Espen Eriksen (p) Lars Tormod Jenset (b) Andreas Bye (ds)
all selections by Espen Eriksen
ノルウェーのピアニストEspen Eriksen、ドラマーAndreas Bye、ベーシストLars Tormod Jensetによるピアノ・トリオの5作目となる最新作。本作はロックダウン中のオスロで2020年4月に録音されたものという。 ほぼ10年前にアルバム『you had me at goodbye』(RCD2096/2010)とうアルバムに接したのが私はこのトリオを知った初めなのだが、当時の記憶としてかなりメロディーを前面に出した接しやすい演奏のトリオという印象であった。そんなことから今回も聴いてみようとしたものだ。
(Tracklist)
1 Where The River Runs 2 Back To Base 3 Dancing Demons 4 End Of Summer 5 Transparent Darkness 6 A Long Way From Home 7 Reminiscence
北欧のピアノ・トリオは、やはりどこか情景的に自然界の不思議さに通ずる演奏モノが多いように感じているが、そこが私にとっては魅力となっている。そこでこの久々に聴いたトリオはどうかというと、まず冒頭の曲M1." Where The River Runs"が、なんと自然界の深遠さを描くが如く曲として登場する。複雑さを避けた非常に聴きやすい美しいピアノの旋律と、ベース、ドラムスは控えめで演じ、やはりそれ程深くなく、又暗くない叙情的曲として迫ってきた。
そしてM2."Back To Base"、 M5."Transparent Darkness"など難しさという感覚は全くなく、淡々と演じていていやらしさが無い。ちよっとその点はある意味では物足りないということにもなるかも知れない。 M3."Dancing Demons"は踊る魔神(守護神)というのだろうか、リズムカルな中にもちょっと伝統的な北欧の地を思わせる。 アルバム・タイトル曲M4." End Of Summer"は、なかなか美しいピアノの旋律が軽快なリズムにのって心地よく演じられ、やっぱり今回の看板曲なんだろうなぁと感ずるところ。これをやりたかったんですね、ジャズというところを超越している。 M6."A Long Way From Home"は、タイトルのせいもあるが、何となく物語的世界。それも派手さは無く、しかし暗くもなくて北欧の物語なんだと想像する。 M7."Reminiscence"は回想と言って良いのか、どこか懐かしさのある抒情性もある世界で、人間性と自然の調和が感じせられる静かでなんとなく哀愁の雰囲気も。
1. RECONSTRUCTING A DREAM 2. TO STANKO 3. BEAUTIFUL DAY 4. MORNING SONG 5. HOUSEWORK 6. MUSIC FOR BLACK PIGEONS 7. SOUND FLOWER 8. SLARAFFENLAND 9. MORNING SONG (VAR.)
<Jazz> Jan Harbeck Quartet 「THE SOUND THE RHYTHM」 stunt Records / IMPORT / STUCD 19022 / 2019
Jan Harbeck (tenor sax) Henrik Gunde (piano) Eske Nørrelykke (bass) Anders Holm(drums/Tr.1.2.4.5.6.7.) Morten Ærø (drums/Tr.3.5.7.8.9.) + Jan zum Vohrde (alto sax/Tr.8)
2018年11月7日-8日、ヴィレッジ・レコーディング(コペンハーゲン)録音
私はどちらかというとうるさいトランペット、サックス等は敬遠派なんでして、何と言ってもピアノ派なんです。しかしジャズにおいてトランペット、サックス等は重要な役割を果たしている事実は知っている。特にトランペットはミュートを効かしたものなら愛するものも多いと思っているし、サックスはサブトーン奏法での味が欲しいと思っているのだ。 ところが、先日我が友人が・・・・ そんな私がHarry Allenの『DEAR OLD STOCKHORM』(VHCD-78308/ 2017)(下左)を聴いている事を知って、それならばこのデンマークのヤン・ハルベックJan Harbeck(1975年デンマーク生まれ。ベン・ウェブスター賞受賞) を聴いたらどうかと言うのである。そこでヤンのアルバム『IN THE STILL OF THE NIGHT』(STUCD 08202/2008)(下右)と、今日話題にするこの『THE SOUND THE RHYTHM』(2019)を共に目下聴いているのである。
ハリーもヤンも私が聴くのはピアノ・トリオとのカルテット・スタイルをとっていることが重要で、ピアノの描くトリオ世界を尊重しつつサブトーンによるサックスの味付けがあるというスタイルが寄りつける大きなポイントなのだ。 ハリーの『DEAR OLD STOCKHOLM』はVENUS Recordsで若干録音がうるさいのだが、彼はピアニストのウラジミール・シャフラノフの演奏を尊重しつつ両者共存で哀感すら感ずる世界に誘導してくれるところで好きなんですね。それもストックホルムでの演奏というのが又効果を上げているのかも知れない。
1.Lighter Shades * 2.Johnny Come Lately 3.Tangorrus Field * 4.Poutin' 5.Woke Up Clipped 6.Blues Crescendo * 7.Shorty Gull 8.I'd Be There 9.Tail That Rhythm * 10.Circles *
*印 : Jan Harbeck のオリジナル曲
ヤンのTSの音は、やはりハリ-の手慣れた洗練さのある音に比べると、サブトーンの効果ある刺激の和らいだ広がりがあり、むしろ図太さがありますね。ここで演ずるは、ベン・ウェブスターの4曲と彼のオリシジナルが5曲。 Henrik Gundeのピアノ、Eske Norrelykkeのベースはこのところ不変のカルテット。私はどうしてもこのようなカルテットは、TS+ピアノ・トリオとして聴いてしまうところがあるが、そうして聴いても十分味わえる美しいピアノ・トリオも魅力。
M1."Lighter Shades"からバラード曲、そしてヤンのサブトーンでうるささは抑えられているが重量感のあるサックスが唸る。しかし全体に優しく旋律を奏でる。中盤からピアノに旋律に変わり、アドリブ役と変わりところも彼の味が出る。こうしたやや哀感のあるところは良いですね。 M2."Johnny Come Lately"、M4."Poutin'"、M5."Woke Up Clipped"のスウィングに優しく相づちを打ちながらの展開。ピアノ・トリオの良さも生かしてこれも優しい。 M3."Tangorrus Field "の彼のオリジナル曲のバラード演奏がなかなか聴き所、いいですね。優しく状況を支える演奏がピアノの響きを又美しくしている。 M6."Blues Crescendo " イタリア語にブルースを付けた奇妙な取り合わせ、リズムに乗ってのジャージーな盛り上がり、このタイプはお任せだ。 M8."I'd Be There" ASのドラムスそしてピアノとの掛け合い、ジャズの面白さだろうが、私は特に興味を持たない。 M9."Tail That Rhythm" 淡々としたリズム隊にTSの味付けが聴きどころ。ベースの軽快なリズムにソフトに乗ってゆく軽快なサックス。続いてピアノの旋律展開がジャズ・インプロを誘導してドラムスが健闘し、カルテットとしての総決算的曲。 M10."Circles " 最後の締めくくりはバラード演奏、ピアノと共にサックスのブツブツ音混じりの美しさがしっとりと襲ってくる。
やっぱりジャズ愛好家でも好みはいろいろだが、私にとっての彼の魅力はサブトーンにての独特の重量感をバラードで、哀感もって流れるところですね。このアルバムでも十分聴きとれて納得。 そして追加だが、2008年のアルバム『IN THE STILL OF THE NIGHT』の方は、スタンダード曲集だが、あの誰もが知る"Ptite Fleur"を代表にバラードの美しさがたっぷり聴けて、これもなかなかのものだった。
Niels Lan Doky 「Improvisation On Life」 Rambling Records / JPN / RBCP3188 / 2017
Niels Lan Doky : piano Niclas Bardeleben : Drums Tobias Dall : Bass
with Debbie Sledge (of Sister Sledge) on Vocals for “Kiss” and Amanda Thomsen on Vocals for “Kærlighed og Krig” (Love and War)
北欧のJAZZシーンでは中堅的存在であるデンマークのピアニスト、ニルス・ラン・ドーキーNiels Lan Doky (→)。ヨーロピアン・ジャズ・ピアノの知名度の高い群に入ってはいるが、どうも私にとっては今ひとつインパクトに欠けていたせいか、過去に於いてそのちょっと変わった名前をどこかで時に見る程度で来てしまっていた。
昨年末の寺島靖国の人気コンピレーション・アルバムの『JAZZ BAR 2020』に、久々に登場した彼の曲"The Miracle of You"を聴いて、やっぱり少々ピアノの音が軽いが、流麗な演奏には魅力があり、この際一度アプローチしたくなったと言うところだ。 そこで一気に5枚のアルバムを聴いてみたというところで、ここに最も最新のアルバムを取上げることにした。
彼の名義となるピアノ・トリオはメンバーは変わってきているが、かっての"Trio Montmartre" の2001年からの三作『Cafe En Plein Air (カフェ・モンマルトルからの眺め)』(上左)、『Casa Dolce Casa (ローマの想い出)』(上中央)、『SPAIN』(上右) (このトリオはパリのジャズ・ミュージシャンによる日本製作の為のレコーディング・プロジェクトで、ベーシストは、フランソワ・ムータンそして後二枚はラース・ダニエルソンが担当している。ドラムスはジェフ・ボードロー)は、かなり聴きやすいアルバム。
そして2011年のアルバム『HUMAN BEHAVIOUR』(BRO 011)(→)、そしてここに取上げた2017年の『Improvisation On Life』と聴いてくると、やはりそこには美旋律を愛するピアニストの心は常に宿っていて、トリオとしてのジャズの醍醐味を追求しつつ、我々の心に響くところは十分の存在だ。特にTrio Montmartreは、トリオ・ジヤズを極めると言うことより、日本向けにヨーロツパの地名に馴染んだ名曲を取上げての優しい演奏になっている。
(Tracklist) 1.Forever Frank (Niels Lan Doky) 2.Man In The Mirror (Michael Jackson) 3.The Miracle Of You (Niels Lan Doky and Lisa Freeman) 4.Kiss (Prince) feat. Debbie Sledge 5.Langt Højt Mod Nord (High Up North) (Niels Lan Doky) 6.Alone In Kyoto (from a movie “Lost in Translation”) 7.Toots Waltz (Niels Lan Doky) 8.Lady Marmelade (from a movie “Moulin Rouge”) 9.Kærlighed og Krig (Love and War) (Burhan Genç) feat. Amanda Thomsen 10.Don't Know Why (Nora Jones) 11.That's It (Niels Lan Doky) 12.Piano Interlude (Niels Lan Doky) 13.How Deep Is Your Love (Bee Gees)
とにかくインプロヴィゼーション即興演奏が、アルバム・タイトルに出てくるぐらいに、彼らのピアノ・トリオに気合いが入っている。そして冒頭M1."Forever Frank"に自己の早弾きのオリジナル曲をぶつけてきた。しかし相変わらずピアノは名機Bösendorfer 225だと言うが、軽い音である。やっぱりこれは録音法なんでしょうかね、ドラムスの音もバタバタしていてリアル感も少ない。そして気合いが入っている割には、M1.、M2.に感動と言う世界は感じない。 しかしM3."The Miracle Of You"になってガラっと変わってゆったりとメロディーの生きた叙情性たっぷりの美しいピアノ演奏となる。この曲は聴き覚えのある曲だ。この線でいってほしい。 ちょっと意外だが、M4."Kiss"はDebbie Sledgeの女性ヴォーカルが入る。ベースの伴奏と相性が良い中低音を主体としたリズム感たっぷりでの歌声、なかなかジャズ心の芸達者なところを聴ける。後半ニルスのピアノはインプロヴィゼーションの展開となる。成る程ジャズを彩りもって楽しもうというところが見える、なかなかの出来。
M5."Langt Højt Mod Nord" 原曲のメロディーは意外に素直に演奏されるも、ここでもニルスのピアノは即興を織り交ぜて味付けが楽しい。 M6."Alone in Kyoto" 異国の地をゆくをイメージさせるピアノの展開からスタートして、落ち着いた世界に。中盤ベースが深く心を静めるいい役割を演ずる。ピアノの美しさも味がある。 M7."Toots Waltz" ニルスのオリジナル。大半を占めるピアノ・ソロが美しく展開。 M8."Lady Marmelad" 珍しくピアノの低音から始まって、後半の三者によるインプロの醍醐味に進む。このアルバムの一つの主役曲か。 M9."Kærlighed og Krig" 女性ヴォーカルの入る二曲目。澄んだピアノの音、そしてAmanda Thomsenの高音のヴォーカルが入ってトラッドっぽく訴えるように広がる。 M10."Don't Know Why" と M11."That's It " は、ニルスのインプロの世界の緩と急を描く。M11ではドラムスのソロがステックを生かした展開でセンス抜群。 M12."Piano interlude" ピアノ間奏曲を彼のインストで綴り、M13."How Deep Is Your Love"へと流れる。まさにインプロの楽しさを演じて締めくくる。
(Tracklist) 1. September In The Rain 2. Let's Face The Music And Dance 3. Estuary * 4. How Deep Is The Ocean 5. Humdrum Blues 6. I Only Have Eyes For You 7. You Don't Know What Love Is 8. Contemplating Moon * 9. Dearly Beloved 10. Blame It On My Youth ( *印 : 彼女とメンバーなどとのオリジナル )
冒頭のM1."September In The Rain"そしてM2." Let's Face The Music And Dance"を聴くと、彼女のヴォーカルが如何にも中心であるという曲仕上げで、その曲のアレンジがスウェーデン流なのか、なんとく未完成っぽくて逆に新鮮度がある。バックの演奏もサックスが演ずるところでも、いやに出張ってくることもなく、ヴォーカル・アルバムを意識して仕上げているところに好感度高い。M2.などのピアノもなかなか中盤に熱演して見せて、ジャズの面白みもある。 M3."Estuary "はアルバム・タイトル曲。スロー・ナンバーに仕上げていて、ヴォーカル、ピアノ、サックスが交互に展開の主役を演じながらも、何か一つの物語を聴かせてくれているようで引き込まれる。それはM4."How Deep Is The Ocean"でも同様で、聴く方にとってはゆったり感の中で、ジャズを楽しる。 M5."Humdrum Blues"のブルース・リズムが異色で、楽しさもありこのアルバムでいい色を添える。 M6."I Only Have Eyes For You"などを聴くと、スウィングする中に極めてオーソドックスなジヤズ演奏である。 M7."You Don't Know What Love Is" のバラードにしてもピアノ、サックスが美しく力みが無いところが良いし、歌声は嫌みが全くない。
Ellen Andersson 「YOU SHOULD HAVE TOLD ME」 Prophone Recpords / sweden / PCD204 / 2020
Ellen Andersson エレン・アンデション (vocal) Joel Lyssarides ヨエル・リュサリデス (piano except 3, 4, 5) Anton Forberg アントン・フォシュベリ (guitar on 4, 5, 8, 9) Niklas Fernqvist ニクラス・フェーンクヴィスト (bass) Johan Lötcrantz Ramsay ユーハン・ローヴクランツ・ラムジー (drums) Peter Asplund ペーテル・アスプルンド (trumpet on 1, 4) Johanna Tafvelin ユハンナ・ターヴェリーン (violin on 2, 6, 8) Nina Soderberg ニーナ・ソーデルベリ (violin on 2, 6, 8) Jenny Augustinsson イェニー・アウスティンソン (viola on 2, 6, 8) Florian Erpelding フローリアン・エーペルディング (cello on 2, 6, 8)
四年前にスウェーデンからの新人女性ジャズ・ヴォーカリストの有望株として紹介したエレン・アンデション(『I'LL BE SEEING YOU』(PCD165/2016))の待望のニューアルバムの登場だ(1991年生まれ)。とにかく嬉しいですね、あのセンス抜群のジャズ演奏とヴォーカルの協演がここに再びと言うことだ。ダイアナ・クラール、メロディ・ガルドーとこの秋、期待のニュー・アルバムが登場したが、彼女らの円熟には及ばずとは言え、あのJazzy not Jazz路線と違って、香り高きジャズ本流のヴォーカル・アルバムに挑戦していて感動であり、しばらく聴き入ってしまうこと間違いなし。 彼女はデンマークのヴォーカル・グループ「トゥシェ」のメンバーとしても活躍しているが、これは彼女のソロ・アルバム。 今回はジャズ・スタンダードそしてビートルズ、ミッシェル・ルグラン、ランディ・ニューマンなどの曲(下記参照)を、ジャズ色濃く編曲して妖艶さも増して披露している。
(Tracklist)
1. You Should Have Told Me (Bobby Barnes / Redd Evans / Lewis Bellin) 2. Once Upon A Summertime (Michel Legrand / Eddie Barclay) 3. You've Got A Friend In Me (Randy Newman) (vo-b-ds trio with 口笛) 4. Just Squeeze Me (Duke Ellington / Lee Gaines) 5. Too Young (Sidney Lippman / Sylvia Dee) (vo-g-b-ds quartet) 6. The Thrill Is Gone (Ray Henderson / Lew Brown) 7. ‘Deed I Do (Fred Rose / Walter Hirsch) (vo-p-b-ds quartet) 8. Blackbird (John Lennon / Paul McCartney) 9. I Get Along Without You Very Well (Hoagy Carmichael / Jane Brown Thompson)
エレン・アンデションの声は、なんとなくあどけなさの残った瑞々しい可憐さが感じられる上に、意外にも前アルバムでも顔を出した妖艶さが一層増して、ちょっとハスキーに響く中低音部を中心に、高音部は張り上げず優しく訴える端麗ヴォイスだ。 M1." You Should Have Told Me "のように、バックがジャズの醍醐味を演ずると("M7." ‘Deed I Do"なども)それと一体になりつつも、彼女の特徴は失わずに協演する。 M2."Once Upon A Summertime"はミッシェル・ルグランの曲、とにかく一転してピアノとストリングスでの美しさは一級で、彼女の心に染み入る中低音のテンダーなヴォーカルが聴きどころ。 M4."Just Squeeze Me"は、トランペットの響きから始まって、彼女のあどけなさとけだるさと不思議な魅力あるヴォーカルでベースの語り歌うような響きと共にジャズの世界に没頭させる。
女性叙情派ユーロ・ジャズ・ヴォーカル・ファンにお勧めは、なんと言っても素晴らしいM6." The Thrill Is Gone"だ。ストリングスの調べが加味した美しいピアノの音とメロディーに、しっとりと優しく囁きかけるように歌い上げるところだ。中盤にはピアノ・トリオがジャジーに演ずる中に後半ストリングスも加わって、再び彼女のヴォーカルが現れると静かに叙情的な世界を演ずる、見事な一曲。 M5."Too Young"のナット・キングコールの歌で歴史的ポピュラーな曲は、冒頭からアカペラで彼女の世界に引っ張り込み、静かに現れるバックのギターとジヤズ心たっぷりに描いてくれる。次第にベース、ドラムスが続き「静」から「動」にスウィングしてゆく流れはお見事と言いたい。
1.Akk Mon Min Vei 2.Going Home 3.Marche Vers L'aube * 4.I Dine Tanker / Tanto * 5.Finnskogene * 6.Pilgrim * 7.Rêve Bleu * 8.Beautiful * 9.Lead Me * 10.Gjendines Bådnlåt 11.Eg Veit I Himmerik Ei Borg
収録曲11曲中7曲が彼女のオリジナル曲と来るから、音楽院の学位を持つ彼女の立ち位置が想像できるところであり、とにかく冒頭から清涼感ある透明度の高い歌声に驚かされる。 M1."Akk Mon Min Vei "はノルウェーのトラッドのようであり、M2."Going Home"は、我々もよく知るドヴォルザークの「家路」である。その他の彼女の曲以外の2曲(M10, M11)はやはりノルウェーのトラッドと記されていて、深淵である。 バックの演奏もギターが、ピアノが、北欧ならではの幻想的というか、広い静かな空間に広がるサウンドを聴かせてくれる。
彼女のオリジナル曲も、伝統を重んじての美しい世界を描いていて感銘を受けるが、 そこには単に美しいと言うだけで無く、ノルウェーの北欧の暗さもあるし、海の冷たい青も描いている。又深遠な森にある不思議な空気感も訴えてくる。 とにかく全編ブレることなく 北欧の自然を我々に見せてくれる世界だ。アルバムとしての価値は高い。 イェトゥルー・グルンデGjertrud Lundeは現在ドイツで活動中のようだが、彼女はノルウェーの音楽一家に生まれる。4歳で最初のコンサートを行う。ノルウェー Stavanger音楽院で学んでいる間においても、幾つかの歌唱コンペで優勝したり幾多の賞や奨学金も得ていたという。オランダのハーグ音楽院でクラシック歌唱と古楽を学んで学位を得ている。このあたりの実力がこのアルバムではにじみ出ている。 学業と並行してヨーロッパやアメリカでフェスティヴァルやコンサート・ツアーなども行ったらしい。ドイツに住んでからは、古楽、ワールド・ミュージック、ジャズを合わせての自分の音を作り出したのだそうだ。そしてこの2014年のデビュー・アルバムである 「Hjemklang」 は、世界的なジャズ批評サイト All About Jazz により 2014年のベストアルバムの一つに挙げられていると紹介されている。
北欧デンマークの女性ギタリスト兼ヴォーカリストのメッテ・ジュールの最新盤。彼女に関しては、かってここでそのヴォーカルに高評価を付けた私だが(参照 「Comming In From The Dark」(2010) →)、あれから9年経っているんですね(その間アルバム「Moon on My Shoulder」(2013)があるが)。ここでもその流れは十分に発揮している。 アコースティックな静かな落ち着いたギターを中心としたバックに、フォーキィーにブルージーにシンプルに際だった装飾やテクニックをこらすことなく歌い上げる。
(Tracklist)
1.Beautiful Love 2.At Home (There Is a Song) * 3.Get Out of town 4.It Might Be Time To Say Goodbye * 5.Double Rainbow 6.Just Friends 7.I`m Moving On 8.Dindi 9.Young Song * 10.Without a Song 11.Northern Woods 12.The Peacocks ( A Timeless Place ) 13.Evening Song *
(*印 メッテ・ジュールのオリジナル)
彼女自身のギター以外にも、ウルフ・ワケニウスそしてギラッド・ヘルスマンのギターがいいですね。又ラーシュ・ダニエルソンのベースやチェロなどが入る。これらも極めてシンプルに、アコーステイックで、彼女の歌声を支える。 その彼女の歌は、どちらかというとフォークに近い牧歌的であるが、時にブルージーでとにかく冒頭M1.".Beautiful Love"からしっとりと嫌みの無い充実感たっぷりの素直なヴォーカルである。これぞ彼女の神髄と言って良いだろう。とにかくシンプルな演奏で、彼女のヴォーカルが眼前で歌っているがごとく録音されている。 13曲収録されているが。メッテ自身の曲も4曲ありM4."It Might Be Time To Say Goodbye"あたりはしっとり歌い聴かせる曲でなかなかいい。最後のM13."Evening Song "も同様でアコースティック・ギターの弾き語りであろうか、訴える力を持っていていつの間にか彼女の世界に引き込まれる。 M3."Get Out of town"は、なんとコール・ポーターの書いたミュージカルの曲で、このアルバムの中でも異色で結構リズムカルに迫ってくる。 その他、アントニオ・カルロス・ジョビンの曲もM5."Double Rainbow "、M8."Dindi "と登場する。このように意外に幅広いところを網羅しているが、いずれもメッテ流の世界になっていて、このあたりは彼女の実力を評価したい。
ところが先日寺島靖国がリリースした『for Jazz Audio Fans Only vol.12』(2019)に、アルバム『ESCAPES』からの曲"Vals"が納められていたことから、これももちろん私好みのアルバムであったので、それならばとこのアルバムをもここで取り上げようと言うことになったのだ。
(Tracklist) 1.Vals 2.Silloin Lennän* 3.Skog 4.Färdas Under Vatten 5.Du Håller Min Hand 6.Bobergs Udde 7.Den Sista Isbjörnen 8.Savotta* 9.Stormsvala 10.Grimsholmen 11.Havsanemon
11曲中9曲の殆どがドラマーのBrandqvistのオリジナル曲(*印以外)。 なんと言ってもM1."Vals"が美しい曲。特にTuomasのピアノが透明感あり美しいメロディーを奏で、冒頭よりうっとりする。 M4."Färdas Under Vatten" はかなり珍しく攻めの曲。これはトリオに加えてフルーゲルホーン、クラリネット、フルートなどが加わる。 M5."Du Håller Min Hand" もBrandqvistの曲だが、ピアノが美しく、そしてM6."Bobergs Udde" の穏やかにして静かな広大な土地に広がる安堵感のような世界も聴きどころ、ここでもクラリネットがピアノと共にメロディーを美しく描く。 M7."Den Sista Isbjörnen" は、クラシック世界のにじみ出てくる曲。フル-ゲルフォーンがメロディーの重要なところを担っていて、後半に入ってピアノが美しくその役を変わる。やはり牧歌的な安定感。 M8."Savotta" はちょっと異色でハイリズムからピアノの展開が主力の曲、やはりピアニストのTurunenの曲だ。彼はこのアルバムにM2(*印)と2曲提供している。アルバムの色づけには寧ろ良いと思う。 M9."Stormsvala" ピアノに語らせ、シンバルやブラッシがメリハリ付けて、ベースが支えるBrandqvistらしいクラシック的な安寧の世界。
やはり全体には北欧的牧歌的な世界であり、ドラマーのトリオとしては意外にピアノの美しさが印象に残って、それ程ドラムスは表に出てこない。とにかくしっとりとした精神安定剤的流れの中に浸かれる曲群が主力で、聴いた後の気持ちは透明感に浸れるところ。 このトリオはドイツからのリリースで、このファースト・アルバム「Seascapes」はドイツのエコー賞にノミネートされ、次の「Falling Crystals」はドイツのジャズリストの7位にリストさたとか。そして昨年のアルバム「 Within a Dream」のリリースは、絶賛されている。 思うに、美旋律曲を創造するのは Brandqvistが得意で、それを演ずるTurunenがその美を更に高めているように思う。今後も楽しみなトリオである。
Søren Bebe Trio 「ECHOES」 FROM OUT HERE MUSIC / DENMARK / FOHMCD015 / 2019
Søren Bebe (p) Kasper Tagel (b) Anders Mogensen (ds)
Recorded January 2019 by Thomas Vang at The Village Recording
デンマーク在住の俊英ピアニスト、サン・ビービーSøren Bebe(いまだに発音がよく解りませんが、ソレン・ベベ ?、セーレン・ベベ ? )待望のピアノトリオ新作である。前作は『HOME』(2016)でここで取り上げたが、これは彼の6枚目となるリーダーアルバムとなる。 もともと2012年に彼の2枚のトリオ・アルバム『FROM OUT HERE』(2010)、『A Song For You』(2012)に出会って以来、私の注目株になったのであるが、当時、今は亡きエスビョルン・スベンソンとともに北欧ミュージックの良さが十分伝わってくるピアノ・トリオ・ジャズとして気に入っていたんです。 今回のメンバーは、前作『HOME』と同じで北欧ピアノ・トリオの味をしっかり聴かせてくれている。
(Tracklist)
1 Echoes 2 Waltz for Steve 3 Winx 4 Homeward 5 Kærlighedstræet 6 Jeg er træt og går til ro 7 Alba 8 Alone 9 New Beginning 10 Sospiri, Op.70
北欧のデンマークということで、トルド・グスタフセンや故エスビョルン・スヴェンソンと比較されるところだが、静謐で美しい旋律と静かな世界が描かれるサン・ビービーのピアノ演奏を中心としたトリオ演奏がこのアルバムでもしっかり聴くことが出来る。 曲はピアニスト・リーダーのサン・ビービーが5曲、ベースのカスパー・ターゲルが1曲、三人で1曲、そしてトラッドが1曲、そしてカヴァー曲2曲という構成で、基本的にはオリジナル曲集言ってもよいもの。 北ヨーロッパ特有のやや暗めで、又牧歌的なところも感じられる美しいメロディーの音色が相変わらず彼らの特徴として迫ってくる。一方そんな中で、三人作の曲で恐らく即興込みと思われるNo.9 "New Beginning" が、若干このアルバムの中では異色で、それぞれ三者の役回りがうまく連携してメロディー中心で無く静かに交錯してゆく音の世界が面白い。
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