ホリー・コール Holly Cole 「DARK MOON」
懐かしき歌に、優しさに溢れた世界が展開する
<Jazz>
Holly Cole 「DARK MOON」
Universal music / Import / 0246557815 / 2025
Holly Cole:Vocals, Producer
Aaron Davis :Piano
George Koller :Bass
David DiRenzo :Drums
Howard Levy: Harmonica
Johnny Johnson : Saxophone
Kevin Rreit : Guitar
Michael Davidson : Vibraphone,Marimba
Engineer: Jeff Wolpert
カナダ出身の歌姫、ホリー・コール(Holly Cole、1963年11月25日 - )の日本では久々の7年ぶりとなるニュー・アルバム の登場である。改めてみると、これは彼女の13枚目のスタジオ・アルバムで、年齢も60歳を越えているわけで、もうベテランそのものだと感慨深い処でもある。従って長年彼女のライヴ・パフォーマンスを支えてきたパートナー達も多い中でそれに加えて、新たなミュージシャン勢の力も取り入れての、相変わらず彼女独自のスタイルをもってして作り上げた作品だ。
この新作について、ホリーは次のように語っている「このアルバムには、即興の精神を取り入れたいという強い思いがありました。また、それと同時に、私の音楽のサウンドの本質は、アレンジにあると考えています。今回は事前のリハーサルを殆ど行わずにスタジオに入ったため、スタジオにいる間、どの曲も私達にとっては途轍もなく新鮮に感じられました。私が一緒に演奏するミュージシャン達は皆、曲のアレンジに大いに貢献してくれています。それぞれ一人一人に光が当たる瞬間の音を聞きたいと私は思い、皆で演奏しながらアレンジの大部分がまとまっていきました。このアルバムが完成した時に聞こえてくるのは、その曲のどこが好きなのかを私達が発見する瞬間であり、それこそが私にとって本質的な部分なのです」と、確かに彼女自身にとっても久々のアルバム造りで、それだけ思い入れもありそうだ。まあ我々も還暦祝いのつもりで聴くのも良いかもしれない。
なお日本盤は、2021年のライヴ・アルバム『モントリオール(Live)』(→)(2019年モントリオール国際ジャズ・フェスティバル40周年記念で、デヴィッド・ピッチ(B)とアーロン・デイヴィス(P)と共に、オリジナル・メンバーでホリー・コール・トリオを再結成しモントリオールにあるキャバレー〈ライオン・ドール〉で行なった特別なコンサートを収録)に、2011年のグレン・グールド・スタジオで収録されたジョニー・ナッシュのヒット曲"I can see crearly now"と、1995年のモントリオール公演で録音されたお馴染み"Calling you"の2曲のライヴ音源を追加したスペシャル・ボーナス・ライヴ・ディスクをカップリングしたCD2枚組のデラックス・エディションとして発売されている。
(Tracklist)
1 Steppin' Out with My Baby
2 Where Flamingoes Fly
3 Moon River
4 No Moon at All
5 Message to Michael
6 The Exciting Life
7 Dark Moon
8 Comin' Back to Me
9 Kiss Me Quick
10 Walk Away Renee
11 Johnny Guitar
ホリー・コールは、カナダの名誉あるジュノー賞(カナダ版のグラミー賞に相当)を2度受賞し、同じく2度受賞したジェミニ賞(カナダ映画テレビ・アカデミーが主催する賞)、また、日本ゴールド・ディスク大賞も2度受賞した他、モントリオール・ジャズ・フェスティバルからは名誉あるエラ・フィッツジェラルド賞も授与され、また2014年には、クイーンズ大学から名誉博士号を授与されている。そんな経歴を感じつつ、このアルバムを半分お祝い気分で聴くのも楽しいところだ。
このアルバムはセルフプロデュースアルバムで、制作と演奏を支援するために集めたバンドには、長年の仲間のアーロン・デイヴィス(ピアノ 下左)、ジョージ・コラー(ベース 下中央)、ダビデ・ディレンゾ(ドラム 下右)や、ジョン・ジョンソン(サックス)が加わっている。それに加えて、ギターのケヴィン・ブライト、グラミー賞を2度受賞しているハーモニカのハワード・レヴィ、そしてグッド・ラブリーズの素晴らしいハーモニーなど、これがなかなか味のあるところが聴き取れる。彼らは、彼女の期待する「アンサンブル演奏」を見事に演じている。
オープニングM1." Steppin' Out with My Baby"は、トニー・ベネットが歌っていた曲、低音の貫禄のヴォイスで、リズミカルにお洒落にスタート、おお来たなっという処だ。
M2." Where Flamingoes Fly"ギル・エヴァンスの曲。ピアノと歌がなんとなくアメリカのよき時代ムードが気持ちいい。
M3." Moon River" どう捻るかと思ったら、優しいピアノと歌にアレンジの工夫が入るが、意外に素直に力まず正面から取り込んでいて、かえって不思議。
M4." No Moon at All"ハーモニカと彼女の歌の競演が新鮮。
M5." Message to Michael" ギター・サウンドと優しさのヴォーカルで歌い上げたところが光る。
M6." The Exciting Life" サックスと彼女の歌が、ぐっと夜のムードに聴こえてくる。ホリーの味だ。
M7." Dark Moon" 注目のタイトル曲だが、女性コーラスがバックに入って、ギターと共に、これも優しさあふれた歌。
M8. "Comin' Back to Me" '60年代のジェファーソン・エアプレインによるフォークソング。
M9. "Kiss Me Quick" プレスリーの時代を思い出す。
M10. "Walk Away Renee"古いロックで、哀しく優しく・・・。
M11." Johnny Guitar" ビクター・ヤングでしたね、優しさと情感溢れた歌のジャニー・ギターに満足。中盤のギター・ソロもイメージを生かしたアレンジとインプロ・メロディーがいい。
いっやーーなかなかゃ60年代頃のミュージカルやロック、そしてカントリー分野のアメリカン・ミュージックの味のある処を、スモーキーな歌声で優しく美しく歌い上げていてくれて、今回は彼女の特異性はどう迫ってくるかと、恐る恐る聴いたのだが、まったく違った予想外のアルバムでむしろ驚いた。アルバム・タイトルが「Dark Moon」だが、決して暗くなく優しさに溢れた世界が築かれていて、彼女のアルバムとしては、これはある意味最右翼に置かれそうだ。
(評価)
□ 編曲・演奏・歌 : 90/100
□ 録音 : 87/100
(試聴)
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