)
1. Your Grief *
2. I See You
3. Imagine The Fog Disappearing
4. A Castle In Heaven
5. Journey Of Life
6. I Refuse *
7. What Was Said To the Rose * - O Sacred Head
8. The Way You Play My Heart *
9. Rull *
10. The Source Of Now *
11. Sweet Melting
12. Longing To Praise Thee
13. Sweet Melting Afterglow *
           (*印 Music : Tord Gustavsen)

A_2 期待のノルウェーのジャズ・ピアニストであるトルド・グスタフセンTord Gustavsenのニュー・アルバム。今作もECM盤だ。ノルウェーのトラッド音楽を、彼の世界で描いた作品と言われているが、上のリストにも記したように、彼の曲が半分以上を占めている。しかしその他の曲は主としてノルウェーのトラッド(賛美歌)が中心だが、彼が子供の頃から歌ってきたものだという。

 変則トリオと言ってはみたが、それはまさにその通りで、ドイツで活躍している女性ヴォーカリストのアフガンでありジャーマンのシミン・タンデルSimin Tander が見事に歌い上げるが、これはヴォーカル・アルバムではない。ヤーレ・ヴェスペスタJarle Vespestad のドラムスと、彼女のヴォーカルとそしてグスタフセンのピアノが演ずるトリオ演奏といってよいものだ。

B しかし、ここで歌われる言語はパシュトー語と英語、このパシュトー語というのは、アフガニスタンやパキスタンの主要言語でペルシャ語と同じ系列らしい。ヴォーカルのシミンとの関係か?、ペルシャという異国文化への神秘性への一つの演出か?ノルウェーの言葉をパシュトー語で歌うのである。アフガン詩人の力を借りての作業であったようだが、これが又一種独特の世界を構築するに貢献していて、いやはや異国情緒とその神秘性とはたまた現実から超越した世界を描くのである。
 それには彼女の技量と個性の声の質(ややハスキーで高音になるにつれ澄んでくる)がそれを更に盛り上げているのだが、これには彼女はグスタフセンの招請によったものであったのだろうか。

 もともと心理学を学んだグスタフセンらしく、そのピアノ演奏も今までのものに輪をかけて深層心理の探求の道に誘いこむ。全編そんな曲の出来なのである。

C グスタフセン自身に言わせると「スーフィズムとキリスト教が実際に出会ったような境地にまで達した」とのことだ。スーフィズムとはイスラーム教の神秘主義哲学の事だが、このあたりは日本人の宗教感覚ではなかなか理解も難しい。聴いていてなんとなくそうゆう世界なのかと、あらためて知るのである。
 これをジャズと言って良いのか?・・・でもジャズなんでしょうね。往年のトリオ・メンバーのヴェスペスタは心得たもので、グスタフセンのピアノ、シミンのヴォーカルを手玉に取ったようにドラムスを曲の深まりにひっぱり込むが如く叩くのである。

 しかしこのアルバムは、私の待ちに待った期待のグスタフセンの新作とは異なったものであった。それはそろそろ本来のピアノ・ベース・ドラムスのトリオ作品を望んでいたのであったが、まだまだ彼の挑戦的探究心は続いているようだ。しかしこの異色トリオ作品は、意外中の意外であったにしては、お見事な作品で、心が洗われるが如く聴き入ってしまうのである。

 しかしこれはジャズ・ファン万人向きでは無い。しかしグスタフセンのファンなら多分持っていたい一枚になるであろうことは想像に難くない。
 おそらく、Manfred Eicher自身も会心作と思っているに相違ない。

(参考)スーフィズム Sufism
 イスラーム教の広がりとともに生まれた神との一体感を求める民衆的な信仰。
 イスラーム教の拡張とともに8世紀の中頃にはじまり、9世紀に流行した、踊りや神への賛美を唱えることで神との一体感を求める信仰形態および思想を神秘主義またはスーフィズムという。スーフィズムは、修行者が贖罪と懺悔の徴として羊毛の粗衣(スーフ)を身にまとって禁欲と苦行の中に生きていたスーフィーから来た言葉であると考えられている。その思想は、自我の意識を脱却して神と一体となることを説き、形式的なイスラーム法の遵守を主張するウラマーの律法主義を批判することとなり、より感覚的で分かりやすいその教えは都市の職人層や農民にも受け容れられていった。(「世界史の窓」より)

(視聴) 「What was said」

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2015年7月 3日 (金)

トルド・グスタフセンTord Gustavsenから到達したアルバム :スールヴァイグ・シュレッタイェルSolveig Slettahjell「ARVEN」

トルド・グスタフセンからノルウェーの歌姫スールヴァイグの世界へ

 我が愛するノルウェーのピアニスト:トルド・グスタフセンTord Gustavsenのニュー・アルバムはまだ半年前のリリースされたところで、次作はまだまだかなり先の話になりそうだから、何か面白いものはないかと漁っていて到達したアルバム。

<Jazz, Folk, World, & Country>

  Solveig Slettahjell「ARVEN」
   
Universal Music (SoSlo Productions) / Norway
   /  602537545735 / 2013

Arven_2 これはスールヴァイグ・シュレッタイェルのヴォーカル・アルバム。彼女はノルウェーの知る人ぞ知る歌姫だが、その世界はジャズにして異色、聴きようによってはトラッドの雰囲気を持ったフォークっぽいという味付けのジャズだ。彼女は首都オスロにあるノルウェー国立音楽学院を卒業している。2001年のデビューで当時は30歳ということであったので、この作品は40歳を過ぎてのものとなる。

 私の手元には、彼女のアルバムはこの『ARVEN』の他には、後で取り上げるが、2004年のリリ-スの『Silver』(2004)という何となく気になるアルバムがあって現在に至っている。ノールウェーの土地から生まれたスケールを感ずる女性ヴォーカル・ジャズ・アルバムである。
 又彼女について初めて知ったのは、寺島靖国の『Jazz Bar 2003』に登場してのことであった。
(参照)http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2014/03/rolleiflex-9124.html

Solvig_tord ところが、トルド・グスタセンが彼女のヴォーカル・アルバムのバックで、ピアノのでのデュオに近いところを演じているこのアルバムがあることを知って、さっそく聴いてみたと言った次第。

 さてその内容だが、これはジャズというよりはクラシック、トラッドと言った方が良いのか、実に深遠にして心安まる世界。グスタフセンのピアノも彼らしい哲学的な深遠な雰囲気を演奏してくれるが、なんと言ってもヴォーカルを引き立てるための演奏に徹していて、彼のピアノの世界とスールヴァイグのヴォーカルとの協調として聴く方が良い。
 トラックリストは13曲、うちトルド・グスタフセンは8曲に登場。特にここでは曲名は紹介を省略すが、それはとにかくノルウェー語と思われ全く解らない為。歌詞も理解不能。そしてこのアルバムは私の想像するところではトラッドの世界と宗教曲の世界なんだろうと思うのだが・・・・。
     (視聴)

                    
                     *     *    *    *    *

 さてそこでせっかくスールヴァイグ・シュレッタイェルの話になったので、ここで私の持つ彼女のジャズ・ヴォーカル・アルバムで、こちらは夜にじっくりと聴けば聴くほど味の出てくる一枚を紹介する。(↓)

<Jazz, Folk>

    Solveig Slettahjell「SILVER」
     BOMBA RECORDS / BOM 1531 / 2004

Silver こちらは『ARVEN』のような特異なアルバムではない。しかし彼女の個性がたっぷりのヴォーカル・アルバムといったところ。
 オープニングの曲”Take it with me”はTom Waitsの曲だが、まさしく原曲から一変して説得力がある彼女のヴォーカルで迫ってくる。ゆったりと、そして低音がややハスキーでヴォリュームのある歌声、そして何と言ってもじっくりと聴かせるスタイルはピカイチ。
  Solveig Slettahjell : Vocal
    Mats Eilertsen : bass
    Sjur Miljeteig : trumpet
    Morten Qvenild : piano
    Per Oddvar Johansen : drums


 このアルバムは主としてカヴァー曲(下のTracklist参照:クリック拡大)で占められているが、特異な彼女のヴォーカルをピアノ・トリオ+トランペットのカルテットで支えるわけだが、なかなか編曲に味のあるジャズを聴かせてくれて楽しめる。このユニットを”Slow Motion Quintet”と名付けているだけあって、ジャズの一形を成すべく試みているともとれる。
Silverlist2
 さて、このアルバムの収録曲は上の通りであるが、彼女のオリジナル曲”D.Parker's Wisdom”も登場する。この曲はアルバム全体に流れる静かにしてどちらかというと暗い中に温もりを感じさせるヴォーカルによって作られるムードから一変して、スリリングなコンテンポラリー・ジャズを展開し、このアルバムの一つのアクセントとなっている。

 しかしこうしたアルバムを聴くと、アメリカン・ジャズの明るさとは全く違った北欧の凍てつく大地から人間らしい世界を築いている民族の暖かさを演ずるジャズを知らしめられる。不思議にHenry Manciniの”Moon river”まで別物になってしまうのだ。北欧ジャズを愛するものにとっては一聴の価値がある。

(視聴)

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2014年2月 8日 (土)

トルド・グスタフセンの新作 Tord Gustavsen Quartet : 「Extended Circle」

前作のカルテットの延長線にあるアルバム~静寂にして深遠、そして思索的世界に

<Jazz> Tord Gustavsen Quartet 「Extended Circle」
       ECM Records  ECM2358 / 2014
              Recorded june 2013, Rainbow Studio , Oslo

Extendedcircle

 私の期待のノルウェーのジャズ・ピアニストのトルド・グスタフセンの新作の登場である(このジャケもいいですね)。前作は2012年の「The Well」(参照 http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/tord-gustavsen-.html)であったが、かってピアノ・トリオ作品からスタートした彼だが、これはテナー・サックスを加えたカルテットであった。そして更にその前の「Restored,Returned」は(参照 http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/tord-gustavse-1.html)は、Tord Gustavsen Ensembleと称して、カルテットにヴォーカルまでいれて見せていたので、今回のこの新作はどんな編成のパターンかと実は興味があったんです。そしてこうして手にしてみると、あのカルテットの続編であった。・・・・と、言うことはあのEnsemble以来のメンバーで(ヴォーカルは抜きとなったが)、継続されているということになる。

 メンバー及び収録曲は下記のとおり。

Extendedcirclelist_2

 double Bass は、「Ensemble」以来のMats Eilertsenとなっていて、3作続いたトリオ時代とは変わって現在は彼に固定したようだ。drums は、最初のトリオ以来変わらずのJarle Vespestadである。

 さてこのアルバムはと言うと、スタートの”right there”は静かにそして抒情的なピアノ、ゆったりとしたドラムス。そしてそれに続いてベースが乗ってくる。ああこれはトルド・グスタフセンだとすぐに解る郷愁を感じさせる世界に引っ張り込まれる。2曲目”Eg Veit I Himmerik Ei Borg”は、珍しくテンポが上がりこのアルバムの発展的な展開に入り、しばらくしてサックスが合流する。Noregian traditionalと記されているので、この国で愛されている曲なのであろう。

Members2  このアルバムでは、このカルテッット4人による共作は”Entrance”というインプロヴィゼイションと思われる曲のみで、3曲目と7曲目に登場し、ちょっと異様なフルートっぽい音のサックスがメロディーを流しているが、これが又異国的ムードを持ちながら、深遠にして瞑想的なグスタフセンの曲にマッチングした曲で驚かされる。
 ”Bass Transition”というEilertsenの短いベース・ソロが10曲目に入るが、その他8曲は全てグスタフセンの曲が続くのである。
 とにかく全編メロディーが抒情的で美しく、そして静寂の極致を演ずるピアノの調べとその思索的世界にひたりながら流されていると、いつの間にか終わりに到達する。 
Tord3  そう言えばグスタフセンは心理学を学んできたという哲学的世界があり、それに我々誘導されているのだろうか?。それにしてもこうした作品は一人で静かな部屋で聴くことが最低条件のように感ずる。

 そしてこのアルバムは完全に前作「The Well」の続編と言っていい。とにかく流れるムードは一貫している。”静謐(せいひつ)にしてストイシズム(克己主義)”という表現がされているが、まさにその通り。この世界にぞっこん惚れ込んでいる私のような人間にとっては、又々愛すべき貴重なアルバムが一枚増えたことになるのである。

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2012年8月13日 (月)

トルド・グスタフセンのピアノで聴く女性ヴォーカル・アルバム(2):セリア「nightwatch」

ノルウェーのセリア(シリエ・ネガード)Silje Nergaardは、日本での北欧ブームの先駆け

SILJE NERGAARD 「nightwatch」 
Universal Music  0602498656488 ,  2003

Nightwatch_3

 ノルウェーのトルド・グスタフセンのピアノ・ブレイに惚れ込んでいる私ですが、彼はそれなりに唄もののバックもこなしているようだ。
 このアルバムは90年前半から日本でも知る人ぞ知るノルウェーの女性ジャズ・シンガー・セリアSilje Nergaard の2003年のアルバム。彼女も歴史的には1989年にあのギタリストのパット・メセニーの力を得てロンドンでデビューして好評を得ている。曲調は、ジャズといってもポップ色もかなり濃く、そして声の質はやや細身であって、パワーのあるタイプでなく、なんとなくあどけない感じのするところもある。そんなところが持ち味で日本では結構1990年代にお馴染みにもなっていた。しかし私自身は当時はそれほど興味を持っていたわけではなかった。
 このように経歴をみると既にベテランのシンガー・ソングライターといっていい。その他、芸術に広く才能を発揮しているようで、彫刻、絵画などの活動もあるという。
 

Siljenergaard1  さて、このアルバムのメンバーは下記の通り・・・・

 Silje Nergaard : vocals
  Tord Gustavsen : piano + fender rhodes
  Harald johnsen : acoustic bass
  jarie vespestad : drums

  
    ・・・このメンバーに加えて曲によってストリングスが加わったり、ギター、トランペット、フリューゲルホーン、サックスがバックを支えている。
 そうは言っても、私にとってはトルド・グスタフセンのピアノを聴きながらというのが嬉しいところ。そんなところから手にしたアルバムでもある。

Nightwatchlist  収録全12曲中11曲が彼女のオリジナル曲。シンガー・ソングライターの面目躍如と言ったところ。
 ”this is not america”のみパット・メセニーとデヴィット・ボウイによる曲だが、何故この1曲のみが加わったのか?と言うところは解らないが、このアルバムの中では一つのポイントとなる出来の良い曲だ。
 Jazzyな曲で、トルド・グスタフセンのピアノが中盤や、後半にソロに近い演奏が聴かれる曲”how am i supposed to see the stars”、”in a sentence”などがなかなか良いし、”unbreakable  heart”もピアノの味と彼女のヴォーカルの聴かせどころの曲だ。その他”dance me love”などのピアノとトランペットをバックにしてのバラード調の曲もいい線をいっている。
 しかし全体のアルバムの印象としては、英語で国際的なところを狙っているとは思うが、ジャズ特有の演奏やヴォーカルの面に於いて、妖しげでスリリングなところがあまりないというところで、私好みからは若干物足りなさも感ずるアルバムでもあった。

(参考)トルド・グスタフセンhttp://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2012/04/tord-gustavsen-.html

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2012年8月10日 (金)

トルド・グスタフセンのピアノで聴く女性ヴォーカル・アルバム(1): アンナ・マリア・ヨペク 「id」

国際色豊かで妖艶なアンナ・マリア・ヨペク(ポーランド)

Anna Maria Jopek 「id」
AMJ MUSIC   0602517558366  ,  2008

Id
 ポーランドのシンガー・ソングライターのアンナ・マリア・ヨペクに関しては、パット・メセニーのギターをバックにしての名盤「Upojejie」(2002年)、そして日本の小曽根真のピアノにより作り上げた傑作アルバム「HAIKU俳句」(2011年)をここで取り上げてきたが、このアルバムは2008年のやはり国際色豊かな彼女の姿勢を十分感じさせる一枚。なんとあの私のお気に入りのジャズ・ピアニスト(ノルウェー)のトルド・グスタフセンが3曲彼女のヴォーカルのバックにピアノ・プレイを披露している。又彼女の国ポーランドのレシェック・モジジェルLeszek Możdżerのピアノも3曲に登場と豪華。
 そしてなんとトルド・グスタフセンのピアノが聴ける3曲がこのアルバムでも私好みの哀愁感があって出色の出来であり、レシェック・モジジェルも相変わらずクリアなピアノ打鍵音が響いて快感。

Idlist_2 この11曲の洗練された彼女のヴォーカルと、バックの演奏の充実度が凄い。オーケストラの他13名のミュージシャンの名が連なっている。特に下記のメンバーが気になるところ・・・・・・

 最も私が気になるノルウェーのTord Gustavsen (piano)、ポーランドのLeszek Możdżer(piano)、そしてアメリカのジャズ・サクソフォン奏者のBranford Marsalis ( soprano saxophone)、更にフランスのドラマーManu Katche (drums)、ブラジルのOscar Castro Nervis (guitar , vocals)、そして彼女のアルバム・プロデュサーの Marcin Kydryński ( guitar) などである。

Anna_maria_jopek4 このアルバムでは、彼女の妖艶さの面が充ち満ちている。そしてポーランドから発する国際的音楽探究の道であることは、それ以降のアルバムを見てもうなずけるところである。ヴォーカルの質もレベル・アップした彼女を聴くことが出来る。
 そして私の注目点であるトルド・グスタフセンは、3曲のみの登場であるが、まさに彼であることがすぐに解る美しいジャズ・ピアノを聴かせてくれる(曲3.9.11)。

 実に充実したアルバムだ。もっともっと日本でも注目されて良かったアルバムのように思う。
 
(参照)
1.アンナ・マリア・ヨペクhttp://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/anna-maria-jope.html
2.トルド・グスタフセンhttp://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2012/04/tord-gustavsen-.html

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2012年5月16日 (水)

意外性で登場したアルバム:トルド・グスタフセンTord Gustavsen Ensemble 「Restored,Returned」

成功作か失敗作か~私は戸惑いで迎えたアルバムだった

Tord Gustavsen Ensemble 「Restored,Returned」
ECM Records  ECM 2107 B0013911-02,  2009
Recorded January 2009  Rainbow Studio,Oslo

Ensemble

 ノルウェーのジャズ・ピアニストのトルド・グスタフセンに焦点を当てて、私のお気に入りを紹介してきたが、既に4枚のアルバムを取り上げたので、ここまできたらこれも紹介して取りあえずの締めくくりをしておこうと言うところである。

 とにかく、彼のピアノ・トリオの詩情豊かな作品は他に類をみない。そんな流れで、2009年に突然出てきたアンサンブルと銘打ったこのアルバムは驚きでもあり戸惑いでもあった。ピアノ・トリオ(bassが変わったが)にサックスが加わった上に、女性ヴォーカルも加わったのであるからいささか別世界の感覚に陥ったのだっだ。

Ensemblemembers *

Tore Brunborg : saxophones
Kristin Asbjornsen : vocals
Tord Gustavsen : piano
Mats Eilertsen : double-bass
Jarle Vespestad : drums

Ensemblelist  左のような全11曲。このアルバムを初めて聴いた時に、スタートの”the child within”の曲から、旋律を静かではあるがソプラノ・サックスが奏で始め驚かされた。
 2曲目”way in”は、いつものピアノ・トリオのパターンで流れる。これも素晴らしい間の取り方で、ピアノの語りの間に、シンバルの音、ベースの音が物語りをするがごとく響き渡る。うーん、このパターンはトルド・グスタフセンだと聴き入ってしまったのだが・・・。
 なんと3曲目”lay your sleeping head,my love”に入るなり、女性ヴォーカルが入ってくる。それも中低音のやや絞るようなハスキーな歌声で、それでも高音部はすんなり伸びるタイプ。これがアンサンブルの実験開始か?、後の5.7.8.11と彼女のヴォーカルが登場する。
 アルバム・タイトル曲”restored,returned”は、まさに異様な世界に導く。彼女のハスキーな声が、なおそれを助長する。又グスタフセンの過去の3枚のトリオ・アルバムにみる哀愁・郷愁が、ここでは暗く闇に入るがごとくに聴こえてくる。彼女の絞り声は、グスタフセンの曲のネガティブの面を前面に出すがごとき役割を果たす。
 ”left over lullaby no.1-3”は、彼女のヴォーカルがアンサンブル(合奏曲)の楽器のごとく位置を占めて曲を構成する。これも一つの試みであったのであろう。しかしそこまでしなければならなかったよってくるところに疑問もある。
 しかし全曲グスタフセンによるものだけあって、アルバムとしてのトータルな哀愁と陰影・憂鬱の表現はバランス取れて出来上がっている。
 10曲目の”your crooked heart”はトリオ演奏での歪みの美しさと行ったところか。やはりこのパターンになるとピアノが美しい。10曲目”the gaze”が、ヴォーカル抜きのカルテットの形を作り上げている。

 このアルバムは初めて聴いたときには、過去のトリオとの発展形なのか亜型なのか、受け入れる私にとっては戸惑いでもあった。現在に於いては、この後のアルバム「The Well」がこのメンバーによるヴォーカル抜きのカルテットによって作られており(参照:2012.5.1”トルド・グスタフセンのカルテット・アルバム「the Well」” http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/tord-gustavsen-.html )、ほっとして聴く事が出来たことを付け加えておく。

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