中西繁傑作作品「雨の舗道」
[My Photo Album (瞬光残像)] Spring/2018
[絵画の話題] 中西繁作品
縦位置構図と横位置構図の意味するところは・・・・
中西繁画伯の数多い傑作の中の一枚と私は思っている「雨の舗道」(F130号大作)という作品がある。これは画伯が2004年から2年間フランスへ留学した(モンマルトルの100年以上前にゴッホの住んだ部屋にアトリエを構えた)時に、その構想と作製に関係した作品と推測しているが、2007年の日展に出品されたものだ。
サクレクール大聖堂のあるモンマルトルの丘、その北側の周回する並木道コーランクール通りの一枚だ。
□ 雨の舗道 (F130号) 2007年作品
この作品は130号という大作ですが、夕方であろうか、雨の降る葉も落ちた季節のコーランクール通りの舗道を一人の婦人が笠をさして歩いて行く。着ているコートからもう寒い季節を迎えての冷たい雨だろう。手には赤い袋を提げている(これが又一つのポイントになってますね)。私は個人的な勝手な決めつけで、これは決して若い婦人ではないと思っている。まだ明るさの残った空が濡れた舗道に反射し、そこに移る婦人の影は華々しいフランスの通りにしては、後ろ姿であるだけに何故か陰影のある哀感を感ずるところだ。左の人間謳歌の時代を反映する若者のビキニ姿の看板。これとの対比が更にその印象を強めていると思っている。
私はこの葉の落ちた木の枝によって描かれるパリ風景が好きであって、この作品のように周りの建物などが更に味わい深く感じられる。路面の車のライトの反射など気分を盛り上げている。又、雨に濡れたベンチ、舗道には孤独な鳩が一羽歩んでいるのも印象的。心に感じさせる叙情詩的な素晴らしい作品である。
とにかく中西繁先生のフランス・パリに纏わる一連の作品は、このように素晴らしいのであるが、ここに「雨の舗道」を取りあげたのには、ちょっと理由がある。
次の作品を見て欲しい。
□ 雨の舗道 (3.5m× 2.5m 大作) 2018年作品
さてこの上の作品は、中西繁画伯による今年製作されいるなんと3.5メートル(6.5X2.5mと記されていたがおそらく 3.5x2.5mだと思いますが)を越える大作のようでである。それは、先日先生のブログ(「中西繁アート・トーク」)でほぼ完成したと書かれていたのを見ただけであるので確実のところは言えないのですが・・・。
今作はなんと横位置の大作であった。少しづつ2007年作と比べると描いたところに異なる場所もある。まず気になるのは婦人の正面奥の街路樹が大きく描かれていること、左のベンチが無くなっていること、この舗道の車道寄りの街路樹の幹の形が異なっていること、画面が縦構図から横になり左右に広くなったため、車道にはむこうに向かう車が描かれた。広い舗道もやや昇り坂に見えたモノが、横に広く構図をとって、やや平らになった。そしてこれは意味があるのかどうか、婦人の持っているバッグもしくは下げ袋の赤がやや派手さが押さえられた。やはり舗道の手前には孤独な鳩がいる。
※
そこで私が最も問題としたいのは、縦位置から横位置に変わった構図である。これはおそらく3メートル以上の大きさの大作であるから、縦も2.5mあって、物理的に横にせざるを得なかったのかも知れないが・・・・・?。
・・・・と、思いつつも実は私は縦位置が好きであるため、ここに少々その変化を書きたかったのである。もともと人間がこうして見たときには、横位置の方が安定感があると言われている。しかしこの2007年の原作品の方は、縦位置の構図であって、それが又私は好きなのである。更に、縦構図では画面半分から下は舗道を描いているのであるが、これを広く取った意味は大いにあると思っているからである。その遠近感がたまらないのです。
まあ昔から右のような黄金図形(長方形)(縦横比1:1.618=この黄金長方形から右の図のように、最大の正方形を除くと、残った長方形がまた黄金長方形の比率になり、そこからまた最大の正方形を除くと、永遠に相似な図形ができていく)と言うのがあって、最も人間が安定して見れる構図はこの横位置長方形なんですね。そしてどのような比でも横位置が安定感がある(この絵画は1:1.4か?)。
しかし私は縦位置の不安定感に実は凄く惹かれるのです。まあこれは私個人の感覚ですからどうしようも無いのですが・・・・。しかしこの絵はやや暗さも一味あって、ならばこそ安定感にない縦位置であって欲しかったと思うのは偽らざる気持ちなのでした(しかし大きさから無理な話と思いますが・・・)。・・・しかし見方によっては、この大きさですから前に立った鑑賞者にとっては、この横位置の中に入っての臨場感は凄いと思います(「赤レンガ倉庫展」に向けたものでしょうか)、その為の横位置かも知れません。画伯は今回はそれを狙ったのかも・・・・とも推測されます。
そこでもう一枚(↓)。
□ 雨のコーランクール (F130号) 2007年
これは上の「雨の舗道」と対をなすコーランクールの一枚ですね。これも傾斜のある道路の広い舗道の一枚です。雨上がり直後のようです。舗道の描写が素晴らしく圧巻です。これも素晴らしい作品ですね。しかし私の眼から見ると、「雨の舗道」とは全く印象が異なります。その決定的なところは、やはり舗道を歩く婦人が描かれていますが、この作品では、こちらに向かってくるところが印象を変えていると思ってます。こちらはやはり夕方と思いますが同じ暗さでも、見る印象は明るいのです。ここにも孤独の鳩が登場しますが、ここでは孤独と言うよりは、可愛く感じます(不思議ですね)。そして私はこの作品の場合はこの横位置が良いと思います。不安感の無い光景なのです。
・・・・と、縦位置横位置の構図というのは私にとっては大いにそれぞれ意味有りで楽しいのです。
<参考までに・・・>
中西繁先生の絵画では、実は縦位置はそう多くない。しかし右に見るように・・・・
「終着駅(アウシュビッツ・ポーランド)」(F100号)(→)という作品があるが縦位置である。
あの忌まわしい第二次世界大戦の虐殺の代名詞だ。このビルケナウの収容所に入った線路と向こうにゲートの建物。これを描いた日本人画家は他に私は知らないが、これを描かなければならなかった中西繁画伯の心を知らなければならないだろう。この大部分を締める線路と遠くのゲートであった建物とのバランスのこの構図が、縦位置での印象を倍増している。
戦争は許せない。(現在ポーランドでは、ここは「負の遺産」として公開している。数年前に私も訪れてみたが、あえて現在は暗い印象の無い景色となっている。しかし絵には心がある。見るとおり、この絵には明るさは無い)
中西先生へ・・・・先生の肖像および絵画を無断で掲載させて頂いて申し訳ありません。問題がありましたらご連絡ください。対応いたします。
(参考)
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