北欧ジャズ

2025年4月27日 (日)

セリア・ネルゴール Silje Nergaard 「Tomorrow We'll Figure Out the Rest」

両親への感謝の気持ちを込めた感動的豪華さのあるアルバム

<Jazz>

Silje Nergaard 「Tomorrow We'll Figure Out the Rest」
(CD)Masterworks / Import / 19802890702 / 2025

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Produced by SILJE NERGAARD and MIKE HARTUNG

SILJE NERGAARD (vocals) 
HELGE LIEN (piano)
JARLE VESPESTAD (drums)
FINN GUTTORMSEN (bass)
GEORGE (JOJJE) WADENIUS (guitars)
HÅKON KORNSTAD (saxophone)
MARTIN WINSTAD (percussion)
BEATE S. LECH (guest vocals)
KARLA NERGAARD (backing vocals)
MIKE HARTUNG (backing vocals)

STAVANGER SYMPHONY ORCHESTRA VINCE MENDOZA conductor & arranger

Recorded and mixed by MIKE HARTUNG at PROPELLER MUSIC DIVISION Oslo 2022-2024
Mastered by MORGAN NICOLAYSEN at PROPELLER MASTERING Oslo nov 2024
STAVANGER SYMPHONY ORCHESTRA recorded at STAVANGER KONSERTHUS May 2024
Conducted by VINCE MENDOZA

800pxsilje_nergaardw  ノルウェーを代表するジャズ&ポップス・シンガーの通称セリア=Silje Nergaar(セリア・ネルゴール, →)のニュー・アルバム。彼女に関してはここでも何度か取り上げた。特に私の注目はトルド・グスタフセンTord Gustavsenのピアノとの共演の『Nightwatch』であったが、今回は私の一つの注目点は、やはりピアノが私の好きなヘルゲ・リエンHelge Lien(↓右)ということだ。いやはや彼女は名ジャズ・ピアニストをしっかり確保し、しかも、2010年にリリースされ、グラミー賞にノミネートされたアルバム『A Thousand True Stories』でもコラボレーションした、ヴィンス・メンドーザVINCE MENDOZA (↓中央)が、今作ではスタヴァンゲル交響楽団を指揮し、曲に感動的なオーケストラアレンジ効果を発揮している。

  そして、このアルバム・ジャケが古めかしいですね。なんと戦後のジャズ・アルバムの再発盤かと思わせるジャケ。それは実は彼女の両親の若い時の二人の写真を見つけてジャケにしたということのようだ(その写真↓左)。彼女も1966年生まれであるから今年は59歳、来年は還暦を迎えるという歳になって、どうも両親への深い思いが込められたアルバムという事のようで、タイトルも『Tomorrow We'll Figure Out the Rest』と、訳すと「明日多分私たちは残りを理解するでしょう」「明日、続きを解明する」ということだろうが、両親への深い思いが込められており、かっての自分の幼少期からの遠い日の記憶、家族やさまざまな人生の物語等にインスパイアされた曲を収録したということだ。とにかく音楽というものを通じて人々の心を動かす彼女の資質と才能が溢れたアルバムと仕上げられたものである。

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 彼女は、1985年にノルウェー代表としてユーロビジョン・ソング・コンテストに出場してのスタートで、アルバム・デビューは1990年で、パット・メセニーのプロデュースで1990年にリリースされたアルバム『Tell me where you're going やさしい光につつまれて』が、日本はじめ世界各国で大ヒットし、以来、北欧ジャズ・ポップス・シーンを代表するシンガーとして活躍している。当時はポップよりのものであったが、2000年発表の『Port of Call』、2003年『Nightwatch』よりジャズ・ピアニストのトルド・グスタフセンを起用したことより、ジャズよりの作品になって近年はもっぱらジャズに傾倒している経過で、キャリア40年となる。又ヘルゲ・リエン(↑右)もそうであるようにノルウエーには結構親日家が多く、彼女もその一人で、1991年発表の『Quiet Place〜心のコラージュ』には「Kyoto Wind」という曲を、さらに2001年発表の『At First Light 初めてのときめき』には「Japanese Blue」という曲をそれぞれ収録している。

(Tracklist)

1. You Are the Very Moon (Vince Mendoza;Stavanger Symphony Orchestra)
2. Lover Man (Håkon Kornstad)
3 Mamma og pappa synger00:36
4. A Perfect Night to Fall in Love (Vince Mendoza;Stavanger Symphony Orchestra)
5. Vekket i tide (Vince Mendoza;Stavanger Symphony Orchestra)
6. Before You Happened to Me
7 Silje synger00:58
8. Dance me Love (Vince Mendoza;Stavanger Symphony Orchestra)
9. My Man My Man
10. Brooklyn Rain (Håkon Kornstad)
11. Here There and Everywhere
12 Silje og pappa snakker00:48
13. Tomorrow We'll Figure Out the Rest (Vince Mendoza;Stavanger Symphony Orchestra)

 両親への深い思いが込められているというだけあって、とにかく心温まるような素直にして愛情にあふれた優しいヴォーカルと曲いうアルバムに仕上がっている。遠い日の記憶、家族との交わり、そして経てきたさまざまな人生の物語に思いで込めて演じられている楽曲を収録されていて、Helge Lien(ピアノ)、Jarle Vespestad(ドラムス)、Finn Guttormsen(ベース)、George Wadenius(ギター)、Håkon Kornstad(サックス)といったヨーロッパを代表するジャズ・ミュージシャンが彼女をサポートし、ヴィンス・メンドーザが、今作では5曲においてスタヴァンゲル交響楽団を指揮し、作品にジャズというよりはジャンルを超えた広い世界を描くムードを真摯に演じて盛り上げている。ジャズ・アンサンブルとオーケストラの競演で支えているわけだ(↓は両親とビニール盤アルバムの完成を喜ぶセリア)

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 彼女のヴォーカルは、まず若い印象で驚くが、一層癖のない表現の世界にあって、ジャズといつた世界とはむしろ別物に感ずる。M4." A Perfect Night to Fall in Love "(恋に落ちるには最適な夜)は、オーケストラとバッキング・ヴォーカルが入ってむしろ荘厳に近い雰囲気を盛り上げるところが印象深い。
   又M3.7.12は、彼女や両親との交わりの思い出の録音された会話や歌を挿入して一層のムード盛り上げを図っているのも、如何にも個人的な世界ではあるがアルバムの充実度を図っている。
 M8." Dance me Love"はゆつたりとした曲で、ストリングスの美しさ、ピアノの美しさと静かに語るドラムスの響きと、曲の演奏も聴きどころで、彼女の歌い上げるヴォーカルも見事である。

 いずれにしても聴いていて印象は極めて良い。そんな両親への感謝の世界を知らしめたと言う彼女のアルバム造りも一つの区切りとしては、意義があったと思うし、聴く方もわが身に置き換えて感謝の気持ちを持てたということであれば有意義である。

(評価)
□ 曲・演奏・歌  88/100
□ 録音      87/100

(試聴)

 

 

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2025年4月 7日 (月)

カーステン・ダール Carsten Dahl Golden Ratio Trio 「Interpretations The Norway Sessions」

音楽の深さへの誘いといえる世界を描く

<Jazz>

Carsten Dahl Golden Ratio Trio 「 Interpretations The Norway Sessions」
(CD) Storyville Records / Import / 1014363 / 2024

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Carsten Dahl (piano)
Daniel Franck (bass)
Jakob Høyer (drums)

[1-6]: Musikloftet AS, Oslo, Norway, Vidar Lunden, January 7, 2023
[7-12]: Thor Neby Studio, Oslo, Norway, Thor Bjørn Neby, March 12, 2024

Imagesw1  デンマークのピアニスト、カーステン・ダール(1967 -)(→)率いるピアノ・トリオの新作アルバム。彼についてはここで数年前に取り上げたが、その演ずるところのクラシック音楽から受けたであろうところ(バッハからラフマニノフと言う名が出てくる)とアグレッシブなジャズへの挑戦的なアプローチの両面の緻密にして美しさのある演奏には驚きを隠せない。つまり叙情的な処と、攻めの因子の調和が凄い。今回もそれを十分に堪能できるものとして受け入れた。

 彼のその特徴は、ドラムスとピアノの両方を幼少期から演奏し、そして学んできたという経過が生んだモノかも。そして2015年までデンマークの新文化院でピアノを教えていたが、「芸術が本当に何であるかを理解するための精神的で高度に宗教的なアプローチが、学校のプログラムの一般的な考え方と一定の対立を引き起こした」そのため、辞任したと述べているようだ。1982年にジャズ・ミュージックのプロになつてから現在まで多くのアルバムに演奏の姿を残しているが、一方なんと画家としての活動もあるようだ。
 その為か、彼の音楽に述べるところは「絵が解釈を指示し、ミュージシャンが単に絵の具と絵筆の役割を果たす小さな絵画」に例えていて、そして「この『Interpretations』は、リスナーが新しく深い方法で音楽と関わるように促します。行動と一時停止、期待と驚きの微妙なバランスこそが、この音楽を真に繁栄させるのです」と、なかなか難しい話をしている。

 なおトリオはスウェーデンのベーシスト、ダニエル・フランク(↓左)とデンマークのドラマー、ヤコブ・ホイヤー(↓右)と組んでいる。

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(Tracklist)

1. Interpretations
2. Morgonsang
3. Kristallkorall
4. The Golden Ratio
5. Vacker
6. Open Window
7. Wind
8. Sound of the Waves
9. Birds
10. The Art of Thinking
11. All Will Be Fine, Mother
12. Monk'ish Dancesteps
13. Breathing

[1-6]: Musikloftet AS, Oslo, Norway, Vidar Lunden, January 7, 2023
[7-12]: Thor Neby Studio, Oslo, Norway, Thor Bjørn Neby, March 12, 2024

  さて、こうして聴いてみると、このアルバムは2つの異なるレコーディング・セッションによって構成されていて、M1.からM6.の最初のセッションは美しく深淵な世界から真摯にして美的世界が描かれるが、M7.からM12.の2番目のセッションは、より生々しく、よりアグレッシブにして動と静が入り乱れ二面性によって音楽が築かれる。この様には説得力があり、描くところ繊細にしてスリリングな曲展開に圧倒される。

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   M1. "Interpretations" ダールの言う"解釈"と言う意味だろうか、三者によるアルバム・タイトル曲で、それぞれが如何に進もうとするかと言う主張とガイドが示されているのか、メロディーよりそれぞれの響きと音が絡み合う。
 M2. "Morgonsang" 優しさの溢れる示唆に満ちたピアノの響き、M3. "Kristallkorall" さらに深遠な世界に真摯に流れ、M4. "The Golden Ratio"でべースが深く沈むが、ピアノは決して暗くならずに静かに語る
 そしてM5. "Vacker" どこか心にゆとりを持って明るく新鮮な世界広がる。そしてM6. "Open Window"にて、希望に満ちた豊かさを描かれ、ここまでで最初のセッションは締めくられる。

 続く後半次のセッションにM7. "Wind"が展開する。ここからはガラッと変わってアグレッシブな攻めの前衛的響きが展開。そしてM8. "Sound of the Waves"ここでは異様なほどの静粛空間が襲う。ベースが刻むところからピアノが呼応し、ドラムスのブラッシングの音が、更に不安に導く。
 M9. "Birds"で再び前衛的響きが不安に進行展開し、三者のアグレッシブなインプロの交錯が見事。
 M10. "The Art of Thinking" 描くところ美旋律は無く、響きによる一つのアートに描き上げる、M11. "All Will Be Fine, Mother"テンポはゆったりとなって疑問から一つの光明に歩み始める。
 M12. "Monk'ish Dancesteps"再び荒々しさが・・・そしてM13. "Breathing"の落ち着いた世界が築かれる。

 いずれにしても、この一枚のアルバムの中で作り上げる"動と静"と"美とスリリングな不安"の対比が、クラシック音楽の世界からアヴァンギャルドな因子の感じられるジャズの攻めとの展開に圧倒されて、あっという間に終わってしまう感覚になる。ホイヤーのドラミングは繊細にして刺激的、フランクのベースは深く心に響く、ダールの叙情的美とスリリングな前衛性の二面のピアノとのトリプル作用が、描くところ新鮮だ。相変わらずカーステン・ダールの音楽的芸術性の奥深さに堪能するアルバムであり、音楽の深さへの誘いでもある。

(評価)
□ 曲・演奏  :    90/100
□   録音    :    88/100

(試聴)

 *

 

 

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2025年1月12日 (日)

ヤコブ・カールソン Jacob Karlzon 「Winter Stories」

北欧の厳しく長い冬に生きる人間をクリスタル音で描くピアノ・ソロ作品

<Jazz, Classic>

Jacob Karlzon 「Winter Stories」
Warner / Import / 1008937701 / 2024

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Jacob Karlzon : piano

Jacob_karlzon_2014w  かってここで2011年のコンテンポラリー抒情派モード・ジャズとしてアルバム『THE BIG PICTURE』(STUM23011)を取り上げたスウェーデン出身のジャズ・ピアニスト/作曲家、ヤコブ・カールソン(1970年 - )(→)の2024年新作である。あのアルバムでは、カールソンはアコースティック・ピアノを中心に、エレクトリック・ピアノ、オルガン、プログラミングなどを使用したトリオ作品であった。それは彼はもともとジャズだけでなく、クラシックやスカンジナビアの伝統ミュージックやファンク、ドゥーム・メタルなど、さまざまな音楽スタイルを融合させ、彼自身の独創的なスタイルを生み出しているContemporary Jazzと言ってよいのだが、しかし今回は、ちょっと違って、彼が北欧の長く暗い冬から生まれた静かで内省的、叙情的な世界をクラシック調に描いたウインター・アルバム『WINTER STORIES』を完成。ソロ・ピアノ作品である。

 彼は1992年のデビュー以来、地元スウェーデンのジャンゴドール賞をはじめ、数々の国際的な賞賛を受けてきている。話題の文豪トルストイの玄孫である歌手ヴィクトリア・トルストイとのコラボ・アルバム『Moment of Now』(ACT/2013)や2022年のピアノ・トリオ・アルバム『Wanderlust』などジャンルの広い作品をリリースしてきた。そして今回は又新たなる世界観を感ずるJazzとClassicの統合されたアルバムの登場だ。

(Tracklist)

01.Evermore (Taylor Swift)
02.Winterballad (Jacob Karlzon)
03.The First Noel (Traditional)
04.God Rest Ye Merry Gentlemen (Traditional)
05.Gläns över sjö och strand (Shine Over Lakes and Shores) (Alice Tegnér)
06.A Child Is Born (Thad Jones)
07.Så mörk är natten i midvintertid (The Night Is Dark)( Carl Bertil Agnestig)
08.O Come, O Come, Emmanuel (Traditional)
09.Suantrai (Traditional)
10.När det lider mot jul (When Christmas Is Coming) ( Ruben Liljefors)
11.Bel Veter Due (Traditional)
12.Taladh Chriosta (Christ's Lullaby) (Traditional)
13.Silent Night (Franz Xaver Gruber)

 上のリストのように、このアルバムはM13."Silent Night "やブルガリアの M11."Bel Veter Due "、そして聴き慣れたM03."The First Noel"など、冬やクリスマス・シーズンを頭に描く曲やトラディショナルの曲が登場するが、「このアルバムでは、よくあるクリスマス・アルバムではなく、より冬という季節を全面に出した感じでバランスを取りたかったんだ」と彼は本作について語っているようだ。つまり 所謂クリスマス・アルバムという感覚でなく、カールソンの冬の厳しさの世界を、単に暗いものとして描くのでなく、そこに人間的なプラス思考の生き様を描いているオリジナルM02."Winterballad"を登場させ、さらにちょっと意外や意外のテイラー・スウィフトのちょっと哀しいバラード のカヴァーなど、冬を描いたり冬を想わせる曲によって「北欧の厳しさの中の人間的な冬」を描きたかったということなんだろうと想像する。

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 そしてなんと言っても彼の特徴である独創的なスタイルでのContemporaryな曲仕上げでなく、極めて素直な自然主義的世界をむしろクラシックの演奏で構築していることだ。本作でカールソンは自身の世界観を持つ中でスタンウェイDグランド・ピアノを駆使してスカンジナビアの冬の厳しい寒さを見事に表現し、そのクラシック調の演奏で真摯な姿でアプローチをして、厳しき中でたくましく暮らす人間の寂しさや夢、瞑想、喜びなどに満ちたこの人間の感情の流れの冬を自然界の季節感を持って描いている。
 M7.は、スウェーデンの作曲家カール・ベルティル・アグネスティグの"The Night Is Dark (Så mörk är natten i midvintertid)"。カールソン曰く、この曲はクリスマスと長い冬の季節の始まりを記念する聖ルチア祭に演奏される伝統的なスタンダード曲であるという。これによって冬という季節を全面に出した感じでバランスを取ったと言う彼の目論見は成功している。つまり私の推しとして冒頭のテイラー・スウィフトのM01."Evermore"が良いですね、これからスタートして、最後はM13."Silent Night"(きよしこの夜)でまとめ上げるところがにくいというところ。

(評価)
□ 選曲・演奏    90/100
□ 録音       88/100

(試聴)

 

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2025年1月 3日 (金)

<謹賀新年2025> ラース・ダニエルソン Lars Danielsson, V.Pohjola , J.Parricelli 「TRIO」

Dsc06506tr1fw    明けましておめでとうございます
    今年もよろしくお願いします

       
       新年早々ですので、昨年末リリースの新年向きのベスト
  と思われるアルバムを取り上げます

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フランス有数のワイナリーで録音された牧歌的世界

<Jazz>

Lars Danielsson, Verneri Pohjola , John Parricelli 「TRIO」
ACT MUSIC / Import / ACT8000  /2024

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Lars Danielsson (b)
Verneri Pohjola (tp)
John Parricelli (g)

Recorded at Château Palmer in Margaux-Cantenac, France, 30.05.2024 - 02.06.2024
Recorded by Arnoud Houpert Mixed by Bo Savik Mastered by Klaus Scheuermann and Bo Savik

 国際的に評価を勝ち取っているスウェーデンのベーシスト、チェロ奏者そして作曲家のラーシュ・ダニエルソン(1958-, 下左)と、フィンランドのトランペット奏者ヴェルネリ・ポホヨラ(1977-, 下中央)の北欧巨匠二人に加えてイギリスのギタリスト、ジョン・パリチェッリ(1957-,下右)によるピアノ、ドラムス無しの変則トリオ作。しかもACT とワイン醸造所のシャトー パルメ (ボルドー左岸にある) とのコラボレーションの第2弾で、今回は、シャトー パルメ自体が、レコーディング会場となっている。

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 音楽はシャトー(ワイン生産の館)の独特の雰囲気をとらえ、レコーディング環境の静けさ、美しさ、親密さを反映していると言われているなんとも粋な企画なのだ。このコラボレーションは、当初「並外れたアーティストが並外れた場所に集まるときに起こる魔法を捉える」という驚きのビジョンを実現したというものらしい。
 そして「TRIO」と言うアルバム・タイトルがにくいですね、彼らはこれぞ3人の傑作だと言わんばかしの自信作ということでしょう。おそらく長く続いているダニエルソンとパリチェッリとの関係の上に成り立ったトリオと推測されるのだ。
 そして収録12曲、セッションの数日前に特別に書かれた6つのダニエルソンの作曲と、パリチェッリとポホヨラのそれぞれのトラック、3つのカバー、3人共作曲という構成である。
 

(Tracklist)

1 Le Calme au Château (Lars Danielsson)
2 Cattusella (Lars Danielsson)
3 Morgonpsalm (Lars Danielsson)
4 Playing with the Groove (Lars Danielsson)
5 Chanson D'Helene (Philippe Sarde)
6 L'Epoque (Lars Danielsson)
7 Gold in Them Hills (Ron Sexsmith)
8 Improvisado (Lars Danielsson, John Parricelli, Verneri Pohjola)
9 Mood Indigo (Duke Ellington, Barney Bigard, Irving Mills)
10 Étude Bleue (Lars Danielsson)
11 Lacour (John Parricelli)
12 Peu D'amour (Verneri Pohjola)

 いっやーー、これはなかなか得難い世界ですね、とにかく牧歌的と言える空間を見事に描いている。ワイン醸造所での演奏録音と言うのがにくいところで、それを知る為か一層自然環境や生態系が人間の健康そのものを育成してゆく世界が眼前に文句なく描かれているのである。
 M1."Le Calme au Château"は、ギターの響きに、ダニエルソンが描いた美しい旋律を独特な音色の物悲しいトランペットが美しく歌う。
   M2."Cattusella" ギターはラテンをイメージさせ、トランペットの抑制の効いた歌い上げが迫ってくる。そしてベースの音がひと際美しく響く。
 M3."Morgonpsalm" ここでも抑制のきいたトランペットがもの哀しく、ギターとベースの響きは美しい。
 M4."Playing with the Groove" 珍しい軽快な世界にトリオのインタープレイが見事。
 M5."Chanson D'Helene"チェロの響きに優しいギターそして控えめなトランペットが入り、悲しい雰囲気は美しく深く。
   M6." L'Epoque"抽象的で雰囲気のある曲。
   M7."Gold in Them Hills"カナダのシンガーソングライター、ロン・セクスミスの曲で、ポホヨラの自然豊かな優美な世界を描く演奏が楽しめる素晴らしいトラック。
   M9."Mood Indigo"デューク・エリントンとバーニー・ビガードの曲、アレンジがなかなか興味深くこのアルバムでは異質感、ちょっとここで気分一新の感。
   M10."Étude Bleue" ギターのオスティナート演奏に抑制のトランペットの語りが乗る。
   M11."Lacour"は、ジョン・パリチェッリのオリジナルだが、3者の絡み合うお互いの影響が美しさを増す。   

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   素晴らしいトリオ・アンサンブルが楽しめる作品だ。ワイン造りは芸術とも言われ、こうしてジャズ演奏と対面してゆく心は、フランスならではと言っていいのかも。そしてレコーディング場所であるフランスに因んで、このトリオは、ちゃんとその要素も盛り込んでいるところがニクイところ。M5."La Chanson d’Hélène"の作曲フィリップ・サルド(Philippe Sarde, 1948 – )はフランス、映画『すぎ去りし日の…』(1970年, 原題:Les choses de la vie)からの選曲ということだし、ジョン・パリチェッリ作曲のM11."Lacour"はフランスの作曲家・ピアニストのオリヴィエ・メシアン(Olivier Messiaen, 1908 – 1992)に強くインスパイアされているとか。

 もともと私自身は、表現は良くないがジャズのラッパものは敬遠しがちなのだが、ただミュートの効かしたトランペットは愛してきた。このトリオでのヴェルネリ・ポホヨラの抑制のきいた独特のトランペットはいかにも素晴らしい。そこには哀しみ・心の沈みと高揚といった感情を表現する個性的な音と抑揚には感動すらした。このトリオは、もともとダニエルソンの持つ牧歌的な美しさを、この特殊なトリオ編成によるところの素材の美しさをもって訴えてくるところが魅力だ。しかし、おそらく音楽的には多くの技巧を駆使しているのではと聴きとるのである。彼らは、とにかくミュートされ、力みのないリラックスした中に、それぞれの持つ演奏力を注ぎ込んで、究極のところ温かみのある世界を構築した素晴らしい作品だと思う。昨年の多くのジャズ・アルバムの中では、出色の心に響く世界を構築したものとして、新年冒頭に取り上げた。

(評価)
□ 曲・演奏 :    95/100
□   録音   :    90/100

(試聴)



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2024年11月25日 (月)

ヨーナス・ハーヴィストJoonas Haavisto 「INNER INVERSIONS」

叙情性溢れるバッハ楽曲やバッハにインスピレーションを得た自己のオリジナル曲を展開

<Jazz>

Joonas Haavisto 「INNER INVERSIONS」
BLUE GLEAM / JPN / BG015 / 2024

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Joonas Haavisto : Piano

Recorded June 1-4,1-4,2024 at Steinway Piano Gallery, Helsinki, Finland
Recorded by Abdissa Assefa and Joonas Haavisto

  北欧フィンランドの注目のジャズピアニスト、ヨーナス・ハーヴィストの約15年のキャリアで初となるソロ作品(日本レーベルBLUE GREEMとしては第4弾となる)。既に過去の作品はここで取り上げてきたが、彼の叙情的に描く美しいピアノには定評があって、しかもそれに留まらず硬質にして透明感あるダイナミズムに圧倒される。そして日本と馴染の深い人気ピアニストだ。

1008763622  今年の彼のアルバムには、これも異色の『MOON BRIDGE』(EIRD8008 →)があるが、これはケスタティス・ヴァイギニス(リトアニア出身のサックス奏者)との作品で、ピアノとサックスのデュオ作品で、日本庭園でみられる円月橋にインスパイアされたという。水面にその姿が反射するように配置されアーチと水面に映った影で形成された円は、満月を象徴していることからデュオの「共生」、国と国との「繋がり」、平和を築き橋を架けるとする彼らの想いが込められているアルバムだ。
 
 彼は、今までは主としてピアノ・トリオ作品であったが、今回のこちらのこのアルバムは、おそらく満を持してのピアノ・ソロものと推測する。そして内容は彼に大いに影響をもたらしているJ.S.バッハがテーマになっている。タイトルも"INNER VERSION = 内部反転"という意味深なところにあって、どうも自己の内面に迫り、相対する側面を見つけるという感覚のようだ。単なるクラシックもののジャズ化ではないところは明白で、彼の描きたいところに興味を持ちつつ聴くことになったアルバム。

Imagesw_20241122221701  ヨーナス・ハーヴィストJoonas Haavistoは、1982年生まれ42歳。7歳の時に故郷コッコラの音楽院で音楽の勉強を始め、クラシックのコントラバスを演奏し、16歳でジャズピアノのレッスンを受けた。高校を卒業し、兵役を終えた後、2002年世界有数の音楽大学であるヘルシンキ芸術大学(旧シベリウス音楽院)に入学した。2004年秋、フィンランドのトップビッグバンド、UMOジャズオーケストラでデビューし、更に2005年、マイアミ大学フロスト音楽院に留学。2006年自身のカルテット「アピラス」が名誉ある「ヤング・ノルディック・コメッツ」で最優秀賞を受賞。2010年アルバム『BLUE WATERS』(ZENCD2130)リリース。2012年2nd作『Micro to Macro』(BLUE GLEAM)で日本デビュー。2017年世界トップのピアノメーカー、スタインウェイ&サンズ社(米国)より、スタインウェイ・アーティストとして承認される。2022年USAツアーで、ジャズクラブの最高峰「BLUE NOTE NEW YORK」に出演。キース・ジャレット、チック・コリア等に影響を受けた。卓越したイマジネーションとハーモニーセンスを持つ北欧屈指のジャズピアニスト。

(Tracklist)
1. Paraphrase on Bach's Fugue in C Minor
2. Kuer Changes
3. With Me
4. Jesu, Joy of Man's Desiring, BWV 147
5. Paraphrase on Bach's Prelude in C Major
6. Paraphrase on Bach's Fugue in C Major
7. Sleepers Awake, BWV 140
8. Prelude for B.G.
9. Inner Inversions
10. Waltz for Debby (Bonus Track)

 全編、ハーヴィストにとって最も重要な意味をなす、つまり彼の内面に大きな影響をもたらしているJ.S.バッハをテーマにした曲による構成がまさに美しい。登場する10曲は、バッハの名曲「平均律クラヴィーア曲集第1巻」からインスピレーションを得てイメージして彼が作り上げた曲(Paraphrase=M1,5,6)と、バッハの曲を彼の感覚で編曲したもの(M4,7)、更にバッハの手法を模倣し彼自身が作曲した曲(M2,3,8,9)の3つ分かれる。そして最後には、ビル・エヴァンスがバッハの影響を受けて作曲し演じた人気曲"Waltz for Debby"が登場する。

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 冒頭のM1."Paraphrase on Bach's Fugue in C Minor"から美旋律が流れてくる。この曲は平均律第1巻第2曲のフーガをイメージしての彼なりの構築が見事。M6."Paraphrase on Bach's Fugue in C Major"のParaphrase(表現しなおす)も優しさがあふれている。
 そしてバッハの演奏を試みたのは、M4."Jesu, Joy of Man's Desiring, BWV 147"M7."Sleepers Awake, BWV 140"で、両者原曲旋律を演じつつ即興を交えるも、かなり曲そのものの美しさは出来るだけ残してかなり素直に演じていて聴きやすい。
 問題のM9." Inner Inversions"は、ジャズとクラシックを境界なく融合して、優美さを描いた技に彼の本気を見た思いだ。
 日本向けサービスのエヴァンスのM10."Waltz for Debby "は、ちょっとさわりといった程度でどっぷり浸かれなかったのが残念。

 近年のBrad Mehldauのバッハへの迫り方のジャズとしての奥深さ、複雑性と若干異なっていて、ハーヴィストの場合、北欧的美学が根底にあって、アルバムとしての聴き方には、私自身が北欧系に惹かれる因子があるだけに、このハーヴィストのほうにピアノのリリカルな美が感じ取れて聴きやすかった。従って、その違いをどう受け入れるかは聴く者の個性によるところで良いのではないかと思うのである。
 なお2024年11月30日から6年振り5度目の来日公演「JOONAS HAAVISTO JAPAN TOUR 2024」がスタート。本作「Inner Inversions」ライヴパフォーマンスを披露する。

(評価)
□ 曲・演奏  90/100
□ 録音    87/100

(試聴)

 

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2024年10月31日 (木)

エレン・アンデション Ellen Andersson 「Impressions of Evans 」

スカンジナビアのジャズ界の歴史を顧みて、ビル・エヴァンスを歌い上げる

<Jazz>

Ellen Andersson 「Impressions of Evans 」
Prophone Records / International Version / PCD344 / 2024

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Ellen Andersson エレン・アンデション(vocal )
Heine Hansen ハイネ・ハンセン(piano )
Thomas Fonnesbæk トマス・フォネスベク(bass )
Andreas Svendsen アンドレーアス・スヴェンセン(drums )
Bjarke Falgren ビャーケ・ファルグレーン(strings )

録音 2022年12月 V-Recording(コペンハーゲン)

61xl4gjx8l_ac_slw    このアルバムは、4年前(2020年)にここで取り上げた前作『You Should Have Told Me』(PCD204, 2020)が好評であったスウェーデンのヴォーカリスト、エレン・アンデション(1991年生まれ、下左)の新作(3枚目)である。
  それはなんと60年前の1964年に、ビル・エヴァンスとスウェーデンの女性ヴォーカリストのモニカ・ゼッタールンドMonica Zetterlund(下右)が共演し、スカンジナビアのジャズヴォーカル界に新しい時代を生み出したと評価される私の愛聴盤にして歴史的名盤のM.Zetterlund&B.Evans『Waltz For Debby』(UCCU-5904、末尾参照、右上)を記念し、エヴァンスとゼッタールンドをトリビュートした一枚なのである。

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 アンデションは、2016年の『I'll Be Seeing You』(PCD165)でデビューして以来、私の注目株であったが、「好奇心旺盛な若さと成熟した経験豊富な2つの声を1つにまとめた独特の歌声」として注目されたが、私的には「あどけなさと大人の味の2面」といったところにあって、その表現力には芸術的深みにも通じて、まさに稀有な存在だ。そして2020年の2ndアルバム『You Should Have Told Me』は、スウェーデンのグラミー賞にノミネートされたほか、スカンジナビアの歴史的ジャズ女性歌手を記念した「モニカ・ゼッタールンド賞」を受賞した。その為なのか、本作ではゼッタールンドをトリビュートすることになったのかと推測するのだ。

 このアルバムは、「北欧の自然の牧歌性」と「ニューヨークという都会」の相対する世界をどのように描くのか、ビル・エヴァンスの曲をどのように歌い上げるのか等と、面白い面の注目点がある。

(Tracklist)

1. Jag vet en dejlig rosa(Traditional)
2. Monicas vals(Bill Evans/Beppe Wolgers)
3. Very Early(Bill Evans/Carol Hall)
4. Summertime(GeorgeGershwin/DuBose Heyward/Dorothy Heyward/Ira Gershwin)
5. My Bells/Childrenʼs Play Song(Bill Evans/Gene Lees)
6. Vindarna suska uti skogarna(Traditional)
7. Some Other Time(Leonard Bernstein/Betty Comden/Adolph Green)
8. Just You, Just Me(Jesse Greer/Raymond Klages)
9. Om natten är alla änkor grå(Olle Adolfphsson/Carl Fredik Reuterswärd)
10. Blue in Green(Bill Evans/Miles Davis/Hansen)

 いっやーー、驚きました。このアルバムもアンデションは全くゆるぎなく自己のヴォーカル世界を貫いている。
 M1."Jag vet en dejlig rosa"(美しいばらを知っている)は、スウェーデンのトラディッショナルらしく、アルバム・ジャケのイメージでの非常に牧歌的な歌で心に響く。
 そしてエヴァンスの曲M2."Monicas vals(=Walz for Debby)"(モニカのワルツ)をゼッタールンドが歌ったのだが、それをアンデションがスウェーデン語歌詞で歌うのだ。異質の両曲であるが、彼女のささやきに近い歌声で、情感と歌心溢れる繊細さでどこか親密感を感じさせるヴォーカルを聴かせてくれる。
 そしてM6."Vindarna suska uti skogarna"(風が森でため息をつき)もトラディショナルであるが、バックの演奏も美しく、北欧の世界が脳裏をかすめる優しいヴォーカルが印象的。
 とにかくビル・エヴァンスの4曲、そしてガーシュウィン(M4.)やバーンスタイン(M7.)の曲が、ゼッタールンドが歌い上げたのと異なって、まさにアンデション節になっているのが驚きであると同時に恐れ入りましたというところだ。

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 印象に残る曲として、ウッレ・アドルフソンのM9."Om natten är alla änkor grå"(夜、未亡人はみんな灰色なの?)は、ゼッタールンドの大切なレパートリーだったようだが、共感をこめ、美しいピアノをバックに説得力ある情感ある曲に仕上げてあり、エヴァンスとマイルス・デヴィスの曲M10."Blue in Green"より印象的だったのが驚きだ。

 いずれにしても、「エヴァンスの印象」と題して、ここに歌い込んだ挑戦に喝采すると同時に、その仕上げにて、尊敬するモニカ・ゼッタールンドの真似に終わらず、一歩も妥協せずに自分の世界を貫いたアンデションにお見事と言いたいのである。

(参照)
album『Waltz for Debby』(monica Zetterlund with Bill Evans 1964)
-Tracklist--
1.Come Rain or Come Shine
2.Jag vet en dejlig rosa
3.Once Upon a Summertime
4.So Long Big Time
5.Monicas vals (Waltz for Debby)
6.Lucky to Be Me
7.Vindarna sucka uti skogarna
8.It Could Happen to You
9.Some Other Time
10.Om natten

 

(評価)
□ 編曲・歌  90/100
□ 録音    87/100

(試聴)

 

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2024年9月27日 (金)

トルド・グスタフセン Tord Gustavsen Trio 「Seeing」

教会讃美歌を自己の思索的・瞑想的感覚に結び付けて描く深淵なる世界

<Jazz>

Tord Gustavsen Trio 「Seeing」 
ECM Records / JPN / UCCE-1210 / 2024 

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Tord Gustavsen (p)
Steinar Raknes (b)
Jarle Vespestad (ds)
 

434756619_956845876000445w    今年創立55周年を迎えたECMレコードから、我が最も愛するノルウェーの深遠なる美メロ・ピアニストのトルド・グスタフセンの記念すべき10枚目のアルバムの登場である。2023年秋に南フランスのステュディオ・ラ・ビュイソンヌでマンフレッド・アイヒャーのプロデュースの下、録音された。グスタフセンのオリジナル5曲、ヨハン・セバスティアン・バッハの合唱曲2曲、ノルウェーの伝統的な教会賛美歌、そして19世紀のイギリスの合唱曲という"Near My God, to Thee"を通して、グスタフセンは長年の盟友であるヤーレ・ヴェスペスタッド(ds)、そしてステイナー・ラクネス(double-b)と共に、ジャズ、ゴスペル、スカンジナビアの民族音楽、教会音楽をブレンドした独自の音楽を展開する。彼の言うところによると「年を重ねるにつれ、人生と音楽の本質を追求するようになった私の個人的な成長を反映している」と。

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(Tracklist)

1. 神様、私を静めてください / Jesus, gjør meg stille
2. 古い教会 / The Old Church
3. シーイング / Seeing 
4. キリストは死の縄目につながれたり / Christ lag in Todesbanden
5. いとしき主に われは頼らん / Auf meinen lieben Gott.
6. エクステンデッド・サークル / Extended Circle
7. ピアノ・インタールード:メディテーション / Piano Interlude - Meditation(瞑想)
8. ビニース・ユア・ウィズダム / Beneath Your Wisdom (あなたの知恵の下に) 
9. 主よ 御許に近づかん / Nearer My God, To Thee
10. シアトル・ソング / Seattle Song

  冒頭M1."Jesus, gjør meg stille"は、ノルウェーの穏やかで牧歌的なゴスペル(教会讃美歌)だという。かなり感情がにじみでていて、深く、静かで、精神的世界が感じられる。グスタフセンの心沈めるピアノの流れ、ラクネスのアルコのベースからピチカートへと移行して、そこにヴェスペスタッドのシンバルを叩くステック音が軽く繊細に重なって感動的な背景に美しく三者の交錯が構築される。
 続くグスタフセンの作曲M2."The Old Church"M3."Seeing"は、どちらも彼の特徴的の内省的な世界だ。前者は印象的なシンバルワークと内省的な温かみのあるベースソロが印象付ける中で、そんな雰囲気の中をピアノの旋律が静かに語る。後者のアルバム・タイトル曲のパターンは、彼の特徴である波が間をもって連続的に襲ってくるようなパターンで、哀愁に満ちた内省的にして深遠なピアノの響きの世界に連れて行ってくれる。

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 続く2曲は、グスタフセンはJ.S.バッハの古典的な美旋律世界をトリオ演奏スタイルに取り入れて美しく聴かせる。M4."Christ Lag in Todesbanden"では感傷的に彼の演奏の特徴であるルバート奏法を用いての瞑想の世界に、M5."Auf Meinen Lieben Gott"では、一転して三者のアクティブな攻めによるグルーヴ感の演出をして見せる。
 M6."Extended Circle"ベース、ドラムスの刻むリズムに乗って、ピアノがここでも波のごとく襲いつつ美メロを演じ、後半にベースの響きが物語を語るように展開する。
   M7."Piano Interlude - Meditation" ピアノの響きによる瞑想。
 M8."Beneath Your Wisdom"  過去のグスタフセンを思い起こす深く沈み込む音とメロディー、そして中盤に入ると展望が開け、最後は再び哲学的瞑想に。
 M9."Nearer My God, To Thee" イギリスのコラールが登場、ヴェスペスタッドのシンバル音が印象的で、静の中から一筋の光明が差してくるようなピアノの世界だ。
   M10."Seattle Song"グスタフセンのピアノ・ソロ曲に、ベース・ドラムスが旨くトリオの相互作用を築いて作り上げたとか。締めの曲として納得させる親密な世界を構築。

 教会讃美歌を演じつつ、それをグスタフセンの微妙な深淵な世界に繋いで見事な哀愁と真摯な美を感ずる哲学的世界を作り上げていて、やはり彼のトリオ世界は、類を見ない存在感がある。相変わらずしっかりとメロディーを尊重して描きつつ、このグループのインタープレイは、攻めというのと反対に抑制の中に於いて、三者で築き上げてゆく様はシンプルでありながら深淵にして広大な世界観を聴かせる。やはりグスタフセンものは、一時試みられたアンサンブルを楽しむカルテットものより、トリオものに私は感銘が深まる。繊細なタッチをもってゴスペルの存在に大きな意義を求め認識する壮大な一つの組曲として仕上げているところに納得感の強いアルバムであった。

(評価)
□ 曲、編曲、演奏 : 90/100
□   録音      : 88/100

(試聴)

 *

 

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2024年9月 7日 (土)

ヘンリック・グンデ Henrik Gunde 「Moods」,「Moods Vol.2」

デンマークのジャズ・ピアニストの北欧流美的哀愁世界とトリオ・ジャズの楽しさを描くアルバムが2枚リリース

   北欧・デンマークの2022年、2023年の近年の一手段である配信リリースによるアルバムが寺島レコードから装い新たにLPとCDでリリース。ピアノ・トリオとはかくあるべきと寺島靖国氏に言わしめるピアニストのヘンリック・グンデとイェスパー・ボディルセン(Bass)、モーテン・ルンド(drums)のトリオだ。そして何としてもCD化をと言うことであったようで、ここにその成果が結実。
 私自身は北欧のピアニストが描く世界には共感するところが多いのだが、このグンデの作品は過去に実は入手の記憶がない。寺島靖国の推薦を知ってストリーミング・サービスにより、最近この過去の配信アルバム聴いたところであった。彼らが織り成す演奏は「北欧浪漫派ならではの繊細にしてエレガントな奥深い哀愁風情をしっとりと描いてくれる」というところで、高音質のアルバムを期待していたところである。LPが今や再人気だが、私は音質的にも価格的にもCD軍配派で、CDで購入。
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 ヘンリック・グンデ・ペデルセンHenrik Gunde(→)は、1969年にデンマークのエスビヤーで生まれたジャズピアニストだ。彼はデンマークのジャズシーンで誰もが知る存在のようだ。デンマークのラジオビッグバンドや彼自身のプロジェクトGunde on Garnerなど、さまざまなフォーメーションで演奏活動をしている。このトリオ・プロジェクトは、ジャズの伝説的存在であるエロール・ガーナーのスタイルに敬意を表したもので、特にグンデは、ガーナーのスイングとエネルギーをパフォーマンスに呼び起こす能力で称賛されている。
 イェスパー・ボディルセン(Bass ↓左)は、1970年デンマーク-シェラン島のハスレヴ生まれ、モーテン・ルンド(drums ↓右)は、1972年デンマーク-ユラン半島のヴィボー生まれと、デンマークの実力派トリオである。

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 さて、そのアルバムは下のような二枚で、ジャケも配信時のモノからリニューアルされている。

<Jazz>

Henrik Gunde 「Moods」
Terashima Records / JPN / TYR1127 / 2024

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Henrik Gunde (piano)
Jesper Bodilsen (bass)
Morten Lund (drums)

(Tracklist)
1. Blame It on My Youth
2. My Funny Valentine
3. Solveigs Sang
4. Kärlekens ögon
5. I Will Wait for You
6. Bye Bye Blackbird
7. Moon River
8. Softly as in a Morning Sunrise
9. Fanølyng

 M1."Blame It on My Youth" 冒頭から光り輝くが如くの欧州でもイタリア風とちょっと違った瑞々しい端正なるタッチのピアノの音が響き、北欧独特のどこか哀感のある世界が展開。いっやー美しいですね。
 M2."My Funny Valentine"、M5."I Will Wait for You、M6."Bye Bye Blackbird"、M7."Moon River"、M8."Softly as in a Morning Sunrise"といった日本でもお馴染みのスタンダード曲が続く。これだけポピュラーだと、特徴をどのように原曲を大切にしつつ表現するかは難しいところだと思うが、メロディーを大切にしたピアノと暴れずぐっと曲を深く支えるベースが印象的。そしてM5.は"シェルブールの雨傘"ですね、ドラムスが繊細なステックによるシンバルなどの音を軽快に流し、洗練されたピアノによるメロディーは、適度な編曲を加えて、ベースの音と共に静かな躍動感を加えて、聴くものに又新鮮な感動を与えてくれる。M7.はぐっとしっとり仕上げ、M8.は、"朝日のごとくさわやかに"ですね、詩情の世界から一転しリズミカルに、軽妙な味を3者のテクニックで楽しませ、ピアノとベースも珍しく低音部でのインプロも披露し、ドラムスも最後に出る幕を飾ってジャズを楽しませる。
 録音もただただ音で圧倒するのでなく、繊細に描くところが見事で、寺島靖国が欲しがるアルバムだということが、しっかり伝わってくる。

       * * * * * * * * * * *

<Jazz>

Henrik Gunde「Moods Vol.2」
Terashima Records / JPN / TYR1128 / 2024

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Henrik Gunde (piano)
Jesper Bodilsen (bass)
Morten Lund (drums except 1)

2023年Mingus Records作品

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1. Introduction (p & b only)
2. Ol' Man River
3. Fever
4. The Windmills Of Your Mind
5. Tennessee Waltz
6. From E's Point Of View
7. Golden Earrings
8. Olivia

  さて続編であるが、1stがあまりにも見事であったので、こちらでは少々細工が出てくるのかと思いながら聴いたのだが、ここでもスタンダードと彼のオリジナルの曲との混成によって成り立たせる手法は変わっていない。アルバムはグンデのピアノによる導入曲の後、M2."Ol' Man River"のカントリーつぽい牧歌的哀歌でスタートする。
 とにかく誰もが知っているポピュラーなM5."Tennessee Waltz"を如何に聴かせるかが、寺島靖国に言わせても大きなポイントだったようだ。それだけ有名なのだから、聴く方も何かを求めるわけで、名演でもアレンジが原曲から大きく離れてちょっと残念だということも確かにあり、そんな状況下で適度にジャズ化し適度にメロディーを聴かせ、なかなかうまく処理している。まあその点は心得た処なんでしょうね。
 戻ってM3."Fever"だが、北欧の詩情性アルバムにこの曲というのは驚いた。しかし前後の曲を聴くとこの流れは必要だったことが納得できる。アルバムというのは曲の配列によるメリハリが重要なのだ。
 その他 M4."The Windmills of Your Mind"の"微妙な心境での希望"と M7."Golden Earrings"の"展望"といった未来志向の暗さから脱皮したスタンダードに加え、グンデ作曲のM1."Introduction,M6."From E's Point of View",M8."Olivia" の3曲、これらはやはり透明感あふれるピアノの旋律美にメロディ尊重派を感ずるし、ベース、ドラムスは、単なるサポート役でない対等なインタープレイを演ずるジャズ・グルーヴ感も印象的。1stから、一歩展望ある世界に踏み出した印象の2ndアルバムだった。

 究極、ジャズの難しい面の押し売りは感じさせず、ピアノの美しい世界に、トリオとしての味をうまく加えたアルバムと言って良いだろう。ヨーロッパ耽美派ピアノ・トリオの典型と現代欧州流解釈のトリオ・ジャズの楽しさを描いている。グンデの演奏にはユーロ系の北欧独特の詩情性と抒情性が独特の繊細さで描かれるが、けっしてそれだけでないジャズのハード・バッブ系のグルーヴ感を忘れないところが、やっぱりキャリアなんだろうと感じさせられた。
 

(評価)
□ 曲・演奏 :  90/100   
□ 録音        :  88/100

(試聴) 
"Blame It on My Youth" from「Moods」

*
" Tennessee Waltz"from 「Moods Vol.2」

 

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2024年5月29日 (水)

フランス・バク、シーネ・エイ Frans Bak feat.Sinne Eeg 「Softer Than You Know」

人生の感謝の世界を歌い上げる

<Jazz, Popular>

Frans Bak feat.Sinne Eeg 「Softer Than You Know」
Storyville Records / Import / 101 4359 / 2024

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Frans Bak - piano
Sinne Eeg - vocals
Peter Sprague - guitar
Thomas Vang - bass
Emil de Waal - drums
August Wanngren - choir (track 1,3, 5, 6, 7)
Fredrik Lundin - saxophone (track 4)
Hans Ulrik - saxophone (track 6)

All tracks = Music: Frans Bak, Lyrics: Helle Hansen
Recording: The Village Recording, Copenhagen, Denmark, September 2022

 デンマークの重鎮作曲家兼ピアニスト、フランス・バク(下中央)が、自らのオリジナル曲で最新プロジェクトとしてバラード・アルバムをリリース。曲の作詞は、やはりデンマークでミュージシャン・作詞家・教師で活躍しているヘレ・ハンセン(下右)によるものとか。 収録曲は10曲のバラードで構成され、日本でも人気のヴォーカリスト、 シーネ・エイ(下左)がボーカルを担当ということで聴くに至ったものである。

 フランス・バクFrans Bak(1958年デンマーク・コペンハーゲン生まれ)は、デンマーク王立音楽院を卒業後、数々のバンドを結成し、クラシック音楽をさまざまなジャンル、サウンド、現代のテクノロジーと融合させ、アンビエント、メロディック、アトモスフィアなど、独自のサウンドを生み出してきた。80年代から90年代にかけて、ピアニスト、バンドリーダー、作曲家としての役割を両立させ開花。デンマークの多くのアーティストとコラボレーションし、映画音楽やTVシリーズの音楽の作曲でも高い評価を得ている。特に、映画のサウンドトラックの世界に25年の国際的なキャリアを築いてきている。
 シーネ・エイSinne Eeg(1977年デンマーク生まれ)はスカンジナビア屈指の女性ジャズ・ヴォーカリストと言われ、このブログでも何度か登場している。彼女の感情豊かな声で聴衆を魅了し、魅惑的なパフォーマンスとともに国際的な称賛と人気を得ている。デンマーク音楽賞の最優秀ボーカル・ジャズ・アルバム賞を4回受賞するなど、数々の賞と称賛を受けている。

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 レコーディングには、トーマス・ヴァング(ベース)、エミール・デ・ワール(ドラムス)、ピーター・デ・ワール(ベース)、ハンス・ウルリック(サックス奏者)など、豪華なメンバーが参加。

(Tracklist)

1. Softer Than You Know
2. Lonely Waltz
3. Out of the Blue
4. Stay With Me
5. 1-2-3
6. Ready Again
7. Is This It
8. When I’m Near You
9. I Will Never Let You Down
10. Close Your Eyes

  フランス・バクが、彼の音楽の原点へのノスタルジックな回帰を示す最新プロジェクトで、ジャズとポップスの融合と表現しているところのゆったりとしたソウルフルなメロディーにての曲で、しかもヘレ・ハンセンの歌詞がまた心に響くもので、このバラードアルバムを造り上げている。
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの間、バクは自分のバンドのサウンドに夢を抱き、サックス奏者のフレドリック・ランディンとの偶然の出会いがきっかけで音楽への情熱が再燃したとか。そして作詞家のヘレ・ハンセンとのコラボレーションによって曲を仕上げて、シーネ・エイの魅惑的な歌声を得て、フルアルバムの制作に至ったようだ。

 とにかく非常に優しく聴くものすべてに心地よさを提供できるような心温まる曲であり、シーネ・エイもジャズ・ヴォーカルというイメージでなく、ちょっと世界が変わったような自分を見つめる素直な真摯な気持ちで歌い上げている。(下に歌詞を紹介する)

(タイトル曲の歌詞)「Softer Than You Know」
5946964413926w In the silence
Within a moment
All becomes apparent
And it′s clearer than you know
And it's nearer than you know

Whirls of snowflakes
A dance on ice skates
Frosty childhood keepsakes
And it′s brighter than you know
And it's lighter than you know

Every memory unlocking a world
That you used to understand
And its magic is fully unfurled
In the end descending
Till it lands on your hand

Like a sunray
A flying bobsleigh
Candles on a birthday
And it's softer than you know
Like an ember, like a glow
Like the whisper of the snow
So much softer than you know

静寂の中で
一瞬のうちに
すべてが明らかになります
そして、それはあなたが知っているよりも明確です
そして、それはあなたが知っているよりも近いです

雪の渦
アイススケートの上でのダンス
冷ややかな子供時代の記念品
そして、それはあなたが知っているよりも明るいです
そして、それはあなたが知っているよりも軽いです

すべての記憶が世界を解き放つ
あなたが理解していたこと
そして、その魔法は完全に展開されます
最後は下降
それがあなたの手に着地するまで

太陽の光のように
空飛ぶボブスレー
誕生日のキャンドル
そして、それはあなたが知っているよりも柔らかいです
燃えさしのように、輝きのように
雪のささやきのように
あなたが知っているよりもずっと柔らかい

 こんな雰囲気でアルバム全体が経過する。感謝の心の歌と言って良いのかも・・・クリスマスソングを聴いているような雰囲気もあり、どうもジャズと言うには別世界と私は思うのであるが(M4"Stay With Me"はLundinのSaxが入って少々ジャズっぽいが)、時にはこの世界も良いものである。

(評価)
□ 曲・歌詞・歌  88/100
□ 録音      85/100
(試聴)

 

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2024年5月19日 (日)

ダグ・アーネセン Dag Arnesen Trio 「ICE BREAKING」

メロディー主導型からトリオでの多くのジャズ要素に挑戦

<Jazz>

Dag Arnesen Trio 「ICE BREAKING」
LOSEN RECORDS / Import / LOS 296-2 / 2024

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Dag Arnesen (piano)
Magne Thormodsæter (bass)
Øyvind Skarbø (drums except 9)

Recorded November 19– 21, 2023 by Davide Bertolini
at Griegakademiet Studio, Bergen, Norway
Mixed January 17 and 23, 2024
by Davide Bertolini at Griegakademiet, Bergen
Mastered February 2024 by Morten Lund
at Lund’s Lyd, Oslo, Norway

  1970年代から既に半世紀の評価ある活動の歴史がある中で、近年、ノルウェーの伝統的な音楽やメロディを取り入れノルウェーの音楽文化とジャズの融合を探求したアルバム『Norwegian Song』シリーズ(ⅠからⅣの4枚のCD,2007-2017)が人気を呼び、日本でもおなじみのピアニストのダグ・アルネセン(1950年ノルウェー-ホルダラン県ベルゲン生まれ 下左)の最新ピアノ・トリオ作品。彼はクラシック・ピアノからノルウェーの音楽遺産やグリーグなどの作曲家/ピアニストたちからインスピレーションを受けての美しい世界を築いてきている。

 今回のトリオは新生で、ベースのマグネ・トルモドセーター (下中央)は、ノルウェーでジャズ・ミュージシャンとして活動。作曲家でもあり、グリーグ・アカデミー(出身地ベルゲン)の准教授でとしても活躍する。 ドラムスのオイヴィン・スカルボ (下右)は、グリーガ・アカデミーのテリエ・イスンセに師事し、ノルウェー、キューバ、ナイジェリアの伝統音楽も研究している。ノルウェーの即興音楽シーンを牽引する存在であり、数多くのバンドのメンバーやオーガナイザーとして活躍している。  
 今回のアルバムは、2曲を除いて全曲アーネセンの新作オリジナルが収録。相変わらず聴く者をして一種独特な北欧の世界に導いてくれる。

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(Tracklist)

1. A New One 5:48
2. Ice Breaking 4:33
3. Sarah 5:00
4. That's OK 4:52
5. Podstrana 5:40
6. Bim Bam Bom 4:27
7. After Dinner 5:42
8. Jumping Around 4:34
9. A Special Memory 4:18 (p & b duo)
total time 44:54
*all compositions by Dag S. Arnesen

 メロディーが過去の彼の作品のテーマであったと思うが、このアルバムは進化と言えるのだろうか、音楽的により多くの要素が含まれた多様なアプローチがなされている。例えばリズムやハーモニーが中心的な役割と思われる曲もある。ピアノの響きはなかなか精緻で丁寧な印象でクリアー・タッチ。ベースも印象を深める貢献が大きく、ドラムスも的確にグルーヴ感とスリルを演じている。

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 やはり従来のメロディラインが魅力的なスタート曲M1."A New One"、そして続くアルバム・タイトル曲M2."Ice Breaking "、愛猫に捧げた曲らしいM3."Sarah "では、従来の枠から一歩進んでの形を破る意味合いも込めてトリオで描くジャズ・グルーブとスリルをも楽しんでいるが如くである。
 注目は、複雑なコードの繋がりの味を楽しめるM7."After Dinner"など、彼の音楽的世界の一面を見せている。
 又昔に作曲されたM9."A Special Memory"は、ノスタルジックな味を記憶をたどるように聴かせてくれる。一方やはり古い異色の曲M6."Bim Bam Bom "などのかっての試みを再び再現しているような、これも一つの回顧なのかもしれない。
 M8."Jumping Around"も、今回のアルバムの特徴としての美メロディーに留まっていないところを主張しているようだ。

 従って、彼の『Norwegian Song』のアルバムのような北欧の風土色や独自の心象スケッチ傾向を感じさせるところもあるものの牧歌的・美メロディー、リリカルな世界に期待するとちょっと、それだけに留まっておらず、バラードからアップビートの曲もあり、躍動的なフレーズには意外性を感ずるところがあった。しかしその変化も適度でハード・バップの本道にあり、70歳超えての進化と言うかそんな姿勢だけでも頭が下がるところである。

(評価)
□ 曲・演奏   88/100
□ 録音     88/100

(試聴)

 

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